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Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL.



――

―――


  ずいぶん見覚えのある格好だ。
  ながいこと着続けた結果ヨレヨレになったシャツにタイトタイプでもないのにぱつぱつのジーパン。
  全く手入れがされていない、エンジェルリングとはかけ離れたほこりっぽくて荒れ放題な髪の毛。そして野暮ったい黒ぶち眼鏡。
  何も存在しない真っ白な空間に、そんな格好の彼女と私の二人だけ。


「えと……一応聞きますけど……誰、スか?」

『あ、ども。ボク、ジナコさんッス』

「……あ、ども。ボクもジナコさんッス」

『へぇ、奇遇ッスねぇ』

「……ホントに」 

  やはり自分だった。
  そういえばちょっと前、気を失ったような気がする。
  ということはこれは夢か。なるほど、夢なら自分が出てくるくらいあり得るかもしれない。

『あ、そうだ。ねぇジナコさん、ボク少し聞きたいことがあったんスけど』

「はいなんでしょう」

『ジナコさんはこの聖杯戦争、結局どうするんスか?』

  流石自分、痛いところを突いてくる。
  ジナコは聖杯戦争の方針について決めあぐねていた。

『例えばさっき、色の薄い髪をした女の子、あの子たぶんマスターでしょ?
 聖杯戦争で勝ち抜くってことはつまり、あの子を殺すってことッスよね』

「……そうなるよね、やっぱり」

  二人揃ってうんうん唸り、頭をかきむしる。
  いくら人生のやり直しがかかっているからと言って、それが殺人の免罪符になるわけではない。

「今決めなきゃ、駄目かなぁ……」

  彼女の人生を変えた『あの事件』以来、ジナコは常に迫ってくる現実から逃げ続けてきた。
  それはこの場でも変わらない。
  見たくないものは見ない、聞きたくないものは聞かない、考えたくないものは考えない。
  一人ぼっちになってから今までそうやって生きてきた、これからもそれを続けるつもりだった。

『だってもう他の組も動き出してるんでしょ。あの幼女ちゃんみたいに。
 決めるんなら早いに越したことはないと思うッスけど』

  でも、『ジナコ』はそれを許さない。
  少しずつ少しずつ、鼠をいたぶる猫のように、質問を狭めていく。
  現実から逃がさないように。聖杯戦争と向き合わせるために。

『で、どうするんスか? さっさと決めないと殺されちゃうッスよ』

「……あ、アタシ……死にたくない……」

『お、じゃあやっぱり殺しちゃいますかぁ!』

  待っていたかのように、『ジナコ』がその一言を口にする。

『それしかないッスよね、やっぱ。よし、決定! 殺しちゃいましょう!!』

  そう言った『ジナコ』の口は、三日月よりも見事な弧を描いていた。
「ま、待って、んなこと言ってない!! っていうかできるわけない! だって、それって……」

  しかし『ジナコ』は私の言葉に聞く耳を持たずに続ける。

『大丈夫!! 直接殺すのが嫌ならサーヴァントに頼めばいい。そうすればボクは家に籠ったままでいい、皆みぃんな殺してくれるッスよぉ!!
 さっきの小っちゃな女の子も、どっかの見知らぬ男の子も、自分の世界に帰れば子どもがいるお父さんお母さんなんてのも、皆皆、皆殺しっす!!』

  ずっと外敵から守り続けてきた傷口に、突然刃が突き立てられる。
  聖杯戦争の参加者はNPCじゃない。それぞれに人生があり、帰りを待つ人がいる。
  自分が死なないためには、彼らを殺すしかない。

  でも、死にたくないからといってあの日の自分のような存在をこの手で作るというのか。
  胸が締め付けられるように痛み出す。そんな決断、できるわけがない。


『皆ボクのために死んでくれるっすよね~? いいっすよね~?
 やったっス!!! ボクのために皆死んでほしいっス~!!!』

  狂ったように笑いながら、目の前の『ジナコ』が謳い、踊る。
  目は血走るを通り越して真っ赤、その奥に瞳はなく、菱形のなにかが蠢いている。
  そんな目が、不安を駆り立て、自分の傷口を抉り、折角いびつながら立ちあがれていた私を押し潰していく。


「違う、こ、殺していいわけがない……」

『ハァ――――!? な、な、何言ってるんスか? 迷うことないっすよぉ!!! ブチ殺しちゃえばいいじゃないっすかぁ!
 人間なんてよわっちいから絶対いつか死んじゃうっしょ? それがたまたま今日の今になる、ボクが殺してあげる、ただそれだけじゃないッスかぁ!!
 つか、優しさ? この戦争から救ってあげる救世主的な? うひひひ、さすがジナコさん、マジメシア!』

  どうしてそんなことが言える。
  どうしてそんな顔で笑えるんだ。
  いつか死ぬ、そんなこと知ってる。でも、だからって殺していいわけがない。
  この『ジナコ』は狂っている。
  誰か止めて、それ以上私の顔でそんなことを言わせないで。

『むしろ、死ぬって分かって死ぬんだから超ハッピーかも……? だってそうでしょ?
 何も知らないままお別れも言えずに死ぬのと、ちゃんとお別れ済ませて死ぬのと、どっちが幸せか、考えたことあります?』

  もう嫌だ。
  ヤクザ、早く助けにきて。
  これ以上は耐えられない。
  ヤクザじゃなくてもいい、誰でもいい、誰か。お父さん、お母さん、誰か。
  今すぐこいつを、この場所から―――

  私が言わんとしたことを理解してか。
  突然、『ジナコ』の顔が急にくしゃくしゃに歪む。


『……貴女、私のこと……殺すの?』


  たった一言。
  声も小さく、呟くように言ったその一言が先ほどまでのどの暴言よりも、深く心に突き刺さった。
  私の心が、ミキサーでかきまぜられたようにぐちゃぐちゃにされていく。
  胃が痛み、吐き気がしてくる。これ以上見ていたくない。
  そんなこちらの事情などお構いなしに、大粒の涙をこぼしながら『ジナコ』が嗚咽交じりで続ける。


『やだよ……死にたくないよ……殺すのも嫌だけど、まだ私、死にたくなんてないよぉ……』


  その場にへたり込み、ヒステリックに頭を掻きむしりながら、目の前まで迫った死から逃がしてくれと涙ながらに訴える。


  そこに居たのはいつも変わらず付けてきた『エリートニートのジナコさん』の仮面をはぎ取られ。
  逃げ出したはずの現実世界に無理やり引き戻され、争いの真っただ中に放り出され。
  いつ来るか分からない敵に怯え、弱弱しくて痛みに怯える、卑屈で哀れな『自分の姿』。
  NPCから復帰した私がずっと目を背け続けた、聖杯戦争に直面した『ジナコ=カリギリ』の本当の姿。

  自分の一番醜い一面と期せずして直面した私は、喉元までせりあがってきていた不快感を我慢できず―――


―――

――



  B-10、公園にて






                宮内れんげの戦いは激化の一途を辿っていた!!!





  宮内れんげは小学生だ。
  しかもぐうたらな姉に似ず、かなり規則正しい生活を送るタイプの。
  朝昼晩とちゃんとご飯を食べ、日中は勉強をし。
  放課後は皆で遊び、夜はゆっくり休む。
  突拍子もない言動や行動も目立つが、爛れたこととは関係のない生活を続けてきた。


  だからこそ、れんげは『それ』を無視できない!


  方舟で目覚めた勢いそのままにカッツェと探索を始め。
  新たな友達であるアーカードとジョンスに出会い。
  三人で仲良く(れんげの主観ではあるが)町の探検をして、一悶着あったがジョンスと一緒に朝ごはんを食べ。
  興奮冷めやらぬ状態で今の今までふぇすてぃばってきた。


  でも、やっぱり『それ』は無視できない!


  先の喧嘩の一件で完全に緊張の糸が切れたのか、体の奥底でなりを潜めていたはずの『悪魔』が顔をのぞかせてきたのだ!


  小さな手が、手近にあったジョンスのズボンを掴む。
  あいている方の手で目をこすりながら、決して声には出さず、悪魔の接近を訴える!


「なんだ」

「んー……」


  その悪魔の名前は、睡魔!!
  宮内れんげは今、どうしようもなく眠かった!

  ようやく始まった今日を終わらせてしまうのはもったいない。
  アーカードやジョンスに出会えた素敵な今日にまだまだ続いてほしいという心がれんげを動かす。
  だが、限界は近い……!!

  数分後。
  やはりというか、れんげは睡魔に負けた。
  歩く足取りはとうの昔からおぼつかず、立ち止まればその場でこっくりこっくりと船を漕ぎ始める。

  見かねたジョンスが、れんげを背負いあげた。

「……八極拳」

「寝てろ」

「でも、お昼寝したら夜眠れなくなるん……」

「いいから寝てろ」

  その言葉に、れんげからの明確な返事はない。
  返事の代わりにむにゃむにゃという言葉になれなかった声が超至近距離で耳朶を揺らし。
  数十秒後にはその声も静かな寝息に代わった。

「私が背負おうか」

「いや、いい。それよりもだアーチャー、お前はそっちの駄肉を持て」

  別に他意はない。
  特に無理してれんげを渡す理由もないから申し出を断った。
  自分が先にれんげをおぶっていたから、アーカードに女の方を任せた。それだけだ。

  アーカードにもそれは伝わったらしい。今回は特に衝突もなく同意が得られた。
  女を抱えるためアーカードが近づいた、その瞬間。
  眠っていた肉の塊がバネでも効いたかのように跳ね起きる。
  さらにそのまま道の端へと這っていくと。

「おえっ、え、お、えええええええっ」

  女は、なぜか側溝にへたり込んで胃の中身をすべてぶちまけ始めた。
  消化されかけの『何か』が鉄の格子をすり抜けてその奥の水面を揺らす。

「けほっ」

  最後に少し、残った意識を吐き出すような小さな咳をして。
  そのまま舗装道路側に背中から倒れ込み、再び気絶した。

  謎の女の嘔吐の一部始終を見ていたジョンス・リーとアーカードの間に気まずい沈黙が流れる。

  ジョンス・リー。
  安いプライドがあれば化け物とも戦えると豪語する現代最強の八極拳士。
  だが、今し方汚物をブチ撒けた駄肉たっぷりの女を運べるほど、プライドの安売りは行っていない。
  そしてそれは彼の英霊アーカードも一緒のはず。運ぶように言ってもきっと拒否するだろう。
  令呪を使って運ばせるか。
  令呪は残り一画、こんな下らない事で使うのもアホらしいし、できれば温存しておきたい。
  ならばいっそこいつを打ち捨てていくか。
  厄介事に巻き込まれそうだが、この状況で連れていくくらいなら……

  そうこう考えていると、今までなりを潜めていた『もう一人』が意外な打開策を出した。


「んもうwwwwwwwwwww二人ともしょうがねッスねwwwwwwwww
 ここはミィにお任せwwwwwwwwこんな百貫おデブちんもミィにかかればハイこの通りwwwwwwwww」


  いつの間にか消え、またいつの間にか現れたベルク・カッツェ。
  彼の金属質な菱形のしっぽが走り、うねり、転がる女を捕縛し、持ち上げる。
  こうして、カッツェが尻尾を駆使して持ち運ぶことで、たいして労せず場は収まった。
  もっとももジョンスとしては、借りを作ってしまったようで少し癪だったが。

  もともと郊外で建物が少なかったことも幸いし、程なくしてジョンスたちはジナコの家を見つけられた。
  見つけられた、まではよかったのだが。

  家に乗りこんで、その中身に圧倒された。
  散らばっているゴミと衣服、漂う独特な臭気。
  特に寝室はひどい有様だった。
  部屋の真ん中に布団が置いてあることがかろうじて理解できる程度で、あとはもう足の踏み場がどうとかいう問題ではない。

  さすがにここで寝かせるのは衛生上問題があるのではとも思ったが、布団があるに越したことはない。
  というよりも出会って数時間の赤の他人のためにそこまで考える義理もない。
  ということで、れんげと女はゴミ部屋の中に半ばうち捨てる形で寝かせられることになった。

   *   *   *

「はぁ」

  ジョンスは、家の中でも綺麗な方の(といっても、常識から考えればあり得ないほど散らかっている)居間に腰を下ろし、深く息を吐いた。

  出会ってから何故か一緒に行動することになり。
  金がないというから飯を与え、眠ってしまったら寝場所を与える。
  これではまるで保護者じゃないか。

  気に喰わないサーヴァントを抱え込んでいるからそいつを見張るついで、と言えば聞こえはいいが。

  頭を抱えそうになる。
  自分が(本人は無自覚だろうが)他人のために走り回らされていることに。
  そんなジョンスの苦悩もつゆ知らず、いや、奴の知った上でか。
  アサシンがまたアーチャーに対してすり寄り始めた

「あ、そだwwwwwwww旦那wwwwwちょっとミィとお出かけしませぇん?wwwwwwww
 子どもには見せられないようなあぁぁぁん♪ なことっ、したくありませぇん?wwwwww」

「……だ、そうだが?」

  にやついた顔でアーチャーが尋ねる。
  あのアサシンがアーチャーを連れて『ちょっとお出かけ』で済むわけがない。
  アーチャーもそこについてはしっかり気付いている。
  だからこそ、笑いながら尋ねている。
  遠まわしに『奴の企みに乗るか』とジョンスに尋ねているのだ。

  そんなもの考えるまでもない。
  ジョンスは二つ返事でこう答えた。

「消えろ」

「は? ミィ、ジョンスりんにはなんも言ってねんすけど」

「知るか、消えろ」

  こういう手合いは相手にすればするだけ付け上がる。
  ならば必要に駆られた時以外は相手にしない、それに限る。

  ジョンスの返答を聞いたアサシンは大げさに肩を落とし、ありもしない小石を蹴る真似をして。

「はぁ――――っ……もう、萎える……そういうの……カッツェさん鬱だお……しょぼぼぼぼ―――ん……」

  そう吐き捨てて、いつものように消えた。

  ようやく二つの喧騒が去り、居間には二つの静寂だけが残った。

――――――


  マスターは夢の中。
  同行者からは追い出され。
  赤の他人は気絶中。
  果たしてベルク・カッツェは、聖杯戦争開始後初めて一人になることになった。


「うち、腕が伸びたん……かっちゃん、見て見て、おそろいなーん……」

「ちょwwwwwwwwwれんちょんなんかすごい夢見とるwwwwwwwww
 見して見して、それ見してwwwwwwミィすっごいそれ気になるーんwwwwwwwwww」

  ケタケタ笑いながら、寝ているれんげが起きない程度に頬をつつきまわし、
  かと思えばいきなりぴたりと止まり、ぜんまい仕掛けのからくりのようにゆっくり首を傾ける。


「つか、ジナコさぁん!!」

  ジナコの肉付きの良い脇腹に踵を叩きこむ。
  潰れた蛙のような呻き声がジナコの口から洩れるのを聞いて、カッツェはますます得意になり脇腹を踏みにじった。

  ジナコの精神に入りこんで『ジナコ』として彼女を追い詰めていたのは、言うまでもなくカッツェだ。
  当初はなにもあそこまで露骨に追い詰めるつもりはなかった。
  テキトーに煽ってテキトーにメシウマしてルーラーちゃんに関する情報を得られればそれでいいかな程度でキスをした。
  ただ、キスを通して彼女の話し方を知ってしまった時点で、カッツェはその衝動を抑えることができなかった。

「ボク~とか、なになにッス~wとか、そういうのマジ超ウッゼェんスけどおおおおおお!!!!!
 なになになに? 誰に向かって媚びてんのそれぇwwwwwwwwねぇキモいんスけど~wwwwwwボクそういうのやめてほしいんスけど~wwwwwwwwww」

  ジナコの預かり知るところではない上にはた迷惑な話だが、カッツェは『ボク』『ッス』という口調が大嫌いだ。
  特徴的な一人称と語尾のせいで、ジナコの口から放たれる言葉の全てが気に喰わない。

「あー、マジムカツいたッス~wwwwwwwボク、ムカツいちゃったッス~wwwwwwwww
 ムカツいちゃったからぁーwwwwwwwww」

  だから追い詰める。
  精神の中まで入りこんで追い詰めるし、それ以上に現実世界でも追い詰める。
  追い詰めて、追い詰めて、追い詰めて、どん底まで追いつめて。
  『あいつ』の代わりにジナコを醜い悪意に晒し、悪意によって身を滅ぼさせることでウサ晴らしをする。

「ミィ、ちょっとお散歩っ☆」

  この場で怒りにまかせてジナコを再起不能になるまでフルボッコにするのはたやすい。
  だがそんなことをすれば折角築きあげたれんげとの信頼関係を崩してしまうことになる。
  隣で自分を倒すための作戦会議でもしているであろう二人にも自分の討伐を切りだすに足る建前を与えてしまう。
  それに。

「つまんねぇっすよそんなのwwwwwwwwwwwもっともっともおっとやり返さないとメシマズっしょwwwwwwwwwwwww
 ジナコさぁん、もう、ホンット、出会ったばっかりでホント申し訳ないんすけどぉ……はじめたんの代わりに、地獄見ちゃってくださぁいwwwwwwwwwwwwwwww」

  寝息すら感じられる距離でそう告げ、ジナコに抱きつく形で眠っているれんげの方に視線を動かす。

「んー……CHU☆」

  そしてそのまま顎を持ちあげて口づけを交わした。
  情愛や親愛とはかけ離れた、半ば業務的なキス。
  魔力の含まれた唾液を貪り、暴れまわれるだけの力を搾り取るためのキス。

  通常、魔力回路の有無すら分からないマスターから体液摂取によって魔力の搾取を行うのはあまり効率が良くない。
  しかし、カッツェに関して言えば状況が違っていた。
  カッツェ自身が燃費もいいしこれまで魔力をほぼ消費しなかったというのもあるが、カッツェは未明から早朝までの約6時間れんげを肩車し続けてきた。
  魔力は手を握っている程度でも少しずつ回復するというが、半そで半ズボンの布越しとはいえ全身接触を6時間続ければどうなるか。
  塵も積もれば山となる。そして極めつけとしてキスでの回復。
  カッツェのもくろみ通り、魔力適正のないマスターのサーヴァントとしては異例の魔力充填がなされた。

「見ててね、れんちょん。ミィ、必ず世界をアップデートしてくるからね!!」

  すやすやと穏やかな寝息をたてる自身のマスターの頭を優しく撫で。
  突如空間に走ったノイズだけをその場に残して、ベルク・カッツェは消えた。

   *  *  *


  信号機の上で行き交うNPCを興味深そうに見下す。
  たとえ実体化していたとしても、NPCには気配遮断を持つ彼を見ることはできない。
  何気なく尻尾を伸ばしてその辺を歩いていたNPC同士をぶつからせると、案の定二人は喧嘩を始めた。


「マジすかwwwwwwwえっ、やっぱマジなんすかwwwwwwww
 方舟ちゃん、マジで言ってんのそれぇwwwwwwwちょwwwwヤバスwwwwwwww」


  カッツェは当初、NPCは決められた思考ルーチンの元『日常生活』という動作を繰り返す架空の存在だと踏んでいた。
  しかし、公園の一件でカッツェはその考えを改めた。

  確かにNPCは非参加者であり方舟が作り出した架空の存在だがその器の中身は空っぽではない。
  その内側には確かに心が―――正確には『悪意』が存在している。

  嫌いなものは嫌い、憎いものは憎い。
  きっと恨み辛みを募らせるし、不平不満を口に出す。
  本物の人間でもないくせに、恨み節を綴り。
  作り物の人間のくせに、他人に嫉妬する。
  それがカッツェには、たまらなく面白おかしくて仕方がなかった。


「つか、ぽまいら愚かすぎっしょwwwwwwwwNPCになっても醜ぅい汚ぁい心捨てきれないとかwwwwwwwww
 そんなんでよく『世界平和』とか『みんな仲良く』とか言えるよねぇwwwwwwww上っ面分厚すぎィwwwwww」


  敬遠なる信徒はそれに乗って生き残り、愚かな人間どもは天変地異に巻き込まれて全滅したという『方舟』の伝承。
  だというのにこの『方舟』にひしめいている人間を模した者たちの姿は、敬遠な信徒とは程遠い愚かな人類のそれ。
  方舟とムーンセルがそういう『偽りのない人間像』を望んでいるのか。
  それとも実際の方舟は伝承通りの存在だったが、どこかの何かのせいでその性質が変わってしまったのか。
  それは知らないが、言えることは一つ。

「ねえルーラーちゃん、これ、キチンと把握してる? 知ってる? ねぇ。
 つまりこれってさぁ……ここに居るの、全員、ミィのだぁい好きなタイプの原始人ちゃんたちなんだよねぇ……w」

  カッツェが悪意を持って扇動できるのは参加者だけではなく、NPCを含めたこの月海原に存在する全ての人型ユニットということ。
  そしてそれは、この場に存在する全ての人型ユニットが無自覚でルーラーを含めた参加者に牙を剥く可能性があるということ。
  幸先のいいことに 『射程ほぼ無限』 『必要魔力0』 『及ぼす効果も大きく』 『自分との相性も最高』 という素晴らしい武器を手に入れることもできた。
  スマホの液晶に指を滑らせ、中身を確認する。電話帳、メールリスト、各種SNSアプリ、『crowds』程ではないにせよ、悪意を増長させるのに使い勝手がよさそうなものもごろごろある。
  胸の高鳴りそのままに、『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』の具体的な演目を考えて見るが……

「あ、ムリwwwwwwwあムリムリwwwwwwwカッツェさんそういうのマジムリwwwwwwwwwww」

  すぐに思考放棄した。
  『それ』を考えるにはまだ材料が少し足りない。スマホと、悪意と、それともう少し。そのもう少しがまだ足りない。
  材料を集める必要があるが、しかしただ材料を集めるというのもつまらない。

「カッツェさんにできるのって言ったらやっぱりぃ……こっちっすよねwwwwwwwww」

  NOTEを取り出し、天に掲げる。
  紫色の表紙が妖しく光り、抑え込まれていた力を解き放つ。

「バババババババババアアアアアアアアアドwwwwwwwwwwゴゴゴゴゴゴォォォォウwwwwwwwwwwwww」

  秩序に縛られず、正義にも抑え込まれず。
  自身が広げた戦火を遥か高みから見下し続けた『自由の翼』が今再び羽を広げる。

  狂った翼の羽ばたきを受けて、歩行者用信号機が数秒だけ不規則に点滅をした。

  *  *  *


  からからからから。
  からからからん、かんからから。
  石畳の歩道を鍵盤代わりに、愉快な音楽を奏ながら悪魔がやってくる。


「あー、マジ太陽ウゼぇッスわぁwwwwwwwなんで昼なんてあるんスかね?wwwww
 通行人ウゼェッスわあwwwwww車とか全部事故ればいいって思いませぇん?wwwwwww」


  へらへらと笑いながらそんなことをのたまう『ジナコ』から、流石のNPCも距離を取る。
  それを気にも留めずに麻薬中毒者のように笑い続ける『ジナコ』。
  そんな『彼女』の歩みが、一つの店の前で止まる。
  それは、開店直前のケーキ屋。
  奇しくも探していた『都合のいい場所』と『ジナコ』の好物が合致した、絶好の場所。
  『ジナコ』は鉄パイプを両手で握り直し、思い切り振りかぶる。

「せぇ、のっ!」

  目の前のきれいに磨かれたショーウィンドウに一撃を叩きこんだ。ガラスが砕け散り、警報ベルが鳴り響く。
  何事かと目を剥く店員と歩行者の視線が気持ちいい。
  ガラスの破片を踏み砕きながらダイレクト入店をきめて、早速一言。

「はぁーい、ジナコさん、参上ッス!」

  店内に並ぶのは、色とりどりの宝石のようなお菓子の山と。
  何処までも広がる海のように、『ジナコ』を取り囲む青々とした顔の数々。

「ども、こんちわっす! ボク、甘い物好きなんスよねえ! だ・か・らぁ……」

  胸の前で両手を合わせて可愛らしくおねだりのポーズ。
  手に刻まれた令呪のアピールを忘れない。

「ここにあるの、全部ちょーだいっ♪」

  どよめきが広がり、店の奥から屈強な若者NPCと初老のNPCが現れた。
  どうやら店員役と店長役らしい。


「お、初エンカウント! ども、ケーキくださいな!! くれないとボク、怒っちゃうッスからね! ぷんぷん!」

「オイアンタ、ふざけたこと言ってんじゃ……」

「やめろ、バイトっちゃん!」


  『ジナコ』は掴みかかってきた店員NPCの即頭部めがけて鉄パイプを振り抜いた。
  店員NPCが吹っ飛び、壁に叩きつけられ、もんどりうつ間もなく昏倒。店長NPCの顔が引きつる。
  さらに大きくなったどよめきを耳触りに感じ、次はケーキを飾っているショーケースを叩き割った。

「ありゃ、ここの分はもう食べられないっスね。じゃあ、まずはあっちからくれます?」

  程なくして現れる警官NPC。『ジナコ』は高笑いしながら鉄パイプを構えなおす。

「あれwwwwwwwwもしかしてキミたちボクと遊んでくれるんスかぁwwwwwwww?
 HEYHEYwwwwwww効いてる効いてるwwwwwwwwかかってこいYOwwwwwwwwシュッシュッシュッwwwwww」

  空いている手でワンツーパンチの真似ごとをしながら警官NPCを煽る。
  勿論、『悪意』が存在するものがそれを受け流せるわけがない。

「貴様ぁ!!!」




――――――



  午前9時52分。
  地図上のB-10地区において、『ジナコ=カリギリ』は警察に『平和の敵』と判断された。



【B-10/左下・都心部/早朝】
【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]魔力充実、ジナコを煽って久々にメシウマ、ジナコに成りすましている
[装備]拾った鉄パイプ
[道具]携帯電話(スマホタイプ)
[思考・状況]
基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。
1.喋り方が気に喰わないので何よりも先にジナコの見た目で悪評をばら撒いてジナコを追い詰める。
 ついでに足りない『材料』を探す。
2.ジョンスたちを利用してメシウマする。
3.『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』開催決定。参加者・演目、募集中。

[備考]
※他者への成りすましにアーカード(青年ver)、ジナコ・カリギリが追加されました。
※NPCにも悪意が存在することを把握しました。扇動なども行えます
※喋り方が旧知の人物に似ているのでジナコが大嫌いです。可能ならば彼女をどん底まで叩き落としたいと考えています。
※ジナコのフリをして彼女の悪評を広めます。
 一定時間暴れた後、瞬間移動で別の場所に行き暴れるという行動をしばらく続けるつもりです。
 1.ルーラーの介入
 2.参加者と思われる人物の介入
 3.れんげから念話
 4.予想外の魔力消費
 5.魔力中程度消費(出る前に回復したが実体化と成りすましで随時消費中)
 以上のどれかが起こった場合、少し遊んでかられんげの元に帰ります。
 また、スキルや能力があるのでカッツェ自身が警察に捕まることは絶対にありません
※『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』を計画中です。今のところ、スマホとNPCを使う予定ですが、使わない可能性も十分にあります。
※カッツェがジナコの姿で暴れているケーキ屋がヤクザ(ゴルゴ13)の向かったケーキ屋と一緒かどうかは不明です。


[地域備考]
B-10都心部とその近辺エリアでジナコの姿をしたカッツェによる犯罪が発生しています。
カッツェは『ジナコの令呪』を見せびらかすように犯罪を起こしているので『令呪を持った女性の犯行』が近辺で噂になる可能性があります

――――――

「気付いているか」

「気付くさ、そりゃあな」

  カッツェが居間から消えてしばらくして、ジョンスに刻まれた令呪が強く反応した。
  令呪が今まで反応したのは四回。
  一回目は、ファミレスでの食事中。
  二回目は、NPCの喧嘩の直前。
  三回目は、駄肉が吐く前。
  四回目が、今。

  全てアサシンが『超常の力』を使ってなにかやらかしてると思わしきタイミングだ。

「つまり、そういうことだろ」

  令呪には『宝具の発動』を察知できる能力が備わっている。
  どれくらいの距離で反応するのかとか、どの宝具にも反応するのかとか、宝具以外にも反応するのかとかは分からない。
  ただ、『サーヴァントの行動に令呪が反応する』という事実を知っているのと知らないのとでは大違いだ。

「で、どうするね。れんげを起こして、アレをこの場に引き摺り出し問いただしてみるか?
 どうせのらくらと逃げ回り、こちらが煙に巻かれるだけだろうが」

「……いや、いい。あいつが隠れて何かするっていうんなら、俺達も何かするだけだ」

  もちろん、あのアサシンがこの『令呪のシステム』を見抜いたうえでテキトーに宝具を発動して、姿を隠しているだけの可能性もある。
  だから用心し、誰にも聞こえないように内容は伏せる。

『それもまぁ、丁度いい。『念話』ってのも試してみたかったところだしな。

『……茶飲み話にでも付き合えと?』

  アーチャーの口元が歪む。
  彼の性格からして茶化しているんだろうが、なんとも嫌味な笑い方をする。
  ただ、『態度が気に喰わない』とここで噛みついても意味がない。
  ジョンスは受け流して、続けた。

『いや、これからの方針だ』

  当初ジョンスは強者と戦うことのみを目標としてきた。
  しかし、この数時間で事態の様相は大きく変貌している。

  倒すべき相手ができた。
  いやらしいニヤケ面のアサシン。『ベルク・カッツェ』とか言ったか。あいつを一発ぶちのめしてやらなきゃ気が済まない。
  精神的勝利なんてのは敗者の逃げだと、あの高みの見物を決め込んでいる気味が悪いアサシンに叩きつける。

  そして、そいつを倒すのに面倒な縛りがいくつかあることが分かった。

  まずは『サーヴァントには攻撃が通用しない』という大原則。
  ここを覆さないことには化け物退治はなされない。
  どれだけジョンス・リーの一撃が、岩を砕き、コンクリートを踏み抜き、化け物を沈めたとしても。
  攻撃が通らないのであれば意味がない。

  そして『サーヴァントが死んだ後のマスターがどうなるのか』という枷。
  このまま行けばあいつは、死ぬ瞬間もきっと笑っている。
  『自分が居なくなったことで宮内れんげが絶望しながら死んでいく瞬間』を夢想し、高笑いしながら死んでいく。
  それがジョンスには気に喰わない。

  そのためにも知らなければならない。
  英霊という『化け物』の全てを。
  知り、醒ましてやらなければならない。
  あのいけすかないニヤケ面を。

『これから……昼頃には図書館へ向かう。そのつもりだ』

  あるはずだ。
  ないわけがない。

  だから探す。
  おそらくこの場で一番知識が揃っている『図書館』で。




  あくまで、『ついで』に。




   *   *   *

  アーカードが演技掛かった動作で肩を竦めてみせる。

『結局後手後手か。ああ、悲しいぞ、我が主よ。
 初めて交戦した時は胸が震えたが、幼女に調子を狂わされ、あのアサシンにいいように扱われている姿はまるで……』

『違うな』

  言葉を遮り、告げる。

『勘違いしてるようだから言っておく、今回はこっちが先手だ。
 と言っても……誰に対する先手かは、まだ分からないがな』

『この聖杯戦争において、図書館ってのはなンだ』

  アーチャーの瞳が妖しく光る。

『サーヴァントが英霊だって言うんなら、必ず伝承がある。そしてその伝承は、ここに集まる』

  笑いを噛み殺すように吐息が漏れ。
  せかすように言葉を重ねる。

『それがどうしたね』

『どうもねぇよ。ンなことは、よほどの馬鹿じゃなきゃ分かることだ。
 ……笑いたいなら、その先を聞いてから笑え』

  アーカードの顔は既に『愉悦』を浮かべていた。

  彼は決して阿呆ではない。むしろこと闘争に関しては類稀なる知恵を持ち、知略にも長けている。
  だからこそ至る。いや、至った。
  いや、もしかしたらとうの昔に至っていたのかもしれない。
  ジョンスの導きだした方針に。

『そんな状況でノコノコ図書館に来るヤツなんて、ただのアホか……
 他のサーヴァントと交戦して、宝具なりなんなりの真名看破する材料を持っていて、再戦する気まんまんな奴か』

  だから、向かう。
  既に闘争を経て。
  冷めやらぬ戦場の熱を持ち。
  さらなる闘争を卑しくも熱烈に望む。
  そんな奴らを待ち伏せて、ぶっ叩くために。

『俺の目指すのは……お前風に言うんであれば、やっぱり、ただの『闘争』だ』

  水を一口口に含み、ついでに付け加えるように言う。

『あのアサシンについて調べるのは、そのついで……まぁ、時間つぶしが必要になったらやるかな』

「素晴らしい」

  念話ではなく、口に出しての賛美。
  それほどまでに感慨深いということだろう。

「『あの毒』は回りきっていなかったか」

「当たり前だ」

「そしてどうやら……その拳も緩めていなかったようだな。先ほどの言葉は撤回しよう」

「いらねぇよ」


  撤回などする必要はない。

  ジョンス・リーの聖杯戦争は今、停滞しきっている。
  彼を現在取り巻いているのんびりしたペースに巻き込まれる形で、喉をかきむしりたくなるほどの『ぬるま湯』に塗れている。
  これ以上そのぬるま湯につかり続ければ、いつか必ずしっぺ返しが来る。
  未だ好戦的な参加者に出会っていないとはいえ、闘争は既に始まっているのだ。

  そのことを再確認するためにも、図書館に向かわなければならない。
  図書館でも好戦的な参加者に出会えなければ、別の場所だ。
  病院でも、学校でも、廃ビルでも、どこでもいい。

  宮内れんげ。
  彼女のもたらした『意外の毒』によって牙を抜かれないために。
  ジョンス・リーはこの街の誰よりも、おそらくは自身のサーヴァントよりも。
  今、純粋な闘争を渇望していた。


「決まりだな」

「まずは図書館に向かう。索敵と……あくまで『ついでに』情報収集だ。
 幸い、ここからならバスも出てる」

  橋の左側の都心区に存在するバス・ターミナル。そこから30分おきに出ている図書館行きバス。
  それに乗れば戦場に行ける。
  あとは―――

                      ヤ
「大きく出遅れ……今さらだが……闘争るぞ、アーチャー」

「ああ、始めようマスター。我らの闘争を」


  ―――ただ闘争へと向かうのみ。

   *   *   *


「ところで我が主よ、もう一ついいかな?」

「なんだ」

「れんげはどうする」

  そこについてはジョンスも決めあぐねていた。

  『意外の毒』と言ったが、だからといって黙って切り捨てられるほど、彼女は『軽い』存在ではない。
  それどころか彼女の存在の如何は、ジョンスの目標を踏まえて考えるとやや厄介だ。

  もし彼女を放っておいて彼女が誰かに殺されれば、ジョンスはカッツェを倒し損ねることになる。
  しかし彼女を連れていけば、この先に待つ『闘争』に巻き込み、これもまた死ぬ要因になりかねない。
  だからといって奥で寝ている素性も知れない駄肉に任せるわけにもいかない。

  彼女を連れていったとして、利用価値がないかと言えば、そういうわけでもない。
  令呪によって宝具発動が探知できるとすれば、彼女の……正確には彼女のサーヴァントのアサシンが(忌々しい事だが)憑いてくるのは好都合だ。
  アサシンが宝具を発動し、その直後に反応を見せる者を探す。それだけでも、マスター探しはやりやすくなるだろう。
  無論、宝具を発動するだけなら自身の英霊アーカードでもいいのだが、アーカードの宝具は発動条件がかなり特殊だ。
  説明を聞くに燃費も悪く、あのアサシンほどポンポン使えるものでもない。
  ただし、そうすればあのアサシンに『令呪による探知』と他の組の情報を渡し続けることになる。これもまた問題だ。

  きっと彼女については、どれだけ考えても正しい答えなんてのは出てこないだろう。
  だったら丁度いい。聞かれたこの瞬間に決めてしまおう。


「そうだな、あいつは……」




――――――


  午前9時52分。
  図書館が開くまであと8分。
  ジョンスたちの新たな闘争が始まるまで、あと―――



【B-10/街外れの一軒家・居間/一日目 午前】

【ジョンス・リー@エアマスター】
[状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う
1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す
2.基本行動方針と行動方針1.を叶えるため、図書館へ向かう
3.れんげは……

[備考]
※先のNPCの暴走は十中八九アサシン(カッツェ)が関係していると考えています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人でなにかやっている可能性が高いと考えています。
※宝具の発動と令呪の関係に気付きました。索敵に使えるのではないかと考えています。


【アーチャー(アーカード)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う
1.新たな闘争のために図書館へ向かう。
2.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある。
3.れんげは……?
[備考]
※野次馬(NPC)に違和感を感じています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人で何かしている可能性が高いと考えています。


[ジョンス組共通備考]
※今後の行動について話し合いました。
  二人の間での確定事項は『図書館へ向かう(索敵・情報収集)』『積極的な参加者と交戦』です。
※れんげも連れていくか、別れるかは後の作者様にお任せします。


[地域備考]
B-10都心部からC-8図書館前行きのバスが30分に1本の頻度で出ています。
経路は 始発B-10 → B-9 → C-9 → C-8 → 終点図書館
バスの場合の図書館までの移動所要時間はC-10から1時間弱となります。
図書館は午前10時に開館します。


――――――


  足の踏み場もない部屋のド真ん中の万年床の上で、彼女は目覚めた。
  胃が痛い、きりきりする。なぜか脇腹もじくじく痛む。
  体中にまとわりつくような嫌な汗と、汗のせいでへばりついた拭く、不快感の残る口の中が気持ち悪い。

  手近にあったフェイスタオルを手に取り、乱雑に口の中を拭く。
  少しだけ楽になったが、まだ不快感はぬぐえない。
  小さな巨体を揺らし、体を起こして。
  いまだもやがかかる頭をフル回転させて、その一言を吐きだす。


「ん……なんか、酷い夢、見てた気がする……」


  夢ともうつつともつかない空間での『ジナコ』との邂逅を終えて。
  結局ジナコが選んだのは、いつものように現実逃避だった。
  ジナコは、気絶していた前後、そして最中の事を全て夢だと思い込むことにした。

  きっといきなり外に出たりしたから海に放り出されてしまった淡水魚のごとく水が合わずに倒れてしまって。
  あのなんだかよく分からないけど不快な出来事は、その時見た白昼夢なんだ。
  嘔吐したのは、たまたま昨日食べたご飯が腐っていただけだ。
  久々に太陽に当たってしまったせいで熱中症になったというのも考えられる。
  胃が痛むのもそのせいだ。脇腹については……まぁ、太るとよくあることだ。
  それから、気絶していたけどなんやかんや色々あって自宅の寝室まで帰ってきて、いつものように眠った。

  細かい部分を省けば、いつも通りゴミ捨てに行って、帰ってきて、そのまま寝た。それだけだ。
  ジナコさんは、『自分』となんて出会ってはいない。
  自分と話してなんかいない。
  そもそもあんなことが起きるわけがない。

  言い聞かせるようにそう呟いて、押し潰されてしまった『エリートニートのジナコさん』を再び作り上げる。
  そうしないと、もう、きっと昔のように、逃げることすらできなくなってしまうから。


「はぁ、運がないなぁ……まさかゴミ捨てに行って……え?」


  なにやらいつもより体が重い気がして、視線を落としてみると。
  丁度胸のあたりに見慣れぬものが埋まっていた。

  それが何なのか、三次元から遠ざかって久しいジナコにしては珍しく、すぐに正解に辿り着いた。

  公園で見かけた幼女だ。
  『サーヴァント』と思わしき赤色の人と一緒に居た髪色の薄いツインテールの幼女が、ジナコに抱きついて眠っている。
  とっさに『殺される』という単語が頭をよぎったが、すぐに頭を振った。
  せっせと頭を使って現実逃避したせいもあってか、ジナコはかなり冷静に彼女について考察できた。

  外で気絶したであろう自分を運んでくれたのは誰だ。きっとこの少女、もっと言えばこの少女と一緒に居た『サーヴァント』っぽいあの赤い男性だ。
  眠っている自分を襲わないのは何故だ。敵意がないからだ。
  それどころか抱きついてのんきに寝ているのは、ジナコに対して少なからず好意を抱いている証拠、かもしれない。
  敵ではないなら、戦う必要なんてない。
  夢の中に置いてきたはずの『聖杯戦争に直面した自分』を思い出してまた少し気分が悪くなるが。

「やりましたー……」

「……はい?」

「うち、ついに空を制覇したーん……うちがエアマスターなんなー……」

  ジナコが聖杯戦争でいつか戦わなければならない敵であるとも知らずに、のんきな寝言を呟く彼女を見ると、そんな痛みも和らいだ。
  自分だけじゃない。少なくとも戦うつもりがないマスターだってこの通り、居る。
  それが分かっただけで、なんとなく救われた気がした。

「ったく、ボク、抱き枕じゃないっすよー」

  彼女のおかげでなんとか、潰れてしまうギリギリのところから『エリートニートのジナコさん』が帰ってきてくれた。

  お礼代わりに、ゆっくりと、眠っている幼女の頭を撫でる。
  あまりの髪の柔らかさとサラサラ感に時の流れの残酷さを再確認してしまったが、ジナコさんの髪のこととこの話は全く関係ない。
  そのまま少女が息苦しくない程度に抱き返し、もう一度目を閉じた。

  両腕の中におさまっている他人の体温が心地いい。
  不安な時に自分以外の誰かが居てくれることがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。
  おかげで少しだけ心に余裕ができて、できてしまった余裕の分だけ少し泣いてしまった。

「少し、こうさせて……えーと……あの赤い人のマスターの……マスター……マスターょぅι゙ょちゃん」

  名前が分からないからと言ってこの呼び名はいかがなものかとも思ったが、まあ仕方ない。
  そういう呼び方でも問題ないスかね、と問いかけると、なんとも生意気なことに自分の腹が返事をした。
  空腹を告げる大きな鳴き声で食べた物を道端で吐いてしまったことを思い出す。どおりでお腹がすいてるわけだ。
  空腹で思い出す。そういえば、ヤクザはケーキを買ってきてくれただろうか。

  そこまでしてようやく思い出す。自身のサーヴァントについて。
  ヤクザが向かったケーキ屋はいつ開くんだっただろうか。
  帰ってくるのはいつごろになるだろう。
  ケーキ、いくつ買ってきてくれるかな。

  そして、気がかりなのは一点。

(勝手に家にあげちゃったの、ヤクザが知ったら怒るかもなぁ)

  ヤクザが帰ってくるまでに、ょぅι゙ょちゃんについて説明する内容を考えなければならない。
  薄目を開けて枕もとの時計を確認する。


――――――


  午前9時52分。
  少し寝て、お昼になったらこの子を起こして昼食にしよう。
  たまには二人で食べる昼食も悪くないかもしれないと考えながら、ジナコは再びまどろみの中に意識を手放した。




【B-10/街外れの一軒家・寝室/一日目午前】

【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]魔力消費(中)、睡眠中(魔力回復中)
[令呪]残り3画
[装備]包帯(右手の甲の令呪隠し)、抱き枕(ジナコ)
[道具]ないん!
[所持金]十円!
[思考・状況]
基本行動方針:ふぇすてぃばるん!
1.うち、手が伸びるーん
2.うち、空も飛べるーん
3.手が伸びるのも空が飛べるのも夢でしたん……折角なのでもう少し寝ます!!

[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※ジナコに抱きついて寝てます。
※カッツェにキスで魔力を供給しましたが、本人は気付いていません。
※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。




【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】
[状態]脇腹に鈍痛、精神消耗(大)、トラウマ抉られて情緒不安定、ストレス性の体調不良(嘔吐、腹痛)、昼夜逆転、現実逃避、空腹、睡眠中
[令呪]残り3画
[装備]黒い銃身<ブラックバレル>-魔剣アヴェンジャー-聖葬砲典、抱かれ枕(れんげ)
[道具]PC現行ハイエンド機
[所持金]ニートの癖して金はある
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもる。欲しい物があったらゴルゴをパシらせる。
0.気分が悪い……
1.……寝る
2.マスターょぅι゙ょちゃん(れんげ)については……起きてから考えよう

[備考]
※装備欄のものは抱かれ枕以外ネトゲ内のものです。
※密林サイトで新作ゲームを注文しました。二日目の昼には着く予定ですが……
※カッツェにトラウマを深く抉られました。ですがトラウマを抉ったのがカッツェだとは知りませんし、忘れようと必死です。
※れんげをマスター、赤い人(アーカード)をれんげのサーヴァントだと考えています。これについては本人の推測でしかありません。
※ヤクザ(ゴルゴ13)にれんげのことをどう話すかについては起きてから考えます。
※れんげに抱きつかれる形で寝ています。やろうと思えば簡単にひきはがせます。




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