榊原恒一&アサシン ◆ACrYhG2rGk


夏が終わって、大分涼しくなってきた。クラスはすっかり平穏を取り戻していた。
と言っても、もう残っているクラスメイトは数えるほどしかいないのだから、あの平穏はきっと偽りなのだろう。

ぼくたちを襲った災厄は終わった。ぼくがこの手で終わらせた。あの感触は今でも忘れられない。
振り下ろしたつるはしの切っ先が玲子さん――ぼくの叔母、おかあさんと思った人――の背に突き刺さり、肉を突き破って心臓にまで達したときの、あの感触を。
あの人を覚えているのは、今ではもうぼくと見崎鳴の二人だけだ。
クラスメイトたちの記憶は改竄され、色んな記録やデータからもその名前は消されて――いや、消えている。

信じて、と鳴は言った。
ぼくは鳴を信じて、あの人を殺した。
玲子さんの悲鳴は、今でも耳の奥で反響し続けている。

後悔しなかったわけではない。
いくら災厄を止めるためだったとはいえ、死者だったとはいえ、ぼくが殺したことに変わりはない。それも、家族のように思っていた人をだ。
夢に見て飛び起きたことも一度や二度ではない。もしあのとき鳴を信じていなかったら、玲子さんは今でもここにいるのか……そう、思ってしまう。
と言って、鳴を恨んでいるわけではない。
放っておけば死者はまだまだ増えただろうし、いつその中に自分や鳴が加わるかわからなかったのだから。

ならば、誰を恨めばいいのだろうか。誰を憎めばいいのだろうか。
災厄は終わった。しかし、この世から消え去ったわけではない。
僕が関わることはおそらくもうないだろうが、もしかしたら来年起こったっておかしくはないのだ。
災厄を失くす。それができれば、どんなに……。

その日、また、夢を見た。
またあのシーンだ。
燃え盛る炎の前で、鳴が見ている前で、あの人目掛けてつるはしを振り下ろす。



もしも、願いが叶うなら。
僕の願いは……あの、「現象」が、二度と起こらないようになってほしい。



そして、僕は今ここにいる。
記憶を思い出してしまえば、逆にそれを後悔してしまう。
災厄を失くすために、他の人を殺す。
死者ではない、生きている人を。



今、ぼくの隣には誰も居ない。
皮肉なものだ。

戦うための力――サーヴァントというらしい――は、与えられた。
「現象」を終わらせたぼくに与えられたのは、「現象」そのものだった。
「死者」である玲子さんの身内であったことからも、ぼくが誰より「死」に近いということなのか。

姿は見えず、声は聞こえず。でも、確かにここにいる……いや、在る。
側に鳴がいないことがひどく不安であり、同時にどこかほっとする。
鳴の眼帯に隠された左眼、「死」の色を見るあの瞳が今のぼくを見た時、果たしてどう映るのだろう。
ぼくはまだ死者じゃないはずだ。
でもこれから起こる「現象」の中心はぼくということになるはず。
これじゃ、生きているのか、死んでいるのか……自分でもわからない。

「現象」を止めるために「現象」を利用する。
人を殺すのはぼくじゃない……でも、ぼくの意志の結果、人は死ぬ。
それでも、あの「現象」を永遠に失くすことができるのなら……

そのときこそ、死に囚われた玲子さんも解放されるんじゃないか、そう思ったのだ。





【マスター】
 榊原恒一@Another
【参加方法】
 死者を死に還したつるはしがゴフェルの木でできていた
【マスターとしての願い】
 「現象」を完全に消滅させること
【weapon】
 つるはし
【能力・技能】
 ホラー小説を読むことが趣味の一般人
【人物背景】
 夜見山北中学校三年三組に転校してきた男子中学生。
 「いないもの」として無視され続けてきた少女見崎鳴と交流することで「現象」に巻き込まれる。
 最終的には、「死」が視える=紛れ込んだ「死者」を特定できる鳴の力を借りて死者を死に還し、その年の「現象」を終結させた。
【方針】
 隠れ潜んで「現象」が他のマスターをすべて呑み込むのを待つ


【CLASS】
 アサシン
【真名】
 『現象』
【パラメーター】
 筋力- 耐久- 敏捷- 魔力- 幸運- 宝具EX
【属性】
 中立・中庸 
【クラススキル】
 気配遮断:EX…自身の気配を消す能力。そもそも本体が存在しない概念なので、気配そのものがない。
【保有スキル】
 なし
【宝具】
 『死者を死に還せ』
 ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
  霊長絶対殺害権の行使。人間殺害に特化したこのサーヴァントそのものと言える宝具。
  「現象」は人格を持たない自然現象の一種であるため、自発的な移動はできない。
  マスターである榊原恒一が存在する地点より数百メートルを支配下に置き、範囲内の全てのマスター・サーヴァントを擬似的な「三年三組」と化す。
  効果範囲に侵入した人間は、階段で足を滑らせて転ぶ、車に乗って山道を走る、自室でPCを見る、など日常のあらゆる行動が死へと直結するようになる。
  階段で転べば持っていた傘の上に落ちて先端で喉を突く、山道を走っていれば落石が起こりハンドル操作を誤って谷底に転落、自室にいれば無人のクレーン車が突っ込んでくる。
  このように、結果的に必ず死亡する「偶然」が頻発し、前兆を予測することは非常に困難。この偶然は対象の「意思」ではなく「運命」に干渉して起こるもののため、どれだけ警戒していても防げない。
  空間全てが死の災厄で満たされた一種の異世界であるため、サーヴァントが対象であっても問題なく通用する(起こりうる事象への対応力が人間とは桁違いなので、一撃で死亡とまでは行かないが)。
  攻撃の起点はあくまで「偶然」のため、高ランクの幸運があれば回避することも可能。
  しかし、その場合も「現象」そのものが終わるわけではない。効果圏内から脱出しない限り、何度でも「死へ至る偶然」は起こり続ける。
【weapon】
 なし
【人物背景】
 夜見山市夜見山北中学校三年三組に巣食う「死」を引き起こす現象、災厄そのもの。自我も感情も人格もなく、触れたものすべてに死を撒き散らす。
 物語開始の二十六年前、三年三組のある学生が事故で死亡した。クラスメイト達はその学生の死を悲しみ、「彼・彼女」を忘れないためにある決め事をする。
 それは、「死者を生きているように扱う」ということ。友人を思うあまりの行動であり、教師や校長もその行為を黙認した。
 「死んだ者」を「生きている者」として扱う。それは生死の境界線をひどく曖昧にしてしまったということでもあった。
 翌年から、三年三組に在籍している者、担任、そして彼らの親族がふとした拍子に死んでしまう事態――「現象」が頻発するようになる。
 三年三組は「死者」が集まるクラスになってしまったのだ。「現象」は人の記憶や写真、文章にまで改竄を及ぼし、逃れることはできない。
 「現象」が始まる前ならば、クラスの内一人を「いないもの」に決めて無視することで人数を合わせ、回避することも可能(確実ではない)。
 起こる年と起こらない年があるが、一度起こり始めた「現象」は基本的に止まることはない。
 が、かつて「現象」を生き残ったある生徒が「死者を死に還す」ことで「現象」を止めることができると発見した。
 紛れ込んだ「死者」を特定することは通常困難だが、榊原恒一は見崎鳴の協力によって死者を特定、死者を死に還す――殺害することにによって、「現象」を終わらせた。
 しかし、「現象」そのものが消え去ったわけではない。あくまで今回の「現象」が終わったというだけであり、条件を満たせば再び、何度でも、死者は増え続けるだろう……。
【サーヴァントとしての願い】
 なし
【基本戦術、方針、運用法】
 実体を持たない概念であるため、「戦闘する」「倒す」という表現自体適当ではない。
 この「現象」は榊原恒一の存在を核に発生しているため、「現象」を止めたいのなら彼を殺害する以外に方法はない。
 一見無敵の能力であるが、自然現象であるがゆえに戦闘能力は皆無であり、マスターを守るという行動も起こさず、意思の疎通も不可能。
 榊原恒一がどこかに隠れているだけで、支配領域に侵入してきた者達は偶然の事故によって「死」に向かい続ける。