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*EX:tella ◆Ee.E0P6Y2U 猫歩く。 その様はそうとしか形容できなかった。 何せ猫である。猫が歩いているのだから、当然それは猫歩くである。 特徴的なのはその瞳で、ぎょろり、と巨大な瞳が飛び出ている。表情もどこかしまりがないというか、幼稚園児が適当に目と鼻と口を描いただけとでもいような不出来さを誇っている。 いや別にこの猫が実は妖怪変化の類であるとか、生体実験の結果生み出された哀しきキメラ的生物であるとか――はたまた地下に存在する猫王国の下っ端であるとか――そういうケッタイな話ではない。 その猫が変な顔をしているのはひとえに不細工だからであり、そこに特に切々と語られるべきバックグラウンドなどは存在しない。 ただただ不出来な顔をした猫が、クリーム色の体毛を揺らしながら薄汚れた賃貸のマンションの屋上を歩いているという――本当にそれだけの話であった。 この方舟に再現された冬木市には、数多くの人間が住んでいる。 聖杯戦争のために用意された仮初の住民たちは運営側からはNPCと呼称され、一律に管理されている訳であるが、さりとて街にいるのは人だけではない。 確かに人が住み出した途端、他の生き物が排斥されいなくなるというのはままある話である。しかし――けれども力強く、あるいは狡猾に生きる生物は存在する。 人の出したゴミを荒らすカラスであったりとか、家屋に入り込むヤモリだの蜘蛛だのといったものたちであるとか、幽霊など持ち出さずとも街には人以外の生物が溢れている。 この冬木市にもそうした生物/イキモノたちはいる。NPCと同じように配置されている。 ならば当然――猫もいるというものだ。 猫がいる。猫が歩いている。猫歩く。 そこに何もミステリーは存在せず、まぁ当然そういうこともあるかな……、という平凡な帰結であり、考えるところも描写するべき点も存在しない。 「今日もよく働いたにゃー。お腹すいたー」 ……ただの猫が喋ることは、まぁありえないので、これはあくまで彼ないし彼女が喋っていたら、という仮定の話である。 「んん? やることなかったらとりあえずアチシなんだからあの会社も現金っていうか、んんームーンイズブラック」 猫が支離滅裂なことを喋りながら歩いている。 もし猫が言葉が喋ることができる――と仮定したところで、何せ猫であるから、まともに論を立てた言葉など期待できる訳でもない。 その真意について考えるだけ無駄と言うものである。 「月には困った時の猫歩く、なんて格言があるそうだ。中々いい言葉じゃあないか」 と、そこで別の猫の声が響いた。 その猫の声は――猫であるにも関わらず、ダンディズムを感じさせる怪しい声色であり、しかし彼もまたただの猫であることに揺るぎはなく、良い声をであることにバックボーンはない。 いい声をしたその黒猫は、一方の不細工な猫と待ち合わせでもしていたらしく、こうして同じマンションに居合わせることになり、 「…………」 「…………」 二人、否、二匹の猫は互いに互いを見つめあい、にらみ合い、沈黙が緊張を含んだ。 空に浮かぶ大きな大きな月の下、一瞬の静寂を経て、猫たちは口を開いた。 「黒」 と、まずはクリームの方が口する。 「白」 間髪入れず黒い方が応対する。 「神」 「星」 「キャット」 「フード」 「ミート」 「フィッシュ」 ……と、人ではまるで理解できない猫次元の会話が繰り広げられたのち、彼らは「ふっ」と不敵に笑った。 歴戦の好敵手に対して、やるな、とでもいうような、緊張と親愛の込められた笑い方であった。まぁ猫には分かる何かがあるのだろう。 「しかし今日このマンションは静かだにゃー。昨日だか妙にうるさかったのに。  アチシは明日からセレブキャットたちとの対談で忙しいから寝ときたかったんだにゃ」 それで一通り、挨拶、のようなものを終えたらしくクリームの方が世間話を振った。 このマンション、とは深山町の片隅に位置する、一人暮らしの学生が主に住まうような、家賃安めの賃貸マンションである。 どうやら猫たちはこの辺りのマンションを根城にしているらしく(家賃を払っている訳でもないのに)騒音を気にしているようであった。 が、今日は静かで満足だ――とクリームの猫が満足げに頷くと、 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」 と。 まさに逆神。狙ったかのようなタイミングで怒号がマンションに走った。 時刻は既に零時を回り、普通ならば音を立てないよう腐心する時間である。 が、声の主――マンションに住む学生であろう――は気にしていないか、はたまた気にする余裕はないか、とにかく大きな叫びを上げてしまったようだ。 しかもそれに追随するようにドッコンドッコン音がする。クリーム猫の安眠は今日も阻害されそうであった。 「ふうむ、こらえきれぬ若さ、そしてその代償という奴だにゃ。  だが若人よ。覚えておくがいい、日はまた昇る。終わらない夜はない、と」 憤慨するクリーム猫を横目に、黒猫はやはり良い声で言った。 なんだか含蓄深そうな声であったが、所詮は猫なのでやっぱり大して意味はないだろう。 それにそもそも誰も聞いていない。良い声で紡がれた声は、騒々しい学生たちの夜に届くことなく、風に吹かれて消えて行った…… act1. 水の音がする。 それはザザザ――と断続的に、扉をいくつか隔てた向こうから聞こえてくる、シャワーの音。 その向こうでは一人の少女が今まさにシャワーを浴びている。彼女は、何時もウェイバーが使っている小さなユニットバスを占拠して―― うん、とウェイバーは意味もなしに唸った。 そして次に、はぁ、とやはり意味もなしに息を吐いた。 見慣れた風景。男一人暮らしの散らかった部屋。流石にパンツやら何やらが散乱してはいないが、決して綺麗といえるものではない。 そもそも人を自室に招くなどと言うこと自体、全く想定しなかったのだ。 無論、この部屋が魔術師の工房としての側面を持っている訳ではなく、呼ぶこと自体に問題はないのかもしれないが、しかし慣れないことは慣れない。 (時計塔にいた頃から、同性はもとより異性を部屋に招くなどウェイバー・ベルベットには縁遠い行為であった) ウェイバーは落ち着かない心地を抱えたままベッドに座り込み、もう一度唸った。 聞こえてくるシャワーの音が――何も変なところはないのにもかかわらず――どうしても気になってしまう。 と、そこで「あは!」と快活な声がシャワールームから聞こえてきた。 それだけでウェイバーの当代一を誇ると自負している頭脳は反応してしまい、濡れるつややかな紅い髪、水を弾くみずみずしい肌、気持ちよさそうな顔まで、勝手に補完してしまうのだった。 いや別にあの紅いランサーが好みとかそういう訳ではなく、小さく瘠せた身体や頭の足りない言動、と寧ろ彼が嫌う類の異性である筈なのだが、しかしそれはまた別の話だ。 少女の頭がいかに軽かろうと、一人の麗しい少女が自室でシャワーを浴びているという事実そのものが、多感な青年であるところのウェイバーには苦しく―― 「ああ、もう馬鹿か僕は!」 不埒な考えを振り払うべく、声を出したが――しかし誰もそれに反応はしない。 あ、と声が漏れた。今彼は部屋に一人なのだ。 そのことに気付くと、ウェイバーはベッドに沈み込むように横になった。 同行者は今少しの間いなくなっている。故にこの部屋には自分しかいないのだった。 ――さてその同行者であるところの、岸波白野がどこに行ったかというと 買い出しである。 因縁のアサシンとの戦いを経て、ウェイバーの部屋まで戻ることができた彼らであるが、みな疲れ切っていた。 簡単に言えば、眠く、そして腹が減っている状態である。 そこでとりあえず軽く何か食べるものを用意しようと、まだしも活力があった岸波白野は近くのコンビニエンス・ストアまで買い出しに行ったのだった。 部屋に集って夜食を買い出しに行く、という何とも学生らしい行動である。 だからウェイバーはいま部屋に一人だ。 シャワー音に混じって、ふーんふんふーん、と上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。 くそううるさいな……、と思いつつもウェイバーは耳をそばだててしまうが―― 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 ――その時、悲鳴が上がった。 獣のような野太い叫びは、薄壁一枚隔てた隣部屋から聞こえており、ついでドッコンドッコンと暴れ回る音が響く。 ――更によーく聞いてみると女性の喘ぎ声のようなものまで聞こえてしまった。 うっ、とウェイバーは息を呑む。 隣の部屋、というか今の声の主を彼は知っている。 真玉橋孝一。 この方舟で知り合った友人……とまではいかない隣人であり、常に学ランを羽織っている変人である。 そして、いつも無理やりに卑猥で下品な本を押し付けてくる(なんだかんだウェイバーも受け取ってしまうのであるが)はた迷惑な男だ。 ちら、とウェイバーは時刻を確認する。もう夜の三時を回り、しばらくすれば陽が上ろうかと言う時分だ。 何時もならば、こんな時間に騒ぐ隣人に対し壁へのパンチの一発でもお見舞いしてやるのだが、しかしウェイバーはあらぬ想像をしてしまった。 獣様な叫び声。暴れ回る音。かすかに聞こえた女性の声…… 恐らくシャワーの音を聞きすぎたせいだろう。あの性欲の強い男が、一体今この時間に何をやっているのか。 想像し、じっ、と壁を見てしまった。何時もはただ憎らしいだけの騒音が、何だかひどく恐ろしいもののように聞こえてくる。 と、後ろからはシャワー音と少女の鼻歌だ。 ああもう何でアイツらはこう――白野も自分のサーヴァントくらい見ていればいいものを―― と、そこでウェイバーは気づく。 ランサーはシャワーに入り、岸波白野は買い出しに行った。だからウェイバーは今一人。 これは――おかしい。 疲労と湯立った頭でまともな思考ができていなかったが、この状況で“あの”サーヴァントが黙っている訳が―― &COLOR(yellow){「いやウェイバーたんさぁ、確かにラッキースケベとか覗く覗かないとかそういうの前の話で振ったけど、本当にそれで一話使う?}  &COLOR(yellow){オレちゃんこう見えて割とシリアスもやってるし? さっきもシリアスパート担当したから、相方が何時までもキャラ立ち薄いと不安になるぜ」} &COLOR(yellow){「ラブコメ路線に梶切るならそれこそ風呂場突撃とか?」「身体が勝手に――くらいやってもらわないとなぁ」} あまりにもあんまりなタイミングでの闖入に、いいっ、とウェイバーは声を漏らした。 彼こそがバーサーカー、デッドプール。 時計塔を変革する筈の魔術師、ウェイバー・ベルベットがここまで流されっぱなしなサーヴァントである。 何時もは破天荒な言動をする、しかしここでは彼は、やれやれ、と呆れたような素振りを見せており、それがまた異様に憎たらしかった。 と、そこで彼はどこか虚空を見て、誰もいない筈の空間に語り出した。 &COLOR(yellow){「あ、今回はザッピング方式だからオレちゃんのシリアスパートは別の視点で語られるんでこうご期待!}  &COLOR(yellow){んー? ザッピングが分からない? “スナッチ”とか“パルプ・フィクション”とか“バンテージ・ポイント”とかいっぱいあんだろ。} &COLOR(yellow){「俺ちゃんの映画も時系列が乱れてるから注意な」「大丈夫だデビッド・リンチみたいな訳の分からない話じゃないから」} ……相変わらず支離滅裂な言動だ。 ウェイバーは頭が抑えつつ、だがしかし今回は魔力消費がほとんどないことに安堵するのだった。 「おいおい、何時までも同じパターン繰り返しで生きていけるほど、この業界甘くないぜ。  分かってる? ウェイバーちゃん。ラッキースケベもどきで一話使えるほどもう序盤じゃないってこと。  大丈夫だ童貞は死なない、って言った奴は数シーン後には爆散してるんだぜ」 唐突に―― 唐突にそこでバーサーカーは銃を抜いた。 どこからともなく取り出した黒光りする拳銃をウェイバーの眉間へと突き付ける。 あまりにも脈絡のないウェイバーは目を見開く。は、と声が出た。そうだ。コイツは元々こういう何をしでかすか分からない奴だったんだ。 咄嗟に令呪を使おうとするが――しかし、カチャ、と突き付けられる銃口に震えて身体が動かない。 &COLOR(yellow){「オレちゃん、一応願いが“Fateシリーズの次の主役”じゃん?}  &COLOR(yellow){だからZEROとか事件簿とかで人気のウェイバーちゃん選んだってのに、150話かけて何もしてないとかヤバいぜ、ウェイバーたん。}  &COLOR(yellow){ほらアレやれよアレ。計略だ! とか言いながらビーム撃つ奴。そんくらいの個性ないと、主役にはなれないよなぁ、ミスター・諸葛孔明」} 何を言っているんだ、と聞き返そうになった時、玄関が開く音がした。 白野だろう。バーサーカーは首をそちらに向けながら、 &COLOR(yellow){「おー主役のご登場だ。いいよなぁ、登場シーンは必ず語り部ってのは。}  &COLOR(yellow){アレ、モキュメンタリー映画のカメラみたいだよな? さながら気分は“ブレア・ウィッチ・プロジェクト”」} そんな意味不明なことを言いつつ、バーサーカーは銃を下げた。 な、なんだったんだ、と思わず声を漏らすが、しかしバーサーカーは答えない。 &COLOR(yellow){「お、ヒロインが増えてる。さっすがーはくのん。おい見とけよウェイバーたん。}  &COLOR(yellow){あれが型月主人公って奴だぜ。あ、女が増えれば増えるほどでも死にやすいから注意な」} 「は……?」 不審に思い、玄関の方を覗き込むとそこには白野と、そして見覚えのない少女がいた。 少女は白野と連れ添うように立ちながら、ウェイバー宅に上がろうとしている。 誰だアレ、問いかけるより早く、 「あー子ブタ帰ってきたの?」 そこでシャワー室から紅い少女――ランサーが出てきた。 湯気立つ髪を上機嫌に触りながら、さっぱりとした顔で顔を出している。 「ねぇ子ブタ――その女、誰?」 ――その様を見てウェイバーは思う。 なるほど、アレは主役だ。それも死にそうな類/ラブ・コメディの、と。 初めて己のサーヴァントの言葉が理解できた瞬間だった。 act2. 夜食。 三度の飯、というのは言うまでもなく、朝食、昼食、夕食、を指しており、それは即ち存在しない筈の四番目の食事と言える。 夕食を終え、夜間なにかしらをやっている最中にふと小腹がすいた時に取るものであるが、これは基本的に奨励されていない。 まずカロリー。気を抜いて夜食を頬張っていれば、みるみる内に“ふくよかな”身体になっていくだろう。 不規則なタイミングでの食事は生活リズムの崩壊を呼び、崩壊したリズムは内臓への直接的な負荷となる。内臓への負荷は体調ほか肌にも影響する。 歯にも悪い。寝ている間は口の中の菌が増殖しやすいため、虫歯のリスクも急速に高まる。 と、リスクを列挙すれば暇がない。 いくらそれで欲望が一時的に充たされようが、それと引き換えに身体が蒙るデメリットとは釣り合わない。 けれども――若さ故の過ちと言うべきだろうか。 学生が夜のマンションに集い、ひどく腹が減っている。少し歩けば何でも置いてあるコンビニが見える。 ほんの少し我慢すればいいのに。あるいは眠ってしまえばいいのに。 理性はそう言うだろう。それは正論で、全く反論のできない、完璧な意見だ。 だが――完璧な正論であろうとも、愚かなる人を動かすには足らない。 あるいはこういうべきだろうか。 たとえその道が間違っていると分かっていても、人は自らが抱いた“欲望/ねがい”のために歩き続けることができる生物である、と。 だから、もしかするとこれは愚かな選択なのかもしれない。 それでも自分はいまここにいる。ここにいるからこそ自分/きしなみはくのなのだ。 たとえそれが愚かであろうとも、ここまでたどり着いた軌跡は決して否定させない。 ……要するに、買い出しに来たということだった 真っ暗な街の中ほのかに青く浮かび上がる、owson、という看板が見える。 その場に向かいながら、さて何を買おうかと頭を悩ませる。同時に、辺りへの警戒も忘れなかった。 少なくともマイルームにおいての安息が約束されていた“月の聖杯戦争”での戦いと違って、この聖杯戦争にはインターバルが存在しない。 昼であろうと夜であろうと、休息中であろうと戦闘直後であろうと、この聖杯戦争では襲われる可能性がある。 そういう意味で休息を取るタイミングは非常に大事だ。食事や睡眠の際も細心の注意を払わなければならない。 何かあればすぐに令呪でランサーを呼ぶ。そのつもりで夜の街に出た。 ――そのことは、朝の襲撃で痛感した。 あの時感じたデジャビュは明日以降の課題だ。 欠損した記憶の欠片の鍵となる。それは確実だろう。 その回想が契機となって幾多ものの記憶が脳裏を流れていく。 自分の知らない、けれども“識っている”凛との邂逅、どこかで聞いた“カレン”の名を持つ監督役、そして多くの陣営を巻き込んだマンションに陣取ったキャスターとの戦い…… 多くの出会いと、多くの別れがあった。 “私の分までこの聖杯戦争を戦って、そして絶対に勝ち残りなさい!” ……たとえ全く違う歴史を生きた者であっても、どれだけ幼い日の彼女であろうとも、やはり彼女は彼女であった。 ――………… だから、自分は進み続けたい。 彼女と、彼女が信じてくれた自分のためにも。 そんな決意と共にコンビニエンス・ストアに足を踏み入れた。 明るく、空調の効いた店内に不思議な安心感を覚えつつ、あまり気張ってはいけないな、と自分に言い聞かせる。 休む時は休まなくてはならないのだ。そのためには、食べて寝ることがやはり大事だろう。 おにぎり、握り寿司、ホットスナックにカップラーメン…… さて何がいいだろう。店内には様々な夜食がある。適当に弁当を見繕ってしまえばいいだろうか。 食事の話はランサーの前ではしたくなかったのもあり、相談できていなかった。  >サンドイッチ   うどんはアレだし、ボンゴレかな   まっかな麻婆豆腐 うん、そうだ。 あの日、あの朝食べたもの。 思えばあの時の朝食、あそこで襲われたことがすべてのはじまりだった気がする。 たった一日前のことなのに、もはや大分昔のようにも感じられる。 そんな感慨に似た思いを経て食料品を買い込んで、コンビニを出ると…… 「なぁ、アンタ」 ――ふと、そこで。 誰かに声をかけられた。 どこかで聞いたことのある声だと思った。 しかし、それが誰なのか、どこで聞いたのかまでは全く分からない。 だからこそ、振り向いて確かめようとしたところ、目の前に鬼気迫る表情の誰かがいた。 学ランを羽織った彼ははぁはぁ、と鼻息荒く、そして問い詰めるように口を開いた。 「お前の妹はどこだ?」 ――は? 思わず、呆けた顔をしてしまう。 しかし、当の彼はなおも深刻/シリアスな表情で、 「だから――あのエッロい恰好したお前の妹はどこだって言ってるんだよ!」 そんなことを言い放った。 妹――妹とは、なんだろうか? 記憶に欠落がある身とはいえ、ここまで身に覚えのないことは初めてだった。 「……それでは駄目でしょう、マスター」 本当に意味不明です、と誰かが付け加えた。 マスター、その言葉を聞いた瞬間、身体に強い緊張が走った。 夜のコンビニの、ぼうっ、とした明かりの下、誰かが立っている。 腰まで黒く届く長い髪をした少女だった。 腰の部分で絞ったシャツにジーンズ、という現代風の恰好はしている。 けれども――その手には剣があった。 背丈ほどもあろうかという長さの大刀が、一見して華奢な腕に軽々と握られていた。 ああ――間違いない。今、駐車場に立っている彼女は剣の英霊《セイバー》だ。 ほかのすべての印象を吹き飛ばすほど、その剣は美しく、鮮烈だった。 ――そこまで認識したとき、いま自分の隣には誰もいないだということに気付いた。 凛も、ランサ―も、ラ二やウェイバーも、そして■■■■も。 すぐ近くにはもういない。なのに、ここでサーヴァントに行き遭ってしまった。 何かあれば、すぐに令呪を使うつもりだった。 しかし、ひと声あれば、かの英霊は剣をもってこちらを…… 「――聞かせてもらいましょうか。あの亡霊もどきが何だったのかを」 act3. アサシンあるいはのぞき見趣味のエロ親父とのやり取りを終えたあと、 真玉橋孝一は待っていた。 どこかからカレーの匂いが漂いだしても、夜が深まり道に人が消えても。 ずっと待っていた。 「…………」 「――――」 「…………」 「――――」 聖杯戦争からの脱落とは、即ち“死”を意味する。 それは決して覆らない。この戦争における絶対のルール。 そう知ったことで、彼らの陣営としては珍しく、少し緊張が走っていたが―― 「おせえ」 「遅いですね」 流石に日をまたいだあたりで、 その緊張の糸もほどけていた。 人間ずっと緊張することなどできない。 することもなしに数時間も待ちぼうけを喰らえば、普通は弛緩もする。 「ウェイバーの奴、一体どんな覗きスポットを見つけやがったんだ。  こんな時間まで夢中になるほど、エロエロしい場所なのかよ……!」 「――――」 馬鹿なことをのたまうマスターを尻目に、 セイバーは視線を少し下げ、缶コーヒーに口をつけた。 ちなみに待っている間、セイバーと孝一がかわるがわる近くのコンビニで食料調達をしていたため、 マンションの入り口前にはちょっと散らかってしまっている。 ――夜、何かがあったようですね。 そんな場所で、セイバーは冷静に思考を働かせていた。 アサシンとの会敵以来、ずっとこの場にいたが、 道行く人々の噂から聖杯戦争の余波を感じ取ることができた。 具体的には分からない。 もとより人の往来の少ない住宅街なうえ、この時間だ。 とはいえこの夜だって、確かに戦いは進んでいた筈なのだ。 だから、既にセイバーの中ではあのバーサーカー陣営は既に半ば脱落したものになっている。 昨日まで規則正しく帰っていた人間が、今日になって帰ってこない。 そんなもの――考えられるのは一つだけではないか。 そう思いはする。 しかし「おっせえな、なんてエロい奴なんだウェイバー……」と呟くかのマスターは、 そのような結末、予期すらしていないようにも見える。 ふと、思う。 もしかすると、彼はこの聖杯戦争で最も純粋で、かつ無垢なマスターなのではないか、と。 だからなんだということではない。 だが先のやり取り――誰も殺さずに聖杯を手に入れるという、あの言葉。 その理想が、こう、なんというか、ほんの少しだけ眩い。 生前彼女が深くかかわることになった、どこかの誰かが言いそうな響きがある。 「ぬあああああああああああ!」 と、何かの限界が来たのか孝一は突然叫びを上げた。 そして「おせええええ」と叫びを上げながら、その言葉とは一切の脈絡も関連もなく、セイバーの胸へと手を伸ばした。 さっとセイバーはその手から逃れた。 「どこ行ったんだウェイバー……ってん? なんで俺に乳を揉ませねえんだセイバー」 「……心底不思議そうな風に言わないでください」 「は? しゃーねえな、令呪をもって――」 「いっ――」 思わず変な声が出そうになった。 孝一は躊躇なく残った最後の令呪を切ろうとしたのである。 当然言わせる前にセイバーはその口をふさいだ。 「そろそろ分かってください。死んだら脱落ということは、貴方だって――あ」 今度こそセイバーは変な声を漏らした。 喘ぎ声だ。 もがもが、と口を震わせる孝一は、 口を押えながらセイバーの豊満な胸を揉んでいる。 結局、この状況に――と思うと同時に、さすがに慣れてきたのか、令呪を切られるよりマシだったか、と 冷静に考えている自分を見つけて、セイバーはどんよりした気分になった。 だが、いろいろと慣れ始めているのは彼女だけではなかった。 孝一もだったのである。 「何故だ……昂らねえ」 ぴた、と彼は胸を揉みしだく指を止めた。 「え」とセイバーは声を漏らす。このパターンは今までになかったからである。 「これはまさか」 孝一の脳裏に過るのは、かつてダイミダラーに乗り始めたばかりのころのこと。 まだ経験の浅かった孝一はただパートナーである恭子の胸をただ揉み続けた結果、一つの壁にぶち当たってしまったのである。 「あ、飽きたのか……俺はセイバーの胸に」 高級牛肉も毎日食べ続ければ飽きがくる。 たまには違うもの、あっさりしたものも挟みたくなる。 そんな初歩的なミスを、まさかここでやってしまうとは―― 「はぁ?」 孝一の衝撃と裏腹に、セイバーが苛立たし気に眉を吊り上げる。 召喚されて以来、これまで何度も揉まれ、これも魔力のためと己に言い訳をして、ようやく慣れ始めたのに――飽きた? 基本的には温厚な彼女であるが、このときばかりは声を上げそうになった。 ふざけるな――とでかかった声であるが、 ――そんな二人の時間は、ふいに訪れた“おばけ”により、遮られることになる 賃貸マンションの入り口で騒いでいた二人の横を、 一人の少女が通り過ぎていった。 奇妙な外見をした少女だった。 だらり、と長く伸びた白いローブを身に纏っている。 いやに装飾の少ないその布地は、ちょうど歴史の教科書で古代人が羽織っているようなものに似ていた。 羽織っている少女自体は別段対して特徴のない容姿であったが、なおのことその存在の不自然さが目立ってしまっている。 そう、言ってしまえば――クラスの上から三番目にかわいい娘がローマ風の恰好をして出歩いているような、おかしな状況。 彼女はマンションの奥へと消えていく。 騒ぐセイバーや孝一には目をくれないまま。 「マスター」 セイバーは思考を切り替えながら言った。 ウェイバーはこなかった――しかし、彼女は、明らかなイレギュラーだ。 代わりにやってきたあの少女を追えば聖杯戦争について何かがわかるかもしれない。 「ああ、分かっている」 孝一も同様に頷いて、 「あんなスケスケな服着た女、放っておける訳ないだろ!」 ――この際、動機はなんでもいい。何となく、そんなことだろうと思った。 セイバーと孝一は駆け出す。 賃貸マンションなど構造は単純だ。 追えばすぐに見つかるはず――そのはずだった。 しかし、 「は? 誰だ、お前」 ……少女を追った先にいたのは、全くの別人であった。 そこにいたのは、同じようにローマ風の衣装に身を包んだ、一人の男だった。 茶色混じった髪色をした彼は、どことなく先ほどの少女と似た面影を漂わせている。 顔つきが似ているわけではない。纏う雰囲気が同一の骨子をできているのだ。 ――その少年は、孝一たちのことを見て微笑んだ――かと思うと、消えた。 まるで煙のように。 まるで亡霊のように。 act4. 突然現れた古代人風の装いの少女。 そしてそれと立ち替わりに現れた、似た雰囲気の少年。 それが――岸波白野(じぶん)であるというのか。 「答えてください、貴方は――何者ですか?」 セイバーはこちらの瞳を見据えて、そう尋ねてくる。 声色こそ穏やかであったが、しかし、そこには刃のような鋭さがあった。 おばけのように消えた岸波白野――のような人物を探して彼らはこのあたりをうろついていたところ、自分を見つけたらしい。 本来ならば自分がマスターであることは看破されるはずがなかった。 にも関わらず、襲われてしまった。 当然身に覚えなどない。 ――はずだ。 妹、自分に似た雰囲気の少女など全く知らない。 NPCとしての設定としても、元となった人間としても、 そんな情報を見た覚えはなかった。 しかし――この感覚は、なんだ? ふと、頭を押さえる。 この聖杯戦争開幕の際に、欠落した記憶を求めて自分は痛みにのたうち回った。 自分がいるべきなのはここではない。 こんな役割に――堕してはいけない。 そういう強い想いが自分を突き動かしたのだ。 ――■■ァー■となった白い■女を■■うため、■■■■は■ル■メデ■を■■した 痛みと共に、そんな言葉の欠片が脳裏をよぎった。 「……答えは、ないということですか?」 こちらが煩悶している様子を見て、セイバーはどう思ったのか、静かにそう漏らした。 その手は、刀の柄にそっと寄せられている。 ――逃げ場は、なかった。 今、自分がいるのはセイバー陣営の拠点、マンションの一室だ。 いかにも男子学生、というような散らかった部屋にて、自分は詰問を受けている。 マスターである学生は部屋の隅で何やら悩むように「飽きたのか、また俺はあの過ちを……」などと漏らしている。 この部屋に来る際に、彼の名は思い出した。 真玉橋孝一――月海原学園のちょっとした問題児で、いつも一成が頭を悩ませていた生徒のはずだ。 校則違反の制服や女生徒へのセクハラなどでよく問題にされているが、別段札付きのワル……などという訳でもない。 そんな彼がマスターだったこと。 そして――彼の部屋が、ウェイバーの拠点の隣にあったこと。 この部屋に連れられてわかったことはそれだった。 灯台下暗し、という奴だろうか。 この薄壁一枚先にはランサーやバーサーカーがいるはずだ。 なんとか彼らに助けを求めることができれば、窮地を脱することができるかもしれない。 「――まぁ、いいでしょう。  もしかするとあれはただのシステムエラーかサイバーゴーストの類だったのかもしれません」 思考を働かせていると、セイバーは質問を変えた。 「そのうえで問います。貴方はこの聖杯戦争を、どう戦いますか?」 と。 どう戦うのか。 刃のような鋭い口調で紡がれたその問いかけに、思わず息を呑んだ。 それはこちらの思想《スタンス》を探る声だ。 彼らが岸波白野に気付いたことは“おばけ”という奇妙な現象のせいだった。 しかし――何にせよ自分たちは出会ってしまったのだ。 聖杯戦争で、マスターとマスターとして。 ならば、当然に相対しなくてはならない。 本当ならば一刀に斬り伏せられてもおかしくはなかった。 しかし、セイバーらには自分に聞きたいことがあったために生かされていた。 それに答えられない、となると話はまた別だ。 だから、口を開いた。  >自分が、自分であるために   聖杯を手に入れるために   生き残るために   この方舟から脱出するために 意を決して、自らの願いをセイバーに伝えると、 彼女は眉を吊り上げ「自分?」と彼女は漏らした。 ……そうだ。 自分が求めたのは、忘れてしまった■■■■の記憶。 すべてをリセットされても、それでもこの身体に宿った魂が、感情が、ささやくのだ。 このままではいられない、と。 「――つまり、貴方はある種の記憶喪失になっている、という訳ですね」 セイバーは何か含みのある面持ちでそうまとめると、 「それで、貴方はそのために他のマスターを倒す――殺す、と」 彼女はもう一歩踏み込んで、そう尋ねてきた ◇ 「たとえ弱き者であろうとも、  たとえ戦意なきものであろうとも、  貴方は戦う、とそう言っているのですか?」 セイバーは静かに問いかける。 それに向かい合い――自分は頷いた。 「……そうですか」 無感動にそう伝えると、彼女はその剣の柄に手をかけた。 カチャ、と金属がこすれる音が部屋に響いた。 当然だ。今の発言は、いわば敵対するといっているようなものなのだから。  >でも、ただ戦うだけじゃ駄目だ それでもまた、言葉を重ねた。 戦う――自分の願いのために闘うつもりはある。 けれど、それだけですべて終わるとは、もはや思っていなかった。 かつて月の聖杯戦争の最期にトワイスが待ち構えていたように、 きっとこの聖杯戦争にも――何かが隠されている。 「貴方は、ほかの聖杯戦争を知っているのですか?」 セイバーが驚いたように言った。 そう――自分は知っている。聖杯戦争のことを。 表側の闘争も、裏側の葛藤も、その先の■■も。 きっと自分の魂には刻まれていて、ここまで来た。 だから立ち止まるわけにはいかない。 闘うのは厭だと放棄する訳にはいかない。真実から目を背けて闇雲に走る訳にもいかない。 本来あり得ない筈のムーンセルの状況、この方舟の正体、そして自分の“おばけ”も、きっと何かしら意味があるはずだから。 「――なるほど」 その意志を伝えると、セイバーは一人そうつぶやいた。 その言葉に込められた感情の色は分からない。 ぐっ、とその拳を握りしめる。次の瞬間に斬られてもおかしくない。そのつもりだったが―― 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」 次の瞬間、叫びを上げたのはセイバーでも自分でもなかった。 学ランのマスター、真玉橋孝一である。 部屋の隅で何やら難しい顔をしていた彼が、突如として野獣のような雄たけびを上げたのである。 突然の豹変に、思考が追い付かない。 それはなんとセイバーも同じなようで、自らのマスターの奇行に目を丸くしていた。 彼はセイバーに詰め寄ると、迫真の表情で、 「セイバー、頼む! 協力してくれ」 「はい?」 「俺がただ単に胸を揉むだけじゃ、もうダメなんだよ。  お前が! 俺に胸を揉ませてくれ!」 「はぁ?」 それまで泰然としていたセイバーの口調が、突然乱暴なそれへと変わった。 傍から見ていると、何一つ理解できないやり取りだったが、孝一はいたってまじめなようで、 「頼む……!」と切に懇願している。 「力を貸してくれ! 俺一人で掴めるおっぱいなんてタカが知れてる。  だから――お前の協力が必要なんだよ」 「って、何触って――マスター!」 「良いから良いから、ちょっとお前のおっぱいを貸してみろ。  やっぱ、恭子のおっぱいとはまた違う味がするぜ」 「――今、誰かと比べましたね。別の誰かと!」 「おお――コイツはエロい!  これなら――どのおっぱいも犠牲にせずに聖杯を掴めるぜ!」 ……突然のやり取りに取り残されてしまう。 どうやらこの陣営は、どちらかというと月の裏側にいそうな人物のようだった。 ――しかし、何か重要な話をいま聞いた気がする。 act.5 「ねぇ子ブタ――その女、誰?」 ウェイバーの部屋に帰ってくると、ちょうど風呂上がりのランサーと行き遭った。 彼女は眉を吊り上げながら、隣に立つ女性を不審そうに見ている。 「サーヴァント、セイバー」 乱れた衣服を直したセイバーは、再度毅然としたたたずまいでそう答えた。 するとランサーと、その向こうにいるウェイバーらに緊張が走る。バーサーカーの方はよくわからないが。 ……しかし、今の態度を見ていると、先ほどの孝一にもてあそばれていた頃のアレは黙っていた方がいい気がする。 「と、俺だ! ウェイバー」 その隣から顔を出したのは、孝一だ。 彼はウェイバーの返事も聞かずにどかどかと上がり込んでいく。 「は? なんでオマエまで――」とウェイバーが声を上げようとするが、 &COLOR(yellow){「おお、久々の登場じゃーん。どうだった二年間も放置されて。}  &COLOR(yellow){大丈夫大丈夫。ハリウッドじゃよくあることだから」} バーサーカーの相も変わらず意味不明な言葉でかき消されてしまった。 ……このセイバー陣営の目的は“聖杯戦争の打破”だった。 だから、こちらがマスターだと気づいても、すぐには襲い掛かってこなかったのだ。 そう気づいたことで、自分たちが“協力”できる間柄であることが分かった。 最終的な目標はどうなるかわからない。 しかし、とにかく今は――聖杯戦争の真実をさぐる、という意味ではここに集った陣営は協力できる。 そう気づいたことで、いまここに三人のマスターが終結したのだった。 孝一がどこまで考えていたのかはわからない。 けれど――結局彼は、おっぱいを揉むことで、待ち望んでいたウェイバーとの再会と、新たな協力者を見つけるに至ったのだった。 ◇ ――そして、夜明けが近づいてくる。 今日、この街ではマンション倒壊や街の暴動、学園の混乱など、多くの事柄があった。 しかし、その裏で別の噂が流れていた。 古代の衣装に身を包んだ少年/少女の幽霊。 そして同時に、実は多くの人間が同じ夢を見ているという噂も広がりつつあった。 きまって、それは“白い巨人の夢”なのだという。 【C-5/賃貸マンション・ウェイバーの自室/未明】 【真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー】 [状態]瘤と痣、魔力消費(小) [令呪]残り1画 [装備]学生服、コードキャスト[Hi-Ero Particle Full Burst] [道具]ゴフェルの杭 [所持金]通学に困らない程度(仕送りによる生計) [思考・状況] 基本行動方針:いいぜ……願いのために参加者が死ぬってんなら、まずはそのふざけた爆乳を揉みしだく! 0.他のマスターを殺さずに聖杯を手に入れる方法を探す。 1.ウェイバーと岸波白野に話を聞く 2.ペンギン帝王のような人物(世界の運命を変えられる人物)を探す。 3.好戦性の高い人物と出会った場合、戦いはやむを得ない。全力で戦う。 π.救われぬ乳に救いの手を―――! 4.アサシン(カッツェ)の性別を明らかにさせる。 [備考] ※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。正純がマスターだとは気づいていません。 ※アサシン(カッツェ)、アサシン(ゴルゴ13)のステータスを把握しました。 ※明日は学校をサボる気です。 ※学校には参加者が居ないものと考えています。 ※アサシン(ゴルゴ13)がNPCであるという誤解はセイバーが解きました 【セイバー(神裂火織)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康、魔力消費(小) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:救われぬ者に救いの手を。『すべての人の幸福』のために聖杯を獲る。 0.他のマスターを殺さずに聖杯を手に入れる方法を探す。 1.マスター(考一)の指示に従い行動する。 2.バーサーカー(デッドプール)に関してはあまり信用しない。 3.アサシン(カッツェ)を止めるべく正体を模索する。 4.聖杯戦争に意図せず参加した者に協力を求めたい。 [備考] ※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。正純がマスターだとは気づいていません。 ※真玉橋孝一に対して少しだけ好意的になりました。乳を揉むくらいなら必要に迫られればさせてくれます。 ※アサシン(ゴルゴ13)、B-4戦闘跡地を確認しました。 ※アサシン(カッツェ)の話したれんげたちの情報はあまり信用していません。 ※アサシン(カッツェ)は『男でも女でもないもの』が正体ではないかと考察しています。  同時に正体を看破される事はアサシン(カッツェ)にとって致命的だと推測しています。 ※今回の聖杯戦争でなんらかの記憶障害が生じている参加者が存在する可能性に気づきました。 [共通備考] ※今回の聖杯戦争の『サーヴァントの消滅=マスターの死亡』というシステムに大きな反感を抱いています。  そのため、方針としては『サーヴァントの消滅とマスターの死亡を切り離す』、『方舟のシステムを覆す』、『対方舟』です。 ※共にマスター不殺を誓いました。余程の悪人や願いの内容が極悪でない限り、彼らを殺す道を選びません。 ※孝一自身やペンギン帝王がやったように世界同士をつなげば世界間転移によって聖杯戦争から参加者を逃がすことが可能だと考えています。  ですが、Hi-Ero粒子量や技術面での問題から実現はほぼ不可能であり、可能であっても自身の世界には帰れない可能性が高いということも考察済みです。 岸波白野@Fate/EXTRA CCC】 [状態]:ダメージ(微小/軽い打ち身、左手に噛み傷、火傷)、疲労(中)、魔力消費(大) [令呪]:残り三画 [装備]:アゾット剣、魔術刻印、破戒の警策、アトラスの悪魔 [道具]:携帯端末機、各種礼装 [所持金] 普通の学生程度 [思考・状況] 基本行動方針1:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。 基本行動方針2:遠坂凛との約束を果たすため、聖杯戦争に勝ち残る。 0.凛………………ありがとう。 1.今はウェイバーの自宅で休息する。 2.今日一日は休息と情報収集に当て、戦闘はなるべく避ける。 3.ウェイバー陣営と孝一陣営と一時的に協力。 4.『NPCを操るアサシン』を探すかどうか……? 5.狙撃とライダー(鏡子)、『NPCを操るアサシン』を警戒。 6.アサシン(ニンジャスレイヤー)はまだ生きていて、そしてまた戦うことになりそうな気がする。 7.聖杯戦争を見極める。 8.自分は、あのアーチャーを知っている───? [備考] ※“月の聖杯戦争”で入手した礼装を、データとして所有しています。 ただし、礼装は同時に二つまでしか装備できず、また強力なコードキャストは発動に時間を要します。 しかし、一部の礼装(想念礼装他)はデータが破損しており、使用できません(データが修復される可能性はあります)。 礼装一覧>h ttp://www49.atwiki.jp/fateextraccc/pages/17.html ※遠坂凛の魂を取り込み、魔術刻印を継承しました。 それにより、コードキャスト《call_gandor(32); 》が使用可能になりました。 《call_gandor(32); 》は一工程(シングルアクション)=(8); と同程度の速度で発動可能です。 ※遠坂凛の記憶の一部と同調しました。遠坂凛の魂を取り込んだことで、さらに深く同調する可能性があります。 ※エリザベートとある程度まで、遠坂凛と最後までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。 ※ルーラー(ジャンヌ)、バーサーカー(デッドプール)、アサシン(ニンジャスレイヤー)のパラメーターを確認済み。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。 しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。 ※『NPCを扇動し、暴徒化させる能力を持ったアサシン』(ベルク・カッツェ)についての情報を聞きました。 【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】 [状態]:ダメージ(大)、魔力消費(大)、疲労(中) [装備]:監獄城チェイテ [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。 1.とりあえず、今はウェイバーの自宅で休む。 2.岸波白野とともに休息をとる。 3.アサシン(ニンジャスレイヤー/ナラク・ニンジャ)は許さない。 [備考] ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある……かもしれません。 【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero】 [状態]:魔力消費(極大)、疲労(小)、心労(大)、自分でも理解できない感情 [令呪]:残り二画 [装備]:デッドプール手作りバット [道具]:仕事道具 [所持金]:通勤に困らない程度 [思考・状況] 基本行動方針:現状把握を優先したい 1.は!? 2.バーサーカーの対応を最優先でどうにかするが、これ以上令呪を使用するのは……。 3.バーサーカーはやっぱり理解できない。 4.岸波白野に負けた気がする。 [備考] ※勤務先の英会話教室は月海原学園の近くにあります。 ※シャア・アズナブルの名前はTVか新聞のどちらかで知っていたようです。 ※バーサーカー(デッドプール)の情報により、シャアがマスターだと聞かされましたが半信半疑です。 ※一日目の授業を欠勤しました。他のNPCが代わりに授業を行いました。 ※ランサー(エリザベート)、アサシン(ニンジャスレイヤー)の能力の一部(パラメータ、一部のスキル)について把握しています。 ※アサシン(ベルク・カッツェ)の外見と能力をニンジャスレイヤーから聞きました。 ※バーサーカーから『モンスターを倒せば魔力が回復する』と聞きましたが半信半疑です。 ※放送を聞き逃しました。 【バーサーカー(デッドプール)@X-MEN】 [状態]:魔力消費(大) [装備]:日本刀×2、銃火器数点、ライフゲージとスパコンゲージ、その他いろいろ [道具]:??? [思考・状況] 基本行動方針:&COLOR(yellow){一応優勝狙いなんだけどウェイバーたんがなぁー。 } 0.&COLOR(yellow){たやん真正面から倒すとか、はくのんやるなぁ。俺ちゃんも負けてらんねー!} 1.&COLOR(yellow){一通り暴れられてとりあえず満足。次もっと派手に暴れるために、今は一応回復に努めるつもり。} 2.&COLOR(yellow){アサシン(甲賀弦之介)のことは、スキル的に何となく秘密にしておく。} 3.&COLOR(yellow){あれ? そういやなんか忘れてる気がするけどなんだっけ?} [備考] ※真玉橋孝一組、シャア・アズナブル組、野原しんのすけ組を把握しました。 ※『機動戦士ガンダム』のファンらしいですが、真相は不明です。嘘の可能性も。 ※作中特定の人物を示唆するような発言をしましたが実際に知っているかどうかは不明です。 ※放送を聞き逃しました。 ※情報末梢スキルにより、アサシン(甲賀弦之介)に関する情報が消失したことになりました。 これにより、バーサーカーはアサシンに関する記憶を覚えていません………たぶん。 ---- |BACK||NEXT| |157a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|158a:[[いいから、みつげ]]| |157a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|160:[[蒼銀のフラグメンツ]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |144:[[明日への飛翔]]|[[岸波白野]]&ランサー([[エリザベート・バートリー]])|| |~|[[ウェイバー・ベルベット]]&バーサーカー([[デッドプール]])|| |126a:[[俺とお前はよく似てる/少年よ我に帰れ]]|[[真玉橋孝一]]&セイバー([[神裂火織]])|| &link_up(▲上へ)
*EX:tella ◆Ee.E0P6Y2U 猫歩く。 その様はそうとしか形容できなかった。 何せ猫である。猫が歩いているのだから、当然それは猫歩くである。 特徴的なのはその瞳で、ぎょろり、と巨大な瞳が飛び出ている。表情もどこかしまりがないというか、幼稚園児が適当に目と鼻と口を描いただけとでもいような不出来さを誇っている。 いや別にこの猫が実は妖怪変化の類であるとか、生体実験の結果生み出された哀しきキメラ的生物であるとか――はたまた地下に存在する猫王国の下っ端であるとか――そういうケッタイな話ではない。 その猫が変な顔をしているのはひとえに不細工だからであり、そこに特に切々と語られるべきバックグラウンドなどは存在しない。 ただただ不出来な顔をした猫が、クリーム色の体毛を揺らしながら薄汚れた賃貸のマンションの屋上を歩いているという――本当にそれだけの話であった。 この方舟に再現された冬木市には、数多くの人間が住んでいる。 聖杯戦争のために用意された仮初の住民たちは運営側からはNPCと呼称され、一律に管理されている訳であるが、さりとて街にいるのは人だけではない。 確かに人が住み出した途端、他の生き物が排斥されいなくなるというのはままある話である。しかし――けれども力強く、あるいは狡猾に生きる生物は存在する。 人の出したゴミを荒らすカラスであったりとか、家屋に入り込むヤモリだの蜘蛛だのといったものたちであるとか、幽霊など持ち出さずとも街には人以外の生物が溢れている。 この冬木市にもそうした生物/イキモノたちはいる。NPCと同じように配置されている。 ならば当然――猫もいるというものだ。 猫がいる。猫が歩いている。猫歩く。 そこに何もミステリーは存在せず、まぁ当然そういうこともあるかな……、という平凡な帰結であり、考えるところも描写するべき点も存在しない。 「今日もよく働いたにゃー。お腹すいたー」 ……ただの猫が喋ることは、まぁありえないので、これはあくまで彼ないし彼女が喋っていたら、という仮定の話である。 「んん? やることなかったらとりあえずアチシなんだからあの会社も現金っていうか、んんームーンイズブラック」 猫が支離滅裂なことを喋りながら歩いている。 もし猫が言葉が喋ることができる――と仮定したところで、何せ猫であるから、まともに論を立てた言葉など期待できる訳でもない。 その真意について考えるだけ無駄と言うものである。 「月には困った時の猫歩く、なんて格言があるそうだ。中々いい言葉じゃあないか」 と、そこで別の猫の声が響いた。 その猫の声は――猫であるにも関わらず、ダンディズムを感じさせる怪しい声色であり、しかし彼もまたただの猫であることに揺るぎはなく、良い声をであることにバックボーンはない。 いい声をしたその黒猫は、一方の不細工な猫と待ち合わせでもしていたらしく、こうして同じマンションに居合わせることになり、 「…………」 「…………」 二人、否、二匹の猫は互いに互いを見つめあい、にらみ合い、沈黙が緊張を含んだ。 空に浮かぶ大きな大きな月の下、一瞬の静寂を経て、猫たちは口を開いた。 「黒」 と、まずはクリームの方が口する。 「白」 間髪入れず黒い方が応対する。 「神」 「星」 「キャット」 「フード」 「ミート」 「フィッシュ」 ……と、人ではまるで理解できない猫次元の会話が繰り広げられたのち、彼らは「ふっ」と不敵に笑った。 歴戦の好敵手に対して、やるな、とでもいうような、緊張と親愛の込められた笑い方であった。まぁ猫には分かる何かがあるのだろう。 「しかし今日このマンションは静かだにゃー。昨日だか妙にうるさかったのに。  アチシは明日からセレブキャットたちとの対談で忙しいから寝ときたかったんだにゃ」 それで一通り、挨拶、のようなものを終えたらしくクリームの方が世間話を振った。 このマンション、とは深山町の片隅に位置する、一人暮らしの学生が主に住まうような、家賃安めの賃貸マンションである。 どうやら猫たちはこの辺りのマンションを根城にしているらしく(家賃を払っている訳でもないのに)騒音を気にしているようであった。 が、今日は静かで満足だ――とクリームの猫が満足げに頷くと、 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」 と。 まさに逆神。狙ったかのようなタイミングで怒号がマンションに走った。 時刻は既に零時を回り、普通ならば音を立てないよう腐心する時間である。 が、声の主――マンションに住む学生であろう――は気にしていないか、はたまた気にする余裕はないか、とにかく大きな叫びを上げてしまったようだ。 しかもそれに追随するようにドッコンドッコン音がする。クリーム猫の安眠は今日も阻害されそうであった。 「ふうむ、こらえきれぬ若さ、そしてその代償という奴だにゃ。  だが若人よ。覚えておくがいい、日はまた昇る。終わらない夜はない、と」 憤慨するクリーム猫を横目に、黒猫はやはり良い声で言った。 なんだか含蓄深そうな声であったが、所詮は猫なのでやっぱり大して意味はないだろう。 それにそもそも誰も聞いていない。良い声で紡がれた声は、騒々しい学生たちの夜に届くことなく、風に吹かれて消えて行った…… act1. 水の音がする。 それはザザザ――と断続的に、扉をいくつか隔てた向こうから聞こえてくる、シャワーの音。 その向こうでは一人の少女が今まさにシャワーを浴びている。彼女は、何時もウェイバーが使っている小さなユニットバスを占拠して―― うん、とウェイバーは意味もなしに唸った。 そして次に、はぁ、とやはり意味もなしに息を吐いた。 見慣れた風景。男一人暮らしの散らかった部屋。流石にパンツやら何やらが散乱してはいないが、決して綺麗といえるものではない。 そもそも人を自室に招くなどと言うこと自体、全く想定しなかったのだ。 無論、この部屋が魔術師の工房としての側面を持っている訳ではなく、呼ぶこと自体に問題はないのかもしれないが、しかし慣れないことは慣れない。 (時計塔にいた頃から、同性はもとより異性を部屋に招くなどウェイバー・ベルベットには縁遠い行為であった) ウェイバーは落ち着かない心地を抱えたままベッドに座り込み、もう一度唸った。 聞こえてくるシャワーの音が――何も変なところはないのにもかかわらず――どうしても気になってしまう。 と、そこで「あは!」と快活な声がシャワールームから聞こえてきた。 それだけでウェイバーの当代一を誇ると自負している頭脳は反応してしまい、濡れるつややかな紅い髪、水を弾くみずみずしい肌、気持ちよさそうな顔まで、勝手に補完してしまうのだった。 いや別にあの紅いランサーが好みとかそういう訳ではなく、小さく瘠せた身体や頭の足りない言動、と寧ろ彼が嫌う類の異性である筈なのだが、しかしそれはまた別の話だ。 少女の頭がいかに軽かろうと、一人の麗しい少女が自室でシャワーを浴びているという事実そのものが、多感な青年であるところのウェイバーには苦しく―― 「ああ、もう馬鹿か僕は!」 不埒な考えを振り払うべく、声を出したが――しかし誰もそれに反応はしない。 あ、と声が漏れた。今彼は部屋に一人なのだ。 そのことに気付くと、ウェイバーはベッドに沈み込むように横になった。 同行者は今少しの間いなくなっている。故にこの部屋には自分しかいないのだった。 ――さてその同行者であるところの、岸波白野がどこに行ったかというと 買い出しである。 因縁のアサシンとの戦いを経て、ウェイバーの部屋まで戻ることができた彼らであるが、みな疲れ切っていた。 簡単に言えば、眠く、そして腹が減っている状態である。 そこでとりあえず軽く何か食べるものを用意しようと、まだしも活力があった岸波白野は近くのコンビニエンス・ストアまで買い出しに行ったのだった。 部屋に集って夜食を買い出しに行く、という何とも学生らしい行動である。 だからウェイバーはいま部屋に一人だ。 シャワー音に混じって、ふーんふんふーん、と上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。 くそううるさいな……、と思いつつもウェイバーは耳をそばだててしまうが―― 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 ――その時、悲鳴が上がった。 獣のような野太い叫びは、薄壁一枚隔てた隣部屋から聞こえており、ついでドッコンドッコンと暴れ回る音が響く。 ――更によーく聞いてみると女性の喘ぎ声のようなものまで聞こえてしまった。 うっ、とウェイバーは息を呑む。 隣の部屋、というか今の声の主を彼は知っている。 真玉橋孝一。 この方舟で知り合った友人……とまではいかない隣人であり、常に学ランを羽織っている変人である。 そして、いつも無理やりに卑猥で下品な本を押し付けてくる(なんだかんだウェイバーも受け取ってしまうのであるが)はた迷惑な男だ。 ちら、とウェイバーは時刻を確認する。もう夜の三時を回り、しばらくすれば陽が上ろうかと言う時分だ。 何時もならば、こんな時間に騒ぐ隣人に対し壁へのパンチの一発でもお見舞いしてやるのだが、しかしウェイバーはあらぬ想像をしてしまった。 獣様な叫び声。暴れ回る音。かすかに聞こえた女性の声…… 恐らくシャワーの音を聞きすぎたせいだろう。あの性欲の強い男が、一体今この時間に何をやっているのか。 想像し、じっ、と壁を見てしまった。何時もはただ憎らしいだけの騒音が、何だかひどく恐ろしいもののように聞こえてくる。 と、後ろからはシャワー音と少女の鼻歌だ。 ああもう何でアイツらはこう――白野も自分のサーヴァントくらい見ていればいいものを―― と、そこでウェイバーは気づく。 ランサーはシャワーに入り、岸波白野は買い出しに行った。だからウェイバーは今一人。 これは――おかしい。 疲労と湯立った頭でまともな思考ができていなかったが、この状況で“あの”サーヴァントが黙っている訳が―― &COLOR(yellow){「いやウェイバーたんさぁ、確かにラッキースケベとか覗く覗かないとかそういうの前の話で振ったけど、本当にそれで一話使う?}  &COLOR(yellow){オレちゃんこう見えて割とシリアスもやってるし? さっきもシリアスパート担当したから、相方が何時までもキャラ立ち薄いと不安になるぜ」} &COLOR(yellow){「ラブコメ路線に梶切るならそれこそ風呂場突撃とか?」「身体が勝手に――くらいやってもらわないとなぁ」} あまりにもあんまりなタイミングでの闖入に、いいっ、とウェイバーは声を漏らした。 彼こそがバーサーカー、デッドプール。 時計塔を変革する筈の魔術師、ウェイバー・ベルベットがここまで流されっぱなしなサーヴァントである。 何時もは破天荒な言動をする、しかしここでは彼は、やれやれ、と呆れたような素振りを見せており、それがまた異様に憎たらしかった。 と、そこで彼はどこか虚空を見て、誰もいない筈の空間に語り出した。 &COLOR(yellow){「あ、今回はザッピング方式だからオレちゃんのシリアスパートは別の視点で語られるんでこうご期待!}  &COLOR(yellow){んー? ザッピングが分からない? “スナッチ”とか“パルプ・フィクション”とか“バンテージ・ポイント”とかいっぱいあんだろ。} &COLOR(yellow){「俺ちゃんの映画も時系列が乱れてるから注意な」「大丈夫だデビッド・リンチみたいな訳の分からない話じゃないから」} ……相変わらず支離滅裂な言動だ。 ウェイバーは頭が抑えつつ、だがしかし今回は魔力消費がほとんどないことに安堵するのだった。 「おいおい、何時までも同じパターン繰り返しで生きていけるほど、この業界甘くないぜ。  分かってる? ウェイバーちゃん。ラッキースケベもどきで一話使えるほどもう序盤じゃないってこと。  大丈夫だ童貞は死なない、って言った奴は数シーン後には爆散してるんだぜ」 唐突に―― 唐突にそこでバーサーカーは銃を抜いた。 どこからともなく取り出した黒光りする拳銃をウェイバーの眉間へと突き付ける。 あまりにも脈絡のないウェイバーは目を見開く。は、と声が出た。そうだ。コイツは元々こういう何をしでかすか分からない奴だったんだ。 咄嗟に令呪を使おうとするが――しかし、カチャ、と突き付けられる銃口に震えて身体が動かない。 &COLOR(yellow){「オレちゃん、一応願いが“Fateシリーズの次の主役”じゃん?}  &COLOR(yellow){だからZEROとか事件簿とかで人気のウェイバーちゃん選んだってのに、150話かけて何もしてないとかヤバいぜ、ウェイバーたん。}  &COLOR(yellow){ほらアレやれよアレ。計略だ! とか言いながらビーム撃つ奴。そんくらいの個性ないと、主役にはなれないよなぁ、ミスター・諸葛孔明」} 何を言っているんだ、と聞き返そうになった時、玄関が開く音がした。 白野だろう。バーサーカーは首をそちらに向けながら、 &COLOR(yellow){「おー主役のご登場だ。いいよなぁ、登場シーンは必ず語り部ってのは。}  &COLOR(yellow){アレ、モキュメンタリー映画のカメラみたいだよな? さながら気分は“ブレア・ウィッチ・プロジェクト”」} そんな意味不明なことを言いつつ、バーサーカーは銃を下げた。 な、なんだったんだ、と思わず声を漏らすが、しかしバーサーカーは答えない。 &COLOR(yellow){「お、ヒロインが増えてる。さっすがーはくのん。おい見とけよウェイバーたん。}  &COLOR(yellow){あれが型月主人公って奴だぜ。あ、女が増えれば増えるほどでも死にやすいから注意な」} 「は……?」 不審に思い、玄関の方を覗き込むとそこには白野と、そして見覚えのない少女がいた。 少女は白野と連れ添うように立ちながら、ウェイバー宅に上がろうとしている。 誰だアレ、問いかけるより早く、 「あー子ブタ帰ってきたの?」 そこでシャワー室から紅い少女――ランサーが出てきた。 湯気立つ髪を上機嫌に触りながら、さっぱりとした顔で顔を出している。 「ねぇ子ブタ――その女、誰?」 ――その様を見てウェイバーは思う。 なるほど、アレは主役だ。それも死にそうな類/ラブ・コメディの、と。 初めて己のサーヴァントの言葉が理解できた瞬間だった。 act2. 夜食。 三度の飯、というのは言うまでもなく、朝食、昼食、夕食、を指しており、それは即ち存在しない筈の四番目の食事と言える。 夕食を終え、夜間なにかしらをやっている最中にふと小腹がすいた時に取るものであるが、これは基本的に奨励されていない。 まずカロリー。気を抜いて夜食を頬張っていれば、みるみる内に“ふくよかな”身体になっていくだろう。 不規則なタイミングでの食事は生活リズムの崩壊を呼び、崩壊したリズムは内臓への直接的な負荷となる。内臓への負荷は体調ほか肌にも影響する。 歯にも悪い。寝ている間は口の中の菌が増殖しやすいため、虫歯のリスクも急速に高まる。 と、リスクを列挙すれば暇がない。 いくらそれで欲望が一時的に充たされようが、それと引き換えに身体が蒙るデメリットとは釣り合わない。 けれども――若さ故の過ちと言うべきだろうか。 学生が夜のマンションに集い、ひどく腹が減っている。少し歩けば何でも置いてあるコンビニが見える。 ほんの少し我慢すればいいのに。あるいは眠ってしまえばいいのに。 理性はそう言うだろう。それは正論で、全く反論のできない、完璧な意見だ。 だが――完璧な正論であろうとも、愚かなる人を動かすには足らない。 あるいはこういうべきだろうか。 たとえその道が間違っていると分かっていても、人は自らが抱いた“欲望/ねがい”のために歩き続けることができる生物である、と。 だから、もしかするとこれは愚かな選択なのかもしれない。 それでも自分はいまここにいる。ここにいるからこそ自分/きしなみはくのなのだ。 たとえそれが愚かであろうとも、ここまでたどり着いた軌跡は決して否定させない。 ……要するに、買い出しに来たということだった 真っ暗な街の中ほのかに青く浮かび上がる、owson、という看板が見える。 その場に向かいながら、さて何を買おうかと頭を悩ませる。同時に、辺りへの警戒も忘れなかった。 少なくともマイルームにおいての安息が約束されていた“月の聖杯戦争”での戦いと違って、この聖杯戦争にはインターバルが存在しない。 昼であろうと夜であろうと、休息中であろうと戦闘直後であろうと、この聖杯戦争では襲われる可能性がある。 そういう意味で休息を取るタイミングは非常に大事だ。食事や睡眠の際も細心の注意を払わなければならない。 何かあればすぐに令呪でランサーを呼ぶ。そのつもりで夜の街に出た。 ――そのことは、朝の襲撃で痛感した。 あの時感じたデジャビュは明日以降の課題だ。 欠損した記憶の欠片の鍵となる。それは確実だろう。 その回想が契機となって幾多ものの記憶が脳裏を流れていく。 自分の知らない、けれども“識っている”凛との邂逅、どこかで聞いた“カレン”の名を持つ監督役、そして多くの陣営を巻き込んだマンションに陣取ったキャスターとの戦い…… 多くの出会いと、多くの別れがあった。 “私の分までこの聖杯戦争を戦って、そして絶対に勝ち残りなさい!” ……たとえ全く違う歴史を生きた者であっても、どれだけ幼い日の彼女であろうとも、やはり彼女は彼女であった。 ――………… だから、自分は進み続けたい。 彼女と、彼女が信じてくれた自分のためにも。 そんな決意と共にコンビニエンス・ストアに足を踏み入れた。 明るく、空調の効いた店内に不思議な安心感を覚えつつ、あまり気張ってはいけないな、と自分に言い聞かせる。 休む時は休まなくてはならないのだ。そのためには、食べて寝ることがやはり大事だろう。 おにぎり、握り寿司、ホットスナックにカップラーメン…… さて何がいいだろう。店内には様々な夜食がある。適当に弁当を見繕ってしまえばいいだろうか。 食事の話はランサーの前ではしたくなかったのもあり、相談できていなかった。  >サンドイッチ   うどんはアレだし、ボンゴレかな   まっかな麻婆豆腐 うん、そうだ。 あの日、あの朝食べたもの。 思えばあの時の朝食、あそこで襲われたことがすべてのはじまりだった気がする。 たった一日前のことなのに、もはや大分昔のようにも感じられる。 そんな感慨に似た思いを経て食料品を買い込んで、コンビニを出ると…… 「なぁ、アンタ」 ――ふと、そこで。 誰かに声をかけられた。 どこかで聞いたことのある声だと思った。 しかし、それが誰なのか、どこで聞いたのかまでは全く分からない。 だからこそ、振り向いて確かめようとしたところ、目の前に鬼気迫る表情の誰かがいた。 学ランを羽織った彼ははぁはぁ、と鼻息荒く、そして問い詰めるように口を開いた。 「お前の妹はどこだ?」 ――は? 思わず、呆けた顔をしてしまう。 しかし、当の彼はなおも深刻/シリアスな表情で、 「だから――あのエッロい恰好したお前の妹はどこだって言ってるんだよ!」 そんなことを言い放った。 妹――妹とは、なんだろうか? 記憶に欠落がある身とはいえ、ここまで身に覚えのないことは初めてだった。 「……それでは駄目でしょう、マスター」 本当に意味不明です、と誰かが付け加えた。 マスター、その言葉を聞いた瞬間、身体に強い緊張が走った。 夜のコンビニの、ぼうっ、とした明かりの下、誰かが立っている。 腰まで黒く届く長い髪をした少女だった。 腰の部分で絞ったシャツにジーンズ、という現代風の恰好はしている。 けれども――その手には剣があった。 背丈ほどもあろうかという長さの大刀が、一見して華奢な腕に軽々と握られていた。 ああ――間違いない。今、駐車場に立っている彼女は剣の英霊《セイバー》だ。 ほかのすべての印象を吹き飛ばすほど、その剣は美しく、鮮烈だった。 ――そこまで認識したとき、いま自分の隣には誰もいないだということに気付いた。 凛も、ランサ―も、ラ二やウェイバーも、そして■■■■も。 すぐ近くにはもういない。なのに、ここでサーヴァントに行き遭ってしまった。 何かあれば、すぐに令呪を使うつもりだった。 しかし、ひと声あれば、かの英霊は剣をもってこちらを…… 「――聞かせてもらいましょうか。あの亡霊もどきが何だったのかを」 act3. アサシンあるいはのぞき見趣味のエロ親父とのやり取りを終えたあと、 真玉橋孝一は待っていた。 どこかからカレーの匂いが漂いだしても、夜が深まり道に人が消えても。 ずっと待っていた。 「…………」 「――――」 「…………」 「――――」 聖杯戦争からの脱落とは、即ち“死”を意味する。 それは決して覆らない。この戦争における絶対のルール。 そう知ったことで、彼らの陣営としては珍しく、少し緊張が走っていたが―― 「おせえ」 「遅いですね」 流石に日をまたいだあたりで、 その緊張の糸もほどけていた。 人間ずっと緊張することなどできない。 することもなしに数時間も待ちぼうけを喰らえば、普通は弛緩もする。 「ウェイバーの奴、一体どんな覗きスポットを見つけやがったんだ。  こんな時間まで夢中になるほど、エロエロしい場所なのかよ……!」 「――――」 馬鹿なことをのたまうマスターを尻目に、 セイバーは視線を少し下げ、缶コーヒーに口をつけた。 ちなみに待っている間、セイバーと孝一がかわるがわる近くのコンビニで食料調達をしていたため、 マンションの入り口前にはちょっと散らかってしまっている。 ――夜、何かがあったようですね。 そんな場所で、セイバーは冷静に思考を働かせていた。 アサシンとの会敵以来、ずっとこの場にいたが、 道行く人々の噂から聖杯戦争の余波を感じ取ることができた。 具体的には分からない。 もとより人の往来の少ない住宅街なうえ、この時間だ。 とはいえこの夜だって、確かに戦いは進んでいた筈なのだ。 だから、既にセイバーの中ではあのバーサーカー陣営は既に半ば脱落したものになっている。 昨日まで規則正しく帰っていた人間が、今日になって帰ってこない。 そんなもの――考えられるのは一つだけではないか。 そう思いはする。 しかし「おっせえな、なんてエロい奴なんだウェイバー……」と呟くかのマスターは、 そのような結末、予期すらしていないようにも見える。 ふと、思う。 もしかすると、彼はこの聖杯戦争で最も純粋で、かつ無垢なマスターなのではないか、と。 だからなんだということではない。 だが先のやり取り――誰も殺さずに聖杯を手に入れるという、あの言葉。 その理想が、こう、なんというか、ほんの少しだけ眩い。 生前彼女が深くかかわることになった、どこかの誰かが言いそうな響きがある。 「ぬあああああああああああ!」 と、何かの限界が来たのか孝一は突然叫びを上げた。 そして「おせええええ」と叫びを上げながら、その言葉とは一切の脈絡も関連もなく、セイバーの胸へと手を伸ばした。 さっとセイバーはその手から逃れた。 「どこ行ったんだウェイバー……ってん? なんで俺に乳を揉ませねえんだセイバー」 「……心底不思議そうな風に言わないでください」 「は? しゃーねえな、令呪をもって――」 「いっ――」 思わず変な声が出そうになった。 孝一は躊躇なく残った最後の令呪を切ろうとしたのである。 当然言わせる前にセイバーはその口をふさいだ。 「そろそろ分かってください。死んだら脱落ということは、貴方だって――あ」 今度こそセイバーは変な声を漏らした。 喘ぎ声だ。 もがもが、と口を震わせる孝一は、 口を押えながらセイバーの豊満な胸を揉んでいる。 結局、この状況に――と思うと同時に、さすがに慣れてきたのか、令呪を切られるよりマシだったか、と 冷静に考えている自分を見つけて、セイバーはどんよりした気分になった。 だが、いろいろと慣れ始めているのは彼女だけではなかった。 孝一もだったのである。 「何故だ……昂らねえ」 ぴた、と彼は胸を揉みしだく指を止めた。 「え」とセイバーは声を漏らす。このパターンは今までになかったからである。 「これはまさか」 孝一の脳裏に過るのは、かつてダイミダラーに乗り始めたばかりのころのこと。 まだ経験の浅かった孝一はただパートナーである恭子の胸をただ揉み続けた結果、一つの壁にぶち当たってしまったのである。 「あ、飽きたのか……俺はセイバーの胸に」 高級牛肉も毎日食べ続ければ飽きがくる。 たまには違うもの、あっさりしたものも挟みたくなる。 そんな初歩的なミスを、まさかここでやってしまうとは―― 「はぁ?」 孝一の衝撃と裏腹に、セイバーが苛立たし気に眉を吊り上げる。 召喚されて以来、これまで何度も揉まれ、これも魔力のためと己に言い訳をして、ようやく慣れ始めたのに――飽きた? 基本的には温厚な彼女であるが、このときばかりは声を上げそうになった。 ふざけるな――とでかかった声であるが、 ――そんな二人の時間は、ふいに訪れた“おばけ”により、遮られることになる 賃貸マンションの入り口で騒いでいた二人の横を、 一人の少女が通り過ぎていった。 奇妙な外見をした少女だった。 だらり、と長く伸びた白いローブを身に纏っている。 いやに装飾の少ないその布地は、ちょうど歴史の教科書で古代人が羽織っているようなものに似ていた。 羽織っている少女自体は別段対して特徴のない容姿であったが、なおのことその存在の不自然さが目立ってしまっている。 そう、言ってしまえば――クラスの上から三番目にかわいい娘がローマ風の恰好をして出歩いているような、おかしな状況。 彼女はマンションの奥へと消えていく。 騒ぐセイバーや孝一には目をくれないまま。 「マスター」 セイバーは思考を切り替えながら言った。 ウェイバーはこなかった――しかし、彼女は、明らかなイレギュラーだ。 代わりにやってきたあの少女を追えば聖杯戦争について何かがわかるかもしれない。 「ああ、分かっている」 孝一も同様に頷いて、 「あんなスケスケな服着た女、放っておける訳ないだろ!」 ――この際、動機はなんでもいい。何となく、そんなことだろうと思った。 セイバーと孝一は駆け出す。 賃貸マンションなど構造は単純だ。 追えばすぐに見つかるはず――そのはずだった。 しかし、 「は? 誰だ、お前」 ……少女を追った先にいたのは、全くの別人であった。 そこにいたのは、同じようにローマ風の衣装に身を包んだ、一人の男だった。 茶色混じった髪色をした彼は、どことなく先ほどの少女と似た面影を漂わせている。 顔つきが似ているわけではない。纏う雰囲気が同一の骨子をできているのだ。 ――その少年は、孝一たちのことを見て微笑んだ――かと思うと、消えた。 まるで煙のように。 まるで亡霊のように。 act4. 突然現れた古代人風の装いの少女。 そしてそれと立ち替わりに現れた、似た雰囲気の少年。 それが――岸波白野(じぶん)であるというのか。 「答えてください、貴方は――何者ですか?」 セイバーはこちらの瞳を見据えて、そう尋ねてくる。 声色こそ穏やかであったが、しかし、そこには刃のような鋭さがあった。 おばけのように消えた岸波白野――のような人物を探して彼らはこのあたりをうろついていたところ、自分を見つけたらしい。 本来ならば自分がマスターであることは看破されるはずがなかった。 にも関わらず、襲われてしまった。 当然身に覚えなどない。 ――はずだ。 妹、自分に似た雰囲気の少女など全く知らない。 NPCとしての設定としても、元となった人間としても、 そんな情報を見た覚えはなかった。 しかし――この感覚は、なんだ? ふと、頭を押さえる。 この聖杯戦争開幕の際に、欠落した記憶を求めて自分は痛みにのたうち回った。 自分がいるべきなのはここではない。 こんな役割に――堕してはいけない。 そういう強い想いが自分を突き動かしたのだ。 ――■■ァー■となった白い■女を■■うため、■■■■は■ル■メデ■を■■した 痛みと共に、そんな言葉の欠片が脳裏をよぎった。 「……答えは、ないということですか?」 こちらが煩悶している様子を見て、セイバーはどう思ったのか、静かにそう漏らした。 その手は、刀の柄にそっと寄せられている。 ――逃げ場は、なかった。 今、自分がいるのはセイバー陣営の拠点、マンションの一室だ。 いかにも男子学生、というような散らかった部屋にて、自分は詰問を受けている。 マスターである学生は部屋の隅で何やら悩むように「飽きたのか、また俺はあの過ちを……」などと漏らしている。 この部屋に来る際に、彼の名は思い出した。 真玉橋孝一――月海原学園のちょっとした問題児で、いつも一成が頭を悩ませていた生徒のはずだ。 校則違反の制服や女生徒へのセクハラなどでよく問題にされているが、別段札付きのワル……などという訳でもない。 そんな彼がマスターだったこと。 そして――彼の部屋が、ウェイバーの拠点の隣にあったこと。 この部屋に連れられてわかったことはそれだった。 灯台下暗し、という奴だろうか。 この薄壁一枚先にはランサーやバーサーカーがいるはずだ。 なんとか彼らに助けを求めることができれば、窮地を脱することができるかもしれない。 「――まぁ、いいでしょう。  もしかするとあれはただのシステムエラーかサイバーゴーストの類だったのかもしれません」 思考を働かせていると、セイバーは質問を変えた。 「そのうえで問います。貴方はこの聖杯戦争を、どう戦いますか?」 と。 どう戦うのか。 刃のような鋭い口調で紡がれたその問いかけに、思わず息を呑んだ。 それはこちらの思想《スタンス》を探る声だ。 彼らが岸波白野に気付いたことは“おばけ”という奇妙な現象のせいだった。 しかし――何にせよ自分たちは出会ってしまったのだ。 聖杯戦争で、マスターとマスターとして。 ならば、当然に相対しなくてはならない。 本当ならば一刀に斬り伏せられてもおかしくはなかった。 しかし、セイバーらには自分に聞きたいことがあったために生かされていた。 それに答えられない、となると話はまた別だ。 だから、口を開いた。  >自分が、自分であるために   聖杯を手に入れるために   生き残るために   この方舟から脱出するために 意を決して、自らの願いをセイバーに伝えると、 彼女は眉を吊り上げ「自分?」と彼女は漏らした。 ……そうだ。 自分が求めたのは、忘れてしまった■■■■の記憶。 すべてをリセットされても、それでもこの身体に宿った魂が、感情が、ささやくのだ。 このままではいられない、と。 「――つまり、貴方はある種の記憶喪失になっている、という訳ですね」 セイバーは何か含みのある面持ちでそうまとめると、 「それで、貴方はそのために他のマスターを倒す――殺す、と」 彼女はもう一歩踏み込んで、そう尋ねてきた ◇ 「たとえ弱き者であろうとも、  たとえ戦意なきものであろうとも、  貴方は戦う、とそう言っているのですか?」 セイバーは静かに問いかける。 それに向かい合い――自分は頷いた。 「……そうですか」 無感動にそう伝えると、彼女はその剣の柄に手をかけた。 カチャ、と金属がこすれる音が部屋に響いた。 当然だ。今の発言は、いわば敵対するといっているようなものなのだから。  >でも、ただ戦うだけじゃ駄目だ それでもまた、言葉を重ねた。 戦う――自分の願いのために闘うつもりはある。 けれど、それだけですべて終わるとは、もはや思っていなかった。 かつて月の聖杯戦争の最期にトワイスが待ち構えていたように、 きっとこの聖杯戦争にも――何かが隠されている。 「貴方は、ほかの聖杯戦争を知っているのですか?」 セイバーが驚いたように言った。 そう――自分は知っている。聖杯戦争のことを。 表側の闘争も、裏側の葛藤も、その先の■■も。 きっと自分の魂には刻まれていて、ここまで来た。 だから立ち止まるわけにはいかない。 闘うのは厭だと放棄する訳にはいかない。真実から目を背けて闇雲に走る訳にもいかない。 本来あり得ない筈のムーンセルの状況、この方舟の正体、そして自分の“おばけ”も、きっと何かしら意味があるはずだから。 「――なるほど」 その意志を伝えると、セイバーは一人そうつぶやいた。 その言葉に込められた感情の色は分からない。 ぐっ、とその拳を握りしめる。次の瞬間に斬られてもおかしくない。そのつもりだったが―― 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」 次の瞬間、叫びを上げたのはセイバーでも自分でもなかった。 学ランのマスター、真玉橋孝一である。 部屋の隅で何やら難しい顔をしていた彼が、突如として野獣のような雄たけびを上げたのである。 突然の豹変に、思考が追い付かない。 それはなんとセイバーも同じなようで、自らのマスターの奇行に目を丸くしていた。 彼はセイバーに詰め寄ると、迫真の表情で、 「セイバー、頼む! 協力してくれ」 「はい?」 「俺がただ単に胸を揉むだけじゃ、もうダメなんだよ。  お前が! 俺に胸を揉ませてくれ!」 「はぁ?」 それまで泰然としていたセイバーの口調が、突然乱暴なそれへと変わった。 傍から見ていると、何一つ理解できないやり取りだったが、孝一はいたってまじめなようで、 「頼む……!」と切に懇願している。 「力を貸してくれ! 俺一人で掴めるおっぱいなんてタカが知れてる。  だから――お前の協力が必要なんだよ」 「って、何触って――マスター!」 「良いから良いから、ちょっとお前のおっぱいを貸してみろ。  やっぱ、恭子のおっぱいとはまた違う味がするぜ」 「――今、誰かと比べましたね。別の誰かと!」 「おお――コイツはエロい!  これなら――どのおっぱいも犠牲にせずに聖杯を掴めるぜ!」 ……突然のやり取りに取り残されてしまう。 どうやらこの陣営は、どちらかというと月の裏側にいそうな人物のようだった。 ――しかし、何か重要な話をいま聞いた気がする。 act.5 「ねぇ子ブタ――その女、誰?」 ウェイバーの部屋に帰ってくると、ちょうど風呂上がりのランサーと行き遭った。 彼女は眉を吊り上げながら、隣に立つ女性を不審そうに見ている。 「サーヴァント、セイバー」 乱れた衣服を直したセイバーは、再度毅然としたたたずまいでそう答えた。 するとランサーと、その向こうにいるウェイバーらに緊張が走る。バーサーカーの方はよくわからないが。 ……しかし、今の態度を見ていると、先ほどの孝一にもてあそばれていた頃のアレは黙っていた方がいい気がする。 「と、俺だ! ウェイバー」 その隣から顔を出したのは、孝一だ。 彼はウェイバーの返事も聞かずにどかどかと上がり込んでいく。 「は? なんでオマエまで――」とウェイバーが声を上げようとするが、 &COLOR(yellow){「おお、久々の登場じゃーん。どうだった二年間も放置されて。}  &COLOR(yellow){大丈夫大丈夫。ハリウッドじゃよくあることだから」} バーサーカーの相も変わらず意味不明な言葉でかき消されてしまった。 ……このセイバー陣営の目的は“聖杯戦争の打破”だった。 だから、こちらがマスターだと気づいても、すぐには襲い掛かってこなかったのだ。 そう気づいたことで、自分たちが“協力”できる間柄であることが分かった。 最終的な目標はどうなるかわからない。 しかし、とにかく今は――聖杯戦争の真実をさぐる、という意味ではここに集った陣営は協力できる。 そう気づいたことで、いまここに三人のマスターが終結したのだった。 孝一がどこまで考えていたのかはわからない。 けれど――結局彼は、おっぱいを揉むことで、待ち望んでいたウェイバーとの再会と、新たな協力者を見つけるに至ったのだった。 ◇ ――そして、夜明けが近づいてくる。 今日、この街ではマンション倒壊や街の暴動、学園の混乱など、多くの事柄があった。 しかし、その裏で別の噂が流れていた。 古代の衣装に身を包んだ少年/少女の幽霊。 そして同時に、実は多くの人間が同じ夢を見ているという噂も広がりつつあった。 きまって、それは“白い巨人の夢”なのだという。 【C-5/賃貸マンション・ウェイバーの自室/未明】 【真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー】 [状態]瘤と痣、魔力消費(小) [令呪]残り1画 [装備]学生服、コードキャスト[Hi-Ero Particle Full Burst] [道具]ゴフェルの杭 [所持金]通学に困らない程度(仕送りによる生計) [思考・状況] 基本行動方針:いいぜ……願いのために参加者が死ぬってんなら、まずはそのふざけた爆乳を揉みしだく! 0.他のマスターを殺さずに聖杯を手に入れる方法を探す。 1.ウェイバーと岸波白野に話を聞く 2.ペンギン帝王のような人物(世界の運命を変えられる人物)を探す。 3.好戦性の高い人物と出会った場合、戦いはやむを得ない。全力で戦う。 π.救われぬ乳に救いの手を―――! 4.アサシン(カッツェ)の性別を明らかにさせる。 [備考] ※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。正純がマスターだとは気づいていません。 ※アサシン(カッツェ)、アサシン(ゴルゴ13)のステータスを把握しました。 ※明日は学校をサボる気です。 ※学校には参加者が居ないものと考えています。 ※アサシン(ゴルゴ13)がNPCであるという誤解はセイバーが解きました 【セイバー(神裂火織)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康、魔力消費(小) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:救われぬ者に救いの手を。『すべての人の幸福』のために聖杯を獲る。 0.他のマスターを殺さずに聖杯を手に入れる方法を探す。 1.マスター(考一)の指示に従い行動する。 2.バーサーカー(デッドプール)に関してはあまり信用しない。 3.アサシン(カッツェ)を止めるべく正体を模索する。 4.聖杯戦争に意図せず参加した者に協力を求めたい。 [備考] ※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。正純がマスターだとは気づいていません。 ※真玉橋孝一に対して少しだけ好意的になりました。乳を揉むくらいなら必要に迫られればさせてくれます。 ※アサシン(ゴルゴ13)、B-4戦闘跡地を確認しました。 ※アサシン(カッツェ)の話したれんげたちの情報はあまり信用していません。 ※アサシン(カッツェ)は『男でも女でもないもの』が正体ではないかと考察しています。  同時に正体を看破される事はアサシン(カッツェ)にとって致命的だと推測しています。 ※今回の聖杯戦争でなんらかの記憶障害が生じている参加者が存在する可能性に気づきました。 [共通備考] ※今回の聖杯戦争の『サーヴァントの消滅=マスターの死亡』というシステムに大きな反感を抱いています。  そのため、方針としては『サーヴァントの消滅とマスターの死亡を切り離す』、『方舟のシステムを覆す』、『対方舟』です。 ※共にマスター不殺を誓いました。余程の悪人や願いの内容が極悪でない限り、彼らを殺す道を選びません。 ※孝一自身やペンギン帝王がやったように世界同士をつなげば世界間転移によって聖杯戦争から参加者を逃がすことが可能だと考えています。  ですが、Hi-Ero粒子量や技術面での問題から実現はほぼ不可能であり、可能であっても自身の世界には帰れない可能性が高いということも考察済みです。 岸波白野@Fate/EXTRA CCC】 [状態]:ダメージ(微小/軽い打ち身、左手に噛み傷、火傷)、疲労(中)、魔力消費(大) [令呪]:残り三画 [装備]:アゾット剣、魔術刻印、破戒の警策、アトラスの悪魔 [道具]:携帯端末機、各種礼装 [所持金] 普通の学生程度 [思考・状況] 基本行動方針1:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。 基本行動方針2:遠坂凛との約束を果たすため、聖杯戦争に勝ち残る。 0.凛………………ありがとう。 1.今はウェイバーの自宅で休息する。 2.今日一日は休息と情報収集に当て、戦闘はなるべく避ける。 3.ウェイバー陣営と孝一陣営と一時的に協力。 4.『NPCを操るアサシン』を探すかどうか……? 5.狙撃とライダー(鏡子)、『NPCを操るアサシン』を警戒。 6.アサシン(ニンジャスレイヤー)はまだ生きていて、そしてまた戦うことになりそうな気がする。 7.聖杯戦争を見極める。 8.自分は、あのアーチャーを知っている───? [備考] ※“月の聖杯戦争”で入手した礼装を、データとして所有しています。 ただし、礼装は同時に二つまでしか装備できず、また強力なコードキャストは発動に時間を要します。 しかし、一部の礼装(想念礼装他)はデータが破損しており、使用できません(データが修復される可能性はあります)。 礼装一覧>h ttp://www49.atwiki.jp/fateextraccc/pages/17.html ※遠坂凛の魂を取り込み、魔術刻印を継承しました。 それにより、コードキャスト《call_gandor(32); 》が使用可能になりました。 《call_gandor(32); 》は一工程(シングルアクション)=(8); と同程度の速度で発動可能です。 ※遠坂凛の記憶の一部と同調しました。遠坂凛の魂を取り込んだことで、さらに深く同調する可能性があります。 ※エリザベートとある程度まで、遠坂凛と最後までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。 ※ルーラー(ジャンヌ)、バーサーカー(デッドプール)、アサシン(ニンジャスレイヤー)のパラメーターを確認済み。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。 しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。 ※『NPCを扇動し、暴徒化させる能力を持ったアサシン』(ベルク・カッツェ)についての情報を聞きました。 【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】 [状態]:ダメージ(大)、魔力消費(大)、疲労(中) [装備]:監獄城チェイテ [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。 1.とりあえず、今はウェイバーの自宅で休む。 2.岸波白野とともに休息をとる。 3.アサシン(ニンジャスレイヤー/ナラク・ニンジャ)は許さない。 [備考] ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある……かもしれません。 【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero】 [状態]:魔力消費(極大)、疲労(小)、心労(大)、自分でも理解できない感情 [令呪]:残り二画 [装備]:デッドプール手作りバット [道具]:仕事道具 [所持金]:通勤に困らない程度 [思考・状況] 基本行動方針:現状把握を優先したい 1.は!? 2.バーサーカーの対応を最優先でどうにかするが、これ以上令呪を使用するのは……。 3.バーサーカーはやっぱり理解できない。 4.岸波白野に負けた気がする。 [備考] ※勤務先の英会話教室は月海原学園の近くにあります。 ※シャア・アズナブルの名前はTVか新聞のどちらかで知っていたようです。 ※バーサーカー(デッドプール)の情報により、シャアがマスターだと聞かされましたが半信半疑です。 ※一日目の授業を欠勤しました。他のNPCが代わりに授業を行いました。 ※ランサー(エリザベート)、アサシン(ニンジャスレイヤー)の能力の一部(パラメータ、一部のスキル)について把握しています。 ※アサシン(ベルク・カッツェ)の外見と能力をニンジャスレイヤーから聞きました。 ※バーサーカーから『モンスターを倒せば魔力が回復する』と聞きましたが半信半疑です。 ※放送を聞き逃しました。 【バーサーカー(デッドプール)@X-MEN】 [状態]:魔力消費(大) [装備]:日本刀×2、銃火器数点、ライフゲージとスパコンゲージ、その他いろいろ [道具]:??? [思考・状況] 基本行動方針:&COLOR(yellow){一応優勝狙いなんだけどウェイバーたんがなぁー。 } 0.&COLOR(yellow){たやん真正面から倒すとか、はくのんやるなぁ。俺ちゃんも負けてらんねー!} 1.&COLOR(yellow){一通り暴れられてとりあえず満足。次もっと派手に暴れるために、今は一応回復に努めるつもり。} 2.&COLOR(yellow){アサシン(甲賀弦之介)のことは、スキル的に何となく秘密にしておく。} 3.&COLOR(yellow){あれ? そういやなんか忘れてる気がするけどなんだっけ?} [備考] ※真玉橋孝一組、シャア・アズナブル組、野原しんのすけ組を把握しました。 ※『機動戦士ガンダム』のファンらしいですが、真相は不明です。嘘の可能性も。 ※作中特定の人物を示唆するような発言をしましたが実際に知っているかどうかは不明です。 ※放送を聞き逃しました。 ※情報末梢スキルにより、アサシン(甲賀弦之介)に関する情報が消失したことになりました。 これにより、バーサーカーはアサシンに関する記憶を覚えていません………たぶん。 ---- |BACK||NEXT| |157a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|158a:[[いいから、みつげ]]| |157a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|160:[[蒼銀のフラグメンツ]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |144:[[明日への飛翔]]|[[岸波白野]]&ランサー([[エリザベート・バートリー]])|163:[[ウェイバー・ベルベットの憂鬱(何度目)]]| |~|[[ウェイバー・ベルベット]]&バーサーカー([[デッドプール]])|~| |126a:[[俺とお前はよく似てる/少年よ我に帰れ]]|[[真玉橋孝一]]&セイバー([[神裂火織]])|~| &link_up(▲上へ)

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