暁美ほむら・キャスター ◆holyBRftF6
「まだだめよ」
少女は世界を見つめている。書き換えられた世界。理を破損させた世界。
「まだだめよ」
少女は少女を見つめている。本当の姿を取り戻さないように。理へ立ち戻らないように。
「まだだめよ」
少女は月を見つめている。彼女の世界にはない月。理をも書き換えられる月。
「――――見つけた」
■ ■
「……あの夢、なんだったのかな」
私は朝に見た夢を思い返しながら、学校の廊下を歩いていた。
まだだめよという声の中、木の上で何かを見つめている。そんなよくわからない夢だった。
ぼんやりと考え込んでいたせいでずり落ちそうになった眼鏡を慌てて支える。
今日は私が初めて学校に行く日だ。不安はある。でもきっと大丈夫。私はもう変わった――何に?――んだから。
藤村先生に半分引っ張り込まれるような形で、私は教室に入った。そのまま、元気よく自己紹介。
「暁美ほむらです! よろしくお願いします!」
前の――いつの?――ように怯えないで、胸を張ってあいさつ。そのまま教室を――誰かを探すように――見渡した。
「……あれ?」
誰かがいない。大切な誰か。私が■■■■になった理由。
学校に来るのははじめてのはずなのに、この教室にいるべき誰かが見当たらない――
「はぁ……」
結局、はじめての学校は上の空で過ごしちゃった。
どうしてこんなにも気になるんだろう。分からない――思い出せない。
空は夕暮れを通り越して夜になり始めている。放課後も■■さんが見つからないか探し続けてしまったせいだ。
私の家は街から少し外れたところにあって、だから人通りも少なくて……
「?」
なんとなく違和感を覚えて、回りを見渡した。人通りが少ない、どころの話じゃなかった。
誰もいない。まるで、■■の結界にでも迷い込んだみたいに……街並みはそのままだから、■■の結界とは違うけれど。
ふと、視界の端に何かが映ったように感じた。まるで、どくろのような何か。
思わず眼鏡を傾ける。だけど、もうどくろはそこにいなくて。
「……主人の人払いに、気づいていたな」
代わりに、上から、声。
とっさに見上げようとして……バランスを崩して転んでしまった。けれど、そのおかげで助かった。
さっきまでいたところに、どくろのお面をつけた何かが降って来たから。
「だ、だれ!?」
「いい加減ルーラーに勘付かれかねん。手短に済ませる」
私よりも小柄なその人は、だけどどう見てもまともな人じゃない。全身が真っ黒で……存在感が幽霊みたいで。
これなら■女や使い■のほうがよっぽど人間らしいと思う。
「ぁ――――」
殺される。助けを、助けを求めなきゃ。思わず叫び声を上げようとして、
「……違う」
「む?」
それを飲み込んだ。私から溢れる魔力に、サー■■ントが足を止めた。
助けなんて求めない、頼らない。守られる私じゃなくて、守る私になりたいって願ったばっかりじゃないか。
そして、そのための力が私にはある!
肌身離さず持ち歩いていた宝石が、ソウルジェムが輝く。光が私を包み込んで、私の存在を変えていく!
「ウィザ――」
サーヴァントが身構えようとして……止まった。私が止めた。
私の魔法。やり直しの願い。時間とのコネクト。それが、私を時間の流れから独立させているんだ。
いるんだ……けど。
「……どうしよう?」
止まった世界の中でどうすればいいのか、ぜんぜんわからない。
ちょっと悩んで、とりあえず謝ってから全力で殴って、蹴って、息切れしていたら……いきなり時間が動き出した。
「ード……!? 貴様、いつ触れた」
「あ、あれ!?」
なぜか時間を止める魔法の効きが悪かった。そして、私の攻撃は全然効いてなかった。
それでも触られた感覚はあったみたいで警戒するサーヴァントと、それ以上に混乱する私。
あたふたしていると、盾に何かぶつかったような振動が来て私は倒れこんでいた。
何か攻撃された、と気付いた時にはもう首を掴まれて持ち上げられていた。
「……か、はっ……!」
「あの力は、この状態では使えんようだな」
サーヴァントは冷徹に言い放つ。死ぬ。このままじゃ絶対に死ぬ。
いやだ、死にたくない。そう思って必死に首を振るけれど、サーヴァントの腕はぴくりともしない。
死にたくない。
死ねない。
私は鹿目さんを守るどころか、まだ再会だってしてないのに――!
「――――チッ」
突然、首から手が離れた。同時に、地面で何か金属が跳ねたような音。
「げほっ……げほっ、ごほっ!」
咳き込む。急に呼吸が戻ってきてのどが痛い。眼鏡を落としてしまったみたいで視界がぼやけてる。
だけど、一番痛いのは左手だった。サーヴァントには触れられていないはずの、手のひらが。
私のソウルジェムがある手の甲のちょうど反対側に、何かが刻まれていくような感じがある。
「これは……!?」
サーヴァントは助けに来た誰かを見て戸惑っているみたいだった。
いったいどうなっているのか私にはわからない。
ただ、こう言ってからしばらく後にサーヴァントはいなくなったみたいだ。
……たぶん。
ともかく息を落ち着かせて、眼鏡を拾って周りを見て……私は息を呑んだ。
そこにいたのは、私と同じ服を着て、私と同じ盾を持つ女の子だった。身長も同じくらいで、髪の色も同じ。
ただ私と違って髪を解いていて、眼鏡を掛けていなくて、私よりずっと美人に見えた。
「あなたは……いったい」
「私はキャスター。
――――そして、未来のあなた自身」
私の質問に、『私』はそう答えた。
■ ■
「じゃあ……キャスターは、何度もやり直した私?」
「そうよ」
自宅に戻ってリビングに腰を落ち着かせた私は、キャスターにたくさん質問をした。
本当はあそこですぐに聞きたかったけど、「ここに居座り続けるのはよくない」と言われたから、家に帰るまで我慢して……待ちきれなかった分を一気にぶつけた。
「鹿目さんは……?」
「…………少なくとも、状況は前より良くなったわ。私もまだ、頑張っている途中だけど」
「……よかった」
それを聞いて安心した。私は鹿目さんの役に立てるんだって。
そう思ったところで、鹿目さんや巴さんは今どうしているんだろうと気になってきた。
「どうやったら帰れるんですか?」
「勝ち残ればいいでしょう」
「でも、魔女が相手じゃなくて……人殺しだなんて」
そうだ。
サーヴァントを倒すってことは、そのマスターの人を殺してしまうってことなんだ。
その事を考えるだけで、私は泣きたくなる。
「そもそもなんで私はここにいるのかとか、あの木片は何なのかもぜんぜん分からなくて……」
退院した私は、一週間後には登校日ということでそれに備えて色々と準備をしていた。魔法の練習とか。
荷物が送られてきたのはそんな時。妙に私を惹きつけるメモが貼ってあって、気になったから荷物を開けて……中にある木片を手に取った途端に、私はここに来ていた。
「それはゴフェルの木片。単純に言えば、この方舟の構造材よ。
木片が願いを感知すると、方舟の中へ招き入れられるの。
あなたが私なら、願いを持っていないなんて事はないでしょう」
「そ、そうですけど。
いろいろ知ってるんだ……」
「ええ……少なくとも、あなたよりはずっと。だから断言できる。
ここから逃れる方法はないわ。他の全てのマスターとサーヴァントを倒す以外にはね」
紅茶を飲みながら、キャスターは説明する。私はうつむくだけだった。
未来の私が言うんだから、そうなんだとは思う、けど。でも、納得はできない。
「まどかと共にいたいのなら、勝ちなさい。
そうすれば帰れるだけじゃないわ。ムーンセルの力で、まどかを助けることだってできる」
その言葉に、私は顔を上げた。
聖杯が願いを叶えるというのなら、勝ち残るってことはただ帰られるってだけじゃないんだ。
「ワルプルギスの夜を消してもらえれば……
鹿目さんも巴さんも、死なない?」
私の言葉に、キャスターはゆっくりと頷いた。
思わず、自分の手を握りしめる。人を殺すのは嫌だ。怖いし、かわいそうだ。
でも、帰る手段はこれしかなくて。そして、私の願いは完璧に叶うのかも。
「……分かりました。
鹿目さんや巴さんと一緒に魔法少女を続けるために、頑張ってみます」
だから決意した。
まっすぐキャスターを見つめて、言葉を届ける。
キャスターは、小さく微笑んでいた。
■ ■
私は、目の前にいるマスターを冷めた気持ちで見ていた。
何も知らずに夢物語を言う自分。
魔法少女は素晴らしいものだと勘違いしている自分。
その願いはやがて、まどかに何もかも全て背負わせることになると知らない自分。
「でも、魔女が相手じゃなくて……人殺しだなんて」
あなたの世界ではまだ、魔法少女は魔女になる存在なのに?
あなた達は元・魔法少女を狩っているのに?
私は――まどかを殺したことすらあるのに?
「そもそも、あの木片は何なのかもぜんぜん分からなくて……」
私が世界を跨いで送ったから。過去の自分はどんな事を書けば開けようとするかも分かるから。
私が方舟へ干渉する道しるべとして、召喚してくれるマスターが必要だったから。
「そ、そうですけど。
いろいろ知ってるんだ……」
むしろ、あなたが何も知らないだけ。
「ワルプルギスの夜を消してもらえれば……
鹿目さんも巴さんも、死なない?」
そこで死ななくても、所詮は一時凌ぎにしかならない。魔法少女が魔女になる定めがある限り。
だからまどかは自分一人で全部背負い込んだ。私が背負い込ませてしまった。
「……分かりました。
鹿目さんや巴さんと一緒に魔法少女を続けるために、頑張ってみます」
私が頑張った結果、まどかは魔法少女が魔女になる定めを覆すために概念――円環の理なんてものになって、消えてしまって。
それを貶めてまで取り戻したまどかすら、ふとしたきっかけで概念に戻ってしまいそうな状態なのに。
それなのに、三人で魔法少女を続けたいなんて言うのか。
とうとう耐え切れず、小さくだけれど思わず笑ってしまった。
きっと、マスターには私の願いなんて想像すらできないに違いない。
私の願い、それは宝具『叛逆の物語』の完成。
世界の改変を完全なものとし、円環の理からまどかを完全に分離させる。
私一人の愛では改変は不安定なまま。だから、ムーンセルのような大規模な願望器を私の宝具と一体化させる。
力を大きく増した『叛逆の物語』は、もはや円環の理すらも及ばない域に至るだろう。
そしてこのマスターは、ようやく「見つけた」存在……私をサーヴァントとして召喚してくれる存在だ。
役目はもう半分終わっているけれど、それでもまだ私を方舟の中に繋ぎ止めるマスターは必要だ。
(今は黙っておくわ……だけど私と契約している以上、あなたもきっと気付くでしょうね)
マスターとサーヴァントはラインで繋がっているもの。だから、互いの記憶を夢として見ることがある。
まして、マスターと私は同一人物。更にダメ押しとして、私達の魔法には因果を集める副作用がある。
そんな私達が契約していればどうなるか。
(私と契約して、悪魔になってみるといいわ。夢の中でね)
記憶は流入し、因果は混線する。
自分の願いがどんな未来を辿るか、マスターは味わうことになるだろう――――
【マスター】暁美ほむら(TV第10話)
【参加方法】
初めての時間遡行の後に送られてきた木片に触れて。
……なお、その木片は悪魔と化した暁美ほむらが送ったものである。
【マスターとしての願い】
ワルプルギスの夜を消した後、元の世界で鹿目まどかや巴マミと一緒に暮らす。
また聖杯戦争の中で、自分もキャスターのようにかっこ良くなりたい。
【weapon】
強いて言えば魔法少女に変身した際の盾。まだゴルフクラブすら持っていない。
【能力・技能】
魔法少女への変身により、キャスターと同じ宝具『やり直しの願い』を使用可能。
また、無意識に『重糸する因果線』を使用している。
ただしそれ以外のキャスターの宝具・スキルは何一つ持たず、戦闘技術は素人同然。
時間停止があっても魔法少女の中ではぶっちぎり最弱。
【人物背景】
いわゆる「メガほむ」。魔法少女になったばかりの、真実について何一つ知らない暁美ほむら。
詳細についてはキャスターの項目を参考のこと。
【方針】
キャスターの言う通りに頑張る。でも、やっぱり人殺しは最小限にしたい。
【クラス】キャスター
【真名】暁美ほむら(漫画版叛逆の物語)
【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:E
自らに有利な陣地を作り上げる。
……が、一般的なキャスターのような『工房』や『神殿』ではなく、火器を並べた軍事的な意味での陣地。
道具作成:E
爆弾などを調合できる。素人の製作とは思えない火力を誇る。
……が、そもそもサーヴァントとして召喚された際に手榴弾などを大量に持ってきている。
【保有スキル】
変化:-
文字通り、「変身」する。
……が、再現データであるサーヴァントの身では本来の力を発揮できないのでこのスキルは消滅している。
自己暗示:E
自身にかける暗示。精神攻撃に対する耐性を上げるスキル。
……が、キャスターの場合どちらかと言うと自分に無理やり言い聞かせているといったほうが正しく、効果は低い。
単独行動:E
マスターを失っても数時間ほど現界可能。
【宝具】
『やり直しの願い(コネクト)』
ランク:E 種別:対界 レンジ:なし 最大捕捉:1
かつての願いを元にした時間停止能力の発現。本来は砂時計の砂を傾ける事による能力。
キャスターに触れている者に対しては時間停止が働かない。
ムーンセルでは再現の都合上で単に魔力を消費するだけで使用できる宝具になっており、持続力も悪化している。
それに伴い、時間遡行の能力は消滅した……副作用を除いて。
また、付随する能力として盾の中に色んなものを収納することが可能だが、サーヴァントである以上武器は自由に取り出せるので意味がない。
時間操作という魔法を操る対界宝具にも関わらずランクが低いのは、元はあくまで少女一人の願いから生まれた宝具の上に『重糸する因果線』に神秘性を持って行かれているため。
『重糸する因果線(マギア)』
ランク:EX 種別:対人 レンジ:なし 最大捕捉:1
時間遡行能力の副作用。自分自身と契約したことで変異している。これはマスターの側も同様。
二人の「暁美ほむら」のラインが繋がっている事で互いの因果線が束ねられ、キャスターの知識や経験がマスターに流れ込んでいく。
通常のサーヴァントとマスターでも記憶の流入は有り得るが、この宝具は戦闘技術や能力も習得させる。
効果としては魔術で代用可能なものに過ぎず、使い勝手という点では『やり直しの願い』のほうが圧倒的に上。
にも関わらずランクが規格外なのは、この宝具が鹿目まどかに作用して「円環の理」を生み出したからである。
『叛逆の物語』
ランク:EX 種別:対界 レンジ:なし 最大捕捉:鹿目まどか
『愛』による因果律の書き換え。
この宝具は暁美ほむらが自分の世界に対してのみ使用できる。そして、今も使用し続けている。
当然ムーンセルに対して効果を齎すことはできず、そもそも通常の魔法少女として再現されたため使用できない。
かつて「円環の理」が創造された中で一人だけ鹿目まどかの記憶を保持していた逸話から、因果律操作に対する耐性として働くのみである。
【weapon】
各種銃火器、爆弾などを大量に所持。
【人物背景】
とある時間軸で魔法少女だった鹿目まどかに憧れ、そしてその死を否定するべくインキュベーターと契約して魔法少女になった少女。
能力は特定期間内限定の時間停止と、一定期間の時間遡行。
魔法少女となった事で自信がつき、弱気だった性格は明るくなった。
ここまでが、マスターのほうの暁美ほむらの経歴。
だが魔法少女の契約には裏があり、魔法少女はやがて魔女となって人々に害をなす運命にある。
魔女化によって相転移する感情のエネルギーを回収する、というのがインキュベーターの真の狙いだった。
それに気付いたほむらは時間遡行を繰り返しまどかを魔女化させないように試みたが、何度やっても上手くいかない。
最終的にほむらはもう誰にも頼らないことを決め、人との接触や説明を避ける人物になった。
しかし単独では最強の魔女・ワルプルギスの夜にどうやっても勝利できず、本編の時間軸におけるまどかは「全ての魔女を消す」ことを願いにして契約。
ほむらの時間遡行により集まった因果の力で世界を改変して願いを叶えたまどかだが、その代わりに魔女を消す概念「円環の理」となって消滅した。
以上、TV版。
世界から魔女は消えたものの、エネルギーを求めるインキュベーターはほむらを魔女にして円環の理の掌握を試みる。
まどか達の力でこの実験は失敗したが、ほむらは円環の理として迎えに来たまどかを『愛』の力で捕獲。
再度世界を改変して鹿目まどかという人間を取り戻した。
神にも等しい存在となっていたまどかを、更に因果律を書き換えることで取り戻したほむら。
だがまどかの存在は不安定で、ふとした切欠で「円環の理」に戻る危うい状態にある。
以上、叛逆の物語。
【サーヴァントとしての願い】
ムーンセルを得ることで宝具『叛逆の物語』を完璧なものとし、鹿目まどかと円環の理を完全に切り離す。
【基本戦術、方針、運用法】
『やり直しの願い』による時間停止からの攻撃が基本。
二つ持っているEX宝具は片方はキャスター自身に効果なし、片方は使用不能なので意味が無い。
本編通り、時間停止からの遠距離射撃や時間差攻撃を活用することになるだろう。
同じ能力を持つマスターとの連携がカギ……なのだが、キャスター自身はマスターの力をあまり評価していない。
キャスター自身の方針としては、汚い手段をためらうつもりはない。魂食いなども積極的にするだろう。
……もっとも、非情なように見えて情を捨てきれないのがキャスター。
悪魔化後からの召喚と言えど、どこかで悪事にブレーキを掛けてしまう可能性は否定出来ない。
【備考】
「魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」は劇場版と漫画版で物語の流れに違いはないが、ほむらのほむら自身に対しての感情は漫画版のほうが負の意味で「重い」描写が多いためこちらからの出典とする。
最終更新:2014年08月17日 21:12