いったいなにが起こったんだ――と、考えて理解する。
聖杯戦争とはどういうものだ――と、考えて理解する。
なぜ自分が参加しているのか――と、考えて理解する。
以上三つの疑問を抱くことで、逆立てた銀髪が印象的な少年・デュフォーは自らの置かれている状況を把握した。
彼の持つ能力『答えを出す者(アンサー・トーカー)』は、ただ疑問を抱くだけ瞬時にその解答を導き出すことができるのだ。
(研究所にどうしてこんなものが落ちているのか、俺でも答えを出せなかったが……なるほどな)
ジャケットのポケットから木片を取り出し、少し眺めてから戻す。
改めて確認しても単なる木片にしか見えなかったが、その正体がなにであるのかはいまなら導き出せた。
そのままポケットに手を入れて公園を歩みながら、現状抱くべき疑問を解決していく。
自分のサーヴァントはどこにいる。
宛がわれたクラスは七種のうちのどれか。
どのようなサーヴァントであり、宝具はどういうものか。
それらの答えを一瞬のうちに導き出してから、デュフォーは立ち止まって左手を掲げる。
「――『アサシン』、令呪をもって命じる」
左手の甲には三画の紋様が刻まれていたが、うち一画が粒子となって大気中に溶けていく。
令呪がいかに聖杯戦争において重要なものであるのか、すでにデュフォーは理解している。
その上で、デュフォーは使う必要があると答えを導き出しただけだ。
「『俺には絶対に呪いを出すな』」
言い終えると同時に、令呪の一画が完全に霧散する。
デュフォーのサーヴァント・アサシンの呪いは、意思をもって発動するものではなく常時発動の垂れ流しだ。
サーヴァント自身さえ制御はできないし、そもそも制御できるのならば英霊となっていない。
はたして、そんなものをコントロールできるのだろうか――その疑問の答えにも、デュフォーは到達していた。
答えは――『可能』。
サーヴァント自身でさえ不可能なことを可能とするのが、マスターの切り札である令呪である。
「キェェェエエエエエエエ!!」
ほどなくして、アサシンのサーヴァントが甲高く鳴いた。
音源は公園に生えたひときわ高く伸びた樹木だ。デュフォーは驚かない。
鳴き声に次いで、背に生えた大きな二枚の『翼』を羽ばたかせる音が響く。
たったそれだけの動作で、アサシンは凄まじい速度でデュフォーの眼前に到達し、その姿を露にした。
やたらと大きなぎょろりとした目を持つ――『一羽のフクロウ』の外見を。
「よう」
フクロウ――真名『ミネルヴァ』に、人間の言葉は通じない。
デュフォーはわかっていたが、一応挨拶を交わしておくことにした。
これまで長きに渡って研究対象にされてきたせいで、このようにともに同じ目標に突き進む相手など久方ぶりだ。
ならば一方通行であろうと、こうして声をかけるのも悪くない。
「…………?」
空中で困惑したかのように、ミネルヴァは可動域の広い首を回転させる。
いったいなにがどうしたというのか――と、デュフォーは考えて理解する。
『邪眼』を生まれ持ったがため、このように直視しても死なぬ人間を知らないのだ。
さらに人間の言葉を聞き取れない以上、先ほどの令呪を消費しての命令もわかっていない。
「なるほどな」
ひとりごちて、デュフォーはミネルヴァの顔を両手で掴む。
ミネルヴァに殺気を感知するスキルがあるのはわかっている。
殺気を感知するということは、殺気を放っていないこともまたわかるということだ。
ミネルヴァと目と目を合わせて、じっくりと見つめてやる。
「…………キェエ」
見ても死なない人間だ、とようやくわかったらしい。
怪訝そうに周囲を飛びつつも、興味深そうに一定の距離を保っている。
「お前はなんのために聖杯戦争に来たんだ?」
口にせずとも答えは導き出せるが、あえて口に出して尋ねる。
ほとんど同時に、答えがデュフォーの脳内に浮かんでくる。
生まれた山でも同種異種かかわらず仲間はできず、十三年に渡って研究対象とされてきた。
導き出されたミネルヴァの過去は、デュフォーのそれとよく似ていた。
しかし、にもかかわらずミネルヴァは――
「ミネルヴァ、お前、頭が悪いな」
思わず、デュフォーは吐き捨ててしまう。
生まれ育った地では馴染めず、意図せず傷つけ、力を利用とする人間たちに長きに渡って監禁され、それでも――
それでも、ミネルヴァは仲間を求めていた。
まだ見ぬ見ても死なないメスとつがいになって、子どもを残したがっていた。
死ぬまでともに同じ道を進んでくれる相手と、自分が生きたという証を求めていたのだ。
アンサー・トーカーなど持たずとも、誰でも無理だとわかる夢だ。
いくら鳥類の脳といえど、死してなおそんな夢を叶えるために顕現するとは。
「頭が悪い。
どれだけ考えても、やっぱりお前は頭が悪い。
本当に心から。本当に、心から、だ。本当に心からお前は頭が悪い」
いままでのような理由で、口に出しているのではない。
勝手に言葉が口から出てきて、止めることができないのだ。
「…………が」
ようやく、デュフォーは答えを導き出した。
いままでずっと、どうするべきか考えていたのだ。
木片に召喚される寸前まで、北極で爆破する研究所に一人放置されていた。
目の前に迫った死を免れたので、とりあえずはよかった。
死なないで済んだからよかったが、これからどうするべきか。
ずっと考えていたのだが、アンサー・トーカーでも答えはわからなかった。
アンサー・トーカーでも導き出せなかった答えは、自身のサーヴァントである頭の悪いフクロウが教えてくれた。
「どうやら、俺も頭が悪かったらしい」
これまで見えていなかった行きたい道が、デュフォーにははっきりと見えていた。
そちらに進んでどうなるのか――と、考えてもわからない。
長きに渡る研究のせいで表情が乏しくなったはずなのに、不思議と口元が緩んでいた。
自然に笑ったのはいつ以来だろう。つい浮かんだ疑問の答えに、デュフォーは自嘲する。
「行くか、一緒に」
「キェェ……」
デュフォーが尋ねると、ミネルヴァは短く鳴いてついてきた。
言葉が通じたワケではない。それはアンサー・トーカーでわかる。
ただ単に見ても死なない人間が気になっているだけで、それ以上でも以下でもない。
しかしそんな答えよりも、ついてきてくれたという気休めをデュフォーは信じることにする。
「鷹狩の本でもあればいいけどな」
そんな戯言を残して、デュフォーとミネルヴァは公園をあとにした。
◇ ◇ ◇
【クラス】
アサシン
【真名】
ミネルヴァ@邪眼は月輪に飛ぶ
【パラメーター】
筋力E 耐久E- 敏捷A 魔力C 幸運E- 宝具B+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:B+
サーヴァントの気配を絶つ。魔力とその漏洩を極限まで抑える能力。
【保有スキル】
飛行:B
フクロウであるにもかかわらず、鳥類最速であるハヤブサの落下速度に匹敵する速度での飛行が可能。
殺気感知:A
殺気を放っている生物、および殺気が籠った銃弾などの武器は、視界の届かぬ範囲であろうと感知することが可能。
【宝具】
『邪眼』
ランク:B+ 種別:対生物宝具 レンジ:0~99 最大補足:XXXX人
ミネルヴァの眼球自体が宝具であり、常時黙視できぬ毒液のような呪いが垂れ流されている。
呪いはミネルヴァが視界に捉えた相手の眼球から侵入し、対象となった生物を確実に死に至らせる。
祈祷など魔術防禦によって一瞬呪いを散らすことは可能だが、その場合は対象の眼球から耳へと侵入経路を変更する。
また、宝具の効果は直視した場合に限らず、テレビカメラなどを通した映像であっても同様だ。
ただし生物以外には効果はなく、生物ではないものはどれだけ見ても破壊することはできない。
ミネルヴァは昼夜の区別なく彼方まで見渡すことが可能だが、黙視できぬ箇所に呪いは及ばないのでレンジには大きなブレがある。
【weapon】
――――
【人物背景】
むかしむかし、ある山奥に突然現れた一羽のフクロウ。
その山に棲む獣や猟師をことごとく呪い殺したが、一人残った猟師によって右の翼を撃たれ飛行不可能となったところで、突如現れたアメリカ軍によって捕獲される。
証拠をあとに残さず大量殺戮を可能にすることから、兵器としての利用を目論んだアメリカ軍に十三年間保護されていたが、空母での移動中に一瞬の隙をついて逃亡。
この際に空母の乗組員を全員殺害し、その後もSOCOMや自衛隊を二千人以上、テレビ報道を視聴した四百二十万人以上、駆除を志願したスナイパーなども殺害――
と、たった七日間で甚大な被害を出してきたが、東京タワー付近でかつて右の翼を撃ち抜いた因縁の猟師と再び相対し、『殺気を放たぬ弾丸』に額を撃ち抜かれて致命傷を負う。
しかしそれでもミネルヴァは羽ばたくのを止めず、まっすぐ満月に向かって昇っていった。
以来、その姿を見たものは、誰一人としていない。
【サーヴァントとしての願い】
見ても死なないメスと子どもがほしい。
【基本戦術、方針、運用法】
邪眼より放たれる呪いは常時垂れ流しであり、制御することはできない。
ミネルヴァはフクロウであり、当然ながら人の言葉は利けず、令呪を消費しない指示は大まかにしか理解できない。
ゆえにミネルヴァというサーヴァントは、鳥類最速に匹敵する速度で辺りを飛び回り、視界に捉えた相手に呪いを流す以外できることはない。
◇ ◇ ◇
【マスター】
デュフォー@金色のガッシュ
【参加方法】
『ゴフェルの木片』による召喚。
【マスターとしての願い】
生きた証を残す。
【weapon】
――――
【能力・技能】
身体能力は一般人とさして変わらない。
ただ、いかなる状況および疑問に瞬時に答えを導き出すことのできる能力『答えを出す者(アンサー・トーカー)』を有している。
【人物背景】
アンサー・トーカーを有していたがために、母親によって能力に目を付けた研究者に売られ、北極に作られた研究室で長い間非人道的な研究の対象とされてきた。
最終的に、「この問題を解けば解放する」という約束まで反故にされた上に、能力を恐れた研究者に研究室ごと爆破されかけたが、その寸前で聖杯戦争へと召喚された。
かつては年相応に喜怒哀楽を露にする少年であったが、研究によって精神が摩耗し、現在では感情の変化を見せない寡黙な少年となっている。
【方針】
アンサー・トーカーで取るべき行動を知りつつ、最後の一組となって聖杯を手に入れる。
最終更新:2014年07月08日 15:02