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戦場に立つ英雄/台所という名の戦場」(2014/12/14 (日) 06:36:21) の最新版変更点

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*戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE 食事を摂ることの必要性は分かっている。機械が定期的な手入れを必要とするように人間もまた栄養補給と休息を挟まなければ活動を停止してしまう。 しかし戦場でそこに時間をとられては後手に回る危険が大きい。特に学園に侵入するNPCの確保はあまりに時間が過ぎると難しい。登校時間は過ぎ生徒は皆無、部外者を入れては怪しすぎる。急いで出なければ人材確保はできないのだからジャンクフードやサプリメントで構わない。 そう主張する切嗣に対し弓兵のサーヴァントが提案、作成したのが 「さあ、できたぞマスター」 サンドイッチだった。なるほど、これなら作成に手間も時間もかからないし手軽に摂取が可能だ。英雄なんて人種のなかでも、サンドイッチ伯爵には敬意を払ってもいいかもしれない。 「む、聞き捨てならないなマスター。確かにサンドイッチはシンプルな料理だが、だからこそ奥深いものがあるのだ」 そもそも料理、食事というのはだな……などとぶつぶつ語っているのを聞き流し、食事を摂る。これは…… 「美味いな」 アインツベルンの食事をしのぐかもしれん。パンを的確にトーストし、食材との歯ごたえのバランスを整えている。他にもいろいろ手を加えているようだが、不慣れな身では分からない。ベーコン、トマト、レタス、一つ一つ違った工夫をしているのにこの短時間で仕上げるとは… ぽつりと出た言葉を耳聡く拾い、自慢げに笑みを浮かべるアーチャー。 「フ、言っただろう。料理は得意だと。生前それなりの名家で執事をしていたこともある。注文の多いレディたちの舌を満足させた我が腕前は伊達ではないぞ?」 特にあかいあくまや金髪縦ロールのお嬢様はうるさかった……などとぼやきつつもそれを懐かしみ、誇りに思っているのが伝わってくる。英雄の自慢が戦場での人を殺した数ではなく全てこういったものならば……ああ、それはきっと平和ないい世界なのだろう。 だが、今はまだ。殺戮と陰謀の渦巻く戦場なんだ。 「アーチャー、残りは外食可能なようにまとめておいてくれ。出るぞ」 「了解した、マスター」 NPCおよび資材の調達。やらなければならないことはいくらである。 幸い足と土地勘はこの家で拝借できそうだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ピー、ピーと電子音が聞こえる。どうやら回しておいた洗濯機が仕事を終えたようだ。 流し見ていたニュースの音量を上げ、洗濯物の回収に向かう。 しわにならないよう丁寧に洗濯かごに入れベランダに向かう。幸いサーヴァントである自身に衣服は必要なく、彼女も私も洗濯物をため込むタイプではないため往復の必要は無い。 制服の予備、女子高生らしくオシャレな私服、バイト先で使うのかすこしお堅い一式などなど…… 種類はあるが数は少ない。これなら量が多くて乾きにくいということもなさそうだ。 縫い目を表にしたり、長袖のものを逆さにしたり生前を思い出して試行錯誤。湿度を下げるため丸めた新聞紙を下に置く。この薄手のシャツは先にアイロンをかけておいた方がいいだろう…… む、タグが切れている。鋏の試し切りにでも巻き込んだか?これではアイロンの適正温度や時間が分からんじゃないか。しかたない、そのまま干そう。いや、それより問題は (下着か) 女性と夜を共にした経験は何度かある。しかし生活を共有する前にみな喋らぬ姿に変えてしまったせいでこういった日常の経験はほぼない。 他の女物の扱いは不慣れとはいえ、男物と根本的に大きく変わることはない。しかしこれを扱った記憶は子供のころに母のものを干して以来だ。あのころは適当にやっても気にはしなかったが…… (派手だな。さすがにこれを私の母のものと同様に扱っていいものか) 母のは特に飾り気も何もない、端的にいえばダサい代物だったがこちらはさすが現役女子高生というべきか。 日陰干しとかタオルで囲んで外から隠すとかした方がいいのだったか?残念ながら聖杯はこういった知識は教えてくれないようだ。 そういえば生前女性の下着を爆弾にして、それを盗ろうとしていた目撃者を排除したこともあったな、やはり外から目につくのはできれば避けたいだろう。 (ふむ、マスターに確認するか?) いや、おそらく今は授業中。そこに念話でブラジャーの干し方が分からないから教えてほしいなどと言って挙動不審になられても困る。私たちの信頼関係的にも困る。 (とりあえず室内干しにいておくか) ルーラーからの伝達が入り次第、方針と一緒に下着の干し方も確認するとしよう。 これでひとまずやることは済んだ。あとはニュースでも見ながら……昼食でもとろうか。 サーヴァントに食事は不要だが、僅かながら魔力補給が出来る。何を作るか…… 冷蔵庫と棚を確認してメニューを決めようとするが (な、なにィ~醤油が切れかかっているだと……いや、落ち着け。別に醤油なしでも作れる料理などいくらでもある) しかしなぜ今まで気づかなかったのだ……くそ、朝食に使ったから卵も殆どない。買い物に行くか?いや、明確な方針が定まらず、情報も十分ではない現状で外に出るのは賢明とは言い難い。 しかし、そういえば先ほど丸めた新聞紙と一緒にスーパーのチラシがあったような…… (ええい!やはり気になる。ちゃんと蓄えておこう) 夜になれば本格的に聖杯戦争が始まる。物資を調達するならむしろ今だ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 原付にまたがり街を駆けるコートの男、衛宮切嗣。転がり込んだ家の住人から一応足を借りることはできたが (速度で劣り、さらに手が完全に塞がる。攻撃を防ぐ扉もないし、積載量も少ない。やはり車がほしいところだな) 帰りに荷物を載せるためにサイドカーをつけているせいで機動性はさらに落ちている。 『マスター、資材調達なら先ほど通り過ぎたホームセンターではダメだったのか?』 霊体化してついているアーチャーが念話で問いを投げる。 『いや、向こうのスーパーにまずは向かう。家主に聞いたところ、あそこでは月海原学園の生徒がバイトをしているらしい。搬入業者が学園の購買と一緒で、生徒と親しげに話しているのがしばしば見られているそうだ』 『なるほど。そこでNPCを狙うか』 『授業の選択次第では学生を確保できるかもしれないし、少なくとも昼前後には食品系の業者を確保、送り込むことができるんじゃないかと考えている。と、話しているうちに見えてきたな』 運転する切継の視界に大型のスーパーが見えてくる。駐輪スペースもあるが入ってみると意外と混んでおり、即乗車、出発という流れはできそうにない。 それを確認して少し離れた、人目の少ない駐車場に向かう。非常時の即時脱出を考えるとむしろこちらの方が時間のリスクは少ないと考えてのものだ。それにこれならアーチャーを実体化させる瞬間を目撃される心配もない。外からは見つけにくい、しかし発進はすぐにできる位置を見つけ、バイクを止める。 アーチャーが実体化を終えたとき、ちょうどその目の前を商品搬入のトラックが通り過ぎて行った。 「間がいいな、あとはあれが月海原にも関係があればベストだ。行くぞ、アーチャー」 搬入口に二人で向かっていく。仕事を終えたスタッフに声をかけ、話を聞いてみると……どうやらアーチャー主従のLUCも捨てたものではなかったようだ。 「月海原学園で仕事を終えたら、そこで昼食も済ませてくるといい。不審人物や探りを入れている人がいないか確かめてほしい。追って連絡するからその時報告をくれ。僕は……遠坂時臣。トキオミだ、忘れるな」 落ち着きあるはっきりした言葉で運転手を含む3人の搬入スタッフに言葉をかける。 「そうですね。あぁ…はい。そうします」 それを聞いた彼らはぼんやりとした思考でその言葉を受け入れた。 携帯の番号を確認し、こちらから連絡できるようにしたうえで催眠の条件付け。当座の暗示としては上々と言えよう。 それが済むと仕事を終えていたスタッフはトラックに乗り出発する。 『偽名か』 『ああ、生憎僕の魔術の腕は人並みの域を出ない。キャスターはおろかそれなりの魔術師なら破れるような暗示だ。だから、餌をまく』 『遠坂時臣なる魔術師がここにいるのか?』 『先ほど地図を見ながら家主に確認したが、ここは冬木という地方都市をある程度再現した物らしく、いくつか見覚えある施設や地名を確認できた。冬木の管理者たる遠坂の館も再現されていたよ。だから、僕を探る敵にはそちらに向かってもらう。いるともわからぬ遠坂の党首の影を追ってもらうさ』 記憶を直接読み解くのは相当高度な術者でなければできない。それよりも場所や名前をヒントに追うことの方が容易にとられる手段と考えての単純な策だ。魔術師という傲慢な人種はそういう些細な戦術すら読み取れないことが多い。 『もちろんこれで終えるつもりはない。斥候がばれるのを想定するなら複数放つのが定石だ。別口からのアプローチも考えるさ。窓口を増やし、追加のNPCを送る意味でも足の確保が先決かな』 策は、破られるのが前提。その最悪を想定したうえで、上を行くべく駒を進めるのが魔術師殺し衛宮切嗣。 その策の有用性は数々の戦地を渡り歩いた錬鉄の英雄も認めるところだったが 『申し訳ないがマスター、私の魔術は一点特化でね。単純な暗示すら難しい。家主の服を失敬してまで実体化させる戦術的利点は今はないようだが』 それに自身が加勢できるかは別問題。文句を言うつもりはないが疑念は口をついて出る。 『それはまあ、別口だ。資材確保に資金提供を依頼したのだが、さすがにただせびるわけにはいかない。買い出しをこのスーパーで依頼されたというわけさ。ここの話もその際聞いた。資材だけじゃなくここの買い物も加わるとなると手が足りない』 『……つまり私は荷物持ちに駆り出されたというわけか』 衛宮切嗣にとってサーヴァントは聖杯戦争を勝ち抜く道具でしかない。実用的に武器として扱うが……まさか小間使いのようにするつもりはなかった。それでもこうなるのはこの赤い英霊の宿命か。 手早く買い物を終え、先ほど見たホームセンターに向かおうと駐車場に戻る。先に食品を買ってしまったのは失敗だったかもしれないと反省しつつ原付のもとへ行くと 「どちら様でしょうか?それはわたしのものですが」 見慣れない男が自身の原付の側にいる。これではアーチャーを霊体化させるのが難しい。そもそも何をしているのかと考え声をかけ、相手が振り向くと 男の背後から獣人が現れ、その拳が切嗣を貫かんと繰り出された! ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― チラシでスーパーの場所を確認し霊体化して向かう。鍵をかけてそのまま出られるからなかなか便利でいい。 (ふーむ、霊というのはもう少し不便なイメージがあったがな。許可なく他人の家に上がるのも、霊体のまますれ違うのも問題なくできそうだ) 幽霊の目線で街を眺めながらゆったりと進むうち、スーパーに着く。歩いて10分弱と言ったところか。 近くの人目につかなそうな駐車場で霊体化を解き、入店する。 レジで会計を済ませているのを確認し 「殺意の女王(キラークイーン)…」 ぼそりと呟き、己が宝具を腕一本だけ発動。通りがけに少量の現金を頂戴する。 (大胆に盗んではニュースになる。しかしいつ盗ったともわからぬようにレジから抜き取れば内部犯、もしくは処理のミスが疑われ大きく報じられる危険は薄い) 仕送りとバイトだけで生活するマスターにさらに私の食費の負担は厳しい。魔力的な面でも経済的な面でも手段を問わず援助していく必要がある。 (さて、醤油と卵と……食料を調達しておこうか) 長いこと一人暮らしをしていたため、食材の選出も迅速に行える。日持ちするものを選び、念のため先ほどと盗んだレジは避けて会計、釣りを受け取る。荷物があるから霊体化できないな、などと帰り道を憂いていると 「おや」 今入ってきた原付、サーヴァントの気配がした。ということはアサシンではないが、敵。 どうやら先ほど自分が霊体化を解いた駐車場に改めて入っていったようだが、ヘルメットで顔は確認できなかった。 (ふむ、どうするか。今すぐ離れれば遭遇の危険はないが……むこうは私に気づいていないはず。顔くらいは確かめておくか……) こちらはスキルとクラス特性のおかげで発見は難しい。偵察だけならば有利のはず。 手に持った商品を改めて配送依頼し、周囲の目を確かめ霊体化して向かっていくと、ちょうど搬入口でスタッフとやり取りをしているところが目に付いた。そのままやり取りを見守っているとどうやらなにか催眠のようなものを掛けたらしい。 (なるほど、人海戦術というわけか。ああして学園に人を向かわせマスターを探す…トオサカトキオミ、なかなか面倒な手を打ってくれる) 暗示の文言を耳に収め、渋面を作る。学園には自身のマスターもいるのだ。放っておくと面倒になると判断し、二人がスーパー内に入っていったのを確かめると、先ほどの駐車場に向かう。 (リスクのある交戦は避けたいが……私の本質はクラスの通り暗殺。キラークイーンでハンドルを接触爆弾にして離脱すれば問題はない) しかし一瞬交錯しただけの原付、それも分かりにくいところにあったために発見には思いのほか時間をとられてしまった。ようやく見つけたそれを爆弾にするため 「殺意の女王(キラークイーン)」 宝具を発動させようと真名を開放すると 「どちら様でしょうか?それはわたしのものですが」 背後から話しかけられ振り返ると、トオサカがいた。そしてその背後の実体化したサーヴァントがこちらに殺気を放つのを感じた瞬間 反射的にキラークイーンによる拳を放ってしまった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 肉を貫く不気味な音ではなく、ガキン!という金属音が響く。 「魔力が感じられないからと言って油断したか、マスター?」 陰陽の双剣を交差させ、獣人の拳を受ける弓兵。同時に皮肉な言葉を己が主君に投げかける。 そして双剣を弾き、敵と距離をとる。 「フ~、随分と買い物を終えるのが早いじゃあないか。まさかもう戻って来るとは……」 アサシン、吉良吉影の心中を代弁するかのようにしゃべるスタンド……ただ一人、彼の側に立つ伴侶、殺意の女王(キラークイーン)。 必然、敵対する者はそちらを警戒する。 『マスター、あのサーヴァントのクラスやステータスは?』 『……一切見えない。あの獣人サーヴァントはどうやらステータス秘匿やそれに準ずるスキルか宝具を持っているらしい』 それを聞き、眉をひそめるも推論を深めるアーチャー。 『今の一撃から察するに単純な膂力はあちらが上、技量は拳の軌道や殺気への対応を見るにこちらが上。武器を持たず、魔術を使わず、言葉を交わす、アサシンもしくはエクストラクラスの可能性が高い。足を抑えられている以上撤退は難しい、背を向けるわけにもいかないか』 『勝てるか?』 『無論!』 再び双剣を構え切りかかるアーチャー。 対してそれをいなし、反撃の拳をスタンドに振るわせるも、引き際を誤ったことに心中臍をかむアサシン。 (くそっ、よりによって剣を扱うか。だがセイバーにしてはパワー不足、ステータスよりも宝具特化のサーヴァントか?どうにかして撤退しなければ) 「しばッ!」 「はぁっ!」 拳撃と剣戟が交差する。右突き、左受け、右薙ぎ、左払い、左拳、牽制、手刀、刺突、平手、袈裟、握み、裏拳、拳と剣のラッシュの攻防。 金属音を響かせながら、その音よりも速く繰り出される神秘の激突に一時目を奪われた切嗣も、敵影が自然と目に入り攻撃態勢に移ろうとする。しかし (人の目につきにくい場所とはいえ街中で銃声は拙いか。それにあの男、なぜサーヴァントとつかず離れずの距離を保っている?確かに僕から攻撃はしにくいがアーチャーにやられかねんぞ……) 獣人サーヴァント……キラークイーンの少し後ろに立ち続けている敵に疑問を持つ切嗣。援護を防ぐにしても上策とは言い難い、と思っていると パァァン!という音……アーチャーの振るう黒刀が砕かれた。 「ウリィヤアアッ!」 その隙を突こうとキラークイーンが手刀を振るう。が 「!? 折れた剣が…!?」 再度剣を投影し、手刀を受ける。驚愕の声を上げる敵マスターと一瞬硬直した敵サーヴァントの隙を突こうと即座に構えに入るが 「…!?」 自身の剣に違和感を覚え反射的に投げ捨て、距離をとってしまう。 それを見て取ったアサシンはスタンドと共に身を翻し、背後のブロック塀を破壊し撤退する。 それと同時に打ち捨てた黒刀が大爆発を起こした。 「む…!ぬぅ」 切継をかばい爆風から退避するアーチャー。壊れた幻想ほどの規模ではないが、多少はダメージを負う。それでも敵を追撃しようと改めて二刀を投影し崩落した塀を超えると 「……取り逃がしたか」 電信柱に跳び、周囲をサーヴァントとしての感覚と弓兵の鷹の眼で探るも、このさびれた路地から一切敵の気配は感じられなかった。 それを感じ取ったか合流する切嗣。 「逃げられたか」 「不本意ながら。高速移動か空間転移か、単純に気配遮断や逃走に長けているか。いずれにせよやはりアサシンの可能性が高いな、奴は」 「あの剣に何が起きた?なぜ打ち捨てた?」 「何が起きたかは分からないが……おそらくは奴の宝具。構造把握は得意でね、剣の材質や属性はそのままになぜかあれは爆弾になった。最初は嫌な感じでしかなかったが、打ち捨てて正解だった……いや、敵に投げつけるべきだったか。ミダス王の手は触れたものを黄金に変え、フィン・マックールは掬った水を癒しの霊薬に変えるという。触れた剣か、金属か、はたまた別の条件かは分からないが恐らくそれに近似する能力だろう」 「彼我の戦力差は?」 「先ほど念話で述べたとおりだ。多少のダメージは負ったが、真っ向勝負ならば十中八九勝てる、宝具次第になるが」 戦闘を通じて敵を分析する二人。交戦したアーチャーの言葉と対峙した男の振る舞いから厄介ではあるが、危険ではないと判断する。 しかし一つ疑問は残る。 「アーチャー、なぜあの男はサーヴァントの戦闘から距離をとらなかったか、意見はあるか?」 「分からない。指示なら念話で十分だろうし、マスターとの戦闘を避けるにしてもリスクが高すぎる。宝具かスキルの使用条件でもあるのではないかと推察するが……」 首を捻るも答えは出ない。そして、答えの出ない疑問よりも決めなければならないことがあるのを二人は失念していない。 「マスター、敵がアサシンの可能性が高い以上行動を起こさないのは下策だ。早急に敵を発見し叩くか、こちらが敵から距離をとるか。どう動く?」 敵の宝具、能力の一端は把握した。しかし敵の姿は見失い、アーチャーは消耗している。 「決めたよ、アーチャー。僕らは―――――」 【B-6(南)/スーパー近くの駐車場 /一日目 午前】 【衛宮切嗣@Fate/Zero】 [状態]健康 、魔力消費(微小) [令呪]残り三角 [装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾 [道具] サイドカー付原付(借り物)、地図(借り物)、スーパーで買った食料含む買い出しの品、弁当(アーチャー作のサンドイッチ) [所持金]豊富、ただし今所持しているのは資材調達に必要な分+α [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を 1.アサシンに対して――――― 2.使えそうなNPC、および資材の確保のため街を探索する 3.出来れば原付より便利な移動手段(自動車など)を確保したい。 4.昼を回ったら暗示をかけたNPCに連絡を取り、報告を受ける 5.アーチャーに不信感 [備考] アーチャーから岸波白野とランサー(エリザ)の外見的特徴を聞きました。 この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。 NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。 この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。 搬入業者3人に暗示をかけ月海原学園に向かわせました。昼食を学園でとりつつ、情報収集を行うでしょう。暗示を受けた3人は遠坂時臣という名を聞くと催眠状態になり質問に正直に答えます。 【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】 [状態]右腕負傷(小) [装備] 実体化した時のための普段着(家主から失敬してきた) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を 1.アサシンを追うか、撤退するか、資材やNPCの調達か。切嗣の指示を仰ぐ。 [備考] 岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。 エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しましたが確証はありません。 『殺意の女王(キラークイーン)』が触れて爆弾化したものを解析すればそうと判別できます。ただしアーチャーが直接触れなければわかりません。 右腕は軽傷であり、霊体化して魔力供給を受けていれば短時間で完治する程度のものです。 [共通備考] C-7にある民家を拠点にしました。 家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。 吉良吉影の姿と宝具『殺意の女王(キラークイーン)』の外観のみ確認しました。宝具は触れたものを爆弾にする効果で、恐らくアサシンだろうと推察していますが、吉良がマスターでキラークイーンがサーヴァントだと勘違い。ただし吉良の振る舞いには強い疑念をもっています。 吉良を探すか、家に戻るか、資材やNPCの調達に動くかは後続の方にお任せします。 [地域備考] B-6南、スーパー近くの駐車場で戦闘音と爆発音が響き、ブロック塀が倒壊しました。ただし爆発音はスタンド『殺意の女王(キラークイーン)』の能力なため、NPCには聞こえなかった可能性もあります。 (危なかった……) アサシン、吉良吉影はタクシーに乗っていた。路地に逃げ込み、霊体化して姿と気配を隠して進んでいる先でちょうどタクシーから降りているNPCを発見。霊体化したまま乗り込み、車内で実体化、マンションへと向かわせた。さすがに嫌な顔はされたが、前の客が降りたときにいつの間にか乗り込んだ迷惑な客で済んでいる。 (やはり私はついている) 最後の一手で手刀ではなく拳を繰り出していたらやられていた。こうしてタクシーに乗り込めねばあのサーヴァントに遭遇しないようビクビクしながら帰路についていただろう。 しかし外出、撤退、交戦と反省点は多々ある。 (接触弾では近接戦で私が爆風で負傷しかねないのが難点だな。対魔力のスキルに内部破壊の爆弾が効かない可能性も考えるとやはり三騎士のクラスはなんとしても避けねばならん) 今回も距離が近すぎたため黒刀を接触弾にするのは避けたし、敵の対魔力を警戒して内部破壊にもしなかった。しかし (奴は本当にセイバーか?ステータスも高くないようだし、壊れたはずの剣がまた出てきたのを考えるとあれが奴の唯一の宝具ではないことになる) 道具作成スキル、模造品の作成、幻術などいくらでも可能性はある。なんでも想定できるサーヴァントを相手に狭い視野で臨むなど愚の骨頂。考察はルーラーの通達を受けてからだ。 それよりも 「あ、運転手さん、そこ右で」 「はいはい」 それよりもマスターに警告を送らねば。トオサカトキオミがNPCを送り込んだ以上、他の魔術師も同じようなことをしている可能性は高い。 (マスター……) 念話が済むころにはマンションに着く。そうしたら―――――昼食を作り始めよう。醤油や食材もそのうち届くだろう。 【B-6(南西)/マンションそば路上、タクシー内 /一日目 午前】 【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:健康 、魔力消費(小) [装備]:なし [道具]:レジから盗んだ金の残り、タクシー代を払ったらほとんど残らない程度 [思考・状況] 基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。 1.学園に敵の刺客が送り込まれたことをマスターに伝える。 2.それ以外にも学園内に敵がいる可能性を警戒。調査は基本、放課後マスターとの合流後に動く。 もう滅多なことでは外出は避ける。 3.暫くは家の中で適当に暇を潰す。次は昼食の予定。 3.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。 4.女性の美しい手を切り取りたい。 [備考] 魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。 保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。 瞬間移動を使う敵がいると想定しています。 B-6のスーパーのレジから少額ですが現金を抜き取りました。 醤油、卵を含む買い物を行いスーパーで配送依頼をしました。遅くとも正午過ぎには届くでしょう。日持ちする食品を選んだようですが、中身はお任せします。 切嗣がNPCに暗示をかけ月海原学園に向かわせているのを目撃し、暗示の内容を盗み聞きました。そのため切嗣のことをトオサカトキオミという魔術師だと思っています。 衛宮切嗣&アーチャーと交戦、干将・莫邪の外観及び投影による複数使用を視認しました。 切嗣は戦闘に参加しなかったため、ひょっとするとまだ正体秘匿スキルは切継に機能するかもしれません。 ---- |BACK||NEXT| |060:[[Imitation/午前9時52分]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|062:[[再現された仮想現実世界]]| |060:[[Imitation/午前9時52分]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|062:[[再現された仮想現実世界]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |048:[[戦争考察 NPC編]]|[[衛宮切嗣]]&アーチャー([[エミヤ・シロウ]])|:[[]]| |042:[[鋏とおさげ]]|アサシン([[吉良吉影]])|081:[[そして、もう誰にも頼らないのか?]]| &link_up(▲上へ)
*戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE 食事を摂ることの必要性は分かっている。機械が定期的な手入れを必要とするように人間もまた栄養補給と休息を挟まなければ活動を停止してしまう。 しかし戦場でそこに時間をとられては後手に回る危険が大きい。特に学園に侵入するNPCの確保はあまりに時間が過ぎると難しい。登校時間は過ぎ生徒は皆無、部外者を入れては怪しすぎる。急いで出なければ人材確保はできないのだからジャンクフードやサプリメントで構わない。 そう主張する切嗣に対し弓兵のサーヴァントが提案、作成したのが 「さあ、できたぞマスター」 サンドイッチだった。なるほど、これなら作成に手間も時間もかからないし手軽に摂取が可能だ。英雄なんて人種のなかでも、サンドイッチ伯爵には敬意を払ってもいいかもしれない。 「む、聞き捨てならないなマスター。確かにサンドイッチはシンプルな料理だが、だからこそ奥深いものがあるのだ」 そもそも料理、食事というのはだな……などとぶつぶつ語っているのを聞き流し、食事を摂る。これは…… 「美味いな」 アインツベルンの食事をしのぐかもしれん。パンを的確にトーストし、食材との歯ごたえのバランスを整えている。他にもいろいろ手を加えているようだが、不慣れな身では分からない。ベーコン、トマト、レタス、一つ一つ違った工夫をしているのにこの短時間で仕上げるとは… ぽつりと出た言葉を耳聡く拾い、自慢げに笑みを浮かべるアーチャー。 「フ、言っただろう。料理は得意だと。生前それなりの名家で執事をしていたこともある。注文の多いレディたちの舌を満足させた我が腕前は伊達ではないぞ?」 特にあかいあくまや金髪縦ロールのお嬢様はうるさかった……などとぼやきつつもそれを懐かしみ、誇りに思っているのが伝わってくる。英雄の自慢が戦場での人を殺した数ではなく全てこういったものならば……ああ、それはきっと平和ないい世界なのだろう。 だが、今はまだ。殺戮と陰謀の渦巻く戦場なんだ。 「アーチャー、残りは外食可能なようにまとめておいてくれ。出るぞ」 「了解した、マスター」 NPCおよび資材の調達。やらなければならないことはいくらである。 幸い足と土地勘はこの家で拝借できそうだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ピー、ピーと電子音が聞こえる。どうやら回しておいた洗濯機が仕事を終えたようだ。 流し見ていたニュースの音量を上げ、洗濯物の回収に向かう。 しわにならないよう丁寧に洗濯かごに入れベランダに向かう。幸いサーヴァントである自身に衣服は必要なく、彼女も私も洗濯物をため込むタイプではないため往復の必要は無い。 制服の予備、女子高生らしくオシャレな私服、バイト先で使うのかすこしお堅い一式などなど…… 種類はあるが数は少ない。これなら量が多くて乾きにくいということもなさそうだ。 縫い目を表にしたり、長袖のものを逆さにしたり生前を思い出して試行錯誤。湿度を下げるため丸めた新聞紙を下に置く。この薄手のシャツは先にアイロンをかけておいた方がいいだろう…… む、タグが切れている。鋏の試し切りにでも巻き込んだか?これではアイロンの適正温度や時間が分からんじゃないか。しかたない、そのまま干そう。いや、それより問題は (下着か) 女性と夜を共にした経験は何度かある。しかし生活を共有する前にみな喋らぬ姿に変えてしまったせいでこういった日常の経験はほぼない。 他の女物の扱いは不慣れとはいえ、男物と根本的に大きく変わることはない。しかしこれを扱った記憶は子供のころに母のものを干して以来だ。あのころは適当にやっても気にはしなかったが…… (派手だな。さすがにこれを私の母のものと同様に扱っていいものか) 母のは特に飾り気も何もない、端的にいえばダサい代物だったがこちらはさすが現役女子高生というべきか。 日陰干しとかタオルで囲んで外から隠すとかした方がいいのだったか?残念ながら聖杯はこういった知識は教えてくれないようだ。 そういえば生前女性の下着を爆弾にして、それを盗ろうとしていた目撃者を排除したこともあったな、やはり外から目につくのはできれば避けたいだろう。 (ふむ、マスターに確認するか?) いや、おそらく今は授業中。そこに念話でブラジャーの干し方が分からないから教えてほしいなどと言って挙動不審になられても困る。私たちの信頼関係的にも困る。 (とりあえず室内干しにいておくか) ルーラーからの伝達が入り次第、方針と一緒に下着の干し方も確認するとしよう。 これでひとまずやることは済んだ。あとはニュースでも見ながら……昼食でもとろうか。 サーヴァントに食事は不要だが、僅かながら魔力補給が出来る。何を作るか…… 冷蔵庫と棚を確認してメニューを決めようとするが (な、なにィ~醤油が切れかかっているだと……いや、落ち着け。別に醤油なしでも作れる料理などいくらでもある) しかしなぜ今まで気づかなかったのだ……くそ、朝食に使ったから卵も殆どない。買い物に行くか?いや、明確な方針が定まらず、情報も十分ではない現状で外に出るのは賢明とは言い難い。 しかし、そういえば先ほど丸めた新聞紙と一緒にスーパーのチラシがあったような…… (ええい!やはり気になる。ちゃんと蓄えておこう) 夜になれば本格的に聖杯戦争が始まる。物資を調達するならむしろ今だ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 原付にまたがり街を駆けるコートの男、衛宮切嗣。転がり込んだ家の住人から一応足を借りることはできたが (速度で劣り、さらに手が完全に塞がる。攻撃を防ぐ扉もないし、積載量も少ない。やはり車がほしいところだな) 帰りに荷物を載せるためにサイドカーをつけているせいで機動性はさらに落ちている。 『マスター、資材調達なら先ほど通り過ぎたホームセンターではダメだったのか?』 霊体化してついているアーチャーが念話で問いを投げる。 『いや、向こうのスーパーにまずは向かう。家主に聞いたところ、あそこでは月海原学園の生徒がバイトをしているらしい。搬入業者が学園の購買と一緒で、生徒と親しげに話しているのがしばしば見られているそうだ』 『なるほど。そこでNPCを狙うか』 『授業の選択次第では学生を確保できるかもしれないし、少なくとも昼前後には食品系の業者を確保、送り込むことができるんじゃないかと考えている。と、話しているうちに見えてきたな』 運転する切継の視界に大型のスーパーが見えてくる。駐輪スペースもあるが入ってみると意外と混んでおり、即乗車、出発という流れはできそうにない。 それを確認して少し離れた、人目の少ない駐車場に向かう。非常時の即時脱出を考えるとむしろこちらの方が時間のリスクは少ないと考えてのものだ。それにこれならアーチャーを実体化させる瞬間を目撃される心配もない。外からは見つけにくい、しかし発進はすぐにできる位置を見つけ、バイクを止める。 アーチャーが実体化を終えたとき、ちょうどその目の前を商品搬入のトラックが通り過ぎて行った。 「間がいいな、あとはあれが月海原にも関係があればベストだ。行くぞ、アーチャー」 搬入口に二人で向かっていく。仕事を終えたスタッフに声をかけ、話を聞いてみると……どうやらアーチャー主従のLUCも捨てたものではなかったようだ。 「月海原学園で仕事を終えたら、そこで昼食も済ませてくるといい。不審人物や探りを入れている人がいないか確かめてほしい。追って連絡するからその時報告をくれ。僕は……遠坂時臣。トキオミだ、忘れるな」 落ち着きあるはっきりした言葉で運転手を含む3人の搬入スタッフに言葉をかける。 「そうですね。あぁ…はい。そうします」 それを聞いた彼らはぼんやりとした思考でその言葉を受け入れた。 携帯の番号を確認し、こちらから連絡できるようにしたうえで催眠の条件付け。当座の暗示としては上々と言えよう。 それが済むと仕事を終えていたスタッフはトラックに乗り出発する。 『偽名か』 『ああ、生憎僕の魔術の腕は人並みの域を出ない。キャスターはおろかそれなりの魔術師なら破れるような暗示だ。だから、餌をまく』 『遠坂時臣なる魔術師がここにいるのか?』 『先ほど地図を見ながら家主に確認したが、ここは冬木という地方都市をある程度再現した物らしく、いくつか見覚えある施設や地名を確認できた。冬木の管理者たる遠坂の館も再現されていたよ。だから、僕を探る敵にはそちらに向かってもらう。いるともわからぬ遠坂の党首の影を追ってもらうさ』 記憶を直接読み解くのは相当高度な術者でなければできない。それよりも場所や名前をヒントに追うことの方が容易にとられる手段と考えての単純な策だ。魔術師という傲慢な人種はそういう些細な戦術すら読み取れないことが多い。 『もちろんこれで終えるつもりはない。斥候がばれるのを想定するなら複数放つのが定石だ。別口からのアプローチも考えるさ。窓口を増やし、追加のNPCを送る意味でも足の確保が先決かな』 策は、破られるのが前提。その最悪を想定したうえで、上を行くべく駒を進めるのが魔術師殺し衛宮切嗣。 その策の有用性は数々の戦地を渡り歩いた錬鉄の英雄も認めるところだったが 『申し訳ないがマスター、私の魔術は一点特化でね。単純な暗示すら難しい。家主の服を失敬してまで実体化させる戦術的利点は今はないようだが』 それに自身が加勢できるかは別問題。文句を言うつもりはないが疑念は口をついて出る。 『それはまあ、別口だ。資材確保に資金提供を依頼したのだが、さすがにただせびるわけにはいかない。買い出しをこのスーパーで依頼されたというわけさ。ここの話もその際聞いた。資材だけじゃなくここの買い物も加わるとなると手が足りない』 『……つまり私は荷物持ちに駆り出されたというわけか』 衛宮切嗣にとってサーヴァントは聖杯戦争を勝ち抜く道具でしかない。実用的に武器として扱うが……まさか小間使いのようにするつもりはなかった。それでもこうなるのはこの赤い英霊の宿命か。 手早く買い物を終え、先ほど見たホームセンターに向かおうと駐車場に戻る。先に食品を買ってしまったのは失敗だったかもしれないと反省しつつ原付のもとへ行くと 「どちら様でしょうか?それはわたしのものですが」 見慣れない男が自身の原付の側にいる。これではアーチャーを霊体化させるのが難しい。そもそも何をしているのかと考え声をかけ、相手が振り向くと 男の背後から獣人が現れ、その拳が切嗣を貫かんと繰り出された! ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― チラシでスーパーの場所を確認し霊体化して向かう。鍵をかけてそのまま出られるからなかなか便利でいい。 (ふーむ、霊というのはもう少し不便なイメージがあったがな。許可なく他人の家に上がるのも、霊体のまますれ違うのも問題なくできそうだ) 幽霊の目線で街を眺めながらゆったりと進むうち、スーパーに着く。歩いて10分弱と言ったところか。 近くの人目につかなそうな駐車場で霊体化を解き、入店する。 レジで会計を済ませているのを確認し 「殺意の女王(キラークイーン)…」 ぼそりと呟き、己が宝具を腕一本だけ発動。通りがけに少量の現金を頂戴する。 (大胆に盗んではニュースになる。しかしいつ盗ったともわからぬようにレジから抜き取れば内部犯、もしくは処理のミスが疑われ大きく報じられる危険は薄い) 仕送りとバイトだけで生活するマスターにさらに私の食費の負担は厳しい。魔力的な面でも経済的な面でも手段を問わず援助していく必要がある。 (さて、醤油と卵と……食料を調達しておこうか) 長いこと一人暮らしをしていたため、食材の選出も迅速に行える。日持ちするものを選び、念のため先ほどと盗んだレジは避けて会計、釣りを受け取る。荷物があるから霊体化できないな、などと帰り道を憂いていると 「おや」 今入ってきた原付、サーヴァントの気配がした。ということはアサシンではないが、敵。 どうやら先ほど自分が霊体化を解いた駐車場に改めて入っていったようだが、ヘルメットで顔は確認できなかった。 (ふむ、どうするか。今すぐ離れれば遭遇の危険はないが……むこうは私に気づいていないはず。顔くらいは確かめておくか……) こちらはスキルとクラス特性のおかげで発見は難しい。偵察だけならば有利のはず。 手に持った商品を改めて配送依頼し、周囲の目を確かめ霊体化して向かっていくと、ちょうど搬入口でスタッフとやり取りをしているところが目に付いた。そのままやり取りを見守っているとどうやらなにか催眠のようなものを掛けたらしい。 (なるほど、人海戦術というわけか。ああして学園に人を向かわせマスターを探す…トオサカトキオミ、なかなか面倒な手を打ってくれる) 暗示の文言を耳に収め、渋面を作る。学園には自身のマスターもいるのだ。放っておくと面倒になると判断し、二人がスーパー内に入っていったのを確かめると、先ほどの駐車場に向かう。 (リスクのある交戦は避けたいが……私の本質はクラスの通り暗殺。キラークイーンでハンドルを接触爆弾にして離脱すれば問題はない) しかし一瞬交錯しただけの原付、それも分かりにくいところにあったために発見には思いのほか時間をとられてしまった。ようやく見つけたそれを爆弾にするため 「殺意の女王(キラークイーン)」 宝具を発動させようと真名を開放すると 「どちら様でしょうか?それはわたしのものですが」 背後から話しかけられ振り返ると、トオサカがいた。そしてその背後の実体化したサーヴァントがこちらに殺気を放つのを感じた瞬間 反射的にキラークイーンによる拳を放ってしまった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 肉を貫く不気味な音ではなく、ガキン!という金属音が響く。 「魔力が感じられないからと言って油断したか、マスター?」 陰陽の双剣を交差させ、獣人の拳を受ける弓兵。同時に皮肉な言葉を己が主君に投げかける。 そして双剣を弾き、敵と距離をとる。 「フ~、随分と買い物を終えるのが早いじゃあないか。まさかもう戻って来るとは……」 アサシン、吉良吉影の心中を代弁するかのようにしゃべるスタンド……ただ一人、彼の側に立つ伴侶、殺意の女王(キラークイーン)。 必然、敵対する者はそちらを警戒する。 『マスター、あのサーヴァントのクラスやステータスは?』 『……一切見えない。あの獣人サーヴァントはどうやらステータス秘匿やそれに準ずるスキルか宝具を持っているらしい』 それを聞き、眉をひそめるも推論を深めるアーチャー。 『今の一撃から察するに単純な膂力はあちらが上、技量は拳の軌道や殺気への対応を見るにこちらが上。武器を持たず、魔術を使わず、言葉を交わす、アサシンもしくはエクストラクラスの可能性が高い。足を抑えられている以上撤退は難しい、背を向けるわけにもいかないか』 『勝てるか?』 『無論!』 再び双剣を構え切りかかるアーチャー。 対してそれをいなし、反撃の拳をスタンドに振るわせるも、引き際を誤ったことに心中臍をかむアサシン。 (くそっ、よりによって剣を扱うか。だがセイバーにしてはパワー不足、ステータスよりも宝具特化のサーヴァントか?どうにかして撤退しなければ) 「しばッ!」 「はぁっ!」 拳撃と剣戟が交差する。右突き、左受け、右薙ぎ、左払い、左拳、牽制、手刀、刺突、平手、袈裟、握み、裏拳、拳と剣のラッシュの攻防。 金属音を響かせながら、その音よりも速く繰り出される神秘の激突に一時目を奪われた切嗣も、敵影が自然と目に入り攻撃態勢に移ろうとする。しかし (人の目につきにくい場所とはいえ街中で銃声は拙いか。それにあの男、なぜサーヴァントとつかず離れずの距離を保っている?確かに僕から攻撃はしにくいがアーチャーにやられかねんぞ……) 獣人サーヴァント……キラークイーンの少し後ろに立ち続けている敵に疑問を持つ切嗣。援護を防ぐにしても上策とは言い難い、と思っていると パァァン!という音……アーチャーの振るう黒刀が砕かれた。 「ウリィヤアアッ!」 その隙を突こうとキラークイーンが手刀を振るう。が 「!? 折れた剣が…!?」 再度剣を投影し、手刀を受ける。驚愕の声を上げる敵マスターと一瞬硬直した敵サーヴァントの隙を突こうと即座に構えに入るが 「…!?」 自身の剣に違和感を覚え反射的に投げ捨て、距離をとってしまう。 それを見て取ったアサシンはスタンドと共に身を翻し、背後のブロック塀を破壊し撤退する。 それと同時に打ち捨てた黒刀が大爆発を起こした。 「む…!ぬぅ」 切継をかばい爆風から退避するアーチャー。壊れた幻想ほどの規模ではないが、多少はダメージを負う。それでも敵を追撃しようと改めて二刀を投影し崩落した塀を超えると 「……取り逃がしたか」 電信柱に跳び、周囲をサーヴァントとしての感覚と弓兵の鷹の眼で探るも、このさびれた路地から一切敵の気配は感じられなかった。 それを感じ取ったか合流する切嗣。 「逃げられたか」 「不本意ながら。高速移動か空間転移か、単純に気配遮断や逃走に長けているか。いずれにせよやはりアサシンの可能性が高いな、奴は」 「あの剣に何が起きた?なぜ打ち捨てた?」 「何が起きたかは分からないが……おそらくは奴の宝具。構造把握は得意でね、剣の材質や属性はそのままになぜかあれは爆弾になった。最初は嫌な感じでしかなかったが、打ち捨てて正解だった……いや、敵に投げつけるべきだったか。ミダス王の手は触れたものを黄金に変え、フィン・マックールは掬った水を癒しの霊薬に変えるという。触れた剣か、金属か、はたまた別の条件かは分からないが恐らくそれに近似する能力だろう」 「彼我の戦力差は?」 「先ほど念話で述べたとおりだ。多少のダメージは負ったが、真っ向勝負ならば十中八九勝てる、宝具次第になるが」 戦闘を通じて敵を分析する二人。交戦したアーチャーの言葉と対峙した男の振る舞いから厄介ではあるが、危険ではないと判断する。 しかし一つ疑問は残る。 「アーチャー、なぜあの男はサーヴァントの戦闘から距離をとらなかったか、意見はあるか?」 「分からない。指示なら念話で十分だろうし、マスターとの戦闘を避けるにしてもリスクが高すぎる。宝具かスキルの使用条件でもあるのではないかと推察するが……」 首を捻るも答えは出ない。そして、答えの出ない疑問よりも決めなければならないことがあるのを二人は失念していない。 「マスター、敵がアサシンの可能性が高い以上行動を起こさないのは下策だ。早急に敵を発見し叩くか、こちらが敵から距離をとるか。どう動く?」 敵の宝具、能力の一端は把握した。しかし敵の姿は見失い、アーチャーは消耗している。 「決めたよ、アーチャー。僕らは―――――」 【B-6(南)/スーパー近くの駐車場 /一日目 午前】 【衛宮切嗣@Fate/Zero】 [状態]健康 、魔力消費(微小) [令呪]残り三角 [装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾 [道具] サイドカー付原付(借り物)、地図(借り物)、スーパーで買った食料含む買い出しの品、弁当(アーチャー作のサンドイッチ) [所持金]豊富、ただし今所持しているのは資材調達に必要な分+α [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を 1.アサシンに対して――――― 2.使えそうなNPC、および資材の確保のため街を探索する 3.出来れば原付より便利な移動手段(自動車など)を確保したい。 4.昼を回ったら暗示をかけたNPCに連絡を取り、報告を受ける 5.アーチャーに不信感 [備考] アーチャーから岸波白野とランサー(エリザ)の外見的特徴を聞きました。 この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。 NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。 この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。 搬入業者3人に暗示をかけ月海原学園に向かわせました。昼食を学園でとりつつ、情報収集を行うでしょう。暗示を受けた3人は遠坂時臣という名を聞くと催眠状態になり質問に正直に答えます。 【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】 [状態]右腕負傷(小) [装備] 実体化した時のための普段着(家主から失敬してきた) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を 1.アサシンを追うか、撤退するか、資材やNPCの調達か。切嗣の指示を仰ぐ。 [備考] 岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。 エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しましたが確証はありません。 『殺意の女王(キラークイーン)』が触れて爆弾化したものを解析すればそうと判別できます。ただしアーチャーが直接触れなければわかりません。 右腕は軽傷であり、霊体化して魔力供給を受けていれば短時間で完治する程度のものです。 [共通備考] C-7にある民家を拠点にしました。 家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。 吉良吉影の姿と宝具『殺意の女王(キラークイーン)』の外観のみ確認しました。宝具は触れたものを爆弾にする効果で、恐らくアサシンだろうと推察していますが、吉良がマスターでキラークイーンがサーヴァントだと勘違い。ただし吉良の振る舞いには強い疑念をもっています。 吉良を探すか、家に戻るか、資材やNPCの調達に動くかは後続の方にお任せします。 [地域備考] B-6南、スーパー近くの駐車場で戦闘音と爆発音が響き、ブロック塀が倒壊しました。ただし爆発音はスタンド『殺意の女王(キラークイーン)』の能力なため、NPCには聞こえなかった可能性もあります。 (危なかった……) アサシン、吉良吉影はタクシーに乗っていた。路地に逃げ込み、霊体化して姿と気配を隠して進んでいる先でちょうどタクシーから降りているNPCを発見。霊体化したまま乗り込み、車内で実体化、マンションへと向かわせた。さすがに嫌な顔はされたが、前の客が降りたときにいつの間にか乗り込んだ迷惑な客で済んでいる。 (やはり私はついている) 最後の一手で手刀ではなく拳を繰り出していたらやられていた。こうしてタクシーに乗り込めねばあのサーヴァントに遭遇しないようビクビクしながら帰路についていただろう。 しかし外出、撤退、交戦と反省点は多々ある。 (接触弾では近接戦で私が爆風で負傷しかねないのが難点だな。対魔力のスキルに内部破壊の爆弾が効かない可能性も考えるとやはり三騎士のクラスはなんとしても避けねばならん) 今回も距離が近すぎたため黒刀を接触弾にするのは避けたし、敵の対魔力を警戒して内部破壊にもしなかった。しかし (奴は本当にセイバーか?ステータスも高くないようだし、壊れたはずの剣がまた出てきたのを考えるとあれが奴の唯一の宝具ではないことになる) 道具作成スキル、模造品の作成、幻術などいくらでも可能性はある。なんでも想定できるサーヴァントを相手に狭い視野で臨むなど愚の骨頂。考察はルーラーの通達を受けてからだ。 それよりも 「あ、運転手さん、そこ右で」 「はいはい」 それよりもマスターに警告を送らねば。トオサカトキオミがNPCを送り込んだ以上、他の魔術師も同じようなことをしている可能性は高い。 (マスター……) 念話が済むころにはマンションに着く。そうしたら―――――昼食を作り始めよう。醤油や食材もそのうち届くだろう。 【B-6(南西)/マンションそば路上、タクシー内 /一日目 午前】 【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:健康 、魔力消費(小) [装備]:なし [道具]:レジから盗んだ金の残り、タクシー代を払ったらほとんど残らない程度 [思考・状況] 基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。 1.学園に敵の刺客が送り込まれたことをマスターに伝える。 2.それ以外にも学園内に敵がいる可能性を警戒。調査は基本、放課後マスターとの合流後に動く。 もう滅多なことでは外出は避ける。 3.暫くは家の中で適当に暇を潰す。次は昼食の予定。 3.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。 4.女性の美しい手を切り取りたい。 [備考] 魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。 保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。 瞬間移動を使う敵がいると想定しています。 B-6のスーパーのレジから少額ですが現金を抜き取りました。 醤油、卵を含む買い物を行いスーパーで配送依頼をしました。遅くとも正午過ぎには届くでしょう。日持ちする食品を選んだようですが、中身はお任せします。 切嗣がNPCに暗示をかけ月海原学園に向かわせているのを目撃し、暗示の内容を盗み聞きました。そのため切嗣のことをトオサカトキオミという魔術師だと思っています。 衛宮切嗣&アーチャーと交戦、干将・莫邪の外観及び投影による複数使用を視認しました。 切嗣は戦闘に参加しなかったため、ひょっとするとまだ正体秘匿スキルは切継に機能するかもしれません。 ---- |BACK||NEXT| |060:[[Imitation/午前9時52分]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|062:[[再現された仮想現実世界]]| |060:[[Imitation/午前9時52分]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|062:[[再現された仮想現実世界]]| |BACK|登場キャラ:[[追跡表]]|NEXT| |048:[[戦争考察 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