それでもいったいこの僕に何ができるって言うんだ
 窮屈な箱庭の現実を変える為に何ができるの










最後の電車が行ってしまった。

がたがたと揺れる車体は汚れが目立ち、動く様はどことなく億劫そうに見えた。
去りゆく電車の後ろ姿を神名綾人はたった一人で眺めている。

壁によりかかり息を吐く。くすんだコンクリートじっとりと冷たい。
隣りでは傷の目立つ時刻表が電灯の鈍い光を反射している。

何の音もしなかった。
何時しか風は止んでいたし、客はおろか駅員さえも姿が見えない。
最後の仕事を果たした駅はこれから眠りに付くのだろう。

誰も居ない、夜の地下鉄。
入り組んだ街の片隅で、彼は茫洋と立ち尽くしている。

(……ここって、東京だっけ)

不意に、綾人の脳裏にそんな疑問が浮かんできた。
ぽつり、と。
そんなことを思ったのだ。

東京。かつて自分はそこに暮らしていた筈だ。
そこで普通に学校に通い、帰って絵を描く。

ここは、そんな街だっただろうか。

綾人はじっと線路の向こうを見つめた。電車は既に行ってしまった。先は色濃い闇に包まれ何も見えない。
それでも何となしに、ただ見つめた。


――間があって、


「え……?」


――見覚えのある髪が、舞った。


綾人が見たのは一人の少女だった。
彼女を自分は『識って』いる。彼女はいつだってあやふやで、しかし確かに自分を見つめている。
黄色い服に身を包んだ彼女は、長い髪をたなびかせながらホームに立っていた。

ゆっくりと、振り向いた。
柔らかく、そして儚い微笑みが、綾人を捉えた。

それはまさしくあの絵の少女そのものだった。
ずっとずっと、綾人が描いてきたあの……

「…………」

綾人は少女を見つめた。
少女は無言で綾人を見返した。
風がひゅう、と吹いてきた。闇の向こう側から溢れるように風が押し寄せてくる。

不意に少女は、背中を向けた。

「待っ……」

去っていく少女を綾人は駆け寄る。
誰も居ないホームの中、綾人は何かに突き動かされるように少女に追い、止まったエスカレーターを駆け上った。

登った先に彼女は待っていた。
微笑みを浮かべ、綾人を真直ぐと見つめている。
綾人はただ叫ぶように、


「美嶋――」









 遠い昔、どこから来たの
 遠い未来にどこへ行くの









「え、と。貴方が私の奏者<マスター>……なのかな?」

そうして綾人は自らのサーヴァントと出会った。
誰もいない駅。エスカレーターを上った先に、アーチャーは待っていた。
彼女はフリルのついた可愛らしいドレスに身を包み、柔和な笑みを浮かべ綾人を見上げている。
桃色の髪が揺れた。その手にはアーチャーらしく小振りな弓があった。

綾人ははっ、としてその手を見た。
そこには赤々と光る三画の紋章――マスターの資格たる令呪があった。

そのカタチに、綾人は見覚えがあった。
これとよく似たものを自分は見たことがある。
他でもない自分の腹部に刻まれた痣に、それは酷似しているのだった。

「ええと、僕は……」

綾人は頭を押さえた。
アーチャーが戸惑ったように見上げてくる。まだ幼さの残るその顔には心配の色が浮かんでいた。
じん、と痛みがする。考えることに痛みを感じつつも、それでも何とか言葉を絞り出した。

「……うん、君の奏者<マスター>みたいだ」

そう言うと、さっと視界が開ける感覚がした。

(そうだ、僕は聖杯戦争に参加したんだ……奏者として)

神名綾人は奏者<マスター>であり、奏者<オリン>である。

(そしてここは東京じゃ……ない)

2013年2月、全世界は消滅し東京だけが奇跡的に生き残った。
東京の人々はそう教えられ疑わずに暮らしていた。
しかし、事実は逆だった。

東京を残し世界が滅んでいたのではない。東京こそが滅んでいたのだ。
MU<ムウ>と呼ばれる存在の支配下に置かれた東京は、外ではこう呼ばれていた。
“TOKYO JUPITER”と。

(僕はあそこで育った。世界が滅んだと知らされ、それなのにおかしなほどの平和ができていた、東京で)

世界が滅んだだけで、何の変哲もない、ただの学生生活。
満足していた訳ではないが、しかし疑ってもいなかった。

そこから連れ出し“本当のこと”を教えてくれたのは―― 一人の女性だった。
紫東遙と名乗る彼女に手を引かれる形で、綾人は真実に触れることになった。

(そのあと――僕はラーゼフォンの奏者<オリン>になった)

ラーゼフォン。
東京の最深部の神殿に祭られていた、機械仕掛けの巨神。
まるで綾人の目覚めを待っていたかのように、それは覚醒し綾人を東京の外へと連れ出した。

そして、待っていたのは、滅んだ筈の世界だった。
時の流れのズレに困惑したけれども、しかし新たな世界で綾人は生きていこうと決めた。
時計の針を世界のそれに合わせ、かつての世界――東京から送り込まれてくるMUとの戦いに身を置くことになった。
それも全てラーゼフォンの奏者<オリン>であったから。
何が正しいのかは分からなかった。どうするべきなのかも分からなかった。
それでも、できることをしたいと思ったから。

そして、MUとの戦いの果てに――果てに?

うっ、と綾人は呻きを上げた。
焼きつくのような痛みが頭を走り抜ける。

「だ、大丈夫?」

アーチャーが呼びかけてくる。
綾人はそれを手で制し、はぁはぁと息を落ち着ける。

「ごめん、少し……思い出せないことがあって」
「もしかして、予選のメモリー復帰が不完全なのかな?
 ならちょっと休んだ方がいいかもしれないね」


気遣う声に軽く頷き、綾人はよろよろと壁に寄りかかり、服が汚れるのも構わず座り込んだ。
記憶が曖昧――でいいのだろうか。
少なくとも聖杯戦争のルールは明確に“思い出せる”。
サーヴァントのことも、ムーンセルのことも、方舟のことも。

(僕はここに――)

やってきた。
願いの為に。誰かの為に。


「マスターの記憶が曖昧みたいだから、まず私の自己紹介からしてみるね」

綾人を慮りながらも、アーチャーはそう口を開いた。
視線を向ける。すると、僅かに頬を紅潮させながら彼女は名乗った。

「アーチャー、鹿目まどかです」

言葉と共に彼女のステータスが脳裏に浮かび上がってくる。
綾人はそれを呆と受け入れた。

能力は低い訳でもなく、かといってさほど高い訳でもない。
宝具もアーチャーらしく弓だ。奇抜さはないが堅実な性能を持っている。
ただそれ故――幸運のパラメーターがEX(測定不能)なのが目立っていた。
それが何を意味するのか。

「マスターとのパスはしっかりしてるみたいだね」

アーチャーは目を瞑りそう呟いた。綾人との繋がりを確認しているのだろう。
綾人自身も奏者<マスター>として、彼女に力を注いでいる感覚が掴めた。

性能として気になるのは幸運値くらいで、あとは能力的にも性格的にも付き合いやすいサーヴァントに思えた。
彼女について気になることは何もないだろう。そう、何も。

「ええと……よろしくね? マスター」
「うん、よろしく頼むよ」

言って綾人は精一杯の微笑みを浮かべた。
痛みは引かない。何かが遠のくような、あるいは近づいてくるような感覚はこびり付いてくる。

(ただ僕は――ここに来たんだ。誰でもない僕の意志で)

願いはある。
それだけは確かだ。
だから奏者<マスター>として綾人は月を望んだ。

そう思い綾人は立とうとする。
しばらくアーチャーと話さないと、そう思って彼女を見上げると――


「…………」

――そこに、見覚えのある少女が居た。
黄色い服に身を包んだ、かげろうのようにあやふやな彼女が、綾人を見下ろしている。
その姿を見たとき、綾人は考えるより早く口を開いていた。

「違う!」

君じゃない。
僕がここに来たのは君じゃなく――


「えっ、あ、どうしたの?」

――アーチャーが戸惑いの声を挙げていた。

「あ……」
「えと……何か私しちゃったかな?」

困惑するアーチャーを余所に、力が抜けた綾人は再び壁に寄り掛かった。
俯き、自分の身体をじっと眺めた。
白い肌は、ヒトのそれだ。まだ自分はヒトであることを止めていない。

綾人は近くに捨てられていたガラス片を拾い上げると、おもむろにそれを手に当てた。

――青い血が流れている気がした。

アーチャーが声を上げる。
マスターの突然の奇行に戸惑っているのだろう。しかし、綾人は躊躇わなかった。
ガラス片を指先に押し当てぴっ、と皮膚を切り裂いた。

――母さんみたいに、青い血が。

一瞬の痛みののち、つう、と血が流れてきた。
その色は……







 僕は僕のことが知りたい。


【クラス】アーチャー
【真名】鹿目まどか
【パラメーター】
 筋力D 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運EX 宝具D
【属性】
 中立・中庸
【クラススキル】
対魔力 B 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
単独行動 C マスターを失っても現界が可能になる。Cランクならば1日は現界可能。
【保有スキル】
魔法少女 - 魔女を狩るものにしてやがて魔女になる成長途中の少女。
      身体は抜け殻に過ぎず、破損しても死ぬことはない。
魔術 B 魔法少女としての力。治癒魔法などを習得している。

【宝具】
『星に弓引く<スターライトアロー>』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:4~10 最大捕捉:1
力を込めた弓による射撃。
収束させた光の矢を前方に放つ。

『天に弓引く<マジカルスコール>』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:4~10 最大捕捉:1~30
力を込めた弓による射撃。
複数の矢を天に向かって放ち、頭上から雨のように広範囲に攻撃をする。

【weapon】
弓(ステッキ)
魔法少女としての装備。矢はピンク色の軌跡を描く。
自動追尾性能があり、一度に複数の矢を構えて撃つことも可能。
ステッキのような形状とり殴ることもできる。

【人物背景】
『魔法少女まどか☆マギカ』の主人公。
中学2年生の平凡な少女だが、本編時間軸では魔法少女としては途方もない素質を持っている。
これはほむらによる時間遡行が原因で、彼女を中心に大量の因果が積もっていったからである。
アーチャーとして現界したのは本編10話などで見せた「魔法少女としての鹿目まどか」であり「円環の理」ではない。
能力、戦闘スタイルなどはPSP版を参考。弓による射撃と治癒魔法を身に着けている。


【サーヴァントとしての願い】「誰かの役に立つこと」
【基本戦術、方針、運用法】
潤沢な魔力量を誇り、魔力を込めた射撃の火力は中々に高い。
収束と拡散の二種類の宝具も使い勝手がよく、燃費もさほど悪くない。
接近戦もこなせなくはないが、ステータスはさほど高くない為、基本的に距離を取って戦う方がいいだろう。
前衛に向いたサーヴァントを手を組むことができれば、堅実に戦果を上げることができる。

と、実にオーソドックスな「弓を使うアーチャー」。
平凡と言えば平凡な性能であるが……?


【マスター】神名綾人
【参加方法】不明。ラーゼフォンが関わっている……?
【マスターとしての願い】調律……?
【weapon】なし。
【能力・技能】奏者<オリン>としての資格。       
       その力は奏者<マスター>としても機能するようで魔力を滞りなく供給できている。
【人物背景】
『ラーゼフォン』の主人公。神の名を綾つ人。
「TOKYO JUPITER」の中で平穏な高校生活を送っていたが、ある日東京を謎の戦闘機群が襲った。
避難する最中に綾人は神秘的な少女・美嶋玲香と出会う。彼女に導かれるまま東京地下の世音神殿に辿り着き、母の見守る前でラーゼフォンを呼び覚ます。。

ラーゼフォンの奏者となった綾人は対「MU」戦略機関「TERRA」の庇護の下、MUとの戦いに身を投じてゆく。
当初は内向的であった彼も、遙と共に暮らすことで、友人や家族の絆の暖かさを知る事となり徐々に心を開いていく。
しかし彼は次第に自身の出自に疑問を持つようになり、またTERRAの一部の人間からも「青い血」を持つ「ムーリアン」である嫌疑を常に持たれていた。
彼は疑問を解き明かすべく、如月久遠の導きでTOKYO JUPITERへの帰還を果たし、そこで自らがムーリアンであるとの確信に至る。

改竄されていた記憶を取り戻すことで遙と自分が時を隔たれた恋人同士であったことに気づき、彼女の想いを守る為、
ラーゼフォンの心である「イシュトリ」と一体化。人の姿を捨てた超常存在である「ヨロテオトル」なって、不安定化した平行世界を再構築し、崩壊を食い止める「調律」を為した。

【方針】
戦う?