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*end of hypnosis 「Standing for Defend You」 ◆DpgFZhamPE バサバサ、と。 黒衣がはためき、仮面の死神は宙を舞う。 己の力を足場とし、宙を駆ける。 その腕の中に抱えられた少女───美遊・エーデルフェルトは、ふうと息をつく。 「・・・サファイア、さっきの人は?」 『───どうやら追ってはきていないようです。標的を変えたのか、優先事項があったのかはわかりませんが、一先ずは安全かと』 「そう。ありがとう」 眼前には、街。 山の麓からバーサーカーにより脱出した美遊は、北へ向かっていた。 理由は単純。 山の中よりも、街の方が狙われにくいだろうと予想をつけたからだ。 神父、アレクサンド・アンデルセンから逃走した美遊の心は、安定を取り戻しつつあった。 元より実年齢より遥かに大人びた子なのだ。 心を落ち着ける能力も、冷静に事に対処する能力も同年代の子供と比較すると高い───それに、己のサーヴァントの腕の中ということも、理由の一つだろう。 そして、その心が安定したのを見計らってか、サファイアが問いかける。 『───美遊様。私は今の逃走は危険な賭けだったと思っています』 「サファイア・・・?」 『美遊様もお気づきになられていると思います───先ほどのアンデルセンという方に、もし仲間がいたとすれば』 「・・・」 もし、あの神父に仲間がいたとしたら。 ここまで簡単に逃走することなどできなかっただろう。 逃げられたから良いものの、逃走しようとした美遊を、神父の仲間が先回りをして最悪二対一に持ち込まれる可能性だってあった。 黒化英霊のキャスター戦においても───倒したキャスターに気を取られていた間に、セイバーに凛とルヴィアが反撃を受けていた時と同じように、後ろからもう一組に襲われる可能性だってあるのだから。 無論、バーサーカーだって弱くはない。 理性が消失しているとはいえ、歴戦の英雄、サーヴァントなのだ。 応戦しても、すぐに負けることはないだろう───が、サーヴァントの相手はサーヴァント。 負けないという確証など、あるはずもない。 美遊だってそれはわかっているのだ。 安定した心の、冷静を取り戻した今なら頭では理解している。 自分たち一人で勝つという選択肢は、あまりにも厳しい。 できれば凛やルヴィアなどの、心強い仲間が欲しい。 かつて戦闘した、黒化英霊のバーサーカーのような、強大なサーヴァントがいないとも限らない。 凛やルヴィアのような、またはそれを上回るような強力な魔術師がいないとも限らない。 そんなことはわかっているのだ。 ───しかし。 ───脳にこびりついた不信感は、美遊の選択肢を狭めていく。 「・・・わかってる。私は」 その、紡がれた小さな言葉が美遊の口から発された時。 『───この「月を望む聖杯戦争」に参加しているマスター並びにサーヴァントの皆さま、こんにちは』 正午を知らせる、修道女の通達が脳に響く。 ◆ ◆ ◆ 『定時通達は以上です。  それでは明日の正午まできちんと生きていましたら、また』 「28組───以外と多いですね」 それを最後の台詞に、念話は終了する。 念話が届いたのは、天河食堂───彼女にとって重大な意味を持つその名を掲げた食堂を後にしたすぐ後だった。 告げられた情報は、三つ。 一つは”B-4地区に重大なルール違反を起こした主従がいる”ということ。 身に覚えはないし、それに関する情報も持ってはいない。 できることがあるとすれば───無用な被害を被らないように、B-4地区周辺には近づかないようにすることしかないだろう。 そして、二つ目は”冬木の日常を著しく脅かすこととなる場合、処罰の対象となる可能性がある”こと。 著しく脅かす───例えれば、建物の倒壊などだろう。 これからは夜になったとしても戦う場所を考えないといけないかもしれない。 ライダーが戦闘に使用する宝具は火力が大きいのだ。 場所を考え、武装もそれに適したものを───被害が少ないものを選ばなければならない。 そして情報の三つ目。 それは、”現在、マスターとサーヴァントの主従が28組存在している”ということ。 およそ、告げられた情報の中では一番重要だろう。 どんな人物がいるのかはわからないが───残りの数がわかるのとわからないのでは大幅に行動に差が出る。 そしてホシノ・ルリが知るサーヴァント及びマスターは、およそ二組。 まだ太陽が上がる前に港で戦闘したサーヴァントだ。 B-10で暴行事件を起こしたとされる存在もいたが───マスター”らしき”存在である以上、数に入れて計算するのは早計というものだろう。 対応は変えるつもりはなく、接触をするつもりもないが。 「現時点で好戦的な主従は確認できただけで一組、あのランサーですね。 不明が後26組、恐らく好戦的な主従の数としてはもっといるでしょうけど・・・こればっかりは接触してみないとわかりませんね」 『そうだな』 サーヴァント、ライダーからは軽い肯定が返ってくる。 口元に指を当て、思案する仕草を見せる。 他の参加者を探すとしても、どうやって? 「んー・・・まずはお昼にしてからにしましょうか」 残念ながら、未だに昼ご飯を食べていないのだ。 警察署を出たのが正午が近かったため、仕方ないのだが。 今は一日の中で一番通行人が多いであろう、正午。 この中でマスターを探すのは至難の技だ。 探すとしても、ある程度人通りが少なくなってから───例えば夕方か、それとも月が上がった夜中かの方が効率がいいだろう。 とりあえずレストランでも探しましょうか、と歩き出したルリは、唐突に足を止める。 何故か。 『マスター。止まれ───サーヴァントだ』 「あれは・・・」 その姿を見つけたのは、ライダーだった。 黒衣を風にはためかせ、上空を走るサーヴァント。 『どうやら子供を抱えているらしい。おそらくあの子供がマスターだろう』 「ええ、みたいですね。見たところ、索敵というより逃げてきたように見えます」 辺りを警戒する様子もなく、一直線に空を駆けるその黒衣のサーヴァント。 周囲を見回すようなことをしていないところを見ると、逃走してきたところなのだろうか。 しばらく眺めていると───そのサーヴァントは、ビルの屋上に着地する。 そのビルはここからでも遠くはない。 『マスター、どうする』 「どうもこうもありません。向こうからわざわざ来てくれたんです、行ってみましょう」 『了解した』 「ありがとうございます、それとすみません。忙しくして」 『構わない』 軽く会話を交わしながら、黒衣のサーヴァントが着地したビルへと向かう。 ここからの距離なら、十分もかからないであろう。 ◆ ◆ ◆ 「・・・28組」 バーサーカーから降りた美遊は素直にそう思った。 28組の主従。自分を抜けば27組。 最悪、あの神父のような参加者が残り27組いることもあり得るのだ。 「バーサーカー」 「───」 呼び掛けた狂戦士からの、返事はない。 そこに、ただ一つ残された『護る』という意思のみを持って、その場に立ち尽くす。 決して離れず、その存在を現している。 サファイアとバーサーカーがいれば、頼もしいこの存在がいれば、私は戦える。 戦える、はずなのに。 神父の笑みが、脳裏にフラッシュバックする。 その笑みは、恐ろしい。 その笑みは、己が正しいと信じているものだ。 神父の笑顔と───かつて見た、エインズワーズ当主の笑みが重なる。 ───ああ、そうだ。 ───私があの笑みを恐れたのは。 ───あの『男』の笑みと、あまりにも似ていたからだ。 『美遊様?』 「ッ!」 サファイアの声に反応し、負に埋れかけた意識が現実に引き戻される。 『美遊様・・・少し休息を取りましょう。私が周囲の探知をしておきますので』 「うん・・・ありがとう、サファイア」 すとん、とその場に座る。 バーサーカーもその様子を心配したのか、膝を折り、その場に待機する。 (多分・・・私達だけじゃあの神父には勝てないかもしれない) 自分一人では黒化英霊のバーサーカーに勝てなかったように。 自分とサファイア、バーサーカーのみでは、勝てない敵もいるだろう。 その場合───『仲間』が必要となる。 腕の立つ魔術師、遠坂凛やルヴィア・エーデルフェルトのような。 強力な仲間、クロエ・フォン・アインツベルンのような。 そして───大切な友達、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンのような。 一人で行動しても今朝のように、警察やらに補導されてお終いだろう。 (・・・でも) でも、ダメだ。 聖杯戦争に臨んだ魔術師など、聖杯目的に決まっている。 自分のように巻き込まれた者もいるかもしれない・・・が、それをどうやって判別する? 右も左も行き止まり。 じゃあ、どうすれば───? 『美遊様、来ます!』 「え、どこから」 『この速さ、サーヴァントです───!』 その危険な雰囲気を察知したのか、バーサーカーが美遊の盾になるかのように正面に立ち塞がる。 そして数秒後現れたのは───戦場の炎の煙を纏い、銀の女性を抱えた、男だった。 ◆ ◆ ◆ 「ライダーさん、ありがとうございます、下ろしてください」 ルリを抱えたライダーに一言掛けた後、自らの足でコンクリートの床に立つ。 「やはり自分の足で移動するより、いざという時はライダーさんにお願いした方が速いですね」 「ああ」 少し曲がった制服をパンパンと整えながら、ルリは目の前の黒衣のサーヴァントを見据える。 その瞳に映ったのは、全てのステータスが高ランクである、黒衣のサーヴァントのパラメータ。 『あのステータスの高さとあの雰囲気・・・』 『バーサーカーのクラスのサーヴァントだろうな』 『ですね。確か、理性と引き換えに能力上昇を目的としたクラスでしたっけ』 ライダーの念話を聞き、脳内の知識を集めて結論を導き出す。 そしてその後───そのバーサーカーの、後ろの少女に向き直る。 「驚かせてすいません。えー、そちらマスターでよろしいでしょうか? あ、此方に交戦の意思はありませんので」 「マスター」 「・・・準備だけ、お願いします」 手を開いて武器を所持していないことを意思表示。 そして───最悪戦闘になった時のことを考慮し、ライダーに戦闘態勢をとらせておく。 すると、その敵意に反応したのか。 黒衣のサーヴァントの瞳に、凶暴な光が灯る。 「・・・情報交換?」 「ええ、情報交換です。自己紹介が遅れました、ホシノ・ルリです」 「・・・美遊・エインズワーズ」 「では美遊さんで」 未だ警戒心を解こうとしない少女を前に、ルリは思案する。 襲ってこないところを見ると、積極的に聖杯戦争に参加している訳ではないようだ。 しかし───異様なほどのこの警戒心に、どう対処するべきか。 唇に指を当て、思案する。 思案した結果───彼女は、ここで貴重な手札を切ることを選んだ。 「私はこの聖杯戦争から『優勝以外の方法で』脱出するつもりです」 そのために情報を集めています、と付け加える。 「出来れば───貴女が知っていることを、話してもらえないでしょうか」 ◆ ◆ ◆ ───優勝以外での、聖杯戦争からの脱出。 それは、美遊にとっても喉から手が出るほど欲しいモノだった。 それを聞いた瞬間、エインズワーズを名乗る屈辱も、驚きを隠すことも忘れていた。 持ちかけられた誘いは、情報交換。 自分が渡せる情報は、己が聖杯であること以外の情報───アンデルセン神父の存在、サファイアが知っているであろう魔術知識。 情報の価値としては、中々のもの。 特に魔術に精通していない参加者にとっては、貴重な情報だ。 (どうする) だからと言って、無闇に渡すつもりもない。 第一、銀の彼女が言っていることが本当かどうかもわからないのだ。 嘘をついて近寄ってきている可能性もある。 隙を見せた瞬間、脳天を撃ち抜かれる可能性も十分ある。 (どうする───) しかし、此方が戦力不足・情報不足を感じていたのも事実。 普段なら願ったり叶ったりの状態だが───彼女を信用し切れないのも事実。 (どうする───?) 提案に乗るか。提案を蹴るか。 この行動で───彼女の聖杯戦争の道は、大きく別れるであろう。 ◆ ◆ ◆ (・・・警戒、されてるみたいですね) ホシノ・ルリは冷静に状況を見定める。 目の前の少女は、無関係の自分が見てもはっきりとわかるほどに、警戒心を露わにしていた。 ルリも、出来れば年端もいかない少女と戦闘を行うようなことはしたくない。 保護をすることも視野に入れている───が。 もし、目の前の少女が戦闘を、決別を選んだ場合、応戦しなくてはならなくなる。 (できれば、それは避けたいですね) ふう、と息を吐く。 ライダーは───黒衣のサーヴァントと睨み合ったまま。 二度目の戦闘か、それとも二度目の情報交換か。 訪れるかもしれない二通りの結果を前に───ああ、昼食はもう少し後回しになりそうですね、とどうでもいいことを考えていた。 【B-9/住宅街(とあるビルの屋上)/一日目 午後】 【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ~The prince of darkness】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:警官の制服 [道具]:ペイカード、地図 [所持金]:富豪レベル(カード払いのみ) [思考・状況] 基本行動方針:『方舟』の調査。 1.目の前の少女(美遊)との情報交換を試みる。できれば戦闘は回避したいが───? 2.天河食堂…… 3.『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査 4.優勝以外で脱出する方法の調査 5.聖杯戦争の調査 6.聖杯戦争の現状の調査 7.天河食堂…… 8.B-4ににはできるだけ近づかないでおく。 [備考] ※ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。 ※NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。 ※ジナコ・カリギリ(ベルク・カッツェの変装)の容姿を確認済み。 ※美遊陣営の容姿、バーサーカーのパラメータを確認しました。 【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]健康、ポニーテール 、他者に対しての過剰な不信感、神父への恐怖感 [令呪]残り三画 [装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装 [道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー [所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。 0.ホシノ・ルリの誘いに乗るかどうか、決める。 1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。 2.他者との交流は避けたい。誰とも話したくない。信用できるのは、サーヴァントとサファイアのみ。 3.一人で生き残ることができるのだろうか・・・? 4.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。 5.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。 6.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…? [備考] ※アンデルセン陣営を危険と判断しました。 ※ライダーのパラメータを確認しました。 恐怖を捨てろ。 前を見ろ。 進め、決して立ち止まるな。 退けば老いるぞ。 臆せば死ぬぞ。 目の前に在るは硝煙漂う神殺し。 例え神殺しが相手だとしても、行うことは変わらない。 命じられたならば、この身を剣としてあのサーヴァントを引き裂こう。 狂気に呑まれたその意思で。 たった一つを護り抜け。 そう、何者も。 ───わたしの意思を、変えられはしない。 【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】 [状態]健康 [装備]斬魄刀 [道具]不明 [所持金]無し [思考・状況] 基本行動方針:美遊を守る 1.??????? [備考] ※無し。 ああ、懐かしいこの殺意。 英霊になってからも忘れることはないこの感覚。 譲れぬモノを護る戦い。 それに伴う完全なる戦闘意思、冷徹なる殺意。 彼はこの地にて再び神と合間見える。 次回「 」。 ───キリコは、死神をも恐れない。 【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】 [状態]:健康 [装備]:アーマーマグナム [道具]:無し [思考・状況] 基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。 1.ホシノ・ルリの護衛。 [備考] ※無し。 ---- |BACK||NEXT| |082:[[最初の使者]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|084:[[信じる]]| |082:[[最初の使者]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|084:[[信じる]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |062:[[再現された仮想現実世界]]|[[ホシノ・ルリ]]&ライダー([[キリコ・キュービィー]])|| |074:[[善悪アポトーシス]]|[[美遊・エーデルフェルト]]&バーサーカー([[黒崎一護]])|| &link_up(▲上へ)
*end of hypnosis 「Standing for Defend You」 ◆DpgFZhamPE バサバサ、と。 黒衣がはためき、仮面の死神は宙を舞う。 己の力を足場とし、宙を駆ける。 その腕の中に抱えられた少女───美遊・エーデルフェルトは、ふうと息をつく。 「・・・サファイア、さっきの人は?」 『───どうやら追ってはきていないようです。標的を変えたのか、優先事項があったのかはわかりませんが、一先ずは安全かと』 「そう。ありがとう」 眼前には、街。 山の麓からバーサーカーにより脱出した美遊は、北へ向かっていた。 理由は単純。 山の中よりも、街の方が狙われにくいだろうと予想をつけたからだ。 神父、アレクサンド・アンデルセンから逃走した美遊の心は、安定を取り戻しつつあった。 元より実年齢より遥かに大人びた子なのだ。 心を落ち着ける能力も、冷静に事に対処する能力も同年代の子供と比較すると高い───それに、己のサーヴァントの腕の中ということも、理由の一つだろう。 そして、その心が安定したのを見計らってか、サファイアが問いかける。 『───美遊様。私は今の逃走は危険な賭けだったと思っています』 「サファイア・・・?」 『美遊様もお気づきになられていると思います───先ほどのアンデルセンという方に、もし仲間がいたとすれば』 「・・・」 もし、あの神父に仲間がいたとしたら。 ここまで簡単に逃走することなどできなかっただろう。 逃げられたから良いものの、逃走しようとした美遊を、神父の仲間が先回りをして最悪二対一に持ち込まれる可能性だってあった。 黒化英霊のキャスター戦においても───倒したキャスターに気を取られていた間に、セイバーに凛とルヴィアが反撃を受けていた時と同じように、後ろからもう一組に襲われる可能性だってあるのだから。 無論、バーサーカーだって弱くはない。 理性が消失しているとはいえ、歴戦の英雄、サーヴァントなのだ。 応戦しても、すぐに負けることはないだろう───が、サーヴァントの相手はサーヴァント。 負けないという確証など、あるはずもない。 美遊だってそれはわかっているのだ。 安定した心の、冷静を取り戻した今なら頭では理解している。 自分たち一人で勝つという選択肢は、あまりにも厳しい。 できれば凛やルヴィアなどの、心強い仲間が欲しい。 かつて戦闘した、黒化英霊のバーサーカーのような、強大なサーヴァントがいないとも限らない。 凛やルヴィアのような、またはそれを上回るような強力な魔術師がいないとも限らない。 そんなことはわかっているのだ。 ───しかし。 ───脳にこびりついた不信感は、美遊の選択肢を狭めていく。 「・・・わかってる。私は」 その、紡がれた小さな言葉が美遊の口から発された時。 『───この「月を望む聖杯戦争」に参加しているマスター並びにサーヴァントの皆さま、こんにちは』 正午を知らせる、修道女の通達が脳に響く。 ◆ ◆ ◆ 『定時通達は以上です。  それでは明日の正午まできちんと生きていましたら、また』 「28組───以外と多いですね」 それを最後の台詞に、念話は終了する。 念話が届いたのは、天河食堂───彼女にとって重大な意味を持つその名を掲げた食堂を後にしたすぐ後だった。 告げられた情報は、三つ。 一つは”B-4地区に重大なルール違反を起こした主従がいる”ということ。 身に覚えはないし、それに関する情報も持ってはいない。 できることがあるとすれば───無用な被害を被らないように、B-4地区周辺には近づかないようにすることしかないだろう。 そして、二つ目は”冬木の日常を著しく脅かすこととなる場合、処罰の対象となる可能性がある”こと。 著しく脅かす───例えれば、建物の倒壊などだろう。 これからは夜になったとしても戦う場所を考えないといけないかもしれない。 ライダーが戦闘に使用する宝具は火力が大きいのだ。 場所を考え、武装もそれに適したものを───被害が少ないものを選ばなければならない。 そして情報の三つ目。 それは、”現在、マスターとサーヴァントの主従が28組存在している”ということ。 およそ、告げられた情報の中では一番重要だろう。 どんな人物がいるのかはわからないが───残りの数がわかるのとわからないのでは大幅に行動に差が出る。 そしてホシノ・ルリが知るサーヴァント及びマスターは、およそ二組。 まだ太陽が上がる前に港で戦闘したサーヴァントだ。 B-10で暴行事件を起こしたとされる存在もいたが───マスター”らしき”存在である以上、数に入れて計算するのは早計というものだろう。 対応は変えるつもりはなく、接触をするつもりもないが。 「現時点で好戦的な主従は確認できただけで一組、あのランサーですね。 不明が後26組、恐らく好戦的な主従の数としてはもっといるでしょうけど・・・こればっかりは接触してみないとわかりませんね」 『そうだな』 サーヴァント、ライダーからは軽い肯定が返ってくる。 口元に指を当て、思案する仕草を見せる。 他の参加者を探すとしても、どうやって? 「んー・・・まずはお昼にしてからにしましょうか」 残念ながら、未だに昼ご飯を食べていないのだ。 警察署を出たのが正午が近かったため、仕方ないのだが。 今は一日の中で一番通行人が多いであろう、正午。 この中でマスターを探すのは至難の技だ。 探すとしても、ある程度人通りが少なくなってから───例えば夕方か、それとも月が上がった夜中かの方が効率がいいだろう。 とりあえずレストランでも探しましょうか、と歩き出したルリは、唐突に足を止める。 何故か。 『マスター。止まれ───サーヴァントだ』 「あれは・・・」 その姿を見つけたのは、ライダーだった。 黒衣を風にはためかせ、上空を走るサーヴァント。 『どうやら子供を抱えているらしい。おそらくあの子供がマスターだろう』 「ええ、みたいですね。見たところ、索敵というより逃げてきたように見えます」 辺りを警戒する様子もなく、一直線に空を駆けるその黒衣のサーヴァント。 周囲を見回すようなことをしていないところを見ると、逃走してきたところなのだろうか。 しばらく眺めていると───そのサーヴァントは、ビルの屋上に着地する。 そのビルはここからでも遠くはない。 『マスター、どうする』 「どうもこうもありません。向こうからわざわざ来てくれたんです、行ってみましょう」 『了解した』 「ありがとうございます、それとすみません。忙しくして」 『構わない』 軽く会話を交わしながら、黒衣のサーヴァントが着地したビルへと向かう。 ここからの距離なら、十分もかからないであろう。 ◆ ◆ ◆ 「・・・28組」 バーサーカーから降りた美遊は素直にそう思った。 28組の主従。自分を抜けば27組。 最悪、あの神父のような参加者が残り27組いることもあり得るのだ。 「バーサーカー」 「───」 呼び掛けた狂戦士からの、返事はない。 そこに、ただ一つ残された『護る』という意思のみを持って、その場に立ち尽くす。 決して離れず、その存在を現している。 サファイアとバーサーカーがいれば、頼もしいこの存在がいれば、私は戦える。 戦える、はずなのに。 神父の笑みが、脳裏にフラッシュバックする。 その笑みは、恐ろしい。 その笑みは、己が正しいと信じているものだ。 神父の笑顔と───かつて見た、エインズワーズ当主の笑みが重なる。 ───ああ、そうだ。 ───私があの笑みを恐れたのは。 ───あの『男』の笑みと、あまりにも似ていたからだ。 『美遊様?』 「ッ!」 サファイアの声に反応し、負に埋れかけた意識が現実に引き戻される。 『美遊様・・・少し休息を取りましょう。私が周囲の探知をしておきますので』 「うん・・・ありがとう、サファイア」 すとん、とその場に座る。 バーサーカーもその様子を心配したのか、膝を折り、その場に待機する。 (多分・・・私達だけじゃあの神父には勝てないかもしれない) 自分一人では黒化英霊のバーサーカーに勝てなかったように。 自分とサファイア、バーサーカーのみでは、勝てない敵もいるだろう。 その場合───『仲間』が必要となる。 腕の立つ魔術師、遠坂凛やルヴィア・エーデルフェルトのような。 強力な仲間、クロエ・フォン・アインツベルンのような。 そして───大切な友達、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンのような。 一人で行動しても今朝のように、警察やらに補導されてお終いだろう。 (・・・でも) でも、ダメだ。 聖杯戦争に臨んだ魔術師など、聖杯目的に決まっている。 自分のように巻き込まれた者もいるかもしれない・・・が、それをどうやって判別する? 右も左も行き止まり。 じゃあ、どうすれば───? 『美遊様、来ます!』 「え、どこから」 『この速さ、サーヴァントです───!』 その危険な雰囲気を察知したのか、バーサーカーが美遊の盾になるかのように正面に立ち塞がる。 そして数秒後現れたのは───戦場の炎の煙を纏い、銀の女性を抱えた、男だった。 ◆ ◆ ◆ 「ライダーさん、ありがとうございます、下ろしてください」 ルリを抱えたライダーに一言掛けた後、自らの足でコンクリートの床に立つ。 「やはり自分の足で移動するより、いざという時はライダーさんにお願いした方が速いですね」 「ああ」 少し曲がった制服をパンパンと整えながら、ルリは目の前の黒衣のサーヴァントを見据える。 その瞳に映ったのは、全てのステータスが高ランクである、黒衣のサーヴァントのパラメータ。 『あのステータスの高さとあの雰囲気・・・』 『バーサーカーのクラスのサーヴァントだろうな』 『ですね。確か、理性と引き換えに能力上昇を目的としたクラスでしたっけ』 ライダーの念話を聞き、脳内の知識を集めて結論を導き出す。 そしてその後───そのバーサーカーの、後ろの少女に向き直る。 「驚かせてすいません。えー、そちらマスターでよろしいでしょうか? あ、此方に交戦の意思はありませんので」 「マスター」 「・・・準備だけ、お願いします」 手を開いて武器を所持していないことを意思表示。 そして───最悪戦闘になった時のことを考慮し、ライダーに戦闘態勢をとらせておく。 すると、その敵意に反応したのか。 黒衣のサーヴァントの瞳に、凶暴な光が灯る。 「・・・情報交換?」 「ええ、情報交換です。自己紹介が遅れました、ホシノ・ルリです」 「・・・美遊・エインズワーズ」 「では美遊さんで」 未だ警戒心を解こうとしない少女を前に、ルリは思案する。 襲ってこないところを見ると、積極的に聖杯戦争に参加している訳ではないようだ。 しかし───異様なほどのこの警戒心に、どう対処するべきか。 唇に指を当て、思案する。 思案した結果───彼女は、ここで貴重な手札を切ることを選んだ。 「私はこの聖杯戦争から『優勝以外の方法で』脱出するつもりです」 そのために情報を集めています、と付け加える。 「出来れば───貴女が知っていることを、話してもらえないでしょうか」 ◆ ◆ ◆ ───優勝以外での、聖杯戦争からの脱出。 それは、美遊にとっても喉から手が出るほど欲しいモノだった。 それを聞いた瞬間、エインズワーズを名乗る屈辱も、驚きを隠すことも忘れていた。 持ちかけられた誘いは、情報交換。 自分が渡せる情報は、己が聖杯であること以外の情報───アンデルセン神父の存在、サファイアが知っているであろう魔術知識。 情報の価値としては、中々のもの。 特に魔術に精通していない参加者にとっては、貴重な情報だ。 (どうする) だからと言って、無闇に渡すつもりもない。 第一、銀の彼女が言っていることが本当かどうかもわからないのだ。 嘘をついて近寄ってきている可能性もある。 隙を見せた瞬間、脳天を撃ち抜かれる可能性も十分ある。 (どうする───) しかし、此方が戦力不足・情報不足を感じていたのも事実。 普段なら願ったり叶ったりの状態だが───彼女を信用し切れないのも事実。 (どうする───?) 提案に乗るか。提案を蹴るか。 この行動で───彼女の聖杯戦争の道は、大きく別れるであろう。 ◆ ◆ ◆ (・・・警戒、されてるみたいですね) ホシノ・ルリは冷静に状況を見定める。 目の前の少女は、無関係の自分が見てもはっきりとわかるほどに、警戒心を露わにしていた。 ルリも、出来れば年端もいかない少女と戦闘を行うようなことはしたくない。 保護をすることも視野に入れている───が。 もし、目の前の少女が戦闘を、決別を選んだ場合、応戦しなくてはならなくなる。 (できれば、それは避けたいですね) ふう、と息を吐く。 ライダーは───黒衣のサーヴァントと睨み合ったまま。 二度目の戦闘か、それとも二度目の情報交換か。 訪れるかもしれない二通りの結果を前に───ああ、昼食はもう少し後回しになりそうですね、とどうでもいいことを考えていた。 【B-9/住宅街(とあるビルの屋上)/一日目 午後】 【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ~The prince of darkness】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:警官の制服 [道具]:ペイカード、地図 [所持金]:富豪レベル(カード払いのみ) [思考・状況] 基本行動方針:『方舟』の調査。 1.目の前の少女(美遊)との情報交換を試みる。できれば戦闘は回避したいが───? 2.天河食堂…… 3.『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査 4.優勝以外で脱出する方法の調査 5.聖杯戦争の調査 6.聖杯戦争の現状の調査 7.天河食堂…… 8.B-4ににはできるだけ近づかないでおく。 [備考] ※ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。 ※NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。 ※ジナコ・カリギリ(ベルク・カッツェの変装)の容姿を確認済み。 ※美遊陣営の容姿、バーサーカーのパラメータを確認しました。 【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]健康、ポニーテール 、他者に対しての過剰な不信感、神父への恐怖感 [令呪]残り三画 [装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装 [道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー [所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。 0.ホシノ・ルリの誘いに乗るかどうか、決める。 1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。 2.他者との交流は避けたい。誰とも話したくない。信用できるのは、サーヴァントとサファイアのみ。 3.一人で生き残ることができるのだろうか・・・? 4.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。 5.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。 6.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…? [備考] ※アンデルセン陣営を危険と判断しました。 ※ライダーのパラメータを確認しました。 恐怖を捨てろ。 前を見ろ。 進め、決して立ち止まるな。 退けば老いるぞ。 臆せば死ぬぞ。 目の前に在るは硝煙漂う神殺し。 例え神殺しが相手だとしても、行うことは変わらない。 命じられたならば、この身を剣としてあのサーヴァントを引き裂こう。 狂気に呑まれたその意思で。 たった一つを護り抜け。 そう、何者も。 ───わたしの意思を、変えられはしない。 【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】 [状態]健康 [装備]斬魄刀 [道具]不明 [所持金]無し [思考・状況] 基本行動方針:美遊を守る 1.??????? [備考] ※無し。 ああ、懐かしいこの殺意。 英霊になってからも忘れることはないこの感覚。 譲れぬモノを護る戦い。 それに伴う完全なる戦闘意思、冷徹なる殺意。 彼はこの地にて再び神と合間見える。 次回「 」。 ───キリコは、死神をも恐れない。 【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】 [状態]:健康 [装備]:アーマーマグナム [道具]:無し [思考・状況] 基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。 1.ホシノ・ルリの護衛。 [備考] ※無し。 ---- |BACK||NEXT| |082:[[最初の使者]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|084:[[信じる]]| |082:[[最初の使者]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|084:[[信じる]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |062:[[再現された仮想現実世界]]|[[ホシノ・ルリ]]&ライダー([[キリコ・キュービィー]])|097:[[近似値]]| |074:[[善悪アポトーシス]]|[[美遊・エーデルフェルト]]&バーサーカー([[黒崎一護]])|~| &link_up(▲上へ)

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