主よ、我らを憐れみ給うな ◆TAEv0TJMEI



空が白み、星と月が追いやられる。
闇こそまだ残っているが、しばらくしない内に夜は明けて朝になるだろう。

……潮時か。

そうアキトは判断する。
魔術師ならぬ身であり聖杯戦争の定説も知らぬアキトだが、彼としてもこの戦いは夜に行うべきだと踏んでいた。
アキトには五感がない。程度の差こそあるが、度重なる人体実験により彼の五感は奪われていた。
人並みにものを見ることも、音を聞くことも、匂いをかぐことも彼には不可能だ。
ネルガル重工による可能な限りの治療や、補助器具であるところのバイザーで幾らか補ってはいるが、本来なら戦うなどもってのほかの身体だ。
だがその無理を執念と修練で押しのけて必死の思いで火星の後継者に食らいついてきたのがアキトだ。
五感の効かぬ身でまがりなりにも火星の後継者の暗殺部隊とも戦い抜いて来た彼は、音もなく光もない世界での戦いには人一倍長けているとも言える。
夜の闇。視界の狭まる弊所。視覚嗅覚聴覚が弊害される雨中での戦い。
そういった常人からすればやり辛い状況においてはアキトに一日の長がある。
だからこそ自ら戦いを仕掛けるならば陽の光の下でよりも夜の闇の中でと決めていた。
バーサーカーにしても人の往来の少ない夜間の方が暴れさせやすい。
ともすれば手綱を引きちぎりかねない狂戦士では、NPCを巻き込まずに戦えなどと無理な話だ。
コロニーを襲撃し、多くの無関係な人間を巻き込んだ自分がいまさらに命なきNPCの心配などと笑い話でしかないが、ルーラー達からの制裁は避けたい。
いざという時はNPCを犠牲にしてでもことをなさねばならぬ以上、余裕のあるうちは巻き込まないにこしたことはない。

もっとも、余裕が有るかどうかも怪しくなってきたのだが。

先程の戦闘でアキトは自らの慢心と出し惜しみを痛感したばかりであった。
そもそも己は慢心できる身であったか。
今のアキトは万全には程遠い。
単に乗機である黒百合を冠した機動兵器を持ち込めなかったからだけではない。
火星の後継者を追えていたのは一大企業であるネルガル重工によるバックアップあってこそだ。
貴重なはずのチューリップクリスタルもネルガル重工の力があったからこそ出し惜しみなく使用できた。
敵のやり口を知り、木連式の技を知っていた月臣源一郎による教えも大きい。
何より今のアキトは彼の五感のサポートをしてくれていた少女――ラピス・ラズリを欠いている。
火星の後継者を追っていた時よりもありとあらゆる点で戦力は低下しているのだ。

全てはアキトが置いてきたから。
彼に力を貸してくれる人々を、共に戦ってくれる人々を置いてきたから。

……分かっている。分かっているさ。

今に始まったことではない。
火星の後継者から救い出されたあの日、アキトには仲間のもとへ、何よりも置いてきてしまった一人の少女のもとへと帰る選択肢もあった。
だけどアキトはその道を選ばなかった。
彼女たちを危険に晒してしまうとか、ラーメンを作ってあげられないだとか、理由は幾つもあったけど。
何よりもアキトは復讐を選んだから。帰ってもそこにはいないたった一人を取り戻すことを選んだから。
あの日あの時あの場所で。奪われたのではなく自らの意志でテンカワ・アキトは少女に背を向けた。

だから、今更だ。
また置いてきたというだけだ。
エリナは心配しているかもしれない。アイちゃん泣いているかもしれない。アカツキもあれでいて探してくれているかもしれない。
ラピスは……きっと、一人にされてしまったことに怯え、それでも自分を待っていてくれている。

容易に想像できてしまう彼女たちの姿にすまないとは思う。
しかしそれでも。それでも尚。
アキトは他の全てより、たった一人を選んだ。選んだのだ。

彼女たちのいないことによる不都合は自らへの罰として受け入れよう。
自身の弱さも憎みこそすれ、目を逸らしはしない。
それこそいつものことだ。
今までどおりだ。
ようやく食らいつくだけの力を得たからこそ思い上がってしまっていたが、テンカワ・アキトはずっと泥に塗れ敗北を重ねてそれでもと必死に追いすがってきたのだ。
聖杯戦争でも同じだ。
手に入れるまで、取り戻すまで。
何度負けようとも、何度地に這いつくばろうとも、追い続ける。
その執念こそが今のアキトの最大の武器だ。

とはいえ力不足なのも事実。
さしあたって必要なのは銃弾に限らず武器そのものの調達だが、こちらは一定の目処が立った。
この街には藤村組を始めとしたヤクザの事務所が何件かあり、夜が明けるまでの残された時間を使ってちょうど下見をしてきたところだ。
あの程度の警備なら潜入・破壊工作に慣れたアキトなら容易に盗みに入れるだろう。
注目されるような警察沙汰は避けたいところだが、そうも言ってはいられない。
戦いが激化すれば激化するほど、目の前の敵と戦う以外の余裕はなくなっていく。
事務所への潜入を実行するのなら早いほうがいい。

そしてもう一つ重要なことがある。
チューリップクリスタル――CCだ。
こちらに至っては入手方法どころか、この街に存在しているのかも疑わしい。
聖杯戦争の舞台であるこの街は、どうやら20世紀末から21世紀後半の日本を再現しているようだ。
アキトがかつてはまっていたアニメ、ゲキ・ガンガー3の作中世界に通ずるものがある以上ほぼ確実だ。
対してチューリップクリスタルが開発されたのは23世紀であり、地球どころか月でもない、古代火星文明由来の産物だ。
方舟による再現がどれだけ忠実かは分からないが、時代背景に忠実であれば忠実であるほど、CCは存在しえなくなる。
或いはアキトのサーヴァントがキャスターだったなら、錬金術でも用いてCCも複製できたかもしれないが、たらればの話をしても意味は無い。
CCに関してはあまり期待しないほうがいいだろう。

そうなると一層手元にあるCCの運用を考えなければなだないのだが、出し惜しみが愚の骨頂なのは身に沁みたばかりだ。
ただ、出し惜しみはしまいと決めたからこそ、思い悩まされる疑問もある。

果たして方舟内で、敵マスターをボソンジャンプに巻き込めばどうなるのだろうか?

本来ならボソンジャンプは、火星生まれの人間か、遺伝子的な調整を受けた人間――ジャンパーでなければ耐えられない。
英霊であるサーヴァントならともかく、生身である敵マスターさえ巻き込んでしまえば条件次第では問答無用で殺せるということになる。
もしそうならば、運用の幅も大きく変わってくるのだが……。
ただ、問題なのはこの世界はいわばオモイカネの記憶世界と同様の電脳世界だということだ。
厳密には今ここにいるアキトも、敵のマスターも生身ではないということになる。
ボソンジャンプに非ジャンパー以外を巻き込んだところで殺せないのではないか。
そもそも非ジャンパーがボソンジャンプに耐えられないのは演算ユニットにイメージを上手く伝達できないからだ。
こうして肉体の枷を逃れ、電脳世界に意志だけが存在しているらしい現状では、もしかしたら遺跡にイメージを届けられるのではないか。
ムーンセルは光そのものを記録媒体や回路として使っていると説明されたが、光とは即ちボソンである以上、ありえない話ではない。
もしそうなら最悪だ。
殺せないどころか下手に巻き込んでしまえば、相手共々ジャンプしてしまうことになり、結局は逃げられなくなる。

ボソンジャンプを出し惜しみしないと決めた以上、事実確認は不可欠なのだが……。

確認するということは実際にボソンジャンプを行うということであり、二つしかないCCの内一つを消費するということに他ならない。
しかも最悪の想像通りなら、巻き込んだところで敵マスターとサーヴァントを引き離すくらいのメリットしか得られない。
そのメリットさえも、令呪でサーヴァントを召喚されれば無意味だ。
キレイと呼ばれたあのマスターのようにアキトを凌駕する力の持ち主相手ならサーヴァントを呼ばれるまでもなくアキトが返り討ちにあってしまう。

おいそれと試すわけには行かず、しかし、使ってみなければ疑問に答えは出ない。

……っ。

苛立ちに反応して浮かび上がるナノマシンを黒衣で隠し帰路を急ぐ。
火星の後継者により身体を弄り回された証であるナノマシンは、アキトに人の営みに混ざることを許さない。
そのまま割り当てられた家へと辿り着いたアキトを、

「あら。思ったよりもお早いおかえりね。もっともその容姿だと怪しすぎて日中は出歩けないでしょうけれど」

予想外の人物が出迎えた。




家に誰かが潜んでいる事自体は想定内だった。
いかな手段を使ってか、アキトは一方的にキレイなるマスターに発見されていた。
キレイに、或いは他の何者かにアキトがマスターであることやその住居さえも特定されていないとは限らない。
それならそれでこちらから探す手間が省けて好都合だと、罠を警戒はしながらも敢えて仮初の家へと戻ってきたのだが、この相手は想定外だった。

「……お前にだけは言われたくないな」

手にしていた銃を下ろし、バーサーカーを霊体化させて、言い返す。
なるほど、確かにアキトの容姿は怪しいの一言に尽きるだろう。
五感の補助や防刃防弾をも考えた装備とはいえ、顔を覆うほどの黒いバイザーに黒マントと全身黒ずくめの彼は不審なことこの上ない。
しかしながら相手の女もまた、人のことを言えた格好ではなかった。
アキトと同じく黒を基調とした服装だが、全身を隠すかのように覆っているアキトに対し、目の前の女は露出過多だ。
肌を直接晒しているわけではないが、下半身を覆うものが明らかに足りていない。
在りし日のアキトならきっとひどく動揺したことだろう。
だが、ここにいるアキトには、皮肉に対し皮肉を返した以外の意味はなかった。

「私の方も貴方同様この服装には意味があるのですが」
「そんなことはどうでもいい。わざわざ監督役であるお前のほうからこっちへと出向いたんだ、要件を言え、カレン・オルテンシア」

そう言って予期せぬ来訪者――カレン・オルテンシアをアキトは睨みつける。
監督役がわざわざ出向いてくるなど、あまりいい予感はしない。
現状、アキトは一度交戦した以外は大きなアクションを起こしてはいない。
方舟に睨まれるようなことをした覚えはないはずだが。

「せっかちね。まあいいわ。私の方も教会を長く空けておくわけにはいかない以上、手早く終わらせるとしましょう。
 先に一応言っておきますが。月の都合で遣わされた以上、ここに私が居ることもこれからする話も他人に察せられることはありません」
「……そこまでした上での話ということか」
「ええ。聖杯にとっては、そして貴方にとっても重要な話ね、テンカワ・アキト。
 もう気づいているかもしれませんが、ボソンジャンプの話です」

或いはそうかもしれないとは思っていた。
ボソンジャンプのことを考えていたあのタイミングでの来訪だ。
それにアキトに近づいてくるろくでもない人間たちの理由はいつも決まって、この身がA級ジャンパーだからだった。

「嫌な過去でも思い出したのかしら、怖い顔ね」
「何度も言わせるな。余計なことはどうでもいい。それで、どうなんだ。ボソンジャンプで他のマスターを巻き込めばどうなる?」
「そうね。結論から言えば、たとえ相手が非ジャンパーでも死ぬことはないわ。
 正しくは巻き込まれることがない。どれだけ接触してボソンジャンプしようとも、跳ぶのは貴方だけ。
 例外として貴方のサーヴァントだけは霊体化している場合に限り、同行させることが可能ですが」
「そうか……」

予想していたこととはいえ、有用足り得た攻撃手段が一つ潰えたことに歯噛みする。
相手について来られないだけまだましだと冷静になろうとするが、そう簡単には行かなかったらしい。

「文字通り顔に出るのね、貴方。言っておきますが時を遡る力、過去に干渉する力を制限されているのは貴方だけじゃないわ」
「……時を遡るだと?」

そうだ、ボソンジャンプは瞬間移動のように使われてはいるが正しくは時空間移動だ。
他ならぬアキト自身かつて地球から2週間前の月へと飛ばされたことがあった。
狙ってやったわけではない。
当時はまだ跳躍慣れしていなかったが故のランダムジャンプと呼ばれる事故が起こした偶然の結果だ。
ただこのランダムジャンプもまたイメージ伝達の不備が原因で起きる以上、他人を巻き込めばその可能性が上がるのは事実だ。
聖杯はどうやらその起きるか起きないか分からない事故を警戒しているようだ。

「なるほどな。聖杯からすれば過去を変えうる、いや、聖杯戦争を遅滞させ得る能力は全て規制対象というわけか」

カレンの言い方からすれば、ランダムジャンプのような事故とは違い、この戦いでは本来なら自分の意志で過去へと赴ける者もいるのだろう。
もしもそのような者たちが負けそうになる度に時を逆行し続けたなら延々聖杯戦争は終わらないことになる。

「そういうことです。聖杯が今回望んでいるのは“繰り返される四日間”ではありません。
 私が監督役を任されたのも、万一そのような事態になった時に対処できる実績を買われたのでしょうね」

何かわけの分からぬことに一人で納得しているカレンをよそに、アキトは物思いに耽る。
ボソンジャンプで敵マスターを殺せないのは痛手だが、時間遡行のできる敵に過去改変をされるリスクに比べたらまだマシだ。
あくまでも封じられているのが逆行することだけである以上、時を操る敵と戦わねばならない可能性もあるが、覚悟しておけば幾らかは対処できる。
思わぬ形で手に入れた情報だが、課された制限に見合った分の対価は得たと思い込めない範囲ではない……。
手に入れた情報から推測を巡らし、対策を考えていくアキト。
その無言で考えこむ様を、誤解して受け取ったのだろう、カレンが言葉を付け足す。

「安心してください、テンカワ・アキト。
 あくまでも時間遡行や歴史改変が制限されているのはこの聖杯戦争の最中だけです。
 あなたが最後の一人となり、月の聖杯に時を遡ることを願うのなら、月はその願いを叶えるでしょう」

祈るかのように手を組み、断言するカレン。
ああ、なるほど、確かに時間逆行や歴史改変なら、アキトの願いも叶えられるだろう。
奪われたことを全て“なかったことにする”。
火星の後継者をいなかったことにする。
それは彼のなせる最大の復讐であり、ユリカを助けるこれ以上ない手段の一つだろう。

だけど――

――遺跡を壊せば全てチャラ。でも大切なものも壊してしまうじゃないですか。

「まあもっとも例えそうしたところで、貴方はきっと彼女たちの元を立ち去るのでしょうね」

瑠璃色の少女の言葉を思い出してしまったのは、彼に哀れみを向けるこの少女の瞳もまた、金色だからか。
感情に乏しい声。
肌の色や髪の色、その出で立ちから、出逢ったばかりのあの子を連想させるからか。
捨て去ったはずだ。分かってきて置いてきたはずだ。あの子への裏切りはとっくに済ませた。

「お前が知ったような口を叩くな……!」
「知ってるわ。娘を置いていく父親のことなら」
「……!」

それでも眼を逸らしてしまったのは覚悟が足りないからか。痛いところを突かれたからか。
思うところがあるのかパス越しに殺気立つガッツを抑えつけながら自嘲する。
少女の言うとおりだった。
ユリカを取り戻すなどと言っておきながら、当のアキトはユリカの元に戻るつもりはなかった。
いつかあの少女にも別れを告げ、彼女たちの元を去るつもりだった。
そのアキトの勝手を、弱さを、心の傷をカレンは容赦なく切り開いていく。

「まあ。その顔は図星ね。ふふ、いいのよ別に目を逸らさなくても。私も貴方と“同じ”ですから」

だからこそ一層たちが悪い。
同じなどと言われるまでもなく、その何も映さぬ瞳を見た時から気付いていた。
この女もまた、目が見えていない。
濁った瞳。輝きを失った金色の目。否が応にも彼が守りたい少女の最悪の未来を連想させるその瞳。
同じだと言うくらいだ、視覚だけでなく聴覚も触覚も嗅覚も――味覚も壊れているのかもしれない。

「笑えない話だ。俺にこんな役を当てつけたのも、バーサーカーを、ガッツをあてがったのもお前の仕業か」
「まさか。貴方の思い出を参照し役割を与えたのも、貴方に相応しい相棒を宛てがったのも全ては聖杯の采配ですわ」

思い返すのは聖杯に充てがわれたNPCとしての自身の設定。
交通事故に会い、リハビリ中のコック、だそうだ。
この家も天河食堂という小さな食堂であり、今でこそ休業中で貧困に喘いでいるがかつてはそこそこ繁盛していたらしい。
どこまでも人をコケにした話だ。
屋台を引いていた身だ。食堂を持つことを夢見たこともあった。
その夢を叶わなくなった身に叶えさせるなどこれが願いを叶えてくれる聖杯でなければ憎しみのままに破壊していたところだ。
従業員のNPCとして妻も娘になってくれたあの子も再現されていなかったのは不幸中の幸いだ。
愚かしくも記憶を失っていた自分は、軽い気持ちで調理場に立ってしまった。
どこかおかしいと思いながらも、身体を動かせるまでに回復したことに喜びながら、久しぶりに料理をしてみようと食材を手にとった。
そして――。

テンカワ・アキトは思い出した。思い知らされた。自分が何者であるのかを。

最悪だ。最高に最悪だった。呼び出したサーヴァントまで味覚を失っていると知った時は暗い笑みが零れたほどだ。
そんなアキトを少女は笑う。あの子と同じ色の瞳で、あの子が浮かべるはずもない嗜虐的な笑みを浮かべる。

「何がおかしい。お前も奪われたんだろ。なのに何故お前は、マスターではなく監督役なんてやっている!」
「……呆れた。貴方まるで私を人間のように扱うのね。この世界のNPCを見たでしょう? 
 監督役である以上私もまた過去の人間を再現したNPCだとは思わないの?」
「あの忘れ得ぬ日々、そのために今を生きている。……たとえお前がNPCだとしても、それだけ無駄口を叩けるんだ。
 何も思わない方が俺から――俺達からすればどうかしている」
「誰のものか知らないですが悪くはない言葉ね。なら私もカレン・オルテンシアとして相手してあげます」

狂戦士からもまた目の前の女が気に入らないという激情が伝わってくる。
何がどうしてこうも腹立たしいのか、彼女のことが気に喰わないのか。
その答えはすぐに分かった。

「言い方が悪かったせいで誤解させてしまったみたいですね。同じ、と言っても私のこれは半分は生まれつきです。
 いいえ、やっぱり同じなのかしら。私も類稀なる力を持って生まれました。この傷はその代償です」
「……それでモルモット代わりにされたってわけか。何時の世もどんな世界も人間は変わらないな」

反吐が出る。
そう吐き捨てる男に、しかし少女は同意するわけでもなく、訂正する。

「教会から修道院にたらい回しにされ、そこで天職を得た。それだけのことです」

何が嬉しいのか、その言葉を口にした時、ほんの少しだけ少女の頬が緩んだことをアキトは見逃さなかった。
だからこそ余計に理解できない。
天職? モルモットにされることが? 狂っている。

「何に憤っているのかは理解できますが勘違いもいいところです、テンカワ・アキト。
 貴方とは違い私には拒否権がありました。それでも私はこちらの方が意味があるとこの道を選んだのです」
「意味だと? 意味があれば傷ついてもいいというのか。正義なら、大義ある犠牲ならそれもやむなしとそう言うのか……っ!」
「それを他人に強制するつもりはありませんが。私自身はこのように生まれた自らの定めに従うまでです」

何を言っているのだろうか、この少女は。
新たなる秩序だとかそんなくだらないもののためにその身を喜んで捧げるとそう言うのか。
理解できない。認められない。アキトにはこの全てを受け入れる少女を受け入れることができなかった。

「……お前は、お前は憎くないのか。お前にそんな力を与えた神が。お前を道具扱いする奴らが」
「神とは憎むものではありません、祈るものです。他人を憎んだこともありません。
 自分は不幸だと嘆けるだけで充分ですから」
「充分な、ものか!」

アキトには、アキトとガッツには限界だった。
アキトが銃を抜き、実体化したガッツもまたドラゴン殺しを突きつける。
自ら望んで秩序の、神の、魔の生贄になろうとする少女の在り方を到底許すことができなかった。
許してしまえば彼らの怒りは、嘆きは、憎しみは、どうなる。
己が不幸だと嘆けるだけで充分だと? 巫山戯るな! 充分なものか。これが、こんなものが充分であってたまるか!

「同じと言ったな、カレン・オルテンシア。一緒にするな。俺たちはお前とは違う!」
「監督役である私と敵対するつもり? 愚かしい判断ですね」

激怒するこちらに対しカレンの反応は涼やかなものだった。
つまらなそうに令呪を掲げ、どこからか取り出した赤い布を旋回させる。

「そう思うなら出て行ってくれ。俺もこいつも今にもお前を潰したくて仕方がない」
「まあいいでしょう。伝えることは伝えましたし、いささか趣味に走ってしまったのは私に非があるということにしておきましょう。
 それに貴方はともかく、そちらのサーヴァントを前にしては、私も我慢できそうにありませんし」

臨戦状態を解き、少女が立ち去る。

「さようなら、テンカワ・アキト。憎いから憎み、愛しいから愛する普通の人。もしかしたらまた会う機会もあるかもしれませんが」

最後に言い残して少女は陽の光の中へと消えていく。

「二度と御免だ」

それがアキトの本音だった。
もしまた会うことがあるとすれば、聖杯を手に入れるその時だけでうんざりだ。
実体化を解くことなく、無言でカレンがいた場所を睨み続けるガッツも同じことを思っているに違いない。

「ガッツ。俺たちはカレン・オルテンシア認めない。このくそったれな運命を受け入れない。
 どれだけ正しい願いを持つものが立ち塞がろうと、どれだけ自愛に満ちた願いを持つものが止めようとも、俺たちは抗うぞ」
「■■■■■■■■――――!!!!」

カレンは、アキトのことを普通の人間だと断じた。
聖女様からすればそうなのだろう。だが違うとアキトは否定する。
ここにいるのは人間ではない。
人を憎み、魔を憎み、神をも憎む鬼だ。復讐の――鬼だ。



【B-9/住宅街(天河食堂)/1日目 早朝】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、疲労(小)、魔力消費(小)、強い憎しみ、苛立ち
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備える。
2.下見したヤクザの事務所などから銃弾や武器を入手しておきたい。
3.五感の以上及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。

[備考]
セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。


【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康、強い怒り
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
特になし。

【B-9/住宅街/1日目 早朝】
【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:聖骸布
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1.???
[備考]
聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
他に理由があるのかは不明。




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047:形なき悪意 時系列順 053:落とし穴の底はこんな世界


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OP.2:月を望む聖杯戦争 カレン・オルテンシア 074:ルーラーのB-4調査報告:衝撃の――――

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最終更新:2014年08月23日 20:04