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あなたのお家はどこですか?」(2014/08/25 (月) 22:15:24) の最新版変更点

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*あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM 日も明ける頃になれば、孤児院の院長は戻らねばならない。 廃教会のことはランサーに一任し、アンデルセンは一旦孤児院へと戻ることにした。 さすがに院長が不在、というのは怪しまれる可能性が高い。 教会自体は荒れ果てたものであり、そうそう近寄るものはいないだろう。 住宅地からも離れたこの場所、せいぜい好奇心に駆られた子供が冒険に寄ってくるくらいのもの、といったところか。 万が一マスターが寄ってきたとしてもアンデルセンの足ならすぐに向かうことができる。 そんなわけで、アンデルセンは教会から離れ孤児院へと足を運んでいた。 元々は孤児院と教会は一つだったが、教会の神父が不在になるにあたって場所を移し街に近づけた、という設定らしい。 「アンデルセンさん!おはようございます!」 「ああ、おはよう」 廊下を歩くアンデルセンの目の前を、子供が通り過ぎて行く。 洗顔所から出てきた子供たちが朝食のためにキッチンに向かっているのだ。 子供が目覚めるにはまだ早い時間帯ではあるが、早起きする子供は目を覚ましている。 まだ数人ではあるが、あと30分もすれば院にいる子供はほとんど揃うことになるだろう。 生前、まだアーカードと出会う前にしていたことと何の変わりもない光景だ。 (憎らしいものだな) あのような、化け物となり消え去るような最期を遂げた自分に対してこのような役割を与えるなど。 聖杯はよほど皮肉が好きならしい。 まあだからといっても、この役割自体はこなせる限りは手を尽くすつもりではあるが。 「由美子…、またお前というやつは…」 「ご、ごめんなさい……」 ふと、調理室の辺りから何か声が聞こえてきた。 この孤児院で職員をやっているハインケルと由美子のもののようだ。 「どうしたのかね、ハインケル、由美子」 「あ、先生。それが…、昨日由美子が調理を失敗してしまった件で、今日の朝食分の食材が不足してしまってまして。  それで昨日の夜、由美子に買い足しにいくように言ったのですが…」 「だ、だって、夜に行ったお店、強盗っぽい人がいたみたいだったから、何だか怖くなって……」 「強盗なんかに怯えてどうするんですか…。我々には主の加護がついているというのに…」 溜め息をつきながらやれやれ、と呟くハインケル。 アンデルセンはそんな彼を宥める。 「いいんだよハインケル。由美子、怪我はなかったかい?」 「あ…、はい…。あの後すぐに帰って来ちゃいましたから…」 「困りましたね…。私は調理をしなければなりませんが、由美子の足では最寄りのコンビニまで向かったとしても朝食までには…」 「では私が行こうか」 「神父様が?!いえ、そんなお手間をかけさせるわけには――」 「子供達に朝食が行き渡らない方が辛いさ。  何、ちょっと朝の運動に行ってくるついでと思えばいい」 一分後、足りない材料を聞いたアンデルセンは孤児院を出発しコンビニへと軽く早歩きで向かい始めた。 「いやー、昨日の夜見事にやられちゃいましてねー」 「おやおや、それは災難な。そのような罪人には裁きが下るといいのですが」 コンビニについたアンデルセンはそんな愚痴をコンビニ店員から聞いていた。 聞いてみれば実際には強盗などではなくただの万引きのようなものだったらしい。 ただ、やられたことに遅れて気付いた店員の声を、気の弱い由美子は強盗か何かと勘違いしてしまったということだろう。 ともあれ、アンデルセンは由美子に頼まれたものを若干多めに買い揃えた後、来る時と同じく若干の早歩きで帰路についていた。 (それにしても、万引き犯、か) そのような真似をする者が、自分と同じマスターであることはないだろうと願いたい。 それは自分達を選んだ聖杯という聖遺物に対する冒涜にもなりかねないものだ、とアンデルセンは思っていた。 そういえば、会話ついでにその万引き犯の特徴も念の為に聞いておくべきだったか、などと思考しながら歩いていた時だった。 ――――ドン ふと、アンデルセンの体に、横から何かがぶつかってきた。 ◇ (まずい……) 美遊は焦っていた。 これほどの焦燥感に駆られたことは、それこそクラスカード回収の時くらいのものだ。 早く逃げなければまずい、と頭が告げているのに逃げることができない。 サファイア、バーサーカー。 本来アテにするべき味方も助け舟を出すことができない。 座らされた椅子は針の筵のよう。 頬を伝う汗は暑さ故ではなく、この状況に対する焦燥感だろう。 (迂闊だった…) こんな時間に一人で歩いていたこと、それ自体が不用心だったのかもしれない。 この状況を打破するには、どうするべきなのか。 「あのねーお嬢ちゃん、そろそろ何か喋ってくれないと」 (まさか、こんなところに交番があったのを見落としていたなんて……!) そこは交番。 溜め息をつく婦警の前で、椅子の前に座らされた美遊の姿が、そこにはあった。 朝、日が明けるまでには新都まで移動しておこうと考えた美遊は、暗がりの中で真っ直ぐに新都に向かって足を進めていた。 日が昇れば通学する学生達であふれるだろう道、そこに外れて歩く子供など目立つことこの上ないだろうと考えての行動。 道自体はほぼよく通った道そのものであり、迷うこともない。 とりあえず必要そうなものを買い揃えるために開店時間までは待機しようと思い、警戒は怠らずに周囲を散策していた美遊。 しかし、マスターやサーヴァントに意識を割きすぎていた美遊は気づかなかった。 交番の前に立っていた警察官の存在に。 そもそも日が登って間もない時間帯、家出かと思うような荷物を抱えた子供が歩いていれば、市民の安全を守る公務員としては放置しておくわけにはいかないものだろう。 ちょうど近くのコンビニで万引きがあった、という事実も小さいながらに彼らの心に警戒心を持たせていたに違いない。 (どうすればいい…、どうすれば……) 「ねーお嬢ちゃん、名前と住所くらいは言ってくれないと、お家に連絡取れないでしょ」 美遊はずっと沈黙を保ったままだった。 最初は優しく丁寧な口調で話していた婦警も、今はだんだん砕けたしゃべり方になってきている。 心なしか、苛立ちを僅かながらに感じる気もする。 だが、ここで名前や住所を言うわけにはいかない。 家に帰るわけにはいかないし、どこにマスターが潜んでいるか分からない以上個人情報を無闇に話すわけにはいかない、と思っていた。 逃げるのは難しいことではない。 転身すればここから抜け出すなど、容易いことだ。 しかし、それはあまりにも目立ちすぎる。 仮にも一般人相手では、サファイアもバーサーカーも為す術がない。 いや、最悪サファイアに記憶消去を頼むべきか―――― トゥルルルルルルルルルル そう思ったところで、交番内に設置された電話が鳴り始めた。 「はいはーい。お嬢ちゃん、いい子だからちょっと待っててねー」 当然婦警は電話に出るために席から離れざるを得ない。 (…今だ……!) 席から離れ受話器を取って会話を始めた辺りで、美遊は椅子から立ち上がった。 あとはとにかく全力でここから離れる。もうこの場所には近づかないようにすればいい。 「あ、待ちなさい!」 後ろから聞こえてくる声を尻目に、美遊は交番から全力で飛び出し――――― ドン 何かにぶつかった。 全力で走っていた反作用もあり、後ろに倒れこんで尻餅をつく美遊。 「おや、大丈夫かい?」 目の前にいたのは、神父服のようなものを纏ったメガネの外国人。 「ふむ、怪我はないようだね、立てるかい?」 ぶつかったのはこちらであるのに、それを責めることなくこちらの体を案じてくれる。 その心遣いはありがたかったが、今は急いでいた。 差し出された手を受け取ることもなく駈け出そうとした美遊。 しかしその足が前に進むことはなかった。 「こら、待ちなさい!」 追い付いてきた婦警が、立ち上がった自分の手を掴んだのだ。 振り払おうとするも、子供の体では女性とはいえ大の大人の手を振りほどくことはできなかった。 「おや、婦警さん、おはようございます。一体どうしたというのですか?」 「あ、神父さん、どうもおはようございます。いや、この子、こんな朝早くから一人で出歩いていたからちょっと気になって補導してみたら、どうも家出をした子みたいで。  名前も住所も何も話さなくて手を焼いていたんですよ」 「ふむ、家出とは。まだ小さいというのに…」 「………」 話しかける神父も無視し、美遊はどうやってこの状況を脱するべきか必死で思考していた。 こうなったら、敢えて嘘の情報を伝えることである程度この拘束を緩め、その隙に逃げ出すべきか。 そんなことを考えていると、神父はじっとこちらの様子を見ていた。 何となく、自分の考えていることを見透かされているような感覚を覚えた。 「ふむ、何か家に帰りたくない事情がありそうですな。  どうでしょうか。私のところの孤児院でしばらく預かり、頃合いを見て送り返してあげる、というのは」 「いえ、それはさすがに悪いような…」 「何、今でもたくさんの子供を預かっている身です。一人増えたからといってどうにかなるものでもないですよ。  それに、暗くなる前にはちゃんと送り返してあげます」 「うーん、いいのかな……」 何やら、予想外の方向でまとまってしまったらしい。 と、婦警が腕を握りしめていた手を離した瞬間駆け出そうとして。 その進行方向に立ち塞がった神父にポン、と肩を抱き止められた。 「警戒することはありませんよ。主はいつでも見守っておられます。  いい子にしていれば、必ず幸福は訪れますからね」 その後も幾度か隙を伺って離れようかと思った美遊。 しかし、神父は驚く程に隙を見せてはくれなかった。 逃げることはできない、と判断した美遊はやがて観念して彼についていくことにした。 婦警が交番に戻っていく背の前で、神父は優しく美遊の手を握る。 「ちょうどこれから子供達の朝食の時間でね。一緒に食べて、少し休んでいけばきっと君の考えも何か変わるだろう」 不本意ではあるが、今は従うしかないだろう。 しぶしぶその手を握り返す。 「そういえば名前を聞いていなかったね。私はアンデルセン。孤児院の院長をやっている」 「………」 ここでずっと黙秘していては逆にいつか不都合が生まれるだろう。 だが、ここで本当の名前を名乗りたくはない。 美遊・エーデルフェルト。 それが今の自分の本当の名前。 しかしこの場を少しでも乗り切るために、美遊は敢えて忌々しき記憶の奥にある名前を引き出し、偽名を名乗った。 「……美遊・エインズワース」 ◇ 神父、アンデルセンはこの子供に少し疑念を抱いていた。 まだ10歳ほどの子供。これくらいの年頃ならば人見知りもするだろう。 だが、この子供、美遊はそういったものとは違うような気がした。 隙を伺って逃げようとする姿、周囲に対するあまりに大きな不信感と警戒心。 ただの家出にしては少し過ぎているように見える。 よほどのトラウマを持っているのか、あるいは―――― (王よ、一つ聞かせてもらいたい) (何かを見つけたか、神父よ) 廃教会にいるランサーに念話を図るアンデルセン。 (この聖杯戦争、例えば無垢なる子供自体がマスターに選ばれる、ということは有り得るのか?) (マスター選出自体は聖杯の意思によるもの、私には図りかねる。だがあり得るのかどうかと言われれば可能性は十分に有り得るものだ) (…そうか) まだ可能性の段階、無理にそれを聞き出すつもりもない。 そう、ただ家出をして道に迷った子供を保護した。ただそれだけのこと。 (分かっているとは思うが、今余はここから動くことはできん。神父自身の身に命の危機でも及ばぬ限りは、な) (問題ない、こちらはこちらでうまくやる) 自分の横で、密かに警戒するかのように沈黙をする少女。 この少女が、自分と同じ聖杯によって選出されたマスターであるのかどうか。 疑念を持ったまま、しかし少女を案じる心は本心にアンデルセンは孤児院へと歩みだした。 【B-9/市街地/一日目 早朝】 【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]健康、ポニーテール [令呪]残り三画 [装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装 [道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー [所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。 1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。 2.しばらくはおとなしくしているが、できればアンデルセンから離れたい 3.ルヴィア邸、海月原学園には行かない。 4.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。 5.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…? 【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】 [状態]健康、霊体化 [装備]斬魄刀 [道具]不明 [所持金]無し [思考・状況] 基本行動方針:美遊を守る 1.??????? 【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】 [状態]健康 [令呪]残り二画 [装備]無数の銃剣 [道具]朝食の材料が入ったコンビニ袋 [所持金]そこそこある [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を託すに足る者を探す。存在しないならば自らが聖杯を手に入れる。 1.ヴラドが領土を構築するのを待つ。 2.昼は孤児院、夜は廃教会(領土)を往復しながら、他の組に関する情報を手に入れる。 3.戦闘の際はできる限り領土へ誘い入れる。 4:美遊がマスターではないかという疑念はあるが、とりあえず今はあくまでも子供として保護する。 [備考] 箱舟内での役職は『孤児院の院長を務める神父』のようです。 聖杯戦争について『何故この地を選んだか』という疑念を持っています。 孤児院はC-9の丘の上に建っています 【D-9/廃教会/一日目 早朝】 【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha】 [状態]健康 [装備]サーヴァントとしての装備 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:勝利し、聖杯を手に入れる。 1.廃教会に領土を構築する。 2.アンデルセンと情報収集を行う。アーチャーなどの広域破壊や遠距離狙撃を行えるサーヴァントを警戒。 3.聖杯を託すに足る者をアンデルセンが見出した場合は同盟を考えるが、聖杯を託すに足らぬ者に容赦するつもりはない。 [備考] D-9に存在する廃教会にスキル『護国の鬼将』による領土を設定しようとしています。 ---- |BACK||NEXT| |068:[[異邦の地で生きるということ]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|070:[[]]| |067:[[勇者の邂逅、聖者の会合]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|000:[[]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |051:[[夜の始まり]]|[[美遊・エーデルフェルト]]&バーサーカー([[黒崎一護]])|:[[]]| |052:[[国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり]]|[[アレクサンド・アンデルセン]]&ランサー([[ヴラド三世]])|:[[]]|
*あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM 日も明ける頃になれば、孤児院の院長は戻らねばならない。 廃教会のことはランサーに一任し、アンデルセンは一旦孤児院へと戻ることにした。 さすがに院長が不在、というのは怪しまれる可能性が高い。 教会自体は荒れ果てたものであり、そうそう近寄るものはいないだろう。 住宅地からも離れたこの場所、せいぜい好奇心に駆られた子供が冒険に寄ってくるくらいのもの、といったところか。 万が一マスターが寄ってきたとしてもアンデルセンの足ならすぐに向かうことができる。 そんなわけで、アンデルセンは教会から離れ孤児院へと足を運んでいた。 元々は孤児院と教会は一つだったが、教会の神父が不在になるにあたって場所を移し街に近づけた、という設定らしい。 「アンデルセンさん!おはようございます!」 「ああ、おはよう」 廊下を歩くアンデルセンの目の前を、子供が通り過ぎて行く。 洗顔所から出てきた子供たちが朝食のためにキッチンに向かっているのだ。 子供が目覚めるにはまだ早い時間帯ではあるが、早起きする子供は目を覚ましている。 まだ数人ではあるが、あと30分もすれば院にいる子供はほとんど揃うことになるだろう。 生前、まだアーカードと出会う前にしていたことと何の変わりもない光景だ。 (憎らしいものだな) あのような、化け物となり消え去るような最期を遂げた自分に対してこのような役割を与えるなど。 聖杯はよほど皮肉が好きならしい。 まあだからといっても、この役割自体はこなせる限りは手を尽くすつもりではあるが。 「由美子…、またお前というやつは…」 「ご、ごめんなさい……」 ふと、調理室の辺りから何か声が聞こえてきた。 この孤児院で職員をやっているハインケルと由美子のもののようだ。 「どうしたのかね、ハインケル、由美子」 「あ、先生。それが…、昨日由美子が調理を失敗してしまった件で、今日の朝食分の食材が不足してしまってまして。  それで昨日の夜、由美子に買い足しにいくように言ったのですが…」 「だ、だって、夜に行ったお店、強盗っぽい人がいたみたいだったから、何だか怖くなって……」 「強盗なんかに怯えてどうするんですか…。我々には主の加護がついているというのに…」 溜め息をつきながらやれやれ、と呟くハインケル。 アンデルセンはそんな彼を宥める。 「いいんだよハインケル。由美子、怪我はなかったかい?」 「あ…、はい…。あの後すぐに帰って来ちゃいましたから…」 「困りましたね…。私は調理をしなければなりませんが、由美子の足では最寄りのコンビニまで向かったとしても朝食までには…」 「では私が行こうか」 「神父様が?!いえ、そんなお手間をかけさせるわけには――」 「子供達に朝食が行き渡らない方が辛いさ。  何、ちょっと朝の運動に行ってくるついでと思えばいい」 一分後、足りない材料を聞いたアンデルセンは孤児院を出発しコンビニへと軽く早歩きで向かい始めた。 「いやー、昨日の夜見事にやられちゃいましてねー」 「おやおや、それは災難な。そのような罪人には裁きが下るといいのですが」 コンビニについたアンデルセンはそんな愚痴をコンビニ店員から聞いていた。 聞いてみれば実際には強盗などではなくただの万引きのようなものだったらしい。 ただ、やられたことに遅れて気付いた店員の声を、気の弱い由美子は強盗か何かと勘違いしてしまったということだろう。 ともあれ、アンデルセンは由美子に頼まれたものを若干多めに買い揃えた後、来る時と同じく若干の早歩きで帰路についていた。 (それにしても、万引き犯、か) そのような真似をする者が、自分と同じマスターであることはないだろうと願いたい。 それは自分達を選んだ聖杯という聖遺物に対する冒涜にもなりかねないものだ、とアンデルセンは思っていた。 そういえば、会話ついでにその万引き犯の特徴も念の為に聞いておくべきだったか、などと思考しながら歩いていた時だった。 ――――ドン ふと、アンデルセンの体に、横から何かがぶつかってきた。 ◇ (まずい……) 美遊は焦っていた。 これほどの焦燥感に駆られたことは、それこそクラスカード回収の時くらいのものだ。 早く逃げなければまずい、と頭が告げているのに逃げることができない。 サファイア、バーサーカー。 本来アテにするべき味方も助け舟を出すことができない。 座らされた椅子は針の筵のよう。 頬を伝う汗は暑さ故ではなく、この状況に対する焦燥感だろう。 (迂闊だった…) こんな時間に一人で歩いていたこと、それ自体が不用心だったのかもしれない。 この状況を打破するには、どうするべきなのか。 「あのねーお嬢ちゃん、そろそろ何か喋ってくれないと」 (まさか、こんなところに交番があったのを見落としていたなんて……!) そこは交番。 溜め息をつく婦警の前で、椅子の前に座らされた美遊の姿が、そこにはあった。 朝、日が明けるまでには新都まで移動しておこうと考えた美遊は、暗がりの中で真っ直ぐに新都に向かって足を進めていた。 日が昇れば通学する学生達であふれるだろう道、そこに外れて歩く子供など目立つことこの上ないだろうと考えての行動。 道自体はほぼよく通った道そのものであり、迷うこともない。 とりあえず必要そうなものを買い揃えるために開店時間までは待機しようと思い、警戒は怠らずに周囲を散策していた美遊。 しかし、マスターやサーヴァントに意識を割きすぎていた美遊は気づかなかった。 交番の前に立っていた警察官の存在に。 そもそも日が登って間もない時間帯、家出かと思うような荷物を抱えた子供が歩いていれば、市民の安全を守る公務員としては放置しておくわけにはいかないものだろう。 ちょうど近くのコンビニで万引きがあった、という事実も小さいながらに彼らの心に警戒心を持たせていたに違いない。 (どうすればいい…、どうすれば……) 「ねーお嬢ちゃん、名前と住所くらいは言ってくれないと、お家に連絡取れないでしょ」 美遊はずっと沈黙を保ったままだった。 最初は優しく丁寧な口調で話していた婦警も、今はだんだん砕けたしゃべり方になってきている。 心なしか、苛立ちを僅かながらに感じる気もする。 だが、ここで名前や住所を言うわけにはいかない。 家に帰るわけにはいかないし、どこにマスターが潜んでいるか分からない以上個人情報を無闇に話すわけにはいかない、と思っていた。 逃げるのは難しいことではない。 転身すればここから抜け出すなど、容易いことだ。 しかし、それはあまりにも目立ちすぎる。 仮にも一般人相手では、サファイアもバーサーカーも為す術がない。 いや、最悪サファイアに記憶消去を頼むべきか―――― トゥルルルルルルルルルル そう思ったところで、交番内に設置された電話が鳴り始めた。 「はいはーい。お嬢ちゃん、いい子だからちょっと待っててねー」 当然婦警は電話に出るために席から離れざるを得ない。 (…今だ……!) 席から離れ受話器を取って会話を始めた辺りで、美遊は椅子から立ち上がった。 あとはとにかく全力でここから離れる。もうこの場所には近づかないようにすればいい。 「あ、待ちなさい!」 後ろから聞こえてくる声を尻目に、美遊は交番から全力で飛び出し――――― ドン 何かにぶつかった。 全力で走っていた反作用もあり、後ろに倒れこんで尻餅をつく美遊。 「おや、大丈夫かい?」 目の前にいたのは、神父服のようなものを纏ったメガネの外国人。 「ふむ、怪我はないようだね、立てるかい?」 ぶつかったのはこちらであるのに、それを責めることなくこちらの体を案じてくれる。 その心遣いはありがたかったが、今は急いでいた。 差し出された手を受け取ることもなく駈け出そうとした美遊。 しかしその足が前に進むことはなかった。 「こら、待ちなさい!」 追い付いてきた婦警が、立ち上がった自分の手を掴んだのだ。 振り払おうとするも、子供の体では女性とはいえ大の大人の手を振りほどくことはできなかった。 「おや、婦警さん、おはようございます。一体どうしたというのですか?」 「あ、神父さん、どうもおはようございます。いや、この子、こんな朝早くから一人で出歩いていたからちょっと気になって補導してみたら、どうも家出をした子みたいで。  名前も住所も何も話さなくて手を焼いていたんですよ」 「ふむ、家出とは。まだ小さいというのに…」 「………」 話しかける神父も無視し、美遊はどうやってこの状況を脱するべきか必死で思考していた。 こうなったら、敢えて嘘の情報を伝えることである程度この拘束を緩め、その隙に逃げ出すべきか。 そんなことを考えていると、神父はじっとこちらの様子を見ていた。 何となく、自分の考えていることを見透かされているような感覚を覚えた。 「ふむ、何か家に帰りたくない事情がありそうですな。  どうでしょうか。私のところの孤児院でしばらく預かり、頃合いを見て送り返してあげる、というのは」 「いえ、それはさすがに悪いような…」 「何、今でもたくさんの子供を預かっている身です。一人増えたからといってどうにかなるものでもないですよ。  それに、暗くなる前にはちゃんと送り返してあげます」 「うーん、いいのかな……」 何やら、予想外の方向でまとまってしまったらしい。 と、婦警が腕を握りしめていた手を離した瞬間駆け出そうとして。 その進行方向に立ち塞がった神父にポン、と肩を抱き止められた。 「警戒することはありませんよ。主はいつでも見守っておられます。  いい子にしていれば、必ず幸福は訪れますからね」 その後も幾度か隙を伺って離れようかと思った美遊。 しかし、神父は驚く程に隙を見せてはくれなかった。 逃げることはできない、と判断した美遊はやがて観念して彼についていくことにした。 婦警が交番に戻っていく背の前で、神父は優しく美遊の手を握る。 「ちょうどこれから子供達の朝食の時間でね。一緒に食べて、少し休んでいけばきっと君の考えも何か変わるだろう」 不本意ではあるが、今は従うしかないだろう。 しぶしぶその手を握り返す。 「そういえば名前を聞いていなかったね。私はアンデルセン。孤児院の院長をやっている」 「………」 ここでずっと黙秘していては逆にいつか不都合が生まれるだろう。 だが、ここで本当の名前を名乗りたくはない。 美遊・エーデルフェルト。 それが今の自分の本当の名前。 しかしこの場を少しでも乗り切るために、美遊は敢えて忌々しき記憶の奥にある名前を引き出し、偽名を名乗った。 「……美遊・エインズワース」 ◇ 神父、アンデルセンはこの子供に少し疑念を抱いていた。 まだ10歳ほどの子供。これくらいの年頃ならば人見知りもするだろう。 だが、この子供、美遊はそういったものとは違うような気がした。 隙を伺って逃げようとする姿、周囲に対するあまりに大きな不信感と警戒心。 ただの家出にしては少し過ぎているように見える。 よほどのトラウマを持っているのか、あるいは―――― (王よ、一つ聞かせてもらいたい) (何かを見つけたか、神父よ) 廃教会にいるランサーに念話を図るアンデルセン。 (この聖杯戦争、例えば無垢なる子供自体がマスターに選ばれる、ということは有り得るのか?) (マスター選出自体は聖杯の意思によるもの、私には図りかねる。だがあり得るのかどうかと言われれば可能性は十分に有り得るものだ) (…そうか) まだ可能性の段階、無理にそれを聞き出すつもりもない。 そう、ただ家出をして道に迷った子供を保護した。ただそれだけのこと。 (分かっているとは思うが、今余はここから動くことはできん。神父自身の身に命の危機でも及ばぬ限りは、な) (問題ない、こちらはこちらでうまくやる) 自分の横で、密かに警戒するかのように沈黙をする少女。 この少女が、自分と同じ聖杯によって選出されたマスターであるのかどうか。 疑念を持ったまま、しかし少女を案じる心は本心にアンデルセンは孤児院へと歩みだした。 【B-9/市街地/一日目 早朝】 【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]健康、ポニーテール [令呪]残り三画 [装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装 [道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー [所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。 1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。 2.しばらくはおとなしくしているが、できればアンデルセンから離れたい 3.ルヴィア邸、海月原学園には行かない。 4.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。 5.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…? 【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】 [状態]健康、霊体化 [装備]斬魄刀 [道具]不明 [所持金]無し [思考・状況] 基本行動方針:美遊を守る 1.??????? 【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】 [状態]健康 [令呪]残り二画 [装備]無数の銃剣 [道具]朝食の材料が入ったコンビニ袋 [所持金]そこそこある [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を託すに足る者を探す。存在しないならば自らが聖杯を手に入れる。 1.ヴラドが領土を構築するのを待つ。 2.昼は孤児院、夜は廃教会(領土)を往復しながら、他の組に関する情報を手に入れる。 3.戦闘の際はできる限り領土へ誘い入れる。 4:美遊がマスターではないかという疑念はあるが、とりあえず今はあくまでも子供として保護する。 [備考] 箱舟内での役職は『孤児院の院長を務める神父』のようです。 聖杯戦争について『何故この地を選んだか』という疑念を持っています。 孤児院はC-9の丘の上に建っています 【D-9/廃教会/一日目 早朝】 【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha】 [状態]健康 [装備]サーヴァントとしての装備 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:勝利し、聖杯を手に入れる。 1.廃教会に領土を構築する。 2.アンデルセンと情報収集を行う。アーチャーなどの広域破壊や遠距離狙撃を行えるサーヴァントを警戒。 3.聖杯を託すに足る者をアンデルセンが見出した場合は同盟を考えるが、聖杯を託すに足らぬ者に容赦するつもりはない。 [備考] D-9に存在する廃教会にスキル『護国の鬼将』による領土を設定しようとしています。 ---- |BACK||NEXT| |068:[[異邦の地で生きるということ]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|070:[[ソラの政治家達]]| |067:[[勇者の邂逅、聖者の会合]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|042:[[鋏とおさげ]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |051:[[夜の始まり]]|[[美遊・エーデルフェルト]]&バーサーカー([[黒崎一護]])|074:[[善悪アポトーシス]]| |052:[[国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり]]|[[アレクサンド・アンデルセン]]&ランサー([[ヴラド三世]])|~|

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