言峰綺礼&アーチャー ◆FFa.GfzI16



言峰綺礼は薄汚れた裏路地にもたれかかりながら、大きく息を吐いた。
なんとか、逃げ切った。
襲撃者はアサシンのサーヴァント。
真命は恐らく『アサシン』そのものであるハサン・サーバッハ。
イカれた殉教者、名前を呼んではいけない偉大なる神へと仕える者。
敵へと思案を巡らしながら肩を大きく落とし、それでも周囲の警戒は怠らない。

なぜ、こんなことをしている。
ひと目から避けるように、後ろめたいことをしているかのように。
これでは、まさしく。

――――『私』そのものではないか。

認めたくない、自身を苦しめる自身を直視しているかのように。
言峰はギシリと歯を強く噛んだ。

「よう、マスター。生きてるかい?」

その言峰の側で、命からがら、といった様子で少年――――アーチャーのサーヴァントは嘲笑う。
身体はズタボロで、フルマラソン後かと思うほどに衰弱しきっている。
しかし、アーチャーは嘲笑っていた。
赤と黒の刺青に全身を刻まれ、下半身に深紅の外套を身にまとったサーヴァント。
真名をアンリ・マユ。
この世の悪意を一身に受け、この世の悪意そのものであれと願われた、ただの少年。
生きたまま悪意に染められ、悪意そのものへと堕ち、少年のまま英雄へと変換されたもの。
彼の本質は虚無であり、根底にこびりついた、本能じみた強烈な衝動以外に感情は持たないはずの英霊。

「アーチャー……」
「アーチャー、アーチャーね。それ、外の人の方の適正なんだけど……まあ、お月様がそれでいいならいいや。
 でもさぁ、ムーンセルくんさぁ、ちょっと緩いよね。もうちょっと俺を見習ってもいいよな。
 マスターもそう思うだろ?」

嘲笑いながら、アーチャーは語りかける。
誰を嘲笑っているのだろうか。
自身という最弱の一角に堂々と居座るサーヴァントを引き当てた言峰綺礼を、か。
あるいは、アーチャーなどというまるでまっとうな英雄のようにまっとうなクラスを与えられた自分に対して、か。
アーチャー、それは借り物の証明であり自身はどこまで言ってもアヴェンジャーでしかない。
現に、何の意味もないアヴェンジャーというクラス適性を持ったまま二重に召喚されている。
いずれにせよ、アーチャーという名のアヴェンジャーは全てを嘲るように笑った。

「少し黙っていろ、アーチャー」

息を殺して周囲を伺う言峰は、嘲りの笑いを浮かべたままのアーチャーを一瞥する。
しかし、ヒヒッ、とアーチャーは笑みを深くし、言峰の視線を物ともしない。
腐っても英霊だからだろうか。
それとも、アーチャーにとって悪意とは自分自身とも呼べる親しい存在だからか。
いずれにしろ、執行者としての威圧感を携えた言峰の鋭い視線に怯みもしなかった。
言峰は深い息を吐く。

「……人殺しに長けているのではなかったのか」
「まあな、俺ほど人殺しに長けた英霊はあらゆる多次元を探しても居ねえぜ。
 俺より早く殺せたり、多く殺せたりする奴は居るだろうが、人殺しの質に関しては誰にも負けないね。
 そこら辺のファッションキチガイモンスターと一緒にしてほしくないってものさ。
 まっ、それはそれとして、あのサーヴァントには勝てないけどな。
 ごめんな、マスター!」
「駄犬め」

にこやかな顔のまま手を合わせて頭を下げるアーチャーに対し、聖職者に似つかわしくない暴言を吐いて言峰は立ち上がる。
手の甲に刻まれた令呪を眺める。
思えば、本来ならば自身が召喚すべきは先ほど襲ってきたアサシンのサーヴァントだった。
それが何の因果か。
自身の側にいるのは、ともすれば自身にも劣るサーヴァント。
宝具にしても、あまりにも使い勝手の悪い物。
媒体らしきものは使わなかった。
故に、召喚されるサーヴァントは自身に近しい存在となる。
このサーヴァントが、軽薄な少年が自身と類似する英霊だとでも言うのだろうか。

「……アーチャーよ。単独行動は弓兵の分野だな」
「おいおい、マスター。
 アサシンとの戦闘見てもそんなこと言えるなんて、正気かよ。
 アンタもアレかい、キの字なのかい?
 これだから神様に仕える奴らは!
 俺の信奉者も体外碌でもなかった、俺は詳しいんだ!」
「危険はない、管理者を探ってこい。
 アレは方舟の根幹に最も近い」

管理者。
この聖杯戦争におけるルールそのもの。
彼女達と争うつもりなど欠片もないが、しかし、この聖杯戦争の根幹に最も近い。
この聖杯戦争に訪れたのは、単なる願いの成就のためではない。
聖職者として、奇跡の回収者として『ノアの方舟』へと近づくことによって、なにか成せるものがあるのではないか。
空虚な自身の根幹に触れる、なにかが見つけることが出来るのではないだろうか。
願望に似た感情が浮かび上がる。
そういった意味では、言峰綺礼もまた方舟に乗るに相応しい人間なのだろう。

「なっ、そ、そいつはごめんだぜ、マスター!
 いくらこの世の全ての人間のケツを拭いて回っているような俺にもやりたくないことってもんがある!
 あの女と関わるとか、それ……嫌だ!」
「……」

狼狽とも言えるほどに表情を変えたアーチャーに対し、言峰は冷たい目のまま右手を掲げる。
それは令呪の使用の暗示であり、アーチャーも後退る。
この得体のしれないアーチャーにしても、ただ『自身を従えるためだけの令呪の使用』を是とはしないようだ。

「ま、まあ、マスター、落ち着けよ。
 腹が減って苛立ってんだって!
 中華でも行こうぜ、中華。さすがに俺はこんなナリだから人前じゃ食えねえけどあの雰囲気嫌いじゃないんだよ」
「興味はない」
「マーボー好きだろ?」
「興味はないと言っている」

苛立ったように言葉を繰り返した言峰に対して、アーチャーはやはり嘲笑うだけだ。
苛立ちが深まる。
目の前の英霊に対しては、無条件の苛立ちを覚えてしまう。
それこそが目の前の英霊の特性――――いや、根源なのかもしれない。
人々の悪意を無作為に引き出す英霊。
この世、全ての悪。
そのことを承知しているのか、アーチャーはどれだけ悪意を向けられても笑みを浮かべ続けるだけだ。

「食べてみなって、病みつきになるぜ。
 なにせ、アンタよりもアンタのことを知ってる俺が言うんだから間違いない」
「お前に何がわかるというのだ、この反英雄め」
「わかるさ、アンタは俺だったからな」

アーチャーは笑みを深め、瞬間、言峰の背筋に嫌な汗が走った。
自身の心臓を、魂を掴まれたような悪寒。
秘密の小箱を開ける行動そのものの無遠慮な悪意が言峰へと襲いかかったのだ。

遠い彼方。
あるいは、近い此方。
言峰綺礼は聖杯の泥を身にした。
それはすなわちアーチャーであるアンリ・マユそのものである。
今のアーチャーは殻を被り、一つの人間を救った行為をムーンセルに観測された状態で召喚された。
アヴェンジャーであるが、アーチャーでもある。
故に、聖杯の泥はアーチャーと根幹を共にするもの。
暗闇の底から星の光を見続ける者。
その根底が憧憬であれ嫉妬であれ、それこそがアンリ・マユ。

「ヒヒッ、爺さんも桜も中々粘ってたけど、アンタは別格だよ。
 アンタほど俺に影響されずに馴染んだ奴も居ないぜ。
 おっと、どっかの英雄王は別枠だけどな。
 っていうかあんな奴居るならさぁ、俺じゃなくてアイツがアンリ・マユになるべきじゃね?
 やっぱおかしいよ、世の中!」
「訳のわからぬことを……」
「まっ、俺の俺による俺のための人殺しの方法の話さ。
 この殺し方は、アンタも絶賛してたんだぜ?」
「……貴様はなんなのだ、私の未来を知っているのか?
 それとも、悪魔であるが故に、出鱈目で私を嘲っているのか?」

アーチャーは応えず、笑みを深める。
悪意そのものであり、同時に慈悲深さを思わせる独特の笑みだ。
この世全てを嘲笑っている。
この世全てである、自分自身を嘲笑っているのだ。

「それはそれとして、話を戻すとだな……あの管理者はな、駄目だ。相性が悪い。
 サーヴァントが英霊の逸話通りに再現されるっていうのなら、アンリ・マユver俺にとっちゃ天敵ってやつだぜ。
 おまけに、あの死に方しといて聖人続けてる奴までも居やがる。
 絶対嫌われちゃうぜ、あの聖人様によ。
 俺は嫌われるのと同情されるのが死ぬほど嫌いなんだよ」
「貴様の異名からは信じられんな」

その言峰の言葉に、戯けたようにアーチャーは畳み掛ける。
言葉尻を捉えておちょくることこそが宝具だと言わんばかりに。

「うっわぁ、この神父様、人を過去だけで判断しやがった!
 この俗人め! アンタみたいなのが俺みたいなのを生み出すんだぜ!」
「……もういい、貴様と話していると頭が痛くなる」
「虚弱児め!」
「しかし、貴様がどのように言葉を並べようともいずれ管理者とは向き合う必要がある」
「……ヒヒッ! そいつは楽しみだな!」

先ほど、命の危機を助けられた相手にどうしてこうまで強気でいられるのだろうか。
言峰は苛立ちと、奇妙な安堵を抱きながら自身の宅へと踵を返した。

「どうした?
 嘲笑えよ、マスター。アンタはまだ生きてるんだからよ。
 生きてるうちは嘲笑えよ、まだまだ苦しいことが待ってるんだぜ」

アーチャーの言葉を無視し、言峰は歩を進める。
サーヴァントの遭遇から避けるために、慎重に。
神の目から逃れるように、悪魔に誘われるように。
言峰綺礼とアーチャーは、影へと消えていった。

【CLASS】
アーチャー

【真名】
アンリ・マユ

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:B

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

単独行動:A+
マスター不在でも行動できる能力。
アンリ・マユ自体が人々の悪意そのものであるため、彼は人が存在する限り存在し得る。

【保有スキル】
呪術:E
アンリ・マユの存在そのものが呪術とも言えるが、アンリ・マユ自身は呪術を扱うことが出来ない。

精神汚染:-
かつては悪意そのものであったアンリ・マユは最上級の精神汚染スキルを有していた。
しかし、エミヤシロウという殻が存在することでスキルを失った。

二重召喚:B
アーチャーとしての召喚されたものの、同時にアンリ・マユはアヴェンジャーとしても召喚されている。

【宝具】
『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
自分の傷を、傷を負わせた相手の魂に写し共有する。
条件さえ満たせば、全ての相手に適用できる。高い魔術耐性を持つサーヴァントであっても問答無用である。
また、「共有」であるため、アヴェンジャーが自身の傷を癒さない限り、相手の傷も癒えることはない。
複数への使用は不可能であり、任意で定めた対象者にだけ適応される。
一人に対して一度だけしか使用出来ない。

『無限の残骸(ホロウ・アタラクシア)』
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:100人
アーチャーかあるいはマスターが死んだ時に発動する、自動的な固有結界。
繰り返される四日間の終わりに現れる亡霊、『無限の残骸(アンリミテッド・レイズ・デッド)』が犇めく世界へと対象者を誘う。
天の逆月へと至るか、生き残ったアーチャーあるいはマスターを消滅されるまで固有結界から逃れることは出来ない。

【weapon】
「右歯噛咬(ザリチェ)」と「左歯噛咬(タルウィ)」という奇形の短剣。
殻であるエミヤシロウとしての特性がそのまま浮き出た形となった。

【人物背景】
この世全ての悪。
この世全ての悪なるものを肯定する反英雄の極地であり、もとはその役割を一身に背負わされた。
延々と蔑まれ、疎まれ続けた結果、「そういうもの」になってしまった普通の人間。
生まれ育った村の呪いによって、人間であった頃の名前は世界から喪失している。
冬木における第三次聖杯戦争にてアヴェンジャーのクラスで召喚され、敗退。そののち、聖杯を汚染した。
第五次聖杯戦争におけるマスター、バゼット・フラガ・マクレミッツの願いによって永遠の世界を顕現した。
その世界でエミヤシロウの殻を被り、繰り返される聖杯戦争へと参加していた。

今回はムーンセルが観測した『繰り返される聖杯戦争』に存在したアンリ・マユがアーチャーのクラスにて現界した。
故に、アンリ・マユでありアンリ・マユでない彼の全てとも言える心象世界を展開する固有結界が宝具として存在している。

【サーヴァントとしての願い】
衛宮士郎の殻を被った者としての漠然とした願いは存在するが、それを叶えるつもりはない。

【基本戦術、方針、運用法】
繰り返される四日間でない以上、戦術によって戦力差を覆すことは出来ないと思われる。
それこそ、天に願うことぐらいなもの。


【マスター】
言峰綺礼@Fate/Zero

【参加方法】
父である言峰璃正によってゴフェルの木片を譲られた。

【マスターとしての願い】
聖杯への願い自体が不明。
言峰自身は聖杯に選ばれた以上、何か願いがあるとは思っている。

【weapon】
  • 黒鍵
レイピア状の投擲剣、聖堂教会における悪魔祓いの護符の一種。
霊的干渉力に秀でている。

【能力・技能】
  • 八極拳
父である言峰璃正から教わった。
しかし、綺礼のそれは実践で鍛えられた結果、単なる人体破壊術となってしまっている。

【人物背景】
聖堂教会に仕える聖職者。
一時期は『魔』を滅する代行者であったが、現在は聖遺物の管理・回収を任務とする第八秘蹟会に所属している。
万物が美しいと思えるものを美しいと思えないという生まれながらにして歪みを抱えている根っからの『異常者』。
それでも聖職者としての自覚を抱いている当人はその歪みに苦悩している。
その歪みを是正するためか、歪みを忘れるためか、様々な鍛錬に身を費やし、一定の功を収めると次の鍛錬へと移るという鍛錬自体を目的とした行動を取っている。
先日、その満たされるための作業の一つであった『妻』を失くした。

【方針】
目的はないが、優勝する。