暗い暗い森の中、月の光が差し込む深い森の中に一人の少女が心を曝け出す。 手に取った剣を振るい木々を斬り裂いて、何本も何本も怒りを込めて斬り裂いていく。 この想いを独りで抱え込むには既に現界を迎えているのだ、出さなければ自分が崩壊してしまう。 少女はただ闇雲に剣を振り回す。月の光が刀身に反射され映しだされる表情は修羅の如く形相。
「何で……何であたしだけッ! あたしだけがああああああああああ」
少女の名前は美樹さやか、明るく元気な女子中学生だったが運命の転機は意外にも簡単に訪れた。 『願いを叶える代わりに契約して魔法少女になってほしい』悪魔の囁きが彼女の人生に黒を零したのだ。 さやかには好意を寄せている幼馴染が一人、重い怪我で入院していた。 その少年は天才的なヴァイオリニストだったが怪我により負傷した腕では二度と演奏が出来ない状態。 何日も彼を元気付けようと病院に通うさやかだったが彼女の裏のない好意が彼を傷付けてしまったのだ。 永遠に音楽を表現出来ない彼に少女は音楽を与え続けた……彼にとっては苦しみでしか無い。
結果少年は少女に怒りを言い放つ、本心では彼女に感謝しているのだが人間とは不器用な生物。 傷付けるつもりは無かったが少女の心は深い闇に飲み込まれる、そして浮かぶ契約の手段。 魔法少女、響きだけならば幼い頃憧れていた永遠の夢のように光に満ち溢れている。 実在の姿は自分を犠牲にし他者を救う――他者を不幸にさせないと自分が生き残れない生物。 彼女は契約したのだ、魔法少女になった彼女の願いは『幼馴染の怪我を治す』優しい願いだ。
少年は奇跡に遭遇し入院生活から脱出、そしてヴァイオリンをもう一度弾ける状態に回復。 けれどさやかの願いとは知らない、彼女もそれを告げない。 少年が救われた。彼女はそれだけで心が光に包まれた――笑わせるな。
「言えば……あの時言えばよかった……でもあたしの身体は……ッァアアアア!!」
少年と彼女はすれ違った、嗚呼何と愚かなことをしたのだろうか。 何故告げない、『あたしが貴方を救った』何故こんな簡単な言葉すら言えないのか。 引かれるからか? 痛いからか? ミステリアスを気取りたいのか? 正義の英雄面をしたいのか?
それで後悔するなど哀れ、いや己が招いた不祥事だ、貴様は奇跡に縋ったのならば代償があるのは摂理だろうに。
事の終末を告げる。
『少年は別の女と仲を育み、救った少女は怪物になり果てた』ただそれだけだ。
彼女の身体には命と呼べる物が存在しない、身体は飾り程度の、形を形成するパーツ。 魂は一つの小さい宝石に移り変わり――人体その物は永遠に朽ちる事の無い無機物に。 それが魔法少女の理だ、戦いに特化した永遠に戦える身体を彼女は手に入れてしまった。 そして果てには本物の怪物である魔女になってしまう――彼女は自分の生きる価値が見いだせなくなっていた。
「聖杯……それを手に入れればあたしは……記憶も令呪も此処に戻った、でも、でも……ッ!」
使い魔と呼ばれる不幸を撒き散らす敵を自暴自棄になりながらも狩り尽くしていたさやか。 倒した残骸から出てきた木片が聖杯戦争への資格だった、そして失くす記憶、取り戻した記憶。 最初は喜ぶしか無かった、再び人間に戻れる、あの頃に戻れるかもしれない。 現実はそんなに甘くない。
「バーサーカー……強いけど魔力の消費は激しい……笑わせるな。 あたしのソウルジェムは! もうこんなに黒く濁っているのに!! その上で消費の激しいサーヴァント――誰もあたしを救ってくれないんだッ!!」
怒りに任せ更に剣を振るうさやか。 記憶に現れるのは己のサーヴァントクラス、それはバーサーカー。 狂戦士と呼ばれるそれは全体の中でもステータスは高く数字だけならば最強と呼べるかもしれない。 だが誓約は大きく、何より消費される魔力量の関係から身を滅ぼす可能性だって存在するのだ。 美樹さやかは自分のサーヴァントを見ていない、だがバーサーカーには変わりない。
「……だから黙ってさっきから居るのね、バーサーカー」
斬り裂いていた木々の奥にさやかを見つめる視線の正体。 バーサーカーと呼ばれた男は何も言わず彼女の元へ歩き始める。 姿は普通の男、少しだけ眼付きが悪く感じる男。
「何か言いなさいよ、こんなあたしを笑いなさいよ!! 気取って何も明かさないで……友達まで傷付けてまだ奇跡を求めるあたしを!!」
「――お前は何を我慢しているんだ」
バーサーカーは特有のスキルである狂化により理性を失っている。 そのため言語機能は全く使えないのが主流だが彼は言葉を発した。 我慢している、当たり散らすさやかに彼は何を感じ取ったのか。 全てを見透かしているような発言はさやかの怒りを加速させ剣をバーサーカーに振るってしまう。
「バーサーカーが喋ってんじゃないわよ……あんたに何が分かるって言うのよ!!」
「此処にいるのは俺だけだ――泣くのを我慢する必要はねえ」
さやかの剣を避けること無く言葉を放つバーサーカー。 その剣は彼の肩に裂傷を与えるもサーヴァントは伊達ではなく気にしている様子はない。 その突然な言葉はさやかに何を与えるのか。
バーサーカーからの不意な言葉に混乱してしまうさやか。 我慢するな、偉そうに、何も分かってないくせに喋るな。 あたしは頑張った、その成果を誰かに認めてもらいたかった、でも言い出せなかった。 本当は少年と一緒に歩いているのは自分が良かった、何でこんな事になってしまったのか。 どうしてあの時――あたしは何も出来なかったのか、思い出してしまう。
「あんたに何が分かるって言うのよ……う、ひっ……ぅ」
自分の気持を整理していたら壁が崩され涙が溢れ出る。 バーサーカーの言葉に彼女の心は、他人を求めていた気持ちは簡単に崩れてしまった。 彼女は中学生だ、こんな過酷な運命を背負う必要なんて本来ならば存在しない。 運命、この誰にでも表せる都合のいい記号でしか彼女を表わすことは出来ない。
泣き崩れるマスターに背を向けるサーヴァント。 目の前の少女は見せつけるために泣いている訳ではない、見世物なんかじゃない。 彼は背を向け夜空に腕を伸ばし――月を掴むように拳を握る。
(聖杯だが何だか知らねえが変わんなえ……今まで通り喧嘩をするだけだ)
サーヴァントに願いなどない。 邪魔する奴はぶっ飛ばす……それが彼の信念であり英霊となった今でも変わらない。 ならば、今泣いている目の前の少女のために拳を振るう……こいつがここで朽ちる必要はない。 決して言葉には出さない、だがサーヴァントはマスターに聖杯を捧げる。
(チンタラやってたら俺よりも先にこいつがくたばっちまう――即効で終わらせるしかねえ、か)
この想い理屈なんかじゃ表せない。
【マスター】美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ
【参加方法】ムーンセルによる召還(木片は使い魔の残骸から入手)
【マスターとしての願い】人間として再び日常を過ごす。 【weapon】魔法を主体に戦う。 【能力・技能】彼女は契約を果たし魔法少女となり魔法を手に入れた。 その力は癒やしを得意とし己の身体もまたタフである、武器は主に剣。 魂はソウルジェムと呼ばれる宝石であり砕けない限りを死を迎えることはない。 だが彼女の魂は黒く濁っており時間が経てば魔女となり不幸を撒き散らうだろう。 【人物背景】奇跡に縋り絶望を引き渡された哀れな少女。
【方針】自分に残された時間は少ないため他の参加者を見つけ次第殺す。
【クラス】バーサーカー
【真名】カズマ@スクライド
【パラメータ】筋力A+ 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運D 宝具A+
【属性】中立・
【クラス別スキル】 狂化:E (B)…筋力のパラメーターをランクアップさせるが、複雑な思考が難しくなる。 本来ならばBランク相当の狂化を得るのだが反逆のスキルを保有しているせいでランクが大幅にダウンしている。
【保有スキル】 反逆:A…男は絶対に己の意思を曲げたりはしない。 全ての事象に抗うスキルでありこの意思で彼は狂化のスキルに反逆している。 場合によっては令呪にも反逆する可能性や未来だって有り得る。 全ての現象に反逆し相手のスキルや魔術効果を軽減、あるいは無効にする事もできる。 意地:A…男はどんな傷を受けようがその拳を振るい続ける。
【宝具】
『奴に刻むはこの拳(シェルブリッド)』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~4 最大捕捉:1人 精神官能性物質変換能力、通称『アルター能力』の一つ。 己の右腕をアルター構成するし相手を殴る、ただそれだけ。 背中に装着された三つのフィンを代償にすることで強力な一撃を放つ。フィンは消耗後再構成が可能。
『この輝きこそが己の拳(シェルブリッド)』 ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1~40 最大捕捉:1人 精神官能性物質変換能力、通称『アルター能力』の一つ。 輝きを増したその右腕は更なる力を増し相手を殴る。 プロペラの装着により高度な飛行性能を得た。 魔力と力を放出させることで強力な一撃を放つことが出来る その輝き故に腕に多大な負担をかける。
『天下無敵の自慢の拳(シェルブリッド)』 ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:50人 精神官能性物質変換能力、通称『アルター能力』の一つ。 全身をアルター化させその姿は宝具その物となる。 この宝具は相手を殴るのみ、それ以外に何が必要だというのか。 【weapon】拳
【人物背景】 男は拳一つで生きてきた。
【サーヴァントとしての願い】 誰かに叶えてもらう願いなどいらねえ。
【基本戦術、方針、運用法】 拳を振るい喧嘩を終わらせマスターを……。
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