戦争考察 NPC編 ◆F3/75Tw8mw



「……フゥ」


ひと仕事を終えた後の一服は格別である。
よく喫煙者の間で口にされる一言であり、それはこの魔術師殺しにとっても例外ではなかった。
切嗣は口から煙を燻らせ、予想していたよりも早くに事が片付いた事に少々の安堵を覚えていた。


「まさか……こんなにも早く、上手くいくとは思ってもみなかったな」


それは隣に立つアーチャーも同じことであり、同時に彼は切嗣の手腕に素直に感心を覚えていた。
二人が立っているのは、先の狙撃を行ったビルから少しばかり離れた位置にある民家の庭。
新たに切嗣が選んだ、自分達の拠点である。

そう……アーチャーが仕掛けてからまだ然程時間が経過していないにも関わらず、彼等は既に己が住む家を入手していたのだ。
通常、賃貸にせよ購入にせよ、住居を一つ丸まま手に入れるとなると、数日単位はどうしても必要になる。
地主・家主との契約又は売買、役所への住所登録、その他諸々の必要事項をクリアするには、とてもじゃないが一日では不可能だ。

しかし彼等が要した時間は、驚くべきことにホンの数時間でしかないのだ。
では一体、どの様な真似をすればこんなことができるというのか。
その種は極めて簡単であり……そして、生粋の魔術師では考えつかない方法にあった。


「家主に暗示をかけ、親戚として居候か……工房を構える事を第一とする魔術師には無い発想だ」


それは奇しくも、本来辿るべきだった歴史においてウェイバー・ベルベットが用いた手段であり、そして切嗣自身も高く評価した戦法―――暗示の魔術である。
彼は、この住居に住むNPCに魔術で暗示をかけたのだ。
『自分達は親戚の人間であり、休暇を過ごすためにしばらくの間居候をさせてもらっている』……と。

切嗣自身の魔術の腕は並大抵な部類にはなるだろうが、元々魔術師としては三流どころのウェイバーですら上手くいってたのだ。
補足するならば、切嗣にはホテルマンに自身をケイネス・エルメロイ・アーチボルドと誤認させる程度の暗示を行使出来た実績がある。
この程度の暗示を成功させるぐらいなら、どうという事はない。
そしてこの策が上手くいった事で、切嗣とアーチャーは幾つかの大きなアドバンテージが得られていた。

まず一つ目が、資金面での問題だ。
元々切嗣は、聖杯戦争に必要な準備金を殆どアインツベルンから用意されていただけに、それを持ち込めなかった事が少々痛かった。
弾薬や爆薬といった武器にしても、自動車や二輪といった移動手段にしても、何を用意するにもまずは資金がいるのだから。
しかし、NPCに暗示をかけられた今、その問題はほぼ解決できたと見ていいだろう。
幸いにもこの家の主はそれなりに裕福と言える暮らしを行っている。
あまりにも無茶な浪費をすれば話は別だろうが、多少の金額を搾取する事に問題はないはずだ。

二つ目は、アーチャーが口にしたとおり、この策が魔術師には無い発想の策という点だ。
一般的に魔術師というのは、常日頃より魔術の研究を重ねている。
その為の研究所が工房であり、そこには極めて厳重な封印・防衛機能が備わっているのが当たり前だ。
何せ工房内には、持ち主にとっては非常に貴重な資料や成果が保管されている。
それを持ち出されないように要塞化するのは至極当然であり、疑う余地など何処にもない。
一流の魔術師の工房に攻め込むのは死地に踏み込むに等しいという認識を、魔術師ならば誰もが持っているのだ。
だからこそ……切嗣のこの戦略を、普通の魔術師では思いつくことができない。
まさか何の変哲もなさそうな一般民家に潜むなどとは、考えつかないのだ。
故に身を隠すという点では、厳重な工房よりもかえって優れているのである。


「だが、この聖杯戦争には魔術師ではないマスターも参加している可能性がある。
 それも恐らく、一人や二人ではないだろう」


しかし、切嗣にも懸念材料が無くはなかった。
それは、この聖杯戦争がイレギュラーな代物であるという点……魔術師ではない人間が参加している可能性があるという点だった。
切嗣がその可能性に至った理由は、先の狙撃にある。
アーチャーは狙撃を実行する際、敵の情報についてこう報告していた。


『実体化したサーヴァントを連れたマスターがいる』


『サーヴァントには尻尾や角が生えていた』


魔術師というのは、魔術の秘匿を第一に考える。
しかし、このマスターとサーヴァントはどうだ?
あまりにも堂々と、人にあらざる姿を衆目で晒しているではないか。
まともな魔術師ならば、絶対にありえない行動だ。
ならば……考えられる結論は、一つしかありえない。
このマスターは恐らく、全うな魔術師ではないという事だ。


「その様な相手ならば、この家の存在にも簡単にたどり着く可能性がある……か」


そして一人でもその様な存在が発見できたとなると、他にいないだろうという楽観は決してできない。
それこそ切嗣の様な、魔術師の裏をかく事に長けた参加者が現れるかもしれないのだ。
そうなれば、この拠点を突き止められるという展開は十分ありえるだろうが……


「しかし、その為の保険として……NPCがいるのだろう?」

既に、その時の為の対策は出来ている。
それこそが、この家に住むNPCだ。
この聖杯戦争ではNPCに危害を加える事は強く禁じられており、反すればルーラーからのペナルティが与えられる。
ならば……そんなNPCを盾にすれば、敵は容易に攻撃する事ができなくなる。
もし仮に何者かがこの家を攻めて来た際には、切嗣はNPCを弾除けにするつもりなのだ。
ルールを逆手にとった、この聖杯戦争ならではの妙案。
人道的に見れば、外道としか言い様がない策だ。
それを躊躇わずに実行しようと思える点が、魔術師殺し衛宮切嗣の強さなのかもしれないが……


「……その事だが、アーチャー。
気づいたか?」

「……ああ、無論だとも。
正直に言うと、すぐにでも現れるものだと思い警戒していたのだが……拍子抜けだ」


そして……これらの策を組み立てている間に、二人にはふと気づいた事があった。
繰り返し言うが、彼等はNPCに暗示をかけて操る事でこの拠点を入手している。
またこの聖杯戦争では、NPCに危害を及ぼせばルーラーが現れペナルティを与えられる。


つまり……今の時点でそれが無いという事は。


「NPCに暗示をかけて操る……この行動は、ルーラーには違反と見なされていない」


NPCを操るのは、ルール上まったく問題が無いという事だ。
どうやら暗示の類は、危害を加えるという点から外れたものとして扱われているらしい。
もしくは……この手の戦法は、NPCへの攻撃的干渉の例外として黙認されているかだ。


「だとすると厄介なのは、大多数の人間に暗示をかけても問題が無い程に豊富な魔力を持つマスターと……キャスターのサーヴァントか」

「ああ、既にこの街のNPCの幾らかかは他の参加者の傀儡になっていると考えた方がいい」


ここで問題になってくるのが、暗示及び催眠等ではペナルティにならないと把握した参加者が他にどれだけいるかだ。
この聖杯戦争において他の参加者の情報は、何が何でも欲しい武器になる。
その収集の為に最も効果的と思われる手段こそが、NPCの操作なのだ。
なら、この街に住むNPCのうち何人かは恐らく……いや、確実に他の参加者に操られていると見たほうがいい。
そして今現在も、情報収集のために動き回されているに違いないだろう。


「ならば、こちらの情報を探られるのは勿論だが……
 それ以上に面倒なのは、NPCを盾にする輩が出てきた時だな。
 下手に手をかければ、我々がルーラーに罰される事になりかねん」


更にこの場合、厄介な事柄がもうひとつある。
切嗣同様にNPCを盾にする参加者が確実に出てくるという点だ。
いや、盾扱いならむしろ優しいぐらいだろう。
NPCに攻撃を行わせる事ぐらいは平然とやる外道がいてもおかしくはないのだから。
はっきり言って、この戦術は非常にまずい。
反撃をする際には、ペナルティ覚悟というリスクを背負わされる……対処が極めて難しいのだ。


「……いや、そうとも限らない」


しかし、切嗣の見解はそうではなかった。


「もしその戦法が成り立ち、こちらがNPCを殺害せざるを得ない場面になったとしよう。
勿論、喜々として戦う素振りを見せれば論外だろうが……
 やむを得ない正当防衛という事で、ペナルティが発生しない展開も十分考えられる。
 寧ろ、ペナルティが働くならば……それはNPCを操った側になる」


もし仮に、武装したNPCの大群に襲われたとしよう。
自らの命に危機が迫る状況でNPCを殺害したとして、ペナルティが本当に加算されるのだろうか。
それでルーラーが出っ張るというなら、あまりにも理不尽だ。
寧ろ罰せられるのは、逆の相手……NPCを操った側だ。
故意にNPCの命を危機に晒すのだから、そこで罰則が課せられても何ら不思議はない。


「なるほど……つまりNPCを操り動く者は、あくまで情報収集をメインにしている。
 戦闘にまでNPCを使う事もなくはないだろうが、あまりに目立った真似までは出来ないということか」

「そこまで頭が回っていればだがな……
NPCに情報を集めさせるなら、向かわせる先は必然的に人が密集した施設になる。
そしてこの街で最もそれに適しているのは……あそこしかないだろう」


NPCを効果的に使役するなら、人が集まる場所へ向かわせるのが一番になる。
そして、この街でそれに最も向いている場所とくれば……ご存知月見原学園だ。
教職員から全校生徒まで全てをカウントすれば、その数は数百単位になる。
しかも小さい子供から大人まで、性別も男女問わずときた。
流石にその全員というのはありえないだろうが、この内の一割だけでも掌握出来てしまえば、入手できる情報はかなりのものになるだろう。


「僕の身分では、学園に入るのは残念ながら難しい。
ならここは、こちらも適当なNPCを見繕って送りこむのが正解だろうな」


この聖杯戦争で衛宮切嗣に当てられた役割は、フリーランスの傭兵というものであった。
現在はNPCに暗示をかけたとおり、休暇の真っ只中でこの街に来ている事になっている。
傭兵などという身分の人間が学園に堂々と入るのは、はっきり言って無理だ。
ならばここは、またもNPCを利用するしかないが、切嗣の腕を考えればそう何人も操ることはできないだろう。
二人、或いは三人程度を送り込めれば、それで十分だ。


「アーチャー、少ししたら街へ出るぞ。
 暗示をかけるNPCを選出したい……それと、この家の防御を固める必要もある。
必要な資材を調達しなければならない」


今後の方針がこれで決まった。
他の参加者の情報を集めるため、使えるNPCを街で発見する。
更には、拠点の防御を固めるべく、必要となる資材を調達する。
今成すべきことは、この二点だ。


「了解した、マスター。
だが……少ししたらという事は、今は多少時間があるという事だな?」

「……ああ、そうだが……それがどうした?」


不意に時間があるかと尋ねてきたアーチャーに、切嗣は怪訝な表情をした。
その顔からは、やはり彼に対する不信感が拭いきれない事を容易に察することができる。

しかし、一方のアーチャーはというと……
それとは対照的に、またしても先ほど同様に穏やかな微笑を浮かべていた。
そして、己がマスターに対し……彼が予想してなかったであろう一言を発したのだ。


「何、先程も言っただろう?
食事はとれる時にとるべきだと……幸い、ここはNPCが住んでいる家だ。
食材はそれなりにありそうだ……ひとつ、私が作るとしよう。
これでも生前、料理は得意だったのでな」


【C-7(北西)/民家/1日目 早朝】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]健康
[令呪]残り三角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具]
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
1.街に繰り出し、使えそうなNPCの確保及び必要な資材の調達を行う。
2.出来れば移動手段(自動車など)を確保したい。
3.アーチャーに不信感
[備考]
  • アーチャーから岸波白野とランサー(エリザ)の外見的特徴を聞きました。
  • C-7にある民家を拠点にしました。
家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。
  • この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。
  • NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。
  • この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。


【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
1.とりあえず、切嗣の為に食事を作る。
2.周囲を警戒しつつ、情報収集を。
[備考]
  • 岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
  • エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しましたが確証はありません。
  • C-7にある民家を拠点にしました。
家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。



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