――曰く、“狂気(Lunatic)”の語源は“月(Luna)”であるという。



「社会にはその社会にふさわしい法があり、それは最もふさわしい正義によって運用されるべきだ」


 方舟の世界を見下ろす形で立ち並ぶ高層ビルの屋上に、下界を睥睨する影が一つ。
 しかしその姿は奇妙という他なかった。たなびくマントに包まれるは、白・青・緑の全身に密着したスーツ。
 まるでコミックブックから抜け出してきたかのようなその姿。
 しかしその顔を覆う仮面には不気味な表情と手形のマークが描かれ、とても『ヒーロー』のそれとは思えなかった。


 ――男の名はユーリ・ペトロフ。この姿においては、『ルナティック』の名で知られている。


 表の顔は都市シュテルンビルトのヒーロー審査官兼裁判官。
 しかしその真の姿は、闇から闇へと暗躍し悪人を己の正義で処刑する、謎の怪人。
 HERO TVのヒーロー達とは別の正義によって動く、ヒーローであり殺人者であった。

 そんな彼が、月に近づく「方舟」の噂を耳にしたのは限りなく偶然に近い。
 その日処刑した罪人の一人が、そんな根も葉もない与太話としか聞こえない世迷言を口にしただけだ。
 命乞いの取引として罪人が震える手で手渡したなんとかの木片というガラクタは受け取り、
 それはそれとしてその罪人はその場で消し炭にして、それですべては片付いたはずだった。

 しかし頭のどこかで引っかかっていた。万能の願望機。あらゆる願いを叶える聖杯。
 だから調査した。月。ノアの方舟。ゴフェルの木片。そして、聖杯戦争。
 やはり馬鹿げている、というのが最初の印象だった。しかし、それがもし本当だったら?
 あの罪人が、青の炎で焼かれることなく方舟へと導かれ、まかり間違って万能の聖杯を手にしていたら?
 あの男でなくてもいい。何らかの邪な願いを掲げ、聖杯戦争へ挑む輩がいるとしたら――。

 与太話なら無駄骨を折るだけで済む。真実ならば、それは『ルナティック』が命を懸けるに値する。
 もはや行動しない理由は、なかった。

 そして、今。

 何もかも忘れてこの街の裁判官としての生活を送り、しかし記憶を取り戻しこうしてヒーロースーツに身を包んだ彼は、
 おそらく何十人ものマスターやサーヴァントが存在するであろう街を見下ろし、考える。

(本来ならば、私が為すべきは悪の断罪。殺人者を探し出し、自らの手で裁きを与えること。
 つまり聖杯戦争に加担するすべての存在の排除。この殺人儀式に関わったあらゆる罪人の断罪……)

 そう内心で呟きながらも、それは「違う」とルナティックは確信していた。

(違う。そう、違うのだ。それは私の、『シュテルンビルトにおける正義』に過ぎん。
 方舟には『方舟の法』があり、ゆえに『方舟における私の正義』を掲げねばならない)

 記憶を取り戻し、ルナティックとしての使命を思い出し、ジレンマに煩悶しながらも導きだした、それが結論だった。
 そしてユーリ・ペトロフの、怪人ルナティックの、タナトスの代行者としての、正義とは。

(私が方舟へと足を踏み入れたのは、これが悪しき願いを叶えようとする者の手に渡るのを防ぐためだ。
 ならば、それを裏返せば、この方舟は正しき願いを叶える者の手に渡らねばならない。
 そのための儀式こそが聖杯戦争。そしてそれを正しく運行するのが『方舟の法』。ならば――)

 ルナティックは、新たに獲得した知識から「監督役」と「ルーラー」の存在を想起する。
 本来ならば、彼女達こそが正しい法の執行者となるべき存在なのだろう。しかし、だ。

(公平にあらゆるマスターの存在を許す『監督役』も『ルーラー』も、正しき執行者とは呼べん。
 悪しき願いを掲げる者は断罪する。願いなき力を振るう者は処断する。それが方舟の法、それが方舟の正義!)

 ルナティックの仮面の両目に、青い炎が燃え上がる。

(そして、正しき願いを妨げる者……この聖杯戦争を下らぬ殺し合いと断じ、願いを無自覚に踏み躙る者。
 それもまたこの方舟においては悪だ。己を悪と自覚せぬ邪悪だ。このルナティックが裁くべき者だ)

 正義の執行者として、ユーリ・ペトロフが己に課した使命。
 それは、無能なる監督役やルーラーに代わり、ルナティック自身が聖杯戦争を正しい形で取り仕切ることだ。
 純粋なる願いを持つ者だけが生き残り、互いの存在を懸けて戦うならばそれも良し。
 すべてが邪悪な願いだとすれば、ルナティック自身が勝者となって腐った社会を救済するまでだ。


「――バーサーカー。感じるか、この街に潜む『邪悪のにおい』を」


 ルナティックは己のサーヴァントに呼び掛ける。

 呼びかけに応えるように実体化した『それ』は、遠目には少年のような姿に見えた。
 しかしその肌は青い硬質に覆われ、額には謎の触角機関が出現し、振り乱す髪もまた青い。
 彼は人間であって人間でない。秘密結社によって開発された、生物兵器なのだから。

 ルナティックは自らが召喚したサーヴァントに満足していた。
 理性を持たぬバーサーカーながら、己の法に従って邪悪と判断する者を排除するその在り方。
 そして、その内に秘められた「正義」……それは自分にとって大きな力となるだろうと確信していた。

 バーサーカーが、独特の唸り声をあげる。

「……バル」

 そう。

「バル、バル」

 これが!

「バルバル、バル」

 これが!

「バルバルバルバルバル」

 これがッ!

「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル!!」

 こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ !

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォム!」


 そ い つ に 触 れ る こ と は 死 を 意 味 す る !


「ゆくぞバーサーカー! この街の腐った罪人達にとって、我々は脅威の『来訪者』となるだろう!」


 ふたつの影が、ビルの屋上から跳躍する。
 行く先は闇の中……そして『狂気』を孕む『月』の光の中。


「さあ、魔術師どもよ――タナトスの声を聞け!」


【CLASS】
バーサーカー
【真名】
バオー(橋沢育郎)@バオー来訪者

【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷A+ 魔力C 幸運C 宝具B

【属性】
混沌・狂 

【クラススキル】
狂化:B
「狂戦士」のクラス特性。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
Bランクだと全能力が上昇するが、理性の大半を奪われる。
またバオーはこのスキルの影響で人間態へと戻ることができない。

【保有スキル】
変化:E-
人間から戦闘形態へと変化するスキル。
狂化の影響で武装現象を解除できず事実上失われているが、令呪を用いればその限りではない。

気配感知:A+
気配を感じ取ることで、効果範囲内の状況・環境を認識する。
バオーは範囲内の「感情のにおい」を読み取り、敵味方の判断すら可能。

自己再生:B
通常の自然治癒を遥かに超える再生力。
Bランクでは切断された四肢を繋ぎ合わせて元通りにすることも可能。

戦闘本能:A
宝具によって付加された、狂化していながら的確な戦闘判断を可能とする特殊スキル(後述)。


【宝具】
『武装現象(アームド・フェノメノン)』
ランク:C 種別:対人法具 レンジ:- 最大補足:1人
 生物兵器バオーが宿主と自分自身を守るため、肉体を変質・強化させる現象。
 発動中は各パラメータおよびスキルのランクに上昇修正が加わり、各種戦闘能力を得る。
 さらに、特殊スキル「戦闘本能」をAランクで獲得する。
 このスキルを所持している限り、バオーは「理性」ではなく「本能」で高度な戦術判断が可能となる。
 あくまで生物兵器バオーの本能に従うとはいえ、これにより狂化の「理性の大半を奪われる」デメリットは相殺される。
 なお、バオーは狂化の影響によりこの宝具を解除することができない。
 そのため各ステータスのパラメータは武装現象発現時のものとなっている。

『その名は来訪者(ハシザワイクロウ)』
ランク:B 種別:対人法具 レンジ:- 最大補足:1人
 バオーの肉体に眠る、育郎の自我であり魂こそが「来訪者」の真の宝具。
 以下の条件が満たされた時、バオーの「本能」と育郎の「理性」が同時に発現する。
 《1:激しい戦闘の中など、肉体にアドレナリンが極限まで分泌された状態であること》
 《2:育郎の理性と、戦闘兵器バオーの本能が一致した状態であること》
 《3:何かを「守る」「助ける」「悪に立ち向かう」など、育郎にとって正義と呼べる行動であること》
 発動時はバオーの両目に「瞳」が出現し、狂化のデメリットは言語能力の喪失と膨大な魔力消費のみとなる。
 のちの黄金の精神へと繋がってゆく気高き人間の「生命への讃歌」。


【weapon】
各種武装現象(アームドフェノメノン)が武器。
バオーはバーサーカーでありながら、「戦闘本能」スキルにより臨機応変に使い分けることが可能。


【人物背景】
「橋沢育郎」は、研究機関ドレスの実験体として寄生虫バオーを寄生させられた少年である。
 家族とともにドライブ旅行中に交通事故にあい、仮死体としてドレスに拉致され、仮死状態で研究所に移送される途中、
 偶然予知能力を持つ少女スミレによって目覚め、以降スミレと共に「ドレス」の刺客から追われることとなる。
 真面目で物静かだが、強い正義感と黄金の精神を持ち、最終的にバオーの力を制御下に置くまで至る。

「バオー」は、育郎に寄生した寄生虫バオーが育郎の体を「武装現象」により変質させた生物兵器である。
 宿主の危機に対応して武装現象が発現、様々な特殊能力により嫌いな「感情のにおい」を発する者を葬り去る。
 しかしその力は日々人間的に成長し、やがて育郎とバオーは同一の存在、脅威の来訪者となっていくのだ。


【サーヴァントとしての願い】
不明。

【基本戦術、方針、運用法】
理性を喪失しながらも高度な判断が可能なバーサーカー。
さらに一定の条件を満たすことにより、原作終盤の脅威の来訪者として覚醒する。
正面から切り込ませるだけでも十二分に活躍が可能だが、ネックはやはり多大な魔力消費。
通常の狂戦士よりも遥かに柔軟に戦えることを考慮し、逆に力押しを避けるのも手か。


【マスター】
ルナティック(ユーリ・ペトロフ)@TIGER & BUNNY

【参加方法】
 自らゴフェルの木片を見つけ出し、自身の意思で参加。

【マスターとしての願い】
 悪が正しく裁きを受ける世界。

【weapon】
 炎の矢を射出可能なクロスボウ。
 また戦闘時はルナティックとしてのヒーロースーツを身に纏う。

【能力・技能】
 「青い炎を放つ」NEXT能力。
 単純に焼き払うだけでなく、炎の矢の射出、また噴射しての飛行など能力は非常に強力かつ多彩。
 とはいえ、実体化したバーサーカーに魔力供給しながらの能力使用にはかなりの制限が加わるだろう。

【人物背景】
 シュテルンビルトの法務局ヒーロー審査官兼裁判官。
 その裏の顔は、悪人を青い炎で処刑していく謎のダークヒーローである。
 独自の正義感に則り行動する彼は、ヒーローたちにとって敵でも味方でもある存在。
 しかし、伝説のヒーローだった父を自らの手で殺害した過去は今なお彼を苦しめている。
 決め台詞は「タナトスの声を聞け」。


【方針】
 自らが見出した「方舟の法」に従い、聖杯戦争を正しく運行する。
 生き残らせるべきは「正しい願いを持つ者」、「あくまで戦う意思を持たない弱者」。
 裁きを与えるべきは「邪悪な願いを持つ者」、「願いもないのに力を振るう者」、
 そして「殺し合いを止め、聖杯戦争を妨害することで他人の願いを破壊する悪」である。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2014年07月21日 19:28