「――我々、報道部の行進は誰にも止められないのだ……」
そう、私は勝った。世界に、私が記録した真実を受け取ってくれた人が一人でもいれば、
その人を仲介し真実は少しずつどこまでも広がっていくだろう。
人々のつながりは、途切れることなく真実を伝えてくれるだろう。

自分たちの眼で真実を見つめた人々は、いつか『彼ら』を受け入れてくれるだろう。
その未来を見通せているから、ここでこうして血の海に沈むことさえ承知の上で、
私は世界に真実を伝える“最初の一歩”を踏み出せたのだ。
そこに後悔などあるはずがない。

ただ、

「――愛恋」
最後に私が見た「彼」の顔は、泣き出しそうに歪んでいた。
それだけは心残りだった。

◇◇◇



「……彼って一体誰なんだろう」
呟きながらベッドを抜け、南風森愛恋は一つ小さくのびをするといそいそと登校する準備を始めた。
最近はどうも妙な夢を毎日見ている。
起きてみるとどうにもあやふやで、だけど妙に大切なものであるような気がしてしまう、そんな夢。
夢の世界で中心に居るのは愛恋自身ともう一人、「彼」という少年。

――もちろん、実際に「彼」などという名前であるはずがない。ただ単に愛恋が目覚めたときに必ずその名前を忘れてしまっているだけだ。
それなりに高い背、引き締まった体格の美少年。ちょっと鈍感だけど心優しい性格。
少女漫画かなにかから抜け出してきたような少年と一緒に愛恋は夢の世界で様々な場所を巡っていた。

学校の校舎や街中、閉館間近の美術館や古びた電波塔、他にもいろいろなところを。
ただ、そこで何をしていたか、彼と何を話していたか。それがさっぱり思い出せない。
何を話していたのだろう、何をしていたのだろう。最近はそればかり考えてしまい、授業も部活も上の空だ。

「…なんでこんなに気になるんだろう」
…どうして、こんなにも思い出さなければならない気がするのだろう?
いつもよりはっきりと覚えている夢の終わりを思い浮かべながら、彼女はしきりに首をひねっていた。

「愛恋ちゃーん、まだ起きてないのー?」
「あ、ごめん、すぐ行くから…」
いつも外で待ってくれている友人がしびれを切らし大声で呼びかけてきたのに気付き、
窓から顔を出して返事を返す。
「急がなくちゃ…」
荷物を手に下へ降りる。


部屋を出る最後まで、彼女は机の横の棚に置いていたデジカメには目も向けなかった。

◇◇◇

「きりーつ、きをつけー、れーい」
気の抜けた教師の号令とともに午後のHRが終わる。
鞄を片手に友達とともに調理室へ向かう。
「あ、愛恋ちゃん、今日は早いんだね」
「ええ、センパイ」
仲のいい先輩とアイサツを交わしながら調理の用意をする。
頭の中は依然として夢の中の出来事でいっぱいだ。

(彼はそもそも私とどういう関係なのだろう…?)
エプロンを身に着けながら物思いにふける。自分の夢なのに一つ思い出すことさえままならない不自由さにいらいらする。
(彼はどうして私とともにいてくれたのだろう?)
思い出さなければいけないような気がするのに、思い出せないということがこんなにもどかしく感じるとは思わなかった。
(彼は、どうしてあそこまで悲しそうな顔をしたのだろう…?)
ああ、はやく『真実』が知りたい。

今までにないくらいそう強く願ったことが原因なのか。


南風森愛恋は突如として全ての記憶を取り戻した。

「は?え?…ああっ!!」
余りに大量の情報が頭に一気に流れ込んできたことに目を白黒させ、
次いで自身が肌身離さず持ち歩いていたデジカメが手元にないことに驚愕の声をあげる。
「ひゃう!? ど、どうしたの愛恋ちゃん?」
いきなり隣で大声をあげられて仰天した先輩に顔を覗き込まれる。
「ごめんなさいセンパイ、忘れ物を取りに戻ります」
できる限り平静を装いながらエプロンを脱ぎ、荷物をまとめる。
荷物を超スピードでまとめ足早に部屋を出ていく彼女を、先輩をはじめとした部員たちは最後まで呆気にとられた表情で見つめていた。

◇◇◇

「…すべてがムーンセルによって作られた虚構の世界。
偽りの記憶を与えられ、自身を取り戻せるか試される予選。
そして自身を取り戻した者たちがサーヴァントを召喚し戦う本選…」
家にたどり着いた愛恋はこの世界のルールを無意識に呟きながら階段を上がり自室へと駆け込む。

「ともかくまずはサーヴァントを召喚しないと…」
などと言いながらも彼女は先に己の手でデジタルカメラをしっかりと構える。
「うむ。やはり真のジャーナリストたるものこうでなくては」
一人悦に入りながら改めてサーヴァント召喚の儀式を始める。

その最中も思考は回り続ける。
(しかし最後に“しぇら”に刺された時は死んだと思ったのだが。
「彼」――有夏月報道員が助けてくれたのだろうか)

自身の夢にずっと出てきていた少年――緒方有夏月の柔らかい笑みと、最後の悲痛な表情を思い出しつつ彼女は記録を続ける。

(最後は彼の笑顔で終わりたかった……というのはただの我侭だと理解はしているのだ)
(でも)
(やっぱりどうしてもそう思ってしまうな)

「…たー。マスター?」
「うん?」
物思いにふけっている間にいつの間にか召喚は済んでいた。
目の前にいるのはやや小柄な体躯をニンジャ装束と近未来的なデザインのレインコートに包み、
風変わりなサングラスをした青年だった。
「あんたが、俺のマスターなんだろう?」
「ああ、すまない。返事が遅れてしまった。
いかにも私が貴方のマスター、真のジャーナリスト南風森愛恋なのだ」
そう言ってカメラを構えたまま薄い胸を張る少女を、感情を表に出さず眺めた青年は
「ドーモ、アコ=サン。アサシンのサーヴァント、デリヴァラーです」
とオジギとともにアイサツを返した。

「デリヴァラー…」
愛恋はその名前を聞いたとき、同時に複数の意味を思い浮かべた。
配達員、救出者、釈放者、救世主…。
彼の名はそのいずれか、あるいは全ての意味を内包しているのだろうか?
ともあれまず初めに、一番重要なことを伝えなければならない。
結果ここに来る直前と同じような状態になろうとも、言わなければならないことがあるのだ。
彼の笑顔を一度強く思い浮かべ、勇気をもらい口を開く。

「アサシン、まず初めに貴方に伝えなければならないことがあるのだ」
「なんだ」
「私は、この聖杯戦争の真実を知り、それを人々に伝えるために行動しようと思っているのだ」
「真実」
「そう、真実だ。
何故聖杯などというものがあるのか。どうしてこんな戦いを行う必要があるのか。
管理を行うルーラーとやらの思惑は何か。この地に呼び集められたのはどのような人々なのか。
この舞台にはあまりに謎が多すぎるのだ。その上で相争う下地だけは綺麗に整えられている。
ここで争うのはただ何かの思惑に載せられているだけなのではないかと思うのだ。
本当に戦うべきものはなにか、私たちはそれをまず知らねばならない」
「……」
「だから当面は争いごとを可能な限り避けつつ色々な場所を調べて回りたいのだ。
その上で私は情報をもとに真実を解き明かし」
「それを多くの人々へ広げていきたい?」
「その通りなのだ。
かつて私が「虫憑き」と呼ばれる人々の真実を伝えたときのように。
……ただ、私がこれから行うことは貴方が聖杯戦争を勝ち抜くにあたってプラスになることではないだろうし、
真実が見えた結果もし聖杯を壊さねばならないなどということになれば貴方の願いは叶えられないだろう」
ここで一度言葉を切り、大きく息を吸い込むとアサシンのサングラスの奥に潜む、
危ういほどに澄んだ光を放つ目を見つめて口を開く。


「だから、どうしてもそれが許せないのならここで契約を切って他のマスターを探しに行ってもらっても構わない」

「自分が何を言っているのかわかっているのか」
唖然としたアサシンの声。
「わかっているのだ」
「俺が契約を切ればあんたはそのまま死んでしまうんだ。
それが怖くないのか」
「怖くないと言えば嘘になるのだ。
でもこれは私一人の都合の、私一人の戦いなのだ。だから、貴方が望まないなら付き合わせることはできないだろう」
平坦な表情で言い切った愛恋は、じっとアサシンの顔を見る。


「……ヘイ、人々!怒りに燃えるタナカ・メイジンを釈放しろ!」
ややあってアサシンは一つの歌を口ずさみだした。

「振り上げた拳をどこに振り下ろす!?そのくらい自分で考えろ、この大馬鹿野郎!
その怒りは本物か?!奴らの与えるファストフードな憎悪か?!奴らは同士討ちを狙ってるぜ!」

安易な暴力ではない正しい怒りを解放しろ、自身の眼で真実の敵を見据えろという激しい歌詞のその曲を歌うアサシンは、
先程までの機械のような危うい雰囲気とは遠い、幼い少年のようだった。

「……いい曲だな」
聞き終えた愛恋がポツリとつぶやく。
「俺の父さんの曲なんだ。…俺を人間にしてくれた曲だ」
アサシンは口の端を少しだけ吊り上げると
「真実を求め、広げようとする人はどうしてあんたや父さん、キツネ・ムレ・チイサイ(KMC)・レディオの皆みたいな頑固者ばかりなんだろうな」
とため息交じりに漏らす。

脳裏によみがえるのはKMCのクルー――真実を求め、解き明かし、己の主義に殉じ散っていった人達。
二人目の父、カンダ・ノボルバシ――アサシンを人へ戻してくれた亡父。
そして最後の父ヒナヤ・イケル・タニグチ――DJゼン・ストーム。
自身が死の瞬間まで守り抜こうとした誇り高きアングリー・タナカ・メイジン。
アサシンにとってかけがえのない人々の姿であった。

目の前の少女はどことなく彼らと似ている。
自身の主義にどこまでも殉じようとする覚悟と強さは、アサシンにとって眩しいものだった。

一度全てを出し切り走り抜け、燃え尽きたと思っていた全身にカラテが漲っていくのを感じながらデリヴァラーはマスターへ話しかける。
「俺は聖杯にかける望みはない」
「そうなのか」
「ただ、他に望みができた」
「教えてもらえるだろうか」
「俺は父さんと俺自身が世界へ伝えた言葉が、どんな風に届いたのか知らない。
父さんがどうなったのかもわからない。
だから今度は、あんたが真実を解き明かし、伝えるのをきちんと最後まで見届けたい」
「! それでは…」
「ああ、アコ=サン。
今から俺は、あんたの脚で、盾で、銃だ」

アサシンのぶっきらぼうな誓いを聞いた愛恋の顔が、彼の前で初めて笑顔を作る。
「ありがとう、アサシン報道員」

こうして、栄えある報道部は新たな部員を加え、再び行進を始める。
二人の歩みを、愛恋の肩にとまったマリンブルーのフタホシコオロギがそっと見つめていた。


【クラス】
アサシン
【真名】
デリヴァラー/ニスイ・タニグチ @ニンジャスレイヤー
【パラメーター】
筋力 C+耐久 D+敏捷 B+魔力 C幸運 E宝具 A+
【属性】
 中立・善 
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは難しい。
【保有スキル】
心眼(真):C 
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

ニンジャ:C 
古代日本をカラテで支配した半神的存在であるニンジャの魂、ニンジャソウルを宿すものである。
常人はニンジャを視界に入れただけでニンジャリアリティショック(NRS)と呼ばれる恐慌状態に陥る。
反射神経と耐久力・筋力にボーナスが加わる。

戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

痛覚切除:A
彼が宿すコロス・ニンジャクランのソウルのスキル。
文字通り痛覚を遮断し、圧倒的な継戦能力を獲得する。


【宝具】
『殺戮空間・憎悪(キリングフィールド・ヘイトレッド)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:2人
アサシンが宿したコロス・ニンジャクランのソウルに由来する固有結界。
「コロス!」というシャウト共に発動し、対象と自身を水墨画めいたモノクロの空間に隔離するジツ。風景は彼が幼少を過ごした違法工場街となる。
結界内にはアサシンにまつわる死者のビジョンがいたるところに転がっており、
また結界内では宝具・魔術の類は機能せず、銃で武装したアサシンに対し素手での殺し合いを強要される。
さらにこの空間はアサシン含め結界内の全ての人物の心身に悪影響を及ぼす。

【weapon】
プラズマ・カタナ及び無数の銃器
コートの下に隠された武装。これを用いて冷静な判断力で次々と雑魚を掃討していく。

【人物背景】
ニンジャスレイヤー第三部の一エピソード「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」に登場するニンジャ。
幼少期をチャイルドソルジャーとして生きていたところをカンダ・ノボルバシとヒナヤ・イケル・タニグチ(DJゼン・ストーム)によって拾われ、
彼らによって人としての感情を得る。
ノボルバシの死後タニグチを父として育った彼は、父が反戦放送の終了後に体制側にとらえられたことを知り単身治安部隊に歯向かい死亡。
しかしその遺体にニンジャソウルが宿りニンジャ・デリヴァラーとして蘇生、父を体制から
救い出すと父とともに彼の主催する反戦レディオ「キツネ・ムレ・チイサイ(KMC)」へ合流する。
その後は反戦放送と体制の糾弾を続けるKMCに対し体制側から送り込まれる
大量の治安部隊と、体制の陰で暗躍する巨大組織「アマクダリ・セクト」の邪悪なニンジャと戦い続け、
ついにはKMCのクルーを守り切れず見捨てて父を抱え逃亡する羽目になった。
進退窮まった父子はネオサイタマTV筆頭株主カラカミ・ノシトを人質に電波ジャックを行い、陰謀をたくらむ巨大組織の悪行を糾弾する計画を実行する。
カラカミ自身がその組織の大幹部であることも知らず……。


【サーヴァントとしての願い】
愛恋の行く末を見届け、生還させる。
【基本戦術、方針、運用法】
基本的には気配遮断で敵陣に近づいてから、優先して倒すべき敵を冷徹に見極め的確に武器でもって
仕留めていくスタイル。
自身より実力が上の者との戦闘では、『殺戮空間・憎悪』を用いて敵の体術以外の全ての選択肢を奪い取った上で
自身は手持ちの火器を使い押し切る戦術を取る。
結界外部にマスターである愛恋を取り残したら危険な場合には彼女ももろともに結界にしまってしまうこともあるが、
彼女が結界内の精神攻撃にどれだけ耐えられるかは未知数。

補足:ニスイが作中でKMCに抱いたような苛立ちを愛恋に対して向けていないのは
全てを出し切って死んだ後だというのが大きいです。
仮にヘイトレッド中盤辺りから登場していたのならもう少し刺々しい態度だったでしょう。


【マスター】
南風森愛恋@ムシウタ
【参加方法】
有夏月と共に落ちた花壇の土の中にゴフェルの木片が埋もれていた。
【マスターとしての願い】
聖杯戦争の裏に隠された真実を正しい形で暴き、人々へ伝える。
【weapon】
デジタルカメラ及びボイスレコーダー
真のジャーナリスト必携の取材道具。これを用いて彼女は悪者の悪事を暴くのだ。
【能力・技能】
推理力・洞察力・判断力などジャーナリストに求められる能力はどれも水準を遥かに超えたレベルで有している。
また精神力もずば抜けており、自身を虫憑きにして敵をおびき寄せるといった策を実行して見せる・自身の死すら前提として世界に虫憑きの真実を伝えようとするなどすさまじいものがある。
虫憑きとなったことで彼女が得たマリンブルーのフタホシコオロギは、周囲のアンテナなどを利用し広範囲に電波を飛ばす能力を持っている。
【人物背景】
ムシウタ7巻「夢遊ぶ魔王」の主要人物。
幼いころから元フリーカメラマンだった祖父と共に写真を撮り続けた彼女は、
平和を愛していた祖父が戦場という地獄に真実を追い求め死んだことから祖父が求めた真実を自身も知ることを求めている。
一時期はそれゆえに暴走し、虫憑き(作中で登場する、虫と呼ばれる怪物を宿す人々)の事についてあれこれ嗅ぎまわるだけでなく、
小さな田舎町の中のあらゆる不正・悪徳を暴き、人々の前へ曝け出してしまい孤立することとなる。
自身の行いを悔いあらゆる取材活動を止めていたところに「虫憑きは恐ろしい怪物である」という「真実」を世界へ広めようとする存在、
「魔王」が自身の住む町で暗躍していることを悟り、もう一度立ち上がる。
「虫憑きとは本当に恐ろしい怪物なのか」を知るために作中で虫憑きにかかわる情報を秘匿し虫憑きを管理する組織の一員である
緒方有夏月を自身の部活へ引き入れ、彼の在り方から「虫憑きは普通の人と変わらない存在である」ということを確信した彼女は、
魔王が誤った真実を伝えようとするのを阻止し、自身の知る真実を広げようと戦うことになる。

【方針】
『方舟』内の世界を巡り、様々な観点から考察を行うことで真実を探っていく。
その過程で助けられる人々は助け、ともに真実を探ってくれる仲間も探すことにしている。