アティ&セイバー ◆dH/nzLjIxA


記憶を取り戻した僕は、すぐさまサーヴァントを喚び出した。
そうしなければ間に合わなかったからだ。

机と椅子を天井近くまで薙ぎ上げ、
リノリウムの床を踏み込みの勢いで剥ぎ飛ばしながら
敵のサーヴァントが肉薄する。

――ゆらめく狐火。
瞬時に展開された超高温の炎輪が、胴狙いの穂先を間一髪で阻んだ。

引いた手札はキャスター。
視界に映るステータスは中々のものだが、
ランサーと思しき相手との真っ向勝負は分が悪すぎる。

赤銅色の髪に優しい茶色の玉髄色の瞳。
槍よりも盾が似合いそうな柔和な容貌に反して、敵ランサーの攻撃は熾烈だ。

炎の護りが、徐々に弱まっていく。
早く、この場を脱する方法を考えなければ――

終わりは唐突に訪れた。
短い詠唱。
加護の魔法で己が身を鎧い、ランサーはいまだ勢い衰えきらぬ炎の突破を試みてきたのだ。

槍は、僕の体を過たず突き通した。
じたばたと揺れる足。
ランサーは完全にとどめを刺そうと抉り、刺突をくり返す。

…それを、本物の僕が見ている。
動くものを別のものに見せかける、キャスターの幻視の術。
カーテンレールに引っかけられ、炎の勢いに煽られてゆらゆら揺れる上着を
黙々と滅多刺しにしている敵を尻目に、僕とキャスターは戦場を離脱にかかる。

取っ手に手をかけるより早く、扉が開いた。
「え? ■■■くん、まだ残って」
眼鏡の若い女教師が、きょとんとした顔でこちらを見つめている。

女の声に気づき、ランサーがはっとして振り向く。
襤褸切れを振り捨てると、切っ先を翻してこちらに向かってきた。

「やめて!? 生徒に手を出さないで…!」
この学園で僕のクラスの先生をしていたその女性NPCは
“教師役”のAIに従って、的確に動いた。
つまり、僕を庇おうと槍突の動線上に割り込んだのだ。

どうしてNPCなんか庇おうと思ったのか、
僕にもわからない。

突き飛ばされて廊下に倒れ、尻餅をつく先生を見届けた直後。
冷たい槍が、胸元を貫いていた。

「■■■くん! ■■■くん、しっかりしてください! いま――」

胸の傷口を塞ごうと手が勝手に伸びる。
喉奥から溢れ続けて呼吸を塞ぐ自分の血に溺れて激しく咳き込む。
キャスターに指示さえ出せず、断末魔の苦しみにもがく僕を
柔らかな先生の肉体が包むように抱き留めているのを感じた。

「…ッ止めて! 離して! お願い…!」

何かを取り出そうとした女教師の手を、後ろから別の手が握って制止していた。
手の主――深くフードを被った男が、ゆらりと前に出てくる。
放たれる静かな殺気に、僕は死を覚悟した。

ああ、こいつもきっと敵だ。
逃げて、せんせい――

フードの男――セイバーは深いため息をついた。
「…また生き延びてしまった」
その手に携える黒い刀は、屠った二人分のデータの残骸に濡れている。
ランサーとそのマスターが遺したもの――それもじきに乾いて消えるだろう。
目前で敗退したマスターの少年、そしてそのキャスターと同じように。

かつて『ザナンの白き鷹』と呼ばれた男の卓越した剣技は、些かも衰えてはいなかった。
盾に優れたサーヴァントであろうと、彼の宝具の前では薄紙の護りに等しい。
ひとたび発動すれば、学校一つをたやすく戦火に葬り尽くす
“アレ”が起きなかったのは、マスターにとって幸運だったろう。

依然動こうとしない、彼のマスターを見下ろす。
データが完全に解体されても、かつての生徒を腕に抱く形で固まったままだ。
その手には、茨の冠を思わせる意匠の令呪が顕かに浮かんでいる。
ほんの僅か前まで「女教師役のNPC」だった女は、己のサーヴァントを振り仰いだ。

「どうして殺したんですか? 話せばわかりあえたかもしれないのに…」
「君が死んでしまっては、元も子もない」

携えていた剣鞘を杖代わりに、女はよろりと起き上がった。
明らかにショックを受けた様子のマスターに、セイバーは静かに語りかける。

「…降りるか? 聖杯戦争を。
 サーヴァントからこんな事を言うべきではないが、
 君のためには、それが良いような気がする」

「降りません」
甘さと幼さの残る顔立ちに似合わず、女はきっぱりと言いきった。
「私は、この聖杯戦争に勝ち抜いてみせます。だって…」

もう、これしか道は残されていないのだから。

『今のが、最後なんだ。僕にはもう、君の心を狂気から守るだけの力が残ってない…。
 だから、もう二度と剣を喚ばないでくれ。
 次に抜かれた時こそ剣は、君を完全にとりこんでしまう。だから…っ』

意識に淡く浮かび上がる、剣の意識が遺した言葉。
憎しみと悲しみを力の源にして、威力を発揮する魔剣。
あと一回抜けば、その狂気は彼女の魂をたやすく呑みこんでしまうだろう。

だから、その前に。
業(カルマ)の果てに迎えた、避けられない悲劇が来る前に
自分は別の道を探し当てなくてはならないのだ。
元の世界のみんなが、笑顔でいられる方法を。

ご想像いただけるだろうか。
己の魂の死と、彼女が願ったものの決定的な破滅を目前にして、
ちっぽけな木片に必死に祈る若い女性の姿を。


お願いです。
私に、大切な物を守る力を。

けして…後悔はしないから…
だから、お願い…

私に、大切なものを守らせて!!


喚起の門で、核識に僅かながら接続した時に偶然触れた、異世界の知識。
その後の召喚獣との戦いで、偶然拾った木片。
己の甘さで友を死なせ、猶どうしようもない絶望的な敵群を前にして、
追い詰められた女は藁にも縋る思いで月に祈った。

その結果が何かを異世界から喚び出すのではなく、
女自身を異世界へと喚ぶ物だったのは、やや予想外ではあったが。
覚悟の上で聖杯戦争に赴いた事実だけは、間違いなかった。


「あなたを巻きこんでしまって、ごめんなさい。
 でも、私は大切なみんなを守るために、できる限りのことをしたい。
 それが例え失敗に終わっても…残された誰かが笑っていてくれるなら」

「なら、どうして他のマスターを助けようとした?」
「だって、私は先生だから。でも、こんなんじゃダメ、ですよね…」

良い子も問題児も含めて、はじめて受け持った大切な生徒たち。
新任教師を優しく励まし、時々飲み会にも誘ってくれる、同僚の先生たち。
先生の仕事は大変だったけど、それ以上に楽しかった。

楽園とは名ばかりの島に縛られた、惨めな魔剣の奴隷の境遇も忘れ。
みんなを守らなければならないという重圧からも、逃れていられた。

このまますべて忘れて過ごせたら幸せだったのかもしれない。
だが、彼女は――碧の魔剣の適格者は、それを善しとはしなかった。
生徒の危機に目覚め、剣のサーヴァントを喚んだ。
たとえ、それが地獄にしか続かない道だとわかっていても。

逃げ出した先に、楽園などありはしない。
そこにあるのは、やっぱり戦場だけなのだ。
覚悟はできていた。

――だが、女は。
自分の願いのために他人を踏みにじる事など、できる人間ではない。
セイバーはそれを持ち前の洞察力で見透かしていたからこそ、問うたのだ。

セイバーは、深く溜息をついた。

目の前の女――マスターは、似ていた。
容貌は大きく異なる。彼女の髪は、彼の心を動かしたエレアの女性とは対照的に燃え立つような赤だ。
ただ、その雰囲気が。瞳が、どうしようもなく似ていた。
優しげな面立ちによく似合う、果てなく蒼く澄んだ瞳。
全てをあるがままに受け止め、許し、受け止めてくれる…あの純粋な瞳に。

「分かった。その願いに付き合おう」

明らかに廃人然とした、得体の知れない風貌のサーヴァントに
知らず先入観を抱いていた女は予想外の柔らかな反応に戸惑った。

「いいんですか…?
 で、でも! これは私ひとりの身勝手な願いで…巻き込まれる必要なんてないんです。
 あなたにもきっと、叶えたい願いが別にあるでしょう?」
「私の願いなどはとうに無いさ。それに、君と心中するのも悪くない」

フードに半ば隠れた、元は端正だったであろうその顔。
世界への失望に淀んでいた無表情が毀れ、かすかに笑ったような気がした。

だが、その優しい笑顔は、何故か哀しかった。
何かを訴えていて…そして諦めているような…。
心を他人に隠すための仮面のように、冷たさを感じた。

「心配するな。聖杯の元に辿りつくまで、
 敵のマスターやサーヴァントたちには指一本触れさせない」

「この聖杯戦争を生き抜くにあたって、幾つか質問しておきたい事があるが…
 どうやら話をしている暇はないようだ」
セイバーはローブを翻し、背を向けた。
「私の背を見失わないように。裏門から学校を出る。
 目覚めているマスターが少ない今なら、やり過ごせるだろう。まずは拠点を探すべきだ」
「…はい」

外に出ると、冷たさを含んだ風が全身を撫でた。
聞いておかなければならないことを思い出して、女は小走りで隣に追いついた。

「待ってください! 私の名前、アティって言うんです。セイバー、あなたの名前は?」
「ヴェセルだ。…そんなことを知って、何になる?
 サーヴァントに指示を出すのなら、セイバーという呼び名で十分だろう」
「それでも、知らなくちゃ相手のこと、好きになれないですよね?
 さっきのは、私がただ一方的に目的を告げただけで…
 ヴェセルに私の都合を一方的に理解させようとしただけです。
 誓約を結んで召喚主(マスター)と召喚獣(サーヴァント)になるって…
 一緒に戦うって、そういうことだけじゃないって思うんです」

セイバーは歩みを止めなかったが、
思いがけないその言葉に吐胸を突かれていた。

自分もまた、一方的ではなかったか。
嘗て自らに寄り添ってくれたエリシェ、そして彼女の面影を持つラーネイレ。
ヴェセルは、彼女らに自身の苦悩を打ち明けた。
理解し、救ってくれと。魂の支えを求め、依存した。
だが、己は彼女たちのことを知ろうとしただろうか。
瞳の奥に隠れた女の苦悩を汲み取り、力になろうとしただろうか。

脳裏に、理想に儚く散ったエレアの娘の最期の言葉が蘇る。
止めるヴェセルを振り切り、決然と炎の中に飛び込んでいった女は、
その命尽きる寸前までヴェセルを案じ続けていたのだ。

“さようなら、アルティハイトの白い鷹。
 その翼に負った傷に苦しみ、今は涙に濡れていようとも、
 いつか再び飛べる日が来ることを祈っている”

(再び、飛べるというのか…この私が)

相手との対話を重んじるこの優しきマスターとなら、あるいは。

白く浮かぶ月を見上げる。
セイバーは自身が召喚に応えた理由を、今更ながらに思い出していた。

【クラス】セイバー
【真名】虚空を這いずる者(『ザナンの白き鷹』ヴェセル・ランフォード)@Elona
【パラメーター】筋力B 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運E 宝具B
【属性】混沌・中庸

【クラススキル】
騎乗:B…騎乗の才能。
機械含め幻獣・神獣まで乗りこなせるが速度は筋力と技量依存。
騎乗中は攻撃命中率・魔術成功率が低下する。
対魔力:C…第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
無窮の武練:B…剣、銃、ギャルのパンティーといった、あらゆる武器を使いこなす才能。
初めて手にした武器でも十全に使いこなすことができる。
心眼(偽):B…直感・第六感による危険回避。
虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
精神異常:C…心理的外傷と酒、薬物浸りによる精神摩耗。
Cランク以下の精神干渉魔術やそれに類する攻撃を無効化。感情の動きは鈍く、廃人に近い状態。

【宝具】
「全てを終結させる剣」(ラグナロク)
ランク:B 種別:対人宝具(対軍宝具) レンジ:1 最大補足:1(100)
「小高い丘にひっそりと刺さっていたという長剣。
 その黒い刀身は様々な敵を屠ってきたのだろうが、刀は決して黙して語らない」
 ~イルヴァ幻想辞典~
混沌属性に対し僅かの耐性。
稀に「盾などの防御力を無視して攻撃ダメージが完全に貫通する」。
また使用時に一定の確率で“終末”が訪れ、
エーテルの風(被爆者に様々な病気を引き起こす毒風)が広範囲に吹き荒れ火柱が無数に上がり、
さらに竜種や巨人族を大量召喚する。括弧内は終末込の数値。

【weapon】
「高品質」の武器や防具類。
※すべて未鑑定。「高品質」ランクで出得る範囲であれば、また人型種族が装備できる範囲であれば
 エンチャントなどの詳細は後続書き手が任意で決めて良い。

【人物背景】
その優秀さから将来を嘱望されていた『ザナンの白き鷹』。
士官学校時代から頭角を現していたが、病に倒れ退学。
一度は挫折を舐めたが、義妹エリシェの支えもあり
ブランクを乗り越えて今度は僅か数年で将校まで登り詰め、
順風満帆に華々しい出世を続けていたが
最愛のエリシェを亡くした事により精神を病む。

指名手配され、酒と麻薬に溺れ、優秀な剣の腕をたのみに用心棒をこなし、
パトロンの女の家で自堕落な生活を送っていたが
エリシェと瓜二つの女性・ラーネイレとの出逢いを切っ掛けに
死に掛けていた彼の心は、再び蘇ろうとしていた。

だが、ラーネイレもまたエリシェの死をなぞるような形で非業の死を遂げてしまう。
愛する者のふたたびの死と、星を蝕む毒により終わろうとする世界の中、
生き延びてしまったヴェセルは失意と絶望の日々を送っていた。

イェルス人。金髪碧眼。端正な容姿。大人の女性が好み。

【サーヴァントとしての願い】なし
【基本戦術、方針、運用法】
能力はそこそこだが宝具が厄介。
NPCのほぼ居ない場所に拠点を構え迎撃が望ましいと思われる。
街中で終末を発動させようものなら即刻ペナルティ対象となるだろう。

【マスター】アティ@サモンナイト3
【参加方法】名もなき世界より『ゴフェルの木片』を召喚

【マスターとしての願い】
避けられない未来を、少しでも良い方に変えたい
(大好きなみんなの笑顔を守りたい)

【weapon】
「碧の賢帝」(シャルトス)
高純度サモナイト石(召喚術に使われる特殊な鉱石)を加工した武器。
使い手の意思で抜くか、もしくは使い手が危機に陥った時に「抜剣覚醒」発動。
抜剣覚醒中は半異形化し、全状態異常・憑依無効。
体力全回服・全ステータス1ランクアップに加えて暴走召喚を行使可能。
ただし、あと一回抜剣すればカルマルート真っ逆様。ご利用は計画的に。

抜剣時以外は杖で戦闘。

【能力・技能】
「召喚術」
機界ロレイラル、鬼妖界シルターン、霊界サプレス、幻獣界メイトルパや
名もなき世界から召喚を行えるが、召喚した存在の長時間の実体化は不可。
得意属性はBランク、その他はCランクまでの術を行使可能。
「誓約の儀式」
未誓約のサモナイト石と任意の媒介を使い、異界の存在と誓約し召喚を行う。
「家庭教師」
教職に就いている。「教え導く」才能を持つ。

【人物背景】
SRPG『サモンナイト3』の女性版主人公。
極度のお人好し。おっとりした性格で礼儀正しく巨乳。天然ボケ気味で幼い所もある。
授業時は眼鏡着用。服装は「白衣の女教師をファンタジー風にアレンジ」。
幼少の頃、両親を殺した者を背後から短剣のひと突きで殺害。
そのトラウマで笑顔を忘れていた時期があったが、周囲の献身に支えられ復活した。

「帝国」の元軍人。貧民出身ながらも軍学校を首席で卒業したエリートだったが、
とある事件をきっかけに帝国陸軍を退役。家庭教師への道を歩んだ。
初めての担当となる生徒との船旅の最中、事故で島に召喚獣ばかりが暮らす島に漂着。
その時に不思議な力を持った魔剣「碧の賢帝」を手にした。

カルマ値は既に一定以上溜まっており、生還してもカルマルート突入は避けられない。
聖杯戦争中に一線を踏み越えてしまう可能性すらある。
本人は薄々末路を悟っているが、それでも生徒や大切な人たちが
なるべく不幸せにならない結末を望んでいる。
カルマルート最終話直前から参加。

【方針】拠点探し後、積極的に襲ってくる者を迎撃予定。