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髀肉がだぶついておりますなあ――。

そんな言葉を聞いても、劉備玄徳は溜息を吐く事も悲嘆に暮れる事もなかった。
微温湯に浸かる下半身は弛緩し、瞼は蕩け、眠りそうになる。
最早天下に目は在らず、気勢を上げても如何にもならぬ。
ならば剣も義も捨てて、惰眠を貪れ我が身体――。

――ああ、でも、何だ。

後ろめたいのか。それとも、心許ないのか。
今のままではいけないという感情も、また、ある。

――いっそ酔っちまえばいいや。

楽な方へと進む事を決めた劉備は、共に湯に浸かり、先程から丹念に劉備の脚を揉んでいる者を片手で引き寄せた。
きゃあ、と声を上げながらも、その者は抵抗もしない。
それどころか、劉備の腕を自分の臀へと持って行こうとする。
劉備もまた動きに逆らわず、そのまま臀部を撫でてみせた。
「ふふふ――」
笑い声。

「劉備様、わたしは正と奇の間を自在に操りましょう。正は奇を生み、奇は正となる。
 我が性戯にかかれば劉備様とてその円から抜け出す事、叶わぬかもしれませぬ」
「へへへ――御託はいいからやってみせてくれるかい」
不遜な態度とは裏腹に、劉備の脳内には不安が残っている。

――あいつらに。
あいつらに、この為体を見られたらどうなるか。
怒鳴られるか。
「殺されるかな」
「は」
「ん――聞こえてたかい」

一向に感情が纏まらぬ。
もう如何でもいいというような投げ遣りな、でもそれでもいいというような安寧な、不思議な気分だ。

「あいつらと言うと、関羽様に張飛様」
「おう」
「忘れてはおられない」
「あん?」
一体何のつもりなのか。
「あのな、何をどうすりゃあ忘れられるってんだ。大体――」
ならば良いのですと、最後まで言い切る前に遮られた。

「さっ。そろそろ目を覚ましましょ」
「ああん?」

――そういや、こいつは誰だったか。

知らない訳ではない。忘れている訳でも――ない。
いや、忘れたいのか。そうでもないのか。

立ち上がる。一糸纏わぬ姿の、その全てが劉備の眼前に晒される。
その下半身にあるものは、この世のものとは思えぬ程に奇怪で魁異で淫猥で――。

「こ」
「お・目・覚・め♥」
「孔明――――――!」

       ●

絶叫と共に身を起こす。

「――お目覚めになったようですね」

慌てて周囲を見渡した劉備は、自分が見知らぬ場所にいる事に気が付いた。
そして――傍らに立つ男の存在にも。

「丁度、水をお持ちしたところでした。体に障るかもしれませんので、一息には飲み干さぬようにしてください」
「ん、お――おう。ありがとよ」

言われる前に、劉備は既に器に口を付けていた。
無性に喉が乾いていたのである。
流石に失礼か――などと今更に思ったが、男は気にした風でもない。
いや、劉備がこういう人物であり、こういう行動を取る事も何もかも全て見透かしていた――そんな感触すら受ける。

――何だい何だい。

まるで曹操の奴みてえじゃねえかと、劉備は心中独り言ちた。
「ああ~」
――身の丈何千尺とある曹操の夢なんてのも、見た事あったねえ。

「で――あんた誰だい。おいらがどっかで寝惚けてたのを拾ってくれたのかい」
男の顔には見覚えがない。
白を基調とした服。片手には羽扇。
格好から見れば、劉表麾下の学士辺りにも見えるが。
――いや、この特徴は。
ぶんぶんと首を振る。
似通っているのはそれだけで、間違いなく別人である。そうでなくてはいけない。

「おや、覚えてはおられませんか。成程――そんな事もあるのかもしれませんね」
「その口振りじゃあ、おいらとあんたが知り合いって風にも聞こえるがな」
「ええ。お会いしたのは、つい先程ですが。何故あなたがここに来たのか、という事も、既にお聞きしております」
「ここ?」
妙な事を言う。
しかしよくよく観察してみれば、慥かにこの場所には違和感がある。
建物の内部ではあるのだろうが、建築様式が劉備の知る物とは全く異なっているのである。
地方と都の違いなどではない、もっと根本的な何かが異なる。

「ほえ~、ここにおいらが自分から来たってのかい。全く覚えがねえや」
「そうではありませんよ劉備殿」
「あ?」
劉備は訝しんだ。
何故劉備の名を知っているのか、何がそうではないのか、という事には触れないまま、男は続けた。

「ですが、お話を伺っている最中に突然劉備殿がお倒れになったのです。そこで、手近な空家に運ばせて頂きました」
「何だかねえ――わかるようなわからんような」
あ。
「いやいやいや! ちょいと待ちな、聞いたのはおめえが何者かって事だぜ、おい」
ふ、と男は微笑する。
「――その反応も、計算通りです」
「おめえなあ――」
「ですが、暫しお待ちください。今は、劉備殿が現在どのような状況下にあるか――改めて、それを説明させて頂きます」

滔々と、男は語ってゆく。
月と方舟。
聖杯戦争。
主と従者。
勝ち残るのはただ一組、勝者に与えられるはあらゆる全てを叶える権利――。

俄には信じられる話ではない。
黄巾や五斗米道の教えの方が余程地に足が付いているというものである。

――だからか。
だから蒼天に浮かぶ船なのか。
下らぬ事が頭に浮かび、苦笑いする。
それでも劉備の脳内は情報を受け流すことなく、蓄積していく。
同時に、男の言う事が真実であるという事を実感する。否、思い出す。
これも方舟の力の一貫――という事なのだろうか。
しかし。

「おめえがおいらの相棒ってのは、どうもなあ」
「ご不満でしょうか」
そうは言いながらも、男の表情は余裕である。

「いや、まあ、そう見えても強えんだろうって事はなんとなーくわかるんだけどねえ。
 関さんや益徳、それに呂布みてえな、わかりやすい強さじゃねえだろ。あ、知らねえかな――英雄ってのは、古今東西から来るもんだったな」
「いいえ、善く存じております。それに――劉備殿とて、英雄と呼ばれるお方。あの曹操殿、孫権殿と並び称される程に――」
「そ」
そりゃ言い過ぎだと、劉備は俯いた。

「おいらはよお、情けない男だよお。戦に出ちゃあ負け通し、州に入っちゃすぐ追われ、劉表どんに世話になって何年と経つんだぜえ」
「それでも、貴方を見放さぬ者はいる筈です」

その通りである。
完全に腐っていた劉備を連れ出し、人材に引き合わそうとまでした奴らがいた。

――これで動かねばお終いだ。
――萎えた志をみずからたたむまえに、劉備玄徳の器でしか量れぬものを量ってもらおう。

「ああ――」
やっぱり見透かされてやがらあ。
「おいらは器、だったなあ、関さんよお――」

劉備が再び顔を上げるのを待っていたかのように、男は口を開いた。
「ところで――劉備殿は、諸葛孔明なる者に木片を手渡されたそうですね」
「おうよ。最小限の人死にで天下が取れる、なんて言ってな。そんで気が付きゃあ、って訳だ」
「その孔明は、仙界に近い側の存在だったのかもしれませんね。直接会ってみたいとも思いますが――何れにせよ、この戦いを勝ち抜かぬ事には外に出る事は叶いません。
 他の手段を見つけだす事も、容易ではないでしょう。劉備殿、ご決断を」

決断。
「ってなあ――どういう事だい」
「ここに喚ばれたからには、劉備殿には願いがある筈。
 そう、劉備殿に木片を渡した孔明が言ったように――勝利の暁には、天下とてその手に収められましょう」
「い、いや、そりゃなあ――でもよう、そう簡単に引っ繰り返るもんじゃねえぜ。政やら何やらもよ――」
「ですから」
そういった物事も総て解決できるのですと男は言った。
「だからこそ聖杯、だからこそ万能の願望機……それを奪う戦いは熾烈さを極める事になるでしょう。
 そして劉備殿、最早あなたは引き返す事が不可能です。覚悟を、決めて頂かねばなりません」
そう言って、羽扇を突きつける。

「――ヘッ」
それを、劉備は鼻で笑った。
「なあ、おい。人はな、天の下で泣いて笑って怒って、のたうちまわって生きてんだよ。天子様だってよう、一人の人間だったんだよ。天の上にゃあ住めねえぜ」

それでも。
「それでも、本当に聖杯は願いを叶えるってのかい?」
「――はい」

「じゃっかあしい――――ッ!」

立ち上がる。
「この船に民はいねえ。おいら達が喚ばれる前にゃあ人もいねえ! そんなところの天下は生身の天下とは別物だ!」
「ですが」
黙れよ。
「おいらの知らねえ奴らの、どんな思いも何もかも丸ごとひっくるめてこの器に飲み込む!
 天下万民になり代わるおいらの覇業が、民のいねえところで出来るわきゃねえだろうが――――ッ!」

はあはあと息を吐く。
「お」
倒れこみそうになったのを、何とか堪える。
男の顔を見れば、相変わらずの余裕の表情である。

「それでは劉備殿、あなたはこの戦いを放棄する……そういう事でしょうか」
「いんや、そうじゃねえ。ま、いつもなら逃げて逃げて逃げ抜いて、となるところだが、そうもいかねえみたいだからな」
だがよ。
「おいらの器は聖杯なんぞよりも余ッ程でけえ! 高祖だろうが始皇帝だろうがどんとこい。聖杯を求めて争っている時点で一歩下。
 願いを叶えてえならこのおいらの下に来るべし! それを皆に示す事でこの聖杯戦争、劉玄徳の勝利とする! ――ってなあ、どうだい」
「成程。しかしこの戦いの参加者がそれを認めたところで、監督役という存在がありますが」
「だったら、そいつらも器に入れるまでよ」

自分がとんでもない事を言っているという自覚はある。
困難極まりない道であるとも思う。
それでも、これが劉備玄徳の選ぶ道だ。
が――。

「内心では、迷っていらっしゃいますね」
「ぐ」
「本当に聖杯の力で全てを丸く収められるのならば、そちらの方が良いのではないか、いや楽ではないか――と」
「ぐぐぐ」
それでよろしいのですと言って男は笑った。

「ただ真っ直ぐなだけの思いは、力強さと同時に脆さをも備えてしまうもの。理想を言葉にする事が出来るだけでも、劉備殿はご立派です」
「褒められてる気がしねえ。つうかよ、アレかい? あんたの方がおいらを量ってたって訳かい」
「申し訳ございません。志なき才に、大望は果たせませんから」
男に悪びれた様子はない。
「けッ」

――いいじゃねえか。

まずはこいつから、この鬼嚢に入れてやらあ。

「名乗りな」

ゆっくりと、男は口を開く。

「――姓を諸葛、名を亮。字は孔明。伏龍、臥龍などとも呼ばれております。此度の聖杯戦争では、キャスターのクラスとして召喚されました」

驚きはない。何とはなしに、そうなのだろうと思っていた。

「劉備殿の知る孔明と、私が知る劉備殿は本来は別。そも、世界とは――」
「そういうややこしいのは、いらねえぜ」
部屋の出口へと、身体を向ける。

「さあて――征こうじゃねえか、孔明さんよ」
「劉備殿――」
男の、孔明の声が背にかかる。

「――とりあえずは、服を着た方がよろしいかと」
言われて。
自分が全裸である事に、劉備は漸く気が付いた。

「こ」
「随分と汗をお掻きになっておられましたので、勝手ながら預かっておりました。ふっ……しかし、これも計算通りです」
「孔明――――――!」

再び、絶叫が部屋中に谺した。

【マスター】劉備
【出典】蒼天航路

【参加方法】
孔明に『ゴフェルの木片』を渡された。

【マスターとしての願い】
聖杯に願いを託す気はない。
――が、内心ちょっと迷っている。

【weapon】
無銘の剣。
特に優れた業物ではないが、劉備本人の技量と相まって切れ味はそれなりに鋭い。

【能力・技能】
劉備本人の意思に関係なく多くの民や武将から慕われる、桁外れのカリスマ性を持つ。
武勇は周囲の猛将に比べれば劣るが、剣や弓など武器を選ばずそこそこには戦える。ただし戦は下手。

【人物背景】
劉備、字は玄徳。後漢時代の古代中国、涿郡涿県の出身。
江戸っ子のべらんめぇ口調で人間味臭い野心家。
過去には侠の頭として民草を助けており、そこで出会った関羽・張飛の二人の豪傑と共に天下を目指す事を決める。
精神的に不安定になる事が多く、頻繁に情けない姿を見せたり逃げ出したりするが、きっかけさえあれば立ち直るのもまた早い。
多くの人物から一目置かれているものの、戦下手ゆえ逃亡生活や匿って貰っている期間が非常に長い。
本来ならば長い戦いの末に自らの国を持つ――のだが、今回は劉表の下にいる時期(原作17巻頃)から召喚されている。

【方針】
自らの器を示す。それ以上の事は考えておらず、具体的にどうするかはキャスターに任せる。

【クラス】キャスター
【真名】諸葛亮
【出典】三國無双シリーズ
【属性】秩序・善

【パラメータ】
筋力:E 耐久:C 敏捷:D 魔力:A 幸運:B 宝具:C+

【クラススキル】
陣地作成:B
軍師として、自軍に有利な陣地を作り上げる。”拠点”に加え、”祭壇”を形成する事が可能。

道具作成:B
弩砲や投石機などの兵器を作成する事が可能。
更に、自律稼働して補給物資を運ぶ木牛流馬、火炎放射を行う虎戦車など、現代技術では再現不可能な兵器を作り上げる事が可能。

【保有スキル】
魔力放出:A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
このスキルにより、本来は後方で指示を行う軍師である筈のキャスターが前線に立って戦う事を可能としている。
キャスターが扇を一振りすれば風が巻き起こり、雷が落ち、光線が発射される。その戦い振りは三國無双と呼ぶに相応しい。
……実のところ、こういった攻撃が魔力を用いたものかどうかは不明である。が、少なくともこの聖杯戦争に於いてはそういった扱いをされているようだ。
その為、キャスターの攻撃の魔力消費は殆どない代わりに、対魔力スキルによって無効化が可能。

騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。馬や象、四輪車など、騎乗に適した乗り物ならば、騎乗中の戦闘も可能。

軍略:B-
多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。
高ランクではあるものの、『泣いて馬謖を斬る』に代表される人選ミスや主を諌め切れず夷陵の戦いでの大敗を招いた事から、発動がやや不安定になっている。

仕切り直し:D
戦闘から離脱する能力。致命的な敗北を喫したとしても無事に撤退しやすくなる。

天文:A+
星を見、物事を占う能力。
このランクにもなれば、適切な陣地を築き、時間をかけた祈祷を行えば天候や風向きを変える事も可能とする。

神算鬼謀:B
相手が策や罠を講じている場合、観察するだけでそれを看破する事ができる。
情報を得ていない場合は「何らかの策がある」程度にしか判らないが、相手の情報を完全に把握している場合は策の内容まで見抜き、それを逆用する事すら可能。
キャスターの場合はこのスキル抜きでも卓越した観察眼を持つ為、完全に未知の相手でも下手な罠なら簡単に見抜いてしまう。
ただし、看破は出来てもそれを破れるか否かは別の話である。

【宝具】
『石兵八陣』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~300 最大補足:500人
巨石によって形成された陣。
陣の内部構造は定期的に変化する上に地図などの確認を行う事が不可能となるため、敵が一度侵入すれば脱出は困難となる。
陣内では竜巻が発生したり伏兵が出現したりして攻撃を行うが、サーヴァントならば対処は容易。
瞬時に発動することは出来ず、予め形成しておく必要がある。
キャスターが祭壇を建設する事で魔力消費を抑える事ができるが、その場合は祭壇が破壊された時点で陣も消滅する。

『無双乱舞』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大補足:50人
大量の魔力を消費して行う範囲攻撃。
移動しつつ前方に向かって光線を発射し続ける、付近一帯に雷を落とす、制御可能な雷球を前方に出現させる等のバリエーションが存在する。
いずれも発動中は基本的に敵の攻撃を受け付けず、キャスターが瀕死時は威力が増大する。

【weapon】
『白羽扇』
キャスターが手に持つ羽扇。
本来は武器ではない筈だが、巨大な武器と鍔迫り合いをしたり回転させて周囲の敵兵を薙ぎ払ったりできる。
直接ぶん殴っても雑兵くらいならばバタバタ倒れていくが、リーチが短いので接近戦は避けるべきだろう。

【人物背景】
諸葛亮、字は孔明。礼と義に殉じた、当代きっての天才。三顧の礼に応えて劉備に仕える。
明晰な判断力と公平無私な言動で、一国を支えるほどの信頼を得た。
軍事面ではなく政治面こそ評価されるべきとの声もある人物だが、今回召喚されたのはいわゆる『天才軍師・諸葛孔明』のイメージがそのままになったような諸葛亮。
ある意味、知名度補正の塊。
基本的にきれいな孔明だが、狡猾な皮肉屋としての側面もない訳ではない。
近頃は「計算通り」が口癖になりつつあり、苦戦しているところを助けに行っても「劣勢を演じるのも楽ではありませんね」だの「計算通りの動き、感謝しますよ」だの、態度がデカい。
それでも予想外の時は素直にそう言うため、本当に全部計算している可能性もあるのだが。

【サーヴァントとしての願い】
特になし。マスターの意向に従う。

【基本戦術、方針、運用法】
能力自体は真正面から戦っても他に引けをとらないが、いかに孔明と言えども対魔力による相性差からは逃れられない。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、戦いの結果は戦う前に決まっている……という事で、まずは各地に拠点を築きつつ情報を集めるべし。
集団戦は得意中の得意だが個人戦では全力を発揮できず、自分から攻めていくタイプでもないので、避けられない敵は自軍の陣地に誘導すべし。
対魔力がある相手でも、兵器による攻撃ならば何とか戦える。孔明の罠を存分に活用すべし。
忠実通り、こちらよりも戦力の大きい相手に防戦に撤せられるとかなり苦戦する。
民のいる街中で堂々と攻城兵器を使う事もできないので、援軍を求めたり煽りスキルを用いていく事になるだろう。