再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA
ホシノ・ルリは地図を片手に大きなビルの前に立った。
大理石で出来た大きな表札には『警察署』と書かれていた。
「では、行きましょうか」
ひとりごとか、側にいるライダーにか。そう言葉を紡ぐと、ビルの中に入っていった。
本日付けで配属だが、事務手続きやら荷物の移動などは前日に既に済ませてある。
通常通り勤務すれば良いだけだ。
勤務に移る前に、更衣室に向かう。
『あの、ライダーさん』
『なんだ』
ルリの念話にライダーのサーヴァント、キリコ・キュービィーが淡々とした言葉で返す。
『側にいますか?』
『いる。それがどうした?』
『これから女子更衣室に向かうんです』
『……』
『……』
『見回りをしてくる』
『すいません。その辺の空気、読めなくて』
◆
ルリは制服に着替え、デスクに付くとパソコンを立ち上げる。
彼女の時代からすると遥かに時代遅れの代物だが、『方舟』に要求するわけにもいかない。
『方舟』の中の仮想現実世界で、旧世代のパソコンを使用する。
なんとも不思議な感じではあるが。
『まずはルーラーから得た情報を纏めましょう』
『了解した』
キリコと念話で会話する。
とは言え、質問したのは3点、さらに要約すれば2点でしかない。
メモ帳に箇条書きで打ち込む。
“ルーラーにした質問と答え”
・ここは『方舟』の中か → YES
・優勝以外で『方舟』から出る方法は無いか → NO
『正直に言えば、今すぐにでも『方舟』から出たいと思っています。正確には、“『方舟』の情報を私の世界の連合宇宙軍に伝えたい”ですね』
ルリの任務は『方舟』の調査である。
だが、調査だけでは片手落ちだ。然るべき所に報告してまで、初めて調査終了となる。
現状では中間報告となるが、『方舟』から得た聖杯戦争の知識だけでも十分重要な報告内容となるだろう。
勿論、調査さえすれば自分は死んでも構わない、などとはさらさら思ってはいない。
自分は『あの人』の帰りを待っているのだから。
『そこで、『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査したいと思います。次に優勝以外で脱出する方法の調査ですね』
『ルーラーから優勝以外で脱出する方法は無いと言われたのではないか』
『はい、言われました。言われただけです』
キリコの問いに、素直に頷いた。キーボードを叩き、メモ帳を更新する。
“優勝以外に脱出する方法について”
・存在するが、ルーラーは嘘をついた
・存在するが、ルーラーは知らなかった
・存在しない
『他人から言われただけで、“はい、そうですか”と諦めるのは癪ですよね』
『そうだな』
自らを支配しようとする者は、例え神でも殺す。
それほどまでの反骨心を持つキリコだ。
ルリはその言葉にどこか満足そうな感情を感じた。
『ところで、一つ、気になることがあるんです』
『なんだ』
『どうして、『方舟』は聖杯戦争をするんでしょうか?』
根本的な疑問。
その疑問に、キリコは『方舟』から与えられた知識で答える。
『一対の人間を選別するため、ではないのか』
そう。これは『方舟』である。ならばこれが答えだろう。
しかし――
『私、優勝したら『方舟』の外に出ますよ?』
ルリの言葉に、キリコは沈黙する。
そうなのだ。
優勝したら脱出できる。ならば最後の一組まで殺し合いをさせる理由は一体何なのだろうか。
『それに、優勝者が出たらNPCは消しちゃうんでしょうか』
選ばれるのが一対だけと言うのなら、大量に存在するNPCは最終的には不要な物となる。
なのに、わざわざルーラーがNPCの大量殺戮を禁止するように駆け回る。
予選が終わった時点でNPCを別の場所に避ける、もしくはさっさとNPCを消去してしまえばいい。ルーラーもいらなくなる。
不自然なほど、非効率だ。
『それには何らかの理由、もしくはエラーがあると思ってます。なので、調査が必要と判断しました』
『わかった』
ルリの言葉にキリコは快諾する。
『というわけで』
“TO DO”
・『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査
・優勝以外で脱出する方法の調査
・聖杯戦争の調査
・聖杯戦争の現状の調査
メモ帳に書き込むと、それを印刷。紙媒体で手にした後、電子データは抹消した。
『聖杯戦争の現状の調査、とはなんだ』
『具体的に言えば、他のマスターやサーヴァントの動向の調査です。私たちが死んでしまっては元も子もありません。身の安全を確保するための調査です』
『把握した』
パソコンから警察のデータベースを参照し、メモ帳に最近起きた事件の概要を書き写す。
“最近起きた事件”
・行方不明事件
・行方不明事件
・行方不明事件
・殺人事件
・交通事故
・行方不明事件
・行方不明事件
・C-10での廃ビルの倒壊
・行方不明事件
・A-8での倉庫火災
・B-9での商店窃盗
『困りました』
『どうした』
『この『方舟』の中では死体は恒久的には残りません。なので、ほとんどが行方不明として扱われるんです』
『死因はおろか、死亡現場すら不明な場合も多々ある。そもそも死亡者が出たことに気付かない。そう言うことか』
『はい』
死体の間に見つかって殺人事件として扱われるケースは稀だ。
誰かに見つかる前に『方舟』に削除されてしまうことが多いのだろう。
そして行方不明だからといって即座に死亡と結びつけるのは早計だ。
何らかの理由で、それこそマスターなら、自身の身を隠すこともするだろう。
正午にあるルーラーからのマスター生存数報告を当てにするしかなさそうだ。
『警察のデータベースからはあまり探れないかもしれませんね』
そう思った矢先、データベースに新しい情報が入る。
『B-10で暴行事件、ですか』
犯人と思わしき人物の写真、容姿の特徴などがリアルタイムで記載される。
ジャージを着たぼさぼさ髪の眼鏡をした女性。そして――
『右手に痣……令呪、ですかね』
『可能性は高いな』
一端口元に指を当てて考えると、その指をキーボードに落とした。
“B-10でマスターらしき人物が暴れてる理由”
・他のマスター、サーヴァントを誘い出す陽動、もしくは罠
・聖杯戦争のルールを無視した粗暴な行動
・他のマスターかサーヴァントが行った、なりすまし行為によるマスターへの社会的攻撃
・ルーラーを誘い出す
『こんな所でしょうか』
『マスターはどれだと思っている』
『陽動や罠の可能性は低いと思っています。それらはこのような手段でなくても行えますし。なので、他の三つのどれかだと思っています』
『それで、マスターはどうする』
『何もしません』
きっぱりと答える。
確かに警察署はB-9であり、現場のB-10と近い。
だが、いずれの理由を考慮しても、この人物がルリ達に必要な情報を提供してくれる可能性は低いと見た。
飛び火しないように警戒はするが、その程度の警戒なら常にしている。
『記憶に留めておくだけです。NPCの警察のがんばりに期待しましょう』
『わかった』
先ほどと同じようにメモ帳を削除すると、ルリは一息付く。
時計を見ると、正午が近い。
「そろそろお昼にしましょう」
◆
ビルには備え付けの食堂があったが、周辺地域も確認したい。
ルリは警察署から出て、付近を散策することにした。
「私の時代から一昔前の風景ですね」
知識としては知っていたが、実際に見るのは初めてだ。
ここが仮想現実世界だと言うことも忘れてしまいそうだ。
散歩がてら、ついつい足を多めに運んでしまう。
気付けば警察署から少し離れた住宅街まで来てしまっていた。
「ここは住宅街ですか。この辺にはあまり飲食店はなさそう――」
『どうした、マスター』
辺りを見渡したルリは立ち止まり、絶句する。
思わず立ち止まり、一点を注視する。
『天河食堂』
休業中の張り紙が貼られた、ただの飲食店。
ちょっとは珍しいかもしれないけど、絶対に被らないとは言えない名前。
そもそもここは『方舟』の中の仮想現実世界でしかない。
――ここには本当に色々な人が居ます。
――様々な世界から、過去未来問わず月が観測した全てが再現されています。
――本当ならありえなかった筈の出来事や……出会いがあると思います
ルーラーの言葉がリフレインする。
そう、再現だ。
あくまで再現に過ぎない。
だから。
この食堂の主もきっと。
だけど。
だというのに。
「マスター」
不意に肩を叩かれ、ハッとする。
気付けばキリコが実体化し、ルリの肩に手を置いていた。
表情こそ変わらないが、彼なりに心配していることが分かる。
「大丈夫です」
「そうか」
キリコはそれ以上踏み込まない。
それが嬉しかった。
【B-9/住宅街(天河食堂前)/一日目 午前】
【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ~The prince of darkness】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:警官の制服
[道具]:ペイカード、地図
[所持金]:富豪レベル(カード払いのみ)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟』の調査。
0.天河食堂……
1.『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査
2.優勝以外で脱出する方法の調査
3.聖杯戦争の調査
4.聖杯戦争の現状の調査
[備考]
※ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。
※NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。
※ジナコ・カリギリ(ベルク・カッツェの変装)の容姿を確認済み。
【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】
[状態]:健康
[装備]:アーマーマグナム
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。
1.ホシノ・ルリの護衛。
[備考]
※無し。
最終更新:2014年09月17日 17:31