咲良田という街がある。太平洋に面していて、どうにか市に区分される程度の数の人たちが暮らしている。
日本のどこにでもあるような地方都市そのもので、他の街と違うところがあるとすれば、咲良田に住む人たちのおよそ半分が特殊な能力を持っていることくらいだ。

殆どが物理法則に反しているその能力は種類や強度もバラバラで、大半はあってもなくても問題がないような能力だったりする。
中には悪用できるほど強い力を持っている人間もいるけれど、結局その力を使うかどうかは持ち主の意志にかかっているからそこまで物騒なことにもならない。
能力を悪いことに使おうとする人間がいるのと同じように善いことに使おうとする人間もいるから、合計して、平均を出せば、咲良田はおおよそ平和な街だと言えるだろう。

四月二十八日、水曜日。咲良田で、二人の少女と一人の少年が出会った。
野良猫のような少女と、人形のような少女と、ひねくれ者の少年だ。
三人は学校の屋上でたくさんの話をした。
季節の話。アンドロイドの話。神様に作られた善人と悪人の話。母親の愛情の話。
たくさんの話をした夏の終わりに、野良猫のような少女は誰にも見られていないところでひっそりと死んだ。
三人は、二人になった。

少年は、咲良田の能力を使えば少女を生き返らせることが出来るのではないかと考えた。
少年は奔走し、多くの人を敵に回した挙句、そんな能力は咲良田のどこにもないことを知る。

それから二年の歳月が流れて、少年は、マクガフィンを手に入れた。

 ◆ ◆ ◆

記憶を取り戻すことが予選だというのなら、自分は予選を免除されているようなものだと、浅井ケイは思った。
記憶力には自信があった。彼にとって過去一週間の食事のメニューを思い出す程度のことは朝飯前だ。
その気になれば三年前に喫茶店で食べたボンゴレ・ビアンコに入っていた貝の個数だって思い出せる。
それが、浅井ケイの能力だった。彼は一つの欠損もなく、生まれた時から今までの全ての記憶を鮮明に思い出すことが出来る。

だから今の彼の中には、二つの記憶が混在していた。
元からあった本物の記憶と、予選課題として植え付けられた仮初の記憶だ。
仮初の記憶の中で、彼は幸せな少年だった。友達の数こそ少ないけれど、友情は量ではなく質で評価すべきだ。
教室で、屋上で、グラウンドで、放課後の喫茶店で、友人たちと共に過ごす。幾つもの季節が流れていく。

一緒に回ったお祭りの縁日屋台で食べた綿菓子が、すっと口の中で溶けていく。
夏が過ぎ去ったあとの物悲しい海の姿を、テトラポットの上に座って眺めている。
降ってきた雪に凍えないように、隣にいる少女の左手を少し強引に引っ張って、自分の右ポケットの中に入れてしまう。
それは、間違いなく幸せな記憶だった。

けれど浅井ケイは、それらが全て嘘なのだということを最初から知っている。
ケイの能力で思い出す記憶は、全てが鮮明だ。本物の記憶だろうと偽物の記憶だろうとそのクオリティは変わらない。
他のマスターならば、偽りの記憶はいつか忘れてしまうのだろう。
しかしケイの能力は、彼がそれを、美しく幸せな記憶を忘れてしまうことを許さない。
二度と直視したくない苛酷な現実だろうと虚しさばかりが募る甘美な夢だろうと忘れることが出来ない、残酷な能力だ。

「だけど、この力もそう悪いものじゃない。この力のおかげで、僕はいつだって思い出すことが出来る」

自分のスタートと、ゴールを。
最初に願ったものは何だったのか、最後に辿りつきたい場所はどこなのか、ケイはいつでも思い出せる。
ゴールに向かって真っ直ぐに進むことが出来る。

ケイは固く握りしめていた右手をゆっくりと開いた。彼の手のひらの上に乗っているのは、黒い小石だ。
彼が住んでいた街で、その石はマクガフィンと呼ばれていた。

――マクガフィンは、スコットランドでライオンを捕まえる為の道具だ。

以前、マクガフィンについて尋ねられたことがある。そのときにケイはこう答えた。
でもスコットランドにライオンはいないんだと、ケイは続けた。
何かのクイズですかとケイと話していた少女は言う。彼女の推測は、半分くらい当たっていた。

マクガフィンとは模範解答のないクイズのようなものだ。
謎だけはあるけれど、それに対する明確な答えは用意されていない。
元々は演劇や映画で使われている作劇上の用語で、主人公が物語に関係するためのアイテムのことを、マクガフィンと呼んでいる。
例えばそれは何かが入ったアタッシェケースだったり、誰も解読できない暗号だったり、隠された財宝だったりする。
それ自体に重要な意味は無く、物語を進めることが出来るなら、別の何かで代替しても問題がないもの。
他のマスターにとってのそれはゴフェルの木片で、浅井ケイにとっては黒い小石だっただけのこと。

マクガフィンがどうして聖杯戦争の招待状になったのか、ケイは知らない。
けれどこれがマクガフィンである以上、そこに意味はないのだとも思う。
きっかけは何でもよかったのだ。それは重要ではないのだ。

「大切なのは主人公がどうするかなんだ」

ケイは独りごちた。誰に向かうでもない言葉は、誰もいない空間に溶けていく。
いや――ケイの言葉が消える間際、それを捕らえた者がいた。
赤い髪の少年だった。年齢はケイとあまり変わらないように見える。
誰もいなかったはずの空間に現れたこの赤髪の少年こそ、ケイのサーヴァントだった。

「はじめましてだね、マスター」

笑みを浮かべ握手を求めるサーヴァントのクラスは、最優と称されるセイバー。
けれど優男を連想させる細身のサーヴァントの風貌は、ケイがイメージする騎士のそれとは大きくかけ離れている。
これが本当に最優のクラスに属するサーヴァントなのだろうかと、ケイは眉をひそめた。
記憶保持の能力こそ持っているものの、ケイ自身に戦闘能力はないと言っていい。
荒事になればサーヴァントに頼らざるを得なくて、聖杯戦争において戦いは不可避だ。
このサーヴァントは、ケイが命を預けるのに相応しいサーヴァントなのだろうか。

「早速だけど、教えてもらってもいいかな? マスターが聖杯に祈る願いってやつを」

ケイの不安を他所に、セイバーはマスターの願いを尋ねる。
ケイは、己の願いを答えた。

「僕は、神様になりたかったんだ」

かつての自分が抱いていた夢を思い出しながら、ケイは語る。
世界には悲しみが溢れている。ケイは、世界の悲しみが一つでも減ることを願っていた。
けれど大きくなるにつれて、この世界は理不尽なことばかりで、ケイが望むような世界には到底ならないことを知ってしまった。
神様は、どうしてこんな世界を創ったんだろう。

「神様になって、世界から悲しみや不幸を消し去りたいと思っていた。だけどそれが出来ないと知って、せめて正しくあろうとして――」

柄にもなく饒舌だなと、ケイは思った。
どちらかと言えば多弁な方だけれど、こんな風に自分の本心を語ることは珍しい。

「だけど僕は、女の子の涙一つ消すことが出来なかった」

野良猫のような少女と、人形のような少女。
彼女たちと過ごした夏。その夏の終わりに、野良猫のような少女――相麻菫は死んだ。
本当は、彼女の死をなかったことにする方法はあったんだ。
だけど、ケイの我儘でその方法は永遠に失われてしまった。
ケイが人形のようだと思っていた少女は、感情も何もかも消してしまっていた春埼美空は、彼女の死に胸を痛めて涙を流した。
春埼美空が泣くところを、ケイは初めて見た。とても純粋で、綺麗な涙だった。

「女の子の涙は美しいと思う。美しいものは、きっと正しいんだと思う。
 でも女の子の涙は正しくないんだ。それが世界を創った神様の限界なんだ」

「だから僕は聖杯に、世界が正しく、美しく在ることを望むよ」

多分、それは、ケイの心を表すには正しくない言葉だった。
正しい言葉とはシンプルなものだ。何も混じっていない純粋な言葉だけが、正しい言葉だ。
本当は、ただ一言、こう言うのが正解なんだ。

「――笑わせてあげたい女の子がいるんだ」

「女の子が幸せになること以上に正しいことなんて、この世界にはないんだから」

ケイの中の一番目と二番目は、いつだって春埼美空と相麻菫だった。
春埼美空に、笑っていて欲しいと願う。いつも分かりにくい表情をしているけれど、彼女が笑う姿はきっととても可愛い。
相麻菫が、幸せであることを願う。死が彼女の幸せであるのかどうか、ケイには判断できない。
ケイが相麻菫について分かっていることなんて、とても少ない。彼女との会話を思い出しても彼女が考えていたことなんてほんの表面しか分からない。
彼女が自ら死を選んだのか、それとも本当にただの事故だったのか。ケイはそれを知って、納得して、相麻菫が幸せになれる方法を見つけてあげたい。

「――それは、他人を犠牲にしてもやりたいことで、やるべきことなのかい?」

セイバーは問う。
聖杯を望むとは、他者を踏み躙り最後の一人になるということだ。
それが聖杯戦争の絶対のルールであることは、マスターとサーヴァントに深く刻まれている。

「僕にとっては、他人の命を犠牲にしてでも叶えたい願いだ」

ケイの言葉を聞いて、セイバーの顔が曇る。ああ、きっとこのサーヴァントは優しいのだろうと、ケイは思った。
だけど、とケイは続ける。

「ルールは、みんなを守るためにあるものだと思う。
 誰かが傷つかなければならないルールがあるとしたら、それはルールのほうが間違ってるんだ。
 僕はそんなルールは守る必要がないと思う――言っている意味が分かるかな、セイバー」

ケイが微笑むと、セイバーも安堵の表情を浮かべた。

「僕たちは、僕たちのやり方で聖杯を手に入れる――ハッピーエンドを目指す。そういうことでいいのかな、マスター」
「うん、そういうことだね」

セイバーは、右拳を握ると胸に当てた。単純なその動きに、セイバーの意志が込められていることをケイは感じた。
己のサーヴァントに対して抱いていた微かな不安は、いつの間にか消えていた。

「やりたいこととやるべきことが一致したとき、心の声が聞こえる――」

セイバーの右手が、輝いている。いや、違う。輝いているのはセイバーの胸だ。
胸に刻まれた紋様が、光り輝いている。

「女の子を笑顔にしてあげる――それは、青春だよね」

ニヤリと笑ったセイバーの――ツナシ・タクトの身体が、光に包まれる。
同時に、彼が纏っていた衣服もその姿を変えていく。
こざっぱりとはしていたが平凡そのものだったシャツとズボンが、見目麗しい絢爛豪華な洋装へと変わり――

「颯爽登場! 銀河美少年!」

――最優の名に恥じないサーヴァントが、浅井ケイの眼前に現れ、二人の聖杯戦争は始まった。


「さぁ、共に青春を謳歌しようか!」




【クラス】セイバー

【真名】ツナシ・タクト@STAR DRIVER 輝きのタクト

【パラメータ】
 筋力 B 耐久 C 敏捷 B 魔力 C 幸運 D 宝具 A

【属性】秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A
幻獣、神獣を除くほぼ全ての乗り物を乗りこなす。


【保有スキル】
二刀流:C
両手に持った武具を十全に扱うことが出来る。

青春謳歌:A
青春を皆と共有し大いに楽しみ喜び合う。周囲の人物を笑顔にする天賦の才を持つ。


【宝具】
『颯爽登場! 銀河美少年!』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:4
胸に刻まれたタウのシルシを光らせ、銀河美少年とタウバーンはアプリボワゼ(関係)する。
二本のスターソードをはじめとしたタウバーンの武装を宝具として顕現させる。
ライダーではなくセイバーとして召喚されたため、タウバーン本体の召喚は不可能に近い。


【Weapon】
『スターソード』
スタードライバーのリビドーが形になった光の剣。
エメラルドの名を持つ緑の光剣エムロードと、サファイアの名を持つ青の光剣サフィールの二本を所持している。
二本を合体させ、白い双刃の形態にすることも可能。

『パイル』
遠隔操作可能な四基の兵器。いわゆるファンネル。
ブースターとして使用し飛行したり、腕の周囲で回転させることで超威力の拳を繰り出したり汎用性に富んでいる。


【人物背景】
南十字島という南の孤島まで泳いで渡ってきた少年。
端正な容姿と明るく裏表のない性格から男女を問わず人に好かれやすく、みんなの人気者。
南十字島に封印されている巨大人型兵器サイバディを操縦する資格「シルシ」を持っており、タウバーンというサイバディとアプリボワゼすることが出来る。
他人の言葉を引用することが多く、多くの人との出会いが自分の根幹を作ったという自覚を持っている。


【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを叶え、ともに青春を謳歌する。

【基本戦術、方針、運用法】
バランスの取れたステータスだが、逆にこれといった強みがないとも言える。
他の三騎士クラスやバーサーカーと正面切って戦うと苦戦は必至だろう。
聖杯戦争を勝ち残ることが目的ではないため、積極的に戦闘を仕掛けることは避けるべきだ。



【マスター】浅井ケイ@サクラダリセット

【参加方法】
マクガフィンを手に入れたため。
マクガフィンがどうして聖杯戦争への招待状だったのか詳細は不明だが、マクガフィンがマクガフィンである以上それは重要なことではない。

【マスターとしての願い】
聖杯の力で世界から悲しみを減らす。
春埼美空と相麻菫が幸せであることを願う。

【weapon】
マクガフィンと呼ばれる黒い小石。

【能力・技能】
とても強い記憶保持の能力を持っており、生まれてから今までのあらゆる記憶を鮮明に思い出すことが出来る。
原作ではかなりの強度を誇り、他の記憶操作や忘却能力の対象となっても記憶を保持し続けた。

【人物背景】
咲良田という能力者たちの街に住む高校一年生。
元々は咲良田の生まれではなく、小学生の時に偶然咲良田を訪れたときに咲良田に魅せられ、家族やそれまでの生活を捨てて咲良田で生きていくことを選んだ。
頭の回転が速く、知略を巡らすことに長けている。
知人からは「羊の皮を被った羊」「誰よりも真面目に生きている人間」などと評され、偽悪的な言動と裏腹にその根底には正義や善への憧れがある。

【方針】
聖杯戦争のルールを破り、殺し合いを経ることなく聖杯を利用することを目指す。