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*前門の学園、後門のヴォルデモート ◆OSPfO9RMfA  アーチャー、アシタカは、自身のマスター、東風谷早苗を抱きかかえて山を駆ける。  生い茂った樹木、風に揺れる木漏れ日、草木の臭い、鳥のさえずり……再現された自然は、ここが電子空間だと知っていても、にわかには信じがたいほどのリアリティがあった。  しかし、獣の数は少ない。熊、狼、猪、馬、鹿など、人よりも大きい、もしくは凶暴な動物はほとんど見当たらない。小鳥、リス、狸、狐、虫、兎……おおよそ、人の脅威になりようにない小動物しか見受けられない。  人里近くと言うこともあり、危険な動物は駆逐されてしまったと言うことなのだろうか。  ――これがこの時代の、自然か。  そんな感傷を抱きながらも、アシタカは木々の隙間をかいくぐる。 ◆  ――話は数時間前に遡る。   『アーチャー。白野さんのこと、アキトさんに伝えた方がいいでしょうか?』  教会を出て歩きながら、早苗はアシタカに尋ねる。  周囲には使い魔らしき斥候が居るとのことで、念話で会話だ。  岸波白野。裁定者カレン曰く、月の聖杯について知るマスター。  早苗の目的は、テンカワ・アキトが人殺しをすることを止めること。引いては聖杯戦争そのものを止めることだ。  その為、早苗は彼女の助言に従い、彼を捜すつもりだった。  だが、その前にアキトと交戦し、どちらかが死んでしまえば元も子もない。  故に、アキトに白野と交戦しないようお願いした方がいいのではないかと考える。 『しかし、その白野殿の容姿はわかるのだろうか? さすがにそれも分からなければ、さすがにアキト殿も困るであろう』 『た、確かにそうですね……』  戦国武将や騎士のように、交戦前に名乗りを上げるとは限らない。むしろ、名乗らない方が多いだろう。いちいち名を聞いては不意打ちもできず、戦闘にも支障が出る。  元々、アキトの人殺しを止めたいというのは、早苗の我が儘でしかない。アキトに『交戦前に相手の名前を確認し、それが白野であれば攻撃を行わないようにしてもらう』などとお願いするのは、如何せん無理があるだろう。 『せめて、容姿が分かれば……あ』  一瞬だけ、早苗の記憶に掛かった霧が晴れる。 『思い出しました。白野さん、確か私のクラスメイトです』 『そうなのか?』 『……た、たぶん。少なくとも、学生服を着てたはずなんで、学園生だとは思います』  アシタカに確認を求められると、狼狽するぐらいにはあやふやな記憶。NPC時代の、『方舟』に与えられた仮初めの記憶だ。ひょっとしたら去年のクラスメイトだったかもしれないし、一度もクラスメイトになったことはなかったかもしれない。  けれども、岸波白野と言う名の人物が、学生服を着ていたのを思い出した。  もっとも、相変わらず顔は思い出せないままだし、カレンの言っていた人物が早苗の記憶上の人物とも限らない。  それでも、一目見ればおそらく思い出すだろう。 『だが、他に当てはない。闇雲に探すよりは良いだろう』 『ありがとうございます。では、学園に行きましょう。職員室に生徒名簿があると思います』  早苗は学園に行くことにした。  早苗の家にある連絡網や卒業アルバムに、岸波白野の名や連絡先があるかもしれない。また、学園に行くのであれば、早苗の家にある学生服を着ていった方が良いだろう。  だが、彼女の家はC-9にある。今はD-5だ。学園とは反対側にあり、戻るには遠い。  その為、確実に連絡先が分かるであろう学園の生徒名簿に目を付けた。 『忍び込むのか?』 『あまり時間も掛けてられませんし……やっぱり、まずいでしょうか』 『いや、そうではない。マスターらしいと思っただけだ』  元々、ここは『方舟』が聖杯戦争を行うために作り上げた空間だ。殺人をも容認される――と言うより、それを目的とした――無法の地である。己の良心に従い、聖杯戦争を止めると行動する早苗の方がイレギュラーに近い。  一度決めたら、目標に向けて恐れることなく真っ直ぐ前に進む。  彼女らしい姿に、アシタカは嬉しそうに微笑んだ。 『では、バス亭に行きましょうか。あ、でもバスでの移動はあまりしない方がいいんでしたっけ』 『私がマスターを抱きかかえ、学園南の森を駆けるのはどうだろうか』  アシタカの提案に、早苗は顔を朱に染める。 『え、だ、抱きかかえられるん、ですか?』 『森の中なら、人目を気にすることもない。敵の攻撃が来ても早苗殿を庇って避けるのも容易だ。ルートの決まっているバスよりも安全で速いはず』 『で、でも……私、重くないですか?』  アシタカの提案は理にかなっている。だが、早苗は恥ずかしそうに小声で返す。 『大丈夫だ、マスターは木の葉より軽い』 『うう……ずるいです……』  早苗は恨めしそうに、上目遣いでアシタカを見上げた。 ◆  一人と一騎が山を駆ける。  速さはそれほどでもない、精々自転車程度の速度だろうか。樹木などの障害物が多いので、早苗に当たらないよう、アシタカが注意して駆けているからだ。  それでも教会にいた使い魔達は簡単に撒くことができた。そもそも追ってこなかったのかもしれない。 『マップは長方形に区切られてますけど、区切られた先には何があるんでしょうか?』  早苗は南側を見つめながら、念話でアシタカに尋ねる。見える範囲には、壁らしきものは存在しない。 『分からぬ。聖杯から与えられた知識の中には無いな。後で試しに矢を撃ってみよう』 『あ、いえ、そこまでしなくてもいいです』 『ふむ、そうか』  早苗にとっては余り重要な事ではないのだろう。ただの世間話で終わる。 『マスターが住む幻想郷もこのような自然なのだろうか』 『そうですね……もっと自然は多いですね。バスや車はありませんし、ビルもありません。もっとも、山に住んでいるのは、私達以外はほとんど妖怪なんですけどね』 『妖怪……あやかしか』 『えぇ、ほとんど天狗と河童です。あと神様も住んでます』 『なるほど。幻想郷は私が生きていた世界と似ているのだな……と、マスター。ここから北上すれば学園だが、念のため学園の位置を確認しておきたい。少し待って貰えるだろうか』 『はい、わかりました』  アシタカは会話を打ち切り、ちょうど開けた丘のあるところで足を止める。早苗をその場で下ろすと、背の高い枝にめがけて跳んだ。ビルの三階に匹敵する高さまで一回の跳躍で辿り着く。 『む、あれは……』 『どうしたんですか?』 『マスター、私の視覚を使ってもらえないだろうか』 『え、えっと……こうかな?』  早苗は瞳を閉じる。他者の視覚を使うことは今までに一度もなかったが、『方舟』に与えられた知識でやってみると、思いの外すんなりとできた。  まず、視界の高さが違った。今、アシタカは早苗よりも10mは高い位置にいる。早苗を囲うように生えている樹木は、今度は見下ろす形となった。  そして、視界の距離。ピントが自動で直ぐに合う望遠鏡を使ったみたいに、数キロ離れた先までくっきりと見える。  アシタカの視界の先、それは学園の屋上だった。  そこにいたのは、ただならぬ様子の人影。学生服を着た少女が一人、橙色の衣を羽織った少女が一人、そして黄金の鎧を身に纏う男……おそらく、サーヴァント。さらに、紫髪の少女の隣にも霊体化したサーヴァントの気配があった。  アシタカの視覚を借りて早苗が見ると、3つの人影の内、2つにパラメータが見て取れた。 『アーチャー、橙色の衣を着た女性はサーヴァントです。クラスはキャスター。そして、黄金の鎧の男性がセイバーです』 『なるほど。学生服を着た少女の側に霊体化したサーヴァントがいる。彼女はおそらくマスターだろう』 『ですね……あれ? シオンさんかな?』  白野に関してはあまり覚えのない早苗だったが、シオンについては記憶にあった。エジプトの交換留学生で、長い紫髪を三つ編みにしているという、色々な意味で特徴的な人だった。 『知り合いなのか?』 『いえ、有名な人で一方的に知ってますけど、面識はないです』 『そうか』  もっとも、本名であるシオン・エルトナム・アトラシアの長い名を覚えている訳ではない。ファーストネームを覚える程度の興味だ。話し掛けたこともないし、どのクラスかも知らない。 『しかし、一触即発な様子だ。戦闘が起きるかもしれない』  一人と二騎が三すくみの状況でにらみ合っているように見える。何か会話もしているようだが、早苗にもアシタカにも読唇術はないのでわからない。 『あっ――!』  不意に、キャスターが爆散した。その死に様に、早苗は視覚の共有を切ってしまう。  一方、アシタカはキャスターを凝視する。不気味な笑みを浮かべ、身体を蟲と化しながら、散っていく様を。  そしてキャスターが居なくなると、セイバーも姿を消す。残されたのはシオンだけだった。  アシタカは枝から飛び降りると、口元を抑える早苗の肩に手を置く。 『マスター、少し話がしたい。大丈夫だろうか』 『あ、はい……大丈夫です』  吐き気を堪えながらも、早苗は気丈に振る舞う。 『今、学園には三騎か四騎、もしくはそれ以上のサーヴァントがいる』 『三騎か四騎?』 『そうだ』  早苗の問いに、アシタカは頷く。 『まずはセイバー。あの中では私が一番危惧するサーヴァントだ』 『そうなんですか?』 『ああ。これから私達は学園に向かう。学園は死角が多く、敵の発見も遅れる。戦いとなれば、おそらく近接戦となる。近接戦は不得手ではないが、セイバーと対等に戦えるほどではない』 『なるほど……』  宝具やスキルは分からないが、『セイバーは近接戦に強い』という推測だ。例外が数多存在するのが聖杯戦争だが、その推測の仕方は間違ってはいない。 『次に、シオン殿のサーヴァント。こちらもクラスは分からない。セイバーやランサーであれば、あの姿を現したセイバーと同様、苦戦するだろう』 『そうですね』  早苗はシオンが聖杯戦争に何を求めているか知らない。敵対し、交戦する可能性も当然ありうると視野に入れる。 『そして、攻撃を受けたキャスター』 『え? あのキャスターは死んだんじゃ……』 『基本的に、サーヴァントは生前の願いを叶えるために聖杯戦争に望んでいる。もし仮に私に願いがあって、その上で敗れる時、私ならあのように嗤わない。足掻き藻掻いてでも戦う。あの笑みは、末期に見せる笑みではない』 『じゃあ、どういう事なんですか?』 『宝具かスキルか魔術か、如何なる手を使っての身代わりではないだろうか。勿論、私の推測が外れ、あの攻撃で脱落した可能性も十分にある』 『でも、注意するに越したことはない。そう言うことですね』 『その通りだ』  意見があった一人と一騎は、顔を見合わせて頷く。 『けど、三騎か四騎と言うのは?』 『キャスターに攻撃をしたサーヴァントだ。様子からして、あの場に居た二騎のものではないとは思う。校舎の中か影か、視界外に居た可能性がある』 『樹木も邪魔で、校庭とか見えなかったですしね』 『ただ、あの攻撃はキャスター自身かもしれない。“キャスターは脱落した”。そう思わせるための自作自演の可能性もある』 『だから、三騎か四騎なんですね』 『そうだ』  アシタカは頷く。これで状況確認は終わった。 『それでマスター、これからどうする?』 『これから、ですか?』 『今から学園に向かえば、先ほどのセイバーやシオン殿、キャスターに遭遇する可能性は高い。日が暮れるまでここで待ち、夜に行く方が教師や生徒などのNPCも少なく、より忍び込みやすくなるだろう』 『でも、セイバーやシオンさん達が夜になったら学園から居なくなる保証も無いんですよね』 『そうだ。その場合、時間を無為に過ごすことになる。あるいは今より状況が悪くなる可能性も無いわけではない』 『……』  早苗は会話を切り、思案する。  今行くか、まだ留まるべきか。  重要な選択だ。この選択によって今後が大きく変わるだろう。  しかし、アシタカは早苗の助言や助力はしても、行く末を指図することはない。最終的には早苗が決断すべき事柄だ。  早苗は悩み、アシタカはそれを見守る。  ――だが、彼女達は知らない。  彼女達のすぐ側に、リドルの館が――『名前を言ってはいけないあの人』の工房があるということを。 【D-3/リドルの館付近/一日目 夕方】 【東風谷早苗@東方Project】 [状態]:健康 [令呪]:残り2画 [装備]:なし [道具]:今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか [所持金]:一人暮らしには十分な仕送り [思考・状況] 基本行動方針:誰も殺したくはない。誰にも殺し合いをさせたくない。 0.今から学園に向かうか、夜までこの場に留まるか、選択する。 1.岸波白野を探す為に学園の職員室に侵入し、生徒名簿から連絡先を探る。 2.岸波白野を探し、聖杯について聞く。 3.少女(れんげ)が心配。 4.聖杯が誤りであると証明し、アキトを説得する。 5.そのために、聖杯戦争について正しく知る。 6.白野の事を、アキトに伝えるかはとりあえず保留。 [備考] ※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。 ※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが、あくまで外観的情報です。名前は把握していません。 ※カレンから岸波白野の名前を聞きました。その名前に聞き覚えはありますが、よく思い出せません。  →クラスメイトだったような気がしています。あやふやな記憶なので、実際は違うかも知れません。 ※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。 ※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。 ※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)のパラメータを確認済み。 ※アキトの根城、B-9の天河食堂を知りました。 ※シオンについては『エジプトからの交換留学生』と言うことと、容姿、ファーストネームしか知らず、面識もありません。 【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】 [状態]:健康 [令呪] 1. 『聖杯戦争が誤りであると証明できなかった場合、私を殺してください』 [装備]:現代風の服 [道具]:現代風の着替え [思考・状況] 基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る。 1.早苗を護る。 2.使い魔などの監視者を警戒する。 3.学園に居るサーヴァントを警戒。 [備考] ※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。 ※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。 ※教会の周辺に、複数の魔力を持つモノの気配を感知しました。 [共通備考] ※キャスター(暁美ほむら)、武智乙哉の姿は見ていません。 ※キャスター(ヴォルデモート)の工房である、リドルの館の存在に気付いていません。 ※リドルの館付近に使い魔はいません。 ※『方舟』の『行き止まり』について、確認していません。 ※セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)、シオンとそのサーヴァントの存在を把握しました。また、キャスター(シアン)を攻撃した別のサーヴァントが存在する可能性も念頭に置いています。 ※キャスター(シアン)はまだ脱落していない可能性も念頭に置いてます。 ---- |BACK||NEXT| |117:[[DANGEROUS]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|119:[[会談場の決意者]]| |117:[[DANGEROUS]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|119:[[会談場の決意者]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |113:[[角笛(届かず)]]|[[東風谷早苗]]&アーチャー([[アシタカ]])|:[[]]| &link_up(▲上へ)
*前門の学園、後門のヴォルデモート ◆OSPfO9RMfA  アーチャー、アシタカは、自身のマスター、東風谷早苗を抱きかかえて山を駆ける。  生い茂った樹木、風に揺れる木漏れ日、草木の臭い、鳥のさえずり……再現された自然は、ここが電子空間だと知っていても、にわかには信じがたいほどのリアリティがあった。  しかし、獣の数は少ない。熊、狼、猪、馬、鹿など、人よりも大きい、もしくは凶暴な動物はほとんど見当たらない。小鳥、リス、狸、狐、虫、兎……おおよそ、人の脅威になりようにない小動物しか見受けられない。  人里近くと言うこともあり、危険な動物は駆逐されてしまったと言うことなのだろうか。  ――これがこの時代の、自然か。  そんな感傷を抱きながらも、アシタカは木々の隙間をかいくぐる。 ◆  ――話は数時間前に遡る。   『アーチャー。白野さんのこと、アキトさんに伝えた方がいいでしょうか?』  教会を出て歩きながら、早苗はアシタカに尋ねる。  周囲には使い魔らしき斥候が居るとのことで、念話で会話だ。  岸波白野。裁定者カレン曰く、月の聖杯について知るマスター。  早苗の目的は、テンカワ・アキトが人殺しをすることを止めること。引いては聖杯戦争そのものを止めることだ。  その為、早苗は彼女の助言に従い、彼を捜すつもりだった。  だが、その前にアキトと交戦し、どちらかが死んでしまえば元も子もない。  故に、アキトに白野と交戦しないようお願いした方がいいのではないかと考える。 『しかし、その白野殿の容姿はわかるのだろうか? さすがにそれも分からなければ、さすがにアキト殿も困るであろう』 『た、確かにそうですね……』  戦国武将や騎士のように、交戦前に名乗りを上げるとは限らない。むしろ、名乗らない方が多いだろう。いちいち名を聞いては不意打ちもできず、戦闘にも支障が出る。  元々、アキトの人殺しを止めたいというのは、早苗の我が儘でしかない。アキトに『交戦前に相手の名前を確認し、それが白野であれば攻撃を行わないようにしてもらう』などとお願いするのは、如何せん無理があるだろう。 『せめて、容姿が分かれば……あ』  一瞬だけ、早苗の記憶に掛かった霧が晴れる。 『思い出しました。白野さん、確か私のクラスメイトです』 『そうなのか?』 『……た、たぶん。少なくとも、学生服を着てたはずなんで、学園生だとは思います』  アシタカに確認を求められると、狼狽するぐらいにはあやふやな記憶。NPC時代の、『方舟』に与えられた仮初めの記憶だ。ひょっとしたら去年のクラスメイトだったかもしれないし、一度もクラスメイトになったことはなかったかもしれない。  けれども、岸波白野と言う名の人物が、学生服を着ていたのを思い出した。  もっとも、相変わらず顔は思い出せないままだし、カレンの言っていた人物が早苗の記憶上の人物とも限らない。  それでも、一目見ればおそらく思い出すだろう。 『だが、他に当てはない。闇雲に探すよりは良いだろう』 『ありがとうございます。では、学園に行きましょう。職員室に生徒名簿があると思います』  早苗は学園に行くことにした。  早苗の家にある連絡網や卒業アルバムに、岸波白野の名や連絡先があるかもしれない。また、学園に行くのであれば、早苗の家にある学生服を着ていった方が良いだろう。  だが、彼女の家はC-9にある。今はD-5だ。学園とは反対側にあり、戻るには遠い。  その為、確実に連絡先が分かるであろう学園の生徒名簿に目を付けた。 『忍び込むのか?』 『あまり時間も掛けてられませんし……やっぱり、まずいでしょうか』 『いや、そうではない。マスターらしいと思っただけだ』  元々、ここは『方舟』が聖杯戦争を行うために作り上げた空間だ。殺人をも容認される――と言うより、それを目的とした――無法の地である。己の良心に従い、聖杯戦争を止めると行動する早苗の方がイレギュラーに近い。  一度決めたら、目標に向けて恐れることなく真っ直ぐ前に進む。  彼女らしい姿に、アシタカは嬉しそうに微笑んだ。 『では、バス亭に行きましょうか。あ、でもバスでの移動はあまりしない方がいいんでしたっけ』 『私がマスターを抱きかかえ、学園南の森を駆けるのはどうだろうか』  アシタカの提案に、早苗は顔を朱に染める。 『え、だ、抱きかかえられるん、ですか?』 『森の中なら、人目を気にすることもない。敵の攻撃が来ても早苗殿を庇って避けるのも容易だ。ルートの決まっているバスよりも安全で速いはず』 『で、でも……私、重くないですか?』  アシタカの提案は理にかなっている。だが、早苗は恥ずかしそうに小声で返す。 『大丈夫だ、マスターは木の葉より軽い』 『うう……ずるいです……』  早苗は恨めしそうに、上目遣いでアシタカを見上げた。 ◆  一人と一騎が山を駆ける。  速さはそれほどでもない、精々自転車程度の速度だろうか。樹木などの障害物が多いので、早苗に当たらないよう、アシタカが注意して駆けているからだ。  それでも教会にいた使い魔達は簡単に撒くことができた。そもそも追ってこなかったのかもしれない。 『マップは長方形に区切られてますけど、区切られた先には何があるんでしょうか?』  早苗は南側を見つめながら、念話でアシタカに尋ねる。見える範囲には、壁らしきものは存在しない。 『分からぬ。聖杯から与えられた知識の中には無いな。後で試しに矢を撃ってみよう』 『あ、いえ、そこまでしなくてもいいです』 『ふむ、そうか』  早苗にとっては余り重要な事ではないのだろう。ただの世間話で終わる。 『マスターが住む幻想郷もこのような自然なのだろうか』 『そうですね……もっと自然は多いですね。バスや車はありませんし、ビルもありません。もっとも、山に住んでいるのは、私達以外はほとんど妖怪なんですけどね』 『妖怪……あやかしか』 『えぇ、ほとんど天狗と河童です。あと神様も住んでます』 『なるほど。幻想郷は私が生きていた世界と似ているのだな……と、マスター。ここから北上すれば学園だが、念のため学園の位置を確認しておきたい。少し待って貰えるだろうか』 『はい、わかりました』  アシタカは会話を打ち切り、ちょうど開けた丘のあるところで足を止める。早苗をその場で下ろすと、背の高い枝にめがけて跳んだ。ビルの三階に匹敵する高さまで一回の跳躍で辿り着く。 『む、あれは……』 『どうしたんですか?』 『マスター、私の視覚を使ってもらえないだろうか』 『え、えっと……こうかな?』  早苗は瞳を閉じる。他者の視覚を使うことは今までに一度もなかったが、『方舟』に与えられた知識でやってみると、思いの外すんなりとできた。  まず、視界の高さが違った。今、アシタカは早苗よりも10mは高い位置にいる。早苗を囲うように生えている樹木は、今度は見下ろす形となった。  そして、視界の距離。ピントが自動で直ぐに合う望遠鏡を使ったみたいに、数キロ離れた先までくっきりと見える。  アシタカの視界の先、それは学園の屋上だった。  そこにいたのは、ただならぬ様子の人影。学生服を着た少女が一人、橙色の衣を羽織った少女が一人、そして黄金の鎧を身に纏う男……おそらく、サーヴァント。さらに、紫髪の少女の隣にも霊体化したサーヴァントの気配があった。  アシタカの視覚を借りて早苗が見ると、3つの人影の内、2つにパラメータが見て取れた。 『アーチャー、橙色の衣を着た女性はサーヴァントです。クラスはキャスター。そして、黄金の鎧の男性がセイバーです』 『なるほど。学生服を着た少女の側に霊体化したサーヴァントがいる。彼女はおそらくマスターだろう』 『ですね……あれ? シオンさんかな?』  白野に関してはあまり覚えのない早苗だったが、シオンについては記憶にあった。エジプトの交換留学生で、長い紫髪を三つ編みにしているという、色々な意味で特徴的な人だった。 『知り合いなのか?』 『いえ、有名な人で一方的に知ってますけど、面識はないです』 『そうか』  もっとも、本名であるシオン・エルトナム・アトラシアの長い名を覚えている訳ではない。ファーストネームを覚える程度の興味だ。話し掛けたこともないし、どのクラスかも知らない。 『しかし、一触即発な様子だ。戦闘が起きるかもしれない』  一人と二騎が三すくみの状況でにらみ合っているように見える。何か会話もしているようだが、早苗にもアシタカにも読唇術はないのでわからない。 『あっ――!』  不意に、キャスターが爆散した。その死に様に、早苗は視覚の共有を切ってしまう。  一方、アシタカはキャスターを凝視する。不気味な笑みを浮かべ、身体を蟲と化しながら、散っていく様を。  そしてキャスターが居なくなると、セイバーも姿を消す。残されたのはシオンだけだった。  アシタカは枝から飛び降りると、口元を抑える早苗の肩に手を置く。 『マスター、少し話がしたい。大丈夫だろうか』 『あ、はい……大丈夫です』  吐き気を堪えながらも、早苗は気丈に振る舞う。 『今、学園には三騎か四騎、もしくはそれ以上のサーヴァントがいる』 『三騎か四騎?』 『そうだ』  早苗の問いに、アシタカは頷く。 『まずはセイバー。あの中では私が一番危惧するサーヴァントだ』 『そうなんですか?』 『ああ。これから私達は学園に向かう。学園は死角が多く、敵の発見も遅れる。戦いとなれば、おそらく近接戦となる。近接戦は不得手ではないが、セイバーと対等に戦えるほどではない』 『なるほど……』  宝具やスキルは分からないが、『セイバーは近接戦に強い』という推測だ。例外が数多存在するのが聖杯戦争だが、その推測の仕方は間違ってはいない。 『次に、シオン殿のサーヴァント。こちらもクラスは分からない。セイバーやランサーであれば、あの姿を現したセイバーと同様、苦戦するだろう』 『そうですね』  早苗はシオンが聖杯戦争に何を求めているか知らない。敵対し、交戦する可能性も当然ありうると視野に入れる。 『そして、攻撃を受けたキャスター』 『え? あのキャスターは死んだんじゃ……』 『基本的に、サーヴァントは生前の願いを叶えるために聖杯戦争に望んでいる。もし仮に私に願いがあって、その上で敗れる時、私ならあのように嗤わない。足掻き藻掻いてでも戦う。あの笑みは、末期に見せる笑みではない』 『じゃあ、どういう事なんですか?』 『宝具かスキルか魔術か、如何なる手を使っての身代わりではないだろうか。勿論、私の推測が外れ、あの攻撃で脱落した可能性も十分にある』 『でも、注意するに越したことはない。そう言うことですね』 『その通りだ』  意見があった一人と一騎は、顔を見合わせて頷く。 『けど、三騎か四騎と言うのは?』 『キャスターに攻撃をしたサーヴァントだ。様子からして、あの場に居た二騎のものではないとは思う。校舎の中か影か、視界外に居た可能性がある』 『樹木も邪魔で、校庭とか見えなかったですしね』 『ただ、あの攻撃はキャスター自身かもしれない。“キャスターは脱落した”。そう思わせるための自作自演の可能性もある』 『だから、三騎か四騎なんですね』 『そうだ』  アシタカは頷く。これで状況確認は終わった。 『それでマスター、これからどうする?』 『これから、ですか?』 『今から学園に向かえば、先ほどのセイバーやシオン殿、キャスターに遭遇する可能性は高い。日が暮れるまでここで待ち、夜に行く方が教師や生徒などのNPCも少なく、より忍び込みやすくなるだろう』 『でも、セイバーやシオンさん達が夜になったら学園から居なくなる保証も無いんですよね』 『そうだ。その場合、時間を無為に過ごすことになる。あるいは今より状況が悪くなる可能性も無いわけではない』 『……』  早苗は会話を切り、思案する。  今行くか、まだ留まるべきか。  重要な選択だ。この選択によって今後が大きく変わるだろう。  しかし、アシタカは早苗の助言や助力はしても、行く末を指図することはない。最終的には早苗が決断すべき事柄だ。  早苗は悩み、アシタカはそれを見守る。  ――だが、彼女達は知らない。  彼女達のすぐ側に、リドルの館が――『名前を言ってはいけないあの人』の工房があるということを。 【D-3/リドルの館付近/一日目 夕方】 【東風谷早苗@東方Project】 [状態]:健康 [令呪]:残り2画 [装備]:なし [道具]:今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか [所持金]:一人暮らしには十分な仕送り [思考・状況] 基本行動方針:誰も殺したくはない。誰にも殺し合いをさせたくない。 0.今から学園に向かうか、夜までこの場に留まるか、選択する。 1.岸波白野を探す為に学園の職員室に侵入し、生徒名簿から連絡先を探る。 2.岸波白野を探し、聖杯について聞く。 3.少女(れんげ)が心配。 4.聖杯が誤りであると証明し、アキトを説得する。 5.そのために、聖杯戦争について正しく知る。 6.白野の事を、アキトに伝えるかはとりあえず保留。 [備考] ※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。 ※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが、あくまで外観的情報です。名前は把握していません。 ※カレンから岸波白野の名前を聞きました。その名前に聞き覚えはありますが、よく思い出せません。  →クラスメイトだったような気がしています。あやふやな記憶なので、実際は違うかも知れません。 ※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。 ※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。 ※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)のパラメータを確認済み。 ※アキトの根城、B-9の天河食堂を知りました。 ※シオンについては『エジプトからの交換留学生』と言うことと、容姿、ファーストネームしか知らず、面識もありません。 【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】 [状態]:健康 [令呪] 1. 『聖杯戦争が誤りであると証明できなかった場合、私を殺してください』 [装備]:現代風の服 [道具]:現代風の着替え [思考・状況] 基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る。 1.早苗を護る。 2.使い魔などの監視者を警戒する。 3.学園に居るサーヴァントを警戒。 [備考] ※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。 ※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。 ※教会の周辺に、複数の魔力を持つモノの気配を感知しました。 [共通備考] ※キャスター(暁美ほむら)、武智乙哉の姿は見ていません。 ※キャスター(ヴォルデモート)の工房である、リドルの館の存在に気付いていません。 ※リドルの館付近に使い魔はいません。 ※『方舟』の『行き止まり』について、確認していません。 ※セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)、シオンとそのサーヴァントの存在を把握しました。また、キャスター(シアン)を攻撃した別のサーヴァントが存在する可能性も念頭に置いています。 ※キャスター(シアン)はまだ脱落していない可能性も念頭に置いてます。 ---- |BACK||NEXT| |117:[[DANGEROUS]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|119:[[会談場の決意者]]| |117:[[DANGEROUS]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|119:[[会談場の決意者]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |113:[[角笛(届かず)]]|[[東風谷早苗]]&アーチャー([[アシタカ]])|145:[[カイロスの前髪は掴むべきか?]]| &link_up(▲上へ)

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