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we are not alone」(2015/04/05 (日) 22:19:10) の最新版変更点

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静かだったが、どこか落ち着かない静けさだった。 少し街から外れたところにある喫茶店にて、ルリとれんげは夜を過ごしていた。 立地もあるのか、店内にさして人はいない。ノートPCを広げているスーツ姿の男とぼうっとしている青年、机を囲んでわらっている学生たちくらいだ。 ぽつぽつといる客と共に、こじゃれた音楽が流れる喫茶店に二人はいた。 窓は夜の色が滲み、暗い街が広がっている。 その窓をちらちらと見てしまう。れんげは妙に気持が昂ぶっていた。 そわそわしていた。 今日ここに来てからよく分からないことが目白押しだった。 いろんなことがあった。いろんな人に出会った。 別にそれはいい。何だかうるさい一日だったけれど、別に不安になるようなことはなかった。 何一つなかった。彼女は偽りなくそう思っていた。色々なことがあったせいで多少疲れているくらいだ。 だから、彼女がいま抱いている“そわそわ”とは。 ――かっちゃん…… れんげ自身のことではなく、彼女の親友についてのことなのだった。 ――なんでみんなかっちゃんをいじめるん? と。 彼女はそう悶々と考えていた。 初めて会った“八極拳”の青年も “はるるん”も“しんぷ”も、目の前に座っている“るりりん”も 何故だか、会う人会う人、同じ反応をするのだ。 れんげの友人のことを悪く言っている。 直接言葉には出していなくとも、れんげは察することができた。 それくらい彼女にだって分かる。ここに来る前だって、みんな同じように誰かが誰かをいじめて、いじめられて、そんな空気があったのだから。 だかられんげんは、かっちゃん――ベルク・カッツェの身を本気で案じていた。 ――みんな、かっちゃんと友だちになって欲しいのん。 そう、ずっと思っていて、れんげはずっとそう行動してきたつもりだった。 だけど何時の間にかかっちゃんはいなくなっていて、代わりに周りの人間がみな彼のことを悪く言い出した。 こんな空気は厭だった。 村から出ても、やっぱりこんなふうになってしまう。 そのことが、れんげを不安にさせた。 ――それにあっちゃんも…… れんげは先ほど閃いた恐ろしい考えが頭から離れない。 ここで出会った“あの人”がお腹をすかせて死んでしまう。 そんな恐ろしい事態が。 れんげはもう一度ルリを窺う。 彼女は今黙っている。黙って端末をじっと見つめている。 とても忙しそうに見えた。 ルリにはさっきの恐ろしい考えは既に伝えてある。 彼女なりに必死に考えた言葉だった。 しかし、それにルリには適当な嘘であしらわれてしまった。 無論、れんげにあしらわれた、だなんて感覚はまだ分からないけれど、それでもまともに取り合ってくれなかったことは分かる。 それくらいはれんげにだって、いやれんげだからこそ分かる。 ……溝があった。 才気あふれるが未だ純真無垢の子どもであるれんげと 少女の身であるが既に出会いと別れを知り、大人として生きているルリの間にある、 大人と子どもの溝だった。 ――どうして嘘つくん……るりりん…… ルリに余裕があれば、もう少しれんげのことを慮ってやれたかもしれない。 でも、彼女は今とても大事なことを抱えていて、結果として大人として振る舞わざるを得なかった。 れんげは勿論そんなこと、知る由もないのだけれど。 だかられんげが頼っていた。 “八極拳”でなく、“はるるん”でも“しんぷ”でもなく 他の誰でもない、自分の親友に、助けを求めていた。 ――かっちゃん れんげは彼のことを案ずると同時に、助けを求めていた。 その想いは、れんげの中では一つの言葉として現れていた。 ――会いたいのん…… と。 その言葉にルリは気付かない。 ただ端末の画面を眺めて、何かを思案している。 だって、そこには…… ◇ 現状はとても危うい状況にある。 電人HALはそう分析していた。 0と1の羅列を介して彼は情報を視る。 盤面に挙げられたあらゆる要素を計算し、処理する。 彼は慎重派だが、しかし行動が遅いという訳ではない。 その処理能力を持ってして、最も合理的な解を彼は下すことができる。 危険があれば未然に防ぐ用意を。 一見して婉曲に見えようとも、最終的に有利になるような行動を。 膨大な情報を介して盤面を見通し、策を用意することができる。 そんな彼をして“危うい”と称される要因は、 ――ベルク・カッツェ その一騎のサーヴァントによるものなのだった。 彼についての情報は既に得ている。彼の能力・性質なども分析可能だろう。 事実既にある程度情報は収集できている。 普通ならば、この時点である程度盤面の先を見通すことができる。 主義主張ならば誘導できる。計算で動く相手は行動を読むのも容易い。 しかし、このサーヴァントだけは駄目だ。 奴の行動原理は単純明快だ。“状況をかき乱す”その一点だけを突き詰めた愉快犯。 そんな存在を計算式に入れること自体にリスクが伴う。 それがHALがカッツェとの接触自体を“失敗だった”とした理由である。 カッツェという存在を噛ませてしまったせいで、次の状況がどうなるのか分からなくなっている。 故に切り捨てる、という判断をHALが取ったのは当然だった。 また加えて、カッツェに対していくつかの策を既に彼は打っている。 ――しかしそれでもなお、ベルク・カッツェという最悪のトリックスターの存在は“危うい” 行動の読めない不確定因子が盤面をかき乱している。 状況が良くなるか、悪くなるか、それすら判別できない。 関わった時点で、演算結果が不確定になる、そんな危うさをカッツェは持っているのだった。 ◇ ――れんちょーんwwww れんちょーん、どこですかwwwww ミィがわざわざ探してやってるんだからとっと出てきてくださーいwwwwwwww つうかぁwwwwマスターがどこいったか分からないってwwwwwそれ聖杯戦争舐めてないですかwwwww 迷子のマスターって、子どもかwwwwいや子どもなんですけどwwwww やっぱ子どもってウゼえわ。目え離したらすぐにどっか行っちゃうし ミィが選んだ? 確かにそうなんスけどwwwwwwでもwww 仕方がないじゃないっすかwwwwNPCとかルーラーちゃんとかwwwwww んな面白そうなもんほっぽって、れんちょんのお守りとかwwwwww ム・ム・ム・無理ィwwwwwwwwww ベルク・カッツェはミニバンより夜の街に降り立った。 桃色の肌理細やかな髪が揺れる。整えられた髪のいい臭いをまき散らし、その端麗な顔で夜を満喫する。 女性としてのアイコンに身に包んだ無垢なる少年が今のベルク・カッツェだった。 縁深い少年の皮を被った彼は、完全に女装少年となり危うい色香を振りまいていた。 完全なる擬態、ドッペルゲンガー、オバケ。しかし、澄んだ碧の瞳は醜く歪んでいて、元の彼とはかけ離れた形相をしている。 ベルク・カッツェはありとあらゆる姿を借りる。 全ての状況を盾に、散らばった悪意を集めて、煽り、燃えさせる。 それは全て――愉しいからだ。 ベルク・カッツェは別に何か願いとか、なさねばならないこととか、そういうものはない。 ただただ騒ぎ立てて、人で遊びたいだけだ。 できるだけタチ悪く、ろくでもない方向に。 だから聖杯戦争といったって、真面目に取り組んでいたつもりは微塵もない。 言うまでもないことだ。 アーカードたちと接触したことも、ジナコを陥れたことも、大魔王バーンと組んで惨劇を引き起こしたことも、 真玉橋孝一にちょっかいかけたことも、HALなる怪しげな男の誘いに乗ったことも、 どれも全て――唯一ジナコの件だけは別の理由も少し混じっていたが――それが愉しそうだったからだ。 どこまでも刹那主義。 しかし長期的がない訳ではない。 結果的に大きな爆弾を生むなら、それなりに長い準備をしてもいい。 宴の準備はしよう。愉しむためならあらゆる役割を演じてみせよう。 求められれば力を貸そう。ついでに五分前は敵だった奴にも力を貸そう。 情報だって別に歪曲する訳じゃない。拡散すれば勝手に誰かが歪曲してくれる。 ただ――その先に何かを生むということを、ベルク・カッツェは考えない。 達成すべき願いというものが、彼には欠落している。 だから、あらゆるプロセスを無視して結果という奇跡を与える聖杯と、ベルク・カッツェは全く相いれない。 戦争に勝つことも、敗けることも、目的にはあり得ない。 だからこそ、彼はこんな時だって嗤っている。 監督役から制裁をくらい、マスターを見失っていても、彼にとっては関係ない。 嗤える。 勿論気に入らないことだってあるが、しかしそれすら笑い飛ばせる範疇なのだ。 ――wwwwwwwwwww 聖杯戦争という舞台そのものを嘲笑っている。 そういう意味で、この場において彼の敗北はない。そもそも勝利がないのだから、敗北などある筈もないだろう。 けれど、それでも ――れんちょーんwwwwwwwwwww 彼は一応“今は”本気で己のマスター、宮内れんげを探していた。 罠かもしれないとは思いつつも、他に当てもなく、カッツェはれんげを探して街を行く。 もっともっと愉しみたいから。 死なれたら困るのだ。 最後には全ておじゃんになるにしても、聖杯戦争を嗤い飛ばす為にも、れんげは必要だった。 だからこそ途中まではHALの思惑に乗っていたのだ。 もっとも長引けばすぐに別のことに興じるであろう、その飽きっぽさもカッツェがカッツェたる由縁であったが。 厚情でも使命でも、勿論友情でもない。 ただただ嗤ってやる為に、カッツェはれんげを探す。 ――とりあえずwwwww孤児院wwwwwwwww 退屈極まりない道中を経て、ミニバンは孤児院近くへと止まっている。 一先ずはHALの思惑通り、カッツェは孤児院へとやってきた。 洗脳済みの監視役たちもカッツェと共に降りている。 ――さあて……次は カッツェは洗脳された面白味のない男女の様子を窺う。 このミニバンと言い、明らかに不審者だ。加えて夜。 こんな顔ぶれではとてもではないが中には入れてくれないだろう。 とはいえHALのことだ。何かしら策を講じているに違いない。 そう思っていると、不意に監視役の一人がタブレットを差し出した。 そこにはHALからのメッセージが表示されている。 『彼らは今から孤児院を襲撃する。  君はその間に幼女と接触するといい』 ――うはwwwwwwマジで幼女誘拐wwwwwwwwwwHAL思いのほかアグレッシブwwwwww 直接的な暴力の指示がそこにはあった。 幼女誘拐、などと冗談のように考えていたことが本当になるとは。 道中は退屈極まりなかったが、しかし中々面白そうな展開だった。 「…………」 孤児院を襲撃、という明らかな犯罪を命じられて尚、周りの男女は顔色一つ変えていなかった。 電子ドラッグの有用性の証左だったが、しかしカッツェは少し退屈でもあった。 洗脳されて強制よりは、勝手に自滅する方がカッツェの趣味には合致している。 とはいえ行動が限定されている今の自分にとって、彼らが代わりに騒ぎを起こしてくれるというのはありがたい。 どうせれんげはいないだろうが、精々派手に騒ぎを起こしてみるとしよう。 「じゃあ行くとしますか。レッツ幼女誘拐wwwwwww」 桃色の髪を揺れる。カッツェは「行け!」とでもいうようにぴんと指を立てた。 NPCたちはすぐには動かない。彼らはカッツェの言うことを聞く訳ではないのだ。 だから彼らがこれから勝手に起こす犯罪に、カッツェは便乗することになる。 「幼女誘拐wwwwwwGowwwwwwww」 そうして日が沈んだ頃、五人の男女が孤児院へと突入した。 突如として豹変した彼らは門を打ちこわし、凶器を持って突入する。 ――でミィは HALの思惑通り、孤児院に突っ込んでやることにする。 しかし、そのまま乗ってやるのも癪に障る。最も愉しい形になるよう、立ち回ることにする。 ――女装で幼女誘拐とかwwwwwwミィはそんな変態じゃないでええええすwwwww 小柄な身体。二つに結われた髪。つぶらな瞳。 そうして現れたのは…… ――にゃwwwwwんwwwwwwぱwwwwwすwwwwwwwww それは他でもない。探し人にして己がマスター――宮内れんげのものなのであった。 そうして結ばれた先に、れんげとなったカッツェは居た。 この場に来る前、戯れに“親友”としてその姿を手に入れていたカッツェは、ここに来てその姿を纏った。 完全にれんげの姿となったカッツェだが、しかしやはりそれはカッツェなのだった。 見る人が見れば、すぐに分かるだろう。 だって、れんげは滅多に笑わない子どもだったから。 何時だって嗤っているカッツェでは成り代わりようがない。 ――さあ行っちゃいますよwwwwwwwwwwww そんなあり得ない姿を纏い、カッツェは暴力が向けられた孤児院へと侵入する。 HALは彼は自分を誘導しようとしている。 察するに彼は慎重派だ。計画を練りに練って状況を動かすタイプ。 ――HALがどんなことたくらんでるのとかぁ知りませんけど 精々訳の分からないことにしてやろう。 今の自分はNPCに干渉することはできないが、しかし逆は別だ。 要は向こうから干渉したくなるような姿になってやればいいのだ。 そう考えると“子ども”というのは実に便利な姿なのだった。 大人というのは子どもの面倒を見るものだ。本当は疎ましく思っていても、大人は子どもを保護しなくてはならない。 社会においてはそうなっている。それを逆手に取ってやればいい。 子どもが困っていたら、勝手に大人は解釈してくれる。 大人は子どものことくらい何だって分かると思っているものだ。 悩んでいるなら、勝手にその原因を認識したものを排除し出す。 襲われたとか言って、あのミニバンの男女のことを漏らすとか、HALに幼女誘拐の濡れ衣を押し付けるとか、 勝手に大人たちに察してもらうのだ。こちらから干渉せずとも、向こうが勝手にやってくれる。 ルールの抜け道を通るような真似を、カッツェは実践してみることにした。 この孤児院で遊んでやろう。そう思ったのだ。 長期的に見れば、HALとの関係が破たんしかねない選択は悪手としか言いようがなかった。 しかし、そんなこと、カッツェにしてみればどうでもよかった。 状況を最も面白く愉しむこと。それが彼にとっての至上なのだから。 「じゃwwwwwいくのんwwwwww」 そうして“子ども”となったカッツェは、孤児院に足を踏み入れた。 そこには暴力と犯罪が蔓延している筈だった。 「あ?」 しかし、そこは静かなままだった。 追い回される幼女も、破壊される施設も、何もかもがない。 ただただ平和な孤児院の夜がそこにはあり―― 「――それで子どもになったつもりか」 ――地面に倒れ伏す男女と、一人の神父がそこにいた。 倒れた男女の身体は腕やら足やら変な方向に曲がっている。嘔吐しているものもあった。 それを足蹴にしながら、異様なまでに穏やかに、神父はカッツェと相対している。 その両手には月光を受けきらめく一対の刃があった。 「――なるほど。本当に姿を変えられるんですね」 今度は後ろから声が聞こえた。 迷いのない、凛とした少女の声だった。 「知っていますか? この冬木市で起こったある事件を」 振り返るとそこは――妖精がいた。 警視の妖精にして、電子の妖精。 銀の髪を揺らす一人の妖精は“子ども”となったカッツェを見つめている。 「新都暴動事件……ジナコ・カリギリを名乗る女性が暴れ回った事件がありました。  しかしジナコ・カリギリの行動は明らかに軽率な上、おかしなものがある。  彼女はシロです。まず動機がありません。それにアリバイがあるんですよ、彼女には」 ネットのログです、と彼女は言った。 「パソコンが破壊されていた為、確認に時間がかかったそうですが、しかし犯行時刻に彼女がアクセスした痕跡がネット上に残っている。  無論ネットのログですから本人とは限りません。彼女が堂々と犯行していた記録がある以上、いくら怪しかろうと容疑は揺らぎません。  ただし――彼女に変装できる者が近くにいたらどうでしょう? 状況は大きく変わってきます」 ぴっ、とルリは指を立てる。 その先には年端もいかない“子ども”の皮を被った何かがいる。 「犯人は――貴方です」 ルリは言った。 ◇   HALはカッツェを切り捨てることを選んだ。 確実に、手を汚さないように、カッツェを盤面から排除する。 その為に幾つか手を打った。 その一つが――ルリへの情報のリークだった。 敵として立ちふさがった警視の妖精へ「孤児院を襲撃するものがいる」と情報を流す。 加えてそこに「姿を自由に変えるサーヴァントがいる」とも。 彼女の端末に匿名でそれを流すことなど、HALにしてみれば造作もないことだった。 ルリが警視という立場にあり、宮内れんげと共にいることは既にHALは掴んでいた。 そこにそんな情報を流せば、彼女は無視できない。 本来ならば匿名のタレコミなど信用されないだろう。 しかしこの舞台は“聖杯戦争”だ。 カッツェのマスターを保護している以上、彼女はこの情報を無視できない。 恐らく彼女は――れんげとカッツェの接触を防ぎつつカッツェと敵対するだろう。 上手くいけばカッツェとルリを潰しあわせることができる。 切り捨てることと利用すること、それを同時に為す二重の奸計であった。 ◇ 「犯人は――貴方です」 一度言ってみたかったんですよね、これ。 内心でそう付け加えつつ、ルリは目の前に立つれんげに似た誰かを指差した。 何者かからの情報提供にはひどく警戒した。 しかし、無視できるはずもない。カッツェの名もだが、孤児院という場所も問題だった。 一応の休戦相手が拠点にしている場所だ。そこに襲撃が来る。 怪しいが、しかし伝えない訳にもいかない。 そうして休戦相手――アンデルセンに事態を伝えたところ、一つのピースが埋まった。 ジナコ・カリギリを保護していたのは、彼女のサーヴァントではなく、なんとアンデルセンたちだった。 その情報交換を経て、れんげのサーヴァント“かっちゃん”の正体が完全に明らかになった。 例のメールにはご丁寧に“ベルク・カッツェ”と真名まで記されてあったのだ。 それが何時何処に来るかまで教えてくれた。 信用度には疑問があるが、有用な情報には間違いなかった。 警戒しつつも神父と協働し、待ち伏せの布陣を整えた。 ――どうなるか分かりませんでしたけど。 とりあえず実際に襲撃はあり、そこにカッツェは居た。 彼ないし彼女が姿を自在に変えられるサーヴァントであることは明白だ。 何せその姿は、今しがたまで一緒にいた“子ども”の姿そのものなのだから。 ――れんちょんさんの、サーヴァント れんげを呼び出した、イレギュラーなサーヴァント。 そのベルク・カッツェを調べれば、方舟に関して何か知ることができるかもしれない。 その為にも自由に姿を変え悪意を振りまくこの存在を、どうにかして彼女から切り離す。 神父と警視に囲まれた“子ども”は無表情で二人を見上げている。 「とりあえずこっちに来てください。抵抗しなければ危害は加えませんよ」 ルリは語りかける。一応の警告だった。 神父は黙っている。一見穏やかだが、はっきりとした戦意が感じられる。 万に一つもカッツェを逃すことはないだろう。 進退窮まった状況に置かれた“子ども”は―― 「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 ――嗤った。 顔を異様に歪ませ、品性のない笑みをその顔に浮かべた。 れんげとはかけ離れたその嗤いに、ルリはひどく不愉快なものを感じた。 「貴方をwwwwww貴方が犯人ですwwwwwwwたはっwwwwwwwwwミィが犯人って何それ」 嗤いながら、カッツェは“子ども”の姿を脱ぎ捨てた。 宮内れんげという年端の行かない幼女ではなく、異様な長身の何かが現れた。 「はーいwwwwwwww正解でええええええすwwwwwwwwwミィが犯人wwwwwww」 色鮮やかな赤い髪が舞う。 ぐしゃぐしゃの長い髪に、ひし形の尻尾。馬鹿でかい身体。 その英霊は、おどろおどろしくも艶めかしい、ユニセックスな外見をしていた。 “アサシン”のサーヴァント、ベルク・カッツェはそうしてその姿を現した。 「やっぱおもっくそ罠でしたwwwwww爆釣wwwwwwww」 彼はここに到って嗤ったままだった。 追い詰められた末に姿を現した……などという様子では全くない。 寧ろ、 「でもマスターならwwwwwwいくらでも暴れられるですやあああんwwwwww」 寧ろ彼は喜んでいるようでもあった。 他のマスターと遭遇したことを、こうして追い込まれたことを。 HALからの情報にもあったが、このサーヴァントは決して他者の影に隠れるだけが能ではないようだ。 とはいえこの展開は予想していた。孤児院の子どもたちは一か所に集め、被害が行かないようにしてある。 ふぅ、と息を吐き、ルリはライダーに呼びかけた。 「ライダーさん」 『了解した』 「お願いします」 ライダーはそう言ってその力を解放した。 回路と化したIFSが火花を上げ魔力を放出する。 風が吹き、ルリの髪がばさばさと揺れる。硝煙と油の臭いが後ろから流れてきた。 そうして――彼は現れた。 ATM-09-ST。スコープ・ドッグ。 ぬっぺりとした緑色の巨体が夜の街に身を結ぶ。 その独特の駆動音と共にターレット・レンズが、がちゃ、と回った。 「塵には塵を」 神父は夜の闇に溶け込んでいた。 凪のような穏やかな雰囲気は変らない。 変らない。その筈なのに――どういう訳かそれはまるで研がれ照り光る鋭い刃のようだ。 「塵に過ぎないものは、塵に還れ」 神父が顔を上げる。 黒く染まったその身にあって、レンズ越しの眼光だけが不気味に照り光っていた。 その瞳に映るは、己が領土を穢せし敵。そしてその手には刃。 「待って、待ってよ――」 そこに、新たな声が響き渡った。 神父がぽつりと漏らす。「来たか」と。 「私も……」 その女性は――ジナコ・カリギリはそうして戦場に現れていた。 彼女はよろよろと神父の隣にまで現れると、ひどく低い、身体の底から絞り出したかのような声で、 「私も戦う」 目は充血し隅がひどい。 怠惰と不摂生の極みを末に形成された身体はだらしなく、戦士からは最も縁遠いものだ。 けれど、そこには確かな戦意と――憎悪があった。 暗く濁った殺意を込め、ジナコはただただ叫ぶ。 「私の……私の敵を撃って――ヤクザァ!」 ヒステリックな叫びと共に、その手の甲の光を解放された・ 令呪だ。三度限りの絶対命令権を行使し、彼女は己が英霊を呼ぶ。 一瞬だった。 一瞬で、英霊はさせはんじた。 誰もその権限を邪魔することなどできはしない。 ――現れたのはコートに身を包んだ男だった。 ライダーと違い、外見は一見してただの人間である。 しかし彼の纏うその存在感、威圧感は市井の人間とは一線を画していた。 現れた彼もまた、カッツェを狙う英霊だった。 三人のマスター、二騎のサーヴァントがカッツェを取り囲む。 一対五の絶望的な状況。みな逃げることを許しはしない。 「うはwwwwwwwピンチwwwwwwwwwwミィちょっとヤバイwwwwwwwwww」 けれど、ここに到ってベルク・カッツェはその態度を崩さない。 嗤っている。 この困難すら、愉しんでやろう、かき乱してやろう、そんな意図が感じられた。 その態度にルリはこのサーヴァントの本質を垣間見た気がした。 「ライダーさん、頼みます。あ、でも完全にやっつけないでくださいね。  色々調べたいことがあるんで」 「不愉快だな。汚らわしい化け物に敷居をまたがせたのは」  「……殺す」 三人のマスターが、そうして一斉にカッツェを狙う。 カッツェもまたそれを嗤って迎え撃とうとした。 孤児院において聖杯戦争が幕を上げ―― 「かっちゃん!」 ――なかった。 何故って、それは一人の“子ども”が声を上げたからだ。 ルリは「え……?」と顔を上げる。 孤児院の玄関口。門から庭をは何で離れた場所。 そこには知った顔が――本物の宮内れんげがいた。 孤児院の子どもたちと一緒に安全な場所へと避難している筈の彼女が、どういう訳かこの場に出てきている。 「にゃんぱすー」 そして、敵である筈のベルク・カッツェに親しげに挨拶していて…… ◇ 宮内れんげは子どもである。 けれど、だからといって何も考えない訳ではない。 彼女なりに真面目に考え、彼女なりに必死に行動する。 だから彼女は――ベルク・カッツェの為に行動した。 彼女は察していた。 大人たちがカッツェを“いじめ”ようとしていることを。 直接言われずとも、それくらい察することができた。 あわただしく孤児院まで移動し、ルリや神父の会話を聞いていれば、何となくわかった。 ここにカッツェが来るのだ、と。 だかられんげがじっとしている訳にはいかないのだった。 隙を見て、孤児院の子どもたちの中から抜け出す。 子どもであるが、れんげは聡い。 彼らを見ていたハインケルや弓美子はもっぱら外部からの襲撃に注意しろと言われており、中から抜け出す子供を見逃すことになった。 無論、彼らが“本物”であれば、そんなこともなかったのだろうが、けれどここにいるのはよく似ている、別の誰かでしかなかった。 だから、こうして彼女は現れた。 カッツェの為に、カッツェのことをみなにもっとよく知ってもらう為に、 ぎすぎすしたのは、もう嫌だから。 「にゃんぱすー」 だから、彼女はそう言うのだった。 手に巻いた包帯はするりと取れ、肌が露出している。 ◇ 「にゃwwwwwwwんwwwwwwwwwぱwwwwwwwwwwwwすぅwwwwwwwwwwwww  ほんとにいたwwwwwwwwwwwwwwwwwwww会えましたぁwwwwwwwwwwwwwwwww  れ・れ・れ・れんちょwwwwwwwwwwwwwwwwwんwwwwww会いたかったwwwwwwwww  ミィwwwwwwwずっとwwwwwwwwずっとwwwwwww探してたんすよwwwwwwwwwww  いや、マジでここにいるとは思わなかったけど」 「うちも会いたかったのん」 能天気なやり取りをするれんげに対し、ルリは思わず声を上げていた。 「れんちょんさん、来ちゃダメです」 本当なら駆け寄るべきなのだろうが、しかしカッツェに隙を見せる訳にもいかない。 包囲できた絶好の機会だ。ここで逃す訳にはいかない。 「るりりん、うち……友だちなん。かっちゃんと」 れんげはしかしルリの言葉を聞いてくれなかった。 そう彼女なりに神妙に言うと、れんげはカッツェに向かって口を開いた。 「かっちゃん……うちとあっちゃんを助けて」 すると――その手の甲が光り輝いた。 ルリははっとする。 ひゅん、と風を切る音がした。アンデルセンだ。彼がその手より剣を投げていた。 それは紛れもなくれんげを狙っていた。 ……令呪というものをれんげは理解していなかった。 彼女は聖杯戦争のシステムを何一つ理解せずにここにやってきた。 だから令呪はおろか念話もできない。 けれど、今のれんげは何となくだが、令呪がどういうものなのか理解していた。 だって実際に使うところを見たから。 ジナコが己のサーヴァントを呼んだのを見た彼女は、漠然とだが、令呪をどう使うものなのかを悟っていた。 ――呼んだらくるもの その程度には、れんげは令呪のことを感覚的に知り、行使できるようになっていた。 ……ルリも、アンデルセンも、ジナコも、みなれんげのことを警戒していなかった。 守るべき“子ども”だからか、何も知らない“子ども”だからか、れんげを守ろうとはした者はいても、警戒したものは、この戦争中誰一人いなかった。 だけど、違うのだ。 カッツェを警戒するなら、れんげだって本当はちゃんと見ていないといけなかった。 だって――れんげはカッツェの味方だから。 “れんちょんだけは、いつまでもミィの味方で居てね” ……ここに来る直前、カッツェとれんげが交わした言葉だった。 「かっちゃん! ようやく会えたん!」 「れんちょんwwwwwwwwwwwwwww」 だから、使わせてしまった。 カッツェはれんげに呼ばれるまま包囲を抜け出し、れんげの下へ現れた。 アンデルセンの剣は届かない。無理だ。令呪を行使されたのなら、サーヴァントは弾丸より早く主の下に駆け付けることができる。 「いやwwwwwwなにこの展開wwwwwwwれんちょん実は最高のマスターだったwwwwwwwwww」 「うち最高なん?」 「うはwwwwwwマジ最高wwwwwwwwwwれんちょんと組んでよかったwwwwwwww」 嗤い、嗤い、嗤いながらカッツェはれんげを抱き上げ、 「じゃみなさんwwwwwwwさいならでええええええすwwwwwwwww」 彼らは夜の街へと逃げ出した。 鳥のように軽やかな足取りで―― |BACK||NEXT| |140:[[Fly into the night]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|141-b:[[そう鳥のように]]| |140:[[Fly into the night]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|141-b:[[そう鳥のように]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |132:[[名探偵れんちょん/迷宮の聖杯戦争]]|[[ホシノルリ]]&ライダー([[キリコ・キュービィー]])|141-b:[[そう鳥のように]]| |~|[[宮内れんげ]]|~| |122:[[『主はまたつむじ風の中からヨブに答えられた』]]|[[アレクサンド・アンデルセン]]|~| |~|[[ジナコ・カリギリ]]|~| |126:[[俺とお前はよく似てる/少年よ我に帰れ]]|アサシン([[ゴルゴ13]])|~| |138:[[Q【くえすちょん】]]|[[電人HAL]]&アサシン([[甲賀弦之介]])|~| |~|アサシン(ベルク・カッツェ)|~|
*we are not alone ◆Ee.E0P6Y2U 静かだったが、どこか落ち着かない静けさだった。 少し街から外れたところにある喫茶店にて、ルリとれんげは夜を過ごしていた。 立地もあるのか、店内にさして人はいない。ノートPCを広げているスーツ姿の男とぼうっとしている青年、机を囲んでわらっている学生たちくらいだ。 ぽつぽつといる客と共に、こじゃれた音楽が流れる喫茶店に二人はいた。 窓は夜の色が滲み、暗い街が広がっている。 その窓をちらちらと見てしまう。れんげは妙に気持が昂ぶっていた。 そわそわしていた。 今日ここに来てからよく分からないことが目白押しだった。 いろんなことがあった。いろんな人に出会った。 別にそれはいい。何だかうるさい一日だったけれど、別に不安になるようなことはなかった。 何一つなかった。彼女は偽りなくそう思っていた。色々なことがあったせいで多少疲れているくらいだ。 だから、彼女がいま抱いている“そわそわ”とは。 ――かっちゃん…… れんげ自身のことではなく、彼女の親友についてのことなのだった。 ――なんでみんなかっちゃんをいじめるん? と。 彼女はそう悶々と考えていた。 初めて会った“八極拳”の青年も “はるるん”も“しんぷ”も、目の前に座っている“るりりん”も 何故だか、会う人会う人、同じ反応をするのだ。 れんげの友人のことを悪く言っている。 直接言葉には出していなくとも、れんげは察することができた。 それくらい彼女にだって分かる。ここに来る前だって、みんな同じように誰かが誰かをいじめて、いじめられて、そんな空気があったのだから。 だかられんげんは、かっちゃん――ベルク・カッツェの身を本気で案じていた。 ――みんな、かっちゃんと友だちになって欲しいのん。 そう、ずっと思っていて、れんげはずっとそう行動してきたつもりだった。 だけど何時の間にかかっちゃんはいなくなっていて、代わりに周りの人間がみな彼のことを悪く言い出した。 こんな空気は厭だった。 村から出ても、やっぱりこんなふうになってしまう。 そのことが、れんげを不安にさせた。 ――それにあっちゃんも…… れんげは先ほど閃いた恐ろしい考えが頭から離れない。 ここで出会った“あの人”がお腹をすかせて死んでしまう。 そんな恐ろしい事態が。 れんげはもう一度ルリを窺う。 彼女は今黙っている。黙って端末をじっと見つめている。 とても忙しそうに見えた。 ルリにはさっきの恐ろしい考えは既に伝えてある。 彼女なりに必死に考えた言葉だった。 しかし、それにルリには適当な嘘であしらわれてしまった。 無論、れんげにあしらわれた、だなんて感覚はまだ分からないけれど、それでもまともに取り合ってくれなかったことは分かる。 それくらいはれんげにだって、いやれんげだからこそ分かる。 ……溝があった。 才気あふれるが未だ純真無垢の子どもであるれんげと 少女の身であるが既に出会いと別れを知り、大人として生きているルリの間にある、 大人と子どもの溝だった。 ――どうして嘘つくん……るりりん…… ルリに余裕があれば、もう少しれんげのことを慮ってやれたかもしれない。 でも、彼女は今とても大事なことを抱えていて、結果として大人として振る舞わざるを得なかった。 れんげは勿論そんなこと、知る由もないのだけれど。 だかられんげが頼っていた。 “八極拳”でなく、“はるるん”でも“しんぷ”でもなく 他の誰でもない、自分の親友に、助けを求めていた。 ――かっちゃん れんげは彼のことを案ずると同時に、助けを求めていた。 その想いは、れんげの中では一つの言葉として現れていた。 ――会いたいのん…… と。 その言葉にルリは気付かない。 ただ端末の画面を眺めて、何かを思案している。 だって、そこには…… ◇ 現状はとても危うい状況にある。 電人HALはそう分析していた。 0と1の羅列を介して彼は情報を視る。 盤面に挙げられたあらゆる要素を計算し、処理する。 彼は慎重派だが、しかし行動が遅いという訳ではない。 その処理能力を持ってして、最も合理的な解を彼は下すことができる。 危険があれば未然に防ぐ用意を。 一見して婉曲に見えようとも、最終的に有利になるような行動を。 膨大な情報を介して盤面を見通し、策を用意することができる。 そんな彼をして“危うい”と称される要因は、 ――ベルク・カッツェ その一騎のサーヴァントによるものなのだった。 彼についての情報は既に得ている。彼の能力・性質なども分析可能だろう。 事実既にある程度情報は収集できている。 普通ならば、この時点である程度盤面の先を見通すことができる。 主義主張ならば誘導できる。計算で動く相手は行動を読むのも容易い。 しかし、このサーヴァントだけは駄目だ。 奴の行動原理は単純明快だ。“状況をかき乱す”その一点だけを突き詰めた愉快犯。 そんな存在を計算式に入れること自体にリスクが伴う。 それがHALがカッツェとの接触自体を“失敗だった”とした理由である。 カッツェという存在を噛ませてしまったせいで、次の状況がどうなるのか分からなくなっている。 故に切り捨てる、という判断をHALが取ったのは当然だった。 また加えて、カッツェに対していくつかの策を既に彼は打っている。 ――しかしそれでもなお、ベルク・カッツェという最悪のトリックスターの存在は“危うい” 行動の読めない不確定因子が盤面をかき乱している。 状況が良くなるか、悪くなるか、それすら判別できない。 関わった時点で、演算結果が不確定になる、そんな危うさをカッツェは持っているのだった。 ◇ ――れんちょーんwwww れんちょーん、どこですかwwwww ミィがわざわざ探してやってるんだからとっと出てきてくださーいwwwwwwww つうかぁwwwwマスターがどこいったか分からないってwwwwwそれ聖杯戦争舐めてないですかwwwww 迷子のマスターって、子どもかwwwwいや子どもなんですけどwwwww やっぱ子どもってウゼえわ。目え離したらすぐにどっか行っちゃうし ミィが選んだ? 確かにそうなんスけどwwwwwwでもwww 仕方がないじゃないっすかwwwwNPCとかルーラーちゃんとかwwwwww んな面白そうなもんほっぽって、れんちょんのお守りとかwwwwww ム・ム・ム・無理ィwwwwwwwwww ベルク・カッツェはミニバンより夜の街に降り立った。 桃色の肌理細やかな髪が揺れる。整えられた髪のいい臭いをまき散らし、その端麗な顔で夜を満喫する。 女性としてのアイコンに身に包んだ無垢なる少年が今のベルク・カッツェだった。 縁深い少年の皮を被った彼は、完全に女装少年となり危うい色香を振りまいていた。 完全なる擬態、ドッペルゲンガー、オバケ。しかし、澄んだ碧の瞳は醜く歪んでいて、元の彼とはかけ離れた形相をしている。 ベルク・カッツェはありとあらゆる姿を借りる。 全ての状況を盾に、散らばった悪意を集めて、煽り、燃えさせる。 それは全て――愉しいからだ。 ベルク・カッツェは別に何か願いとか、なさねばならないこととか、そういうものはない。 ただただ騒ぎ立てて、人で遊びたいだけだ。 できるだけタチ悪く、ろくでもない方向に。 だから聖杯戦争といったって、真面目に取り組んでいたつもりは微塵もない。 言うまでもないことだ。 アーカードたちと接触したことも、ジナコを陥れたことも、大魔王バーンと組んで惨劇を引き起こしたことも、 真玉橋孝一にちょっかいかけたことも、HALなる怪しげな男の誘いに乗ったことも、 どれも全て――唯一ジナコの件だけは別の理由も少し混じっていたが――それが愉しそうだったからだ。 どこまでも刹那主義。 しかし長期的がない訳ではない。 結果的に大きな爆弾を生むなら、それなりに長い準備をしてもいい。 宴の準備はしよう。愉しむためならあらゆる役割を演じてみせよう。 求められれば力を貸そう。ついでに五分前は敵だった奴にも力を貸そう。 情報だって別に歪曲する訳じゃない。拡散すれば勝手に誰かが歪曲してくれる。 ただ――その先に何かを生むということを、ベルク・カッツェは考えない。 達成すべき願いというものが、彼には欠落している。 だから、あらゆるプロセスを無視して結果という奇跡を与える聖杯と、ベルク・カッツェは全く相いれない。 戦争に勝つことも、敗けることも、目的にはあり得ない。 だからこそ、彼はこんな時だって嗤っている。 監督役から制裁をくらい、マスターを見失っていても、彼にとっては関係ない。 嗤える。 勿論気に入らないことだってあるが、しかしそれすら笑い飛ばせる範疇なのだ。 ――wwwwwwwwwww 聖杯戦争という舞台そのものを嘲笑っている。 そういう意味で、この場において彼の敗北はない。そもそも勝利がないのだから、敗北などある筈もないだろう。 けれど、それでも ――れんちょーんwwwwwwwwwww 彼は一応“今は”本気で己のマスター、宮内れんげを探していた。 罠かもしれないとは思いつつも、他に当てもなく、カッツェはれんげを探して街を行く。 もっともっと愉しみたいから。 死なれたら困るのだ。 最後には全ておじゃんになるにしても、聖杯戦争を嗤い飛ばす為にも、れんげは必要だった。 だからこそ途中まではHALの思惑に乗っていたのだ。 もっとも長引けばすぐに別のことに興じるであろう、その飽きっぽさもカッツェがカッツェたる由縁であったが。 厚情でも使命でも、勿論友情でもない。 ただただ嗤ってやる為に、カッツェはれんげを探す。 ――とりあえずwwwww孤児院wwwwwwwww 退屈極まりない道中を経て、ミニバンは孤児院近くへと止まっている。 一先ずはHALの思惑通り、カッツェは孤児院へとやってきた。 洗脳済みの監視役たちもカッツェと共に降りている。 ――さあて……次は カッツェは洗脳された面白味のない男女の様子を窺う。 このミニバンと言い、明らかに不審者だ。加えて夜。 こんな顔ぶれではとてもではないが中には入れてくれないだろう。 とはいえHALのことだ。何かしら策を講じているに違いない。 そう思っていると、不意に監視役の一人がタブレットを差し出した。 そこにはHALからのメッセージが表示されている。 『彼らは今から孤児院を襲撃する。  君はその間に幼女と接触するといい』 ――うはwwwwwwマジで幼女誘拐wwwwwwwwwwHAL思いのほかアグレッシブwwwwww 直接的な暴力の指示がそこにはあった。 幼女誘拐、などと冗談のように考えていたことが本当になるとは。 道中は退屈極まりなかったが、しかし中々面白そうな展開だった。 「…………」 孤児院を襲撃、という明らかな犯罪を命じられて尚、周りの男女は顔色一つ変えていなかった。 電子ドラッグの有用性の証左だったが、しかしカッツェは少し退屈でもあった。 洗脳されて強制よりは、勝手に自滅する方がカッツェの趣味には合致している。 とはいえ行動が限定されている今の自分にとって、彼らが代わりに騒ぎを起こしてくれるというのはありがたい。 どうせれんげはいないだろうが、精々派手に騒ぎを起こしてみるとしよう。 「じゃあ行くとしますか。レッツ幼女誘拐wwwwwww」 桃色の髪を揺れる。カッツェは「行け!」とでもいうようにぴんと指を立てた。 NPCたちはすぐには動かない。彼らはカッツェの言うことを聞く訳ではないのだ。 だから彼らがこれから勝手に起こす犯罪に、カッツェは便乗することになる。 「幼女誘拐wwwwwwGowwwwwwww」 そうして日が沈んだ頃、五人の男女が孤児院へと突入した。 突如として豹変した彼らは門を打ちこわし、凶器を持って突入する。 ――でミィは HALの思惑通り、孤児院に突っ込んでやることにする。 しかし、そのまま乗ってやるのも癪に障る。最も愉しい形になるよう、立ち回ることにする。 ――女装で幼女誘拐とかwwwwwwミィはそんな変態じゃないでええええすwwwww 小柄な身体。二つに結われた髪。つぶらな瞳。 そうして現れたのは…… ――にゃwwwwwんwwwwwwぱwwwwwすwwwwwwwww それは他でもない。探し人にして己がマスター――宮内れんげのものなのであった。 そうして結ばれた先に、れんげとなったカッツェは居た。 この場に来る前、戯れに“親友”としてその姿を手に入れていたカッツェは、ここに来てその姿を纏った。 完全にれんげの姿となったカッツェだが、しかしやはりそれはカッツェなのだった。 見る人が見れば、すぐに分かるだろう。 だって、れんげは滅多に笑わない子どもだったから。 何時だって嗤っているカッツェでは成り代わりようがない。 ――さあ行っちゃいますよwwwwwwwwwwww そんなあり得ない姿を纏い、カッツェは暴力が向けられた孤児院へと侵入する。 HALは彼は自分を誘導しようとしている。 察するに彼は慎重派だ。計画を練りに練って状況を動かすタイプ。 ――HALがどんなことたくらんでるのとかぁ知りませんけど 精々訳の分からないことにしてやろう。 今の自分はNPCに干渉することはできないが、しかし逆は別だ。 要は向こうから干渉したくなるような姿になってやればいいのだ。 そう考えると“子ども”というのは実に便利な姿なのだった。 大人というのは子どもの面倒を見るものだ。本当は疎ましく思っていても、大人は子どもを保護しなくてはならない。 社会においてはそうなっている。それを逆手に取ってやればいい。 子どもが困っていたら、勝手に大人は解釈してくれる。 大人は子どものことくらい何だって分かると思っているものだ。 悩んでいるなら、勝手にその原因を認識したものを排除し出す。 襲われたとか言って、あのミニバンの男女のことを漏らすとか、HALに幼女誘拐の濡れ衣を押し付けるとか、 勝手に大人たちに察してもらうのだ。こちらから干渉せずとも、向こうが勝手にやってくれる。 ルールの抜け道を通るような真似を、カッツェは実践してみることにした。 この孤児院で遊んでやろう。そう思ったのだ。 長期的に見れば、HALとの関係が破たんしかねない選択は悪手としか言いようがなかった。 しかし、そんなこと、カッツェにしてみればどうでもよかった。 状況を最も面白く愉しむこと。それが彼にとっての至上なのだから。 「じゃwwwwwいくのんwwwwww」 そうして“子ども”となったカッツェは、孤児院に足を踏み入れた。 そこには暴力と犯罪が蔓延している筈だった。 「あ?」 しかし、そこは静かなままだった。 追い回される幼女も、破壊される施設も、何もかもがない。 ただただ平和な孤児院の夜がそこにはあり―― 「――それで子どもになったつもりか」 ――地面に倒れ伏す男女と、一人の神父がそこにいた。 倒れた男女の身体は腕やら足やら変な方向に曲がっている。嘔吐しているものもあった。 それを足蹴にしながら、異様なまでに穏やかに、神父はカッツェと相対している。 その両手には月光を受けきらめく一対の刃があった。 「――なるほど。本当に姿を変えられるんですね」 今度は後ろから声が聞こえた。 迷いのない、凛とした少女の声だった。 「知っていますか? この冬木市で起こったある事件を」 振り返るとそこは――妖精がいた。 警視の妖精にして、電子の妖精。 銀の髪を揺らす一人の妖精は“子ども”となったカッツェを見つめている。 「新都暴動事件……ジナコ・カリギリを名乗る女性が暴れ回った事件がありました。  しかしジナコ・カリギリの行動は明らかに軽率な上、おかしなものがある。  彼女はシロです。まず動機がありません。それにアリバイがあるんですよ、彼女には」 ネットのログです、と彼女は言った。 「パソコンが破壊されていた為、確認に時間がかかったそうですが、しかし犯行時刻に彼女がアクセスした痕跡がネット上に残っている。  無論ネットのログですから本人とは限りません。彼女が堂々と犯行していた記録がある以上、いくら怪しかろうと容疑は揺らぎません。  ただし――彼女に変装できる者が近くにいたらどうでしょう? 状況は大きく変わってきます」 ぴっ、とルリは指を立てる。 その先には年端もいかない“子ども”の皮を被った何かがいる。 「犯人は――貴方です」 ルリは言った。 ◇   HALはカッツェを切り捨てることを選んだ。 確実に、手を汚さないように、カッツェを盤面から排除する。 その為に幾つか手を打った。 その一つが――ルリへの情報のリークだった。 敵として立ちふさがった警視の妖精へ「孤児院を襲撃するものがいる」と情報を流す。 加えてそこに「姿を自由に変えるサーヴァントがいる」とも。 彼女の端末に匿名でそれを流すことなど、HALにしてみれば造作もないことだった。 ルリが警視という立場にあり、宮内れんげと共にいることは既にHALは掴んでいた。 そこにそんな情報を流せば、彼女は無視できない。 本来ならば匿名のタレコミなど信用されないだろう。 しかしこの舞台は“聖杯戦争”だ。 カッツェのマスターを保護している以上、彼女はこの情報を無視できない。 恐らく彼女は――れんげとカッツェの接触を防ぎつつカッツェと敵対するだろう。 上手くいけばカッツェとルリを潰しあわせることができる。 切り捨てることと利用すること、それを同時に為す二重の奸計であった。 ◇ 「犯人は――貴方です」 一度言ってみたかったんですよね、これ。 内心でそう付け加えつつ、ルリは目の前に立つれんげに似た誰かを指差した。 何者かからの情報提供にはひどく警戒した。 しかし、無視できるはずもない。カッツェの名もだが、孤児院という場所も問題だった。 一応の休戦相手が拠点にしている場所だ。そこに襲撃が来る。 怪しいが、しかし伝えない訳にもいかない。 そうして休戦相手――アンデルセンに事態を伝えたところ、一つのピースが埋まった。 ジナコ・カリギリを保護していたのは、彼女のサーヴァントではなく、なんとアンデルセンたちだった。 その情報交換を経て、れんげのサーヴァント“かっちゃん”の正体が完全に明らかになった。 例のメールにはご丁寧に“ベルク・カッツェ”と真名まで記されてあったのだ。 それが何時何処に来るかまで教えてくれた。 信用度には疑問があるが、有用な情報には間違いなかった。 警戒しつつも神父と協働し、待ち伏せの布陣を整えた。 ――どうなるか分かりませんでしたけど。 とりあえず実際に襲撃はあり、そこにカッツェは居た。 彼ないし彼女が姿を自在に変えられるサーヴァントであることは明白だ。 何せその姿は、今しがたまで一緒にいた“子ども”の姿そのものなのだから。 ――れんちょんさんの、サーヴァント れんげを呼び出した、イレギュラーなサーヴァント。 そのベルク・カッツェを調べれば、方舟に関して何か知ることができるかもしれない。 その為にも自由に姿を変え悪意を振りまくこの存在を、どうにかして彼女から切り離す。 神父と警視に囲まれた“子ども”は無表情で二人を見上げている。 「とりあえずこっちに来てください。抵抗しなければ危害は加えませんよ」 ルリは語りかける。一応の警告だった。 神父は黙っている。一見穏やかだが、はっきりとした戦意が感じられる。 万に一つもカッツェを逃すことはないだろう。 進退窮まった状況に置かれた“子ども”は―― 「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 ――嗤った。 顔を異様に歪ませ、品性のない笑みをその顔に浮かべた。 れんげとはかけ離れたその嗤いに、ルリはひどく不愉快なものを感じた。 「貴方をwwwwww貴方が犯人ですwwwwwwwたはっwwwwwwwwwミィが犯人って何それ」 嗤いながら、カッツェは“子ども”の姿を脱ぎ捨てた。 宮内れんげという年端の行かない幼女ではなく、異様な長身の何かが現れた。 「はーいwwwwwwww正解でええええええすwwwwwwwwwミィが犯人wwwwwww」 色鮮やかな赤い髪が舞う。 ぐしゃぐしゃの長い髪に、ひし形の尻尾。馬鹿でかい身体。 その英霊は、おどろおどろしくも艶めかしい、ユニセックスな外見をしていた。 “アサシン”のサーヴァント、ベルク・カッツェはそうしてその姿を現した。 「やっぱおもっくそ罠でしたwwwwww爆釣wwwwwwww」 彼はここに到って嗤ったままだった。 追い詰められた末に姿を現した……などという様子では全くない。 寧ろ、 「でもマスターならwwwwwwいくらでも暴れられるですやあああんwwwwww」 寧ろ彼は喜んでいるようでもあった。 他のマスターと遭遇したことを、こうして追い込まれたことを。 HALからの情報にもあったが、このサーヴァントは決して他者の影に隠れるだけが能ではないようだ。 とはいえこの展開は予想していた。孤児院の子どもたちは一か所に集め、被害が行かないようにしてある。 ふぅ、と息を吐き、ルリはライダーに呼びかけた。 「ライダーさん」 『了解した』 「お願いします」 ライダーはそう言ってその力を解放した。 回路と化したIFSが火花を上げ魔力を放出する。 風が吹き、ルリの髪がばさばさと揺れる。硝煙と油の臭いが後ろから流れてきた。 そうして――彼は現れた。 ATM-09-ST。スコープ・ドッグ。 ぬっぺりとした緑色の巨体が夜の街に身を結ぶ。 その独特の駆動音と共にターレット・レンズが、がちゃ、と回った。 「塵には塵を」 神父は夜の闇に溶け込んでいた。 凪のような穏やかな雰囲気は変らない。 変らない。その筈なのに――どういう訳かそれはまるで研がれ照り光る鋭い刃のようだ。 「塵に過ぎないものは、塵に還れ」 神父が顔を上げる。 黒く染まったその身にあって、レンズ越しの眼光だけが不気味に照り光っていた。 その瞳に映るは、己が領土を穢せし敵。そしてその手には刃。 「待って、待ってよ――」 そこに、新たな声が響き渡った。 神父がぽつりと漏らす。「来たか」と。 「私も……」 その女性は――ジナコ・カリギリはそうして戦場に現れていた。 彼女はよろよろと神父の隣にまで現れると、ひどく低い、身体の底から絞り出したかのような声で、 「私も戦う」 目は充血し隅がひどい。 怠惰と不摂生の極みを末に形成された身体はだらしなく、戦士からは最も縁遠いものだ。 けれど、そこには確かな戦意と――憎悪があった。 暗く濁った殺意を込め、ジナコはただただ叫ぶ。 「私の……私の敵を撃って――ヤクザァ!」 ヒステリックな叫びと共に、その手の甲の光を解放された・ 令呪だ。三度限りの絶対命令権を行使し、彼女は己が英霊を呼ぶ。 一瞬だった。 一瞬で、英霊はさせはんじた。 誰もその権限を邪魔することなどできはしない。 ――現れたのはコートに身を包んだ男だった。 ライダーと違い、外見は一見してただの人間である。 しかし彼の纏うその存在感、威圧感は市井の人間とは一線を画していた。 現れた彼もまた、カッツェを狙う英霊だった。 三人のマスター、二騎のサーヴァントがカッツェを取り囲む。 一対五の絶望的な状況。みな逃げることを許しはしない。 「うはwwwwwwwピンチwwwwwwwwwwミィちょっとヤバイwwwwwwwwww」 けれど、ここに到ってベルク・カッツェはその態度を崩さない。 嗤っている。 この困難すら、愉しんでやろう、かき乱してやろう、そんな意図が感じられた。 その態度にルリはこのサーヴァントの本質を垣間見た気がした。 「ライダーさん、頼みます。あ、でも完全にやっつけないでくださいね。  色々調べたいことがあるんで」 「不愉快だな。汚らわしい化け物に敷居をまたがせたのは」  「……殺す」 三人のマスターが、そうして一斉にカッツェを狙う。 カッツェもまたそれを嗤って迎え撃とうとした。 孤児院において聖杯戦争が幕を上げ―― 「かっちゃん!」 ――なかった。 何故って、それは一人の“子ども”が声を上げたからだ。 ルリは「え……?」と顔を上げる。 孤児院の玄関口。門から庭をは何で離れた場所。 そこには知った顔が――本物の宮内れんげがいた。 孤児院の子どもたちと一緒に安全な場所へと避難している筈の彼女が、どういう訳かこの場に出てきている。 「にゃんぱすー」 そして、敵である筈のベルク・カッツェに親しげに挨拶していて…… ◇ 宮内れんげは子どもである。 けれど、だからといって何も考えない訳ではない。 彼女なりに真面目に考え、彼女なりに必死に行動する。 だから彼女は――ベルク・カッツェの為に行動した。 彼女は察していた。 大人たちがカッツェを“いじめ”ようとしていることを。 直接言われずとも、それくらい察することができた。 あわただしく孤児院まで移動し、ルリや神父の会話を聞いていれば、何となくわかった。 ここにカッツェが来るのだ、と。 だかられんげがじっとしている訳にはいかないのだった。 隙を見て、孤児院の子どもたちの中から抜け出す。 子どもであるが、れんげは聡い。 彼らを見ていたハインケルや弓美子はもっぱら外部からの襲撃に注意しろと言われており、中から抜け出す子供を見逃すことになった。 無論、彼らが“本物”であれば、そんなこともなかったのだろうが、けれどここにいるのはよく似ている、別の誰かでしかなかった。 だから、こうして彼女は現れた。 カッツェの為に、カッツェのことをみなにもっとよく知ってもらう為に、 ぎすぎすしたのは、もう嫌だから。 「にゃんぱすー」 だから、彼女はそう言うのだった。 手に巻いた包帯はするりと取れ、肌が露出している。 ◇ 「にゃwwwwwwwんwwwwwwwwwぱwwwwwwwwwwwwすぅwwwwwwwwwwwww  ほんとにいたwwwwwwwwwwwwwwwwwwww会えましたぁwwwwwwwwwwwwwwwww  れ・れ・れ・れんちょwwwwwwwwwwwwwwwwwんwwwwww会いたかったwwwwwwwww  ミィwwwwwwwずっとwwwwwwwwずっとwwwwwww探してたんすよwwwwwwwwwww  いや、マジでここにいるとは思わなかったけど」 「うちも会いたかったのん」 能天気なやり取りをするれんげに対し、ルリは思わず声を上げていた。 「れんちょんさん、来ちゃダメです」 本当なら駆け寄るべきなのだろうが、しかしカッツェに隙を見せる訳にもいかない。 包囲できた絶好の機会だ。ここで逃す訳にはいかない。 「るりりん、うち……友だちなん。かっちゃんと」 れんげはしかしルリの言葉を聞いてくれなかった。 そう彼女なりに神妙に言うと、れんげはカッツェに向かって口を開いた。 「かっちゃん……うちとあっちゃんを助けて」 すると――その手の甲が光り輝いた。 ルリははっとする。 ひゅん、と風を切る音がした。アンデルセンだ。彼がその手より剣を投げていた。 それは紛れもなくれんげを狙っていた。 ……令呪というものをれんげは理解していなかった。 彼女は聖杯戦争のシステムを何一つ理解せずにここにやってきた。 だから令呪はおろか念話もできない。 けれど、今のれんげは何となくだが、令呪がどういうものなのか理解していた。 だって実際に使うところを見たから。 ジナコが己のサーヴァントを呼んだのを見た彼女は、漠然とだが、令呪をどう使うものなのかを悟っていた。 ――呼んだらくるもの その程度には、れんげは令呪のことを感覚的に知り、行使できるようになっていた。 ……ルリも、アンデルセンも、ジナコも、みなれんげのことを警戒していなかった。 守るべき“子ども”だからか、何も知らない“子ども”だからか、れんげを守ろうとはした者はいても、警戒したものは、この戦争中誰一人いなかった。 だけど、違うのだ。 カッツェを警戒するなら、れんげだって本当はちゃんと見ていないといけなかった。 だって――れんげはカッツェの味方だから。 “れんちょんだけは、いつまでもミィの味方で居てね” ……ここに来る直前、カッツェとれんげが交わした言葉だった。 「かっちゃん! ようやく会えたん!」 「れんちょんwwwwwwwwwwwwwww」 だから、使わせてしまった。 カッツェはれんげに呼ばれるまま包囲を抜け出し、れんげの下へ現れた。 アンデルセンの剣は届かない。無理だ。令呪を行使されたのなら、サーヴァントは弾丸より早く主の下に駆け付けることができる。 「いやwwwwwwなにこの展開wwwwwwwれんちょん実は最高のマスターだったwwwwwwwwww」 「うち最高なん?」 「うはwwwwwwマジ最高wwwwwwwwwwれんちょんと組んでよかったwwwwwwww」 嗤い、嗤い、嗤いながらカッツェはれんげを抱き上げ、 「じゃみなさんwwwwwwwさいならでええええええすwwwwwwwww」 彼らは夜の街へと逃げ出した。 鳥のように軽やかな足取りで―― |BACK||NEXT| |140:[[Fly into the night]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|141-b:[[そう鳥のように]]| |140:[[Fly into the night]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|141-b:[[そう鳥のように]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |132:[[名探偵れんちょん/迷宮の聖杯戦争]]|[[ホシノルリ]]&ライダー([[キリコ・キュービィー]])|141-b:[[そう鳥のように]]| |~|[[宮内れんげ]]|~| |122:[[『主はまたつむじ風の中からヨブに答えられた』]]|[[アレクサンド・アンデルセン]]|~| |~|[[ジナコ・カリギリ]]|~| |126:[[俺とお前はよく似てる/少年よ我に帰れ]]|アサシン([[ゴルゴ13]])|~| |138:[[Q【くえすちょん】]]|[[電人HAL]]&アサシン([[甲賀弦之介]])|~| |~|アサシン(ベルク・カッツェ)|~|

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