願い事などなかった。

夢、将来への展望、なりたいもの、やりたいこと。
普通の学生ならば何かしら持っているだろうそれら当たり前のものを、俺は何一つ持っていなかった。

学校へ行き。適当に授業を受け。自分を慕う不良達を率いて喧嘩をすることもあったし。
自分を目にかける養父の元で特殊な教育を受けそれらを全てこなしてきた。

だが、それらに対して何か思ったことは一度もない。
いつからそうだったのかはもう思い出せないし、興味もない。

だから、あのプログラムの中でコインで乗るかどうかを決めた際も。
その結果、多くのクラスメイトを殺していった事実も。
そして最後、七原達に撃たれて死んだあの最後の瞬間も。

何一つ、俺を変えることはなかった。

そして最後の、意識が闇に包まれる瞬間に、俺はここへ呼び出された。

何気ない日常。
かつての自分の生活を思わせる緩やかな時間。

しかし全てを忘れていた俺はそんなものに思いを馳せることなどなく。

やがて何かに引き寄せられるかのように、物置部屋へと足を踏み入れていた。

そして、謎の人形らしきものの襲撃を受け。
人間―――かつて喧嘩したことのあるヤクザ以上には手強い相手ではあったが、どうにか捌き切ることに成功した。

その瞬間、手の甲に痛みを感じると同時、それまで失われていた記憶を呼び起こし今に至る。

反射的に手の甲を見た俺の眼に映ったのは、変な形の痣。
何かの模様のようにも見えるそれは、手に鈍い痛みを発している。

ふと、背後に何者かの気配を感じ取って振り返った。

足音も物音も何も感じさせず、最初からそこにいたかのように鎮座する女が一人いた。
幽霊のようにも見えるその女、しかし幽霊など信じていない俺はそれを生きているものとして受け取った。

物音一つ立てることもなく後ろをとったその女に対して、何の疑問を持つこともなく、しかし警戒だけはして。

そのままゆっくりと立ち上がった女は、構えた俺に対し――――

「ばーさーかー…というのはどうなんでしょうね」

ぼそっとそう呟いた。

「確かに私が人間ではなく化け物であることは認めますが、しかしどうでしょう。
 せっかくのこの体ですしせめてせいばー…剣士さんであって欲しかったという希望もあります。
 あ、でも刀自体が剣になるということはやはり問題なのでしょうか。
 そこのお方、どう思われますか?」

何を言っているのか分からない。
その口から放たれた言葉は罵倒や死の宣告でもなく、ただの雑談のような愚痴だった。
もっとも、その女が何を言っているのかを理解することはできなかったが。

「それにしても、あなたは空っぽですね」

だというのに、いきなりまるで確信でもつくかのようにそんなことを言ってくる。
文脈も脈絡もなく。

「何の望みもなく、生きる理由すらも持っているようには見えませんね。
 何でもできるのに、いえ、だからこそ自分というものを持っていない。
 他者に何も感じることなく、いざ殺すとなればまるで草をむしるように命を殺められる。
 そんなどこかの誰かさんみたいな人が私のマスター……横文字は言い辛いわね、主だなんて。
 面白そうでいいですね。……いいえ、悪いのかしら?」

自嘲するかのように笑みを浮かべる女。

しかしそいつが只者ではないことは、俺はひしひしと感じ取っていた。

その辺のゴロツキなどとは比べ物にならないさっきの人形と比べてなお、その存在は常軌を逸しているように見える。

「あなたもここへ来たということは、木片を持っていたのでしょう?」

木片?何のことだろう。
持っていたような気もするし、持っていなかったような気もする。しかし女がそう言っているということは持っていたのだろう。

どうも色々なことが一度に起こりすぎて混乱しているようだ。

「まあその様子では何が起こっているのかも把握できていないようですし、私から説明してあげましょうか」

それから、女からは多くのことを聞いた。
聖杯戦争、聖杯を求めての殺し合い。
どんな願いも叶うという奇跡のようなもの。
ここがどういう場所であるかということ。
そして、サーヴァント。殺しあうために組まされる、プログラムでいう支給品のような存在。


「あまり驚いてはおられないようですね」
「十分驚いているさ」
「嘘は言わなくても結構ですよ。私には分かります。
 というよりもあなたの場合は、何かを感じるという感情が欠損しているのかしら?」

ともあれ、さっきのがその参加者を決めるためのいわば予選のようなものの一つだったらしい。
それに打ち勝った俺には、聖杯戦争に参加する資格があると女は言う。

しかし、困ったことがあった。
俺には、聖杯を求めるような願いなどない。

「あらあら、それは困りましたね…。私としても参加させられた以上、叶えたい願いというものはあるのですが。
 肝心な主がそんな様子では、最悪私はあなたを殺して他の予選通過者を探さねばなりませんね」
「お前も願いを持っているのか?」

ふと興味が湧いた俺はそんなことを問いかけていた。
興味、といってもそれはどちらかというとあのプログラムでコイントスをした時の心境に近いが。

「ええ。私は自分の死に方に後悔なんてしていません。むしろアレ以上の散り様を望むのは、こんな化け物にとっては贅沢でしょう。
 だけど、死に後悔はなくとも生には後悔があるのです」
「生きることに後悔?」
「ええ、化け物のような体も、どんなことをも瞬時に習得してしまうような才能もいらない。ただ普通の人間として生まれ、生きて、死んでいきたいのです。
 私としてもそんなことを本気で願ったことなどありませんでしたが、聖杯なんてものを見せられたらそう思わずにはいられなくなりまして」

つまり、目の前の女は戦う理由も願いも持っているということか。
死んで尚もそういったものを見つけることも感じることもできなかった俺と違って。


「分かった。それがお前の望みだというのなら、俺はその為に聖杯を手に入れてやろう」
「あらあら、本気なのかしら?自分のことじゃなくて、他の人の願いを戦う理由にするというの?」
「ああ」

返答と同時に、女の自分を見る目が変わったように感じた。
それまでのような、視界を映すために見る目ではなく、まるでこちらの全てを見透かそうとするかのような目。

見て、観て、診て、視て、看て、魅て、こちらの全てを見ようとする、そんな眼。

そんな時間が数十秒ほど続き、瞳がそのような状態から戻ったように感じた瞬間。

「いいでしょう。どうやらあなたのような人間にしてはやる気になってくれた、という様子のようですし」
「つまり、俺はマスターとやらでお前がサーヴァント、ということになるのか?」
「そうなりますね。あ、でもさーヴぁんとという呼び方はあんまり好きになれませんね。私のことは刀と呼んでくれた方がいいです。
 いえ、(真名的には)むしろ悪いのかしら?
 まあ、お好きに呼んでください」

そのまま、握手をすることもなく事務的に契約を果たした一組の参加者。

と、ふと女が思い立ったかのように問うた。

「そういえば名前を聞いておりませんでしたね。
 人の顔や名前を覚えるのは苦手なのですが、まあここは社交辞令のようなもので」

そうだ、そういえば名前を名乗っていなかったし、女の名前も知らなかった。
不都合はないとは思うが一応一般常識として知っておいたほうがいいだろう。

俺が名乗ると同時に、女も自分の名を告げた。

「桐山和雄だ」
「ばーさーかー、やしゅり七実です。以後お見知り置きを」


噛んでた。



【クラス】バーサーカー

【真名】鑢七実@刀語

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具C

【属性】
 悪・中庸

【クラススキル】
狂化:D
筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。
はずなのだが、彼女の場合思考や言語機能に影響が見られない。それ故か、筋力耐久アップの恩恵も受けられず痛みを知らぬという程度に留まっている。
本人曰く「元々狂っていたのだから今更狂い様もないでしょう」とのこと。
――――というのは建前で、実際はその天才性で狂気を押さえつけていることが原因。そのため一部ステータスやスキルが低下している。(表示されたものは低下後のもの)

【保有スキル】
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
彼女の場合、その天才性、後述する宝具によってあらゆる状況、敵の能力を見通すことができる。

精神異常:A
狂化とは無関係な精神異常。
他人の痛みを感じず、周囲の空気を読めなくなっている。

病持ち:A
体に巣食う大量の病。
治癒することもできないほどの病に蝕まれた肉体は持久力にかけ、長期戦を行うことができない。
しかし慢性的に体に働きかけるその苦しみは、毒や痛みに対して抵抗力を与えている。



【宝具】
見稽古(みげいこ)
ランク:C 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
全てを見透すことのできる目。
「人間一人に到底収まりきれぬ」と表現されるほどの驚異的な強さから漏れだした才能。
その目で見通したものはいかなるものをも見通し見透かし、構成から活用法までを理解することができる。
その発展として相手の技を一度観ただけで体得、二度見れば万全に自らのものとすることができる、それがこの宝具である。
保有するスキルすらも自らのものとして学習することが可能であり、宝具さえ奪うことができれば真名開放すらも擬似的に果たすことができる。

しかしAランク以上のスキルまでは見取ることができず、真名の開放が必要ない常時使用型かつ肉体一体系宝具であればCランクまでしか習得することができない。
また、真名開放を見取るには二度の見稽古が必須となる。

現在習得している技能、スキルは凍空一族の怪力、真庭忍法の足軽、爪合わせ、死霊山神衛隊の降霊術となっている。


悪刀:七実(あくとう・しちみ)
ランク:B 種別:対人 レンジ:- 最大捕捉:-
悪刀・鐚を己に使用したことで発動可能な限定奥義が宝具として昇華したもの。
これを使用した場合スキル:病持ちが消失し長期的な戦いを行うことも可能となり幸運、魔力を除く全てのステータスランクが2アップする。
反面、これを使用した場合狂化を抑えきることが難しくなり、マスターへの魔力負担が増大する。


【weapon】
『虚刀流』
無刀の剣術としてその身自体を刀とするために習得した技術。
対剣士との戦いにおいて様々な局面を想定した奥義が存在する。
この継承者には自身が刀(剣)を用いて戦うことはできないという呪いのような持っている。が、鑢七実自身は見稽古により(技術的には)それを克服している。
本来はこれも見稽古で見取ったものであるが、彼女自身も虚刀流の血を引いているため固有の武器(技術)としておくものとする。

『悪刀:鐚』
四季崎記紀が作り上げた12本の完成形変体刀の一つ。
所有者の死さえ許さず、無理矢理に人を生かし続ける凶悪な刀。

【人物背景】
剣を全く使わない一族相伝の剣術、虚刀流の一族に生まれた女。
幼少期より非常に病弱であり、どうして生きているのか不思議がられるほどの病が体を巣食っている。
その才能は人間一人に到底収まりきれぬと称されるほどの化け物であり、父、鑢六枝ですらもその才を恐れ虚刀流継承を弟・七花に譲るほど。
妻殺しの疑いにより一家全員島流しにあい、無人島へと隔離に近い扱いを受ける。
その中で、弟の修行の様子を見続けた彼女はその天才性を発揮させ見稽古を習得、虚刀流の技を身につけるもそれを知った父に殺されそうになる。
彼女自身は殺されてもよかったと語るが、弟・七花が六枝を返り討ちにしたため、生き残ることになった。

その後は2人で無人島生活を続けるが、奇策士とがめの変体刀収集の依頼を七花が受けたことで一人無人島に残ることに。
そして数ヶ月後、真庭忍軍による襲撃を受け、変体刀収集のための人質に狙われるも、逆にその忍法を習得し返り討ちにする。

その後変体刀収集に興味を持った彼女は習得した忍法で島を脱し、変体刀を探して本土へと帰還。
そこから2ヶ月の間に「双刀・鎚」を巡って怪力を誇る凍空一族を壊滅に追い込み、さらにその翌月は「悪刀・鐚」を巡って死霊山神衛隊と戦いこれも壊滅させる。

その翌月、剣士にとっての聖地ともいえる清涼院護剣寺を占領し弟、鑢七花を変体刀をかけて迎え撃つ。
悪刀『鐚』による限定奥義、悪刀・七実を使用し病を克服した彼女は初戦では彼の奥義の弱点を付くことで完膚なきまでに打ち負かすも、再戦の際にはその弱点を克服し更にとがめの奇策によって目を封じられることで敗北。
しかし虚刀流の奥義を受けてなお生き残った七実は、『見稽古』による”弱体化”と、『鐚』による生命力の沈静化を取りやめ、本気で戦い始める。
七実の本気に七実の体は耐え切れず崩壊を始める中、最後は七花の一撃を受け、愛しき弟の手によって人として散った。

虚刀流という存在自体が一部の剣士達の間では英雄として語られており、彼女とて例外ではない。
しかし鑢七実の場合無人島に島流しされる以前は日本最強であったのではないか、との説もある。
その最期に赴いた清涼院護剣寺での戦いもまた伝説として語られている。


【サーヴァントとしての願い】
ただの人間として生まれ、生き、死にたい。

【基本戦術、方針、運用法】
見稽古による分析から的確に弱点を付き確実に倒していく。病持ちであるため長期戦、持久戦は避ける。
マスターは一般人としては強力だが魔術師戦となった場合は不利が否めないため基本的には魔力供給のみを期待する。
なお、狂化を抑えこんでいる間の燃費自体は並であるが、もし魔力不足に陥るようであれば魂喰いも辞さない。



【マスター】
桐山和雄@バトル・ロワイヤル

【参加方法】
死後、ムーンセルに入り込んだことで参戦。
木片は持っていたようだが記憶が錯乱しているため詳細は不明。

【マスターとしての願い】
無し。しいて言えばサーヴァントの願いを叶えること?


【能力・技能】
ヤクザをも打ち負かすほどの身体能力を持っている。
また、どのようなこともそつなくこなすほどに才能に優れており学習能力も高い。
無論それらは一般人の範疇を出ることはないだろうが、拳法など技術的な戦闘能力であれば習得に時間はかからないと思われる。


【人物背景】
城岩中学校3年B組の中学生。
幼少期の事故によって感情を失っている。
高い身体能力や才覚を持った財閥の御曹司であり、不良グループ「桐山ファミリー」のボス。

修学旅行においてバトルロワイヤル(プログラム)に参加させられた際には、コインの裏表で乗るか否かを決定。
プログラムに乗ると決めた後は、かつての舎弟達やクラスメイトをも躊躇なく殺し、優勝候補の有力者となる。
しかし脱出派であり自分と同じく最終盤まで生き残った七原、川田達との戦いに敗れて死亡。
プログラム39番目の死者であり、殺害者数は10人を超えている。


【方針】
バーサーカー(鑢七実)の願いを叶えるために動く。
己の生には固執してはいないが無駄に死ぬつもりもない。