─────始まりは、偶然だったか、必然だったか。

魔法少女───陰ながら街を守り、人々を助けるその姿に、彼女は憧れた。

しかしそれは宇宙人が自分達のために作った単なる釣り餌で。

魔法少女は皆例外無く、いずれ人々に呪いを振り撒く魔女へと成り果てる。

彼女は常に傍観者だった。

彼女は常に守られ、助けられる側だった。

そして彼女は友人達を、ただその目の前で失い続けた。

さりとて想いだけで何が変わるわけでもない。

どれだけ思い悩んでも彼女の時間は止まらない。

どれだけ悲しみ嘆いても彼女の時間は戻らない。

やり場の無い、どうにもならないやり切れなさをその胸に抱えたまま。

今日も彼女は眠りに付く。










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「─────以上がこの聖杯戦争という戦いについての概要です」
「……………」

天空に浮かぶ月のよく見える夜。『方舟』の内部に作られた虚構の町。
町中のどこにでもあるような民家の一室、そこにいる少女2人。
家の一室のベッドの上で起き上がり、困惑気味に目の前に立つ相手の話を聞く桃色の髪の少女──鹿目まどか。
まどかに何処となく穏やかな雰囲気で話かける、まどかより数歳程度上の外見に黒羽付きの黒衣を着る銀髪の少女──サーヴァント。
聖杯戦争の参加者──であるはずの二人一組の主従。

「この空間はあくまで月にあるムーンセルが構築し、用意した仮想空間ですが、
 霊子変換された魂と物理的に存在する肉体の繋がりが無くなったわけではありません。
 この空間で死亡すれば…おそらく現実の世界に戻る事も出来なくなるでしょう」
「……仮想空間って…そんな……だってここ…私の部屋です……さっき寝る前と…何も変わってない……」

まどかの目の前の…まどかが自分の部屋で就寝していた所、夜中に目が覚めたら突然現れたこの女性。
サーヴァントとかキャスターとか名乗るこの女性が言うには、今自分達がいるこの世界は現実とも夢とも別の物だという。
しかしこの部屋は紛れもないまどか自身の部屋だ。
中の広さも、壁紙の色柄も、家具の位置も、窓の外の風景も、確実に全部自分の部屋のそれだ。
毎日ここで過ごしているのに間違えるわけもない。

「俄かには信じられない話ではあるかもしれませんが…
 この空間の構造物はムーンセルが聖杯戦争の参加者達の記憶を読み取り、その記憶を元に作成しています。
 この家は…いえ、この周辺一帯はおそらくあなたの記憶を元にしてこの空間内に再現されているのだと思います」
「………」

まどかは未だキャスターの話について戸惑いを隠しきれない。
本来ならマスターにはムーンセルから聖杯戦争の知識を与えられているはずなのだが、
どういうわけかまどか本人は聖杯戦争に関する事を全く理解していなかったため、キャスターが全て一から説明する事になっていた。

「それからこのアークセルには、親機と言えるムーンセルにアクセスして初めて辿り着く事が出来るはずの場所です。
 アクセスするにはゴフェルという特殊な木材が必要なはずなのですが…何か心当たりはありますか?」
「…分かりません……ゴフェルって名前も…初めて聞きました……」

さほど神話や伝説の類に精通してるわけでもないまどかはゴフェルの木など見た事も聞いた事も無い。
最近何かの木片、あるいは木製の物を拾ったり貰ったりしたという事も無かった。
当人にとっては何から何まで寝耳に水な話。

「…それでも、自覚は無くとも、あなたにはこうしてムーンセルから令呪と私が──サーヴァントが与えられています。
 一応、木に関してもあなたが地球で気付かない内に接触してしまった可能性も全く無いとは断言しきれません。
 結果的にはあなたはムーンセルにマスターとして認識されているものと考えて間違いないでしょう」

まどかは自身の手の甲に刻まれた赤い紋様──三画の令呪を見る。
それを持つ者の運命共同体にして剣となる、英霊たるサーヴァントとの契約の印。
サーヴァントへの絶対命令権にして、切り札ともなる使い捨ての強化装置。
そして、万能の願望器たる聖杯を掴み取るために聖杯戦争に挑む者であるマスターたる証。

ここが地球ではない、現実にある世界ですらない作り物の世界であるという実感は未だ乏しかった。
魔法少女や魔女のそれを上回るような突拍子もないような話。
しかしキャスターが口から出まかせを言っているようにも感じられなかった。

「おそらくは今頃あなただけでなく、他にも何人ものマスターが記憶を取り戻し、サーヴァントを召喚しているはずです。
 そしてそれぞれの抱く願いのために戦いを始める事でしょう。そういう意味ではこの聖杯戦争はすでに始まっているとも言えます」

願い───そういえば、まどかがキャスターから聞いた限りの内容では、
普通に考えればこのサーヴァント…キャスターは聖杯を目当てにわざわざやってきているという事になる。
やはりこの場にこうして出てきたからにはキャスターにも何か願いがあるのだろうか、少し、気になった。

「キャスターさんにもやっぱり…何か願いって…あるんですか…?」
「そうですね…。聖杯の力で叶えたい願いというのなら無い、という事になるのでしょうか。
 …少なくともこういった殺し合いに勝利する事で聖杯を手に入れたいとは思いません」

どこか思う所があるかのようにキャスターは言う。

「じゃあどうして…聖杯戦争に…?」
「可能性として考えられるのは相性でしょうか。通常ムーンセルが配するのはそのマスターに適する、類似すると判断したサーヴァントです。
 これといった願いを持たない者がサーヴァントとして召喚されるというのも別段珍しい事ではありません」

サーヴァントは通常、マスターと似た性質を持った英霊や何らかの縁がある英霊、
もしくはマスターが用意し、召喚の際に使用された触媒に対応した英霊が呼び出される。
月の聖杯戦争の場合、ムーンセルがそのマスターと合うと考えた英霊がサーヴァントとして宛がわれる場合が多い。
そこにサーヴァントが持つはずの願いの有無はさほど関係は無い。
現にこれまでムーンセルが観測してきた聖杯戦争では、むしろ聖杯にかける願いを持つサーヴァントの方が珍しいくらいであった。

「とはいえ、これはあくまで全体的な傾向というだけですから、私達がこのパターンに当てはまるのかについては何とも言えませんが…
 それから……一応、私の方からも伺っておきたいのですが……マスターには何か聖杯で叶えたいと思う願いのようなものはありますか?」
「…………私…………」

表情が曇り、答えに詰まる。
それは最初から分かっててこの場にやってきたかどうかという事は関係は無い。
聖杯が欲しいと思ったのなら戦わなければならないという事。
他人の願いや命など纏めて叩き潰しに行くという事。

「………私は……私………嫌です……こんな…殺し合いなんて……やりたくないです…そんなの……
 聖杯なんていらないです……願いも何もありません………今から…その……マスターなんてやめられないんですか…?」

まどかにはこの聖杯戦争に忌避感を覚える事は出来ても、聖杯目指して戦おうなどという気には到底なれなかった。
それにまどかは知っている。たとえ聖杯がキャスターの言う通りにどんな願いでも叶えられる物だったとしても、
本当にどんな願い事でも頼めば叶ってそれでハッピーエンド、なんて夢のような話は実際には無いのだと。
都合の良い願いを叶えた後はそれ相応の対価を支払わされる結果になるという事を、鹿目まどかはすでに知っている。
『どんな願いでも叶える万能の聖杯』という売り文句など、とても鵜呑みに出来るような物ではないのだと。

「…聖杯戦争エントリー後のリタイアは許可されておりません。
 仮に何かリタイア出来る方法があったとしても……申し訳ありませんがその方法は私には分かりません」
「……………」

しかし今更な話、仮にどれだけ嫌がったとしても突然放り込まれたこの戦いから逃げ出す事さえ許されないという。
これではまるで人間を『方舟』と言う入れ物に入れて強制的に戦わせる、儀式。
互いに食い合わせ、濃縮させ、最後に残ったただ一つの願い、欲望だけを引き上げる……一種の蠱毒のようだ。

「………………私………あの………やっぱり……分かりません………その……ごめんなさい………」

それでもまどかにはどうすればいいのか分からない。どうしようもない。八方ふさがりにしか感じられない。
そもそも何故いきなり自分がこんな所に引っ張ってこられたのか全く見当もつかない。
目を伏せ、俯き気味に、しばらく悩んだ後に弱々しくも返答する。

「…何も謝るような必要はありません。では…それならひとまずは休んで少しでも気持ちを落ち着けるのがよろしいでしょう。
 他のマスターやサーヴァントに捕捉されないよう、この家に私達がいるとは分からないようにセキュリティを張っておきます」
「……はい……」

一発解決出来るような閃きなど無い。進む道も戻る道も見つからない。どこを向いたらいいのかさえ分からない。
見通しが明るくなるような要素など何も出てこない。
何も無い所からいきなり本のような物を出し、何かを始めたキャスターの勧めにまどかはただ頷く事しか出来なかった。










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─────聖杯戦争、か…。話には聞いていたがまさか自分がサーヴァントとして召喚されるような事になるとはな…。
…だがそれよりも今は私ではなくマスターの方が問題か。
聖杯戦争は自らの意思をもって参加する物だと聞いていたが、見る限りマスターには何も無い。
方舟へ至るための鍵も、聖杯戦争のルールやNPCとしての記憶も、求める願いも、戦う力も、戦おうという意思さえも。
戦意に至っては無いどころかマイナスであるとさえ言えるか…。自力でムーンセルにハッキングを行ったという事も無いだろう。
元々聖杯戦争に参加するつもりは無かった、という所に起因していると考えたとしてもやはりおかしな話ではある。
…現状で確かな事は言えないが…いずれにせよこうして喚ばれた以上はマスターをこのまま放ってはおけない。
とりあえずはどうにかしてマスターを地球に帰す方法でも考えてみるべきか─────





─────みんな、みんな死んじゃった。マミさんも杏子ちゃんも、さやかちゃんも。
なんでこんな事になっちゃったんだろう。誰もこんな結果なんて望んでなかったはずなのに。
それに今度は聖杯……何でも願いがかなうって、キュゥべえの言ってた事とそっくりだ。
きっとこれも絶対まともな物なんかじゃない。なのにそんな物のために殺し合えなんて…。
それもどうして私なんだろう。魔法少女になろうとしなかったから?さやかちゃんを助けられなかったから?…ばちが当たったのかな…?
やっぱり……分からないよ…………どうして………こんな……………さやかちゃん達だったら……どうするのかな………。
さやかちゃん……マミさん……杏子ちゃん………ほむらちゃん………私………私─────


【マスター】
鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ

【参加方法】
不明

【マスターとしての願い】
特に無し

【weapon】
特に無し

【能力・技能】
運命すら覆すほどの魔法少女としての素質を持っているが、キュウベえとの契約をしていない為、「素質がある」だけの普通の少女である。
もし彼女がキュウベえと契約していた場合には魔法少女としての武器は薔薇の枝をモチーフにした形状の弓矢で、杖状に折り畳まれた状態から蕾が花開き、弦が展開される。
変身後の衣装はフリルやリボンをあしらったファンシーで可愛らしい、いかにも魔法少女的なドレスとなる。ソウルジェムはチョーカーに装着される。

【人物背景】
見滝原中学校に通う中学2年生の少女で、クラスでは保健委員を務めている。桃色の髪を母親の勧めの赤いリボンで2つに結っている。
10月3日生まれ、血液型はA型、身長は150cm未満で小柄。家族構成は母・父・弟の4人で、母が働き父が家事をするという家庭環境で育つ。
心優しく友達想いだが、自分を何の取り柄もない人間だと考えるやや卑屈な面があり、「誰かの役に立てるようになりたい」という夢を抱いている。
その平々凡々な人格とは裏腹に、魔法少女としては途方もない素質を持っており、執拗にキュゥべえから契約を迫られることになる。
当初は一見華やかではある魔法少女に夢を見ていたものの、マミの死やソウルジェムの真実に直面するたびにその認識を改めていき、
魔法少女としての契約に踏み出せない自分の臆病さに迷いながらも、「当事者になれない傍観者」という立場で他の魔法少女に干渉していく。

【方針】
分からない。
でも聖杯戦争はやりたくない。


【クラス】
キャスター

【真名】
リインフォース@魔法少女リリカルなのはA's

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力D 耐D 敏捷C 魔力A++ 幸運A++ 宝具E~A++

【クラス別スキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“結界”を形成する事が可能。

道具作成:A+
魔力を帯びた器具を作成出来る。
自身の騎士達の物なら宝具さえ作り上げられる。

【保有スキル】
高速思考:B
思考速度の速さ。
膨大な魔術データの運用管理を行うための存在でもあるキャスターの情報処理能力は人間のそれを上回る。

防壁破壊:C
神秘を帯びた攻撃による防壁破壊。
魔力防壁の破壊判定を行う。
判定に失敗した場合でも、防壁の防御力をわずかに減少させる。
減少値は防壁破壊のランクに比例する。

蒐集:A
他者の魔術回路を摘出して吸収する事で魔力を得られる他、その者が持つ魔導技術を自身の宝具にコピーして使用出来る。
コピーした魔術は自身にとって使いやすいように改変する事も可能。
一度魔術回路を吸収した相手に再度このスキルを使用する事は出来ない。

従属行動:A
主君に対する従属。
マスターが存在する限り、聖杯戦争の枠を超えた現界を供給なしに可能とする。

【宝具】
『夜天の書』
ランク:E~A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
かつて主と共に世界を旅し、様々な魔術を記録してきた魔導書。
キャスターはこの宝具の管制人格(マスタープログラム)であり、この宝具はキャスターそのものであるとも言える。
キャスターの使用する魔術は魔力を燃料にして発動するが、その術式は科学的な理論を元に構築された物理現象に近いと言える物であり、
その矛盾によりサーヴァントの対魔力は、キャスターの魔術を魔術であると認識出来ずその効果を発揮しない。

『夜天の光と祝福の風(リインフォース)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
キャスターの持つ融合騎としての機能を用いて他者に融合し、能力の強化を行う。
融合相手は上記の宝具を用いて魔術を使用出来るようになり、各種行動でもキャスターの補助を受けられる。
融合相手ではなくキャスターが主体となって融合する事も出来るが、この場合融合相手は大きな消耗を強いられる。

【人物背景】
闇の書に内包されているヴォルケンリッター同様のプログラム。主と融合して魔力の統制、及び発動を行う。
主と肉体・精神の融合を果たすことで主の魔法の手助けとなる「融合型デバイス」としての機能も発揮し、
これまでに蒐集した膨大な魔法データを蓄積したストレージとしての「夜天の書」を用いて、莫大な魔法を使うことができる。
人の姿を取るときは、長い銀髪と深紅の瞳が印象的な若い女性の姿をしている。外見年齢は10代後半。

【サーヴァントとしての願い】
特に無し。
一応もう一度生前の主に会えたらいいと思ってはいるが、聖杯戦争に勝利する事でそれを達成しようとは考えていない。

【基本戦術、方針、運用法】
自分達の生存を第一に考える。
マスター側がぶっちゃけ何も出来ないので細かい所は全部サーヴァント側に丸投げしちゃった方がいいかも。