輝 く も の は
                   星 さ え も
                  貴 き も の は
                    命 す ら


                   森 羅 万 象
                 た ち ま ち 盗 む
                  王 ド ロ ボ ウ




「思い出し、た……」
あまりにも唐突に細波華乃がマスターとしての産声を上げた時、
彼女と昼食を共にしていた彼女の友人は、突然に変質した華乃の雰囲気に戸惑い、何を――とだけ聞いた。
華乃からの返事はない、ただ哀しそうな目で友人を一瞥し、
「ごめん、早退するね」
とだけ言って、足早に教室から出ようとする。
「待って、華乃」
何を、言おう――そう考えるより先に彼女の口は動いていた。
何かを言わなければ、あの教室の扉が閉められたらもう二度と、華乃と会えないのではないか、そういう予感がした。

「えっと……また、明日会えるよね?」
図らずも、口から出たのは彼女を止めようとする言葉ではなかった。
言った後に、いや、そうじゃなくて、と言葉を紡ごうとするも、何を言えばいいかわからず、溜まり続ける言葉は舌とともに絡まるだけ。
「うん……また明日」
そんな彼女の様子を見て、華乃は寂しそうに笑い――扉は開いた。

「待って!!」
華乃を追って廊下に出るも、もう彼女の姿は何処にも見えない。
まるで、魔法のように彼女は消え去ってしまっていた。


「……畜生」
己の不甲斐なさに、リップルは唇を噛みしめる。
ここに来て、彼女は何もかも忘れてしまっていた。
自分が魔法少女であることも、最悪のデスゲームに巻き込まれたことも、中宿の大惨事も、
そして、失ってしまったただ一人だけの友だちのことも――忘れてはいけないことを、忘れられるわけのない何もかもをも忘却していた不甲斐なさが彼女を苛立たせる。
もう、絶対に忘れたりはしない。

フィクション世界のくノ一のような少女が、風のように駆ける。

魔法少女リップルはもう二度と、細波華乃に戻ったりしない。


「おい、――。細波はどうした?」
いつの間にか、昼休みは終わっていたらしい。
五限目の教科担任が、連絡も寄越さずに消えた細波華乃を探して、クラスメイトに呼びかけている。

「サボりじゃね?」
「アイツ何考えてっかわかんねーからな」
「いいじゃないっすか、細波のことなんて」
教室中から無責任な声が上がる、細波華乃は高身長で体格も良く、その上、社交性に欠ける。
決して不良というわけではないが、彼女を除けば細波華乃の友人などこの教室には――いや、学校にだって居はしない。
徐々に熱を帯びていく陰口を彼女が制止しようとした時、再び教室の戸が開いた。

「あれ?細波いないの?」
隣の教室の男子生徒である、どこか妖精を思わせる中性的に軽薄な笑みを浮かべ、
授業時間中だというのに、平然と隣の教室へと入り込んでいる。
「なんだお前は早く教室に戻りなさい!」
と、教師は叫んだはずだった。しかし、実際にその声を耳にしたものはいない。
口の動きだけはそのままに、そっくり首から上だけが平行線上にスライドしたからである。
噴水の様に司令塔を失った胴体から血が吹きあげた。

「キャーーーッ!!」
教室中の至るところから悲鳴が上がった、彼らには教師を殺したものの正体が見えていない。
ただ、恐怖だけが両の足を動かして教室から脱出させようとする。
「いやいやいやいや、もっとゆっくりしていきなよ!」
ある生徒が今まさに教室の戸に手をかけんとした時、何か鋭利な刃物で刺されたかのように胸部から血飛沫を上げた。
窓から逃げ出そうとした生徒はその足のみを刈り取られ、そう高い階層でも無いにもかかわらず、転落死体と化した。
悲鳴が癪に障ったのか、甲高い声を上げた女子生徒の喉だけが正確に斬り裂かれている。
教室内はまさに、地獄の具現と化していた。

「ってことは……?細波がマスターかな?」
そんな状況にも我関せずで男子生徒は、得心がいったとでも言う風にポンと手を打った。
「――君!助けて」
その様子に男子生徒がこの事態の原因であることを悟ったのか、ある女子生徒が彼に助けを求めて叫ぶ。

「食い残しを出すなよアサシン、これから初戦なんだからな」
それが全ての答えであると、納得がいく間もなく女子生徒は首を刎ねられて死んだ。

「……行かせない」
「あ?」
「アンタなんかを華乃のところには行かせない!!」
「そ」
何が起こっているか、彼女にはわからない。
ただ、細波華乃が行ってしまったこととこの虐殺が関係しているであろうこと、
そして、自分が確実に殺されることだけは、彼女は理解していた。

だから彼女は男子生徒に立ち向かった。
不器用で優しい親友を守りたかった。

絶対に華乃のところには行かせない、彼女が死ぬ時まで思い続けたことはそれだけだった。

「つまんねー奴」
無感動に、彼女を見下ろした男子生徒は、己が思いついたあるアイディアに口元を緩めた。
「やっぱ訂正、面白くなる奴だ、お前は」
そう言った後に、彼がアサシンに命じたのは彼女の斬首である。

「じゃ、初勝利頂いちゃいま~~~~~~っす!!」
教室の戸が再び開いた時、この教室内に生存者は誰一人として残ってはいなかった。



リップルが取り戻した記憶と寸分違わず、ムーンセル内で彼女が過ごしていた仮初めの住宅は現実で彼女が暮らしていたアパートの一室そのままだった。
そこまで不満があるわけでもないが色をつけてくれればいいのにとも思う、最も、学校に自分の情報がある以上、すぐに引っ越さなければならないが。
引っ越し用の荷物というには余りにも少なすぎるモノを大きめのスポーツバッグの中に詰め込む作業の最中、リップルの手が止まる。

彼女が手にしたゴフェルの木片――いや、それは木片というには余りにも細すぎる、まるで箒に用いられる枝の様である。

「トップスピード……」
彼女がこのゴフェルの木片を手に入れた時のことは、もう昨日の事のように思い出せる。
燃え盛る街、まるで眠っているかのような穏やかな表情で死んでいた友人、あと半年で産まれるはずだった彼女の子ども。
側に落ちているのは彼女の箒に使われていたであろう枝の一本、変身が解除されていた以上あるはずのないそれを拾い上げたその時、彼女はここへと来た。

彼女の形見となったゴフェルの木片は、袖口にクナイと共に縫い付けた。

荷物の準備が終わってふうと息をつき、リップルは鏡で自分の姿を見た。
和服と水着を足して二で割ったかのようなこの衣装は余りにも目立ちすぎる、衣装を隠すようなコートを買わなければならないだろう。
それにしても、サーヴァントが現れない。
記憶を取り戻すだけではサーヴァントは現れないのか、何らかの儀式を行わなければならないのか、
魔法少女であっても魔術師ではないリップルにはわからない。
もっとも、魔法少女の力があれば一人でも戦うことは十分に可能であるが。

ゴン、ゴン、ゴン。

リップルの思考を妨げるかのように、家の戸を叩く音がする。
出る気はない、この世界で友達になった少女にも自宅の場所を教えていない以上、自分に会いに来る人種がどのようなものか決まりきっている。

「すいまっせぇ~~~~~ん、殺しにきちゃいました~~~~っ!」
声と同時に、彼女は窓ガラスを叩き割って部屋から脱出した。
どうやら引っ越し用の荷物は諦めなければならないらしい。

「あっ、その判断アウト」

「死ね」
地面に着地すると同時に、リップルは何かを感じて背後へと跳んだ。
と同時に、彼女の首があった位置を短剣が薙いでいた。
何故、その瞬間まで気配を察知することが出来なかったのか。
飛び降りたリップルを待ち受けていたものは、短剣を手にし黒衣を纏った如何にもな暗殺者であった。

「愉しませろ、アサシン」

「御意」
「……チッ」
思わず舌打ちがこぼれる、用意周到なことだ。

実際にサーヴァントを見るまでは、魔法少女の状態ならば十分に戦えるとリップルは思っていた。
しかし、それは大きな思い違いであった。

彼女の魔法が故に、投げつけた手裏剣は確実にアサシンへと命中する。しかし、敵に全く動じる気配がない。
そして、アサシンの攻撃は――余りにも速すぎた。
成程、サーヴァントというのは伊達ではない。人間を超えた魔法少女を相手取って、なお余りある。

猫が獲物をいたぶるような少なくとも殺すつもりのない斬撃であるが故にまだ生き残ることが出来ている。
しかし、それも何時まで持つか、だ。
「じっくりだ、じ~~~っくり、傷めつけてやれよ~~~、にしても細波整形した?」
となれば、アパートから己を見下しているマスターを先に仕留めるしか無いだろう。
「あ、ところでさ、細波、これ誰かわかる?」

その時、リップルは見てしまった。
敵のマスターが掲げる首を、彼女がこの世界で友となった少女の首を、
記憶を取り戻した自分が疑問に思ったことは、自分に友だちが出来たことであった。
今、彼女の首を見て、得心がいった。


「トップスピード……」
彼女は、自分の唯一の友だちに似ていたのだ。

空白となった彼女を埋めるかのように、アサシンの刃がリップルに迫る。
「あ……」

誰しもが、それこそリップル自身ですら、その死を疑わなかった。












            ――HO! HO! HO!

















リップルの心臓を射抜くはずだった短剣は、綺麗さっぱり姿を消していた。
「……なんで」
気づくと、リップルの前には一人の少年が立っている。
ウニのように尖った髪、羽織るは黄色いコート、そして肩に乗せるはカラスを思わせる黒い鳥。


「――お姉さん、あんたが俺の――」
「ヘイ、ハニー!俺と一緒に聖杯で祝杯をあげよう!」
少年の言葉を遮って、黒いカラスが喋り出す。
「キール!」
「わかってるよ!!」

「……何処だ?」
自分の手から消えた短剣を探し、敵目前であるにも関わらず、アサシンは周囲を見回した。
「あぁ、これアンタのだったの?」
果たして、いつ起こったのか――アサシンの短剣は少年の手に握られていた。
そして、それはアサシンへと投げ返された。

「一割はお礼」
なんということだろうか、アサシンへと投げ返された短刀には刃先が存在しなかった。
刃先は少年の指に転がされている。

「一割と言わず、三倍、四倍、持っていけ」
アサシンは、投げつけられた短剣をキャッチし、溝に捨てると。
背負っていた大剣を抜いた。
なんということか、その刀身は漏れ無く金で出来ていた。

「ありゃ、大金持ち」
「案ずるな、お前にもたっぷり奢ってやる」
「気持ちだけ受け取っておく……ってのは?」

返答代わりに大剣が振り下ろされたが、その先に少年はいない。
「なっ……!」
「悪いな足元見せてもらってるぜ!!」
振り下ろされた大剣を掻い潜って、少年はアサシンの頭上に立っていた。
「頭が高い!!」
アサシンが頭上を大剣で薙ぐも、少年は跳んで避けた。

その時、黒い鳥――キールが少年の右腕に纏わった。
と同時に、キールの口に高濃度のエネルギーが集中されていく。


「王の原罪(キールロワイヤル)!!」


放たれたエネルギーの弾丸は、跡形もなくアサシンを消し飛ばす。

「あぁ~~~~~~~俺の、俺の、アサシいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!!!!!!!!!!!!」
暴虐の限りを尽くしたマスターは、散々に自分が与えたものと同じ理不尽な死を味わうこととなった。

「……ありがと」
「どーいたし――」
「このキール!美人のためなら、西から東から海中から炎の中まで駆ける次第でございます」
「お前なぁ……」

少年とキールの漫才は、リップルの耳に入ってはいなかった。
ただ、かろうじて礼を述べた後に向かった先は――この世界で友だちだった少女の首の元である。

「…………」
自分がトップスピードを望んだから、彼女というNPCは生まれたのだろうか。
そして、聖杯を手に入れてない以上、願いなど叶うわけがないのだろうか。
彼女の首は何も語りはしない、どことなくトップスピードを思わせる死に顔に祈りを捧げ、彼女は再度少年を見た。

「……あなたが……私のサーヴァント?」
「ビンゴ、俺はジン。アーチャーのサーヴァントってことになってる」
「キールです、よろしく」
「……どうも」

「ジン、キール、私は絶対に聖杯を手にいれたい」
挨拶もそこそこに、リップルは直球で切り出した。
「気が合うね、俺もだよ」

「でも……私は魔法少女だ」
リップルが細波華乃だった頃から、あらゆる動機はほぼ全てが怒りだった。
そして、この時もまた彼女は怒っていた。
どこまでが真実でどこまでが偽りだったのかはわからない、それでも彼女は友人だった。
そして、彼女は殺されて、首だけが目の前にある。
友だちが殺されたから、許さないというのではない。
きっと、名前も知らない通りすがりの他人が殺されても、リップルは怒っていただろう。

「自分の欲のために、全く関係ない誰かを殺すような人間は……魔法少女なんかじゃない」

――トップスピード、と。心の中でリップルは呟いた。
彼女を殺したスイムスイムへの抱く憎悪は決して枯れ果てることはない、きっと――再会すれば殺すだろう。
それはもう、魔法少女の行いではない。ただの人殺しだ。
人殺しになる覚悟は決まっている――それでも。

「私は魔法少女になりたい、こんな殺し合い破壊してやりたい」
「ああ、方舟は棺桶には大きすぎる……同感だよ、マスター。
馬鹿正直に殺しあうぐらいなら、嘘ついてドロボウを始めたほうが良い」
ジンは少女の首を一瞥し、息を吐いた。

「だから、聖杯だけ頂いちゃおう」
「えっ……?」
「ドロボウやってるんでね、大風呂敷を広げないと」
と言って、ジンは左ポケットから一枚の紙を取り出してサラサラと文章を書き始めた。

「なーに、領収はちゃんと切ってやるさ!」

『 聖杯と戦争の両方共
               盗ませていただきます
                             HO! HO! HO!
                                          魔法少女と王ドロボウ』

さて皆様、此度の王ドロボウの獲物は風呂敷には大きすぎる方舟でございます。
広げに広げた風呂敷を畳みきって、魔法少女と王ドロボウは方舟を手に入れることが出来ますでしょうか。

新たな伝説の始まり始まり……。

【マスター】リップル@魔法少女育成計画
【参加方法】トップスピードの箒に使われていた枝の一本がゴフェルの木片
【マスターとしての願い】トップスピードを蘇らせたい
【weapon】
  • 手裏剣
  • クナイ

【能力・技能】
魔法:手裏剣を投げれば百発百中だよ

【人物背景】
本名は細波華乃。
課金一切なしの無料ゲーム「魔法少女育成計画」に手を出したことを切っ掛けに魔法少女に変身する事が出来るようになるも、
そのことから魔法少女同士のデスゲームに巻き込まれることとなる。
人間嫌い。

【方針】聖杯戦争を破壊したいが、聖杯は欲しい。



【クラス】アーチャー
【真名】ジン@王ドロボウJING
【パラメータ】筋力C 耐久D 敏捷A 魔力E 幸運A 宝具E~EX
【属性】混沌・中庸
【クラス別スキル】
対魔力:E
単独行動:B

【保有スキル】
欲望の支配:A
自身の欲をコントロールする。悟りではなく、宝への欲望に負けぬように自分の心を自ら支配する業。歴代の王ドロボウたちより受け継がれる技術

魅惑:B+
人々を魅了する才能。相手からの信頼を得られやすくなる。また異性に対しては効果が上がる。 

王ドロボウ:EX
輝くものは星さえも、貴きものは命すら、森羅万象たちまち盗む王ドロボウ。
王ドロボウが狙った宝は例えどのようなものであろうとも「盗むことが不可能なはずが」「盗むことが可能」になる。

【宝具】
『王の原罪(キールロワイヤル)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:3人
相棒のキールを腕に纏わせ放つエネルギーの弾丸。
威力を下げると連射ができる。また、キールの口にラッパを付ければ大きな音が、水を入れれば水の大玉ができるなど、エネルギーを別のものに変換することも可能。
かなり燃費がよく、キールのほうが先に参って使えなくなる。

【weapon】
仕込み刀:右腕手甲に仕込まれている
キール:ジンの相棒の黒い鳥。ジンはキールと共に王ドロボウとして人生を歩んだため、一人と一匹で一組のサーヴァントになっている。


【人物背景】
「輝くものは星さえも盗む」といわれる王ドロボウの末裔である少年(年齢不詳)。
黄色いコートに尖った髪型が特徴。「ビンゴ」「HO! HO! HO!」などが口癖、
本人は気づいていないが、行く先々で「ジンガール」たちのハートをも盗んでいる。
武器は右腕手甲に仕込んだ刀と、相棒キールと共同でエネルギー弾のようなものを放つ攻撃「キールロワイヤル」。
王ドロボウの血統は母方のもののようだが、母親は亡くなっている。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯を盗みたい

【基本戦術、方針、運用法】

『 この欄の文章
          盗ませていただきます
                     HO! HO! HO!
                                ちょっぴり怠惰な王ドロボウ』