――「方舟」内部仮想空間の街中に建つ、24時間営業のファミレス。
 その外からすぐ見える場所にあるテーブル席に、黒ずくめの男と女が座っていた。

「こちらご注文のチョコパフェと、ブラックコーヒーでーす」
「うわあー、ありがとうございますー。おいしそう! 都会はすごいねー」
「頂こう」

 かわいいフリルのついた服を着たウエイトレスが注文の品を運んでくると、
 男はゆっくりとブラックのコーヒーを口にし、女は楽しそうにパフェを食べ始めた。
 二人とも黒の衣装が似合っており、一見すれば親子に見えるかもしれない。
 ただ、この二人だけでは不思議と違和感がないものの、
 もしこの場に第三者が加われば、その第三者から見た彼らの印象は違ったものになるだろう。

「ちょーおいしいよー。久我さんも一口どうー?」

 まず女の方。黒の帽子に黒の女学生服、
 綺麗な黒の長髪にくすんだ赤目を持つこの少女は、明らかに上背が高い。
 座っている上、対する男の身長も190近くあるから目立たないが、
 立てば2m近いその身長は、ハイライトの見えにくい赤目も手伝って威圧感を与える。
 魔女や吸血鬼の類と間違われてもおかしくない程度にはその外見印象は鋭利だ。
 もっとも今パフェをおいしそうに食べるその姿から分かるように、
 本人は自分の印象はあまり気にしておらず、性格も印象とは正反対に純朴な子供っぽいものだが。

「遠慮しておこう」

 そして男の方。黒の上着に黒のズボン、
 浅黒い肌に肩口までの黒の真ん中分け髪を後ろに垂らし、小物や靴まで黒い。
 おそらくパンツすら黒で統一している。
 パッと見の黒さで言えば、彼は向かいに座る少女よりはるかに上だ。
 さらに、少女の楽しげな雰囲気である程度中和されているが、男の背負うオーラも非常に黒い。
 少し余裕のある服を纏っており深くは見えないものの、肌を晒している部分だけでも、
 彼が格闘家として――あるいは裏の闘士として鍛えられたことが分かる。
 柔軟かつ硬度のある質のいい筋肉。落ち着いた佇まいも、風格を漂わせていた。

「えー。せっかくの祝勝会なのにー」
「祝勝会ではなく、勝利祝いだ、トヨネ。まだ我々は優勝したわけではないぞ」

 そして――二人の関係は当然のごとく、ペアルックを楽しむ親子などではない。
 黒ずくめの男、久我重明は、マスターである姉帯豊音が
 この仮想現実で行われる聖杯戦争を勝ち抜くために喚び出した、サーヴァントなのだ。

「全く……敵の只中で食事を取る豪胆さ、呆れるほどだ」
「ねーねー、これ終わったら洋服見に行っていいかなっ。お洋服、見るの好きなのよー」
「トヨネの体格では着れる服は売っていないと思うが?」
「女の子はねー、実用性とウインドウショッピングは別カウントなんだよー」
「そういうものなのか」
「久我さんの服も選んであげよっかー?」
「遠慮しておく」
「だめだよー。マスター命令ー。久我さん服装ちゃんとしたら、もっとかっこいいよー」
「クク、面白いことを言う……」
「面白いー? でもちょーかっこよくなると思うよー」
「気配遮断スキルが弱くなるが……まあ試着ならいいだろう。これが終わったらな」
「うんー。これが終わったらね!」

 ニコリと笑いあう黒の男女。朗らかな雰囲気。
 そこへ、先ほどのウエイトレスがせわしなさそうにやってきて、言った。

「あの、お待たせしてすいません。追加のご注文をお届けにきました」
「えー? 頼んでないよー?」
「……」
「いえ、でも――お望みなんですよね? 殺し合いを」

 言葉尻までが二人の耳に入った瞬間。
 世界はスローモーションになる。

「――届けにきたのは、あなたたちの死ですよ」


◆◇◆◇


 ガラスにヒビ、が入ったのを、久我重明の目は確認した。
 外側から、内側に向かって。
 なんらかの衝撃が加わり。蜘蛛の巣状に、闇夜と室内を隔てる薄いガラスがひび割れていく。
 その中心部。から。現れたのは。足であった。音のしない、平靴の足裏。
 いわゆるキック――。飛び蹴りである。
 アサシンのクラススキル「気配遮断」により。攻撃態勢に移る寸前まで窓の外で、待機していた。
 のだろう。

「フンッ」

 足。
 座った状態から。テーブルの支柱に向かって。久我重明は薙いだ。
 テーブルを。支柱が即座に折れて。跳ね上げる。
 板面を。丁度。差し込む。姉帯豊音と、これより彼女の方へ飛びゆくガラス片の間へ。
 そうしながら。自分へと飛んでくるガラス片。一つずつ、指で弾く。
 弾く。掴んで弾く。
 弾く弾く弾く弾く弾く。
 悠長にすぎる、行為である。

「貰った――首ッ!」

 アサシンの声。
 そして、
 「ぐえー」。
 と姉帯豊音の声。
 テーブルがぶつかったか。ガラスよりマシだ。
 久我重明は窓のあった方を向いた。ぎらり。光ったのは、ダガー。
 キック。およびガラスの破壊は、つまり、陽動。
 すでに握りこんでいたダガー。店内へと入る勢いで。久我重明の喉に突き立てる。これが本命。
 できると思ったのか。この久我重明に。

「あいたた……うんー。早いねえ」

 そして。
 姉帯豊音に。

「おっかけるけどー。とおらばー、リーチ」

 ――マスターがそう詠唱した瞬間、久我の体感時間はさらに引き延ばされた。
 敵に先手を取らせてからでも先手を取り返せるスキル――「追い込みの美学」の発動である。
 もともと久我重明が持っていた高い見切りの能力は、
 姉帯豊音がマスターとして自身の能力「先負」を注ぎ込むことによってスキルの域となり発現した。
 相手アサシンからしてみれば、不可解にすら思えただろう。
 ガラスで目をくらまし、ダガーで暗殺しようと思ったら。
 次の瞬間には久我重明の拳が、自らの顎部を打ちぬいているのだから。

 顎。への、何の変哲もないストレートな突きだ。
 しかしほぼ水平に飛び込んできた相手に対してこの一撃。アッパーに等しい。
 そして久我重明の拳は破壊の属性を持っている。
 見よ。名も分からぬアサシンの顎は、今やW字に凹んでしまっていた。
 相手のダガーは左で相手の腕をずらし回避済み。
 それはソファーに突き刺さる。スポンジに何か染み込む音。毒塗りの刃か。
 やはり毒使い。だが、甘い。

「なんで」

 呆然と。パフェとコーヒー。
 先の食事に速功性の麻痺毒を仕込んだのだろうウエイトレスが、奇襲を捌かれて疑問の声を上げた。
 ばらばらばら。飛散したガラスが床に落ちると共に、時間間隔が元に戻っていく。
 顎を砕かれたアサシンも床に落ちた。すでに意識はない。騒ぎにNPCが逃げ惑う中、
 久我重明は言った。

「飲むフリをしていただけだ」
「……!?」
「気を修めている。嫌な匂いは少しばかり分かる。カップに口をつけていただけ」
「……ッ!! で、でもそっちの女はパフェを」
「食べたよー。アイスの部分だけ、ね」

 身体に覆いかぶさったガラスまみれのテーブルを跳ねのけ、姉帯豊音は間延びした声。

「アイスだけ……!?」
「NPCの大量殺戮は禁止でしょー。そしたら、ファミレスのアイスサーバーに毒を入れたら危ないよね。
 毒を混ぜるなら、チョコソースだよー。だから、ソースだけ避けて食べてたの」
「んなっ」
「前にみんなと一緒にファミレス行っておいてよかったよー。アイスサーバーって、ちょーすごいよねー」

 つまり、ウエイトレスとアサシンの奇襲は最初から予測されていたのだ。
 わざと罠にかかったふりをして、追い込みの美学で返り討つための――いや、
 むしろサーヴァントと二人でこんな無防備を、さも狙ってくださいといわんばかりに晒してたところから。
 もっと言うなら、このファミレスに敵がいることさえ、見破られていた?
 どこから?
 どこから目の前の二人は、自分を殺すつもりだった?

「あっ、アサシンッ!! 令呪を以って命ずる、起き――」
「悪あがきはよくないよー」

 ぐさり。鋭いカカトがアサシンの喉に入った。
 久我重明の残酷な一撃はアサシンの喉を折り、絶命させるに十分なものであった。
 アサシンは絶命した。
 本来、アサシンのサーヴァントは。
 初撃を躱され、敵に発見されれば、あまりにも脆い。

「……あ……」

 ウエイトレスは現実を直視し、言いかけていた言葉を宙ぶらりんで霧散させ、
 ただすべての望みが絶たれた表情をしながら、先ほどまで殺そうとしていた二人を仰ぎ見た。
 仰ぎ見るしかないのだ。
 黒ずくめの二者は、ウエイトレスよりはるかに高い。
 身長も。能力も、そして、覚悟も。

「あた……あたしの、願い、が……」
「さて。終わったぞトヨネ。早く」
「うんー。ねえ。サイン、くれるかな?」
「……え……?」

 長い黒髪の女の方が、突然サイン色紙とペンを取り出して、ウエイトレスに向けた。

「なっ……何を言って……サイン?」
「うん、サインだよー」

 意味が理解できないウエイトレスが問うと、
 さもそれが当然であるかのように姉帯豊音は繰り返し、そして続けた。

「倒した人には、サインを貰うことにしたんだよー。……倒したことを、忘れないように」
「……あんた……ばっかじゃ、ねーの」
「ちなみにあなたで3枚目だよー」
「あー……そりゃ勝てないわ……」

 サーヴァントを失ったマスターは消滅する。
 しかしその前に、姉帯豊音はマスターにサインをねだるのであった。
 忘れないように。自分と同じように願いを持っていた人の存在を、忘れぬように。


◆◇◆◇


「場所を変えるぞ、トヨネ」
「うんー、そうだね。少し目立ちすぎちゃったよー。まさか外から飛び込んでくるとはねー」
「洋服屋はまた今度でいいな? 闇に紛れる必要がある」
「さすがに騒ぎを起こしたあとにウインドウショッピングは楽しめないよー。久我さんも、消えてー」
「うむ」

 久我重明はアサシンのクラススキル、気配遮断で闇にまぎれる。
 黒ずくめの二人は裏路地を駆ける。
 ファミレスから遠ざかる。行き先は未定だ。
 姉帯豊音は貰った3枚目のサインを鞄にしまうと、なるべく音を立てぬよう、走る速度を上げた。

「……勝ち抜くんだよー。そして、帰る。みんなのところへ」

 夜闇へと消えながら小さくつぶやいた大きな少女を、中天の大きな月が見下ろしている。



【クラス】
 アサシン
【真名】
 久我重明@餓狼伝
【パラメーター】
 筋力C 耐久B 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具E
【属性】
 混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:D+
 自身の気配を消す能力。
 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
 黒ずくめの衣装のおかげで夜の間のみ2倍の効果(Bランクと同等)を得る。
【保有スキル】
追い込みの美学:E
 敵に先手を取らせ、その行動を確認してから自分が先回りして行動できる。
 本人の持つ見切り能力にマスターである姉帯豊音の「先負」の能力が混ざった結果得たスキル。
単独行動:C
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Cランクならば1日は現界が可能。
黒の空手:A+
 闇の空手家、久我重明が極めた破壊に特化した空手。攻撃部位に与えるダメージを上昇させる効果があり、
 久我を相手にするサーヴァントは耐久のステータスに1~2ランクマイナス補正がかかる。
 また、ダウン中の相手の顔を踵で踏みつけるなど、残酷な攻撃方法を一切ためらうことがない。
【宝具】
『戦友の影(フレンドシャドウ)』
 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大補足:なし
 通常久我重明は宝具を持たないが、
 マスターである姉帯豊音の「友引」の能力が混ざった結果この宝具が発現。
 周りにマスター以外の味方がおらず孤立無援な場合のみ、
 久我重明が知る歴戦のファイターの影を召喚する。久我と仲が良いほど再現度が高い。
【weapon】
 己の培った肉体と技が彼の武器である。
【人物背景】
 闇の空手家、久我重明。
 必要なプロフィールはすでに見せた。これ以上は見せぬ。
 原作は獅子の門という小説で漫画ではゲストキャラ。対戦格ゲーでは中堅上位キャラ。
 「餓狼伝(板垣版)」9巻~10巻にてチャラ男と戦った。妙に格がある。
 20の動きから3だけ引いて寸勁が使えたり、寸止めの神山さんと仲が良かったり。
【サーヴァントとしての願い】
 特になし? 豊音が強く力を求めたので黒ずくめ繋がりでやってきた。
 黒ずくめフェチなのかもしれない。
【基本戦術、方針、運用法】
 典型的な肉弾系アサシン。たぶん正しく奇襲するのがベター。
 今回みたいな待ちの戦術は危険なのであまりやるべきではない。
 おそらく今回は、追い込みの美学の効果を試したのだろう。
 戦友召喚はグレート巽か神山さんあたりが再現度高くて強い、と思う。


【マスター】
 姉帯豊音@咲-saki-
【参加方法】
 不明。巻き込まれたのかもしれない。
【マスターとしての願い】
 勝ち抜いてみんなの所(宮守)に帰る。
 有名人がいたらサインをもらう。倒した人にもサインをもらう。
【weapon】
 なし
【能力・技能】
 麻雀スキル。六耀にちなんだ能力を持ち、
 そのうち「先負」「友引」の能力はサーヴァントにも反映された。
【人物背景】
 身長197cmを誇る岩手・宮守女子の雀士。黒の帽子、黒の制服、黒髪に赤目、
 吸血鬼か何かと思われる見た目だが私服まで黒いわけではないし人間。
 間延びした声でミーハーなことをかわいらしく喋る。サイン厨でもある。
 麻雀能力を使うときに明らかに魔術的な黒オーラが出ている。
 残念ながら、六耀能力の他4つはまだ詳細不明。
【方針】
 とりあえずファミレスからは離れる。久我さんが格闘技教えたら強そう。