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*忍音 ◆OSPfO9RMfA  時計の針が12時を指す。  早まることもなく、遅くなることもなく、ルーラーからの定時通達が行われた。  研究室の一室で、一人と一騎がそれを聞く。 「"ますたあ"よ、どう思う?」 「ルーラーを排除する方針、一旦留保する」  アサシンのサーヴァント、甲賀弦之介の問いに、電人HALは淡々と答えた。  HALはルーラーは監視役として力不足だと思っていた。  故に、ルーラーを排除することも可能ではないかと考えていた。  だが、ルーラーからの定時通達は予想以上だった。  予想以上に、ルーラーは無力であった。  通達を聞くに、おそらくB-4地域で大量無差別に一般NPCを襲った主従が居たのであろう。しかし、全体への通達にて“警告”としている。  まるで『違反してるのは分かったけれども、犯人や証拠は分かっていません』と言わんばかりだ。  さらにもう一点。『たとえNPCを直接殺害等はしなかったとしても、“この冬木の街の日常を著しく脅かすこととなる場合”、処罰の対象となる可能性がある』とも言った。  逆に言えば、『NPCに間接的に何かをしたとしても、日常を著しく脅かさなければ処罰の対象にならない』と言ってるようなものだ。  現に、大学にいるNPCの多くを洗脳しているHALだが、こちらに警告などは無かった。  ひょっとすると、街に存在するNPC全てを洗脳したとしても、指示が日常に問題のない範囲であるのならば、ペナルティは無いのではないだろうか。  そうとすら思えてしまう。  ルーラーはHAL達にとってさしたる障害には成り得ないと判断した。  むしろ、生かしておいて、他の主従への抑止力として利用した方が良い。  HALはそう判断し、弦之介も同意する。 「しかし、"ますたあ"よ。一点だけ、気になることがある」 「なんだろうか?」 「"るぅらぁ"達は"びぃよん"での不正行為、如何に知り得たであろうか」 「ふむ」  確かに不自然だ。『犯人も証拠も分からない。けど違反したのは分かる』。それは一体どういう状況なのだろうか。  ――『方舟』自身が参加者を監視し、違反者を消せばよいだけではないか。  ふと、自身が早朝に考えていたことを思い出す。 「『方舟』が違反を察知し、ルーラーに通知している?」 「その可能性、無いとは言えないのではないだろうか」  なるほど。『方舟』ならば、どこで何が起きたかはわかるはずだ。  そしてルーラーに違反があったと指示したが、ルーラーにはそれに対応するだけの能力が無かった。  そう考えると、一応つじつまは合う。  そしてもし、これが正しいのであれば。  HAL達がルーラーには分からぬように違反をしたとしても、『方舟』を経由して、違反をしたことがばれてしまう危険性があると言うことだ。 「"るぅらぁ"は実力不足かも知れぬ。けれども、油断は禁物だ」 「そうだな。あくまで慎重にいこう」  HALは弦之介の意見を聞き、素直に取り入れる。  自身の油断。それを諫めてくれた事に感謝する。 「"るぅらぁ"の調査は続行しよう。あって困る物ではない。"びぃよん"については如何する?」 「ルーラーに関しては頼む。B-4には洗脳したNPCを何人か向かわせる」 「承知した」 ◆  一人と一騎の談合はまだまだ続く。 「B-10の暴行事件について、情報を共有する」 「承ろう」  HALは弦之介に向かってそう言った。  彼には基本的にC-6の錯刃大学、錯刃大学付属の大学病院の見張りを任せている。  故に、B-10での暴行事件はテレビやネットでHALは知っているものの、弦之介はほとんど知らないはずだ。  従って、この場で情報を共有することにする。 「午前、B-10にて、ジナコを名乗る女が令呪を見せびらかし暴行行為を行った。その様子は生放送のニュースにて公開されている。その時の映像がこちらだ」  パソコンで保存した動画を再生させ、弦之介に見せる。 「調べた結果、この女は『ジナコ=カリギリ』。29歳。月海原学園の補欠教員。B-10の一軒家に在住。NPC時代に犯罪歴は無し。NPC時代の動向を考えるに、犯行を起こしたのは本人ではないだろう。他の者による社会的攻撃。そう見ている」  HALはハッキングなどを駆使し、彼女の個人情報をかき集めた。  NPC時代の言動と、予選通過後のマスターの言動は異なるかも知れないが、そこまで大きな差違はないであろうとの考えであった。 「生前、身内に他人に成りすます術を持つ忍びが居た。敵を欺き、濡れ衣を着せる。そのような謀略の使い手であろう。警戒すべき相手だ」  弦之介もHALに同意する。それどころか、実際に暴れた女はその身内かも知れない。  その人物の情報を伝え、尚のこと注意するよう、HALに進言する。 「して、どのように対処する?」 「まず、なりすまされたジナコと言う女。彼女は実際にマスターだと考える。そこで、彼女の個人情報をネットにばらまいておいた」 「彼奴に便乗する、というわけだな」  HALは手に入れたジナコの個人情報を、掲示板や交流サイトにて、NPCを装いながら、別垢、他串などを利用して晒していった。  他の主従の目に着けば、他の主従がジナコを襲う確率が高くなると判断したからだ。 「あとはB-10にも洗脳したNPCを何人か向かわせる。それぐらいだ」 「住所が知れているのか。わしが暗殺することも可能ではあるが」 「いや、止めておこう。彼女の持つサーヴァントは未だ不明だ。それに、ここを留守にしてしまう」 「承知」  『ジナコを暗殺しに行ったら、セイバーが待っていました』なんて状況になっては困る。  弦之介は迎撃に特化したアサシンであり、飛び抜けて暗殺が得意という訳ではない。  加えて、午前に襲撃を受けたばかりだ。一時とはいえ、弦之介が離れるのは危険と判断する。  それに、今ここで、無理にどうしてもジナコの首を獲らなければならない、というほど切迫しているわけでもない。  洗脳したNPCによる偵察と、ジナコへの社会的攻撃をするだけに控えることとした。 「それから、この女が言っていた『アーカード』と言う名が気になった」 「ほう、他のマスターの名……もしくは、サーヴァントの真名か」 「病院の検索装置で調べた結果、『アーカード』と言う英霊が居ることが分かった。が、さらに気になることがあった」 「それは?」 「『アーカード』は吸血鬼だ。そこで吸血鬼についても調べたが……まずはコレを見て欲しい」  パソコンの画面に、『Dracula』と綴る。 「吸血鬼は英字で『Dracula』と書く。これを逆にすると『Alucard』となる。そして、『Alucard』の綴りをもじった吸血鬼は数多い」  Alucard――アルカード  Arcueid――アルクェイド  Arucard――アーカード 「特に『Alucard』だけでも何十件もヒットする、よくある名だ」  アナグラム。言葉遊び。  そんな偽名使った、もしくは本名の吸血鬼が、古今東西大勢いたと言うことだ。 「つまり、"あぁかぁど"は“言い間違え”の可能性も否定できない、と?」 「そもそも、ソースはあの女の発言でしかない。出鱈目の可能性も当然あり得る」 「なるほど」  元々、他のマスターになりすまして濡れ衣を着せさせようとする相手の弁だ。その言葉を信用できるかと言えば、疑わしい。  このようにリソースを消費させること自体が目的の可能性も、否定できない。  HAL達は知らないが、この『方舟』にアーカードは確かに存在する。  しかし、彼らは“真名しか”手に入れていない。  容姿も能力もパラメーターも、何一つ知らない。  故に、情報を特定できずにいた。 「仮に、『アーカード』なる英霊が居たとしても、撃破は難しい」  アーカードは、他者と同化する性質を利用され、“毒”を盛られた事で30年雌伏を余儀なくされた逸話がある。  故に、英霊のアーカードも“服毒”に弱いと見る。  だが、その“毒”が厄介だ。  アーカードが飲んだ“毒”は、『彼が自分自身を認識出来る状態にある限り(どこにでも)存在できる』という異能を持った“毒”だ。  それに匹敵するほどの“毒”は、HALも弦之介も持ち合わせていない。電子ドラッグ程度では、悪食の彼には通用しないであろう。  アーカードは十字架や流水、太陽の光などは克服してる。  さらにアーカードで無くとも、それらの弱点を克服している吸血鬼は多い。  どこが吸血鬼なんだとは思う。 「結局は『マスター殺害』という手段が最善だ。警戒はするが、こちらから打って出る必要はない。だが、吸血鬼だけに、輸血用の血を手に入れようと病院に来るかも知れない。それだけは注意だ」 「承知した」 ◆ 「ところで"ますたあ"よ。彼奴の正体は掴めただろうか?」 「午前に襲ってきた、アイツか。非常に難儀している」  性行為を攻撃としてくるサーヴァント。それは中々に脅威で、被害は甚大だった。  病院と大学内には、電子ドラッグによって洗脳したNPCが大勢いる。彼奴の攻撃を受けたNPCは、その洗脳が解けてしまった。  そのほとんどは病院に搬送し、点滴を受けるのと同時に、再度、電子ドラッグによる洗脳を施した。  だが、全てのNPCを回収できたわけではない。  分かっているだけでも数名、洗脳が解けたまま街に繰り出したNPCがいる。  電子ドラッグによる洗脳が解けても、電子ドラッグにより洗脳されていた期間の記憶が無いことは、既に観測済みだ。  しかし、『電子ドラッグにより洗脳されていた期間の記憶が無い』ことは、再度洗脳することでしか補填できない。  NPC故に、そのことに対して疑問に思わないかもしれない。だが、他のマスターはその異常さに気付くかもしれない。  早急に打破すべき相手であるが、その正体を掴むのは難航を極めた。  単純に房中術や性技に優れた英霊もいる。だが、『英雄色を好む』との言葉があるとおり、性豪な英霊は数多い。また、サキュバスやリリスなど、他者の精を奪うことに長けた種族も存在する。  これでは絞り込むのでさえ難しい。 「しからば、進言よろしいだろうか」 「頼む」 「わしは“遠隔”にて性行為を行ったことが気になっておる。普通、性交とは密接して行うもの。性豪とて、搾精とて、遠方の他者を絶頂させる意味は、ほとんど無い」 「ふむ」  そう言う楽しみ方が無いとは言わないが、確かにそれはアブノーマルな行為だ。本来の性交の意味合いからは、ほど遠い。   「即ち、房中術や性技に優れた英霊である、と?」 「然り」  相手に一方的な肉体的快楽を与え、絶頂させる。それは“相手を戦闘不能にさせる”手段でしかない、と考えれば、なるほど合理的ではある。  武器の歴史は、近距離から遠距離へと発展していった。  房中術や性技を武器として考えるのならば、近距離から遠距離へと進化していくのも、当然の摂理である。 「それならば……だいぶ絞り込めた。確定までは至らないが、もう2,3情報があれば、確定できるだろう」 「そいつは重畳」 「では、後は見張りを頼む」 「承知」  弦之介は音もなく姿を消す。  研究所に、しばらくぶりの沈黙が訪れた。 『"ますたあ"よ、人ではない間者を見つけた』  しかし、姿を消してからまもなく、念話が入る。  人ではない間者――使い魔のことであろう。妙にはっきりとしない言い方ではあるが、続けて念話が入る。 『姿を見られずに殺めることは容易い。だが始末をすれば付近に"さぁばんと"がいることを悟られよう。如何にする?』 『始末しろ』 『御意』  既に性技に卓越したサーヴァントの襲撃を受けており、大学付近に主従が居ることは外部に漏れている。  であるならば、存在を晒すリスクより、正体を晒すリスクを下げた方がよい。  HALは即座に命令をし、報告を待った。 『間者を始末した。どうやら蛇のようだ。術か魔法か、姿を景色に擬態しておった』  なるほど。それで“人ではない間者”と報告が不明瞭だったのか。  それでも存在を把握したというのは、心眼(忍)の賜物か。 『再度使い魔を放ってくる可能性もある。警戒を怠るな』 『承知』  再び、沈黙が訪れる。  それでいい。  今は雌伏し、他者を落とすチャンスを待つのだ。 【C-6/錯刃大学・春川研究室/1日目 午後】 【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』 [道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間) [所持金] 豊富 [思考・状況] 基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。 1. ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。特にB-4、B-10。 2. ジナコへの社会的攻撃を行う。 3.『ハッキングできるマスター』はなるべく早く把握し、排除したい。 4. 性行為を攻撃として行ってくるサーヴァントに対する脅威を感じている。 [備考] ※『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。  ルーラーは、囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、監視役としては能力不足だと分析しています。  →ルーラーの排除は一旦保留しています。情報収集は継続しています。 ※大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。 ※洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。 ※C-6の病院には、洗脳済みの人間が多数入り込んでいます。 ※鏡子により洗脳が解かれたNPCが数人外部に出ています。洗脳時の記憶はありませんが、『洗脳時の記憶が無い』ことはわかります。 ※ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。  ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。 ※他の、以前の時間帯に行われた戦闘に関しても、戦闘があった地点はおおよそ把握しています。誰が戦ったのかは特定していません。 ※性行為を攻撃としてくるサーヴァントが存在することを認識しました。  →房中術や性技に長けた英霊だと考えています。 ※『アーカード』のパラメータとスキル、生前の伝承は知り得ましたが、アーカードの存在について懐疑的です。 ※ジナコの住所、プロフィール、容姿などを入手済み。別垢や他串を使い、情報を流布しています。 ※他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒しています。 【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク~甲賀忍法帖~】 [状態] 健康 [装備] 忍者刀 [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。 1. HALの戦略に従う。 2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。 3. 性行為を行うサーヴァント(鏡子)への警戒。 4.他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒。 [共通備考]  ※他人になりすます能力の使い手として、如月左衛門(@バジリスク~甲賀忍法帖~)について、主従で情報を共有しています。ただし、登場していないので、所謂ハズレ情報です。 ※ヴォルデモートが大学、病院に放った蛇の使い魔を始末しました。スキル:情報抹消があるので、弦之介の情報を得るのは困難でしょう。また、大魔王バーンの悪魔の目玉が偵察に来ていた場合も、これを始末しました。 ---- |BACK||NEXT| |095:[[吉良吉影/武智乙哉は動かない]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|097:[[近似値]]| |095:[[吉良吉影/武智乙哉は動かない]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|098:[[人の不幸は蜜の味]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |056:[[電脳淫法帖]]|[[電人HAL]]&アサシン([[甲賀弦之介]])|| &link_up(▲上へ)
*忍音 ◆OSPfO9RMfA  時計の針が12時を指す。  早まることもなく、遅くなることもなく、ルーラーからの定時通達が行われた。  研究室の一室で、一人と一騎がそれを聞く。 「"ますたあ"よ、どう思う?」 「ルーラーを排除する方針、一旦留保する」  アサシンのサーヴァント、甲賀弦之介の問いに、電人HALは淡々と答えた。  HALはルーラーは監視役として力不足だと思っていた。  故に、ルーラーを排除することも可能ではないかと考えていた。  だが、ルーラーからの定時通達は予想以上だった。  予想以上に、ルーラーは無力であった。  通達を聞くに、おそらくB-4地域で大量無差別に一般NPCを襲った主従が居たのであろう。しかし、全体への通達にて“警告”としている。  まるで『違反してるのは分かったけれども、犯人や証拠は分かっていません』と言わんばかりだ。  さらにもう一点。『たとえNPCを直接殺害等はしなかったとしても、“この冬木の街の日常を著しく脅かすこととなる場合”、処罰の対象となる可能性がある』とも言った。  逆に言えば、『NPCに間接的に何かをしたとしても、日常を著しく脅かさなければ処罰の対象にならない』と言ってるようなものだ。  現に、大学にいるNPCの多くを洗脳しているHALだが、こちらに警告などは無かった。  ひょっとすると、街に存在するNPC全てを洗脳したとしても、指示が日常に問題のない範囲であるのならば、ペナルティは無いのではないだろうか。  そうとすら思えてしまう。  ルーラーはHAL達にとってさしたる障害には成り得ないと判断した。  むしろ、生かしておいて、他の主従への抑止力として利用した方が良い。  HALはそう判断し、弦之介も同意する。 「しかし、"ますたあ"よ。一点だけ、気になることがある」 「なんだろうか?」 「"るぅらぁ"達は"びぃよん"での不正行為、如何に知り得たであろうか」 「ふむ」  確かに不自然だ。『犯人も証拠も分からない。けど違反したのは分かる』。それは一体どういう状況なのだろうか。  ――『方舟』自身が参加者を監視し、違反者を消せばよいだけではないか。  ふと、自身が早朝に考えていたことを思い出す。 「『方舟』が違反を察知し、ルーラーに通知している?」 「その可能性、無いとは言えないのではないだろうか」  なるほど。『方舟』ならば、どこで何が起きたかはわかるはずだ。  そしてルーラーに違反があったと指示したが、ルーラーにはそれに対応するだけの能力が無かった。  そう考えると、一応つじつまは合う。  そしてもし、これが正しいのであれば。  HAL達がルーラーには分からぬように違反をしたとしても、『方舟』を経由して、違反をしたことがばれてしまう危険性があると言うことだ。 「"るぅらぁ"は実力不足かも知れぬ。けれども、油断は禁物だ」 「そうだな。あくまで慎重にいこう」  HALは弦之介の意見を聞き、素直に取り入れる。  自身の油断。それを諫めてくれた事に感謝する。 「"るぅらぁ"の調査は続行しよう。あって困る物ではない。"びぃよん"については如何する?」 「ルーラーに関しては頼む。B-4には洗脳したNPCを何人か向かわせる」 「承知した」 ◆  一人と一騎の談合はまだまだ続く。 「B-10の暴行事件について、情報を共有する」 「承ろう」  HALは弦之介に向かってそう言った。  彼には基本的にC-6の錯刃大学、錯刃大学付属の大学病院の見張りを任せている。  故に、B-10での暴行事件はテレビやネットでHALは知っているものの、弦之介はほとんど知らないはずだ。  従って、この場で情報を共有することにする。 「午前、B-10にて、ジナコを名乗る女が令呪を見せびらかし暴行行為を行った。その様子は生放送のニュースにて公開されている。その時の映像がこちらだ」  パソコンで保存した動画を再生させ、弦之介に見せる。 「調べた結果、この女は『ジナコ=カリギリ』。29歳。月海原学園の補欠教員。B-10の一軒家に在住。NPC時代に犯罪歴は無し。NPC時代の動向を考えるに、犯行を起こしたのは本人ではないだろう。他の者による社会的攻撃。そう見ている」  HALはハッキングなどを駆使し、彼女の個人情報をかき集めた。  NPC時代の言動と、予選通過後のマスターの言動は異なるかも知れないが、そこまで大きな差違はないであろうとの考えであった。 「生前、身内に他人に成りすます術を持つ忍びが居た。敵を欺き、濡れ衣を着せる。そのような謀略の使い手であろう。警戒すべき相手だ」  弦之介もHALに同意する。それどころか、実際に暴れた女はその身内かも知れない。  その人物の情報を伝え、尚のこと注意するよう、HALに進言する。 「して、どのように対処する?」 「まず、なりすまされたジナコと言う女。彼女は実際にマスターだと考える。そこで、彼女の個人情報をネットにばらまいておいた」 「彼奴に便乗する、というわけだな」  HALは手に入れたジナコの個人情報を、掲示板や交流サイトにて、NPCを装いながら、別垢、他串などを利用して晒していった。  他の主従の目に着けば、他の主従がジナコを襲う確率が高くなると判断したからだ。 「あとはB-10にも洗脳したNPCを何人か向かわせる。それぐらいだ」 「住所が知れているのか。わしが暗殺することも可能ではあるが」 「いや、止めておこう。彼女の持つサーヴァントは未だ不明だ。それに、ここを留守にしてしまう」 「承知」  『ジナコを暗殺しに行ったら、セイバーが待っていました』なんて状況になっては困る。  弦之介は迎撃に特化したアサシンであり、飛び抜けて暗殺が得意という訳ではない。  加えて、午前に襲撃を受けたばかりだ。一時とはいえ、弦之介が離れるのは危険と判断する。  それに、今ここで、無理にどうしてもジナコの首を獲らなければならない、というほど切迫しているわけでもない。  洗脳したNPCによる偵察と、ジナコへの社会的攻撃をするだけに控えることとした。 「それから、この女が言っていた『アーカード』と言う名が気になった」 「ほう、他のマスターの名……もしくは、サーヴァントの真名か」 「病院の検索装置で調べた結果、『アーカード』と言う英霊が居ることが分かった。が、さらに気になることがあった」 「それは?」 「『アーカード』は吸血鬼だ。そこで吸血鬼についても調べたが……まずはコレを見て欲しい」  パソコンの画面に、『Dracula』と綴る。 「吸血鬼は英字で『Dracula』と書く。これを逆にすると『Alucard』となる。そして、『Alucard』の綴りをもじった吸血鬼は数多い」  Alucard――アルカード  Arcueid――アルクェイド  Arucard――アーカード 「特に『Alucard』だけでも何十件もヒットする、よくある名だ」  アナグラム。言葉遊び。  そんな偽名使った、もしくは本名の吸血鬼が、古今東西大勢いたと言うことだ。 「つまり、"あぁかぁど"は“言い間違え”の可能性も否定できない、と?」 「そもそも、ソースはあの女の発言でしかない。出鱈目の可能性も当然あり得る」 「なるほど」  元々、他のマスターになりすまして濡れ衣を着せさせようとする相手の弁だ。その言葉を信用できるかと言えば、疑わしい。  このようにリソースを消費させること自体が目的の可能性も、否定できない。  HAL達は知らないが、この『方舟』にアーカードは確かに存在する。  しかし、彼らは“真名しか”手に入れていない。  容姿も能力もパラメーターも、何一つ知らない。  故に、情報を特定できずにいた。 「仮に、『アーカード』なる英霊が居たとしても、撃破は難しい」  アーカードは、他者と同化する性質を利用され、“毒”を盛られた事で30年雌伏を余儀なくされた逸話がある。  故に、英霊のアーカードも“服毒”に弱いと見る。  だが、その“毒”が厄介だ。  アーカードが飲んだ“毒”は、『彼が自分自身を認識出来る状態にある限り(どこにでも)存在できる』という異能を持った“毒”だ。  それに匹敵するほどの“毒”は、HALも弦之介も持ち合わせていない。電子ドラッグ程度では、悪食の彼には通用しないであろう。  アーカードは十字架や流水、太陽の光などは克服してる。  さらにアーカードで無くとも、それらの弱点を克服している吸血鬼は多い。  どこが吸血鬼なんだとは思う。 「結局は『マスター殺害』という手段が最善だ。警戒はするが、こちらから打って出る必要はない。だが、吸血鬼だけに、輸血用の血を手に入れようと病院に来るかも知れない。それだけは注意だ」 「承知した」 ◆ 「ところで"ますたあ"よ。彼奴の正体は掴めただろうか?」 「午前に襲ってきた、アイツか。非常に難儀している」  性行為を攻撃としてくるサーヴァント。それは中々に脅威で、被害は甚大だった。  病院と大学内には、電子ドラッグによって洗脳したNPCが大勢いる。彼奴の攻撃を受けたNPCは、その洗脳が解けてしまった。  そのほとんどは病院に搬送し、点滴を受けるのと同時に、再度、電子ドラッグによる洗脳を施した。  だが、全てのNPCを回収できたわけではない。  分かっているだけでも数名、洗脳が解けたまま街に繰り出したNPCがいる。  電子ドラッグによる洗脳が解けても、電子ドラッグにより洗脳されていた期間の記憶が無いことは、既に観測済みだ。  しかし、『電子ドラッグにより洗脳されていた期間の記憶が無い』ことは、再度洗脳することでしか補填できない。  NPC故に、そのことに対して疑問に思わないかもしれない。だが、他のマスターはその異常さに気付くかもしれない。  早急に打破すべき相手であるが、その正体を掴むのは難航を極めた。  単純に房中術や性技に優れた英霊もいる。だが、『英雄色を好む』との言葉があるとおり、性豪な英霊は数多い。また、サキュバスやリリスなど、他者の精を奪うことに長けた種族も存在する。  これでは絞り込むのでさえ難しい。 「しからば、進言よろしいだろうか」 「頼む」 「わしは“遠隔”にて性行為を行ったことが気になっておる。普通、性交とは密接して行うもの。性豪とて、搾精とて、遠方の他者を絶頂させる意味は、ほとんど無い」 「ふむ」  そう言う楽しみ方が無いとは言わないが、確かにそれはアブノーマルな行為だ。本来の性交の意味合いからは、ほど遠い。   「即ち、房中術や性技に優れた英霊である、と?」 「然り」  相手に一方的な肉体的快楽を与え、絶頂させる。それは“相手を戦闘不能にさせる”手段でしかない、と考えれば、なるほど合理的ではある。  武器の歴史は、近距離から遠距離へと発展していった。  房中術や性技を武器として考えるのならば、近距離から遠距離へと進化していくのも、当然の摂理である。 「それならば……だいぶ絞り込めた。確定までは至らないが、もう2,3情報があれば、確定できるだろう」 「そいつは重畳」 「では、後は見張りを頼む」 「承知」  弦之介は音もなく姿を消す。  研究所に、しばらくぶりの沈黙が訪れた。 『"ますたあ"よ、人ではない間者を見つけた』  しかし、姿を消してからまもなく、念話が入る。  人ではない間者――使い魔のことであろう。妙にはっきりとしない言い方ではあるが、続けて念話が入る。 『姿を見られずに殺めることは容易い。だが始末をすれば付近に"さぁばんと"がいることを悟られよう。如何にする?』 『始末しろ』 『御意』  既に性技に卓越したサーヴァントの襲撃を受けており、大学付近に主従が居ることは外部に漏れている。  であるならば、存在を晒すリスクより、正体を晒すリスクを下げた方がよい。  HALは即座に命令をし、報告を待った。 『間者を始末した。どうやら蛇のようだ。術か魔法か、姿を景色に擬態しておった』  なるほど。それで“人ではない間者”と報告が不明瞭だったのか。  それでも存在を把握したというのは、心眼(忍)の賜物か。 『再度使い魔を放ってくる可能性もある。警戒を怠るな』 『承知』  再び、沈黙が訪れる。  それでいい。  今は雌伏し、他者を落とすチャンスを待つのだ。 【C-6/錯刃大学・春川研究室/1日目 午後】 【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』 [道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間) [所持金] 豊富 [思考・状況] 基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。 1. ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。特にB-4、B-10。 2. ジナコへの社会的攻撃を行う。 3.『ハッキングできるマスター』はなるべく早く把握し、排除したい。 4. 性行為を攻撃として行ってくるサーヴァントに対する脅威を感じている。 [備考] ※『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。  ルーラーは、囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、監視役としては能力不足だと分析しています。  →ルーラーの排除は一旦保留しています。情報収集は継続しています。 ※大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。 ※洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。 ※C-6の病院には、洗脳済みの人間が多数入り込んでいます。 ※鏡子により洗脳が解かれたNPCが数人外部に出ています。洗脳時の記憶はありませんが、『洗脳時の記憶が無い』ことはわかります。 ※ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。  ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。 ※他の、以前の時間帯に行われた戦闘に関しても、戦闘があった地点はおおよそ把握しています。誰が戦ったのかは特定していません。 ※性行為を攻撃としてくるサーヴァントが存在することを認識しました。  →房中術や性技に長けた英霊だと考えています。 ※『アーカード』のパラメータとスキル、生前の伝承は知り得ましたが、アーカードの存在について懐疑的です。 ※ジナコの住所、プロフィール、容姿などを入手済み。別垢や他串を使い、情報を流布しています。 ※他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒しています。 【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク~甲賀忍法帖~】 [状態] 健康 [装備] 忍者刀 [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。 1. HALの戦略に従う。 2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。 3. 性行為を行うサーヴァント(鏡子)への警戒。 4.他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒。 [共通備考]  ※他人になりすます能力の使い手として、如月左衛門(@バジリスク~甲賀忍法帖~)について、主従で情報を共有しています。ただし、登場していないので、所謂ハズレ情報です。 ※ヴォルデモートが大学、病院に放った蛇の使い魔を始末しました。スキル:情報抹消があるので、弦之介の情報を得るのは困難でしょう。また、大魔王バーンの悪魔の目玉が偵察に来ていた場合も、これを始末しました。 ---- |BACK||NEXT| |095:[[吉良吉影/武智乙哉は動かない]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|097:[[近似値]]| |095:[[吉良吉影/武智乙哉は動かない]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|098:[[人の不幸は蜜の味]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |056:[[電脳淫法帖]]|[[電人HAL]]&アサシン([[甲賀弦之介]])|107:[[戦争考察]]| &link_up(▲上へ)

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