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冬木市学生諜報記録 ◆holyBRftF6


 深夜。未だ日の登らぬ月海原学園の校内には、生徒どころか教師の姿すら無い。
 学園が教育機関である以上この時間帯に生徒がいるはずがない……というのはもちろんだが、そもそも生徒や教師のほとんどはAIで動くNPC。
 ルーチンワークで動く彼らが、深夜に学園を訪れるという「らしくない」行動を取るはずがないのだ。

「誰もいないみたいですね」
「意外だな」

 訪れるとすれば、NPCではない存在。即ち、マスターとサーヴァントのみ。
 間桐桜とシアン・シンジョーネ――キャスターは、校門の前から学園を見つめていた。生徒に偽装するためか、キャスターは桜と同じ制服を着ている。桜の服を借りているので、微妙にサイズが合っていなかった。
 とはいえ、この行動は「キャスター」としてもイレギュラーなものと言える。彼女達はまだ工房を作成していない。仮にも魔術師のサーヴァントが工房を作らず外出するのはリスクが伴う。
 だが、それだけの価値はあるとキャスターは判断していた。

「これほどのNPCが集まる場所だ。『悪さ』をしようとする輩は他にもいると思ったが」

 もっとも私がするのは「悪さ」というより「ズル」だな、とキャスターは付け足した。
 その言葉に引き寄せられるように、校舎内から戻ってきた虫達が書類の束を運んできた。写真が貼ってあるものもいくつかある。
 学生や教師はいないとは言え、警備員や警報の存在は予期できる。少しの手間でリスクを避けられるなら避けておくべきだった。

「さて、桜。先の世間話でなかなか興味深いことを聞かせてもらった。
 まず、戦争の舞台となるこの空間は冬木市とやらをベースにしているらしいが」
「はい。多少は違うみたいですけど」
「多少ならいい。地理や文化が極めて近いだけで十分だ」

 キャスターは虫と書類を回収すると――虫から書類を、ではない――そのうちの半分を桜に手渡した。
 書類にはぎっしりと人名や住所が並んでいる。名簿だ。

「仕事を頼もうか。冬木の学生、もしくは教師らしくない名前に目星を付けてくれ。
 名前を見られただけで現地人から疑われる、というのはよっぽどだろう?」
「……マスター探しですか?
 たくさんの人が集まる場所は学校以外にもありますけど」
「お前達が通っていた学校だからこそ、だ。
 穂群原学園……だったか? そこに桜を含めて最低でも三人の魔術師がいた、という点が重要になる」

 思わず桜は身構えた。受け取ったばかりの書類が腕から落ちかける。
 衛宮士郎。遠坂凛。二人の詳しい素性について桜は話していない。奥底を見せるほどキャスターに親近感を抱いてはいない。
 冬木市に御三家がある、監視に行かされている魔術師の家がある、どちらも学生だ……話したことはそんな程度のことだ。
 仮にその魔術師について詳細を教えろと言われたら、桜は拒否するつもりだった。

「年齢層が限定されるはずの教育機関に三人もの魔術師が在籍するのが、冬木市の年齢分布であり地理関係。
 それをベースにしているのなら、この月海原学園にも複数のマスターが配置される可能性は低くない」

 しかし、その心配は杞憂に終わる。キャスターが着目したのは、冬木市の学園に魔術師がいたという事実そのもの。
 穂郡原学園に通い、衛宮士郎の監視を任されていたマスターを引いたからこその推理。
 もっとも、桜だけではこういう発想には至らなかっただろう。キャスターの思考は良くも悪くも枠組みというものに囚われていない。

「ずるいですね」
「ああ、ズルだ。
 しかし地理や文化に詳しいマスターというのはアドバンテージだ。だから、こういう戦い方もできる。
 桜は冬木市の学生らしい戦い方をしてくれ。私は私で別の調べ物をする」
「キャスターも?」
「それはそうだろう。蟲を飛ばして私の仕事は終わり、で済むならこんな服を用意しない」

 そう言って自分の手で書類をめくっていくキャスターを見て、魔術師のサーヴァントなのに手作業なのかと桜は心中で呟いた。
 能力も発想も常人離れしている彼女が、学生の格好で普通の作業をする様子は違和感がある。
 その辺りに気付いたらしい、キャスターは肩を竦めた。

「変か?」
「えっと……変です」
「ふん、着たくてこんな服を着ているわけじゃない。だいたい私は着飾る事そのものが苦手なんだ。
 コンビニとやらに行って記録を複製する案も考えていたんだぞ? これなら桜に任せて私は霊体化するだけでいい。
 だが真夜中に女子学生が一人で書類の束を持ち歩くのも変だろうし、何より人目に付く可能性が圧倒的に高い」

 顔を逸らしている様子を見る限り、微妙に恥ずかしがっているらしい。意外な一面だった。
 桜にしてみればそういうつもりではなかったので慌ててフォローする。

「いえ、制服は似合ってますけど。
 場所がどうこうじゃなくて、魔術で読み取ったりとかは……」
「私の場合、蟲達が整列して紙の上を這いずることになるな。
 だが分散した虫の眼では文字が読み取りにくくなる。だいたい、人間の姿で読むよりまともな光景だと思えるか?」
「……もっと変ですね」

 確かにシュール極まりない光景だ。
 話を打ち切って作業に集中するキャスターの様子を見て、桜もそれに倣った。

 まだ日付が変わったばかりの頃に、校門の前で制服を着た二人の少女が懐中電灯の明かりを頼りに紙をめくっていく。
 なんとも言いがたい光景だが、少なくとも争いとは縁遠い光景である。これが戦争の準備だと思うNPCはまずいないだろう。役割によっては、夜更けに出歩くのは危ないぞ……と逆に二人を心配するかもしれない。
 もっとも、それを狙ってキャスターは制服を着てきたのだが。

「シオン・エルトナム・アトラシア」

 やがて、桜が一つの名前を呟いた。反応したキャスターが眉を顰める。

「まるで貴族のような名前だな。地上ではその手の輩はいたのか?」
「いいえ」
「あからさまにマスターか、その候補。
 もっとも生真面目に学校に来ているのは記憶を取り戻していないからか、それとも別の要因か」

 キャスターは自分が調べている紙に目を戻し、その名を見つけ出した。
 その書類には「出席簿」とある。キャスターの調べ物は出欠の確認だ。

「どうも補欠教員に怪しい者がいるな」
「怪しい、ですか。どんな風に?」
「ここ数日、全く仕事に来ていない。
 ただ……補欠教員とやらが全く来ないのは不自然な事かどうか私には分からん。
 ムーンセルが与えた知識の範囲外だ」
「名前は?」
「ジナコ=カリギリ。風習に合わせて言えばカリギリジナコか」

 名前を聞いた桜は考えこむ。
 冬木市には外国人が多く住んでいるが、かと言って穂群原学園に外国人が当然のようにいるわけではない。
 つまり学園にいる外国人というだけで、危険性は一気に高まる。もちろんしっかりと再現していればという前提だが。
 ただ、この名前の場合はもうひとつ問題がある。本当に外国人の名前かという事だ。

「補欠教員の先生が数日間来ない時はあると思います。
 ジナコ、って日本の名前のようにも見えますし……でもカリギリなんて名字はあるんでしょうか。
 名前は漢字で書かれてますか?」
「いや、カタカナだな」
「カタカナ……NPCじゃなさそうだけど、でもハーフの先生という設定なのかも……」
「冬木市民に分からないのであれば私にはどうしようもないな。
 とりあえずメモはしておく」

 目を細めながらキャスターは指先を動かした。

 二人は相談しながら予め用意したメモ用紙に名前と住所、連絡先を記録していく。顔写真は念入りに見つめ、今のうちに記憶する。
 先の二人以外にも桜から見て怪しい名前はあった。前提に誤りがあるのか、それとも学園にはよほどの数のマスターがいるのか、キャスターは少しだけ悩んだ。
 最終的に、作業は一時間ほどで終わった。何人かに目星をつけて。
 キャスターが蟲達を操って書類を戻す様子を見やりながら、桜はメモ用紙をしまい込む。心の中ではずいぶんアナログな戦い方だと感じていた。自分達はデジタルな仮想空間にいるはずなのに。

「これからどうするんですか、キャスター」
「どうもしない。せいぜい試してみるだけだ」

 その答えと共に、二匹の虫が校門に張り付いた。
 片方は校門の凹みに隠れているだけの、目を凝らせば気付くような位置に。
 もう片方は完全に校門と同化し、隠れる様子を見ていた桜ですらどこへ行ったか分からない。
 別の虫が新たに校舎へ飛んでいった様子を見ると、職員用入り口にも同じものを潜ませるらしい。

「えっと……?」
「どちらも監視用の虫だが、片方は撒き餌だ。
 名簿で目をつけた人物が登校してきた場合、この虫達への対応で資質を計る」

 首を傾げる桜に、キャスターは説明を開始した。
 その口調から威圧的にも見える彼女だが、相手に伝わりやすいように説明するのは得意だった――生前にも、経験がある。

「どちらにも気付かずに通り過ぎるなら下の下。交渉もできるし利用もできる。
 片方に気付いて過剰な対応をするなら下。交渉は難しいが利用はできる。
 片方に気付いたがその場は無視するなら中。利用は難しいが交渉はできる。
 両方に気付くなら上、対策が必要だな」
「両方に気付いた事を私達に気付かせない時は?」
「上の上、難敵。こちらが気付けないのだから諦めるしかない」

 持ちだされた仮定に対し、さらっと負けを認める。
 もともと「キャスター」は正面から戦うクラスではないのだ。謀略で遅れを取るならどうしようもない、そういうことだった。

「とはいえ、逆に名前だけでは気付けなかった相手が勝手にボロを出してくれる可能性もある。分の悪い賭けではないだろう」
「マスターが誰も来ないなら」
「それならそれでいい。ルーラーに露見しない程度にこの学園を『餌場』として利用させてもらうだけだ」

 キャスターの方策に対して桜が嫌悪感を抱くことはなかった。
 人の形をしたものが蟲に喰われていく様は鮮明に想像できたが、特に思うことはない。一言で言えばどうでもよかった。
 NPC相手なら殺人ではないのだし、思い浮かぶグロテスクな光景に対して拒否感もない――慣れているから。ある意味では、魔術師らしい割り切り方と言える。
 故に、キャスターもそのまま話を続けていく。

「最良の手は住所に監視を付けることだが、蟲の飛距離を補うには陣地が不可欠だ。
 陣地で魔力を集めれば蟲の飛距離は伸ばせる。マナラインを確保すればそれを通して遠くの蟲に魔力供給できる。
 しかし工房すら作成していない現状では無理な話だし、そもそも工房のみによるマナラインの誘導には限度がある。
 膨大な魔力の貯蓄、マナラインの完全な観測……どちらにせよ浮遊城の完成が必要になるな」
「結局のところ『待ち』なんですね」
「そういうことだ。情報も物資も戦争には欠かせない。
 私達のように住所を移す主従がいる可能性を考えると、少しばかり急ぎたくはなるがな」

 ここで、話が一旦区切られた。空気は静寂に包まれ、蛙や蟲が鳴く声すら響かない。
 促すようなキャスターの視線を受けること数秒、今後の予定に関する質問を促されているのだと桜は気付いた。それも、冬木市の地理が関係するような質問を。

「工房はどこに作るんですか?」
「場所は決まっていないが、範囲は決まっている。監視を置いた以上はこの学園の近くにしか作れん。
 問題は、この周辺が水田や畑ばかりという点だが――」
「えっと、建物に関しては同じかどうか断言できませんけど……ちょっと離れるだけで住宅街や森に行けるのは確かです」

 桜は周辺の地形をイメージする。月海原学園は穂群原学園と同じ位置、つまり通い慣れた位置にあるのだから想像するのは簡単だ。
 もっとも、魔術師として見た場合は問題がある答えである。単なる地理に関する情報しかない。彼女には霊地や霊脈の知識がほとんど無く、この答えにもそういった視点が欠けていた。
 しかしキャスターは頷いた。彼女にとっては何の問題もない答えだった。
 マナラインを操作する能力がある以上、地脈に恵まれていなくともある程度は補える。重要なのは隠密性と動きやすさだ。

「十分だ。森にせよ住宅街にせよ蟲の活動に問題はない……障害物は多い方がいい。
 木々や建物が乱立し凹凸がある地形なら、私の体が活かせる」

 そうして、キャスターは桜から視線を外し校舎を見つめた。
 桜がまだ学校へ行くつもりかどうかは聞いていないが、行くにせよ行かないにせよリスクはある。
 何より学校を情報源か餌場として使う以上、蟲を遠くまで飛ばせないキャスター達は学校に注意せざるを得ない。
 蟲の射程距離の限界。
 これは一定の距離を離れた途端にいきなり命令が効かなくなるのではなく、距離が離れれば離れるほど複雑な命令ができなくなり、最終的に何の命令も通じなくなる。
 わざわざ実体化して校門まで来たのは、遠くから名簿などを持ってくる事ができなかったからだ。丁寧に紙を運ばせ、元通りに戻す……蟲の身では相当に精密な動作が必要になる。
 かつてシアン・シンジョーネは森の外から百万単位の蟲を呼び寄せ、軍隊じみた統率で以って村一帯を荒らし回った。
 だがサーヴァントである以上魔力の軛からは逃れられず、それは彼女を構成する蟲の一匹一匹もまた同じこと。
 今回は校門前から操ったために、何の失敗もなく入手し何の痕跡も無く戻した。それは距離という問題を物理的に解決したからこそ。
 統一された意志の力を都市全域で発揮するには、膨大な魔力かマナラインの掌握が必要だ。しかし、今の段階ではどちらも得られない。

「マナラインを完全に掌握するには浮遊城の顕現が必要、そして浮遊城の顕現のためにはマナラインを誘導して工房を作り……
 やれやれ、我ながら遠回りなサーヴァントだな」

 キャスターが自嘲するのはもっともだった。目的のためには宝具の完成が必要で、その宝具の完成も手間が掛かる。これほど面倒なこともない。
 少し不安になったのか、桜が小さな声で問いかけてきた。

「もし強いサーヴァントに襲われたりして、『待て』ない時はどうするんですか?」
「その時は令呪を使って突貫で浮遊城を完成させてくれ。極端な話、マナラインを把握する機能さえあれば問題ない。
 浮遊城は攻撃を防げそうになければ早々に使い捨てるつもりだから、万全でなくてもいい」
「宝具なのに使い捨てるんですね」
「生前も使い捨てたからな。最悪の場合、魔王城を単なる神殿の一種として使う手もある。
 ……個人的には気に食わない手だが」

 そう吐き捨てる表情は、明らかに自ら述べた「最悪の場合」を嫌がっているようだった。
 例え「魔王」の使役ができなかろうと、その存在に対する強い執着が見て取れる。
 桜はその辺りについてとやかく言うつもりはないし、言える身分でもない。キャスターの策に従うだけだ。
 桜自身の奥底に触れることでない限り。

「行くぞ。
 森に潜むにせよNPCの家を乗っ取るにせよ、日が昇る前には拠点を確保したい」

 その言葉を最後にキャスターが霊体化する。
 桜は表情の無い顔で無言のまま頷き、夜闇の中へと姿を消していった。


【C-3/学園校門前/1日目 未明】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]健康
[令呪]残り三角
[装備]学生服
[道具]懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物
[所持金]持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2.直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
[備考]
  • 間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]健康
[装備]学生服
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1.工房の作成。
2.学園に関する情報収集。
[備考]
  • 工房は桜の案内の元で、B-2、B-3、C-1、C-4、D-2、D-3のいずれかの場所に作成します。
  • 学園の入り口にはシアンの蟲が隠れており、名簿を見てマスターの可能性があると判断した人物の動向を監視しています。
    日本人らしくない名前の人物に対しては特に注意しています。
    ただし距離の関係から虫に精密な動作はさせる事はできません。



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