とある休日の昼下がり、自家製のチーズケーキが自慢の一品であるその喫茶店は、多種多様な客で賑わっていた。
益体もないおしゃべりに興じる者、本人には聞かせられない悪口や愚痴を話す者、誰にも言えないような秘密を親友にだけ打ち明ける者と様々。
その殆どは自分たちの席の中にしか関心がなくて、他の席に座る者たちが何を話しているのかまで気には留めていない。
だが、店内に一つだけ、他の客の関心を集めるテーブルがあった。

そのテーブルで向かい合っているのは、まだ成人はしていないだろう二人の少女だ。
しかしその身体は既に成熟しており、少女とは言えない大人の女性の色香を醸し出している。
雑誌の表紙を飾るトップモデルたちと比べても何ら遜色ない彼女たちの美貌こそが、周囲の目を引く理由である。

二人とも腰までかかろうかというほどに長く髪を伸ばしている。
片方は芳醇な香りを漂わせる赤ワインを連想させる、深く重い赤髪。
もう片方は気位の高さを思わせる、一点の曇りもなく輝く金髪だ。

先に口を開いたのは、赤髪の少女だった。
くるくると巻かれたサイドロールを右手で弄りながら、声に僅かな苛立ちを含ませ、

「――で、アンタが伊介のサーヴァントってワケ?」
「そうよぉ。私がアナタのサーヴァント、キャスターよん☆」

金髪の少女は、片目ウインクにピースサインと聖杯戦争に臨むサーヴァントらしからぬ態度で問いに答える。
キャスターの瞳はまるで星のように輝いていて――マスターである犬飼伊介は、それを、ひどく気に入らなかった。
何故だか分からないが、無性に気に入らない――それが犬飼伊介が己のサーヴァントに対して抱いた第一印象だった。
とはいえ、伊介が初対面の赤の他人を気に入ることのほうが非常に稀ではあるのだが。

犬飼伊介は職業暗殺者である。つまり、殺し屋だ。
生きるために人を殺す。金のために人を殺す。
ただの仕事で、ただの殺人であるその行為について、それ以上の感情は持っていない。
だから望んだ報酬が何であろうと手に入るという依頼が舞い込んできたとき、伊介は一切の躊躇なく飛びついた。

だが――ミョウジョウ学園10年黒組に転校し、ターゲットの少女を殺すというその依頼を、伊介は遂行することが出来なかった。
失敗した要因は幾つかある。同じく暗殺者側だったはずの一人が、ターゲット側に寝返り、障害になったこと。
無力なだけの少女だと思っていたターゲットが、生き残るという一点に関しては数多の暗殺者の殺意を凌駕する存在だったこと。
だがしかし、それらをいくら並べ立てたところで、伊介が暗殺に失敗し報酬をもらい損ねたという事実が覆ることはない。

(だからこそ二回目のチャンスが回ってきたときに飛びついちゃったワケだけど――
 ただでさえ誰かと組むなんてキライなのにこんなヤツと一緒になるだなんて、ほんとサイアクよねぇ?)

伊介は声と態度にあからさまな苛々が含まれているというのに、キャスターは素知らぬ顔で微笑んでいる。
空気が読めないわけではないだろう。伊介の苛立ちに気付いた上で、その苛立ちを笑っているようにしか見えない。
それが、

「やっだ、おまえムカつくぅ~。殺したくなっちゃう♥」

伊介にとっては、令呪を使う十分な理由となった。
無論、自害の命を下すようなことはしない。伊介とてマスターの一人、サーヴァントを失ったマスターの末路は知っている。
その縛りさえなければ間違いなくサーヴァントの自害を命じていただろうが――
ここはひとまず、決定権はこちらにあるのだということを分からせ、ついでに憂さ晴らしをする程度にしておこう。

「キャスター。これから私のことは、『伊介さま』と呼びなさい♥」

と、犬飼伊介は令呪を使った――はずだった。

「まったくー、ちょ~っとイヤなことがあったからって大事な令呪をこんなところで使おうとするなんてダメだゾ☆」

令呪は、発動しなかった。
マスターを遥かに上回る力を持つサーヴァントを唯一服従させることが出来る絶対命令権は、キャスターに対して何の効果もなかった。
愕然とする伊介を尻目に、キャスターは喋り始める。

「説明の手間が省けたわぁ。これが私の能力――ホントは会話力も必要ないんだけどぉ」

キャスターの言葉通り、伊介の脳内に彼女が知らなかったはずの情報が、次々と流れ込んでくる。
学園都市――常盤台中学――超能力――レベル5――第五位――


『心理掌握(メンタルアウト)』。


「私への命令力は禁止させてもらったわよぉ。令呪は貴重なエネルギー源だから勝手に使ってもらったら困るもの」

いつの間にか取り出したのか、右手にリモコンを持ちながらキャスターは――学園都市に七人しか存在しない超能力者の一人、食蜂操祈は、口の端を歪めた。
片肘を突き、足を組み、椅子に座る様はまるで女帝のよう。
かつて常盤台の女王と呼ばれ、学内の最大派閥の長として君臨していたときと何ら変わらぬ態度で、食蜂操祈は月の聖杯戦争に臨もうとしている。

「――なんとなくキライだと思ってたけど……訂正するわ。伊介、アンタのことが殺したいほどキライ♥」
「あらぁ、キライはスキの反対じゃないのよぉ? それに私はアナタのことそんなにキライじゃないのよねぇ。
 私がその気になれば、アナタの意志力なんて欠片も残さないことだって出来るんだけどぉ……そうしないほうが、面白そうだものぉ」

キャスターは目を細め、己のマスターへ挑発的な視線を送る。
それを受けた伊介は――

「……ハァ、バカらしー。伊介、くだらないことで疲れたくないの♥
 いいわキャスター。アンタがこの聖杯戦争を勝ち抜く力を持ってるのはよ~く分かったから――今だけはアンタの言う通りにしてあげる♥」

ただし、今だけってことを忘れないでね――と、心の内で呟いたのは、キャスターにも伝わっているだろう。
キャスターの能力は、精神の操作だ。読心、念話、洗脳、記憶消去etc……とにかく精神に関係する事柄ならば、なんだろうと操作することが出来る。
その能力を使い、伊介が令呪を使うことを禁止し、言葉にすることなくキャスターの真名と能力を理解させたのだ。

「で、それだけデカい態度取るんなら聖杯戦争に勝つための方策くらいあるんでしょうねぇ♥」
「見ての通り私の能力を使えば、マスターだろうとサーヴァントだろうが思い通りに動かせるわぁ。
 だけど、この超能力は――この聖杯戦争では魔術として扱われるみたいねぇ。
 だから対魔力スキルを持つ三騎士が相手だと、私の支配力も通じないことがあるみたい」

そこで、

「鍵になるのは――令呪よぉ☆」

令呪は、サーヴァントにとっては絶対の命令である。
キャスターが伊介の令呪を無効化出来たのは、令呪というシステムそのものに逆らったわけではなく、令呪を使おうとする伊介の精神に干渉したからだ。
一度令呪が発動してしまったならば、如何に優秀な対魔力スキルを持つサーヴァントであろうとも、抵抗することは叶わない。
そして、キャスターの能力があれば――他のマスターに令呪を使用させ、サーヴァントへの自害を命じさせることすら可能である。

「令呪が一画しかなかったら自害までは難しいかもしれないけどねぇ。
 そのときは動きの抑止力くらいしか出来ないだろうから、マスター同士戦ってもらうことになるわぁ」
「えっ、サーヴァントなのにマスター任せ? ダサッ♥」
「……うるさいわねぇ、適材適所って言葉知らないのぉ?」
「もしかしてサーヴァントのくせに戦闘苦手系? マジでちょーウケる♥」

キャスターがふくれっ面になったところを、ここぞとばかりに責め立てる伊介だった。
これでもまださっきの屈辱には足りないくらい。機を見て全て倍返しだ。

「とーにーかーくぅ。これで私たちは一蓮托生ってことだから――よろしくお願いねぇ。『犬飼さん』」

「あ――やっぱアンタ、すっごく殺したい♥」



【クラス】
キャスター

【真名】
食蜂操祈@とある科学の超電磁砲

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運B 宝具A

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
陣地作成 C

道具作成 E

【保有スキル】
虚弱 C
一般を遥かに下回る身体能力を持つ。
ジョギング程度の速度で走ることすらままならない。

【宝具】
『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~200 最大補足:200
記憶の読心・人格の洗脳・念話・想いの消去・意志の増幅・思考の再現・感情の移植など精神に関する事なら何でも出来る能力。
操作の精度によって同時操作可能人数は変わるが、プログラムに従ってオート動作をさせるだけなら三桁、全身を完全に掌握するような精密操作でも十人は同時に操作可能。
能力使用時には常に持ち歩いているリモコンのボタンに様々な命令を割り当て、それを操作することで能力を安定させている。
効果があるのは人間のみで、ロボットなどの無機物や動物に対しては無力である。

【weapon】
能力使用時に使う複数のリモコンと、それを入れているハンドバッグ。

【人物背景】
学園都市最高レベルの能力区分レベル5の一人で、常盤台中学の学内最大派閥の女王。
星の入った瞳、背に伸びるほどの長い金髪、長身痩躯、そして巨乳と中学生離れした容姿をしている。
実際に作中で「本当に中学生なのか」と問われたことがあるが、食蜂曰く彼女の能力による改竄力ならばどうにでも出来るとのこと。
倫理観や常識が欠けており、極めて自分勝手な性格をしている。無邪気に周囲への迷惑行為をすることもザラ。
身体能力がかなり低く、御坂美琴のジョギング程度の速度にもまるでついていくことができない。

【サーヴァントとしての願い】
不明

【基本戦術、方針、運用法】
極めて強力な宝具を持っているが、逆にこれが唯一の戦闘手段である。
もしも近接戦闘を強いられることになればキャスターに勝ち目はない。
特に対魔力を持つ三騎士クラスはキャスターの天敵であるため、サーヴァントとまともに相対することは自殺行為である。
敵マスターを宝具によって操作し、令呪による間接的な干渉を狙うくらいのことしか出来ないだろう。
手駒として利用できるマスター・サーヴァントを見つけることが出来れば三騎士との戦闘も可能かもしれない。


【マスター】
犬飼伊介@悪魔のリドル

【参加方法】
何でも願いが叶えられると聞き、自発的に参加。

【マスターとしての願い】
勝ち残り、パパとママと三人で一生遊んで暮らせる富を手に入れる。

【weapon】
ナイフ

【能力・技能】
殺し屋として少なくない経験と確かな技術を持っている。
素手、ナイフを用いた戦闘が得意。

【人物背景】
ヘソ出し谷間出しの服を着ている、セクシー&ダイナマイトな美少女。
ムカつくことがあるとすぐにイラつき、当たり前のように周囲に我儘な要求をする。
暗殺依頼として学校生活を送っていたときも勉学や文化祭に対してまったく興味を抱いておらず、暗殺関係にしか興味がないようである。
家族のことをとても大切にしているがそれ以外の人間は心底どうでもいいと思っており、人を殺すことについても何の抵抗もない。

【方針】
キャスターの方針に従って勝ち残りを目指す。