私たちのまわりにいる人間以外の生物と言えば、いずれもありふれた動植物、虫たち……今ではどれも人間に支配され、われわれにとってさして危険でないものばかりです。
しかし……この世界に棲んでいるのは、私たち人間や、そんな動物ばかりではありません。
なにか 他に人間の知らないものが……私たちの考えの及びもしない存在が、気がつかないうちに 私たちのすぐそばにいるかもしれない、そんな風に考えた事はありませんか。
これからお話しする一人の男も、そういう得体の知れないものを追っている……いえ、追っていた、のです。

◆◆◆

黄昏時の公園で、一人の子どもが、砂場に座り込んでいた。
ありふれた砂の城の代わりに、砂場には、穴ぼこだらけの奇妙な突起が幾つも立ち並んでいる。朽ちた墓標か、あるいは何かの巣のようにも見える。
黄色と黒の縞模様の服を着た子供の、佝僂病じみた背中がその中で動き、あたりを撫でたりいじくったりしている。
茜空のどこかで、ギャアギャアとカラスの声がした。
しばし手を止め、子供も笑う。
と、遊具の陰から、闇に溶けこみそうな黒いいでたちの男が現れ、子供に声を掛けた。
真ん中で分けられて肩まで届く長髪、険のある、しかめたような目つき。

「何をしているのかな」
「お父さんを……さがしてるんです」
「そんなところに、お父さんがいるのかね」

男の問いに、子供はゆっくりと振り返った。
子供の右眼は、潰れていた。開いている目は、ひどく大きかった。こけしのような、バランスの悪い大きな頭を揺らして、子供はまたひひひひ、と笑った。

「だってぼくのお父さんは、かなぶんみたいに小さいんだもの」

男は子供の顔を無言で見つめた後、問いかけた。

「……君は、『記憶』を取り戻しているかい」
「それじゃあ、おじさんがぼくの“サーヴァント”ですか」

そう問い返され、男は顎に手を当てて、ちょっと嘆息した。それから、口を開いた。

「無事に予選を突破、か。……サーヴァント、隷属者。そういうことになるな。そして君が、私のマスターというわけだ。妙な話だが……」

男の言葉の途中で、子供は嬉しそうに、出歯を剥きだしてぱちぱちと手を叩いた。

「わあい、やった。やった」

その様子を見ながら、男は砂場の縁に腰をかけ、

「この度はアーチャーのクラスとして召喚された。とりあえず、よろしく」

そう言って懐から名刺を取り出そうとして、おっと……と呟いてやめた。

「名前をむやみと出すのは好もしくないんだったな。と言って、私などではさしたる影響があるとも思えないが……」
「おじさん、強いんですか。」

子供の言葉に、男は苦笑した。

「ステータスは多少なりと、君にも見えている筈だろう。こう言っては申し訳ないが、私ははずれくじの部類さ。何せ、ただの学者に過ぎないんだからね」
「でも、“アーチャー”なんでしょう?」
「そこのところだが……自分自身でも、無理やりさ加減に笑ってしまうよ。弓ができるわけでも、何かほかに飛び道具を持っているわけでもない。色々な発掘物やいわくつきの品を、投げたり壊したりしただけだ」
「おかしな話ですねえ」
「まあね。とは言え、そのあたりがサーヴァントの力として再現されているようだが」

男の手には、いつの間にか、奇妙な形をした兜と、仏像のらしい、木彫りの腕があった。
すげえなあ、と言って見上げる子供を、男はじっと眺めながら、尋ねた。

「君の願いは何だね」

マスターとして月の聖杯戦争に呼ばれた以上、多くは何かしらの願いを持ってここにいるはずだ。そして、その願いの強さゆえに、彼らは、緩慢な夢の檻とも言える予選を突破してくる。
子供は、事もなげに、男の問いかけに答えた。

「死んじゃったお母さんに帰ってきてほしい」
「それで、お父さんと、三人で楽しく暮らすんです」

死んだ母を生き返らせる。
あまりに明快で、率直で、シンプルな願いだった。
目を潤ませながらキキキキと笑う子供の不気味な顔を、なおもじっと見つめて、なるほど、と男は言った。

「私の願いは、ある意味、この聖杯戦争に参加することで半ばかなえられているようなものだ。あまり期待をされても困るが……できうる限り、君の願いに協力しよう」
「ありがとうございます、おじさん」
「そうと決まれば、どこかへ場所を移そう。あまりひとところに留まっているのもよくない」

二人は立ち上がると、砂場の外へ出て、歩きだした。
子供の履いた下駄がカランコロンと歯を鳴らし、その傍で、黒い男の背が、長く影を伸ばしてゆく。

「…………」

歩きながら、男は、暗くなり始めた周囲に、幾つとなく、何か得体のしれないものの気配を感じる。生前に自分が相対してきた、多くの「畏れるべきものども」の息遣いを。
そして、自らのマスターもまた、それらに近いものであることを。


「片目の存在は、神へささげられた犠牲者、あるいは神そのものを表すとも言うが……さて」


―――

【CLASS】アーチャー
【真名】稗田礼二郎@妖怪ハンター
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運A++ 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)までの魔術を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。観察者・第三者としての「距離」由来のものと思われる。

単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Bランクならば二日程度の現界が可能。

【保有スキル】
学識:B
学者としての東西問わぬ広い伝承の知識と、アカデミズムより異端扱いされるほどに飛躍的な仮説を立てる発想力。それらを縦横に繋げることによって、対象を自らの表せる言葉で「解釈」する。遮蔽・対抗スキルを持たないサーヴァントの真名を看破する追加効果も持つ。

記述者の逆説:A
事件を物語る「狂言回し」としての逆説的な(メタ的な)有様。危機的状況に陥った時、幸運値による補正を加え、高確率で回避する。また、同ランクまでの精神干渉系スキルを無効化する。アーチャー自身の安全を保証する強力なスキルではあるが、魔力供給源たるマスターについてはその限りではない。

【宝具】
『黒い探究者(マージナル・マン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1人
異端の考古学者としての逸話(フィールド・ノート)が宝具化したもの。サーヴァント相手にスキル「学識」を適用する時、どこからともなく対象と同ランクの神秘性を持つ呪具を発見(自動生成)する。呪具は様々な忌まわしい形を取るが、いずれも投げつけ破壊することで同ランクまでの宝具の攻撃や効力を一時的に相殺・停止、もしくはサーヴァント1体の行動を1ターンの間停止させる。これらの呪具は生成時に使用する必要はなく、生成後はアーチャー以外の者が所持・使用することも可能。但し、所持数×0.5ランク(小数点以下切り捨て)ずつ、所有者の幸運値を下げる。
特性上、同じ相手から連続で呪具生成する事はできず、再度の生成を試みるならば一定の時間を置く必要がある。
また、この宝具(生成判定・相殺効果)は下記の「暗黒神話」によって発生した怪物と相対する時にも適用される。

『暗黒神話(オルガニク・アポカリプス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大補足:999人
多くの忌まわしく畏れ多い存在、名を伏すべき災厄と遭遇してきたアーチャーの在り様が、一種の「生きたフラグ」として宝具化したもの。アーチャーが行動する時、一定時間ごとに半径100メートル内のいずれかの場所へ、神性E~Aを持つ不定形や多腕多足、顔のない聖母や人面獣などのグロテスクな怪物の種が設置される。これにはマスターからの魔力を必要としない。種は(アーチャー・マスターも含め)何ものかの接近によって発芽し、幸運値の低い者(アーチャー・マスターも含め)を優先して攻撃する。攻撃で破壊されるか「黒い探究者」由来の呪具による相殺、或いは発芽から8ターンの時間経過を以て消滅する。同時発生数は6体まで。
また、アーチャーもしくはマスターが死亡(消滅)した場合、その時点で周囲1エリア四方の地面に亀裂が走り、そこから「いんへるの」と呼ばれる神性A:亡者の集合体(エデンで生命の実を食べた不死の一族)が発生する。「いんへるの」は周囲から急激な魔力吸収を行いながらエリア内外に拡散するが、10ターンの時間経過の後に昇天(消滅)する。上記の6体発生制限には影響されない。
この宝具の存在(及び発生した上記の怪物とアーチャーとの因果関係)についてはアーチャー自身も認識する事が出来ず、他者による看破・探査系のスキルや宝具においても、解析画面に表示されない。

【weapon】
初期状態で2つの呪具を所持している。効力・幸運値低下については宝具「黒い探究者」を参照。
○三角(みづぬ)の冠
生まれざる神ヒルコに対して投げつけられた呪具。ランクB。
○朱唇観世音縁起の右腕
紅い唇の妖怪(鬼)を封じていた行脚僧の腕のミイラ。ランクD。

【人物背景】
神や得体の知れない存在の拘わる数多の事件に遭遇し、それらを記述してきた異端の考古学者。専門の学のみでなく、民俗学や宗教学、古文書学などにも通じ、奇怪な事例にばかり手を出すため一部では「妖怪ハンター」などとも呼ばれている。しかしあくまで記述者・観察者である本人に大局的なハント能力はなく、彼の行く先々で天が裂け、地が割れ、海が荒れ、村は滅び、祭は終わり、島は沈んだ。

【サーヴァントとしての願い】
自らをも取り込んだ月の理を解釈し、仮説を立て、探求する。

【基本戦術、方針、運用法】
歩く災厄フラグであり、維持に魔力を殆ど必要としない代わり、戦闘力も皆無に等しい。アーチャー本人は高ランクの危機回避スキルを持っているので敵からの奇襲や遠隔攻撃などにもある程度対応できるが、マスターは適用外のため、下手をすると早々にマスターを殺されてしまい漸次消滅という恐れもある。あまりあちこちと歩き回りたくはないところだが、ひとところに留まっていると「暗黒神話」で発生した怪物に襲われる確率が高くなる。「黒い探究者」による相殺呪具発見は魔力消費の少ない上にそれなりに強力であり、これを上手く使って立ち回りたい。ただし呪具を持てば持つほど幸運値は下がるため、やはり「暗黒神話」の怪物に襲われる確率が上がる。他者に渡す、放擲するなど呪具の数を調節しながら逃げ回り、生き残りの道を模索する他ないだろう。
なお、マスター・アーチャーのいずれが消滅しても、最後に「いんへるの」という巨大災厄を残して行く。



【マスター】鬼太郎@墓場鬼太郎

【参加方法】
漁っていたゴミの中にゴフェルの木片が混じっていた。

【マスターとしての願い】
お母さんを地獄から呼びもどし、お父さんと三人で暮らす。

【weapon】
ちゃんちゃんこ:先祖代々伝わる霊毛製のちゃんちゃんこ。対魔力Cに相当する霊的防御を備える。
下駄:いつも履いている下駄。微力な魔力を備える。
鬼太郎はこれらの使い方を理解していないため、武器として使うことは出来ない。
また、「目玉の親父」はいない。

【能力・技能】
幽霊族として、非常に強い魔力を備えているが、それを行使する術は(この時点での鬼太郎は)殆ど知らない。また、「地獄を行き来する」能力は、当然のことながら制限を掛けられている。
身体能力的にはただの子供だが、非常にしぶとい。機関銃を喰らっても死なず、がけから突き落とされても平然としている。マスター狙いと言って、対魔属性もない通常の武器・兵器で殺し切るのはかなり骨であろう。

【人物背景】
かつて地上を支配し、人間に追いやられて絶滅の危機に瀕した「幽霊族」最後の生き残り。死した母親の墓から生まれ、目玉だけの身となった父親と共に、人間社会でしぶとく生きていく。子供らしい稚気と残酷さ、種族特有のとぼけたような価値観を持っており、関わる人間は軒並み不幸になっていった。育ての親である人間のことも、上記の通りのあっさりした価値観からか、平然と見殺しにしている。なお、片目は生まれた時から潰れており、開くことはない。
「ゲゲゲの鬼太郎」ではなく、「墓場(の)鬼太郎」である。

【方針】
参加者をひっかきまわしながら優勝を狙う。