善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw


テンカワ・アキトは春紀との会話の後、少しの休憩を経て外に出た。
聖杯戦争が始まった現状、これから先に余裕が生まれるかはわからない。
否、この一日が最後となり、安寧とした時間はもう訪れない可能性は高い。
故に、時間が空いている今、やるべきことを済ましておく必要があったのだ。
この手を血で染める前に、後戻りを許さぬ状況を作り出す。
聖杯を手にし、恒久の願望を叶える為にも、アキトは進む。

――今はまだ、雌伏の時だ。機が熟すまで、慌てるな。

そして、彼は戦闘時に纏う黒衣ではない普段着を着て、バイクに跨った。
食堂の出前に使っていたのか、駐車場に停められていたものだ。
自分が所有しているものであるので、遠慮なく使うことができる。

……できれば、来たくなかったんだがな。

バイクを飛ばし、寂れた街道を駆け抜け、辿り着いたのは寂れた山合の入り口だった。
近くの空いたスペースに適当にバイクを停め、アキトは土塊の階段をゆっくりと上っていく。
鬱蒼と生い茂った木々の緑が、鳴り響く心音を落ち着かせる。

「それでも。過去への決着を含め、俺は行かなくちゃいけない」

一歩ずつ、噛み締めるように。アキトは目的の場所へと足を踏みしめる。
葉や草が風に吹かれ、ざわめいている。今の自分の心境を表しているのか、鬱陶しい。
木々の隙間から差し込んでくる光と熱に軽く溜息を吐き、アキトは足を動かした。
これが五感を低下する前だったら暑いだの眩しいだの文句の一つや二つ、出ていただろう。
やはり、昔のテンカワ・アキトは死んでしまったという証拠か。
明るく前向きで、いつだって口数だけは一人前な過去の自分。
そんな自分を殺したのは、他でもない『俺』で、大切なモノを守れない無様な姿を晒したのも『俺』だった。
だから、アキトは過去を捨て去ることを選んでしまった。
甘さを伴った強さでは、何も護れないと自覚してひたすらに修練を重ねた。

……俺は、誰なんだろうな。

復讐の炎に焦がれた自分は、皆の知っているテンカワ・アキトではない。
昔の仲間に出逢えば、否定され、止められるだろう。
ホシノ・ルリに出逢えば、悲しそうな顔をされ、やめてくださいと縋られるだろう。
だが、それら全てを置き去りにしたアキトが、過去を省みるのは今更の話だ。
決着を。そして、未来をこの手に。戦おう、理不尽な運命を強いる世界と。
戻れないことを望んだアキトに、幸せはいらない。

「それでも、俺は――ユリカを愛している」

階段を上り詰めた先には、木々もなくなり視界が開けていた。
廃教会に併設された墓地。人が来ることも少ないのか、洒落た趣きがまるでない。
もっとも、墓地にそんな要素を求める方が間違っている。寂れた場所であって当然なのだ。
死者の眠りを妨げる過剰な装飾は、いらない。

「愛していたんだ、護らなくちゃいけなかったんだ」

規則正しく靴音を鳴らし、アキトは墓の合間を歩いてく。
幾つもの墓石が立ち並び、中には古びたものもあるが、全体的には割とこざっぱりとしていて綺麗に整えられている。
近くにある孤児院の人が丁寧な管理をしているのだろう、感謝しよう。
死者の弔いに真摯というのは、素晴らしいことだ。
自分のように、命の重みが麻痺してしまった立場からすると――尊くて眩しい。
どうか、この墓地を管理する清浄なる者達が、自分のように壊れた復讐鬼にならないことを願おう。

「ユリカを護れなかったのは俺の咎だ、甘んじて受け入れよう」

ふと見上げると、まっさらな青の空がアキトを見下ろしている。
手を伸ばせばどこまでも。遥か高みに位置する青の海は雄大だ。
方舟の中だというのに、元の世界と変わらない青空が一面に広がっている。
綺麗で儚い空の彼方。その先にある銀河には、生きた証があった。

「だが、『これ』はあんまりだろう…………ッ!」

育んだ想いがあった。無くした絆があった。奪った重みがあった。
辛いこともあったし、楽しいこともあった。
どれも全部掛け替えの無い思い出として、胸に秘めていた。
テンカワ・アキトは、確かにそこにいた。
陽だまりの内側で、笑っていた。

「ムーンセルッ、お前はどこまで……っ! 俺を馬鹿にしているんだっ!」

きっと、信じていた。愛していた。
世界は綺麗な想いの欠片で満たされているのだと。
けれど、違った。幸せが詰まった居場所は炎に焼かれて焦土と化した。
彼女も、自分も。全部、奪い去られてしまった。

「畜生……っ」

その証拠が、方舟の中でも――『正しく』再現されていた。
NPCとしての彼女がここにいない理由を含め、記憶を取り戻したアキトは全て理解してしまった。
アキトの眼前にある墓石。そこに刻まれた名前は『ミスマル・ユリカ』。
交通事故によって、命を落としたという設定で、彼女はこの世界で生きていた。
かつて愛を誓い、未来に生きようと願った最愛の彼女が、此処に眠っていた。

「あいつらがいない世界でさえ、ユリカは幸せになれないのか!?
 せめてもの救いすら奪うのか、お前は! 何故だ、答えろっ! 地獄に堕ちるべきは俺だけのはずだ!」

顔に浮かび上がる光の紋様が、輝きを増していく。
感情の昂ぶりに乗じて、アキトの叫びが、墓地に木霊した。






▲ ▲ ▲






廃教会に着いた東風谷早苗は、墓地に一人の男が佇んでいるのを視界に入れた。
その男――アキトを見て、早苗に過った想いは、絶望だった。
底なしの憎しみと、悲嘆。
彼の中にある感情の渦巻はかつてない勢いで回っているだろう。
隣にいるアシタカも思わず口を抑えてしまう憎悪。
一体、どれだけの経験を経たらここまで捩れ曲がるのか。
思わず後ずさってしまう程の感情の奔流が、彼女達に流れ込む。

「マスター」
「ええ、わかります。あそこまで強い感情の発露に顔の紋様。多分」
「……皆まで言わなくてもいい。サーヴァントを顕現したままとは、誘っているのか? 
 此処でなら遠慮無く戦えるってことだろうが、まぁ待て」

末尾の言葉を言うよりも先に、アキトが早苗達の方向へと視線を変えた。
両目は鋭く尖り、その手には拳銃が握られている。
数秒前まで嘆き苦しんでいた一般人から、冷酷に人を屠る復讐鬼への変貌に早苗達は息を呑む。

「どいつもこいつも、盗み見が好きらしい。そこの木陰に隠れている奴も、お前達もな。
 出てこい。最初から、見つけて下さいと言ってるようなものだったろうに」

驚きも程々に、数秒後、木々の影から一人の大男が姿を現した。
銃口の先には、黒衣の神父服を纏った笑顔の男、アレクサンド・アンデルセンが悠然と立っていた。
三竦みの緊張状態。各々が警戒心を強め、いつでも戦闘に移れるよう体制を整える。

「つけていたのは謝罪しよう。だが、こちら側も出会い頭に襲われてはたまらないのでな。
 慎重な行動を心がけている身としては、仕方ないことだ、貴様達も理解しているだろう」
「よく回る口だ、さすが神父なだけはある。説法は得意の範疇か?」
「神に仕える者故が口を使えなくては始まるまい。
 ふん、貴様達の望みは闘争か? いいぞ、戦うというのなら容赦はしない。俺の全身全霊を懸けて、貴様達を滅ぼそう」

瞬間、アンデルセンの口元が歪み、獰猛な獣染みた殺気が溢れ出す。
言葉の通りだ。敵対するなら、即座に穿つ。
神の名の下に――不義に鉄槌を。相対する彼らが穢らわしい願いを持つ者ならば、此処で終わらせる。
それが、イスカリオテの切り札としてのアンデルセンのやり方だ。
充満した殺気を前に、早苗達は身をこわばらせる。
これより先は、血で血を洗う死闘。命を懸けた殺し合いだ。
戦いを避けられるのなら、やるしかない。
早苗を護るべく、アシタカは腰に携えた山刀の柄に手を伸ばす。

「遠慮する。死者の眠る場所で……此処で戦闘はしたくない」

そして、もう一人の相対者――アキトは手に掲げた拳銃を下ろし、視線をアンデルセンへと合わせた。
武器を下ろす。それは、殺し合いの放棄にて他ならない。
拍子抜けしたのか、早苗もアンデルセンもきょとん顔で固唾を呑んだ。

「ほう、こちらには貴様達を塵にする用意ができているのだがな。怖気づいたか?」
「そうじゃない。戦うにしても、死者が眠る場所を屍山血河とするのは、お前の立場からして好ましくないだろう」
「…………」
「加えて一つ。この近くに孤児院があることをお前は知っているはずだ。
 神に仕えた神父様だろう、子供達に血塗れの姿を見せる気か?」

沈黙。放った言霊の弾丸がアンデルセンに突き刺さったのか、殺気が霧散する。
殺戮演戯の戦場になりかけていた土地が元の静寂な墓地へと戻っていく。

「ハッ、まあいい。襲いかかってこないなら、俺も武器を取る理由はない。
 無論、かかってくるなら別だがな。我が身の全力を持って、塵へと変えてくれよう」
「それは困る。俺はまだ死ねないんだ、地獄に堕ちるのはもう少し先だ」
「違いない。しかし、殺気を撒き散らした所で態度を変えん豪胆さ、是非とも同士として加えたい所だ」
「謹んで遠慮させてもらう。今更神を信じれる程、綺麗な身でもない」
「ふん……少なくとも、先程の慟哭を見る限り、欲に濡れた男ではないと感じてはいるがな。
 墓の前で涙を見せる貴様に、不純な欲望は見受けられなかった」

そして、場は徐々に語らいの交渉席へと変わっていった。
とはいっても、互いに油断は微塵もない。少しでも隙を見せたら喰われると思え。
思考する。同盟を組むにあたっては十全、組むことで生まれるメリットを頭の中で急速計算。
だが、どちらが先に言葉を発するかについて、二人は真剣に悩んでいた。
言わせるか、言わせないか。
つまらない意地のようなものだが、このような小さな要素から格上か格下かが決まるのだ。

「あ、あのっ!!!!」

だが、ここには第三者がいる。今まで沈黙を貫いていた早苗が、声を張り上げてアンデルセン達へと割り込んだ。
両者、顰めた顔で早苗に視線を移す。
それを見たアシタカがわずかに警戒を強めるが、早苗が大丈夫、と小声で囁いた。

……ここでミスったら負けよっ、東風谷早苗ッ!

今まで蚊帳の外に放置されていた早苗は覚悟を決める。
置いてかれる訳にはいかない、自分だって聖杯戦争のマスターなのだ。
彼ら二人に負けない為に。そして、自分を信じて護り通すと誓ってくれたアシタカの為にも。
自分だけが、怖がってはいけない――!




「わ、私達っ、協力できると思いましぇんきゃっ!!!!」




……あっれぇ? 私、時間凍結のスペルカードでも使っちゃったのでしょうか?




悲しいかな――意志と行動は伴わなかったようだ。
時間よ止まれと願っても、起きてしまったことは変えられない。
頬を真っ赤に染め、ぶるぶると震えながら俯く早苗に冷たい風が吹く。
やってしまった。やらかしてしまった。
肝心な所で舌を噛んでしまう自分の締まらなさに、恥ずかしさが吹き出そうだ。
だが、ここで更なる追い打ちを思わぬ方向性から受けてしまう。

「先程のマスターが言いたいことは貴方達と共闘の申し出を言葉にしたものだ。
 語尾が変だったが、そうなのだろう? マスター」
「う、うぅぅっ」

二度ネタはやめて下さいとは言えなかった。
彼はあくまで善意で訂正を打ち出したのだ、余計なことを言わないで下さいなんて言えるはずもない。
しかし、ある意味ではあるが、早苗の抜けた発言はアキト達の剣呑な空気を融和させた。
両者、溜息を吐き、仕方がないといった顔つきで言葉を返す。

「……その申し出、受けよう。どちらにせよ、あの神父は俺達が乗り気でなければ提案していただろう。
 語り合いか、もしくは一時の同盟の締結か」
「そこまで頭が回っているなら話は速い。この戦争、個人で乗り切るには些か激しいものがあると判断した。
 貴様達は、特段に下衆な欲望に染まったものではなさそうだからな」

こうして、早苗の勇気ある発言によって、同盟締結は穏やかに進んだ。
各々抱えているものもスタンスも違う。
願いの方向性も信仰しているものすら被らない彼らであったが、手を組むという重要性を一時の情で潰す程冷静さを失ってはいない。
もっとも、早苗が風祝の巫女であるということをバラしたら、アンデルセンは即座に撃滅する可能性は否定できないが。
ともかくの話として、いずれは分解するだろう仮初めの同盟ではあるが、この瞬間だけは平和な時間が過ぎ去っていた。

「アレクサンド・アンデルセン。短い間ではあるが、よろしく頼む」
「……テンカワ・アキトだ。生き残る為にも、肩を並べさせてもらう」
「東風谷早苗です。そんな怖い顔しないで仲良く行きましょうっ」

名乗りも終え、同盟の簡素な内容をさらさらと決めていく。
休戦、情報の共有といったものを主として、あまり突き詰めずに自由度の高いものをはっきりとさせていった。
口約束のようなもので、いつ裏切り裏切られるかはともかくとして、外面上は積極的な同盟の体を見せていた。

「あっ、そうです! 仲良くなった所で心配事があるんですけど、聞いてもらえませんか!」

そして、語り合いの終焉は早苗の話すあるフレーズによってやってきた。
『赤いコートを来た大男が小さな少女を連れていた』。
アンデルセンの眉が動き、口が自然と釣り上がって行く。
次いで、その男の外見的特徴をアシタカに聞いていくと、みるみるうちに浮かび上がる。
我が最後の宿敵――アーカードの姿が。
この地でも、世界を不義に染め上げるべく召喚に応じたのか、それとも気紛れに闘争を求める為に月へと誘われたのか。
どちらにせよ、アンデルセンたちのこれからの方針は速やかに決まった。
王である彼の願いも含め、確かめなければならない。
かの大男がアーカードであるか否か。

『話は聞いている。どうやら、滅するべき宿敵は同じくこの方舟に呼ばれている可能性が高いようだ』

脳内に入ってくる従者であり王である彼の声は、冷めていた。
飽和した歓喜と怒りは、一周回って平常の冷静さを与えてくれる。
自分のルーツである『怪物』を殺す。
その機会がこんなにも早くやってくるとは、何たる僥倖。

……王よ、この情報を放置しておく程に腑抜けているわけでもあるまい?
『当然。至急、街へと降りるとしよう。領土構築も大体は済んだ。必要なのは貴様の覚悟だけだ』

問いかけた挑発的な言葉に、ヴラドも同じく挑発的な言葉で返す。
戦意も場所も潤沢、手傷も今は負っていない。
自分が死んでも後のことを託せる可能性を秘めた同盟相手も幸いながら存在する。
ならば、取る選択肢は一つ。

――進むぞ、俺達の手で終わらせよう。
『望む所だ。アーカードの討滅をもって、幕引きを下ろそう』

座して待っていたら、他の参加者に獲物を取られる可能性は段々と増していく。
アレはアンデルセン『達』の獲物だ、他の狩人に横取りされてはたまらない。
夜闇を待つまでもない、今此処で――決める!

「その一件については、俺達が受け持つ。その赤い男は――俺達が殺る。
 邪魔立てするなら、容赦はしない。誰にも横槍などさせんぞ」
「えっ、えぇ……」
「文句は言わせんぞ、殺されたいなら話は別だがな。自殺志願者でもあるまい、いらん首を突っ込むのはやめろ」

スペシャルな笑みを浮かべながら言葉を返すアンデルセンに、早苗は何も言えなかった。
ヤバイ、アンデルセンヤバイ。これは関わってはいけないタイプだ。
幻想郷で言うなれば、風見幽香のような人間だ。
戦闘狂、ヤバイと肌で感じてしまった。

「あっ、後もう一つお願いします! もしも、女の子が囚われていたらっ」
「無論、助ける。あの怪物の横に置いていたらどうなるかわからんからな」

それでも、自分の思っていることを言い出せたのは幻想郷で様々な経験を積んだからか。
アンデルセンのような強面を前にして退かなかったのは十分なことといえよう。

「では、俺はこれで失礼する。此処は戦場になるやもしれん、即刻離れた方がいいぞ。
 貴様達は平穏な場所で、語らいを楽しんでいればいい」

神父服を翻し、アンデルセンはその場を離れ姿を消した。
その歩みに迷いはなく、早苗達のことなどもはや頭の中になかった。
アーカード。あるのは同じく月に呼ばれた宿敵の化け物。
ヴラド共々、討つべく吸血鬼にめがけて直進するのみ。
もしも、自分達が消えようとも――構わない。

「ちょ、待って下さいよ!」

そして、アンデルセンに乗じてアキトもその場を離れようとするが、しっかりと掴まれた右手が退散を許さなかった。
ふと振り返ると、早苗がギリギリと歯を鳴らしながら待ったをかけている。
こう言っては何だが、大変に鬱陶しい。
アキトは嫌そうな顔を前面に押し出して、握りしめられた手を離そうと上下に振り回す。

「あの神父さんも言ってたじゃないですか、友好を深めていろって」
「……いらん。大体の情報交換は済んだはずだ」
「はぁ、いいですか。長い戦いになるんです、同盟間でのきちんとした交流は欠かしてはいけません。
 顔を合わせて、言葉を交わす! 幻想郷の皆さんでもできたことですよ! 常識です、常識っ!
 そう思いますよね、アーチャーも!」
「…………」
「そこで、目を逸らさないでくださいよぉ……」

変な女に捕まってしまった。ナデシコ乗務員にいてもおかしくない奇抜さを持った奴だ。
正直、アキト自身はこの少女と深く交流をするつもりはなかった。
優勝するにあたって、最終的にはこの少女達とも争わなければならないのだ。
交友を深めることに意味などない。下手な情を抱くと、後が辛くなるだけなのだから。

「と・に・か・くっ! 会ってすぐさようならとは何ですか全く。温厚な私でも怒りますよ?」

だが、確かに一理はあった。
交友を深めることで、信頼関係を築く。そうなれば、いざという時には逃げ場所も作れるし、壁役にもなってくれる。
メリットは有る。未だ、戦争は始まったばかりだ、落ち着いて地盤を固めるのも愚策ではないはずだ。

「わかったわかった。とにかく、手を離してくれないかな?」
「はいっ! ようやく、私の方を向いてくれましたねっ!」
「…………アンタも大変だな」
「マスターも気を張り詰めていたんだ、この程度の緩みは赦して欲しい」

ここまで来ると頷かざるを得なかった。
仕方がないと、割り切ってしまえ。今必要なのは、復讐鬼であるテンカワ・アキトではなく、お人好しでのほほんとしたテンカワ・アキトだ。
その為にも、一瞬だけ『過去』に戻ってもいいかもしれない。
すぐに打ち消されるものであったとしても、今だけは。






▲ ▲ ▲






美遊・エーデルフェルトは孤児院に預けられて早々に脱出を果たしていた。
一刻も早く、あの胡散臭い神父から離れる為にも全力でダッシュを敢行し、今は山の麓で荒れた息を整えていた。
心臓の鼓動が鳴り響く。煩い黙れと脳内で叫んでも、滴り落ちる汗はやまないし、寒気は増す一方だ。

……拙い。もう、構わないで欲しいのに。

心中で苦言を吐き捨てながらも、美遊は冷静に考える。
アンデルセンは信用ならない。
あの不気味なまでの笑顔が、どうも受け付かない。
何か、強烈なものを隠しているようで、美遊には恐怖心しか抱かせなかった。
そして、彼が抱く異常ともいえる信仰心。
できれば、二度とお近づきにはなりたくない人物だ。

「とりあえず、ここから離れるよ。今はあの神父から逃げるのが最優先。
 サファイア、もしも周囲にいたら……」
『わかりました。ですが、あのアンデルセンというお方の善意を無駄にしますよ?』
「それでも、嫌だ。私は一人でいい。一人で戦えるもの」

思えば、聖杯戦争が始まってからマスターとは会ってないと美遊は考えた。
昼間は日常を送っているのだろう、夜間でない故か、潜伏していると判断した。
こんな太陽が天高く昇っている間は、大騒ぎは普通起こさないと考えているが、狂気的な参加者はそんな物お構いなしだろう。
常に気を張り詰めて、索敵を怠らないようにしなければならない。

……聖杯戦争に参加するぐらいだもの、信用できる人は皆無。皆、聖杯を取ろうと虎視眈々と刃を潜ませているに決まってる。

だが、傍から見ると、美遊は参加者内では最も情報、地盤固めが遅れていた。
陣地になり得た自宅を捨て、参加者との交流も避け、今もこうして後手に回っている。
彼女の凝り固まった生真面目さが、円滑なコミュニュケーションを阻害していた。
現状、信頼できるのはサファイアとサーヴァントのみ。
それ以外は、敵の可能性が高い。
そう、予測している美遊ではあるが、この聖杯戦争はそんな簡潔な言葉では収まらない。
権謀術策、一時的な同盟に、昨日の敵は今日の味方といっためまぐるしく動く戦争だ。
そんな戦争で、一辺倒な考えをもって乗り切るのは愚策。
過剰な警戒心と生真面目さが、他の参加者との交流を阻害していた。

『来ましたっ! 即座に移動を!』
「……えっ」
「おやおや、貴方は確か。お久しぶり、というには速すぎますか」

そして、最悪は再び訪れた。
振り返ると、そこには獰猛な笑みを浮かべたアンデルセンが立っている。
だが、その笑みの内面は前とは違う。
不信。孤児院に預けたはずなのに、どうしてここにいる。

普通の子供であるならば、ここまで行動的であるはずがない。いくら幼い考えなしの少女とはいえ、少し活発的に過ぎる。
まるで――アンデルセン本人から離れたいと示しているようなものだ。
アンデルセンは、警戒レベルを引き上げ、いつでも銃剣を取り出せるように身構える。
アーカードのように、その身を小さな幼子に変えれる奴もいるのだから油断はできない。

「孤児院はお気に召さなかったのですかねぇ……もてなしがなっていませんでしたか」
「一旦、退却するよ!! お願い、バーサーカーッ!」

限界だった。この均衡した状況でいることも、アンデルセンと相対していることも。
あの強烈な存在感、それにむせ返るような血の臭い。
どう考えても、受け入れられるはずがないし、これ以上相対していたら、頭が狂ってしまいそうだ。
もはや、彼が遭遇したくないマスターであることを、美遊は疑わなかった。
故に退却。風よりも速く、この悪寒がする戦場から離れることを決断してしまった。
瞬間、美遊の前に現れた黒衣の死神が彼女を優しく抱き寄せる。
そのまま、背中を向け勢い良く跳躍。急いで場を離れるべく、大地を駆け抜ける。

「どうする、王。お前の観点からして、あの子供は黒か?」
『さぁな。だが、善意で近づいたお前に不信感を抱いていたんだ。黒の可能性は、高い』
「辛辣だな。気に入らぬ何かを感じ取ったのか?」
『それもある。あのサーヴァント、個人的に見ているだけで不快だ。神への冒涜……いうなれば、死神か。
 まあ、余は既にあの者共を敵と認識している。無論、アーカードが最優先というのは変わらんがな』

そして、場に残されたアンデルセンとヴラドは考える。
彼女は敵か、否か。
もっとも、そのような思考をするまでもなく、アンデルセン達の意見は結論に至っていた。
疚しいものが心の内にあるから逃げている。
後ろめたい感情を抱えていなければ、素直に言うはずだ。
先程の二人のように真正面から出てくるはずだ。

「なれば、討つしかあるまい。敵は討滅するのがイスカリオテの定め」
『心得た。悲鳴を上げる暇もなく――刺し貫いてくれよう』

下した結論は――黒。
互いの判断がすれ違い、捻れ、事態は誰もが思いもしない結末へと導いていく。
運命も絶望もごちゃ混ぜにして、戦局は混迷を極めていった。



【D-9/廃教会/一日目 午前】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ 、春紀からもらったRocky
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
0.……打算も含めて、早苗との友好を深める。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備えるが、慎重に行動。長期戦を考え、不利と判断したら即座に撤退。
2.下見したヤクザの事務所などから銃弾や武器を入手しておきたい。
3.五感の以上及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
4.同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。

[備考]
セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。

【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
特になし。

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない
0.とりあえず、友好を深めます!
1.聖杯はタタリ神と関係している…?
2.同盟相手とは友好を深めたいが、冷たくあしらわれてしょんぼり。
3.少女(れんげ)が心配
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが
 あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。

【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]健康
[装備]現代風の服
[道具]現代風の着替え
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る
0.マスターの猪突猛進ぶりが心配。
1.とりあえず、早苗の意向を尊重する。
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。



【C-9/一日目 午前】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康、ポニーテール 、他者に対しての過剰な不信感
[令呪]残り三画
[装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装
[道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。
0.逃げる。アンデルセンは危険。
1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。
2.他者との交流は避けたい。誰とも話したくない。信用できるのは、サーヴァントとサファイアのみ。
3.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。
4.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
5.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…?
[備考]
アンデルセン陣営を危険と判断しました。

【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態]健康
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を守る
1.???????


【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】
[状態]健康
[令呪]残り二画
[装備]無数の銃剣
[道具]
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を託すに足る者を探す。存在しないならば自らが聖杯を手に入れる。
1.街へ出る。赤のコートを着た大男がアーカードであるなら、即座に滅殺。
2.昼は孤児院、夜は廃教会(領土)を往復しながら、他の組に関する情報を手に入れる。
3.戦闘の際はできる限り領土へ誘い入れる。
[備考]
箱舟内での役職は『孤児院の院長を務める神父』のようです。
聖杯戦争について『何故この地を選んだか』という疑念を持っています。
孤児院はC-9の丘の上に建っています。
アキト、早苗(風祝の巫女――異教徒とは知りません)陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。
赤のコートの大男はアーカードであるとほぼ確信めいた推測をしています。
美遊陣営を敵と判断しました。


【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha】
[状態]健康
[装備]サーヴァントとしての装備
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を手に入れる。
1.アンデルセンに付いて行き、街へ出る。赤のコートを着た大男がアーカードであるなら、陣地に引きずり込んで即座に滅殺。
2.アンデルセンと情報収集を行う。アーチャーなどの広域破壊や遠距離狙撃を行えるサーヴァントを警戒。
3.聖杯を託すに足る者をアンデルセンが見出した場合は同盟を考えるが、聖杯を託すに足らぬ者に容赦するつもりはない。
[備考]
D-9に存在する廃教会にスキル『護国の鬼将』による領土を設定しました。
美遊陣営を敵と判断しました。



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073:ルーラーのB-4調査報告:衝撃の―――― 投下順 075:『憎悪の魔王』/『敗者の王』
073:ルーラーのB-4調査報告:衝撃の―――― 時系列順 075:『憎悪の魔王』/『敗者の王』


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アレクサンド・アンデルセン&ランサー(ヴラド三世 103:大人と子供