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「リブート」(2018/09/22 (土) 22:59:10) の最新版変更点
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**リブート ◆HOMU.DM5Ns
……
………………
……………………………………
----
では、聖杯戦争を始めます
所詮、人間など誰であろうと『魔王』に成りうる存在だ
“あぁ、そうさ。人類は負けない。最後には必ず勝つ。―――だが、いつまでこれを繰り返すのだ?”
感じられなくてもいいの、ただ忘れないで。人類はまだ希望が無くなった訳じゃないことを……。
――――生きろ。
もしかしてそこのキミ、おれをサーヴァントとして呼んじゃったマスターなの?
いいだろう、人間……いや我が主(マスター)――――闘争を始めよう
マ、マスター……揉むだけならば、そんなァッ! にゅう、乳頭は! そんな、な、なんで服の上から的確に!?
もし、この聖杯にも穢れがあったならば……その時は……
――――Amen
待たせたわね全国の子ブタ! 復活ライブの始まりよ!
———願いは、自分自身のためだけにしろ。
我が槍は殿下の栄光を闢き、我が盾は殿下の栄光を覆う」
小娘め……俺は歳取って出直して来いと言ったんだがな……ガキになって来るとは面白れぇじゃねぇか
真っ平御免だ。俺の心も魂も命も俺だけのものだ
だが、これだけは言っておく。俺を真に支配しようとだけは考えるな……!
聖杯を精液と愛液でいっぱいにするためかな!
私はキャスター。――――そして、未来のあなた自身
その力があれば、全ては統一される
お辞儀をするのだ
余が重んじるのは絶対なる力のみ。聖杯はまさしく余が手に入れるに相応しい力の塊なのだ
ドーモ、アサシンです
さあ祭りだ、祭りだ、祭りだワショ――――イwwwwwwww
…………やってみよう
……朧
少々趣向は違うようだが、やはり君は私と同じ『殺人者』のようだね。
・・・・■■、■■■■
■■■■――――!!」
……そうだ、次の聖杯戦争でもコンビ組もう! 優勝してFateの次回作に出れますようにって聖杯とキノコちゃんにお願いすればいいよな!
----
始点記録(レコード)、保存。
----
【空想電――
せめて名前を教えて欲しい。僕の名前を、僕が何というカタチをしていたかを。そしてできることなら呼んで欲しい。でも、無理だろうな。
な、貴様、狂戦士の分際で───ガッ!?
…………と……ちゃ……
――xxxxさん
……また、学校に……ま、ど……
行くぜ───バーサーカー。数分と持たねぇ身体だが、その命、幾らか貰っていくぜ
――悔しい
ヌウウウウアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
ひとりぼっちでいい。でも死ぬのはいや。だっておかしいから。でもしぬのはこわい。ねえそうでしょ――
…………
見なよ、やっぱりこの世界なんて――――
イイイイイイヤアァァァーーーーッッ!
――――
……はは
さよならだ、"伯爵"
――約束なんか、するもんじゃねえな。
…………ああ…………良い夢、だった…………
―――Amen
----
最終記録(レコード)、保存。
システムの正常再動を確認。
おまたせしました。
リブートします。
◆◆◆◆
―――空に月が浮かんでいる。
何も不思議な光景ではない。
日が沈み空が暗色に包まれる夜になれば、雲が覆いにならなければ、誰もが毎日目にするものだろう。
物珍しい欠け方もしていない。いつも通りに見える月。
そう、月に変わりはない。
たとえ、異星文明の残した地球の観測装置ムーンセルが置かれた神のキャンバス台という真実があったとしても。月は変わらず其処にある。
あるとすればそれは、見上げる側の心境と、彼らが立つ位置の変化だろう。
それは方舟。
宇宙にすれば一時の、しかし地球からすれば遠大な軌道で周回する星を泳ぐ船舶。
月のムーンセルと交信し、地球全てを記録している膨大な演算能力を用いた舟、アークセル。
古き神代の頃より存在し、今も役目の為稼働している『古代遺物(アーティファクト)』。聖書の一説に乗るノアの方舟の再来だった。
その内部たる霊子世界に招いた数十名の人間(マスター)。
そしてその『つがい』となる、歴史に名を刻んだ英霊(サーヴァント)。
時間の前後を問わず、世界の壁も関係なく、編纂も剪定の区別もなく。
ありとあらゆる境界を超えた組み合わせが集い、覇を競い、月に至る階段に足をかける権利を得る。
事象改変の域にまで至った演算装置は万能の願望器に等しい。
おしなべて願望器を求める争いはこう呼ばれる習わしがある。
――――――聖杯戦争。
御子の血を受けた杯。世紀を跨いで追い求められる、奇跡を叶える器の争奪戦と。
そして現在。
アークセル内で再現された聖杯戦争の舞台『冬木市』の一角に建てられたキリスト教会。
礼拝堂には一人の少女が立っている。銀色の長髪を下ろした修道服の少女は目の前の虚空に手を出して指を滑らせて『業務』をこなしている。
聖杯戦争の運営役に選ばれた上級AI、カレン・オルテンシアは自らの役割にとりかかっていた。
サーヴァントの戦闘を人目につくのを禁じるルールを敷いてる以上、自然と戦いは夜に頻発する。
地上の聖杯戦争での監督役の代理として、NPCの魂の改竄による街の沈静化を図る。それがカレンに与えられた役割の一つでもある。
今後も街の裏で続いていく戦いは激化の一途を辿る。隠蔽対策の頻度は時を追うごとに増していくだろう。
優勝者である最後の一組が決まったその時、果たしてNPCの住民達はどうなっているのか。そもそも街は原型を保てているのか。
そこに思考を向ける事はなく、カレンは業務を粛々と進行させていく。
じき夜が空ける。
箱庭内の聖杯戦争が本格的に開始して丸一日が経った。
深夜と黎明にかけて繰り広げられた乱戦も波が引き、落ち着きを見せ始めている。
サーヴァント戦は夜が本番といっても、マスターには予選時代に定められていた役割(ロール)がある。学生であったり社会人であったりと部類は様々だ。
規則性を破り他のマスターに怪しまれる危険を無くそうと思えば、この時分に積極的な行動は控え休息に入る。
少しでも情報を得ようとサーヴァント単独に行動させたり、夜勤が常である等時間に囚われる必要性のない職であれば話は別だが、接触の機会は目に見えて減るだろう。
よって今はカレンの仕事も穏やかなものだ。NPCに大規模な混乱が見られない以上忙しなく働く必要はない。
「聖杯戦争には、常にイレギュラーがつきものだといわれています」
白く細い指が、虚空に浮かぶウインドウを踊る。
オルガンの鍵盤を鳴らすようにして、軽やかに、厳かに。
「この、月を望む聖杯戦争をはじめとした、世界に複数行われている聖杯戦争。
その始点、全ての聖杯戦争の原型とされるのが、この冬木の地で生まれた聖杯戦争。
ですが、その冬木でさえ完全な形で儀式が完遂され聖杯―――願望器が優勝者の願いを叶えたという記録は、アークセルには存在していません」
そこには多くの画面が映っていた。
NPC達のものではない。より細かで、価値の高い、膨大な密度のデータが行き交っている。
「はじめは召喚した英霊を制御できず、儀式ですらない殺し合いで無為に終わった。
次回はルールが整備され戦争の体が成っても、徒に時間ばかりが過ぎ去った。
三度目は、始まって真っ先に手に入れる器が壊れ全てがご破算。
四度目は比較的まっとうに続いた形であったけれど、前回で生んだ歪みが全ての前提を覆した。
そして五度目は、それまでの負債が回って完全に破綻した」
言葉を紡ぎながら、作業を滞らせる事なく。聞かせる聴衆も子羊もいない、伽藍とした講堂には音色だけが反響する。
「魔術師ではないマスター。規格外のサーヴァント。
英霊の座からの来訪者を使い魔と定義付ける事により起こる様々な弊害。
神域の魔術師が集まり造り出した聖遺物とはいえ、たった五度の施行で見えた傾向などたかが知れてるというもの。
予測外の事態が出るのも当然のことでしょう。ええ、なら、今回もそういうことなのでしょう」
―――いや。
果たして聞き届ける者はいた。迷い人ではなく、彼女と職務を同じくする信仰の徒が。
赤い絨毯の身廊に立つ鎧姿の少女。カレンは独り言ではなく、そこにいる人物に向かって言葉を送っていた。
「そして、彼女がそれである。ということかしら、ルーラー?」
ステンドグラスから差し込む月光に眩く照らされる、鎧装束に身を包んだ少女。
夜に溶け込むような銀色のカレンに対して、幻想的な芸術画を思わせる金砂の髪。
どちらも、神の家に置かれるには似合いすぎるぐらいには神聖ではあろうが。
サーヴァント、ルーラー、ジャンヌ・ダルク。
異常の見られた現場に直接赴き判断を下す聖杯戦争の"裁定者"は、事態を収拾し拠点である教会に還ってきていた。
◆◆◆◆
『冬木の聖杯戦争』における教会には、ふたつの役割がある。
神秘の隠匿、サーヴァントの戦闘により起きた被害の事後処理。表社会に魔術の存在を知られてはならないという絶対の法。
歪めた情報を報道に流しての隠蔽、暗示による記憶操作、時には被害を受けた公的組織へ補填する等して徹底的に真実を闇のままに封じ込める。
そしてもうひとつは、サーヴァントと令呪を失い、聖杯戦争から敗退したマスターの保護だ。
他にマスターを失いはぐれたサーヴァントが出た場合、聖杯は新たに契約者候補に令呪を再配布する。
だがマスターに適合する資質の都合上、自然と新たに選ばれるマスターは以前にマスターであった人物が選ばれる傾向が高い。
その為、万全を期するなら他のマスターはサーヴァントを失ったマスターであっても殺そうとし、狙われる側も駆け込み寺を必要とする。
その用意として教会内には幾つかの客間が設けられており、その時の名残として、この電脳上の冬木教会にもセーフハウスの機能がつけられていた。
ここは上級AI、裁定者の権限が届く地帯。余剰リソースを与え実在証明の楔を打ち込めば、教会の敷地内にいる限り、サーヴァントを失ったマスターでも消滅を免れられる。
「まさか、本当に使う機会があるだなんて思ってもみなかったけれど」
「ごめんなさい。急に客間の用意を頼んでしまって」
カレンの零したように、本来これは使われる事はないとされていた機能だ。
なのでルーラーから『空いた部屋の準備とリソースを使用させて欲しい』と連絡があった時はどうしたことかと思ったものだ。
「ああ、そこはいいのよ。下働きは慣れていますし。
私というAIの元になった人物も、そういう奉仕に従事していたようですし。
私が言いたいのは―――その理由のほう」
すぅ、と目を細めルーラーを見据える。
睨むというほどではない透明な金の瞳は、なのに見る者に息苦しさを与えるような意を含んでいる。
「マスター・宮内れんげの教会での保護。
中立であるべきルーラーがサーヴァントを失ったマスターを、それも違反行為を犯したサーヴァントのマスターを自ら匿うだなんて、本気かしら?」
南東の森でルーラーが保護して連れてきたれんげは、用意した客間で既に眠っている。
ただの子供の身で深夜の時間まで起きていたのだ。聖杯戦争を自覚していなくても心身の疲労は募っていて当然だ。
ひとまずカレンの承諾を得てから簡易的に身体スキャンを行い、部屋に案内して着替えさせるなりベッドに潜り、ものの数秒で熟睡に入ってしまった。
目が覚めるのは朝方か。子どもは眠るのも起きるのも早いものだ。
「ええ。本気でなければこんな決定は下しはしませんよ」
叱責・諫言ともいえるカレンの言葉にも、ルーラーは紫水晶の瞳を翳らせることなく答えた。
「―――方舟に乗り込む以前にサーヴァントと契約。記憶も失わず、NPCのロールも保有していないマスター、ですか」
道すがらにれんげから今までの簡単な経緯を聞いたジャンヌからの報告に、カレンも怪訝な表情をする。
それだけ、このマスターが異常極まるケースであるのを物語っている。
「契約が消失した後になっても自己崩壊の兆しは皆無。霊子を保っているだけならば前例のケースがあるけれどそもそも対象が不明、前者についてはまったくの想定外。
確かに、イレギュラーの塊のような参加者ね」
サーヴァント無きマスターの生存の抜け道。それ自体は存在する。
過去に裁定者二人が直に目撃している、岸波白野を介した、遠坂凛と白野のサーヴァントとの疑似的パス共有だ。
凜自身のランサーを失って新たなサーヴァント・アサシンと契約するまでの僅かな時間ではあったが、肉体が消える兆候は現われなかった。
これは然程の問題もないとして裁定者側も認可していた。では一体れんげと契約を繋いでいるのはどのサーヴァントなのか。
更に問題とするべきはそれ以前の話。
方舟外でサーヴァントが活動して、第三者に『木片』を渡して召喚されたという、異例の事態についてだ。
「カレン。彼女について、分かったことは?」
「上級AIの権限でマスターの情報は取得しています」
浮かび上がるウィンドウに情報が記載される。
身体スキャンで得たれんげの内部データ。そして、カレンが持ち得る聖杯戦争参加者の詳細データだ。
「宮内れんげ。旭丘分校小学1年生。奇特な思考回路を持ち周囲を困惑させる発言をするものの成績は優秀。好物はカレーライスで苦手なものはピーマン。口癖は「にゃんぱすー」」
「……それ以外は?」
「飼っている狸の名前は「具」ですね」
「ほ、本当にそれだけなのですか!?」
実にのんびりとした情報(マトリクス)であった。ルーラーも思わず突っ込んでしまう。
AIに虚偽の申告は許されず、また不可能。彼女らに課せられた基本則はルーラーも理解しているが、それにしてもあまりにもな結果である。
「ないものは出せません。彼女の個人情報はそれで全てです。
それとも細かな思考ルーチンや地上での行動ログも閲覧しますか?退屈なだけの日々なのに、愉快なものを見ている気分になれますよ」
「では、本当に彼女は―――」
虚偽は述べていない。隠された真実はない。それがれんげの全てであるということは。
悪意の扇動者に出会う因果がまったく見つからないというのなら。
「肉体の魔術的特質、魂の因果的資質、いずれにも反応なし。
神秘に触れる環境下にもなく、特殊な過去も経験していない。
意思なく資格なく、唐突に現われた悪魔に謀れ、流されるままにアークセルに乗り込んでしまった迷い子、いえ、密航者とでもいうべきかしら」
密航者。
参加権である木片は持っていても経緯が不条理だ。イレギュラー扱いもやむなしである。
だからそう呼ぶことは、ある意味で間違いではない。
「……資格なき、とは違うでしょう。彼女もまた一人のマスターであったことには変わりありません」
「ええ、そうね。彼女もれっきとしたマスター。それは事実。
そして既にサーヴァントを失った敗退者でもある。本来ならとうに消滅し、魂は在るべき場所へ帰還しているはずの残滓なのに」
自ら戦うと決めたわけでなく、強制的に連れてこられたマスターを知っている。
魔術や異能の素養がなくても、戦おうとするマスターが存在する。
れんげよりも幼い子供のマスターだっていたのだ。
能力や意思に依らず、ここに集ったマスターには誰もが聖杯に触れる資格を持つべきだ。
あの交渉の場で、本多・正純にも語った言葉だ。
「あの子をこのまま消しはしません。見つけた異常を是正しなければ、それこそ運営の綻びの温床となりかねません。
多くの謎が残っている。方舟の中を通れてしまうだけの抜け道が出来ている。それを確かめなくては。そうでしょう?」
「私情で生かすのでなく、聖杯戦争を恙無く運営させる裁定者として宮内れんげは活かすべき、と?」
「マスターとしてより、ただの子供として見ている。そこは否定しません。救えるものならそうしたいとも」
子供だからという贔屓。捨てられない感情はある。さりとて感情に走って差配を誤るほど子供でもない。
伝えたいのは、あの子は罰を受けなくてはならないような事をしたわけじゃない、ということだけで。
「それだけではない―――彼女が関わる啓示でも見えた?」
「……わかりません」
今度は、答えるまでに少しだけ間があった。
「見えた景色がある。夜の街と鈍い光。その中を動く影を追う中で、彼女を見つけた。
けどそこにどんな意味があるか、どう捉えるべきか……今は測りかねています」
降りた啓示をどう受け取るかは当人の解釈による。
同じ光景を見た二者が、様々な差異から違う行動を取ることもあるだろう。
ルーラーはれんげを見たわけではない。ただ夜の街のざわめく様を俯瞰して、そこに潜む歪みの原因を追いに向かった。
しかしその根源たるベルク・カッツェは一足先に退治され、待っていたのはマスターであるれんげだった。
そしてルーラーをれんげの元に導いたのはアンデルセン神父。ランサー・ブラド三世のマスター。同じ神を信じる同士によって。
因果の線はあまりに複雑に絡み合っている。幾重にも積み重なって螺旋に捻れて、どんな結果を招くか見当もつかない。
あの時は保護を優先して手を取ったけれど。今更になって思いを巡らせてしまう。
生きているが死んでなければいけない者。敗残者にして廃棄物。
それが今のれんげの立場だった。存在と無の曖昧な境界線、その上に立っている曖昧な命。
今も現世に繋ぎ止めている、孤城の主と同じように。
力と呼べる一切を持たず、戦う意志すら皆無の幼子。悪辣な英霊に誑かされ巻き込まれた哀れな被害者。その認識で正しいはずだ。
それ以外に、いったいどんな価値を見るというのか。
「それでも、何度やり直すことになっても私はこの手を伸ばしたのでしょう。そこだけは、後悔はありません」
受け入れるリスクや矛盾、全てを承知の上で。
街の誰も記憶していない、何処にも行く事のできない、ひとりぼっちの魂。
世界にとってないに等しい小石を"在る"のだと、ジャンヌは信じて肯定する。
納得に足る理屈は幾つもある。けれど動いた理由はたったひとつで。結局それだけで迷いは晴れてしまう。
愚かな女だと自身(ジャンヌ)は思う。それでこそ聖女に相応しいと誰かは喝采する。
啓示の導かれた行動は正しい道筋に辿り着く。それは呪いにも似た宿命を見た者に背負わせる。
たとえその通行料に幼子の犠牲が含まれているとしても。
「そう。ならこれ以上、私から言うことは何もありません。
積極的に肯定はしませんが、あなたの願いが叶うのを祈るぐらいはしてあげます」
カレンはジャンヌのマスターではない。同じ神を信じる徒であり、同じ裁定の任の同士であるが、それぞれが別個の人格だ。諫言はあっても強制の権限は持たない。
時には意見を違えることもあるし、それが相互に変化を及ぼす場合もある。
現にエラーは生まれている、どうあれ対処は必須だ。最大の手がかりを手放すべきではない。れんげを調べることは役割上外せない。
裁定者の枠組みを外れた動きでもなし、保護も正常な対応だろう。
それにあの子がマスターの資格を持つのなら―――試すことは、多い。
「まあ、これを知った外野がまた藪をつついてくるかもしれないけど」
「……重ね重ね迷惑をかけてごめんなさい」
「一度こうと決めたらてこでも動かない、周囲を巻き込むのも構わず爆進―――――ふふ、オルレアンの乙女らしくなってきたわね」
「わかりました、わかりましたから……!生前のことをそんなにつつかないでください……」
すると、通知音と共に、窓に映っていた無数の画面が消えた。
代わりに現れるのは一つの盤面だ。チェスの駒のように整理された名前。
そのうちの幾つかは、赤い壁に覆われるようにして塗り潰されている。
消せぬ死線(デッドライン)。魂の切れ緒。既に敗れた脱落者の情報。
サーヴァントもマスターも、この箱庭で消滅した参加者は全て克明に記録されている。
これらの死の羅列を以て方舟は一対の選別の材料とするのか。それはルーラーには分からない。
ルーラーはそれを見上げた。これは進行の証であり、あるいは罪の形でもある。ただ逸らさずに受け止める。
「いずれにせよ、夜がもうじき終わる。
イレギュラーはあれど状況は順調に進行。脱落者は全体のおよそ三分の一。
この調子なら、四日目を待つまでもなく勝者も決まるでしょう。我々も、あくまで我々の職務を続けていくまで」
願いは飛翔する。遥かな月を目指して大空を駆ける。
誰彼の持ち込んだ願いを運ぶ、二十八対の渡り鳥。
翼は砕け、道半ばで飛ぶ力を失い、固い海原に叩きつけられる未来しか待っていなくても。
「虚ろな揺り籠に微睡むのではなく、夢が届く新天地に至るために、貴方達はここに集ったのだから」
再開の時は此処に。
月を望む巡礼の旅人よ。辿り着く日まで、どうか足を止めないで。
「さあ、聖杯戦争を続けましょう――――――」
【D-5/教会/2日目 未明】
【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[令呪]:不明
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、移動キー(教会内の燭台、月海原⇔教会の移動可能)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味。
1.キャスター(ヴォルデモート)との会談について話す。必要なら職務の手伝いも。
2.ルーラーの裁定者としての仮面を剥がしてみたい。
3.言峰綺礼に掛ける言葉はない……があのキャスター(ヴォルデモート)との接触には複雑な感情
4.れんげの保護はひとまず了承
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。他に理由があるのかは不明。
※管理役として、箱舟内のニュースや噂などで流れる情報を操作する権限を持っています。
→操作できるのはあくまで「NPCの意識」だけです。報道規制を誘発させることはできますが、流出してしまった情報を消し去ることや、“なかったこと”にすることはできません。
※教会には『地上での冬木教会の機能』として敗退マスターを保護するための機能が残されています。本来は使用される想定のない機能です。
【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の恙ない進行。
1.???
2.れんげを教会で保護する。
3.その他タスクも並行してこなしていく。
4.聖杯を知る―――ですか。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。
※カッツェに対するペナルティとして令呪の剥奪を決定しました。後に何らかの形でれんげに対して執行します。
※バーンに対するペナルティとして令呪を使いました。足立へのペナルティは一旦保留という扱いにしています。
※令呪使用→エリザベート(一画)・デッドプール(一画)・ニンジャスレイヤー(一画)・カッツェ(一画)
※カッツェはアーカードに食われているが厳密には脱落していない扱いです。
サーヴァントとしての反応はアーカードと重複しています。
【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]ルリへの不信感、すいみん中
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]十円
[思考・状況]
基本:かっちゃん!
1.かっちゃんあっちゃんはっきょくけんが帰ってくるまで待ってるん。
2.るりりん、どうして嘘つくん?
3.はるるんにもあいたい
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。
※ジナコを危険人物と判断しています。
※アンデルセンはいい人だと思っていますが、同時に薄々ながらアーカードへの敵意を感じ取っています。
※ルリとアンデルセンはアーカードが吸血鬼であることに嫌悪していると思っています。
※サーヴァントは脱落しましたが、アーカードがカッツェを取り込んだことにより擬似的なパスが繋がり生存しています
アーカードは脱落しましたが、彼は"生きてもいないし死んでもいない"状態に還ったので、かろうじてパスも生きています。
※教会によって保護されています。教会内にいる限りは消滅の心配はありません。
|BACK||NEXT|
|161:[[狂い咲く人間の証明(前編)]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|:[[]]|
|161:[[狂い咲く人間の証明(前編)]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|:[[]]|
|BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT|
|155:[[絆‐Speckled Band‐]]|[[カレン・オルテンシア]]|[[]]|
|161c:[[狂い咲く人間の証明(後編)]]|ルーラー([[ジャンヌ・ダルク]])|:[[]]|
|~|[[宮内れんげ]]|:[[]]|
**リブート ◆HOMU.DM5Ns
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では、聖杯戦争を始めます
所詮、人間など誰であろうと『魔王』に成りうる存在だ
“あぁ、そうさ。人類は負けない。最後には必ず勝つ。―――だが、いつまでこれを繰り返すのだ?”
感じられなくてもいいの、ただ忘れないで。人類はまだ希望が無くなった訳じゃないことを……。
――――生きろ。
もしかしてそこのキミ、おれをサーヴァントとして呼んじゃったマスターなの?
いいだろう、人間……いや我が主(マスター)――――闘争を始めよう
マ、マスター……揉むだけならば、そんなァッ! にゅう、乳頭は! そんな、な、なんで服の上から的確に!?
もし、この聖杯にも穢れがあったならば……その時は……
――――Amen
待たせたわね全国の子ブタ! 復活ライブの始まりよ!
———願いは、自分自身のためだけにしろ。
我が槍は殿下の栄光を闢き、我が盾は殿下の栄光を覆う」
小娘め……俺は歳取って出直して来いと言ったんだがな……ガキになって来るとは面白れぇじゃねぇか
真っ平御免だ。俺の心も魂も命も俺だけのものだ
だが、これだけは言っておく。俺を真に支配しようとだけは考えるな……!
聖杯を精液と愛液でいっぱいにするためかな!
私はキャスター。――――そして、未来のあなた自身
その力があれば、全ては統一される
お辞儀をするのだ
余が重んじるのは絶対なる力のみ。聖杯はまさしく余が手に入れるに相応しい力の塊なのだ
ドーモ、アサシンです
さあ祭りだ、祭りだ、祭りだワショ――――イwwwwwwww
…………やってみよう
……朧
少々趣向は違うようだが、やはり君は私と同じ『殺人者』のようだね。
・・・・■■、■■■■
■■■■――――!!」
……そうだ、次の聖杯戦争でもコンビ組もう! 優勝してFateの次回作に出れますようにって聖杯とキノコちゃんにお願いすればいいよな!
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始点記録(レコード)、保存。
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【空想電――
せめて名前を教えて欲しい。僕の名前を、僕が何というカタチをしていたかを。そしてできることなら呼んで欲しい。でも、無理だろうな。
な、貴様、狂戦士の分際で───ガッ!?
…………と……ちゃ……
――xxxxさん
……また、学校に……ま、ど……
行くぜ───バーサーカー。数分と持たねぇ身体だが、その命、幾らか貰っていくぜ
――悔しい
ヌウウウウアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
ひとりぼっちでいい。でも死ぬのはいや。だっておかしいから。でもしぬのはこわい。ねえそうでしょ――
…………
見なよ、やっぱりこの世界なんて――――
イイイイイイヤアァァァーーーーッッ!
――――
……はは
さよならだ、"伯爵"
――約束なんか、するもんじゃねえな。
…………ああ…………良い夢、だった…………
―――Amen
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最終記録(レコード)、保存。
システムの正常再動を確認。
おまたせしました。
リブートします。
◆◆◆◆
―――空に月が浮かんでいる。
何も不思議な光景ではない。
日が沈み空が暗色に包まれる夜になれば、雲が覆いにならなければ、誰もが毎日目にするものだろう。
物珍しい欠け方もしていない。いつも通りに見える月。
そう、月に変わりはない。
たとえ、異星文明の残した地球の観測装置ムーンセルが置かれた神のキャンバス台という真実があったとしても。月は変わらず其処にある。
あるとすればそれは、見上げる側の心境と、彼らが立つ位置の変化だろう。
それは方舟。
宇宙にすれば一時の、しかし地球からすれば遠大な軌道で周回する星を泳ぐ船舶。
月のムーンセルと交信し、地球全てを記録している膨大な演算能力を用いた舟、アークセル。
古き神代の頃より存在し、今も役目の為稼働している『古代遺物(アーティファクト)』。聖書の一説に乗るノアの方舟の再来だった。
その内部たる霊子世界に招いた数十名の人間(マスター)。
そしてその『つがい』となる、歴史に名を刻んだ英霊(サーヴァント)。
時間の前後を問わず、世界の壁も関係なく、編纂も剪定の区別もなく。
ありとあらゆる境界を超えた組み合わせが集い、覇を競い、月に至る階段に足をかける権利を得る。
事象改変の域にまで至った演算装置は万能の願望器に等しい。
おしなべて願望器を求める争いはこう呼ばれる習わしがある。
――――――聖杯戦争。
御子の血を受けた杯。世紀を跨いで追い求められる、奇跡を叶える器の争奪戦と。
そして現在。
アークセル内で再現された聖杯戦争の舞台『冬木市』の一角に建てられたキリスト教会。
礼拝堂には一人の少女が立っている。銀色の長髪を下ろした修道服の少女は目の前の虚空に手を出して指を滑らせて『業務』をこなしている。
聖杯戦争の運営役に選ばれた上級AI、カレン・オルテンシアは自らの役割にとりかかっていた。
サーヴァントの戦闘を人目につくのを禁じるルールを敷いてる以上、自然と戦いは夜に頻発する。
地上の聖杯戦争での監督役の代理として、NPCの魂の改竄による街の沈静化を図る。それがカレンに与えられた役割の一つでもある。
今後も街の裏で続いていく戦いは激化の一途を辿る。隠蔽対策の頻度は時を追うごとに増していくだろう。
優勝者である最後の一組が決まったその時、果たしてNPCの住民達はどうなっているのか。そもそも街は原型を保てているのか。
そこに思考を向ける事はなく、カレンは業務を粛々と進行させていく。
じき夜が空ける。
箱庭内の聖杯戦争が本格的に開始して丸一日が経った。
深夜と黎明にかけて繰り広げられた乱戦も波が引き、落ち着きを見せ始めている。
サーヴァント戦は夜が本番といっても、マスターには予選時代に定められていた役割(ロール)がある。学生であったり社会人であったりと部類は様々だ。
規則性を破り他のマスターに怪しまれる危険を無くそうと思えば、この時分に積極的な行動は控え休息に入る。
少しでも情報を得ようとサーヴァント単独に行動させたり、夜勤が常である等時間に囚われる必要性のない職であれば話は別だが、接触の機会は目に見えて減るだろう。
よって今はカレンの仕事も穏やかなものだ。NPCに大規模な混乱が見られない以上忙しなく働く必要はない。
「聖杯戦争には、常にイレギュラーがつきものだといわれています」
白く細い指が、虚空に浮かぶウインドウを踊る。
オルガンの鍵盤を鳴らすようにして、軽やかに、厳かに。
「この、月を望む聖杯戦争をはじめとした、世界に複数行われている聖杯戦争。
その始点、全ての聖杯戦争の原型とされるのが、この冬木の地で生まれた聖杯戦争。
ですが、その冬木でさえ完全な形で儀式が完遂され聖杯―――願望器が優勝者の願いを叶えたという記録は、アークセルには存在していません」
そこには多くの画面が映っていた。
NPC達のものではない。より細かで、価値の高い、膨大な密度のデータが行き交っている。
「はじめは召喚した英霊を制御できず、儀式ですらない殺し合いで無為に終わった。
次回はルールが整備され戦争の体が成っても、徒に時間ばかりが過ぎ去った。
三度目は、始まって真っ先に手に入れる器が壊れ全てがご破算。
四度目は比較的まっとうに続いた形であったけれど、前回で生んだ歪みが全ての前提を覆した。
そして五度目は、それまでの負債が回って完全に破綻した」
言葉を紡ぎながら、作業を滞らせる事なく。聞かせる聴衆も子羊もいない、伽藍とした講堂には音色だけが反響する。
「魔術師ではないマスター。規格外のサーヴァント。
英霊の座からの来訪者を使い魔と定義付ける事により起こる様々な弊害。
神域の魔術師が集まり造り出した聖遺物とはいえ、たった五度の施行で見えた傾向などたかが知れてるというもの。
予測外の事態が出るのも当然のことでしょう。ええ、なら、今回もそういうことなのでしょう」
―――いや。
果たして聞き届ける者はいた。迷い人ではなく、彼女と職務を同じくする信仰の徒が。
赤い絨毯の身廊に立つ鎧姿の少女。カレンは独り言ではなく、そこにいる人物に向かって言葉を送っていた。
「そして、彼女がそれである。ということかしら、ルーラー?」
ステンドグラスから差し込む月光に眩く照らされる、鎧装束に身を包んだ少女。
夜に溶け込むような銀色のカレンに対して、幻想的な芸術画を思わせる金砂の髪。
どちらも、神の家に置かれるには似合いすぎるぐらいには神聖ではあろうが。
サーヴァント、ルーラー、ジャンヌ・ダルク。
異常の見られた現場に直接赴き判断を下す聖杯戦争の"裁定者"は、事態を収拾し拠点である教会に還ってきていた。
◆◆◆◆
『冬木の聖杯戦争』における教会には、ふたつの役割がある。
神秘の隠匿、サーヴァントの戦闘により起きた被害の事後処理。表社会に魔術の存在を知られてはならないという絶対の法。
歪めた情報を報道に流しての隠蔽、暗示による記憶操作、時には被害を受けた公的組織へ補填する等して徹底的に真実を闇のままに封じ込める。
そしてもうひとつは、サーヴァントと令呪を失い、聖杯戦争から敗退したマスターの保護だ。
他にマスターを失いはぐれたサーヴァントが出た場合、聖杯は新たに契約者候補に令呪を再配布する。
だがマスターに適合する資質の都合上、自然と新たに選ばれるマスターは以前にマスターであった人物が選ばれる傾向が高い。
その為、万全を期するなら他のマスターはサーヴァントを失ったマスターであっても殺そうとし、狙われる側も駆け込み寺を必要とする。
その用意として教会内には幾つかの客間が設けられており、その時の名残として、この電脳上の冬木教会にもセーフハウスの機能がつけられていた。
ここは上級AI、裁定者の権限が届く地帯。余剰リソースを与え実在証明の楔を打ち込めば、教会の敷地内にいる限り、サーヴァントを失ったマスターでも消滅を免れられる。
「まさか、本当に使う機会があるだなんて思ってもみなかったけれど」
「ごめんなさい。急に客間の用意を頼んでしまって」
カレンの零したように、本来これは使われる事はないとされていた機能だ。
なのでルーラーから『空いた部屋の準備とリソースを使用させて欲しい』と連絡があった時はどうしたことかと思ったものだ。
「ああ、そこはいいのよ。下働きは慣れていますし。
私というAIの元になった人物も、そういう奉仕に従事していたようですし。
私が言いたいのは―――その理由のほう」
すぅ、と目を細めルーラーを見据える。
睨むというほどではない透明な金の瞳は、なのに見る者に息苦しさを与えるような意を含んでいる。
「マスター・宮内れんげの教会での保護。
中立であるべきルーラーがサーヴァントを失ったマスターを、それも違反行為を犯したサーヴァントのマスターを自ら匿うだなんて、本気かしら?」
南東の森でルーラーが保護して連れてきたれんげは、用意した客間で既に眠っている。
ただの子供の身で深夜の時間まで起きていたのだ。聖杯戦争を自覚していなくても心身の疲労は募っていて当然だ。
ひとまずカレンの承諾を得てから簡易的に身体スキャンを行い、部屋に案内して着替えさせるなりベッドに潜り、ものの数秒で熟睡に入ってしまった。
目が覚めるのは朝方か。子どもは眠るのも起きるのも早いものだ。
「ええ。本気でなければこんな決定は下しはしませんよ」
叱責・諫言ともいえるカレンの言葉にも、ルーラーは紫水晶の瞳を翳らせることなく答えた。
「―――方舟に乗り込む以前にサーヴァントと契約。記憶も失わず、NPCのロールも保有していないマスター、ですか」
道すがらにれんげから今までの簡単な経緯を聞いたジャンヌからの報告に、カレンも怪訝な表情をする。
それだけ、このマスターが異常極まるケースであるのを物語っている。
「契約が消失した後になっても自己崩壊の兆しは皆無。霊子を保っているだけならば前例のケースがあるけれどそもそも対象が不明、前者についてはまったくの想定外。
確かに、イレギュラーの塊のような参加者ね」
サーヴァント無きマスターの生存の抜け道。それ自体は存在する。
過去に裁定者二人が直に目撃している、岸波白野を介した、遠坂凛と白野のサーヴァントとの疑似的パス共有だ。
凜自身のランサーを失って新たなサーヴァント・アサシンと契約するまでの僅かな時間ではあったが、肉体が消える兆候は現われなかった。
これは然程の問題もないとして裁定者側も認可していた。では一体れんげと契約を繋いでいるのはどのサーヴァントなのか。
更に問題とするべきはそれ以前の話。
方舟外でサーヴァントが活動して、第三者に『木片』を渡して召喚されたという、異例の事態についてだ。
「カレン。彼女について、分かったことは?」
「上級AIの権限でマスターの情報は取得しています」
浮かび上がるウィンドウに情報が記載される。
身体スキャンで得たれんげの内部データ。そして、カレンが持ち得る聖杯戦争参加者の詳細データだ。
「宮内れんげ。旭丘分校小学1年生。奇特な思考回路を持ち周囲を困惑させる発言をするものの成績は優秀。好物はカレーライスで苦手なものはピーマン。口癖は「にゃんぱすー」」
「……それ以外は?」
「飼っている狸の名前は「具」ですね」
「ほ、本当にそれだけなのですか!?」
実にのんびりとした情報(マトリクス)であった。ルーラーも思わず突っ込んでしまう。
AIに虚偽の申告は許されず、また不可能。彼女らに課せられた基本則はルーラーも理解しているが、それにしてもあまりにもな結果である。
「ないものは出せません。彼女の個人情報はそれで全てです。
それとも細かな思考ルーチンや地上での行動ログも閲覧しますか?退屈なだけの日々なのに、愉快なものを見ている気分になれますよ」
「では、本当に彼女は―――」
虚偽は述べていない。隠された真実はない。それがれんげの全てであるということは。
悪意の扇動者に出会う因果がまったく見つからないというのなら。
「肉体の魔術的特質、魂の因果的資質、いずれにも反応なし。
神秘に触れる環境下にもなく、特殊な過去も経験していない。
意思なく資格なく、唐突に現われた悪魔に謀れ、流されるままにアークセルに乗り込んでしまった迷い子、いえ、密航者とでもいうべきかしら」
密航者。
参加権である木片は持っていても経緯が不条理だ。イレギュラー扱いもやむなしである。
だからそう呼ぶことは、ある意味で間違いではない。
「……資格なき、とは違うでしょう。彼女もまた一人のマスターであったことには変わりありません」
「ええ、そうね。彼女もれっきとしたマスター。それは事実。
そして既にサーヴァントを失った敗退者でもある。本来ならとうに消滅し、魂は在るべき場所へ帰還しているはずの残滓なのに」
自ら戦うと決めたわけでなく、強制的に連れてこられたマスターを知っている。
魔術や異能の素養がなくても、戦おうとするマスターが存在する。
れんげよりも幼い子供のマスターだっていたのだ。
能力や意思に依らず、ここに集ったマスターには誰もが聖杯に触れる資格を持つべきだ。
あの交渉の場で、本多・正純にも語った言葉だ。
「あの子をこのまま消しはしません。見つけた異常を是正しなければ、それこそ運営の綻びの温床となりかねません。
多くの謎が残っている。方舟の中を通れてしまうだけの抜け道が出来ている。それを確かめなくては。そうでしょう?」
「私情で生かすのでなく、聖杯戦争を恙無く運営させる裁定者として宮内れんげは活かすべき、と?」
「マスターとしてより、ただの子供として見ている。そこは否定しません。救えるものならそうしたいとも」
子供だからという贔屓。捨てられない感情はある。さりとて感情に走って差配を誤るほど子供でもない。
伝えたいのは、あの子は罰を受けなくてはならないような事をしたわけじゃない、ということだけで。
「それだけではない―――彼女が関わる啓示でも見えた?」
「……わかりません」
今度は、答えるまでに少しだけ間があった。
「見えた景色がある。夜の街と鈍い光。その中を動く影を追う中で、彼女を見つけた。
けどそこにどんな意味があるか、どう捉えるべきか……今は測りかねています」
降りた啓示をどう受け取るかは当人の解釈による。
同じ光景を見た二者が、様々な差異から違う行動を取ることもあるだろう。
ルーラーはれんげを見たわけではない。ただ夜の街のざわめく様を俯瞰して、そこに潜む歪みの原因を追いに向かった。
しかしその根源たるベルク・カッツェは一足先に退治され、待っていたのはマスターであるれんげだった。
そしてルーラーをれんげの元に導いたのはアンデルセン神父。ランサー・ブラド三世のマスター。同じ神を信じる同士によって。
因果の線はあまりに複雑に絡み合っている。幾重にも積み重なって螺旋に捻れて、どんな結果を招くか見当もつかない。
あの時は保護を優先して手を取ったけれど。今更になって思いを巡らせてしまう。
生きているが死んでなければいけない者。敗残者にして廃棄物。
それが今のれんげの立場だった。存在と無の曖昧な境界線、その上に立っている曖昧な命。
今も現世に繋ぎ止めている、孤城の主と同じように。
力と呼べる一切を持たず、戦う意志すら皆無の幼子。悪辣な英霊に誑かされ巻き込まれた哀れな被害者。その認識で正しいはずだ。
それ以外に、いったいどんな価値を見るというのか。
「それでも、何度やり直すことになっても私はこの手を伸ばしたのでしょう。そこだけは、後悔はありません」
受け入れるリスクや矛盾、全てを承知の上で。
街の誰も記憶していない、何処にも行く事のできない、ひとりぼっちの魂。
世界にとってないに等しい小石を"在る"のだと、ジャンヌは信じて肯定する。
納得に足る理屈は幾つもある。けれど動いた理由はたったひとつで。結局それだけで迷いは晴れてしまう。
愚かな女だと自身(ジャンヌ)は思う。それでこそ聖女に相応しいと誰かは喝采する。
啓示の導かれた行動は正しい道筋に辿り着く。それは呪いにも似た宿命を見た者に背負わせる。
たとえその通行料に幼子の犠牲が含まれているとしても。
「そう。ならこれ以上、私から言うことは何もありません。
積極的に肯定はしませんが、あなたの願いが叶うのを祈るぐらいはしてあげます」
カレンはジャンヌのマスターではない。同じ神を信じる徒であり、同じ裁定の任の同士であるが、それぞれが別個の人格だ。諫言はあっても強制の権限は持たない。
時には意見を違えることもあるし、それが相互に変化を及ぼす場合もある。
現にエラーは生まれている、どうあれ対処は必須だ。最大の手がかりを手放すべきではない。れんげを調べることは役割上外せない。
裁定者の枠組みを外れた動きでもなし、保護も正常な対応だろう。
それにあの子がマスターの資格を持つのなら―――試すことは、多い。
「まあ、これを知った外野がまた藪をつついてくるかもしれないけど」
「……重ね重ね迷惑をかけてごめんなさい」
「一度こうと決めたらてこでも動かない、周囲を巻き込むのも構わず爆進―――――ふふ、オルレアンの乙女らしくなってきたわね」
「わかりました、わかりましたから……!生前のことをそんなにつつかないでください……」
すると、通知音と共に、窓に映っていた無数の画面が消えた。
代わりに現れるのは一つの盤面だ。チェスの駒のように整理された名前。
そのうちの幾つかは、赤い壁に覆われるようにして塗り潰されている。
消せぬ死線(デッドライン)。魂の切れ緒。既に敗れた脱落者の情報。
サーヴァントもマスターも、この箱庭で消滅した参加者は全て克明に記録されている。
これらの死の羅列を以て方舟は一対の選別の材料とするのか。それはルーラーには分からない。
ルーラーはそれを見上げた。これは進行の証であり、あるいは罪の形でもある。ただ逸らさずに受け止める。
「いずれにせよ、夜がもうじき終わる。
イレギュラーはあれど状況は順調に進行。脱落者は全体のおよそ三分の一。
この調子なら、四日目を待つまでもなく勝者も決まるでしょう。我々も、あくまで我々の職務を続けていくまで」
願いは飛翔する。遥かな月を目指して大空を駆ける。
誰彼の持ち込んだ願いを運ぶ、二十八対の渡り鳥。
翼は砕け、道半ばで飛ぶ力を失い、固い海原に叩きつけられる未来しか待っていなくても。
「虚ろな揺り籠に微睡むのではなく、夢が届く新天地に至るために、貴方達はここに集ったのだから」
再開の時は此処に。
月を望む巡礼の旅人よ。辿り着く日まで、どうか足を止めないで。
「さあ、聖杯戦争を続けましょう――――――」
【D-5/教会/2日目 未明】
【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[令呪]:不明
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、移動キー(教会内の燭台、月海原⇔教会の移動可能)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味。
1.キャスター(ヴォルデモート)との会談について話す。必要なら職務の手伝いも。
2.ルーラーの裁定者としての仮面を剥がしてみたい。
3.言峰綺礼に掛ける言葉はない……があのキャスター(ヴォルデモート)との接触には複雑な感情
4.れんげの保護はひとまず了承
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。他に理由があるのかは不明。
※管理役として、箱舟内のニュースや噂などで流れる情報を操作する権限を持っています。
→操作できるのはあくまで「NPCの意識」だけです。報道規制を誘発させることはできますが、流出してしまった情報を消し去ることや、“なかったこと”にすることはできません。
※教会には『地上での冬木教会の機能』として敗退マスターを保護するための機能が残されています。本来は使用される想定のない機能です。
【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の恙ない進行。
1.???
2.れんげを教会で保護する。
3.その他タスクも並行してこなしていく。
4.聖杯を知る―――ですか。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。
※カッツェに対するペナルティとして令呪の剥奪を決定しました。後に何らかの形でれんげに対して執行します。
※バーンに対するペナルティとして令呪を使いました。足立へのペナルティは一旦保留という扱いにしています。
※令呪使用→エリザベート(一画)・デッドプール(一画)・ニンジャスレイヤー(一画)・カッツェ(一画)
※カッツェはアーカードに食われているが厳密には脱落していない扱いです。
サーヴァントとしての反応はアーカードと重複しています。
【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]ルリへの不信感、すいみん中
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]十円
[思考・状況]
基本:かっちゃん!
1.かっちゃんあっちゃんはっきょくけんが帰ってくるまで待ってるん。
2.るりりん、どうして嘘つくん?
3.はるるんにもあいたい
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。
※ジナコを危険人物と判断しています。
※アンデルセンはいい人だと思っていますが、同時に薄々ながらアーカードへの敵意を感じ取っています。
※ルリとアンデルセンはアーカードが吸血鬼であることに嫌悪していると思っています。
※サーヴァントは脱落しましたが、アーカードがカッツェを取り込んだことにより擬似的なパスが繋がり生存しています
アーカードは脱落しましたが、彼は"生きてもいないし死んでもいない"状態に還ったので、かろうじてパスも生きています。
※教会によって保護されています。教会内にいる限りは消滅の心配はありません。
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