鋏とおさげ ◆MQZCGutBfo


紫色のポニーテールをなびかせて、軽快に朝の街を駆ける。
いつものバス停が見え。振り返るとバスもこっちに向かってきている。
バス停には、よりにもよって待ち人はいない。

「っとヤバい!」

更にダッシュをかける。
加速して通り過ぎるような運転手ではなく、バスは緩やかに停留所へと停車してくれた。

「乙哉ちゃん、セーフ!」

ノンステップバスの前のドアからトントンと軽やかに乗り、
運転手にペコリとお辞儀して、定期券を見せて、車内の席を見回す。

「らっきー♪」

運よく一人掛けの席が空いており。
特にお年寄りなどがいないことを確認して、ささっと座った。


武智乙哉のマンションから、近いバス停は二つある。
一つは新都駅から橋を経由して南回りに月海原学園へ向かうバスの停留所。
もう一つは今乗っている、橋を経由して北回りに向かうバスの停留所だ。

乙哉はいつもこの北回りのバスを使っていた。
北回りはやや遠回りの道で、南回りの方が学園への到着時間は早いのだが。
その分、南回りのバスは駅から乗る学生が多く、いつも混んでいたのだ。


座席をゲットした幸運を噛みしめ、深く腰掛ける。
まわりの乗客を観察してみるが、特に違和感を感じるような、目立った客はいないようだ。

(まーいくら参加者でも、いきなり変な行動は流石に取らないよねー)

などと考えていると、バスは緩やかにスピードを落とし、次の停留所で停車した。


そのバス停から、はぁはぁと息を乱して、制服を着た少女が乗りこんできた。
乙哉と同じく走ってきたのか、その少女はよろよろと乙哉の席の横まで歩いてくると、
そのまま手すりに掴まった。

バスが発車すると、その子はよろけながら手すりに掴まり直す。

「ふぅ……ふぅ……」

乙哉はその少女をちらちらと観察した。


―――長く黒い髪を結ってふたつのおさげにしている。
赤い眼鏡に黒のカチューシャ。
あまり大きくない胸を片手で押さえて、ふぅふぅと息に合わせて手も上下に動いている。
気弱で病弱な文学少女、って設定だろうか。

しばらく観察していると、その少女なんだかさっきより更にフラフラしている。
もしかして―――貧血?


乙哉はスッと立ち上がると、席を勧める。

「大丈夫ー? 座っていいよ」
「えっ!? あっ!? ええ!?」
「はいはい、座った座った」

少女は促されるままに、ストン、と席に座らされた。

「あ……あの……。ありがとう、ございます……」
「どーいたしましてー♪」

消え入りそうな声でお礼を言う少女。
笑顔で応える乙哉。

落ち着かせるためか、しばらく少女は目を閉じて、胸を押さえて深呼吸をしている。
制服の前に垂れたおさげが、その呼吸に合わせて上下に動く。


(ヤッバ。可愛い……!!)


―――おさげ。

ああ麗しのおさげ。
こう、チョキン、と切ったらばさりと落ちるあの重量感。
可愛い。
おさげって最高にチョン切りたくなる。

ルームメイトのしえなちゃんはおさげ切らせてくれなかったけど。
そういえばこの子もおさげに眼鏡だ。

思い出したら益々切りたくなってきちゃった。

切りたい。
切りたい。切りたい。
切りたい切りたい切りたい。
切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい。

目の前の綺麗なおさげを切りたい。
ちょっとだけ。
おさげだけでいいの。

右手を鞄にいれようと手を伸ばす。

―――ハッ!
ダメダメ。耐えるのよ乙哉。
我慢我慢。あたしは我慢も出来る子だから。


「あの……」
「なにかなー?」

内面の葛藤はおくびにも出さず、朗らかに答える乙哉。


「ありがとうございました。もう、落ち着きましたから。
 席、替わりますね」
「あーいいよいいよ。そのまま座ってて」
「でも……」

申し訳なさそうに目を伏せる少女。

可愛い。

この子、きっとアノ時に凄く反応してくれそう。

「あ。そういえばその制服。中等部の子かな?」
「あ、えっと……」


だから貴方は極力怪しまれないように心掛けて
貴方は相手の令呪を出来れば見つけてほしい。
それと相手の魔力や魔術、魔法を感じたら逃げなさい。
今日はそれだけでいいわ。
後は学園生活を過ごすために友達を作りなさい。


(とも……だち……)

うん、と決意新たに少女は頷くと。

「……はい。少し前に転校してきた、暁美ほむらって言います」
「ふーん、ほむらちゃんだねー。あたしは武智乙哉。よろしくね」
「ほ、ほむらちゃん? え、えっと……」

呼ばれ慣れない下の名前で呼ばれ、どきまぎするほむら。

「よ、よろしくお願いします、武智先輩」
「お・と・や。乙哉って呼んでね」
「は、はい。乙哉先輩」




日中ならば襲撃の可能性は少ないだろうと。
私は暁美ほむらよりも一本早いバスに霊体で乗り、先に学校を調べることにした。

念の為、霊体化を解除しても良いように、暁美ほむらと同じ月海原学園中等部の制服を着てきていた。


学校前のバス停で生徒達が多数降りていくが、
このバスには不審な人物は存在しなかった。

バス停から学校までの道。
何か罠が張られているとしたら。人が通りやすいこの辺りの場所か。

停留所、通学路、フェンス、カーブミラー。
一見して不審な個所は見当たらない。

霊体化を解けば、より魔術的な反応が分かりやすいのだが、
当然こちらの存在が感知されてしまう危険性がある。


校門までの間におかしな個所は感じられず、校門前まで来た。
校門前の広場、学校名の表札。そちらも問題ない。

だが校門を調べると。

―――その窪みに、見たこともない虫が存在していた。
そしてその虫から、微小ながら魔力を感じる。

使い魔的なものだろうか……?
攻撃用? 監視用?
霊体化を解いていない以上、深くは調べられない。


どうすべきか―――


先に暁美ほむらへ念話で伝え注意を促す方法はどうか。

―――ダメだ。あの子では、知らせた後に校門を通る際、
きっと右手と右足を同時に出すくらい不自然に意識してしまうだろう。

現時点の暁美ほむらは、魔法少女成り立てだ。
巴マミに教わった、魔女や使い魔の探索法――つまりは、魔力探知の方法――は習得前である。
『重糸する因果線(マギア)』で技術や能力を伝えていくと言っても、現時点で彼女がどこまで成長しているかは分からない。
つまり、逆に何も感知せず通り抜けられる可能性はある。
だがもし気がついてしまったら、やはりその場で何らかの特異な動きをしてしまうだろう。

裏口から入らせるか―――だが探している時間はないし、あの子が既に知っているとも思えない。
また、そちらにも同じ仕掛けを使っているかも分からない。

ではどうする。

いっそ時間を止めて虫ごと校門を爆破してしまうか。
いや。この学校の関係者に別のマスターがいると認めてしまうようなものだ。

そもそも数百名もの学生がこの校門を通るのだ。
魔力なり動作なりで『何らかの反応』を校門で行った者でなければ、仕掛けた者も選別しきれないだろう。

どうする―――

思案していると、暁美ほむらが、背の高い高校生と会話して歩いてくる姿が視界に入ってきた。




「ええ……保健室にはいつもお世話になりっぱなしで」
「ほんとー? 奇遇だね、あたしもちょいちょい保健室にはお世話になってるんだー」
「えっ、ホントですか」

スタイルもよくて健康そうなのに、先輩も病気がちなのかな……。
少しだけ親近感がわいてくる。

「うんうん。 あのベッドで寝ていると、みんな勉強してるのにーって何か居た堪れなくなるよねー」
「そう、そうなんです!」

勢いよく頷く。

「それにあの真っ白なシー」

校門の前に来たところで。
一瞬急に手を引かれる感触。

これは―――

「……ツを見ているとねって、ちょ、大丈夫!?」

盛大に転ぶ私。
慌ててかけつけてくれる先輩。

一瞬見えた姿。
今のは―――私?

『話は後。今は学生生活に集中なさい』
『え……あの……』

混乱している私を、転んだことによるショックと見てくれたのか、
乙哉先輩が立ち上がるのに手を貸してくれる。

「大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です。私どんくさくて、いつもこんな感じで……」

パンパンと埃を払ってくれる。

「大丈夫? 保健室ついていこっか」
「あ……ありがとうございます。でも傷もないみたいですし、大丈夫です」

私は大丈夫ですとこくこくと頷き、また歩き始める。

「なるほど、ほむらっちはドジっ娘属性なんだねー」
「ぞ、属性……? え、ええ。私本当にドジで」
「っと、もう着いちゃったね」

中等部と高等部の校舎の入り口は別で。

「それじゃ、あたしはこっちの校舎だからー」
「あっ、ありがとうございました、乙哉先輩!」
「どういたしましてー♪」

手を振り、高等部の校舎へと入っていく乙哉。


後は学園生活を過ごすために友達を作りなさい。

「……あ、あの!」
「んー?」

決死の思いで呼び掛けるほむらに、乙哉は振り返る。

「えっと……あの。お、お昼とか、御一緒できませんか……?」
「うん、いいよー♪」

真っ赤な顔で言うほむらに、朗らかに承諾する乙哉。

「それじゃまた後で学食でねー」
「は、はい! また、です」

達成感と共に、小さく手を振るほむら。




―――結局ほむらは、隠れて実体化し。
暁美ほむらが校門に入る前に時を止め、手を引いて転ばせることで、
校門の内側へと移動させる方法を取ったのだった。


ギリギリで校門を突破し、一息つく。
とは言え―――校門に仕掛ける何らかの存在がいる。

この学校の関係者か。
あるいは外部の人間が、人の集まるこの場所をターゲットにして設置したのか。

だが少なくとも、この学校の人間をターゲットにしている者が存在しているのは間違いない。
やはり、油断などはできないのだ。

この後、どう動くべきか―――


【C-3/月海原学園 中等部校舎/一日目 午前】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:月海原学園中等部の制服、通学鞄
[道具]:勉強道具、携帯電話
[所持金]:数ヶ月マンションで一人暮らしが可能な財産
[思考・状況]
基本行動方針:マスターだとバレないように過ごす。
1.学園でマスターを探してみる。
2.学園でマスターだと気付かれないようにする。
3.学園で友だちをつくる。
4.武智乙哉と学食で昼食を取る。
5.暁美ほむら(叛逆の物語)に校門での話を聞く。
[備考]
令呪は掌に宿っています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
武智乙哉をマスターだとは気がついていません。


【C-3/月海原学園 校舎前/一日目 午前】

【キャスター(暁美ほむら(叛逆の物語))@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-】
[状態]:健康、魔力消費(微)
[装備]:月海原学園中等部の制服
[道具]:各種銃火器、爆弾など
[思考・状況]
基本行動方針:まどかに辿り着くためならば全てを捨て駒にする。
1.マスターをサポートする。
2.マスターが使えないならば切り捨てる。
3.学園を狙った敵がいることを想定して動く。
4.他の敵の情報収集。
5.新たな陣地作成を行いたい。
[備考]
Bー6廃墟ビルに陣地作成を行いました(マスターは知らない)。




流れてくるラジオを聴きながら、食器を洗う。
朝に相応しい日常だ。

生きていた頃なら出勤という時間だが、今の仕事は専業主夫。

マスターの少女はとても美味しそうに食事を取っていた。
成程、自分のためだけに作る食事とは、また違った楽しみがあるというものだ。

フライパンなどの料理器具も、お皿やフォークなどの食器も、隅々まで綺麗に洗い流す。


―――だが。洗うという行為はまだ終わっていない。


洗うために使ったスポンジ。
このスポンジには汚れが付きやすく、乾燥しにくいので菌が住みやすいのだ。

まず、スポンジに直接ついた汚れを丁寧に落とす。
そして両手で絞り、水気をよく切る。
更に、そのスポンジに除菌洗剤をかけ、揉みながら全体に行き渡らせる。
そして熱いお湯を出し、スポンジの洗剤を洗い流していく。
再び水気を切り、乾燥させやすい場所に置けば、洗い物は完了となる。


「さて次は……洗濯か」

洗濯機が置いてある洗面所へ行こうとしたところ。
マスターから念話が届いた。

『おとーさん』
『……やめてくれと言ったはずだが』
『あーごめんねー。
 ついさっきのことなんだけど。
 瞬間移動、みたいなのを見たよ』
『瞬間移動?』

わたしはエプロンをたたみながらマスターに尋ねる。

『うん。校門のところでね、隣で歩いていた子が急にほんの少しだけ前に「移動」させられてた』
『させられていた……?』
『うん。なんかその子も分かってなかったみたい』
『ほう……その者の力か、他者によるものか、あるいは、なんらかのその場の仕掛けか……?』

腕を組み考える。

『マスターに被害はないな?』
『うん、大丈夫だよー』
『調査を行うにしても、放課後合流してからだ。それまでは』
『うごかないよーに』
『分かっているなら問題ない。何かあれば今のように、すぐ連絡してくれ』
『はーい!』

既に学園で動きだしている者がいるようだ。
ならば―――先に洗濯物は片付けておかねばなるまい。


【C-3/月海原学園 高等部校舎/一日目 午前】

【武智乙哉@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ
[道具]:勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話
[所持金]:普通の学生程度(少なくとも通学には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。
1.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。
2.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。
3.暁美ほむらと学食で昼食を取る。
4.暁美ほむらのおさげをチョン切りたい。
5.可憐な女性を切り刻みたい。
[備考]
B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。
バイトと仕送りによって生計を立てています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
暁美ほむらをマスターだとは気がついていません。
暁美ほむらが瞬間移動させられたことを認識しています。暁美ほむら(反逆)の仕業とは気がついていません。



【B-6(南西)/マンション(1F 武智乙哉の住居)/一日目 午前】

【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
1.学園内に敵がいる可能性を警戒。調査は基本、放課後マスターとの合流後に動く。
2.暫くは家の中で適当に暇を潰す。次は洗濯の予定。
3.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。
4.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
瞬間移動を使う敵がいると想定しています。



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033:新しい朝が来た、戦争の朝だ 武智乙哉
アサシン(吉良吉影 061:戦場に立つ英雄/台所という名の戦場