ミリアム・C・タチバナ&アーチャー ◆kiwseicho2
ごめんなさい
あなた
私だけまだ 生きていて ごめんなさい。
◆◇◆◇
月海原学園、茶道室。
弓道場のそばにひっそりと佇んでいる純和風の庵、
その一室の畳部屋に、一人の女性が抹茶を飲みながら静かに正座していた。
ショートの黒髪から一房だけ桃色の髪房が垂れる。
これといって特徴のない整った顔立ち。服装は着物風の和服。黒の羽織に桜吹雪。
日本人ではない。日系人だ。けれど和服を着ているのは、
彼女の夫もまた日系人で、その彼が日本文化が大好きだったから、だと言う。
「濃いグリーンティーをわざわざ取り寄せて……“少し苦いね”なんて言いながら飲んでいました。
私は苦すぎて、当時は飲めませんでしたね。今思えばあれは、安物だったんでしょう」
「その、君の夫は?」
「イラクで。2年前の春でした」
ゆっくり甘い抹茶をすすりながら語る彼女に、
一畳離れて彼女の対面にあぐらするサーヴァントが小さく問いかける。
返事ははっきりとしていた。が、その声からは擦り切れたように感情が感じられなかった。
サーヴァントは少し眉をひそめた。
不味いことを聞いてしまったか。
しかし、それを見越したかのように対面の女性は笑顔をつくった。
「いいですよ。気にしません。二人とも軍属でしたから、いつかはあるかもしれないと思っていました。
思っていただけで、実際に失ってみると――ひどかったですけどね。でも、あの人は今も、私のそばに居ますから」
すると、ぱきん。
と空中に幾何学の花が浮かんだ。発光する五枚の花弁に数個の輪。平たい桜と水面にも似た何か。
そしてサーヴァントと彼女の間の空間から、ずる。
ずる。と、毛深くてごつごつした“男性の腕”が二対、出現した。
「ジョー・M・タチバナ。私の夫です」
“腕”を彼女は紹介した。
対峙したサーヴァントは何も言わずに眼を見開いた。
人と同じくらいの縮尺を持ったその腕は、優しく彼女の頬に触れる。
その腕をいとおしそうに撫でてから、彼女は“アリスの夢”についてサーヴァントに語った。
◆◇◆◇
アリスの夢。
そう呼ばれる超能力が彼女の世界で発見されたのは約二十年前からだ。
発現条件は不明。ただし能力に規則性はある。
ひとつ。発動時に“鏡の門”と呼ばれる円環状のヴィジョンを空間に出現させる。
ふたつ。それと同時に、頭にあったイメージの一つを現実空間に召喚する。
みっつ。この召喚できるものは基本的に一人につき一つ。
アリスの夢が発現した時にもっとも強くイメージしていたものが、勝手に能力になるのだという。
「夫が死んだあと……私は眠れない夜を続けていました。
軍から除隊寸前になるくらいに憔悴していましたが、しかしある日、夢を見たんです」
夫の腕に抱かれる夢。
彼女――ミリアム・C・タチバナが見たのはそんな夢だった。
その夢は彼女をひどく安心させて、そして彼女にアリスの夢(夫の腕)を発現させた。
彼女は腕を撫でながら続けた。
「研究の結果、この腕(このひと)はちゃんと生きているそうです。
大きさは自在に。数も体力が続く限りいくつでも。
訓練で、感触を残したまま透明にできるようにもなりました。始点の射程はおよそ30m」
「……まるで武器だな」
「それでも、武器ではありません。……と言っても、嘘になりますね。
軍がこの力に目をつけて、私に訓練を積ませ、武器にした。それはまぎれもない事実ですから」
「嫌じゃなかったのか?」
サーヴァントが問うと、ミリアム・C・タチバナは「もちろん嫌でしたよ」と答えた。
「でも、そうしなければいけなかった。私の力(このひと)の有用性を示して、
この力をもっと研究してもらって――原理を解明してもらって。
そうしてこの、自在の力をさらに高いレベルでコントロールできるようになれば」
腕だけでなく、身体ごと夫を召喚できるかもしれない。
彼女はその可能性に、全てを賭けた。
夫の腕を血に染め、汚し、幼い少女を拘束し、追いつめて、銃で撃ち、
卑しいと笑われても可笑しいと思われても、狂っていると自覚しても。それでももう一度会うために。
「そのためならば、悪魔に魂を売ってもいいと思ったんですよ、アーチャー」
「……じゃあ、聖杯に望むのも」
「ええ。もちろん、夫の蘇生です。
突然こんなところで茶道の講師をしている自分に気付いたときは驚きましたが――、
願ってもない。記憶から本人を再現できるだなんて。まさに私が望んでいた力です」
「……」
「私は聖杯を望みます。
理不尽に奪われたものを、理不尽で取り返す。それだけの話です」
「そのために君は戦争を起こすのか」
「愛娘のためにたった一人で戦争を起こした元大佐に、そう言われても説得力がありませんね」
貴方なら、私の気持ちを理解してくれると思うのですが――。
と、ミリアム・C・タチバナは対峙していたアーミー装備の男に向かって無表情に笑いかけた。
アーチャー……ジョン・メイトリックスは、
そんな彼女の仮面じみた顔の下に押し込められているものを感じ取って、思わず眼を細めた。
この女性はたった一人の家族のために世界を敵に回しているのだ。
そして確かにそれは、メイトリックスがかつて愛娘のジェニーのために行ったことと、寸分の違いもない。
あの時殺し、傷つけた者たちの中には根からの悪人で無い者も居たはずで、
それでもメイトリックスはジェニーを救うためにそれらに銃を向けた。優先順位だ。
優先順位なのだ。
誰もが自分の周りのすべてのものに優先順位をつけて生きている。
そういうしがらみが嫌になって山へと隠れたメイトリックスにさえ、娘という優先順位は残っていた。
それと同じに、彼女の絶対的な優先順位に夫の存在があったとして。彼女がその他をすべて捨てていたのだとして。
他人がそれをどうこう言えるわけがない。それを当人がそう決めたのだから。
「……いいだろう。ミリアム・C・タチバナ元少尉」
だからジョン・メイトリックスは、それ以上彼女の望みには何も言わなかった。
「ミニーCでいいですよ。夫はいつも、私をそう紹介していました」
「そうか。なら、俺もコマンドーと呼んでくれ。コードネームだ。アーチャーよりは聞こえがいい。
こんなふざけた土地で俺の力がどの程度通用するかは分からないが……分かった、君に協力しよう」
「……いいんですか? 私に協力して。
あなたはこう、私と比べると、正義感にあふれているように見えたのだけれど」
「君を守るためだ」
コマンドーはミニーCの目を見て言い放った。
今度は、ミニーCが目を丸くする番だった。コマンドーは肩に銃器を出現させながら続ける。
「俺と同じくらいの大馬鹿野郎である君が死なないようにするためにだ。
どうせ俺が何を言っても君は止まらないだろう。なら、サーヴァントとしての優先順位は、
君を止めることじゃない。君の望む限り君を走らせてやることだ」
「……!」
「きっと神をも殺すような戦いになる。それでも覚悟を変えないなら、ついてこい」
俺が神を殺そう。
短く告げ、障子戸を開けてコマンドーはすたすたと歩きだした。
あっけにとられたミニーCは少し動くのが遅れた。
飲み忘れていた抹茶を急いで飲んで、かつての精鋭部隊の隊長の後ろを追いかけた。
「……ああ、危なかった」
後ろをついてくる“腕”に意識を向けながら、ミニーCはちょっとばかり動揺した。
「ごめんなさい、あなた……。一瞬だけ、彼に見とれてしまったわ」
◆◇◆◇
どこかで 歯車が狂ったことには
とっくに気付いていて
それでも 立ち止まれずにいる
そんな私を ――彼は守ると言った。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ジョン・メイトリックス@コマンドー
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷D 魔力E 幸運B 宝具D
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【保有スキル】
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
また、騎乗Dで乗りこなせる乗り物ならば、
他者がすでに所有・騎乗している乗り物を強奪して騎乗することが可能。
戦闘続行:A
戦う意思と武器がある限り、戦闘を続行できる。
陣地制圧:A
敵陣地に乗り込んでの制圧戦におけるコマンドー無双の伝説。
作成された陣地、あるいは他者の固有結界の中でのみ、
筋力・耐久・敏捷のパラメーターがAになり、持っている武器がすべてDランクの宝具として扱われる。
【宝具】
『武器庫への扉(ゲート・オブ・コマンドー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:0
民家などの扉をコマンドー自身の武器庫、
あるいは米軍の放出品店への扉に変えることができる次元連結宝具。
ここからコマンドーは無制限に様々な種類の銃火器・地雷などを調達することができる。
ただしそれらの銃火器は通常、宝具にはならない。
武器庫に入れるのはコマンドーのみで、3分経ったら出なければならない。
【weapon】
HK91、スペツナズ・ナイフが初期武器。
ここから宝具によってクレイモアやロケットランチャー、バルメM78などを無尽蔵に調達可能。
【人物背景】
かつて精鋭部隊・コマンドーの隊長として名を馳せていた。
軍を退役し愛娘・ジェニーと山荘での静かな生活を送っていたが、
逆恨みによりジェニーを連れ去られ大統領暗殺を強制された事件に置いては、
元コマンドー隊長としての能力を遺憾なく発揮して暗殺を強制したアリアス一味を壊滅させた。
【サーヴァントとしての願い】
ミリアム・C・タチバナ元少尉が満足するまで彼女の蛮行をサポートする。
【基本戦術、方針、運用法】
攻撃が最大の防御。
待ちの戦術ではスキルを生かせないのでガンガン攻めるべきだろう。
任務遂行のためなら略奪も厭わないことは分かっているが、
女子供や戦闘意思のない者も参加者なら殺すかどうかは意見の分かれるところ。
【マスター】
ミリアム・C・タチバナ@アリスと蔵六
【参加方法】
不明。研究機関でゴフェルの木片に触れたか。
【マスターとしての願い】
夫の召喚
【weapon】
拳銃を所持。銃の種別は不明
【能力・技能】
「アリスの夢“夫の腕”」
ミリアム・C・タチバナの夫の腕を創造することができる。
腕の数や大きさに制限はなく、透明化も可能。ただし体力を使う。
体力がゼロになると創造は不可能になる。体力は食事を多量に取ることで回復することができる。
【人物背景】
リュウコミックス「アリスと蔵六」主に2巻で敵として活躍する未亡人。
元軍人で夫を失い、途方に暮れていたところ夫の腕を具現化できるようになった。
腕だけでなく身体を具現化するために、研究施設から逃げた主人公の幼女(なんでも具現化できる)
を連れ戻して監禁、容赦なく“腕”で押さえつけたり脚を撃ちぬいたり化け物よばわりしたり
軍人らしい非情さを見せつけた。しかし666の兵器と13の魔道書を具現化する魔法メイドの前に敗れる。
「アリスと蔵六」は日常ものに見えてバトルはチート祭りで、
かと思えば随所に重い設定が垣間見えて中々せつない。ミニーCは出ないが1話が以下で試し読み可能。
ttp://www.comic-ryu.jp/_alice/
【方針】
聖杯を手に入れる。ジョン・メイトリックスの協力を仰ぐ。
魔力を食料で補えるので、食糧の確保も急務か。
最終更新:2014年07月20日 19:52