岩崎月光@月光条例、ランサー ◆hqLsjDR84w


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 むかぁしむかし、あるところに■■■■■■■■■■■■■■■■■■。





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「思い出したぜ」

 短く吐き捨てて、目つきの悪い少年が不機嫌そうに教室を飛び出す。
 岩崎月光という名の彼は、手の甲に浮かぶ令呪に見向きもせず走り出す。
 なにやら奇妙な紋様が身体に浮かび上がるという経験は、初めてではない。
 そもそもそんな些細な変化よりも、大事なことがあるのだ。
 行く当てなどないが、とにかく行かねばならない。
 というよりも、帰らねばならない。

「――待て」
「あァ?」

 割って入ってきたのは、月光に負けず劣らず目つきの悪い男だった。
 裾の広いズボンをはいているだけで、上半身にはなにもまとっておらず、頭にはターバンを巻いている。
 月光にとってテレビや漫画でしか見たことのないファッションと、至るところに古傷のある褐色の肌が、相手が日本人ではないと主張していた。

「なんだよ、オイ。俺ァな、帰らなきゃなんねえんだ。なんだこりゃ、筋力D……? ゲーッ通信簿か?」
「…………お前、聖杯戦争がわかってないのか?」
「ああ……なるほど、なるほどなるほど。
 アンタが俺のサーヴァントってヤツか。なるほど。こりゃ強そうだ。さすが英霊だな。頼りになりそーなことだぜ」

 一度俯いて乱暴に頭を掻き毟ってから、月光は気だるそうに顔を上げる。

「悪ィな、そんなこたぁどうでもいいんだよ。
 俺は帰って、じいちゃんの店を手伝わなきゃなんねーんだからな」

 言うだけ言って走り去ろうとした月光だったが、サーヴァントに回り込まれる。
 全速力だったにもかかわらずたやすく追いつかれ、月光は逃げも隠れもしない男気に溢れた舌打ちを吐き捨てる。
 あの見るからに鍛え抜かれている身体も、英霊という肩書きも、どうやら飾りではないらしい。

「そういうワケにはいかん。
 俺も聖杯を手に入れて、なんとしても帰らなくてはならないからな」
「…………はぁん、そうかい」

 月光はちらりと自らの手の甲を見やる。
 刻まれている三画の幾何学模様のうち一画を消費すれば、立ちふさがっているこの男を動かすこともできるだろう。
 この、いかにものっぴきならない理由があって聖杯を手に入れんとしている男も、無理やり押しのけることができるだろう。
 考えてから、月光は再び乱暴に頭を掻き毟った。

「仕方なく。仕方なくだぜ。わかってんのか?
 よく考えてみりゃあ、こっちだって帰るにはそれしかねえんだ。
 あんまり気分いいもんじゃねえけど、男同士仲良く帰るために力合わせるっきゃねーのかね」

 険しい目つきのままサーヴァントを見据え、やはり気だるそうに手をぷらぷらとさせながら尋ねる。

「俺ァ、月光だ。岩崎月光。
 アンタのクラスと名前、教えてくれよ。呼びづれえだろ」
「ああ……」

 いきなり言うことを聞いてくれた月光に困惑している様子らしいサーヴァントは、ほんの少し間を置いてから名乗った。

「ランサーのサーヴァント、シャガクシャだ」
「シャガクシャ、シャガクシャね……」

 復唱したのち、月光はシャガクシャを見据えてはっきりと言い放つ。
 これだけは言っておかねばならないことだった。

「言っとくけどな、俺は面倒ごとには絶対関わんねえからな。そういうのは好きじゃねえんだよ。
 気に食わねえヤツがいたら相手するかもしれねーけど、極力余計ないざこざは避けて帰りてえんだ」


 ◇ ◇ ◇



 とりあえずマスターが落ち着いたことに、シャガクシャは胸中で安堵の息を吐く。
 あのまま走り回って実際にマスターだけが帰還できていたとは思っていないが、他の聖杯戦争参加者に遭遇してしまう可能性はあった。

(しかし……極力面倒ごとには関わらない、か)

 生憎、シャガクシャはそのような戦いを知らない。
 知っているのは、とにかく目の前にいる敵を片っ端から殺していくという戦争だけだ。
 それだけで数多の兵士たちを死体に変えてきたし、民衆たちには英雄と崇められるようになった。

 だが、それだけでは勝てる戦いではない――と、英霊となったシャガクシャにはわかっていた。

 そもそも、どれだけ英雄と崇められようと一人は所詮一人だ。

 十人には勝てる。
 五十人にも勝てる。
 百人にも勝てるかもしれない。
 それでも――五百となると話は別だ。
 千となってくると、確実に勝てるはずがない。

 わかっている。
 民衆や貴族はわかっていないかもしれないが、実際に何度も戦場に立っているシャガクシャにはわかっている。

 圧倒的な数には勝てない。
 どう足掻いても、勝てるはずがない。
 生き延びることはどうにか可能かもしれないが、勝つのは不可能だ。
 人が虫を踏みにじるように、簡単にやられてしまうのは目に見えている。

(そうだ。だから俺はあのとき――――)

 脳裏を掠める生前の記憶。
 こうして英霊として呼ばれているからには、確実にあったはずの死ぬ直前の記憶。


 夜のうちに一斉攻撃を仕掛けてくると、敵国から戻った斥候が告げた。
 貴族は激戦になるなどと激励してきたが、シャガクシャはすでに敗北を悟っていた。
 敵国は自国とは比べ物にならないほど強大で、本気で攻撃を仕掛けてくれば一日と持たないのはわかりきっていた。

 だから――シャガクシャは二人を探した。

 送ってきた苛立たしい人生のなかで、唯一ともにいて心が休まった姉弟を。
 しかしながら■のほうは見■から■■ったため、先に■だけをつれて安全地帯に抜けるべく■に入った。

 英雄と呼ばれておきながら、国を■ろうともせず――■■たのだ。

 だが山を■けた先に■ち受■■■たのは、逃■■たちを■末するべく集められた■兵■■。
 ■げることもで■■い自分たちに■■■た矢■、■■■ゆっくりに■えた。
 ■■庇うよ■にして■■受■たが、■■■矢■■■切れるはず■■■。
 い■つ■の矢が■■貫■、纏っ■■■服■赤黒■■■■て■く。
 ■■■■■汗■額■■■つき、■■■■目蓋が■■■いく。

「■■、し……■っぱ……■、■ャガ■シャ……様■……■口、■……■、れて■れ、■■■……■■…………」

 ■■■■一切■■■失■れて■き、首■だらん■■■■。
 ■い。■い。■い。■い。■い。■い。■い。■い。■い。■い。■い。■い。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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(……クソッ! どうなったんだ、俺は……アイツは!)

 憎い。
 記憶を辿ると妙な頭痛に襲われる自分が憎い。
 このような場所で、聖杯を求めねばならない自分が憎い。
 なにより――肝心の記憶を忘れてしまっている自分が憎い。

 ――――その憎悪に呼応するようにして、いつものように右肩が疼いた。



 ◇ ◇ ◇


 月光でもない。
 シャガクシャでもない。
 まったく別の誰かが笑う。
 なにも気付いていない『器』を笑う。

 どうしてランサーとして召喚されたのか、疑問にすら思わぬ『器』を笑う。

 たしかに、戦場で槍を使ったことはあったであろう。
 だがそれは単に槍があったからというだけで、決して槍使いゆえにではない。
 他にあるならば剣でも構わないし、弓でも構わない。
 もしもないのであれば、拳一つで飛び込んでも構わない。

 そんな男が、どうしてランサーとして召喚されることがある?

 『器』は思い出せていないどころか、疑問すら抱いていない。
 『まだ人間であった』滅びた小国の英雄として呼び出されたゆえに、『そうではなくなった』あとのことを思い出せていない。
 『そうではなくなった』あとにいったいなにが起こり、ランサーのクラスが宛がわれることになったのか――思い出せないでいる。

 だから笑う。
 月光でもシャガクシャでもない、別の誰かは笑う。

 おぎゃあ――と。

 つい声に出してしまいそうになるのを抑えて、静かに笑う。


 ◇ ◇ ◇



【クラス】
 ランサー

【真名】
 シャガクシャ@うしおととら

【パラメーター】
 筋力D 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具E

【属性】
 混沌・中庸

【クラススキル】
 対魔力:E
 無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
 自己暗示:B
 自身にかける暗示。
 通常は精神攻撃に対する耐性を上げるスキル。
 周囲への憎悪によって強くなると信じ込んでおり、また周囲は自信を憎悪しているとも信じ込んでいる。

【宝具】
『白面の者』
 ランク:E~A++ 種別:対憎悪宝具 レンジ:XXXX 最大補足:XXXX人

 シャガクシャの右肩で胎動する九つの尾をもつ白き大妖。
 人々が常に抱く憎しみを喰らい、よりいっそう強く大きくしぶとくなっていく。
 この世に生まれたときは形を持たぬ闇の塊であったが、直に人の恐怖を喰らうために身体を作り上げるべく器を選んだ。
 たまたま生まれた直後の赤子を選んだに過ぎないが、境遇ゆえの逆境に捻じ曲がったシャガクシャの精神は白面にとって居心地がよく、予想以上の速度で身体が完成していく。

【weapon】
 無銘の槍

【人物背景】

 生まれた直後、自身の周囲十数メートルが焼野原になったにもかかわらず、中心で傷一つなかったために呪われた子どもとして忌み嫌われる。
 幼いころからいつだって誰かにおそれられ、いつだって一人で周囲を呪いながら生きてきた。
 時が経つと、周囲の見る目は百八十度変わった。
 戦場で敵を片っ端から殺してきただけで、誰もが国を救った英雄だと褒め称えてきたのだ。

 それでも、シャガクシャは周囲を憎み続けていた。

 ――どうせすぐに掌を返す。
 ――本当は恐れているに違いない。
 ――ただ単に戦争のときだけは役に立つから褒めているだけだ。

 考えるたびに右肩が疼く。
 唯一、自分を慕う少年・ラーマとその姉と一緒にいるときだけ、右肩の痛みを忘れられるが――

【サーヴァントとしての願い】
 とにかく帰還する。

【基本戦術、方針、運用法】
 とにかく斬る。とにかく刺す。とにかく突く。とにかく叩く。とにかく殴る。
 それしかできないし、それしか知らない。



 ◇ ◇ ◇


【マスター】
 岩崎月光@月光条例

【参加方法】
 『ゴフェルの木片』による召喚。

【マスターとしての願い】
 俺は帰るんだよ。

【weapon】
 ――――

【能力・技能】
 額に『極印』を刻まれており、そこから特殊な力を流し込めるのだが月光一人では使用不可能。
 しかし感情が昂ぶると、極印が浮かばずとも人間離れ身体能力を発揮できることがある。現在の月光にはその理由はわからない。
 それらを除いた場合は、喧嘩がそれなりに強い程度の高校生。

【人物背景】
 まだ赤ん坊のときに、ラーメン屋を営む養父に神社で拾われた。
 そのためラーメン屋を手伝わないワケにはいかないというのに、なにやらおとぎ話の世界から来たという女に巻き込まれて非常に困っている。
 執行者だのと言われても、まったくこっちに引き受ける理由はないってのに。
 こっちは学生だぜ、学生。勉強が本分ってワケ。なのになんで面倒ごとなんかに首を突っ込まなきゃいけねーってんだ。

 ――などと言いながらめちゃくちゃ巻き込まれているし、自分から割って入ってくる。

 稀に見せる能力はいかなるものであるのか。
 そもそも月光という少年はどこから来たのだろうか。

 まだ、月光はなにも知らない。

【方針】
 俺は帰るんだよ。
 帰ってじいちゃんの店を手伝わなきゃなんねーんだよ。
 ああ? 人様あ? はんっ、俺が帰らなきゃいけねえってのに人に気ぃ遣ってらんねーだろっ!

 ※月光は本当のことを言うのが苦手です。