聖杯戦争などと言われても、難しいことはよく分からない。
 年端もいかないどころか、両手で数えられる程度にしか生きていない彼女には、そこまでの考えは回せない。
 少女――千歳ゆまにとって重要なこととは、殺し合いでも願望機でもなく。
 自分が過ごしていたこの場所が、本来自分がいた場所ではない、ただの虚構でしかなかったことだった。

 「方舟」の中で過ごした時間は、とても穏やかなものだった。
 心優しい母親と、面倒見のいい父親に囲まれ、毎日を健やかに過ごしていた。
 たまに田舎の祖父母から、新鮮な野菜が送られてきては、日々の食卓を彩っていた。
 そんなあまりにもありふれた、しかし幸せな時間を、ゆまは「方舟」の中で過ごしていた。

 しかし、それは所詮虚構だ。
 現実には得られなかった幻だ。
 父は毎日出かけてばかりで、ろくに家にも帰ってこず。


 母はその苛立ちを、ひたすらにゆまにぶちまけて。
 そんな最低な両親も、たまたま2人揃った時に、まとめて怪物に食われてしまった。
 自分が生きていく居場所ですらも、魔女と呼ばれる化け物に、無惨に食い散らかされてしまった。

「キョーコ……」

 何より、ここには「キョーコ」がいない。
 魔女から自分を救ってくれた、佐倉杏子という少女がいない。
 家族を喪った自分にとって、杏子とは姉のような存在であった。
 なんだかんだと言いながらも、行き場のない自分を伴って、生きていく術を教えてくれた。
 彼女を外敵から守るために、彼女が魔女を倒したのと同じ、魔法少女の力にも手を伸ばした。

 そんな彼女から引き離されて、気付けばこんな所に閉じ込められた。
 叶わない幻を見せつけれられて、勝手に記憶を封じ込められて、最愛の人を見失った。
 それ以上に重要なことなど、一体どこに存在する。
 「キョーコ」を奪われたこと以上に、一体何を気にする余地がある。

「――随分と可愛い子なんだな。オレのマスターというのは」

 突然、声が聞こえてきた。
 失意に沈む意識の中に、低い声が響き渡った。
 はっとした拍子に、闇が晴れる。
 深層心理の暗闇の中から、意識が揺り起こされていく。
 仮想空間の中にありながら、確かに本物だと思える自意識を、ゆまは急速に覚醒させた。


 覚醒したゆまの目の前に立っていたのは、黒髪を揺らす男性だった。
 自分や杏子よりも遥かに長身で、ノースリーブとジーンズの体には、逞しい筋肉が盛り上がっている。
 その中で特に目を引いたのは、体のあちこちに点在する、奇妙な「闇」の存在だった。
 肩や腕に浮かび上がっていたのは、夜空のような暗黒だ。
 その部分の皮膚だけが消失し、別の空間が投影されているかのように、黒い闇が浮かんでいるのだ。
「それでも小宇宙(コスモ)を……いや、魔力を感じる。どうやらその見た目以上に、強い力を持っているようだな」
 男が語りかけてくる。
 茶色い瞳は、ゆまの左手に嵌められた、ソウルジェムの指輪を見ている。
「あなたが、ゆまのサーヴァント……?」
 コスモとかいう単語には聞き覚えはないが、彼の存在には心当たりがある。
 聖杯戦争を勝ち残るため、参加者に付き従い戦う戦士――確か、サーヴァントといったはずだ。
 それを操る参加者は、マスターと呼ばれるのだという。
 であれば目の前にいるこの男が、自分の従者というわけだ。
「『アーチャー』というクラスで召喚されている」
 落ち着いた物腰の男だった。
 太い眉毛ともみ上げは、力強い印象を与えるが、その表情は静かなものだ。
「マスターである君に問おう。ゆまはこの聖杯戦争のルールについて、既に知らされてはいるんだな?」
 男の問いかけに、無言で頷く。
 既にというよりは一瞬前のことだが、知っているのは間違いない。
 どの程度関心を持っているのかは、別問題だが。
「ならばゆま、君はどうする? 万能の願望機とやらに、君はどんな願いを託す?」
 男の語気が、少し強くなった。
 静かだった男の声に、少し厳しさが込められた。
 正確な意図は分からない。悪いことに使ったら許さない、だとか、そんなニュアンスなのかもしれない。
「ゆまは……」
 一瞬、ゆまは考え込んだ。
 どんな願いも叶えられるという、聖杯の存在を意識した瞬間、どうしても考えてしまった。
 何でも叶うというのなら、自分は何に使いたいのだろう。
 願いの候補はいくつか挙がった。
 杏子と自分が安心して暮らせる、2人の家が欲しいと思った。
 あるいは両親を生き返らせて、仲直りさせてみたいとも思った。
 どんな生き方も選べるような、たくさんのお金が欲しいとも思った。
「……わたしは、帰りたい……!」
 それでも、所詮は瑣末な願いだ。
 本当に叶えたい願いは、願望機に託すものよりも、もっと先にあるものだった。
「願い事なんてわかんない! それよりキョーコの待ってるところに……もとの場所に帰りたいよ!」
 心からの叫びだった。
 どんな願いを叶えたとしても、杏子がいなければ意味がなかった。
 杏子の元に帰りたいというのは、聖杯に願うべき願いでもなかった。
 優勝賞品のことなど、今はどうだって構わない。それを持ち帰る場所の方が、ゆまには重要だったのだ。
 そんなことを考える前に、この異様な戦いを終わらせ、最愛の人の元へ帰りたかったのだ。
「……それを聞いて安心した」
 目の前の男から返ってきたのは、そんな言葉だった。
 一瞬前の硬い語気は、幾分か軟化したようだった。
「あらゆる願いを叶える万能の器……それを邪心を以って利用する者には、オレの力を貸すわけにはいかない。
 だが……愛する者と共にいたいと、そう心から願える君となら、オレも安心して戦えそうだ」
 言葉の意味はよく分からない。
 大人の使う難しい言葉には、小さなゆまはついていけない。
 それでもどうやら、自分はこの人に、褒められているらしいということは分かった。
 出会ったばかりの大人の男に、認められているようなのだ。
「オレも君と想いは同じだ。オレには帰るべき場所がある。オレの戦うべき戦場がある。
 志を共にするなら、オレは君のサーヴァントとして、喜んでこの力を貸そう」
 言いながら男が取り出したのは、きらきらと輝く宝石だった。
 どうしても目線が低いから、じっくりと見ることはできなかったが、それだけは認識することができた。

「――『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』ッ!」

 男が叫んだ。
 瞬間、世界に光が満ちた。
 目も眩むような激しい光が、彼の手の宝石から迸った。
 一瞬のホワイトアウトの後、ゆまは恐る恐る視線を戻す。
 思わず手で覆い逸らした目を、ゆっくりと男の方へと戻していく。
 そこにあったのは――黄金の光だ。
 いつの間にか、男の体を、金色の鎧が覆っていた。
 ボディラインにフィットしたそれは、一見すると布のようにも見える。
 それでも、その身が放つ光沢が――神々しいまでの黄金の輝きが、確かにそれが金属なのだと、雄弁に物語っていた。
 男の背中に羽ばたいたのは、猛禽のように巨大な翼。
 男の首元からたなびくのは、マフラーのような長いスカーフ。

「改めて、オレの名を名乗ろう。オレは射手座の黄金聖闘士(ゴールドセイント)――」

 その身に金の風を受け、黒髪と白いスカーフを揺らし、男は真名を口にする。
 スポットライトに照らし出された、舞台上の役者のように。
 勝利の暁をその身に受けた、勇ましき英雄がそうするように。
 黄金の鎧を身に纏い、神々しき光を湛えながら、男はその名を宣言した。

「――射手座(サジタリアス)の星矢!!」

【マスター】千歳ゆま
【出典】魔法少女おりこ☆マギカ
【性別】女性

【参加方法】
『ゴフェルの木片』による召喚。
巴マミの聞き込みを受けて別れた直後、公園の遊具に偽装された木片に触れてしまった。

【マスターとしての願い】
今のところはなし。キョーコの元へ帰りたい

【weapon】
ソウルジェム
 魂を物質化した第三魔法の顕現。
 千歳ゆまを始めとする魔法少女の本体。肉体から離れれば操作はできなくなるし、砕ければ死ぬ。
 濁りがたまると魔法(魔術)が使えなくなり、濁りきると魔女になる。聖杯戦争内では魔女化するかどうかは不明。

【能力・技能】
魔法少女
 ソウルジェムに込められた魔力を使い、戦う力。
 武器として杖を持っており、先端の大きな球形部分を使って、ハンマーのように殴りつけて攻撃する。
 固有魔法は治癒。自他の傷を癒やす魔法を得意としており、四肢をもがれた状態からも、一瞬で回復させることができる。
 魔法少女になってからは日が浅く、杖の威力に任せた、力任せな戦闘スタイルを取っている。

【人物背景】
「魔法少女まどか☆マギカ」とは別の時間軸で、佐倉杏子が出会った童女。
夫婦仲の悪化が原因で、母親から虐待を受けており、あまりいい印象を抱けなくなっていた。
そんな中、両親共々魔女の結界に取り込まれ、ゆま1人だけが生き残ったところを、偶然杏子に助けられる。
紆余曲折を経て杏子について行き、1人で生きるための術を学んでいったゆまは、その中で杏子を救うために、自身も魔法少女となった。

杏子と出会って以降は、歳相応の天真爛漫な振る舞いを見せている。
反面、「ゆまが役立たずだから父親が家に寄り付かなくなった」と母親から言われており、
そのトラウマから「役立たず」として見捨てられることを恐れている。

【方針】
とにかく聖杯戦争から脱出したい

【クラス】アーチャー
【真名】星矢
【出典】聖闘士星矢Ω
【性別】男性
【属性】秩序・善

【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:E
 魔力への耐性。無効化は出来ず、ダメージを多少軽減する。

単独行動:D
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Dランクならば半日程度の現界が可能。
 本来ならばCランク相当のものを持っているのだが、魔傷の影響によりランクが下がっている。

【保有スキル】
セブンセンシズ:A+
 人間の六感を超えた第七感。
 聖闘士の持つ力・小宇宙(コスモ)の頂点とも言われており、爆発的な力を発揮することができる。
 その感覚に目覚めることは困難を極めており、聖闘士の中でも、限られた者しか目覚めていない。
 星矢の持つ莫大な魔力の裏付けとなっているスキル。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

戦闘続行:C
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。

カリスマ:D
 黄金聖闘士としての風格。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。

魔傷:B
 マルスとの戦いでつけられた、呪いに近い力を帯びた傷。
 小宇宙の燃焼を阻害する力を持っており、筋力・耐久・敏捷を本来よりも低下させている。
 更に小宇宙を大きく燃やした際には、星矢の生命力さえも削ってしまう。
 星矢本人のスキルではなく、後付けで備わったもの。

【宝具】
『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
 黄金聖闘士(ゴールドセイント)の1人・射手座(サジタリアス)の聖闘士に与えられる黄金聖衣(ゴールドクロス)。
 黄金に光り輝く鎧は、太陽の力を蓄積しており、他の聖衣とは一線を画する強度を誇る。
 またこの射手座の聖衣には、黄金の弓矢が備えられており、聖衣を一撃で貫くほどの威力を持っている。
 この聖衣を然るべき者が装着することにより、装着者の筋力・耐久・敏捷・幸運のパラメーターが1ランクずつアップする。
 本来のランクはA+なのだが、アテナとアプスの小宇宙が衝突した際の影響で、
 聖衣石(クロストーン)と呼ばれる形態に変質してしまっており、若干のランク低下が見られる。
 また、マルスとの決戦の際に、左腕部の一部パーツが損壊している。

【weapon】
なし

【人物背景】
88の聖闘士の中でも、最高位に位置する黄金聖闘士の1人。
元は天馬星座(ペガサス)の青銅聖闘士であり、長きに渡って地上の神・アテナを脅かす敵と戦ってきた。
数多の神々との戦いの中で培った力は、聖闘士の中でも最高クラスであり、生きながらにして伝説となっている。

本来の性格は血気盛んな熱血漢。
しかし、聖闘士を代表する黄金聖闘士となって以降は、周囲の者に示しをつけるため、落ち着いた態度を見せるようになった。
かつてはやんちゃな部分もあったが、有事の際には地上の愛と平和を守るために戦える、正義の心を宿した戦士である。

13年前、火星の軍神・マルスが決起した際には、彼もまたアテナの戦士として参戦。
神であるマルスと直接拳を交え、二度に渡る激戦を繰り広げた。
しかしその最中、星矢はマルスの闇の小宇宙に呑まれ、彼の元に幽閉されてしまう。
それはマルスが闇の神・アプスの到来を恐れ、自分が敗北した時に、代わりに戦わせるための措置だった。
囚われの身となった星矢は、新世代の聖闘士・光牙らに望みを託し、時に彼らをサポートする。
この聖杯戦争には、幽閉されている最中に召喚された。

上述した通り、その力は聖闘士の中でも群を抜いている。
セブンセンシズに目覚めた拳は、光速(マッハ90弱)にすら到達するほど。
両肩と右前腕、左二の腕、右太もも、左足首に魔傷を負っており、13年間の幽閉生活の中で消耗しているが、
それでも小宇宙の分身を飛ばしマルスを食い止める、新世代の聖闘士達が束になってもかなわなかったアプス相手に食い下がるなどしている。
必殺技として、無数の拳を叩き込む「ペガサス流星拳」、その拳打を一点に集中する「ペガサス彗星拳」、
敵を羽交い締めにしてジャンプし、諸共に地面に激突する「ペガサスローリングクラッシュ」を持つ。
更に先代射手座・アイオロスの技を継承したものとして、拳から小宇宙の衝撃を直射する「アトミックサンダーボルト」を使うことができる。
(射手座の弓矢から小宇宙の矢を放つ「コズミックスターアロー」は、新生聖衣発動後に修得したものである可能性もあるため除外する)

ちなみに原作「聖闘士星矢」当時の星矢は、女性と戦うことに嫌悪感を示していたが、
本作では第2期において、女性と思われるガリア相手に躊躇うことなく攻撃を仕掛けており、この傾向は払拭したものと思われる。

【サーヴァントとしての願い】
特にない。元の世界に戻り、地上を守るために戦いたい

【基本戦術、方針、運用法】
小宇宙を燃焼して戦う徒手空拳のスタイル。この聖杯戦争においては、小宇宙は全て魔力に置き換えられている。
便宜的にアーチャーのクラスを与えられているが、射手座聖衣の弓矢はいわば「切り札」のようなものであり、使う機会は非常に少ない。
聖闘士とは聖衣を纏って戦うものなので、基本的には、宝具を常に発動して戦うことになる。
宝具により強化されたパラメーターは凄まじいものがあるが、魔傷がある上に燃費も悪いため、マスター・本人共にかかる負担は大きい。
また、逆にマスターが調子に乗って治癒魔法を連発した場合も、星矢に回す分の魔力がなくなってしまう可能性がある。

規格外の戦闘能力を持つ星矢だが、マスターが幼く、本人もリスクを背負っていることもあり、普段よりもやや慎重になっている。
元々の性根もあり殺生は好まず、状況次第では他のマスターとの同盟を組むことも考えるだろう。
マスターの消耗が深刻化する前に短期決戦で敵を倒すか、「カリスマ」補正を受けた味方と協力するかしながら立ち回っていこう。
高い戦闘能力とは裏腹に、使いどころが難しく、慎重な戦い方を求められるサーヴァントと言える。