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*聖‐testament‐譜 ◆HOMU.DM5Ns それはこの世全ての悪に立ち向かう誰かに似て それは堕ちる星に立ち向かう誰かに似て 配点(我が神はここにありて)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ● 元々、過去の歴史におけるジャンヌ・ダルクの人物像には多数の解釈がある。 神の声は栄養失調からくる精神病の幻覚。 全ては演技である鬼算の策謀家。 人でなき神が遣わした異存在である天使。 真実の姿は居合わせた当事者にしかわからない。いや、本人以外誰も理解できなかったのかもしれない。できなかったからこその裏切りだ。 歴史再現でも都合により男の名を女性が襲名しているように、案外語られている実像とは違っているのかもしれない。 神がかったとしか思えない言動と行動によってフランスのシンボルとして立ち、旗を持つ彼女に鼓舞された兵士は破竹の勢いで敵の砦を攻略。 瞬く間に本願であるフランス王の戴冠を成し遂げ、名実ともに救世主となったひとりの少女の業績は、永い人類史においても一際目を引く。 実質国に見捨てられたに等しい捕縛、聖女憎しと徹底して尊厳も奇跡も奪いにかかる異端審問。死体を残さず火に焼き灰に帰す、旧派で最も重い処刑法。 悲劇……与えられた報酬がそんな最期だった聖女は一層民衆の人気を博した。 数ある解釈でも、このジャンヌは一般的に伝わる実像のようだ。 聖女と聞いて浮かぶ幾つかのワード。清廉にして潔白、慈悲深く身命に喜んで殉ずる高潔さ。そうしたイメージに違わない。 それにしても、だ。 ……ここまで頑固な性根だとは思わなかった……! 信仰によって作られる精神は強固だ。宗教という巨大な集団と己とを一体化させられるからだ。 一個人では形成できない後ろ盾が背中を押し自信を与える。神という超次元の意思との歓喜が人を進ませる。 ジャンヌを支えているのは別のものだ。 ひとつ確信する。この人は、最期まで聖女であったのだと。 誰も憎まず、何も恨まず。人を、国を、神を、世界を愛す。 あらゆる場所と時代と常に共に在った、凡庸で、どこにでもありふれた感情。 ただその頑健さだけが尋常ではなかった。不偏の理想はどこまでも尊くそして脆い。 誰もが掲げても続けられないそれを、死に終わるまで貫き通してしまった。 まさに人間城塞だ。如何なる剣でも砲でも折れ砕けまい。戦艦か何かと思わずにはいられない。 それでも……正純の掲げる方針にとって、彼女こそが最大の障壁だ。 聖杯に立ち向かう姿勢を崩さない限り、今を凌いでもまた必ず立ち塞がる。 どういう形になるにしても退けなければならない。 「こちら側の結論ですが……現時点であなた方が決定的な違反行為を犯したわけではありません。  よってここでは警告のみとします」 視線が正純を射抜く。鋭くはないがこちらの底を見透かすように深く。 「ルーラーの本分は運営であり抑止力。どのような行動、どのような方針で聖杯戦争に臨むかは各々の自由となります。  戦いを拒むのも、否定するのも縛りはしません。その意味で言えば貴方たちを縛る権利もない。  ですが運営を妨げ、この方舟に亀裂を刻もうというのならば」 空の右手を前に出すと、籠手の内側から淡い光が紋様を描いて顕れた。 「我々も動き、然るべき制裁を加えます」 ……あれは、令呪か! 光の意味を正純は理解する。 マスターがマスターたる資格である三画の聖痕。正純の右手の甲にもある令呪をルーラーも保有していたのか。 目に見える数からして……総数は全サーヴァントに対して複数使用できるだけはあるだろう。 ここにきて秘匿していた隠し札を見せに来ている意図。 それは即ち最後通牒だ。 極論、この場で即刻ライダーとアーチャーを自害させることも可能ということ。首に繋がった命綱を見せられた。 手持ちの令呪を使えば自害は阻止できるのか。だがたとえそうでも令呪の無駄打ちは備蓄のない自陣にとっては大打撃だ。 令呪をちらつかせて浮足立ったところでの宣言。効果的だ。 相手は答えを待っている。展開された話し合いの結果をこちらは告げた、そちらの決算を見せろと待ち構えている。 折れればそれでよし。裁定者は聖杯戦争に従い他主従の排除に動く者達に干渉しない。 そして、正純は未だその意思を一度として見せていない。ならば行き着く先は正面衝突しかなく――― ……どうする。 当然、現在の聖杯戦争を認める気にはなってない。依然正純は聖杯に交渉し、その改革を叫ぶ立場を変えていない。 提議すべき点は何か所かある。それを出し、聖杯に逆らう正統たる理由に解釈し突き付ける。 出来なくはないと考えている。正純がいつもやってきたように。 しかし……それではいけないとも考えている。 このままの流れで続けていけば相互の不理解として交渉が決裂する。それでは駄目なのだ。 ルーラーとの交渉の成否は聖杯改革の進展に大きく影響する。決裂とは裁定者との対立。それは正純達の敗北だ。 だから何とかしなくてはならない。のだが、 「……っ」 つい数分前での出来事が脳裏に浮かぶ。 ライダーとも因縁深いアーカードとアンデルセンとの交渉。結果はものの見事に失敗した。 あちらは既により根深い因縁で結ばれ、その清算に臨もうとしていた。 大学での騒動の中で前に出る機を常に窺っていたこちらだが、あの時は最悪のタイミングでの接触だった。 その整理と敗因の検証の間も着かぬ間に、矢継ぎ早に新たな交渉。相手はより困難で、しかもこちらの生死に直結しているときた。 かかる重圧は先の比ではない。命綱もなしに断崖絶壁の端に立たされている気分にもなる。 何度も行われてきた、武蔵の是非を問う論争。 今までも一度や二度の失敗はしてきた。あわやという場面も少なからず経験し、まがりなりにも乗り越えてきた。 それには正純だけでなく無数の要素があって成立したものだ。助勢もあり妨害もあった。予測外があって馬鹿がいた。 守銭奴がいてオタクがいて外道がいて貧乳がいて巨乳がいて異族がいて、人に溢れている。 正純もそんな集団の一人だった。 切り離された孤軍の今になって痛烈にそれを感じた。 ここは武蔵の上ではない。神州の何処の国でもない。 知識の不足。情報の不足。正純の主張を裁定者に通すには裏付けが足りない。 現状、どれだけ訴えてもルーラーが考えを改めるビジョンが浮かばないでいた。 情けない話だ。泣き毎など言えないし言う気もないが……堪えるものはある。 沈黙が続いている。 矛は通じず、盾は砕けず。 いつまでも黙ってるわけにはいかない。黙秘は肯定と受け取られ、そうでなくとも何も言わなければ悪い印象を与えてしまう。 向こうは結論を急かせているがそれに付き合う必要はない。聞くべき質問はまだある。そう口を開こうとして――― 「これは異な事を。敵を前にして見逃すとは、それで裁定者を名乗るとは片腹痛い」 ● 男の高い声が周囲に響いた。 その一声で一帯の空気を支配せんとするほどの存在感。 極めて濃度が高い、まるで劇薬のような気質を引き連れて言葉が放たれた。 女の正純でもルーラーでもアーチャーでもなく。二人の男のうち一人のシャアのものでもない。 声の主は――― 「我々は貴女の敵だ。そうだろう?お嬢さん(フロイライン)」 ……ライダー!? 正純が振り向く。 サーヴァントライダー・少佐。ルーラーとのやりとりをシャアと共に俯瞰していた自身のサーヴァント。 交渉の役回りを正純に一任していたはずのライダーはすぐ近くまで来ていた。 ゆっくりとした足取りで、戦争を望む反英雄は手を広げながら語りかける。 まるでルーラーを迎え入れるように。 がら空きの胸の心中に突き入れられるのを望むかのように。 「敵はここだ。ここにいる。縄でふん縛り枷に嵌め、ギロチンを落とし首を衆目に晒すべき裏切り者がここにいる。  聖杯の導きに従わない逆徒がここにいるぞ?裁かなくていいのかね?」 寒いものが背筋に走る。 明らかな挑発だ。言葉を続けようとするライダーを正純は手で制しようとする。 だがそんな正純が目にも耳にも入ってないのか、ライダーはなおも歩みを止めようとしない。 底知れぬ、だが隠そうともしない喜悦の念を張り付けた表情。 無理に止める事を許さないだけの意思が、通り過ぎる際に見えた横顔にはあったのだ。 正純にとってのサーヴァントとは、目的を同じとする同盟相手であるが、同時に油断ならない相手だ。 一切合切破滅に向かって突き進む戦争を至上とするライダーがひとまず付き従っているのは、ひとえに打倒聖杯という最終目標が重なるが故だ。 そこに"ずれ"が生まれれば……先の道は破綻する。 だがまさかここにきてこんな暴走を始めるとは思わなかった。 何か、失敗をしてしまったのか? 見限られてしまうほどの失策はまだしていないはずだ。 先のアーカード達との交渉?あれはライダー直々にとりなしがされフォローに回っていた。 今のルーラーとの交渉?今一つ踏み切れてなかったのは確かだが攻め手はまだ手元にあった。それを中断させたのはライダーだ。 いずれにせよ、今の状況は不味い。 契約上とはいえ従僕を御し切れないとなれば、ルーラーは勿論のこと同盟を組んでいるシャア達にも示しがつかなくなる。 己のサーヴァントに振り回されているマスターの発言に信用性など持てはしないのだから。 とうとうライダーは正純を越し、ルーラーと正面に対峙する。 空気は完全に入れ替わっていた。火花を散らし炎の渦が舞う闘争の空気に。 「挑発は無意味ですライダー。私はあなたの敵ではありませんし、貴方の望む戦争を再現させるつもりもまたありません」 「なるほど。私の真名を知るか。それもルーラーの特権とやらか。  ではなんとする。我々の同盟相手に私の名を売るか。私の生前にやった所業を教えるかね?」 「いいえ。私情で参加者の情報を流すのも令呪を使う事も致しません。あるとすれば違反を犯した罰則としての公開になるでしょう」 「だがルーラーの責務に従うのであらば我々の自由を許す理由はあるまい。  運営の抑止?そうさせたくば串刺しの列でも揃えたまえよ。神と聖杯の名を以て貴女方の正気を保証したまえよ」 否定はすぐに、はっきりと返ってきた。 「それは違います。方舟内で起こる聖杯戦争の裁定については我々ルーラーに一任されています。  討つべきではないと判断したのはあくまでも私のもの。不備があれば受け入れますが、その叱責はあくまで私が受けるもの。  それ以外にも咎が及ぶような発言はおやめなさい」 「ほうそうか!神の声でなく殺すのは己の意思と、聖女でありながら自らの意思でその手を血塗れにするというのだね?」 槍で肺腑を刺してくるような攻撃的な口調でライダーは言う。 さながら異端審問だな、と正純は思った。 しかし……言い方は過激だがそれは自分の番であった時の続きに言おうとしていたことだ。 図らずもライダーは正純の主張を引き継いでいる。……いや、これは図られてというべきなのか。 だがそれでも、その台詞は自分が言うべきだったことだ。 見ようによっては、代表が言うべき台詞を従者に言わせ非難の矛先を変えようとしている……そう捉えられてしまう。 そして、その審問を骨身に染みるまで受けているジャンヌは清廉な声で答えた。 「―――無論です。生前(むかし)も死後(いま)も、私は変わらずそうしてきた」 告解。 「主の嘆き(こえ)を聞き、救われぬ者の声を聞き、それでも私は私の意思で選び戦場へ出た。  味方を鼓舞することで命を救い、敵を畏怖させることで命を奪った。  たとえ手に剣を持たなくともその時点で血に塗れたも同然です。いえ、直接手を下さなかった分、あるいはより罪深いかもしれません」 懺悔。 「私が相手をしたのは竜でも悪魔でもなく、譲れぬ何かを持ち立場が違うだけの同じ人間でした。  それを死なせたことが聖女の振る舞いではないというなら、その通りでしょう。私自身そう思っています」 ……どれとも違う、毅然とした声が通る。 「私は、聖女ではありません」 今、彼女はそう言ったのか。 当時の百年戦争で彼女を仰ぎ慕った兵士や王への裏切りにも等しい吐露を。 ……あぁ。 解けた。 胸の奥に溜まっていた絡みがほつれていく。 バラバラのまま集まっていたパズルのピースが段々と組み上がっていく。 正純の出来る範囲で最も望ましい結果を引き摺り出すための答えが見えてきた時。 ライダーは、 「――――――あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」 大爆笑だった。 ● 「そうか、そうかそうか!これが乙女(ラ・ピュセル)か!これがジャンヌ・ダルクか!素晴らしい!  哀れで狂った田舎娘!神の声を聞いたなどと茹だった妄想に憑りつかれ、国を煽動し戦場をかき回し!  これ以上戦争は要らぬと味方に捨てられ、牢獄で兵士に犯され犬に輪姦(まわ)され!  最期は股を広げられて業火に焼かれ、「神様、神様」と哀れに泣き叫びながら骨肉も残さず灰となった!  後に残るのは己を捨てた世への恨みと人への呪いばかりの"廃棄物"かと思えば、中々どうして!」 それ褒めているのか、罵っているのかどっちなんだ。 配慮もなにもあったものじゃない。ライダーは笑い混じりの称賛兼誹謗中傷を続けていく。 「戦争処女(アマチュア)などと心の中で思って悪かった。二度と思うまい!  万人が認め、しかし貴女一人だけは認めなかった聖女ならざる少女よ。ああ確かに貴女は戦争の本質を捉えている。  "わたし/こっち と あなた/あっち は違う"―――主義も思想も届かない遥か彼岸にある、殺し殺される闘争の根幹を心得ている」 ひとしきり笑い上げた後、ライダーはピタリと笑うのを止めルーラーと再び正面に向き合った。 唇の両端は釣り上がり、瞳は濁った輝きを放つままであるが。 ……突然割り込んできたのは。決してこちらを擁護してくれる腹積もりというわけではないだろう、と疑っていたが。 ひょっとしてこれ、テンション抑えきれなかっただけか!? 凄いノリノリじゃないかこの少佐! 「……そこまでだライダー」 白手袋をはめた手をライダーの前に出す。 波がいったん引いた今、いい加減釘を刺しておくべきだ。 「今は私とルーラーの交渉中だ。それ以上の言葉は控えてもらおう」 「おっとこれは失敬。いやお嬢さんがあまりに愛しかったものでね。  やばいと思ったのだがつい抑えきれなかった」 クラスの気になる女子にちょっかいかける男子か!? 「では席を返そうマインマスター。君の舞台へ戻りたまえ」 今までの熱が嘘のように、ライダーはあっさりと引き下がった。 やっぱり本人が愉しみたくてやったのか……。 ……しかし、なんだな。 こんな流れになって思い出したものがある。 前にも、こういうことがあった。 一日と少ししか離れてないのに、久しく吸っていなかったように錯覚してしまう空気を思い出す。 戦争"馬鹿"に振り回されるのを懐かしいと感じてしまうのは、我ながら染まってしまったなぁと思う。 そして、それを存外悪いものじゃないと受け止めている辺りが更に困ったものだ。 「私の従者が失礼な真似ををした。話を続けたいのだろうが、いいだろうか」 「……ええ、どうぞ」 仕切り直しだ。改めてルーラーを見据える。 気分がいいわけはないだろうが罪状に加算されるという事はなさそうだ。そこだけは幸運だ。 「しかし我々もいつまでもここで引き留められるわけにはいきません。  貴方たちの思いに関せず、依然聖杯戦争は続いている。参加者同士の戦いは起き、起ころうとしています」 起ころうとしている戦い……あれか。 じき始まるであろう戦いを正純は知っている。 数分前にここを去ったアーカードとアンデルセンの二組。 互いを認めない衝突、どちらかが倒れるまで終わらない相対はかなりの規模になる可能性がある。 時間がかけられないというのは本当だろう。 そして、 ……なるべく早く、この会談を切り上げたい、か? 「答えるべきことには答えました。そちらにも明瞭な答えを要求します。  これ以上伸ばすようであれば、それこそ運営の妨げと見做さざるを得ません」 「jud.では告げよう」 即答する。 ルーラーは予想外だとでもいうように目を細める。 しかしこれは決まりきった事だ。最初から変わりない、言うと定めていた事を言うだけのこと。 迷いは少しだけだった。 行き先を決めて上げた足を、どこに下ろすか。どの程度の距離で一歩を踏むか。僅かな間の逡巡。 それももう―――済んでいる。 「答えは変わらない。我々は―――今の聖杯戦争を許容しない」 「そうですか。では―――」 「しかし―――」 手をかざしたルーラーの言葉が終わるより早いかのタイミングで、被せるよう切り出した。 「それを以て聖杯に被害をもたらす行動は一切しない。  私は方舟に集うマスターとして、聖杯に相応しい担い手を選定することには協力を惜しまない」 そして、 「戦闘行為を挟まずに担い手を決定する方法を聖杯に認めさせる。  一方的な喪失を被る者なく、全てのマスターとサーヴァント、方舟にすらも共有できる利益を生む。それが我々の変わらない方針だ。  その為の行動の指針としてまず……方舟より救い出さなければいけない人物がいる」 「……何者ですか?全員にとって利益となれる、救われるべき人物がこの方舟内にいると?」 ルーラーの問いかけに、正純は手を水平に挙げた。 まっすぐに突き出し、白手袋をした指を一本伸ばす。 その直線上にいる――― 「あなただ、ジャンヌ・ダルク。  ルーラーのサーヴァント。聖杯戦争の調律者。私はあなたを救いたい」 一人の少女を、指さした。 「あなたこそが最も聖杯に隷属を強いられている者だ。我等の方針に基づき解放しなくてはならない存在だ」 聖杯との戦争を臨むことをとしている。だがそれをルーラーにまで適用させたくはない。 特権諸々の能力面でいってもそうだ。他人のサーヴァントに令呪を使えるサーヴァントなどできれば相手にしたくない。 しかしそれ以上に考えるのだ。会話の中で見えた彼女の芯から判断したのだ。 ルーラー(かのじょ)は敵ではない―――。 聖杯とサーヴァント・ルーラーは不可分の関係ではない。 機密事項を教えられてないのがその証拠だ。方舟はかなりの割合でルーラーに裁量を任せている。 対立すべきは聖杯であって、彼女ではない。 だから正純はそこから始める。 聖杯とルーラーを切り離し、そして分かたれたルーラーすらも―――味方につける。 「ルーラーという役職がこの戦争を歪ませているものの一端だ。  そこには当て嵌められた英雄を貶める陥穽を孕んでいる」 裁定者という器(クラス)。 違反行動を見咎め、戦わない者に睨みを利かせる。 それはいうなれば全てのマスターとサーヴァントから疎まれる存在だ。 「戦う意思のない、ただ巻き込まれただけの無辜の人にすら殺し合いを強制させなければならない。  何故ならばあなたは"裁定者"だからだ。公平性を以て審判に臨まなければならないが故に救える命を見捨てるしかない。  戒律に反し人を殺める罪に耐え、世界に身命を捧げながらも悲劇に終わった少女になおも罪を担がせようとしている!」 「本多・正純……それは誤りです。  私はあの最期を悲劇とは思っていません。あれは罪を重ねた者が正しい罰によって消えた。ただそれだけの話です」 「罰を言うならば生前の処刑でとうに済んでいる!  ここでまた殺し合いを煽動する立場に立つという事は、あの罰を再びあなたに与えるということだ!」 思い出す記憶がある。 これと似た出来事を自分はよく知っている。 国の消滅という誰も予測できなかった事故の責任を、君主の嫡子という理由だけで取らされようとした少女だ。 全ての感情を兵器の材料に剥奪され、親子の関係を知らず事故と何も関係も無かったにも関わらず、自害させられるところだった少女を知っている。 彼女がここにいればなんと言っただろうか。彼女の傍にいることを望んだあの馬鹿はどうしただろうか。 それに応じ、否定した時と同じ言葉を、正純は吐いた。 「これは罪を清めた者に新たな罪を被せ、責め苦を負わせる悪魔のシステムだ!」 ● 「私はこの戦争による喪失を望まない。  一部の勝者の潤いの為に枯らされる多数の敗者を認めない。  そこには当然ジャンヌ・ダルク、あなたも含まれている」 指さしていた腕の掌を開く。 呼応するようにルーラーの結わえた金紗の長髪が風にたなびく。 「私は聖杯を手にする資格を所有するサーヴァントの外にある存在です。  あなたの論に照らすところの、悪魔の法の執行者を救い……何の利益があるというのです?」 裁定者を味方につけるメリットなど言うまでもない。 この場合はそうした意味ではないのだろう。 監督役でないただの小娘……ただのジャンヌ・ダルクを救う行為が他の参加者にどういった影響を及ぼすのかということだ。 答えは、果たしてあった。 「再契約」 「―――?」 マスターに装填されていた知識。それに間違いはないとルーラーは言った。 ならばその知識を利用させてもらう。目的に近づけるためにはあらゆる要素を用いる。 「マスターは最初に契約したサーヴァントだけでなく、マスターを失いあぶれた"はぐれサーヴァント"と再契約する事ができる。そうだな?」 「ええ。ですが通常のマスターでは二体のサーヴァントを同時に使役するだけの魔力は賄えません。  ですのでその場合必然的に、マスターもサーヴァントを失っている互いに欠けている状態が主なケースとなります。  それが一体―――」 「ならば裁定者としての特権を除けばあなたも"マスターを持たぬ一体のサーヴァント"だ。  マスターを得れば、あなたも聖杯に選ばれる"つがい"になれる権利があるという事になるのではないか?」 ルーラーの顔が一瞬で引き攣った。 口を開けて「何を、」と言おうとしたのか声にならず、ややあって意味するところを理解し代わりに、 「聖杯戦争から、裁定者という地位そのものを排除しようというのですか……!」 「それでこの戦争が正しく調律されるのならば、そうしよう」 初めての狼狽した声を上げた。 無理からぬ事だろう。言った正純もかなり荒唐無稽を言っているのは理解してる。 誰も全容を知らない方舟のシステムに干渉するというのだ。 しかし……本題は可能か不可能かの確認であって実行するかは別の話だ。 聖杯にはルーラーも知らされていない未知の真実が隠されている。まずはそこに探りを入れなければ始まらない。 「私は、裁定者の存在理由は聖杯戦争の運営だけではないと考えている。  そうでなければこの立場はあまりに不明瞭すぎる。覆い隠されている聖杯の真実、そこを明らかにしない限り裁定者に信を置くことはできない。  そしてそれは、そこに籍を置くジャンヌ・ダルクを不当に貶める結果にも繋がる」 ルーラーという存在への疑念。 ジャンヌ自身は方舟に何も知らされていない。なのに全責任を負わせられている。 普通ならこれだけでも解放の名分は立つくらいだ。 「ルーラーと方舟のシステムの解明と、ジャンヌ・ダルクの裁定者からの解放。  これは戦いを望まぬ者への強制力の排除であり、戦いを望む者へ正確な情報提供という利益になる」 隠すという行為は都合が悪いからするものなのだ。 方舟には少なくとも参加者側に知られると都合が悪くなる真実がある。 ルーラーとの接触を通じてその秘密を解き明かし、干渉が可能となれば、聖杯戦争そのものの"解釈"の可能性も認めさせる事ができる。 「その時にこそ、方舟からの直接介入が発生するだろう。  そこで私は方舟と交渉し、聖杯戦争の形を改めるよう訴えを起こす」 ルーラーが手から離れたとなればいよいよ方舟も静観を決め込んではいられない。 今までこちら側では手が届かなかった方舟に、自分から近づいてもらう。 ルーラーを救う行為が、方舟を交渉の場に引きずり下ろす結果に繋がるのだ。 「これが私の選んだ聖杯への"解釈"だ。 方舟に集う誰もが、その手に望むものを収められる手段だ。  この歪んだ戦争の正しき形式を取り戻し、裁定者の器に押し込められた聖女の尊厳を取り戻し、方舟に握られた願いを取り戻す。  あくまでそれを認めず阻むというならば―――」 「救う為の戦い、取り戻す為の戦争を、私は聖杯に仕掛けよう」 聖杯を肯定しながらも聖杯戦争を否定する。 ジャンヌ・ダルクを肯定しながらも裁定者を否定する。 正しきを認めながらも間違いを糾す。 「ルーラーとしての役割から解放された暁には、改めて協力をお願いしたい」 それが、正純の決断だった。 「……秘匿すべき情報ではないので言いますが、ルーラーとして召喚されるための条件のひとつには、現世に何の願いも持たないことが挙げられます。  私には、聖杯を望む理由がありません」 「願いがないのは私も同じ。私のように託す願いを持たぬ者がマスターに選ばれ、あなたに資格がないのはおかしいのではないか?」 それに、と付け足す。 「あなたには我々以上に方舟に選ばれる価値がある。  あの最期を経て何の未練も後悔も持たない。あなたがどう思おうと、それは万人が認める聖女の資質に他ならないのだから。  こう言うのは何だが……少なくとも私のライダーより、あなたの方がよほど方舟の座に着く資格があると思う」 後ろのライダーの笑みが深くなるのを正純は知覚した。 ● 「―――以上が我々の主張だ。貴重な時間を割いてくれて感謝する」 熱が引いていく。 討論の会場は一般の人々が暮らす住宅街に。 闘争の空気は冷めていき、元ある夜気に立ち戻っていく。 「それでは我々もこれで失礼しよう。次の相対までに互いの理解が進んでいるのを期待する」 正純は一歩を引いた。 今出すべきものは出し切った。ここからは発言した内容の実証と補填に向かい行動することになる。 そしてそれは即時見せられるものではない。 翻せば、その瞬間が来るまで正純達は善でも悪でもないのだ。 「……そうはいきません」 止める声があった。 ルーラーだ。 こちらを見据える瞳に揺らぎはなく、人格が揺るがされることはなく聖女としての姿のままでいる。 ……いや、別に人格攻撃を行った憶えは一切ないが。 ……ないよな? 気になってライダーに目線をやるが平時の笑顔で応えられた。 くそ、本当に楽しそうだな……! 「先の話題についてならば止められる理由は今の私達にはない。  結果が明らかになるまで、我々は己の信ずるべき者の為聖杯に向かう、ただのマスターでしかない」 「堂々と聖杯戦争を否定すると言われて見逃すわけにはいきません。  そちらの言い分がどうあれ、今の私は聖杯戦争の裁定を司るルーラーでしかありません」 引き下がる様子はない。 そう……未来の結果がどうであろうと今のルーラーは敵対する者だ。 たとえ正純の計画が全て成功したとしても、それは無数の艱難辛苦を踏破した先に待つ頂。 そして、その一つとして真っ先に立ち塞がるのが他ならぬこのジャンヌ・ダルクなのだ。 「聖杯戦争を間違いとあなたは言う。その意志を私には否定できません。  けれど―――肯定する事もまた、できません。  あなたがあなたの正しさを信じるように、私も私の信じるものの為に殉じるのです」 ふ、と。 一息をつく間にルーラーの表情に変化があった。 それは今までの会合では一度として見た事のないものを見せた。 勝者が見せる余裕の表情ではない。 敗者が浮かべる自嘲の顔とも異なる。 「それに、あなたの主張が正しいと仮に証明されたとしたなら―――  そこには聖杯に味方する者、弁護に回る側も必要だと、そうも思うのです」 それは怒りも悲しみも置いてきた者だけが見せる、使命に殉ずる聖人の笑みだ。 ……そういうところが、彼女が選ばれた理由かもしれないな。 何があっても決して聖杯を裏切らない。脅迫でも洗脳でもなく自発的にそう動く。 確かに方舟にとって重要な条件だ。 「……交わらない、か」 「はい。平行線、ですね」 「いや、まだ我々は互いに譲歩できる位置にいると思う」 言いながらさらに一歩引く。 我意を通したくばまずはここを超えて見せよ―――そう言っているように立っているルーラーから。 どう越えるか。武力で押し通る選択肢は除外。だったらすることは一つしかない。 「だから私は最後にこう言おう―――」 風が流れるようにごく自然な動作で左手を前に出し、 ルーラーが反応し体に力を籠め、 「聖杯戦争の裁定者よ―――最低でも、先の私の言葉は胸に留めておいて欲しい」 懐から抜け出た走狗(ツキノワ)が腕を滑り、右の手袋を口で掴んで剥ぎ取った。 赤光が走る。 手の甲に刻まれた聖痕に力を込める。 令呪の起動には口頭による指令が必要であり走狗(マウス)による補助は使えない。 一息で言い終える短さと端的に伝わる明瞭さの同期が必要だ。 ルーラーが動く。察知が早い。復帰も早い。 手に『旗』が握られる。令呪ではない。前に構え防御の姿勢を取る。 その判断が分かれ道となった事に気付かず、正純は一画に意識を集中して叫んだ。 『ライダーよ、宝具によって我々と迅速にこの場を離脱せよ!』 伝令が飛ぶ。      認識した、我が主 「―――Jawohl,mein meister」 体が廻る。 限界量をゆうに超えた排気を燃料とし、本来あり得ない現象が実体化される。 宝具とは英霊を象徴するもの。であればこれもまた"彼ら"を象徴するひとつに違いない。 これなるは在りし過去の"再現"。 神代において遥かな過去にあり、されど聖譜において時代の最先端を征くもの。 一千人吸血鬼の戦闘団(カンプグルツベ)。不死身の人でなしの軍隊。最後の敗残兵。 名を、デクス・イクス・マクーヌ。 少佐の最終宝具『最後の大隊(ミレニアム)』―――その一欠片の飛行船の旗艦だ。 「令呪一画の喪失を以て、裁定者へ働いた無礼への賠償としたい」 風を切る船が起こす轟音の最中で、正純の声はルーラーの耳朶を叩いた。 ● 突如として目前で実体化した巨大物体にもルーラーは怯む事はなかった。 手に持つ聖旗を前面に立て爆発した気流をいなす。 どれだけ巨大でもあくまでこれは人造の吸血鬼による近代武装。 風に魔力が染みついたわけでもなく、まして規格外の対魔力を持つルーラーに痛打になるはずもない。 「く……!」 しかしこの場合、位置が悪すぎた。 飛行船は正純達を乗せながらもルーラーを含まないギリギリの境界線上で実体化したのだ。 上昇気流によって生まれる突風を至近距離でぶつかる羽目になり、華奢なその身が地面から浮き上がる。 一端離れてしまえば後は流されるままだ。飛ばされたルーラーは正純達から大きく後退させられる。 中空で姿勢を制御し危なげなく着地する頃には、飛行船は高度を上げ移動していた。 正純も、もう一人のマスター、シャア・アズナブルの主従の姿も見えない。 もとより魔力によって生まれた宝具。物理的な制約には縛られない。 そのまま高層ビルが立ち並ぶ地帯に入り込んだところで、急速に実体を解れさせ、やがて夜の黒に溶け込むように消えてしまった。 "転移"の令呪でサーヴァントだけを遠距離へ飛ばしてもマスターが残る。 ならば魔力の充填にかかるタイムラグを令呪で限りなくゼロに抑え、使用した宝具で全員纏めて飛び去る。 あの少佐が此度で騎兵(ライダー)のクラスで呼ばれていたことを失念していた。 真名看破のスキルも万能ではない。召喚された英霊がいつの時期の年齢で再現されるか、どのようなスキルと宝具を持っているかはクラスによっても変動する。 あのライダーが何か仕掛けてくるならそれは全て殺戮に帰結する―――そんな先入観がルーラーに防御を取らせ、選択を誤らせた。その隙をマスターは見逃さなかった。 少佐の"戦争狂の反英雄"という特性を、ルーラーは重視し過ぎてしまっていたのだ。 サーヴァントもさることながらマスターも少佐の性質を心得た差配を下していた。 吸血鬼の一個大隊を率いた少佐はその実何ら超抜的な異能を持たず、ただの人間にも後れを取りかねない能力値しか備えていない。 その性格も含めて、扱いが極めて難しいサーヴァントだろうに……彼女は上手く使いこなしていた。 すぐさま令呪を使って引き戻そうとする―――が思いとどまる。 令呪は一画失われたがまだ向こうにはまだ二画ある。そして今更令呪の使用を躊躇う事もないだろう。 ここでライダーに令呪を用いても無駄打ちに終わる。全令呪を没収という形と見れば無駄ではないかもしれないが流石に短慮だろう。 あの二人は確実にまた何かをやる。ルーラーの想像もしない聖杯戦争そのものをひっくり返すだけの大それた行動を起こす。 こちらの令呪を使用しては以後の強制力が落ちてしまう。温存しておいたほうがまだ牽制になる。 加えて、あの艦娘のアーチャーもいる。同一の命令ならともかく複数のサーヴァントに令呪を使用していくのは妨害も考えると手間だ。 「……いえ、それも言い訳ですか」 正純を逃がさぬと膠着した場面。 あえて令呪を自発的に消費する事で賠償とし、故に追う必要はないと裁定者に理由を与えた。 穿ち過ぎだろうか。しかし彼女ならば……そうした逃げ道も用意しているかもしれないのが恐ろしいところだ。 「……またカレンに小言を言われそうですね」 それでは済まないかもしれないが。 そんな風に呑気に考えている自分も大概かもしれない。 本多・正純の残した、聖杯戦争に訴える数々の言葉。 彼女の立場にとっては、どれも正当な意見であり反抗なのだろう。 戦いで自陣の正しさを主張するのは当然のもの。ジャンヌが生きた時代でも変わりはしない。 ……彼女の恐ろしいと感じるところは、正統性を主張しながらもこちらに差し伸べる手を持つ事だ。 後世ではついに訪れなかったと伝えられる、聖女への救済。 個人として救おうとした者はいただろう。最も自分を信頼してくれたあの元帥のように。 しかし全体……国家としては見捨てる結果にならざるを得なかった。ジャンヌ自身はそれを恨んでないし、理解もしているが。 ジャンヌは処刑された事を一切後悔していない。むしろあれは正しい清算であったとすら感じる。 だから彼女の言った台詞は見当違いもいいところだ。 それなのに、あの時手を振り払えなかったのは…… 「聖杯について調べる……ですか」 違える気は毛頭ない。 ルーラーとして選ばれた以上ジャンヌは裁定者の務めを全うする。これは確定事項だ。 しかしルーラーが召喚された意味……それについて思考を巡らせる事は規範を超えず、無意味ではない。 28騎もの英霊が個別に争う聖杯戦争。 地上で起きたとされる数多の聖杯戦争でもこれほどの規模はないだろう。 ならばルーラーが呼ばれるは必然。そう思っていたが…… 正純から浴びせられた言葉で"もう一つの役割の可能性"を思い巡らせるに至った。 即ち――― 「……流石に、詮索が過ぎますか」 杞憂であるのが一番の結果だ。何より自分には真っ先に優先すべき役割がある。 この地域に参じたそもそもの理由。大学近辺で起きた住民の突然の暴動。 兆候から見て。これは明らかに嘲笑のアサシン、ベルク・カッツェの仕業だ。 NPCへの干渉を禁じられた彼がこのような行動に出れた理由は、マスターによる令呪の消去だろう。 カッツェのマスターへの令呪剥奪のペナルティは他の事態が立て込み後回しにされていた。 己のサーヴァントが諫言を受けたとなれば大人しくなるかと思えば、どうやらあの根っからの扇動者には火に油を注ぐ真似だったらしい。 正純への処遇は未だ境界線上だが、こちらは考えるまでもなく黒だ。 だがマスター共々裁定を下す為現場に赴く途中で、ルーラーの特権の一つに奇妙な反応が見られたのだ。 サーヴァント・パラメーターの書き換え。健常な状態から消滅寸前へ。 最初は戦闘で決着がつき一方のサーヴァントが敗れたのだと思った。現場にはカッツェの反応以外にもサーヴァントが集まっている。 しかし暫く経っても減衰した反応は消えないままでいる。 サーヴァントの位置を示す聖水による地図を広げると、やはり反応が一騎、極めて微弱な反応でいる。 死亡したならばそのまま反応が完全に消滅する。ならば瀕死の状態かと思えば、反応は今も移動しておりかなりの距離を渡っている。 ここまで弱った状態で、果たしてここまで行動ができるものか……? それにもう一つ奇妙な点が、その反応がもう一騎とサーヴァントと重複している事だ。 隣り合ってるだけではない。より詳細が分かるよう地図を拡大すれば、座標が完全に一致しているのが分かる。同期と言ってもいい。 サーヴァント同士の戦闘で、何か通常ではない自体が発生した可能性がある。 場が沈静している事からして倒されたのはカッツェだろう。 彼を倒したサーヴァントが何らかの手段で瀕死のまま取り込み、そのまま引き連れている。 状況の把握の為にもこの相手には会いに行かねばならない。 二重の反応は移動を止めず新都側へと進んでいる。このまま進めば――― 「森―――ですね」 見れば、南東の森にも一騎サーヴァントがいる。 同盟相手との合流なのか。それとも……新たな戦いに赴いてるのか。 「まぁ、街から離れているのは良い事ですが」 蟠る煩悶も答えの見えぬ思考も今は全て捨て、ルーラーは霊体化し森へ向けて駆け出した。 【C-6/錯刃大学・近辺/二日目/未明】 【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】 [状態]:健康 [装備]:聖旗 [道具]:??? [思考・状況] 基本:聖杯戦争の恙ない進行。  0.南東の森に向かい、アサシン(カッツェ)の状況を把握、然る後処罰を下す。  1.???  2.その他タスクも並行してこなしていく。  3.聖杯を知る―――ですか。 [備考] ※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。 ※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。 ※カッツェに対するペナルティとして令呪の剥奪を決定しました。後に何らかの形でれんげに対して執行します。 ※バーンに対するペナルティとして令呪を使いました。足立へのペナルティは一旦保留という扱いにしています。 ※令呪使用→エリザベート(一画)・デッドプール(一画)・ニンジャスレイヤー(一画)・カッツェ(一画) ※カッツェはアーカードに食われているが厳密には脱落していない扱いです。  サーヴァントとしての反応はアーカードと重複しています。 |BACK||NEXT| |157-a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|157-c[[末‐apocalypsis‐世]]| |157-a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|157-c[[末‐apocalypsis‐世]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |157-a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[シャア・アズナブル]]&アーチャー([[雷]])|157-c:[[末‐apocalypsis‐世]]| |~|[[本多・正純]]&ライダー([[少佐]])|~| |~|[[ジャンヌ・ダルク]]|| ----
*聖‐testament‐譜 ◆HOMU.DM5Ns それはこの世全ての悪に立ち向かう誰かに似て それは堕ちる星に立ち向かう誰かに似て 配点(我が神はここにありて)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ● 元々、過去の歴史におけるジャンヌ・ダルクの人物像には多数の解釈がある。 神の声は栄養失調からくる精神病の幻覚。 全ては演技である鬼算の策謀家。 人でなき神が遣わした異存在である天使。 真実の姿は居合わせた当事者にしかわからない。いや、本人以外誰も理解できなかったのかもしれない。できなかったからこその裏切りだ。 歴史再現でも都合により男の名を女性が襲名しているように、案外語られている実像とは違っているのかもしれない。 神がかったとしか思えない言動と行動によってフランスのシンボルとして立ち、旗を持つ彼女に鼓舞された兵士は破竹の勢いで敵の砦を攻略。 瞬く間に本願であるフランス王の戴冠を成し遂げ、名実ともに救世主となったひとりの少女の業績は、永い人類史においても一際目を引く。 実質国に見捨てられたに等しい捕縛、聖女憎しと徹底して尊厳も奇跡も奪いにかかる異端審問。死体を残さず火に焼き灰に帰す、旧派で最も重い処刑法。 悲劇……与えられた報酬がそんな最期だった聖女は一層民衆の人気を博した。 数ある解釈でも、このジャンヌは一般的に伝わる実像のようだ。 聖女と聞いて浮かぶ幾つかのワード。清廉にして潔白、慈悲深く身命に喜んで殉ずる高潔さ。そうしたイメージに違わない。 それにしても、だ。 ……ここまで頑固な性根だとは思わなかった……! 信仰によって作られる精神は強固だ。宗教という巨大な集団と己とを一体化させられるからだ。 一個人では形成できない後ろ盾が背中を押し自信を与える。神という超次元の意思との歓喜が人を進ませる。 ジャンヌを支えているのは別のものだ。 ひとつ確信する。この人は、最期まで聖女であったのだと。 誰も憎まず、何も恨まず。人を、国を、神を、世界を愛す。 あらゆる場所と時代と常に共に在った、凡庸で、どこにでもありふれた感情。 ただその頑健さだけが尋常ではなかった。不偏の理想はどこまでも尊くそして脆い。 誰もが掲げても続けられないそれを、死に終わるまで貫き通してしまった。 まさに人間城塞だ。如何なる剣でも砲でも折れ砕けまい。戦艦か何かと思わずにはいられない。 それでも……正純の掲げる方針にとって、彼女こそが最大の障壁だ。 聖杯に立ち向かう姿勢を崩さない限り、今を凌いでもまた必ず立ち塞がる。 どういう形になるにしても退けなければならない。 「こちら側の結論ですが……現時点であなた方が決定的な違反行為を犯したわけではありません。  よってここでは警告のみとします」 視線が正純を射抜く。鋭くはないがこちらの底を見透かすように深く。 「ルーラーの本分は運営であり抑止力。どのような行動、どのような方針で聖杯戦争に臨むかは各々の自由となります。  戦いを拒むのも、否定するのも縛りはしません。その意味で言えば貴方たちを縛る権利もない。  ですが運営を妨げ、この方舟に亀裂を刻もうというのならば」 空の右手を前に出すと、籠手の内側から淡い光が紋様を描いて顕れた。 「我々も動き、然るべき制裁を加えます」 ……あれは、令呪か! 光の意味を正純は理解する。 マスターがマスターたる資格である三画の聖痕。正純の右手の甲にもある令呪をルーラーも保有していたのか。 目に見える数からして……総数は全サーヴァントに対して複数使用できるだけはあるだろう。 ここにきて秘匿していた隠し札を見せに来ている意図。 それは即ち最後通牒だ。 極論、この場で即刻ライダーとアーチャーを自害させることも可能ということ。首に繋がった命綱を見せられた。 手持ちの令呪を使えば自害は阻止できるのか。だがたとえそうでも令呪の無駄打ちは備蓄のない自陣にとっては大打撃だ。 令呪をちらつかせて浮足立ったところでの宣言。効果的だ。 相手は答えを待っている。展開された話し合いの結果をこちらは告げた、そちらの決算を見せろと待ち構えている。 折れればそれでよし。裁定者は聖杯戦争に従い他主従の排除に動く者達に干渉しない。 そして、正純は未だその意思を一度として見せていない。ならば行き着く先は正面衝突しかなく――― ……どうする。 当然、現在の聖杯戦争を認める気にはなってない。依然正純は聖杯に交渉し、その改革を叫ぶ立場を変えていない。 提議すべき点は何か所かある。それを出し、聖杯に逆らう正統たる理由に解釈し突き付ける。 出来なくはないと考えている。正純がいつもやってきたように。 しかし……それではいけないとも考えている。 このままの流れで続けていけば相互の不理解として交渉が決裂する。それでは駄目なのだ。 ルーラーとの交渉の成否は聖杯改革の進展に大きく影響する。決裂とは裁定者との対立。それは正純達の敗北だ。 だから何とかしなくてはならない。のだが、 「……っ」 つい数分前での出来事が脳裏に浮かぶ。 ライダーとも因縁深いアーカードとアンデルセンとの交渉。結果はものの見事に失敗した。 あちらは既により根深い因縁で結ばれ、その清算に臨もうとしていた。 大学での騒動の中で前に出る機を常に窺っていたこちらだが、あの時は最悪のタイミングでの接触だった。 その整理と敗因の検証の間も着かぬ間に、矢継ぎ早に新たな交渉。相手はより困難で、しかもこちらの生死に直結しているときた。 かかる重圧は先の比ではない。命綱もなしに断崖絶壁の端に立たされている気分にもなる。 何度も行われてきた、武蔵の是非を問う論争。 今までも一度や二度の失敗はしてきた。あわやという場面も少なからず経験し、まがりなりにも乗り越えてきた。 それには正純だけでなく無数の要素があって成立したものだ。助勢もあり妨害もあった。予測外があって馬鹿がいた。 守銭奴がいてオタクがいて外道がいて貧乳がいて巨乳がいて異族がいて、人に溢れている。 正純もそんな集団の一人だった。 切り離された孤軍の今になって痛烈にそれを感じた。 ここは武蔵の上ではない。神州の何処の国でもない。 知識の不足。情報の不足。正純の主張を裁定者に通すには裏付けが足りない。 現状、どれだけ訴えてもルーラーが考えを改めるビジョンが浮かばないでいた。 情けない話だ。泣き毎など言えないし言う気もないが……堪えるものはある。 沈黙が続いている。 矛は通じず、盾は砕けず。 いつまでも黙ってるわけにはいかない。黙秘は肯定と受け取られ、そうでなくとも何も言わなければ悪い印象を与えてしまう。 向こうは結論を急かせているがそれに付き合う必要はない。聞くべき質問はまだある。そう口を開こうとして――― 「これは異な事を。敵を前にして見逃すとは、それで裁定者を名乗るとは片腹痛い」 ● 男の高い声が周囲に響いた。 その一声で一帯の空気を支配せんとするほどの存在感。 極めて濃度が高い、まるで劇薬のような気質を引き連れて言葉が放たれた。 女の正純でもルーラーでもアーチャーでもなく。二人の男のうち一人のシャアのものでもない。 声の主は――― 「我々は貴女の敵だ。そうだろう?お嬢さん(フロイライン)」 ……ライダー!? 正純が振り向く。 サーヴァントライダー・少佐。ルーラーとのやりとりをシャアと共に俯瞰していた自身のサーヴァント。 交渉の役回りを正純に一任していたはずのライダーはすぐ近くまで来ていた。 ゆっくりとした足取りで、戦争を望む反英雄は手を広げながら語りかける。 まるでルーラーを迎え入れるように。 がら空きの胸の心中に突き入れられるのを望むかのように。 「敵はここだ。ここにいる。縄でふん縛り枷に嵌め、ギロチンを落とし首を衆目に晒すべき裏切り者がここにいる。  聖杯の導きに従わない逆徒がここにいるぞ?裁かなくていいのかね?」 寒いものが背筋に走る。 明らかな挑発だ。言葉を続けようとするライダーを正純は手で制しようとする。 だがそんな正純が目にも耳にも入ってないのか、ライダーはなおも歩みを止めようとしない。 底知れぬ、だが隠そうともしない喜悦の念を張り付けた表情。 無理に止める事を許さないだけの意思が、通り過ぎる際に見えた横顔にはあったのだ。 正純にとってのサーヴァントとは、目的を同じとする同盟相手であるが、同時に油断ならない相手だ。 一切合切破滅に向かって突き進む戦争を至上とするライダーがひとまず付き従っているのは、ひとえに打倒聖杯という最終目標が重なるが故だ。 そこに"ずれ"が生まれれば……先の道は破綻する。 だがまさかここにきてこんな暴走を始めるとは思わなかった。 何か、失敗をしてしまったのか? 見限られてしまうほどの失策はまだしていないはずだ。 先のアーカード達との交渉?あれはライダー直々にとりなしがされフォローに回っていた。 今のルーラーとの交渉?今一つ踏み切れてなかったのは確かだが攻め手はまだ手元にあった。それを中断させたのはライダーだ。 いずれにせよ、今の状況は不味い。 契約上とはいえ従僕を御し切れないとなれば、ルーラーは勿論のこと同盟を組んでいるシャア達にも示しがつかなくなる。 己のサーヴァントに振り回されているマスターの発言に信用性など持てはしないのだから。 とうとうライダーは正純を越し、ルーラーと正面に対峙する。 空気は完全に入れ替わっていた。火花を散らし炎の渦が舞う闘争の空気に。 「挑発は無意味ですライダー。私はあなたの敵ではありませんし、貴方の望む戦争を再現させるつもりもまたありません」 「なるほど。私の真名を知るか。それもルーラーの特権とやらか。  ではなんとする。我々の同盟相手に私の名を売るか。私の生前にやった所業を教えるかね?」 「いいえ。私情で参加者の情報を流すのも令呪を使う事も致しません。あるとすれば違反を犯した罰則としての公開になるでしょう」 「だがルーラーの責務に従うのであらば我々の自由を許す理由はあるまい。  運営の抑止?そうさせたくば串刺しの列でも揃えたまえよ。神と聖杯の名を以て貴女方の正気を保証したまえよ」 否定はすぐに、はっきりと返ってきた。 「それは違います。方舟内で起こる聖杯戦争の裁定については我々ルーラーに一任されています。  討つべきではないと判断したのはあくまでも私のもの。不備があれば受け入れますが、その叱責はあくまで私が受けるもの。  それ以外にも咎が及ぶような発言はおやめなさい」 「ほうそうか!神の声でなく殺すのは己の意思と、聖女でありながら自らの意思でその手を血塗れにするというのだね?」 槍で肺腑を刺してくるような攻撃的な口調でライダーは言う。 さながら異端審問だな、と正純は思った。 しかし……言い方は過激だがそれは自分の番であった時の続きに言おうとしていたことだ。 図らずもライダーは正純の主張を引き継いでいる。……いや、これは図られてというべきなのか。 だがそれでも、その台詞は自分が言うべきだったことだ。 見ようによっては、代表が言うべき台詞を従者に言わせ非難の矛先を変えようとしている……そう捉えられてしまう。 そして、その審問を骨身に染みるまで受けているジャンヌは清廉な声で答えた。 「―――無論です。生前(むかし)も死後(いま)も、私は変わらずそうしてきた」 告解。 「主の嘆き(こえ)を聞き、救われぬ者の声を聞き、それでも私は私の意思で選び戦場へ出た。  味方を鼓舞することで命を救い、敵を畏怖させることで命を奪った。  たとえ手に剣を持たなくともその時点で血に塗れたも同然です。いえ、直接手を下さなかった分、あるいはより罪深いかもしれません」 懺悔。 「私が相手をしたのは竜でも悪魔でもなく、譲れぬ何かを持ち立場が違うだけの同じ人間でした。  それを死なせたことが聖女の振る舞いではないというなら、その通りでしょう。私自身そう思っています」 ……どれとも違う、毅然とした声が通る。 「私は、聖女ではありません」 今、彼女はそう言ったのか。 当時の百年戦争で彼女を仰ぎ慕った兵士や王への裏切りにも等しい吐露を。 ……あぁ。 解けた。 胸の奥に溜まっていた絡みがほつれていく。 バラバラのまま集まっていたパズルのピースが段々と組み上がっていく。 正純の出来る範囲で最も望ましい結果を引き摺り出すための答えが見えてきた時。 ライダーは、 「――――――あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」 大爆笑だった。 ● 「そうか、そうかそうか!これが乙女(ラ・ピュセル)か!これがジャンヌ・ダルクか!素晴らしい!  哀れで狂った田舎娘!神の声を聞いたなどと茹だった妄想に憑りつかれ、国を煽動し戦場をかき回し!  これ以上戦争は要らぬと味方に捨てられ、牢獄で兵士に犯され犬に輪姦(まわ)され!  最期は股を広げられて業火に焼かれ、「神様、神様」と哀れに泣き叫びながら骨肉も残さず灰となった!  後に残るのは己を捨てた世への恨みと人への呪いばかりの"廃棄物"かと思えば、中々どうして!」 それ褒めているのか、罵っているのかどっちなんだ。 配慮もなにもあったものじゃない。ライダーは笑い混じりの称賛兼誹謗中傷を続けていく。 「戦争処女(アマチュア)などと心の中で思って悪かった。二度と思うまい!  万人が認め、しかし貴女一人だけは認めなかった聖女ならざる少女よ。ああ確かに貴女は戦争の本質を捉えている。  "わたし/こっち と あなた/あっち は違う"―――主義も思想も届かない遥か彼岸にある、殺し殺される闘争の根幹を心得ている」 ひとしきり笑い上げた後、ライダーはピタリと笑うのを止めルーラーと再び正面に向き合った。 唇の両端は釣り上がり、瞳は濁った輝きを放つままであるが。 ……突然割り込んできたのは。決してこちらを擁護してくれる腹積もりというわけではないだろう、と疑っていたが。 ひょっとしてこれ、テンション抑えきれなかっただけか!? 凄いノリノリじゃないかこの少佐! 「……そこまでだライダー」 白手袋をはめた手をライダーの前に出す。 波がいったん引いた今、いい加減釘を刺しておくべきだ。 「今は私とルーラーの交渉中だ。それ以上の言葉は控えてもらおう」 「おっとこれは失敬。いやお嬢さんがあまりに愛しかったものでね。  やばいと思ったのだがつい抑えきれなかった」 クラスの気になる女子にちょっかいかける男子か!? 「では席を返そうマインマスター。君の舞台へ戻りたまえ」 今までの熱が嘘のように、ライダーはあっさりと引き下がった。 やっぱり本人が愉しみたくてやったのか……。 ……しかし、なんだな。 こんな流れになって思い出したものがある。 前にも、こういうことがあった。 一日と少ししか離れてないのに、久しく吸っていなかったように錯覚してしまう空気を思い出す。 戦争"馬鹿"に振り回されるのを懐かしいと感じてしまうのは、我ながら染まってしまったなぁと思う。 そして、それを存外悪いものじゃないと受け止めている辺りが更に困ったものだ。 「私の従者が失礼な真似ををした。話を続けたいのだろうが、いいだろうか」 「……ええ、どうぞ」 仕切り直しだ。改めてルーラーを見据える。 気分がいいわけはないだろうが罪状に加算されるという事はなさそうだ。そこだけは幸運だ。 「しかし我々もいつまでもここで引き留められるわけにはいきません。  貴方たちの思いに関せず、依然聖杯戦争は続いている。参加者同士の戦いは起き、起ころうとしています」 起ころうとしている戦い……あれか。 じき始まるであろう戦いを正純は知っている。 数分前にここを去ったアーカードとアンデルセンの二組。 互いを認めない衝突、どちらかが倒れるまで終わらない相対はかなりの規模になる可能性がある。 時間がかけられないというのは本当だろう。 そして、 ……なるべく早く、この会談を切り上げたい、か? 「答えるべきことには答えました。そちらにも明瞭な答えを要求します。  これ以上伸ばすようであれば、それこそ運営の妨げと見做さざるを得ません」 「jud.では告げよう」 即答する。 ルーラーは予想外だとでもいうように目を細める。 しかしこれは決まりきった事だ。最初から変わりない、言うと定めていた事を言うだけのこと。 迷いは少しだけだった。 行き先を決めて上げた足を、どこに下ろすか。どの程度の距離で一歩を踏むか。僅かな間の逡巡。 それももう―――済んでいる。 「答えは変わらない。我々は―――今の聖杯戦争を許容しない」 「そうですか。では―――」 「しかし―――」 手をかざしたルーラーの言葉が終わるより早いかのタイミングで、被せるよう切り出した。 「それを以て聖杯に被害をもたらす行動は一切しない。  私は方舟に集うマスターとして、聖杯に相応しい担い手を選定することには協力を惜しまない」 そして、 「戦闘行為を挟まずに担い手を決定する方法を聖杯に認めさせる。  一方的な喪失を被る者なく、全てのマスターとサーヴァント、方舟にすらも共有できる利益を生む。それが我々の変わらない方針だ。  その為の行動の指針としてまず……方舟より救い出さなければいけない人物がいる」 「……何者ですか?全員にとって利益となれる、救われるべき人物がこの方舟内にいると?」 ルーラーの問いかけに、正純は手を水平に挙げた。 まっすぐに突き出し、白手袋をした指を一本伸ばす。 その直線上にいる――― 「あなただ、ジャンヌ・ダルク。  ルーラーのサーヴァント。聖杯戦争の調律者。私はあなたを救いたい」 一人の少女を、指さした。 「あなたこそが最も聖杯に隷属を強いられている者だ。我等の方針に基づき解放しなくてはならない存在だ」 聖杯との戦争を臨むことをとしている。だがそれをルーラーにまで適用させたくはない。 特権諸々の能力面でいってもそうだ。他人のサーヴァントに令呪を使えるサーヴァントなどできれば相手にしたくない。 しかしそれ以上に考えるのだ。会話の中で見えた彼女の芯から判断したのだ。 ルーラー(かのじょ)は敵ではない―――。 聖杯とサーヴァント・ルーラーは不可分の関係ではない。 機密事項を教えられてないのがその証拠だ。方舟はかなりの割合でルーラーに裁量を任せている。 対立すべきは聖杯であって、彼女ではない。 だから正純はそこから始める。 聖杯とルーラーを切り離し、そして分かたれたルーラーすらも―――味方につける。 「ルーラーという役職がこの戦争を歪ませているものの一端だ。  そこには当て嵌められた英雄を貶める陥穽を孕んでいる」 裁定者という器(クラス)。 違反行動を見咎め、戦わない者に睨みを利かせる。 それはいうなれば全てのマスターとサーヴァントから疎まれる存在だ。 「戦う意思のない、ただ巻き込まれただけの無辜の人にすら殺し合いを強制させなければならない。  何故ならばあなたは"裁定者"だからだ。公平性を以て審判に臨まなければならないが故に救える命を見捨てるしかない。  戒律に反し人を殺める罪に耐え、世界に身命を捧げながらも悲劇に終わった少女になおも罪を担がせようとしている!」 「本多・正純……それは誤りです。  私はあの最期を悲劇とは思っていません。あれは罪を重ねた者が正しい罰によって消えた。ただそれだけの話です」 「罰を言うならば生前の処刑でとうに済んでいる!  ここでまた殺し合いを煽動する立場に立つという事は、あの罰を再びあなたに与えるということだ!」 思い出す記憶がある。 これと似た出来事を自分はよく知っている。 国の消滅という誰も予測できなかった事故の責任を、君主の嫡子という理由だけで取らされようとした少女だ。 全ての感情を兵器の材料に剥奪され、親子の関係を知らず事故と何も関係も無かったにも関わらず、自害させられるところだった少女を知っている。 彼女がここにいればなんと言っただろうか。彼女の傍にいることを望んだあの馬鹿はどうしただろうか。 それに応じ、否定した時と同じ言葉を、正純は吐いた。 「これは罪を清めた者に新たな罪を被せ、責め苦を負わせる悪魔のシステムだ!」 ● 「私はこの戦争による喪失を望まない。  一部の勝者の潤いの為に枯らされる多数の敗者を認めない。  そこには当然ジャンヌ・ダルク、あなたも含まれている」 指さしていた腕の掌を開く。 呼応するようにルーラーの結わえた金紗の長髪が風にたなびく。 「私は聖杯を手にする資格を所有するサーヴァントの外にある存在です。  あなたの論に照らすところの、悪魔の法の執行者を救い……何の利益があるというのです?」 裁定者を味方につけるメリットなど言うまでもない。 この場合はそうした意味ではないのだろう。 監督役でないただの小娘……ただのジャンヌ・ダルクを救う行為が他の参加者にどういった影響を及ぼすのかということだ。 答えは、果たしてあった。 「再契約」 「―――?」 マスターに装填されていた知識。それに間違いはないとルーラーは言った。 ならばその知識を利用させてもらう。目的に近づけるためにはあらゆる要素を用いる。 「マスターは最初に契約したサーヴァントだけでなく、マスターを失いあぶれた"はぐれサーヴァント"と再契約する事ができる。そうだな?」 「ええ。ですが通常のマスターでは二体のサーヴァントを同時に使役するだけの魔力は賄えません。  ですのでその場合必然的に、マスターもサーヴァントを失っている互いに欠けている状態が主なケースとなります。  それが一体―――」 「ならば裁定者としての特権を除けばあなたも"マスターを持たぬ一体のサーヴァント"だ。  マスターを得れば、あなたも聖杯に選ばれる"つがい"になれる権利があるという事になるのではないか?」 ルーラーの顔が一瞬で引き攣った。 口を開けて「何を、」と言おうとしたのか声にならず、ややあって意味するところを理解し代わりに、 「聖杯戦争から、裁定者という地位そのものを排除しようというのですか……!」 「それでこの戦争が正しく調律されるのならば、そうしよう」 初めての狼狽した声を上げた。 無理からぬ事だろう。言った正純もかなり荒唐無稽を言っているのは理解してる。 誰も全容を知らない方舟のシステムに干渉するというのだ。 しかし……本題は可能か不可能かの確認であって実行するかは別の話だ。 聖杯にはルーラーも知らされていない未知の真実が隠されている。まずはそこに探りを入れなければ始まらない。 「私は、裁定者の存在理由は聖杯戦争の運営だけではないと考えている。  そうでなければこの立場はあまりに不明瞭すぎる。覆い隠されている聖杯の真実、そこを明らかにしない限り裁定者に信を置くことはできない。  そしてそれは、そこに籍を置くジャンヌ・ダルクを不当に貶める結果にも繋がる」 ルーラーという存在への疑念。 ジャンヌ自身は方舟に何も知らされていない。なのに全責任を負わせられている。 普通ならこれだけでも解放の名分は立つくらいだ。 「ルーラーと方舟のシステムの解明と、ジャンヌ・ダルクの裁定者からの解放。  これは戦いを望まぬ者への強制力の排除であり、戦いを望む者へ正確な情報提供という利益になる」 隠すという行為は都合が悪いからするものなのだ。 方舟には少なくとも参加者側に知られると都合が悪くなる真実がある。 ルーラーとの接触を通じてその秘密を解き明かし、干渉が可能となれば、聖杯戦争そのものの"解釈"の可能性も認めさせる事ができる。 「その時にこそ、方舟からの直接介入が発生するだろう。  そこで私は方舟と交渉し、聖杯戦争の形を改めるよう訴えを起こす」 ルーラーが手から離れたとなればいよいよ方舟も静観を決め込んではいられない。 今までこちら側では手が届かなかった方舟に、自分から近づいてもらう。 ルーラーを救う行為が、方舟を交渉の場に引きずり下ろす結果に繋がるのだ。 「これが私の選んだ聖杯への"解釈"だ。 方舟に集う誰もが、その手に望むものを収められる手段だ。  この歪んだ戦争の正しき形式を取り戻し、裁定者の器に押し込められた聖女の尊厳を取り戻し、方舟に握られた願いを取り戻す。  あくまでそれを認めず阻むというならば―――」 「救う為の戦い、取り戻す為の戦争を、私は聖杯に仕掛けよう」 聖杯を肯定しながらも聖杯戦争を否定する。 ジャンヌ・ダルクを肯定しながらも裁定者を否定する。 正しきを認めながらも間違いを糾す。 「ルーラーとしての役割から解放された暁には、改めて協力をお願いしたい」 それが、正純の決断だった。 「……秘匿すべき情報ではないので言いますが、ルーラーとして召喚されるための条件のひとつには、現世に何の願いも持たないことが挙げられます。  私には、聖杯を望む理由がありません」 「願いがないのは私も同じ。私のように託す願いを持たぬ者がマスターに選ばれ、あなたに資格がないのはおかしいのではないか?」 それに、と付け足す。 「あなたには我々以上に方舟に選ばれる価値がある。  あの最期を経て何の未練も後悔も持たない。あなたがどう思おうと、それは万人が認める聖女の資質に他ならないのだから。  こう言うのは何だが……少なくとも私のライダーより、あなたの方がよほど方舟の座に着く資格があると思う」 後ろのライダーの笑みが深くなるのを正純は知覚した。 ● 「―――以上が我々の主張だ。貴重な時間を割いてくれて感謝する」 熱が引いていく。 討論の会場は一般の人々が暮らす住宅街に。 闘争の空気は冷めていき、元ある夜気に立ち戻っていく。 「それでは我々もこれで失礼しよう。次の相対までに互いの理解が進んでいるのを期待する」 正純は一歩を引いた。 今出すべきものは出し切った。ここからは発言した内容の実証と補填に向かい行動することになる。 そしてそれは即時見せられるものではない。 翻せば、その瞬間が来るまで正純達は善でも悪でもないのだ。 「……そうはいきません」 止める声があった。 ルーラーだ。 こちらを見据える瞳に揺らぎはなく、人格が揺るがされることはなく聖女としての姿のままでいる。 ……いや、別に人格攻撃を行った憶えは一切ないが。 ……ないよな? 気になってライダーに目線をやるが平時の笑顔で応えられた。 くそ、本当に楽しそうだな……! 「先の話題についてならば止められる理由は今の私達にはない。  結果が明らかになるまで、我々は己の信ずるべき者の為聖杯に向かう、ただのマスターでしかない」 「堂々と聖杯戦争を否定すると言われて見逃すわけにはいきません。  そちらの言い分がどうあれ、今の私は聖杯戦争の裁定を司るルーラーでしかありません」 引き下がる様子はない。 そう……未来の結果がどうであろうと今のルーラーは敵対する者だ。 たとえ正純の計画が全て成功したとしても、それは無数の艱難辛苦を踏破した先に待つ頂。 そして、その一つとして真っ先に立ち塞がるのが他ならぬこのジャンヌ・ダルクなのだ。 「聖杯戦争を間違いとあなたは言う。その意志を私には否定できません。  けれど―――肯定する事もまた、できません。  あなたがあなたの正しさを信じるように、私も私の信じるものの為に殉じるのです」 ふ、と。 一息をつく間にルーラーの表情に変化があった。 それは今までの会合では一度として見た事のないものを見せた。 勝者が見せる余裕の表情ではない。 敗者が浮かべる自嘲の顔とも異なる。 「それに、あなたの主張が正しいと仮に証明されたとしたなら―――  そこには聖杯に味方する者、弁護に回る側も必要だと、そうも思うのです」 それは怒りも悲しみも置いてきた者だけが見せる、使命に殉ずる聖人の笑みだ。 ……そういうところが、彼女が選ばれた理由かもしれないな。 何があっても決して聖杯を裏切らない。脅迫でも洗脳でもなく自発的にそう動く。 確かに方舟にとって重要な条件だ。 「……交わらない、か」 「はい。平行線、ですね」 「いや、まだ我々は互いに譲歩できる位置にいると思う」 言いながらさらに一歩引く。 我意を通したくばまずはここを超えて見せよ―――そう言っているように立っているルーラーから。 どう越えるか。武力で押し通る選択肢は除外。だったらすることは一つしかない。 「だから私は最後にこう言おう―――」 風が流れるようにごく自然な動作で左手を前に出し、 ルーラーが反応し体に力を籠め、 「聖杯戦争の裁定者よ―――最低でも、先の私の言葉は胸に留めておいて欲しい」 懐から抜け出た走狗(ツキノワ)が腕を滑り、右の手袋を口で掴んで剥ぎ取った。 赤光が走る。 手の甲に刻まれた聖痕に力を込める。 令呪の起動には口頭による指令が必要であり走狗(マウス)による補助は使えない。 一息で言い終える短さと端的に伝わる明瞭さの同期が必要だ。 ルーラーが動く。察知が早い。復帰も早い。 手に『旗』が握られる。令呪ではない。前に構え防御の姿勢を取る。 その判断が分かれ道となった事に気付かず、正純は一画に意識を集中して叫んだ。 『ライダーよ、宝具によって我々と迅速にこの場を離脱せよ!』 伝令が飛ぶ。      認識した、我が主 「―――Jawohl,mein meister」 体が廻る。 限界量をゆうに超えた排気を燃料とし、本来あり得ない現象が実体化される。 宝具とは英霊を象徴するもの。であればこれもまた"彼ら"を象徴するひとつに違いない。 これなるは在りし過去の"再現"。 神代において遥かな過去にあり、されど聖譜において時代の最先端を征くもの。 一千人吸血鬼の戦闘団(カンプグルツベ)。不死身の人でなしの軍隊。最後の敗残兵。 名を、デクス・イクス・マクーヌ。 少佐の最終宝具『最後の大隊(ミレニアム)』―――その一欠片の飛行船の旗艦だ。 「令呪一画の喪失を以て、裁定者へ働いた無礼への賠償としたい」 風を切る船が起こす轟音の最中で、正純の声はルーラーの耳朶を叩いた。 ● 突如として目前で実体化した巨大物体にもルーラーは怯む事はなかった。 手に持つ聖旗を前面に立て爆発した気流をいなす。 どれだけ巨大でもあくまでこれは人造の吸血鬼による近代武装。 風に魔力が染みついたわけでもなく、まして規格外の対魔力を持つルーラーに痛打になるはずもない。 「く……!」 しかしこの場合、位置が悪すぎた。 飛行船は正純達を乗せながらもルーラーを含まないギリギリの境界線上で実体化したのだ。 上昇気流によって生まれる突風を至近距離でぶつかる羽目になり、華奢なその身が地面から浮き上がる。 一端離れてしまえば後は流されるままだ。飛ばされたルーラーは正純達から大きく後退させられる。 中空で姿勢を制御し危なげなく着地する頃には、飛行船は高度を上げ移動していた。 正純も、もう一人のマスター、シャア・アズナブルの主従の姿も見えない。 もとより魔力によって生まれた宝具。物理的な制約には縛られない。 そのまま高層ビルが立ち並ぶ地帯に入り込んだところで、急速に実体を解れさせ、やがて夜の黒に溶け込むように消えてしまった。 "転移"の令呪でサーヴァントだけを遠距離へ飛ばしてもマスターが残る。 ならば魔力の充填にかかるタイムラグを令呪で限りなくゼロに抑え、使用した宝具で全員纏めて飛び去る。 あの少佐が此度で騎兵(ライダー)のクラスで呼ばれていたことを失念していた。 真名看破のスキルも万能ではない。召喚された英霊がいつの時期の年齢で再現されるか、どのようなスキルと宝具を持っているかはクラスによっても変動する。 あのライダーが何か仕掛けてくるならそれは全て殺戮に帰結する―――そんな先入観がルーラーに防御を取らせ、選択を誤らせた。その隙をマスターは見逃さなかった。 少佐の"戦争狂の反英雄"という特性を、ルーラーは重視し過ぎてしまっていたのだ。 サーヴァントもさることながらマスターも少佐の性質を心得た差配を下していた。 吸血鬼の一個大隊を率いた少佐はその実何ら超抜的な異能を持たず、ただの人間にも後れを取りかねない能力値しか備えていない。 その性格も含めて、扱いが極めて難しいサーヴァントだろうに……彼女は上手く使いこなしていた。 すぐさま令呪を使って引き戻そうとする―――が思いとどまる。 令呪は一画失われたがまだ向こうにはまだ二画ある。そして今更令呪の使用を躊躇う事もないだろう。 ここでライダーに令呪を用いても無駄打ちに終わる。全令呪を没収という形と見れば無駄ではないかもしれないが流石に短慮だろう。 あの二人は確実にまた何かをやる。ルーラーの想像もしない聖杯戦争そのものをひっくり返すだけの大それた行動を起こす。 こちらの令呪を使用しては以後の強制力が落ちてしまう。温存しておいたほうがまだ牽制になる。 加えて、あの艦娘のアーチャーもいる。同一の命令ならともかく複数のサーヴァントに令呪を使用していくのは妨害も考えると手間だ。 「……いえ、それも言い訳ですか」 正純を逃がさぬと膠着した場面。 あえて令呪を自発的に消費する事で賠償とし、故に追う必要はないと裁定者に理由を与えた。 穿ち過ぎだろうか。しかし彼女ならば……そうした逃げ道も用意しているかもしれないのが恐ろしいところだ。 「……またカレンに小言を言われそうですね」 それでは済まないかもしれないが。 そんな風に呑気に考えている自分も大概かもしれない。 本多・正純の残した、聖杯戦争に訴える数々の言葉。 彼女の立場にとっては、どれも正当な意見であり反抗なのだろう。 戦いで自陣の正しさを主張するのは当然のもの。ジャンヌが生きた時代でも変わりはしない。 ……彼女の恐ろしいと感じるところは、正統性を主張しながらもこちらに差し伸べる手を持つ事だ。 後世ではついに訪れなかったと伝えられる、聖女への救済。 個人として救おうとした者はいただろう。最も自分を信頼してくれたあの元帥のように。 しかし全体……国家としては見捨てる結果にならざるを得なかった。ジャンヌ自身はそれを恨んでないし、理解もしているが。 ジャンヌは処刑された事を一切後悔していない。むしろあれは正しい清算であったとすら感じる。 だから彼女の言った台詞は見当違いもいいところだ。 それなのに、あの時手を振り払えなかったのは…… 「聖杯について調べる……ですか」 違える気は毛頭ない。 ルーラーとして選ばれた以上ジャンヌは裁定者の務めを全うする。これは確定事項だ。 しかしルーラーが召喚された意味……それについて思考を巡らせる事は規範を超えず、無意味ではない。 28騎もの英霊が個別に争う聖杯戦争。 地上で起きたとされる数多の聖杯戦争でもこれほどの規模はないだろう。 ならばルーラーが呼ばれるは必然。そう思っていたが…… 正純から浴びせられた言葉で"もう一つの役割の可能性"を思い巡らせるに至った。 即ち――― 「……流石に、詮索が過ぎますか」 杞憂であるのが一番の結果だ。何より自分には真っ先に優先すべき役割がある。 この地域に参じたそもそもの理由。大学近辺で起きた住民の突然の暴動。 兆候から見て。これは明らかに嘲笑のアサシン、ベルク・カッツェの仕業だ。 NPCへの干渉を禁じられた彼がこのような行動に出れた理由は、マスターによる令呪の消去だろう。 カッツェのマスターへの令呪剥奪のペナルティは他の事態が立て込み後回しにされていた。 己のサーヴァントが諫言を受けたとなれば大人しくなるかと思えば、どうやらあの根っからの扇動者には火に油を注ぐ真似だったらしい。 正純への処遇は未だ境界線上だが、こちらは考えるまでもなく黒だ。 だがマスター共々裁定を下す為現場に赴く途中で、ルーラーの特権の一つに奇妙な反応が見られたのだ。 サーヴァント・パラメーターの書き換え。健常な状態から消滅寸前へ。 最初は戦闘で決着がつき一方のサーヴァントが敗れたのだと思った。現場にはカッツェの反応以外にもサーヴァントが集まっている。 しかし暫く経っても減衰した反応は消えないままでいる。 サーヴァントの位置を示す聖水による地図を広げると、やはり反応が一騎、極めて微弱な反応でいる。 死亡したならばそのまま反応が完全に消滅する。ならば瀕死の状態かと思えば、反応は今も移動しておりかなりの距離を渡っている。 ここまで弱った状態で、果たしてここまで行動ができるものか……? それにもう一つ奇妙な点が、その反応がもう一騎とサーヴァントと重複している事だ。 隣り合ってるだけではない。より詳細が分かるよう地図を拡大すれば、座標が完全に一致しているのが分かる。同期と言ってもいい。 サーヴァント同士の戦闘で、何か通常ではない自体が発生した可能性がある。 場が沈静している事からして倒されたのはカッツェだろう。 彼を倒したサーヴァントが何らかの手段で瀕死のまま取り込み、そのまま引き連れている。 状況の把握の為にもこの相手には会いに行かねばならない。 二重の反応は移動を止めず新都側へと進んでいる。このまま進めば――― 「森―――ですね」 見れば、南東の森にも一騎サーヴァントがいる。 同盟相手との合流なのか。それとも……新たな戦いに赴いてるのか。 「まぁ、街から離れているのは良い事ですが」 蟠る煩悶も答えの見えぬ思考も今は全て捨て、ルーラーは霊体化し森へ向けて駆け出した。 【C-6/錯刃大学・近辺/二日目/未明】 【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】 [状態]:健康 [装備]:聖旗 [道具]:??? [思考・状況] 基本:聖杯戦争の恙ない進行。  0.南東の森に向かい、アサシン(カッツェ)の状況を把握、然る後処罰を下す。  1.???  2.その他タスクも並行してこなしていく。  3.聖杯を知る―――ですか。 [備考] ※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。 ※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。 ※カッツェに対するペナルティとして令呪の剥奪を決定しました。後に何らかの形でれんげに対して執行します。 ※バーンに対するペナルティとして令呪を使いました。足立へのペナルティは一旦保留という扱いにしています。 ※令呪使用→エリザベート(一画)・デッドプール(一画)・ニンジャスレイヤー(一画)・カッツェ(一画) ※カッツェはアーカードに食われているが厳密には脱落していない扱いです。  サーヴァントとしての反応はアーカードと重複しています。 |BACK||NEXT| |157a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|157c[[末‐apocalypsis‐世]]| |157a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|157c[[末‐apocalypsis‐世]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |157a:[[聖‐judgement‐罰]]|[[シャア・アズナブル]]&アーチャー([[雷]])|157c:[[末‐apocalypsis‐世]]| |~|[[本多・正純]]&ライダー([[少佐]])|~| |~|[[ジャンヌ・ダルク]]|161a:[[狂い咲く人間の証明(前編)]]| ----

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