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*原罪-Mudblood- ◆A23CJmo9LE ―シオン・エルトナム・アトラシアさん。ケイネス先生がお呼びです。至急―― 『呼ばれてるぜ、マスター』 『ええ、そうですね。こちらも概ね作業を終えたところです。見落としがないとは言い切れませんが……急場の対応としてはこれくらいが限界でしょう』 屋上での邂逅から多少なりの時間は経過していたが、シオンたちはまだ学園内に残っていた。 多くのサーヴァントに顔が割れた以上、早期に現状を脱し最悪拠点の変更も考えなければならないだろうに。 しかし、その前にやることがあると考え作業をしていたのだ。 立つ鳥後を濁さず、という言葉がある。その言葉の通り彼女たちは自分たちの残したある痕跡を消していた。 それは後の者を気遣う、などと言う考えではなくもっと戦略的なもの。 自分たちに辿りつく材料を減らし、追撃を抑えるため。 姿を追うのを抑えるのよりもっと重要、アーチャーの真名に迫るヒントを抹消する。 〈サティポロジァビートルの腸〉 それはかつて波紋戦士が武器として用いたものであり、コードキャストの材料として取り寄せたもの。 研究の名目であり、自分がそれを評価される留学生の立場である以上それについては知る者もいる。 真名に至る材料として十分ではないが、手の内のヒントとしては上々、いくつか材料を組み合わせれば真名にも至られてしまうかもしれない。 発注の記録やそれについて記した論文など可能な限り消去した。 研究室中に書面として存在するものは見つかる限りアーチャーが処分。 データ上に存在するものは侵入(ハッキング)後にこの方舟自体から消去(デリート)。 万一見落としがあったとしても、サティポロジァビートルだけに注目するのは難しい。 書いた論文中にはもちろんそのことも書いているがそれだけではない。 〈滞空回線の作成技術を応用したナノフィラメントの開発〉、〈生物工学による人体の再生〉、〈昆虫および節足類を利用した人体に無害な糸〉など。 アトラシアの名のこともあり、これを隠した理由はエーテライトが可能性としてに真っ先にあがるだろう。 ここからアーチャーの真名に至るのは……不可能ではないが容易くはない。 注目のまだ薄かった以前は下手に動くとマスターとしてばれる危険が高くこうした動きはしてこなかったが、状況が変わった。 マスターであるという情報の秘匿よりも今後は手の内の秘匿が重要になるだろう。水も漏らさぬよう、完璧に近く隠し通す。 その作業も一段落して、そこに間がよく呼び出し。応じるか否か。 『いくのか?ケイネスっつうと…例のマスター候補か』 『だからこそ私も悩んでいます。業腹ながら確定材料がこちらには不足していると言うざるを得ません』 あくまで候補にすぎないのだ。 ただ単に担任だから呼び出したのかも。だとしたらこの呼び出しに応じるのはほぼノーリスクノーリターン。 むしろ名を呼ばれたことが知れている分リスクの方が大きいかもしれない。 だが本当にマスターなら。 罠でも用意して待ち構えているかもしれない。 先の騒ぎのいずれかを警戒して同盟を申し出るものという可能性もある。 考え難いが、マスターではあるがそれとは別に方舟での役割を全うするためだけに呼びだしたというのも否定はできない。 『ここで退くのは戦略的とは言い難いと俺は思うぜ』 ジョースター家の戦士は〈逃げる〉ことを厭わない。 だがそれは〈逃げ道〉が〈真の勝利への道〉であるなら、〈光り輝く道〉であるなら。 今退いて得られるのは精々一時の安寧で、勝利ではないだろう。 『……分かりました。負担を掛けるかもしれませんがお願いします、アーチャー』 『もちろんだぜ、マスター』 二人、歩み出す。 ジョセフが思い返すのはスイス、サンモリッツのホテル。 命を落とした戦友にして親友、シーザー……共に行く以上、決してあのような事態は起こさない。 カーズの罠を看破し、その上をいった師にして母、リサリサ……彼女のようにマスターを守ってみせる。 覚悟を決める。暗闇の荒野に進むべき道を切り開くべく。 教職員室にいるというケイネスの元へ。 呼び出し場所がNPCの多い場所であったのは応じた理由の一つだ。 無闇な被害はルーラーによる処罰が下るのなら、そこで開戦とはならないだろう。 周り全てに暗示など懸けていては話は別だが…周囲の人間に遠方からエーテライトを用いれば問題ないし、暗示の有無を判断できる程度には魔術知識もある。 敵の打ちえる手を想定し、伝聞に聞くロード・エルメロイの戦力情報も分析。 前提条件が不足しているため数値の振り分けは困難だが、そこはアーチャーに期待するしかない。 周囲への警戒と戦略構築を並行して行っていると 「ここにいたか、エルトナム」 道中黒髪の教師に話しかけられた。 先ほどまでは一切NPCの目に留まらないよう動いていたが、呼び出されて振り切る言い訳を用意できたなら多少は見つかっても構わないだろうと考え、精神面で消耗の激しい隠密行動はやめた。 それでも勿論、警戒は怠らない。この教師からも魔力はほぼ感じられないし、サーヴァントの気配もない。 「迎えに来ていただいたのでしょうか?何が起こるかわからない現状で、お手を煩わせて申し訳ありません」 「何が起きるかわからない……か。そうだな、サーヴァントがどのような能力を行使するかは読めん。  だからこそ君は担任の呼び出しにあえて応じたのだろう?」 若く、どことなく鈍そうな、しかし優しげに見える青年が奇妙な匂いを漂わせ、似つかわしくない邪悪気な声を響かせる。 その内容はとてもきな臭いもの。必然、空気は変わる。 それを受け、ジョセフも現界する…拳を握り、戦意に目を光らせ。 「まあ待て、エルトナム。こっちだ、図書室…検索施設で話そう。人払いも担任への情報処理も済ませた。  交戦の意思はない……見ての通りこちらは一人だ」 「…なるほど。いいでしょう」 検索施設は中立地点というほどではないが、その有用性は大きい。 破損などさせたくはないだろうし、何かしでかせばルーラーも黙っていないだろう。 戦闘の意思が薄いと多少は信用してもいい。 魔力の少なさとサーヴァントの居場所、罠の可能性は気になるが立ち止まっていても状況は好転しない。 「おォッ~と、待った。ちょいと喉が渇いちまってよォ~、一杯飲んでからでもいいかい?」 そう言いながらペットボトルの水をどこからか取り出すジョセフ。 いつの間にか、先ほどの研究室で調達していたのか、昨晩シオンの知らないうちにどこかで買っていたのか。 「急げ」 「そうかい。それじゃ、ほんの一口」 その言葉と共にボン!と大きな音を立てて蓋が勢いよく飛び出し、教師の横を通って壁に食い込んだ! 誰も触れていないにもかかわらず突然吹っ飛んだ蓋は、壁に着弾してからもギャルギャルと回転を続けていた。 もし指にでも当たっていればマッチのように容易くへし折れていただろう。 「ヤバイヤバイ、ポイ捨てはダメだよね~。  ……警告しとくぜ。もし妙な真似を少しでもしようならてめーの目ん玉にコイツで蓋をするッ!肝に銘じときな」 「…フン、来たまえ」 壁にめり込んだ蓋を回収しながら凄むジョセフに一瞬恐れを見せたが、すぐに持ち直し歩み出した。 後ろにシオンも続き、その横をペットボトルに蓋をしながらジョセフも続いた。 そして図書室。 言っていたように人の気配はなく、周りの目を気にせず話ができそうだ。 扉をくぐり、全員が図書室に入る。 「素晴らしい蔵書だ。魔術、英雄、さまざまな伝承に満ちた知識の泉。魔術師の血が騒ぐだろう?」 「ええ。古今東西はおろか並行世界の書物まで揃ったここはとても魅力的です。が、今はそれより話があるのでしょう?」 異なる理論を扱う魔術師とのディベートに興味が湧かないではなかったが、横道に逸れている余裕はない。 場を支配させない意味でも話を急かす。 「魔術師が二人、戦場で向き合ったのだ。『決闘』でなければ『契約』だろう。  その知性と気概は評価に値する。シオン・エルトナム、我々にはおまえのような高貴な血筋の者が必要だ。我らに付け」 「……つまり手を組めと?」 己が手の内を一切さらさず手を組めというのにアーチャーはいい顔をしないが、かつて自分も似たようなことをやっただけに強くは言えない。 第一、魔術師なんて大なり小なりこのようなものだ。 「いくつか質問が。まずあなたのサーヴァントは未だに姿を見せないが、私はそれを認識していますか?」 「おまえが誰を知っていて誰を知らぬかなど、こちらが知るはずもないだろう」 「聖杯に託す願いは?」 「強いて言うなら名誉。サーヴァントの方は再誕だ。そちらは?」 「まずは方舟と聖杯の可能性を調べることを優先しています」 問答を繰り返し、腹を探り合う。 互いにほぼ意味のないやり取りだが、方針、性格、価値観など言外に浮き彫りになるものはある。 そこへ僅かに呼吸音を響かせているだけだったアーチャーが口をはさむ。 「おれはよォー、マスター。手の内はともかく面も見せねーヤツと組むのはごめんだぜッ!」 らしくなく感情的な台詞。 姿を見せろ、でなきゃ組まない。 徹底的に姿を秘匿しているものに対してこれは、安っぽく例えるなら破格の安さでケバブを売れというようなもの。 無茶な要求を突き付け、妥協を引き出す。 「……仕方ないな。なら、クラスを当てることができたら姿を見せてもいい」 「ほう、グッド!嫌いじゃないぜ、そういう賭け。アレも使っていいんだよな?」 「好きにしろ」 検索施設でならサーヴァントのクラスごとの数も確認できる。 それは多少なりヒントになるだろう。 許可が下りたのを聞き、その内訳を確認する。 「ところで!」 結果が表示されるとほぼ同時にクラッカーを投擲する。 それが透明なナニカを砕く音を響かせる。 「やっぱ覗き見してたな。ここに来た時点で妙な感じはしてたんだ。  マスターの名前と姿を把握してるうえ、ここのセッティングができるってことはお前はそれなりの情報処理能力を持ち合わせてる。  そんな奴が人払いをする際に『使い魔』を見逃すはずはねえ。つまり、こいつはお前が仕掛けたってことだ。  吸血鬼を百匹も用意してたとかならともかく、このくらいなら自衛目的ってことで多少は見逃してもよかったがよォー、これは手癖が悪すぎるんじゃねえか?」 左手にクラッカーを回収しつつ糾弾する。 右手のペットボトルの水面には『波紋』が浮かんでいた。 何が飛び出すか分からないこのアーチャー、態度で雄弁に語っている。 自衛にも使える使い魔は潰した、危機に瀕した時のためサーヴァントを呼ばなくていいのか?と。 「残念だ」 だがそれに対して悪びれるでもなく、警戒してサーヴァントを呼ぶこともせず男は呟くのみ。 まるで自分は死なない、傷つかないと確信しているかのよう。 「使い魔に関してはこちらの非だな、素直に詫びる……この場はお開きとしよう。  もしまだ交渉の余地があれば、連絡をくれることを祈っている」 そういって一枚の紙切れを投げてよこした。名前と連絡先が記してあった。 「そうそう、もし集団下校に合流する気があるなら教職員室に改めて来たまえ。  まあ来なくともこちらの手の及ぶ範囲では何も言われんようにしておく。一人で抜け出そうと自由だ……では、連絡期待している」 そう言い残して退出していった。 交渉が目的だったにしてはあっけなく引いたのが気にかかるが、使い魔をつぶされたのが手痛かったのか? ここで折れずに退かれてしまったのは少々痛いが 『アーチャー』 『おう』 エーテライトを用い、対吸血鬼用の三層多重結界を敷く。 それなりに強力な結界ではあるが、二十七祖クラスにもなれば対抗はできる。 それに匹敵する実力のサーヴァント、ましてや吸血鬼でない者に対しては多少の障害になる程度。 だがそこにアーチャーの波紋が加われば別。 擬似神経であるエーテライトと波紋の相性は悪くない。加えて対吸血鬼の概念という共通点を持たせれば宝具すら受け止め得るはず。 対軍や対城、それ以上ともなれば厳しいだろうが、検索施設でそんなものを放つ愚か者はそういない。 外部への警戒を強め、自分は検索機を用いた調査に乗り出す。 時間にまつわるスタンド使い、蟲を使う女性のキャスター、金色の頭髪に鎧のセイバー。 真名まではいけないだろうが、どの程度の情報を入力すればどの程度まで新たな情報を得られるのか知っておくのは重要だ。 どの程度なら手の内を明かしても問題ないか、どこまで相手のことを知れれば十分か。その基準は重要だ。 真祖やタタリを利用してそのあたりを試してみるのも考える。 調べ物ならアーチャーと共に行った方が効率はいい。 彼の意見は自分にはない視点からのものを期待できるだろう。だが警戒に割くざるをえない。 水面の『波紋』が使い魔を捉えたのは入り口近くだが、道中の時点で別の報告をしてきていた。 何者かがここに来るまでにも後をつけており、サーヴァントの気配もしたという。 そして今も近くに潜んでいる。 自分は全く気付けなかった、なかなかの腕利き。 あの男と組んでいる可能性は、薄いだろう。 すでに組んでいる相手がいるなら私たちにまでそれを持ちかけるとは考えにくいし、もし誘うにしても二組既にいるという戦力のアピールはむしろした方がよいはず。 考えてみれば〈アトラシア〉を〈アーチボルト〉が呼び出したのだ。この方舟の外で同じことが起きれば警戒する者は当然出る。 それを嗅ぎ付けた他のマスターだろう。 ならばあの教師を外に見送り、威力偵察とする。それが最も利を生むだろう。 彼を破り、そのまま挑んでくるなら迎え撃つ構えはある。 彼の方が勝利したようなら、痕跡を調べたのちに改めて連絡を取るのは、なかなか優先度の高い選択肢だ。 そう考える程度には評価に値する。 思考や方針は典型的な魔術師のそれ、願いも癖のないありきたりなもの。恐らくは偽りはない、とそれだけなら凡百のものだが…… あの教師…道中でエーテライトを差し込めたはいいが、一切思考が読み取れなかった。 まるで心を閉ざしているかのよう。 エーテライトの対策も考えてそれを実行しているというなら相当な魔術師だ。 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとの関係は…同僚として協力させたのか、暗示でもかけているのか。 放送で私を呼んだのは彼の名でだったが……ケイネスに主導権がなさそうなところを見るにマスターの可能性は薄い? 『むっ』 『なっ』 突如として訪れた変化に二人して驚きの声を漏らす。 『マスター、あいつの呼吸の気配が消えた。サーヴァントの気配は一つのままだ』 『こちらはエーテライトが断たれました。ナノサイズのフィラメントに気づいた?いえ、呼吸が消えたとしたら…』 『死んだ、か。かもな。だがあの蟲しかりあれだけ慎重に立ち回る奴がこうも呆気なく消えるとも思えねえ。  瞬間移動とか別の次元に身を隠すとか出来る能力者を知ってる。そういう可能性もある』 瞬間移動…というと空間転移か。 それに別次元への移動や避難。どれも魔法の領域。 それなら確かに呼吸も追えず、エーテライトも断たれるかもしれない。 エーテライトのことを知り、それの対策を行えるマスター。本人もしくは姿を見せなかったサーヴァントは魔法使い。 相当な魔術師、という評価では足りないか。 『連絡先はあるんだ。後で生存確認くらいはありかもな。だがそれよりも』 『ええ。外にいる二人がどう動くか。』 威力偵察にはほぼならなかったか。 だがここなら、迎撃準備も交渉準備もしやすい。 さあ、来るなら来なさい。アトラスの錬金術師の腕前、お見せしましょう。 ◇  ◇  ◇ 「姿を現せ。いるのは分かっている」 図書室を出て数歩、声を響かせる男。 廊下の死角に向けた、ハッタリではなく確かな確信を持ったものだ。 それに姿を潜めることの無意味を悟ったか二人の女傑が姿を現す。 ミカサ・アッカーマンとセルべリア・ブレス。 二人は暁美ほむらとの戦闘地から離脱し、僅かながら休息をとっていた。 魔力とはすなわち生命力。魂喰いにより補給はしたが、それでミカサの消耗が癒える訳ではない。 銃創の手当もしなければならないのに、保健室は負傷者でごった返し、集団下校のため生徒を集める動きもあった。 吐血までした以上、輸血まではいかずとも経口輸液や造血くらいはしたかったが状況がそれを許さなかった。 一旦は回復に務めるため、銃創に慣れていないミカサの手当てをセルべリアが行い、人目にふれないところで休養。 そこへ、シオン・エルトナム・アトラシアを教師ケイネスが呼び出すという放送が響いた。 あのキャスターが警戒対象と言った教師と、少なくとも暁美ほむらよりは難敵であろう生徒。 その二人が会うというのを放っておくという判断はできなかった。 願わくは合流前にシオン・エルトナム・アトラシアを叩きたかった。 ケイネスの方が厄介であろうし、教職員室は人目に付く。 そのため距離を置いて待ち伏せたのだが…… 幸運にも視野を広くとっていたため、誰かと歩み出すシオンとそのサーヴァントを見逃しはしなかった。 不運にも教職員室から離れた地点で合流されたため、邂逅を阻むことはできなかった。 それを尾行し、もし別行動を取ることがあれば襲撃を考えていたが (失態だった…!) 内心臍を噛むミカサ。 未練がましかった。あの時点で退いていれば。 そうせずとも気付かれたのは自分の責だ。 悔しいが自分は巨人との闘争が本懐であり、人間相手、ましてや尾行の技術など専門外。 すぐ後ろの図書室にはシオン・エルトナム・アトラシアがまだいるはず。 決裂した可能性もあるが、もし組んでいたなら最悪二対一。 向いていない自覚はあるが、交渉になるか。 そこで相手が孤立していると確信が持てれば、戦闘。 あえて敵の前に二人、姿を晒す。 この程度の距離ならランサーが詰めるのに一瞬もいらない、喉元に刃を突きつけているも同じ。 敵サーヴァントが確認できないためアサシンを警戒、彼女の側に立つ。 「あなた、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト?」 聞いていた外見と一致しない。 だがシオン・エルトナム・アトラシアを呼びだしたのは確かにケイネスだった。 目の前の男も聖杯戦争の関係者であるのは間違いないのだが。 まさかケイネスという教師は二人いる?彼以外にもマスターがいるだけ? 「なぜ彼の名前が出てくるのか分からないが、違う。そもそも私はどう見ても東洋人だろう。  それはそうと。暁美ほむら…………どうした?」 「…見ていたの?」 彼女の最期を思い出しさざ波のようなかすかな動揺が走る。 その瞬間、対峙した教師の近くでバシッ、と鞭を撃つような音が響くと 男は姿をくらましていた。 瞬間、二人の思考が冷える。 壁を背に、周囲を警戒。 透明化?瞬間移動?なんであろうと不意の襲撃も感知できるよう目と耳を研ぎ澄ませ走らせる。 呼吸音一つ、衣擦れ一つ聞き漏らさない。針一本、銃弾一つ見落とさない。 そんな緊張が続く。一分経ったか十分経ったか本人たちにも定かではなかったが、暫くして二人ふ、と力を抜く。 「逃げたな」 構えを解き確認するようにつぶやくセルベリア。 それを首肯し、周囲に向けていた注意を図書室一本に絞る。 …やはりケイネス・エルメロイ・アーチボルトではなかったようだが、キャスターもあの男のことは知らなかったのか。 「だが一時退いただけと言う可能性もある。例えば中の二人と合流するために」 扉一枚隔てた向こうに、シオン・エルトナム・アトラシアとそのサーヴァントがいる。 もしかしたら今の男やそのサーヴァントもいるかもしれない。 ……東洋人、か。あの男も暁美ほむらも私や母と同じ黒い髪。生まれや生活は…… いや、余計な感傷。 「短時間なら全力戦闘に支障はない。初撃からいこうか?」 扉を破り、中まで纏めて奇襲染みた攻撃。ランサーの実力なら容易く可能だろう。 だがそれを防がれれば?あの火力を防ぐのは容易では無かろうが、相手もサーヴァント。 虎の子の魔力を無為に消耗するのは避けたい。 ましてやもし二対一ならかなりの逆境。 もし通ったとしても、検索施設に破壊が及べばルーラーによる処罰の可能性もある。 どう、動く……? 【C-3 /月海原学園、図書室/一日目 夕方】 【シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD】 [状態]健康、アーチャーとエーテライトで接続。色替えエーテライトで令呪を隠蔽。 [令呪]残り三画 [装備] エーテライト、バレルレプリカ [道具] [所持金]豊富(ただし研究費で大分浪費中) [思考・状況] 基本行動方針:方舟の調査。その可能性/危険性を見極める。並行して吸血鬼化の治療法を模索する。 1.検索施設を利用しての調査、確認。 2.図書室外のマスターに対応。交渉でも交戦でも応じる。 3.学園内でのマスターの割り出し、及び警戒。こちらから動くか、隠れ潜むか。来るだろう接触に備える。 4.帰宅後、情報の整理。コードキャストを完成させる。 5.方舟の内部調査。中枢系との接触手段を探す。 6.学園に潜むサーヴァントたちを警戒。 7.展開次第では接触してきた教師と連絡を取ることも考える。 [備考] ※月見原学園ではエジプトからの留学生という設定。 ※アーチャーの単独行動スキルを使用中でも、エーテライトで繋がっていれば情報のやり取りは可能です。 ※マップ外は「無限の距離」による概念防壁(404光年)が敷かれています。通常の手段での脱出はまず不可能でしょう。  シオンは優勝者にのみ許される中枢に通じる通路があると予測しています。 ※「サティポロジァビートルの腸三万匹分」を仕入れました。研究目的ということで一応は怪しまれてないようです。 ※セイバー(オルステッド)及びキャスター(シアン)のステータスを確認しました。 ※キャスター(シアン)に差し込んだエーテライトが気付かれていないことを知りました。 ※「サティポロジァビートルの腸」に至り得る情報を可能な限り抹消しました。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)の連絡先を入手しました。現時点ではマスターだと考えています。  これに伴いケイネスへの疑心が僅かながら低下しています。 【アーチャー(ジョセフ・ジョースター )@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]健康、シオンとエーテライトに接続 [装備]現代風の服 [道具]ペットボトル(中身は水)、シオンからのお小遣い [思考・状況] 基本行動方針:「シオンは守る」「方舟を調査する」、「両方」やらなくっちゃあならないってのが「サーヴァント」のつらいところだぜ。 1.図書室外のマスターに対応。交渉でも交戦でも応じる。 2.学校にいるであろう他のマスターに警戒。候補はケイネスとおさげの女の子、あと蟲使い。来るだろう接触に備える。 3.夜の新都で情報収集。でもちょっとぐらいハメ外しちゃってもイイよね? 4.エーテライトはもう勘弁しちくり~! [備考] ※予選日から街中を遊び歩いています。NPC達とも直に交流し情報を得ているようです。 ※暁美ほむら(名前は知らない)が校門をくぐる際の不審な動きを目撃しました。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。 【C-3 /月海原学園、図書室前/一日目 夕方】 【ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人】 [状態]:吐血、片腕に銃痕(応急処置済み) [令呪]:残り三画 [装備]:無し [道具]:シャアのハンカチ 身体に仕込んだナイフ     (以降自宅)立体起動装置、スナップブレード、予備のガスボンベ(複数) [所持金]:普通の学生程度 [思考・状況] 基本行動方針:いかなる方法を使っても願いを叶える。 1.図書室にいるシオン、およびいるかもしれない黒髪の男に対処。どう動く? 2.月海原学園で日常を…… 3.額の広い教師(ケイネス)に接触する。 4.シャアに対する動揺。調査をしたい。 5.蟲のキャスターと組みつつも警戒。 [備考] ※シャア・アズナブルをマスターであると認識しました。 ※中等部に在籍しています。 ※校門の蟲の一方に気付きました。 ※キャスター(シアン)のパラメーターを確認済み。 ※蟲のキャスター(シアン)と同盟を結びました。今夜十二時に、学園の校舎裏に来るという情報を得ました。 ※ほむら、シオン、ケイネスの容姿を聞きました。確定はしてませんが、マスターという前提で対応します。接触後は同盟、情報交換、交戦など、その時の状況で判断します。 ※シオンの姿、およびジョセフの姿とパラメータを確認。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。 【ランサー(セルベリア・ブレス)@戦場のヴァルキュリア】 [状態]:魔力充填 [装備]:Ruhm [道具]:ヴァルキュリアの盾、ヴァルキュリアの槍 [思考・状況] 基本行動方針:『物』としてマスターに扱われる。 1.ミカサ・アッカーマンの護衛。 [備考] ※暁美ほむらを魂喰いしました。短時間ならば問題なくヴァルキュリア人として覚醒できます。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。 ※現在の時刻は少なくともB-4での鬼眼王出現前です。 **「[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]」に続く ---- |BACK||NEXT| |130-a:[[失楽園-Paradise Lost-]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|130-c:[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]| |130-a:[[失楽園-Paradise Lost-]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|130-c:[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |114-c:[[失楽園-Paradise Lost-]]|[[シオン・エルトナム・アトラシア]]&アーチャー([[ジョセフ・ジョースター]])|136:[[スカイ・イクリプス Sky Eclipse]]| |~|[[ミカサ・アッカーマン]]&ランサー([[セルベリア・ブレス]])|136:[[スカイ・イクリプス Sky Eclipse]]| |~|[[ケイネス・エルメロイ・アーチボルト]]&キャスター([[ヴォルデモート]])|130-c:[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]|
*原罪-Mudblood- ◆A23CJmo9LE ―シオン・エルトナム・アトラシアさん。ケイネス先生がお呼びです。至急―― 『呼ばれてるぜ、マスター』 『ええ、そうですね。こちらも概ね作業を終えたところです。見落としがないとは言い切れませんが……急場の対応としてはこれくらいが限界でしょう』 屋上での邂逅から多少なりの時間は経過していたが、シオンたちはまだ学園内に残っていた。 多くのサーヴァントに顔が割れた以上、早期に現状を脱し最悪拠点の変更も考えなければならないだろうに。 しかし、その前にやることがあると考え作業をしていたのだ。 立つ鳥後を濁さず、という言葉がある。その言葉の通り彼女たちは自分たちの残したある痕跡を消していた。 それは後の者を気遣う、などと言う考えではなくもっと戦略的なもの。 自分たちに辿りつく材料を減らし、追撃を抑えるため。 姿を追うのを抑えるのよりもっと重要、アーチャーの真名に迫るヒントを抹消する。 〈サティポロジァビートルの腸〉 それはかつて波紋戦士が武器として用いたものであり、コードキャストの材料として取り寄せたもの。 研究の名目であり、自分がそれを評価される留学生の立場である以上それについては知る者もいる。 真名に至る材料として十分ではないが、手の内のヒントとしては上々、いくつか材料を組み合わせれば真名にも至られてしまうかもしれない。 発注の記録やそれについて記した論文など可能な限り消去した。 研究室中に書面として存在するものは見つかる限りアーチャーが処分。 データ上に存在するものは侵入(ハッキング)後にこの方舟自体から消去(デリート)。 万一見落としがあったとしても、サティポロジァビートルだけに注目するのは難しい。 書いた論文中にはもちろんそのことも書いているがそれだけではない。 〈滞空回線の作成技術を応用したナノフィラメントの開発〉、〈生物工学による人体の再生〉、〈昆虫および節足類を利用した人体に無害な糸〉など。 アトラシアの名のこともあり、これを隠した理由はエーテライトが可能性としてに真っ先にあがるだろう。 ここからアーチャーの真名に至るのは……不可能ではないが容易くはない。 注目のまだ薄かった以前は下手に動くとマスターとしてばれる危険が高くこうした動きはしてこなかったが、状況が変わった。 マスターであるという情報の秘匿よりも今後は手の内の秘匿が重要になるだろう。水も漏らさぬよう、完璧に近く隠し通す。 その作業も一段落して、そこに間がよく呼び出し。応じるか否か。 『いくのか?ケイネスっつうと…例のマスター候補か』 『だからこそ私も悩んでいます。業腹ながら確定材料がこちらには不足していると言うざるを得ません』 あくまで候補にすぎないのだ。 ただ単に担任だから呼び出したのかも。だとしたらこの呼び出しに応じるのはほぼノーリスクノーリターン。 むしろ名を呼ばれたことが知れている分リスクの方が大きいかもしれない。 だが本当にマスターなら。 罠でも用意して待ち構えているかもしれない。 先の騒ぎのいずれかを警戒して同盟を申し出るものという可能性もある。 考え難いが、マスターではあるがそれとは別に方舟での役割を全うするためだけに呼びだしたというのも否定はできない。 『ここで退くのは戦略的とは言い難いと俺は思うぜ』 ジョースター家の戦士は〈逃げる〉ことを厭わない。 だがそれは〈逃げ道〉が〈真の勝利への道〉であるなら、〈光り輝く道〉であるなら。 今退いて得られるのは精々一時の安寧で、勝利ではないだろう。 『……分かりました。負担を掛けるかもしれませんがお願いします、アーチャー』 『もちろんだぜ、マスター』 二人、歩み出す。 ジョセフが思い返すのはスイス、サンモリッツのホテル。 命を落とした戦友にして親友、シーザー……共に行く以上、決してあのような事態は起こさない。 カーズの罠を看破し、その上をいった師にして母、リサリサ……彼女のようにマスターを守ってみせる。 覚悟を決める。暗闇の荒野に進むべき道を切り開くべく。 教職員室にいるというケイネスの元へ。 呼び出し場所がNPCの多い場所であったのは応じた理由の一つだ。 無闇な被害はルーラーによる処罰が下るのなら、そこで開戦とはならないだろう。 周り全てに暗示など懸けていては話は別だが…周囲の人間に遠方からエーテライトを用いれば問題ないし、暗示の有無を判断できる程度には魔術知識もある。 敵の打ちえる手を想定し、伝聞に聞くロード・エルメロイの戦力情報も分析。 前提条件が不足しているため数値の振り分けは困難だが、そこはアーチャーに期待するしかない。 周囲への警戒と戦略構築を並行して行っていると 「ここにいたか、エルトナム」 道中黒髪の教師に話しかけられた。 先ほどまでは一切NPCの目に留まらないよう動いていたが、呼び出されて振り切る言い訳を用意できたなら多少は見つかっても構わないだろうと考え、精神面で消耗の激しい隠密行動はやめた。 それでも勿論、警戒は怠らない。この教師からも魔力はほぼ感じられないし、サーヴァントの気配もない。 「迎えに来ていただいたのでしょうか?何が起こるかわからない現状で、お手を煩わせて申し訳ありません」 「何が起きるかわからない……か。そうだな、サーヴァントがどのような能力を行使するかは読めん。  だからこそ君は担任の呼び出しにあえて応じたのだろう?」 若く、どことなく鈍そうな、しかし優しげに見える青年が奇妙な匂いを漂わせ、似つかわしくない邪悪気な声を響かせる。 その内容はとてもきな臭いもの。必然、空気は変わる。 それを受け、ジョセフも現界する…拳を握り、戦意に目を光らせ。 「まあ待て、エルトナム。こっちだ、図書室…検索施設で話そう。人払いも担任への情報処理も済ませた。  交戦の意思はない……見ての通りこちらは一人だ」 「…なるほど。いいでしょう」 検索施設は中立地点というほどではないが、その有用性は大きい。 破損などさせたくはないだろうし、何かしでかせばルーラーも黙っていないだろう。 戦闘の意思が薄いと多少は信用してもいい。 魔力の少なさとサーヴァントの居場所、罠の可能性は気になるが立ち止まっていても状況は好転しない。 「おォッ~と、待った。ちょいと喉が渇いちまってよォ~、一杯飲んでからでもいいかい?」 そう言いながらペットボトルの水をどこからか取り出すジョセフ。 いつの間にか、先ほどの研究室で調達していたのか、昨晩シオンの知らないうちにどこかで買っていたのか。 「急げ」 「そうかい。それじゃ、ほんの一口」 その言葉と共にボン!と大きな音を立てて蓋が勢いよく飛び出し、教師の横を通って壁に食い込んだ! 誰も触れていないにもかかわらず突然吹っ飛んだ蓋は、壁に着弾してからもギャルギャルと回転を続けていた。 もし指にでも当たっていればマッチのように容易くへし折れていただろう。 「ヤバイヤバイ、ポイ捨てはダメだよね~。  ……警告しとくぜ。もし妙な真似を少しでもしようならてめーの目ん玉にコイツで蓋をするッ!肝に銘じときな」 「…フン、来たまえ」 壁にめり込んだ蓋を回収しながら凄むジョセフに一瞬恐れを見せたが、すぐに持ち直し歩み出した。 後ろにシオンも続き、その横をペットボトルに蓋をしながらジョセフも続いた。 そして図書室。 言っていたように人の気配はなく、周りの目を気にせず話ができそうだ。 扉をくぐり、全員が図書室に入る。 「素晴らしい蔵書だ。魔術、英雄、さまざまな伝承に満ちた知識の泉。魔術師の血が騒ぐだろう?」 「ええ。古今東西はおろか並行世界の書物まで揃ったここはとても魅力的です。が、今はそれより話があるのでしょう?」 異なる理論を扱う魔術師とのディベートに興味が湧かないではなかったが、横道に逸れている余裕はない。 場を支配させない意味でも話を急かす。 「魔術師が二人、戦場で向き合ったのだ。『決闘』でなければ『契約』だろう。  その知性と気概は評価に値する。シオン・エルトナム、我々にはおまえのような高貴な血筋の者が必要だ。我らに付け」 「……つまり手を組めと?」 己が手の内を一切さらさず手を組めというのにアーチャーはいい顔をしないが、かつて自分も似たようなことをやっただけに強くは言えない。 第一、魔術師なんて大なり小なりこのようなものだ。 「いくつか質問が。まずあなたのサーヴァントは未だに姿を見せないが、私はそれを認識していますか?」 「おまえが誰を知っていて誰を知らぬかなど、こちらが知るはずもないだろう」 「聖杯に託す願いは?」 「強いて言うなら名誉。サーヴァントの方は再誕だ。そちらは?」 「まずは方舟と聖杯の可能性を調べることを優先しています」 問答を繰り返し、腹を探り合う。 互いにほぼ意味のないやり取りだが、方針、性格、価値観など言外に浮き彫りになるものはある。 そこへ僅かに呼吸音を響かせているだけだったアーチャーが口をはさむ。 「おれはよォー、マスター。手の内はともかく面も見せねーヤツと組むのはごめんだぜッ!」 らしくなく感情的な台詞。 姿を見せろ、でなきゃ組まない。 徹底的に姿を秘匿しているものに対してこれは、安っぽく例えるなら破格の安さでケバブを売れというようなもの。 無茶な要求を突き付け、妥協を引き出す。 「……仕方ないな。なら、クラスを当てることができたら姿を見せてもいい」 「ほう、グッド!嫌いじゃないぜ、そういう賭け。アレも使っていいんだよな?」 「好きにしろ」 検索施設でならサーヴァントのクラスごとの数も確認できる。 それは多少なりヒントになるだろう。 許可が下りたのを聞き、その内訳を確認する。 「ところで!」 結果が表示されるとほぼ同時にクラッカーを投擲する。 それが透明なナニカを砕く音を響かせる。 「やっぱ覗き見してたな。ここに来た時点で妙な感じはしてたんだ。  マスターの名前と姿を把握してるうえ、ここのセッティングができるってことはお前はそれなりの情報処理能力を持ち合わせてる。  そんな奴が人払いをする際に『使い魔』を見逃すはずはねえ。つまり、こいつはお前が仕掛けたってことだ。  吸血鬼を百匹も用意してたとかならともかく、このくらいなら自衛目的ってことで多少は見逃してもよかったがよォー、これは手癖が悪すぎるんじゃねえか?」 左手にクラッカーを回収しつつ糾弾する。 右手のペットボトルの水面には『波紋』が浮かんでいた。 何が飛び出すか分からないこのアーチャー、態度で雄弁に語っている。 自衛にも使える使い魔は潰した、危機に瀕した時のためサーヴァントを呼ばなくていいのか?と。 「残念だ」 だがそれに対して悪びれるでもなく、警戒してサーヴァントを呼ぶこともせず男は呟くのみ。 まるで自分は死なない、傷つかないと確信しているかのよう。 「使い魔に関してはこちらの非だな、素直に詫びる……この場はお開きとしよう。  もしまだ交渉の余地があれば、連絡をくれることを祈っている」 そういって一枚の紙切れを投げてよこした。名前と連絡先が記してあった。 「そうそう、もし集団下校に合流する気があるなら教職員室に改めて来たまえ。  まあ来なくともこちらの手の及ぶ範囲では何も言われんようにしておく。一人で抜け出そうと自由だ……では、連絡期待している」 そう言い残して退出していった。 交渉が目的だったにしてはあっけなく引いたのが気にかかるが、使い魔をつぶされたのが手痛かったのか? ここで折れずに退かれてしまったのは少々痛いが 『アーチャー』 『おう』 エーテライトを用い、対吸血鬼用の三層多重結界を敷く。 それなりに強力な結界ではあるが、二十七祖クラスにもなれば対抗はできる。 それに匹敵する実力のサーヴァント、ましてや吸血鬼でない者に対しては多少の障害になる程度。 だがそこにアーチャーの波紋が加われば別。 擬似神経であるエーテライトと波紋の相性は悪くない。加えて対吸血鬼の概念という共通点を持たせれば宝具すら受け止め得るはず。 対軍や対城、それ以上ともなれば厳しいだろうが、検索施設でそんなものを放つ愚か者はそういない。 外部への警戒を強め、自分は検索機を用いた調査に乗り出す。 時間にまつわるスタンド使い、蟲を使う女性のキャスター、金色の頭髪に鎧のセイバー。 真名まではいけないだろうが、どの程度の情報を入力すればどの程度まで新たな情報を得られるのか知っておくのは重要だ。 どの程度なら手の内を明かしても問題ないか、どこまで相手のことを知れれば十分か。その基準は重要だ。 真祖やタタリを利用してそのあたりを試してみるのも考える。 調べ物ならアーチャーと共に行った方が効率はいい。 彼の意見は自分にはない視点からのものを期待できるだろう。だが警戒に割くざるをえない。 水面の『波紋』が使い魔を捉えたのは入り口近くだが、道中の時点で別の報告をしてきていた。 何者かがここに来るまでにも後をつけており、サーヴァントの気配もしたという。 そして今も近くに潜んでいる。 自分は全く気付けなかった、なかなかの腕利き。 あの男と組んでいる可能性は、薄いだろう。 すでに組んでいる相手がいるなら私たちにまでそれを持ちかけるとは考えにくいし、もし誘うにしても二組既にいるという戦力のアピールはむしろした方がよいはず。 考えてみれば〈アトラシア〉を〈アーチボルト〉が呼び出したのだ。この方舟の外で同じことが起きれば警戒する者は当然出る。 それを嗅ぎ付けた他のマスターだろう。 ならばあの教師を外に見送り、威力偵察とする。それが最も利を生むだろう。 彼を破り、そのまま挑んでくるなら迎え撃つ構えはある。 彼の方が勝利したようなら、痕跡を調べたのちに改めて連絡を取るのは、なかなか優先度の高い選択肢だ。 そう考える程度には評価に値する。 思考や方針は典型的な魔術師のそれ、願いも癖のないありきたりなもの。恐らくは偽りはない、とそれだけなら凡百のものだが…… あの教師…道中でエーテライトを差し込めたはいいが、一切思考が読み取れなかった。 まるで心を閉ざしているかのよう。 エーテライトの対策も考えてそれを実行しているというなら相当な魔術師だ。 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとの関係は…同僚として協力させたのか、暗示でもかけているのか。 放送で私を呼んだのは彼の名でだったが……ケイネスに主導権がなさそうなところを見るにマスターの可能性は薄い? 『むっ』 『なっ』 突如として訪れた変化に二人して驚きの声を漏らす。 『マスター、あいつの呼吸の気配が消えた。サーヴァントの気配は一つのままだ』 『こちらはエーテライトが断たれました。ナノサイズのフィラメントに気づいた?いえ、呼吸が消えたとしたら…』 『死んだ、か。かもな。だがあの蟲しかりあれだけ慎重に立ち回る奴がこうも呆気なく消えるとも思えねえ。  瞬間移動とか別の次元に身を隠すとか出来る能力者を知ってる。そういう可能性もある』 瞬間移動…というと空間転移か。 それに別次元への移動や避難。どれも魔法の領域。 それなら確かに呼吸も追えず、エーテライトも断たれるかもしれない。 エーテライトのことを知り、それの対策を行えるマスター。本人もしくは姿を見せなかったサーヴァントは魔法使い。 相当な魔術師、という評価では足りないか。 『連絡先はあるんだ。後で生存確認くらいはありかもな。だがそれよりも』 『ええ。外にいる二人がどう動くか。』 威力偵察にはほぼならなかったか。 だがここなら、迎撃準備も交渉準備もしやすい。 さあ、来るなら来なさい。アトラスの錬金術師の腕前、お見せしましょう。 ◇  ◇  ◇ 「姿を現せ。いるのは分かっている」 図書室を出て数歩、声を響かせる男。 廊下の死角に向けた、ハッタリではなく確かな確信を持ったものだ。 それに姿を潜めることの無意味を悟ったか二人の女傑が姿を現す。 ミカサ・アッカーマンとセルべリア・ブレス。 二人は暁美ほむらとの戦闘地から離脱し、僅かながら休息をとっていた。 魔力とはすなわち生命力。魂喰いにより補給はしたが、それでミカサの消耗が癒える訳ではない。 銃創の手当もしなければならないのに、保健室は負傷者でごった返し、集団下校のため生徒を集める動きもあった。 吐血までした以上、輸血まではいかずとも経口輸液や造血くらいはしたかったが状況がそれを許さなかった。 一旦は回復に務めるため、銃創に慣れていないミカサの手当てをセルべリアが行い、人目にふれないところで休養。 そこへ、シオン・エルトナム・アトラシアを教師ケイネスが呼び出すという放送が響いた。 あのキャスターが警戒対象と言った教師と、少なくとも暁美ほむらよりは難敵であろう生徒。 その二人が会うというのを放っておくという判断はできなかった。 願わくは合流前にシオン・エルトナム・アトラシアを叩きたかった。 ケイネスの方が厄介であろうし、教職員室は人目に付く。 そのため距離を置いて待ち伏せたのだが…… 幸運にも視野を広くとっていたため、誰かと歩み出すシオンとそのサーヴァントを見逃しはしなかった。 不運にも教職員室から離れた地点で合流されたため、邂逅を阻むことはできなかった。 それを尾行し、もし別行動を取ることがあれば襲撃を考えていたが (失態だった…!) 内心臍を噛むミカサ。 未練がましかった。あの時点で退いていれば。 そうせずとも気付かれたのは自分の責だ。 悔しいが自分は巨人との闘争が本懐であり、人間相手、ましてや尾行の技術など専門外。 すぐ後ろの図書室にはシオン・エルトナム・アトラシアがまだいるはず。 決裂した可能性もあるが、もし組んでいたなら最悪二対一。 向いていない自覚はあるが、交渉になるか。 そこで相手が孤立していると確信が持てれば、戦闘。 あえて敵の前に二人、姿を晒す。 この程度の距離ならランサーが詰めるのに一瞬もいらない、喉元に刃を突きつけているも同じ。 敵サーヴァントが確認できないためアサシンを警戒、彼女の側に立つ。 「あなた、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト?」 聞いていた外見と一致しない。 だがシオン・エルトナム・アトラシアを呼びだしたのは確かにケイネスだった。 目の前の男も聖杯戦争の関係者であるのは間違いないのだが。 まさかケイネスという教師は二人いる?彼以外にもマスターがいるだけ? 「なぜ彼の名前が出てくるのか分からないが、違う。そもそも私はどう見ても東洋人だろう。  それはそうと。暁美ほむら…………どうした?」 「…見ていたの?」 彼女の最期を思い出しさざ波のようなかすかな動揺が走る。 その瞬間、対峙した教師の近くでバシッ、と鞭を撃つような音が響くと 男は姿をくらましていた。 瞬間、二人の思考が冷える。 壁を背に、周囲を警戒。 透明化?瞬間移動?なんであろうと不意の襲撃も感知できるよう目と耳を研ぎ澄ませ走らせる。 呼吸音一つ、衣擦れ一つ聞き漏らさない。針一本、銃弾一つ見落とさない。 そんな緊張が続く。一分経ったか十分経ったか本人たちにも定かではなかったが、暫くして二人ふ、と力を抜く。 「逃げたな」 構えを解き確認するようにつぶやくセルベリア。 それを首肯し、周囲に向けていた注意を図書室一本に絞る。 …やはりケイネス・エルメロイ・アーチボルトではなかったようだが、キャスターもあの男のことは知らなかったのか。 「だが一時退いただけと言う可能性もある。例えば中の二人と合流するために」 扉一枚隔てた向こうに、シオン・エルトナム・アトラシアとそのサーヴァントがいる。 もしかしたら今の男やそのサーヴァントもいるかもしれない。 ……東洋人、か。あの男も暁美ほむらも私や母と同じ黒い髪。生まれや生活は…… いや、余計な感傷。 「短時間なら全力戦闘に支障はない。初撃からいこうか?」 扉を破り、中まで纏めて奇襲染みた攻撃。ランサーの実力なら容易く可能だろう。 だがそれを防がれれば?あの火力を防ぐのは容易では無かろうが、相手もサーヴァント。 虎の子の魔力を無為に消耗するのは避けたい。 ましてやもし二対一ならかなりの逆境。 もし通ったとしても、検索施設に破壊が及べばルーラーによる処罰の可能性もある。 どう、動く……? 【C-3 /月海原学園、図書室/一日目 夕方】 【シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD】 [状態]健康、アーチャーとエーテライトで接続。色替えエーテライトで令呪を隠蔽。 [令呪]残り三画 [装備] エーテライト、バレルレプリカ [道具] [所持金]豊富(ただし研究費で大分浪費中) [思考・状況] 基本行動方針:方舟の調査。その可能性/危険性を見極める。並行して吸血鬼化の治療法を模索する。 1.検索施設を利用しての調査、確認。 2.図書室外のマスターに対応。交渉でも交戦でも応じる。 3.学園内でのマスターの割り出し、及び警戒。こちらから動くか、隠れ潜むか。来るだろう接触に備える。 4.帰宅後、情報の整理。コードキャストを完成させる。 5.方舟の内部調査。中枢系との接触手段を探す。 6.学園に潜むサーヴァントたちを警戒。 7.展開次第では接触してきた教師と連絡を取ることも考える。 [備考] ※月見原学園ではエジプトからの留学生という設定。 ※アーチャーの単独行動スキルを使用中でも、エーテライトで繋がっていれば情報のやり取りは可能です。 ※マップ外は「無限の距離」による概念防壁(404光年)が敷かれています。通常の手段での脱出はまず不可能でしょう。  シオンは優勝者にのみ許される中枢に通じる通路があると予測しています。 ※「サティポロジァビートルの腸三万匹分」を仕入れました。研究目的ということで一応は怪しまれてないようです。 ※セイバー(オルステッド)及びキャスター(シアン)のステータスを確認しました。 ※キャスター(シアン)に差し込んだエーテライトが気付かれていないことを知りました。 ※「サティポロジァビートルの腸」に至り得る情報を可能な限り抹消しました。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)の連絡先を入手しました。現時点ではマスターだと考えています。  これに伴いケイネスへの疑心が僅かながら低下しています。 【アーチャー(ジョセフ・ジョースター )@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]健康、シオンとエーテライトに接続 [装備]現代風の服 [道具]ペットボトル(中身は水)、シオンからのお小遣い [思考・状況] 基本行動方針:「シオンは守る」「方舟を調査する」、「両方」やらなくっちゃあならないってのが「サーヴァント」のつらいところだぜ。 1.図書室外のマスターに対応。交渉でも交戦でも応じる。 2.学校にいるであろう他のマスターに警戒。候補はケイネスとおさげの女の子、あと蟲使い。来るだろう接触に備える。 3.夜の新都で情報収集。でもちょっとぐらいハメ外しちゃってもイイよね? 4.エーテライトはもう勘弁しちくり~! [備考] ※予選日から街中を遊び歩いています。NPC達とも直に交流し情報を得ているようです。 ※暁美ほむら(名前は知らない)が校門をくぐる際の不審な動きを目撃しました。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。 【C-3 /月海原学園、図書室前/一日目 夕方】 【ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人】 [状態]:吐血、片腕に銃痕(応急処置済み) [令呪]:残り三画 [装備]:無し [道具]:シャアのハンカチ 身体に仕込んだナイフ     (以降自宅)立体起動装置、スナップブレード、予備のガスボンベ(複数) [所持金]:普通の学生程度 [思考・状況] 基本行動方針:いかなる方法を使っても願いを叶える。 1.図書室にいるシオン、およびいるかもしれない黒髪の男に対処。どう動く? 2.月海原学園で日常を…… 3.額の広い教師(ケイネス)に接触する。 4.シャアに対する動揺。調査をしたい。 5.蟲のキャスターと組みつつも警戒。 [備考] ※シャア・アズナブルをマスターであると認識しました。 ※中等部に在籍しています。 ※校門の蟲の一方に気付きました。 ※キャスター(シアン)のパラメーターを確認済み。 ※蟲のキャスター(シアン)と同盟を結びました。今夜十二時に、学園の校舎裏に来るという情報を得ました。 ※ほむら、シオン、ケイネスの容姿を聞きました。確定はしてませんが、マスターという前提で対応します。接触後は同盟、情報交換、交戦など、その時の状況で判断します。 ※シオンの姿、およびジョセフの姿とパラメータを確認。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。 【ランサー(セルベリア・ブレス)@戦場のヴァルキュリア】 [状態]:魔力充填 [装備]:Ruhm [道具]:ヴァルキュリアの盾、ヴァルキュリアの槍 [思考・状況] 基本行動方針:『物』としてマスターに扱われる。 1.ミカサ・アッカーマンの護衛。 [備考] ※暁美ほむらを魂喰いしました。短時間ならば問題なくヴァルキュリア人として覚醒できます。 ※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。 ※現在の時刻は少なくともB-4での鬼眼王出現前です。 **「[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]」に続く ---- |BACK||NEXT| |130-a:[[失楽園-Paradise Lost-]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|130-c:[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]| |130-a:[[失楽園-Paradise Lost-]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|130-c:[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |114-c:[[失楽園-Paradise Lost-]]|[[シオン・エルトナム・アトラシア]]&アーチャー([[ジョセフ・ジョースター]])|136:[[スカイ・イクリプス Sky Eclipse]]| |~|[[ミカサ・アッカーマン]]&ランサー([[セルベリア・ブレス]])|~| |~|[[ケイネス・エルメロイ・アーチボルト]]&キャスター([[ヴォルデモート]])|130-c:[[蛇の誘惑-Allure of Darkness-]]|

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