「あれ、ここ……?」
瞼を重たげに持ちあげながら少女は意識を覚醒させた。
ぶよん。
誰もいない教室。開いた窓から吹いた冷たい風が、寝起きの熱を帯びた体を心地よくなぜる。
「私、確か学校で……ううん、月海原(ここ)じゃない。府上(あそこで)あいつらとゲームしていて……」
ぶよんぶよん。
ってさっきからぶよぶようっせーなッ!?
こらー!ちゃんとナレーターしないとだめじゃないですかこらー!
何でナレーターが突っ込まれてんだッ!!
そうですよー部長ー。ツッコミをとっちゃったら先輩からなにも残らないじゃないですか。
ナレートッ! ナレーションが残るよ!!
はぁ? たかが机に突っ伏した高尾のbd(これ)が潰れてることも言えないお前に務まるのか?
その指の形をやめろぅッ!! っていうかまだあいつの名前も説明してねーよ!
そうだぞお前達。私たちがこうしている間にも状況は刻一刻と動いている。
……! まさか、襲撃してきたサーヴァントかッ!?

「そう、芦花がたき火を部室でしようとしてたからあわてて止めようとして……」
無人の教室にむにゅう、と微かな音がした。机の上にあった太めの油性ペンが彼女の胸に制服ごと沈んでいく。

だからなんなんだよッ!?
この重要性が分からんとは嘆かわしい……これでまた鷺沼が挑戦に失敗して引きこもるぞ。
やめて! クッシー先輩がまた過労でぶっ倒れるからッ!?
というかよくこいつ予選突破できたな。どこで違和感見つけたんだ?
鈍感ですもんねー、高尾部長。
「そしたら、なんか、あいつのツッコミ最近ないなぁ……って思ったらここに」
俺が原因かよッ!? ツッコミ用のNPCくらい用意しとけよムーンセもがぁぁぁぁッ!!
そんなことよりさっさと進めますよナレーターさん。
(デレてるな)
(デレてますねえ)
(ZZZZZZZ)

「え、なにこれ、聖杯戦争? サーヴァント……うそ……優勝しなきゃ、帰れないの……?」
あー、意識の完全覚醒と共に、高尾の脳に月の知識が注ぎ込まれていく。
「……ゲームのしすぎ……? ついつい3徹したのがマズったのかしら……」
この期に及んでそれはないです部長! そんなだからモテアマって言われるんですよ!!
お前いつのまに居たんだよッ!?
いやそうとは限りませんよ。この前版上げした宇宙エロ本争奪ゲームに実装した新キャラを思い出してください。
そう……エロ本を主産業とする銀河ブリテン国の王・アッチャー(56)を!!
いや、それはもっとねえよ……?

「ZZZZZZZ」
つーか先生途中なのに寝てるのかよ。
なにを言っている。私はここにいるぞ。
え、じゃあこれって。先輩! 教卓を見てください!!
「ひっ!」
静寂を切り裂く不協和音に、高尾の総身が震え上がる。
その怯えた目線の先には、ずんぐりと大きな男が教壇の上で寝そべっていた。
片手を腹巻きに突っ込んで、ぼりぼりとへその周りを掻いていた。
熊のような、植木屋のような奇怪な格好だった。
(モブか……?)
(モブです……)
(モブだろ……)
(モブだなぁ……)
(ライバルの登場か、息子よ……)
(でも油断しないで父ちゃん、このサーヴァント、秘められた気は未知数だよ)
(一目でサーヴァントだと見抜くだと……! この才能、どこまで……!!)
あ、じりじり高尾が近づいていくぞ。
珍獣ににじりよる子供みたいですねえ。あ、もうちょっと。

「ぶるあああああああああッ!!!!!!!」
突如眼を見開いた男は突如立ち上がり、半ば反射的にその腕(かいな)を高尾に向ける。
「きゃああああっ!」
余りにとっさの出来事で、高尾は恐怖のあまり目をつむり、しかし
その体に刻まれた反射神経が自動的に、重ねた手のひらを胸に添えて、を男の掌の真芯を受ける。

つまり。

「ぶるあああああああああッ!!!!!!!」
黒板 男 → )胸 高尾
「ぶるあああああああああッ!!!!!!!」
黒板 男 → ))胸高尾
「ぶるあああああああああッ!!!!!!!」
黒 < 男 > 板←←((((胸 高尾       高尾母(また一段殻を破ったわね……!)

「ぶるあああああああああああああああッッ!!!!!!」
*1 )))

「いや、悪い! つい魔が差したッ!! 
 いや誤解するなよ。おじさんもご覧の通り加齢の気になる年頃よ。
 つい、で学生さんに触れた日にはのっぴきならない事案扱いされるのはよーく知ってるッ。
 それでも、空きっ腹になんぞ甘ィ香りを鼻に掻かされた日には我慢にも限界はあるもんよ」
「はぁ……そんなカップケーキでよかったら、ど、どうぞ」
サーヴァントにまで効くって、船堀のカップケーキやばいなオイ。
そしてわたしはにぎり寿司が得意なんですよ。
知ってるから黙ってろ。……でもまだ怯えてるなあ高尾。ちょっと涙目だぞ。
これで隠れてるのが胸で割った黒板じゃなきゃかわいいで済んだんですけどねー。
それだと胸で物理的に割ったみたいだろッ!!
「しっかし、てぇことは嬢ちゃんは方舟の木片をたまたま手に入れてここに引っ張られたってか。
 普通は何かしら聖杯に願いがあるから呼ばれるもんなんだが」
「ええ、何でこうなったのか、私にも分からなくて……」
そういやそうだな。何でアイツが巻き込まれたんだ? つーかさっき、部室でキャンプファイヤーとか……
あ、はい。新しい燃え燃えアタックの開発と来週発売の
『飛び出せばァ? トラブル魔導村』を記念してファイヤーアチャーの練習を。
お前のトンデモの大体は容認してきたけどそれだけはガチ犯罪だからやめろッ!!
で、薪を探してたら、ショーンコネコネ先生がもういらないって木彫りの船を。
根っこの原因は恩師かよッ!?

「それにしたところで、内心願いがあるから呼ばれるのが定石なんだが……本当に心当たりはないのか?」
「わ、私に叶えたい願いなんて……あるわけ…………にゃひ……です……」
うっわ高尾のくせに耳たぶまで真っ赤だよ。
何か感想は? 先輩? ……うっせえ。
「よーっし、分かった。巻き込まれたとはいえ、こうなったのも何かの縁。
 勝ち残るにせよ逃げるにせよ手を尽くさなきゃ始まらん。
 なぁに、大船に乗った気で任せておきな。このアーチャー、ガウン・ブラウディア。
 右銃6発、左銃6発ッ。号砲12発に超えられない壁はないッ! 嬢ちゃんを必ずや…………?」
動き止まったぞ。
ポケットをひっくり返して何か探してますね。
靴まで脱いだぞ。
「あ、あの……もしかして……」
顔が青ざめてますよ。

「弾が、ねえ……ッ!!」
「ガウンさん、アーチャーじゃなくて、ランサーじゃないですか……?」

よんだぁ?
あんたじゃねえよ先輩ッ!!

「マジか……いくら貫く者(ブリューナク)に居たからって俺にランサーはねえだろ……
 せめてライダーで飛行機よこせよムーンセル……ッ!」
「気を確かにしてくださいッ!
口にくわえた乾燥うどん(とランサーが言い張っていた何か)を弄びながら、
目を覆うランサーに高尾はあわあわと周囲を回る。
「そ、それに、いいんです。だって……生き残るってことは、
 勝つってことは、おそってくる人達を……殺すってことなんですよね?
 そりゃあ、帰りたいけど……だからって、殺せません。どれだけ言い聞かせても、
 きっと土壇場でダメダメになると思います。だから、いいんです。
 申し訳ないのは、貴方の願いを叶えられないことなんですけど」
……バカ野郎。
「……俺の望みも、大したもんじゃねえ。託すべき物は、託すべき者にとうに託した。
 だから、嬢ちゃんに無理強いするつもりはないさ。ただ……」
「ただ……?」
「それでも俺は嬢ちゃんを守る。適正ミス? そんなもんは言い訳だ。
 銃が使えなくてもこの腕が、足がある。いや、そんなもんすら要らねえんだよ。
 ……子供を置き去りにして全てを投げ出すなんざ、格好悪くて仕方ねえ。
 それだけで、俺が銃把を握るには十分だ」
大人、というやつだな。その信念を貫く故のランサーか。
……今は茶化さねえよ。
「ランサー……」
「だから、嬢ちゃん。俺のマスターよ。どうか生きることを諦めないでくれないか。
 殺す覚悟なんていらねえ。ただ、あんたの帰る場所を見捨てないでくれ」
「稲田……桜ヶ丘君……山田……母さん……姉さん達……福西さん……芦花……」
高尾の胸に抱きしめるべき日常が沸き上がる。本当のゲーム制作部のみんな。
家族達。友達。そして、そして。
「なぁに。明日は明日の風が吹くってな……生きる意志さえあれば、子供は前に進めるよ」
「……明日……来週?」

? どうした?
いきなり手帳を確認しだしたぞ。
スンゴイ目を開いてますよ。

「ランサーさん!」
「は、はいッ!?」
「わ、私魔術とかぜんぜんわかんないし! 普通の女子高生で取り柄とかぜんぜんないけどッ!!
 それでも、生きることだけは諦めないッ! 必ず帰るから力を貸してッ!!」
「いや嬢ちゃん魔力量だけはかなり……いや、お、おおう……」

ランサーは高尾の体から通してでる名状しがたいオーラを感じながら応えた。
『高』の系譜……高尾家に秘められし力の一端に、ランサーは頼もしさと不安を覚える。
そんな胸中など知る由もなく、高尾は教室の天井、その先を超えた月の天蓋を穿つように拳を高々と掲げる。
「見てなさいよ……来週までに、必ず帰ってやるんだからッ!!」

決意する高尾の足下に、手帳が落ちる。
月に来る前に刻まれた日付、そこには、小さな、そして大切な約束が書かれていた。

『飛び出せばァ? トラブル魔導村』発売日。
それが理由かよッ! だろうと思ったよッ!

ふははははははッ、副会長業務に手間取って遅くなった!
さあ友よッ! 共にナレーションを行おうではないか!!
僕たちを! 忘れてもらっちゃ! こまるぜ! 


いや、もう終わるんだよッ!!



【クラス】ランサー
【真名】ガウン・ブラウディア@WILD ARMS the 4th Detonator
【パラメーター】筋力B+ 耐久C+ 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具C
 ※全て無冠の武芸を失った後の本当のステータス
【属性】中立・中庸

【クラススキル】
『対魔力:D』
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
 本来彼はランサーのクラス適正を持たないため、かろうじての恩恵しかない。

【保有スキル】

『無冠の武芸:-』
 ブリューナクの切り札として伏せられたため、他者に認められなかった技量。
 相手からはただのダメなオッチャンとして各種パラメータのランクが実際のものより一段階低く見える。
 真名が明らかになると、この効果は消滅する。

『心眼(真):B』
 修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
 その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

『銃の型:A』
 接近戦にも対応した銃撃の構え。敵の接近に対する銃撃判定の不利を軽減する。
 ランクAにもなると銃の反動を利用した飛行移動すら可能とする。

『大人:A++』
 その背中で子供たちを導く生き様、その象徴。
 子供を守る戦いに臨む場合、そのパラメータを1段階引き上げる。
 A以上の場合、その戦いで打ち果ててもその技と意志はその背中を見た子供に引き継がれる。


【宝具】
『双載銃騎(ダブルドラグナー)』
 ランク:D 種別:自己宝具 レンジ:- 最大捕捉 1人
 ブリューナクコマンダーとしてのクラスにして異能。二丁拳銃と肉体による超絶闘技。
 その武威は「12発を撃ち終えるまでに倒せなかった者はいない」と言われるほど。
 だが、本来この宝具はアーチャークラスでなければ十全に発揮できず、
 ランサーのクラスで使用するには令呪を1回使用しなければならない。
 令呪1回につき12発の弾丸が銃にリロードされる。

『後より出でて先に立つもの(立ちはだかるガウンはその行動を許さないッ!)』
 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉 1人
 『双載銃騎』発動時のみ使用可能。弾丸1発を使用し、相手の宝具の真名解放を確認してから阻止する。
  常時発動型の宝具には無効。
  心眼を開いたランサーの抜き撃ちは、相手の攻めの枕を確実に抑えてしまう。

『其の背に道が続き、この拳に道が拓く(フィスト・オブ・ファーザー)』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 ランサー自身の侠(おとこ)が輝いたその時、ランサーの右腕が光り輝いて凄まじい威力のパンチを繰り出す。
 その背中を見つめる者たちの為に、命と引き換えに放たれるその一撃は確実に新しい道を拓く。


【weapon】
 因果(アンサラー)&応報(フラガラッハ)
 ランサー愛用の二丁拳銃。ただし使用には双載銃騎の発動が必要になる。

 乾燥うどん
 ランサー愛用の非常食。何もしなくても使用可能。さきっぽを火であぶると香りが旨い。

【人物背景】
 はらまき姿で乾燥うどん(と言い張ってるシケモク的な何か)を口にくわえた変なおっさん。
 大人であることに誇りを持ち、その責任と覚悟を大事にしている。
 その正体は特務局ブリューナクの中でも隠匿された、最後のコマンダーであり、
 物語中のかつての戦争で英雄とまで呼ばれた男。
 子供である主人公たちの前に立ちはだかる壁となり、その覚悟を見届けて、大人としての覚悟を示した。

【サーヴァントとしての願い】
 もう一度親友(ラムダ)と話をしたい。

【基本戦術、方針、運用法】
 銃が使えれば早々負けはしないが、実質三度、36発しか戦えないため、他マスターとの同盟は必須。
 相手の宝具を完封できる『後より出でて先に立つもの』の有効性を示して同盟し、弾丸を節約するのがいいだろう。
 何とか令呪を増やす算段さえつけば、前に進む道も見つかるだろう。


【マスター】高尾部長@ディーふらぐ!
【参加方法】柴崎芦花がキャンプファイヤーアチャーに使っていた薪がゴフェルの木片製だった
【マスターとしての願い】来週魔導そ……ゲーム製作部のみんなや風間とかが心配するから帰る。
【weapon】
 『巨…なし』
  高尾家の完成形たる彼女に頭の下の余分なもの以外の余分なものなど必要ない。

 『カップケーキ』
  府上学園お嫁さんにしたいランキングNo.1の船堀さんが作ったカップケーキ。
  老人ホームのおじいちゃんにも人気。

【能力・技能】
 『高尾家』
  スタイルのいいごく普通の女子高生……のはずだが、各地に散らばる『高』の系譜を持つ一族らしく、
  母はビルの屋上から飛び降りて無事なほどの超人。遺伝らしく、高尾部長にもそのポテンシャルが秘められている。
  当初はキレた時しか発動していなかったが、無意識にその力を行使しているときがある
  その力はありえない土下座をなし得たり、高尾斬したり、チャックボーンしたりする。

 『部長』
  組織を取りまとめる能力。自分がグイグイひっぱり上げるのではなく、部下の能力を引き立たせる方向に特化している。

 『モテアマ』
  肉体的、精神的に女子として愛される要素を持っているが、
  それをほぼ帳消しにするほどに女子力がない。

【人物背景】
 府上学園ゲーム製作部部長。いろんな意味で(主に胸部)スンゴイ女子高生。
 廃部寸前だったゲーム製作部を一人で立て直すなど、リーダーシップを持つ。
 とある縁で出会った風間一派の風間堅二に惚れ、仲良くなりたいと思っている。
 だがゲーム大好きでお小遣いがそれに消えていくのでそのスンゴさをモテアマしている。
 強気だったりするけど、ちょっと追いつめられるとすぐ泣く泣き虫。

【方針】
 とにかく今はわけがわからないので右往左往。ランサーのことはとりあえず信じている。