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機動戦士ガンダムデップー ”逆襲のウェイバー”」(2014/11/01 (土) 14:40:29) の最新版変更点

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*機動戦士ガンダムデップー ”逆襲のウェイバー” ◆DpgFZhamPE 「ウェイバー君、この後授業だけど大丈夫?」 「ああ、はい・・・大丈夫です」 月海原学園から少し歩いた場所にある英会話教室―――そこに魔術師ウェイバー・ベルベットはアルバイトをしている。 拠点からバスを乗り継ぎ、ここまでくるのは少し疲れるが、時給は他のアルバイトに比べてそこそこ良いのだ。 バスの交通費も英会話教室が負担してくれているという。 中々良いバイト先で、資金を稼げるという事実にウェイバーは少しだけ気分が良くなった。 しかし今の彼は、はっきり言って倒れそうなほどに疲れていた。 通勤による肉体的に、ではない。 精神的に、である。 顔も幾分か老けたのではないだろうか。 (・・・ったく、朝から最悪だよ) ウェイバーの悩みは―――言うまでもなく、バーサーカーである。 手綱を握るどころか、会話すら成り立たない。 意味不明な単語の羅列と誰と話しているのかすら理解できそうにないその反応。 こちらの言葉を理解しているのかすら危うい。 彼のことが全く理解できないのだ。 そして自分の気づかない内に予想外の行動ばかり行う。 今朝のこともそうだ。 まったく持って―――ハズレサーヴァントだ。 (他にセイバーとかランサーとか、ライダーとか色々いるじゃないか。何でよりによってバーサーカーなんだよ・・・) 悩んでも聖杯戦争は終わらない。 これからどう動こうかも考えなければならない。 あのバーサーカーをどう制御するか、令呪の使用も視野に入れてはいるが―――数少ない令呪、こんな序盤で使っていいのかという考えもあるのだ。 いざという時に使えませんでしたでは、洒落にならない。 だからこそ、使用には最大の注意を払わなければいけない。 (あー、クソ。全然答えが見つからない) まだ午前なのに、精神的疲労が強いのか、眠くなってきている。 先ほどからウトウトしかけているのだ。 それこそ、同じアルバイト先の同僚に心配されるぐらいには。 (でも良かった、いくらバーサーカーでも場は弁えてるらしい) あれほどバイト先には出現するなと言っておいたのだ。 さすがのバーサーカーも理解してくれたのだろうか。 霊体化させて、待機ぐらいの指令ぐらいは聞いてくれたらしい。 (だってさっきから一言も喋って―――) ―――あれ? おかしい。 バーサーカーが。 ―――いない。 (何を考えてやがりますかあのバカぁぁぁぁぁぁぁあああッッ!!) ウェイバーは頭をガシガシと掻き回し、心の中で叫んだ。 気を抜いていた。 眠気と聖杯戦争の先の悩みで、心ここに在らずだった。 バーサーカーへの注目を疎かにしていた。 ―――だからこそ、気づかなかったのだ。 霊体化したままバーサーカーは、そのまま何処かに消えたのだ。 何処に行ったのかはわからない。 辛うじて分かるのは近くにバーサーカーが存在しないのと、魔力消費からバーサーカーが戦闘を行っていないだろうということ。 今はまだ大丈夫だが、好き勝手やらせた結果何処かで戦闘して真名がバレたなどがあったら最悪だ。 意味不明な存在だがあれでもサーヴァント、そう簡単に負けないとは思っているが―――それでも不安なのだ。 「ごめんなさい、この後の授業お願いしますッ!」 「え、まあいいけど―――」 同じ同僚に後を託し、答えすら聞かないまま英会話教室を駆け出す。 あのバカ、どこに行った―――! ◆ ◆ ◆ 真っ赤な車が街を走り抜ける。 過ぎ去る風はとても穏やかで、聖杯戦争なんて存在しないのではないかと思わせるほどだった。 『ふふ・・・』 霊体化しているが―――確かに感じる己のサーヴァントの微笑が、シャアの耳に届く。 「どうした?」 『いえ、こういうドライブもたまにはいいものねと思ったの』 「ああ、では実体化して見るといい。助手席も空いているのだからな」 ポンポン、と片手で助手席を軽く叩く。 そうすると、光の粒子が集まるように―――アーチャー、雷が実体化した。 その姿は黒の秘書服。 その姿はこの上ないくらい―――とても、似合っていた。 窓の外には家や自然の数々が流れている。 珍しくも何ともないであろうその風景。 その一つ一つを注意深く観察しながら、車を走らせる。 「どう?マスターは見つかりそう?」 「いや・・・やはりそう簡単には見つからないらしい」 周りを見ても異常はない。 そろそろ登校中の学生もいなくなった頃故か、人通りも少ない。 NPCに話を聞こうにも、姿が見えないのでは話にならない。 「少し新都の方に行ってみようか」 「ええ、あなたとなら何処までも着いて行くわ」 まるで向日葵のような―――明るい笑顔を向けて笑う。 その姿を見ると、こちらも微笑ましい気持ちになる。 「いつ誰に狙われても私が守るわ。だから、気にしないで行きましょう」 その言葉は、シャアの決断を後押ししてくれている。 ハンドルを握る腕は軽く、アクセルを踏む足も、躊躇うことはない。 しかし。 その時だけは、シャアはブレーキを踏んだ。 「アレは―――サーヴァントか・・・?」 シャアの目線の先には雷が霊体化した時と同じ感覚―――サーヴァントがそこに『いる』という感覚を、シャアは感じた。 シャアとそのサーヴァントの距離は約10メートル。 その周りにマスターは視認できない。 隠れているのか、それともサーヴァントが一人で散歩でもしているのか―――察しはつかないが、接触してみる価値はあるかもしれない。 「マスター、どうするの?」 「・・・少し接触してみよう」 「わかったわ」 車を側に止め、ガチャリとドアを開け車外へと出陣する。 雷もそれに続くように車外から飛び出し、シャアの盾になるように前に立っていた。 「マスター、他のサーヴァントといる時は私のことはアーチャーって呼んでね」 「わかっている」 真名が露見するのはサーヴァントにとって致命的。 そのリスクを減らすためなのだ、真名で呼ぶのは二人きりの時だけでいい。 カツカツと、革靴の音がする。 霊体化しているサーヴァントとの距離が、少しずつ近くなる。 そして―――約五メートルほどの距離になった瞬間。 シャアは、その口を開く。 「私はシャア・アズ&color(black,yellow){「アレェー?もしかして見えてるー?」}―――」 出鼻を、挫かれた。 声と同時に実体化したのは、赤と黒の装束を纏った怪人だった。 &color(black,yellow){「さっきから何を見てんだよ、オイ。あれ?もしかして俺ちゃんの美貌に見惚れちゃった?ダメダメ、俺ちゃんには愛すると決めた存在が!」} 「―――いや、すまない。このようなところにサーヴァントが一人でいるとは思わなくてな。君のマスターと話が」 &color(black,yellow){「あー、ちょっと待って。そこでガンプラ買ってくるからさ、サインいい?俺ちゃん実は『機動戦士ガンダム』のファンなんだよ!・・・富野さんからオファーこねぇかなぁ。『機動戦士ガンダムデップー』とかどうよ」} 「いや、サインなら後でしよう。君のマスターと話が」 &color(black,yellow){「やっぱりさー、赤と言ったらこの俺ちゃんの次くらいにはシャアってなるよな。あ?スパイディ?その話はスパイディがアサシン辺りで参戦した時にしてやるよ。あ、ヤッベ、今俺ちゃん金ないわ。ウェイバーちゃんからちょっとばかし拝借してくりゃよかったかなー、これじゃガンプラも買えねぇわ」} ―――会話が、成り立たない。 サーヴァントなのは分かるのだが、まず意思疎通ができていない。 こちらが話かけても一方的に言葉をぶつけ、時折何もない方向を見て観客に話かけるように言葉を放つ。 はっきり言って、理解不能だった。 いつ攻撃されても反応できるように、構えていた雷がシャアに囁く。 「・・・マスター、こいつバーサーカーのサーヴァントよ。どうやら言葉は出せるみたいだけど・・・やっぱり狂っているみたい」 &color(black,yellow){「あら、おたくサーヴァント?え、シャアちゃんまさかロリコンー?知ってたけどな!そんなロリコンマスター・アズナブルな貴方にはァ、この俺ちゃんが土手っ腹に風穴開けちゃいまーす」} 「なっ―――!!」 BANG!BANG!!BANG!!! 銃器から放たれた銃弾を、アーチャーはシャアを抱えて飛び上がることで避ける。 ギリギリで銃弾がシャアの顔面の横を掠める。 「な、なんなのよあのバーサーカー、いきなり発砲だなんて・・・!」 &color(black,yellow){「あれ?マスターとサーヴァントどっち殺せばいいんだっけ?あー・・・どっちでもいいか!」} 距離を取ったアーチャーを、その手に持った銃をクルクルと回しながらバーサーカーは距離を詰める。 ―――近づかれてはならない。 アーチャーとは、弓兵のクラス。 中距離、遠距離で真価を発揮するクラスである。 「あのサーヴァント、昼間だというのに・・・!?」 お構いなしか、とシャアは呟く。 巫山戯たサーヴァントだが―――あのサーヴァント、強敵だ。 「・・・アーチャー、迎撃を頼む」 「・・・マスター、」 「仕方ないさ。私達はここでやられる訳にはいかない」 「―――ええ、わかったわ」 アーチャーの顔が少し曇る。 バーサーカーに振り回されているだけで、マスターは善人の可能性を考えていたのだろう。 カシャリ、と地面に足を開いて構えると同時に、シャアを地面に下ろす。 背部に光が収束し、武装が出現する。 ―――12.7cm連装砲。 アーチャーの、基本武器である。 「ってー!!」 アーチャーの掛け声と共に―――銃弾が背部から発射される。 だが。 向かってくるバーサーカーは避けようともしない。 ドスッと、鈍い音を立てながら、銃弾はバーサーカーの肉を削り骨を折り、腹部を貫き体外に飛び出す。 &color(black,yellow){「ぐあーっ!腎臓がぁー!!」} ―――しかし、バーサーカーはそれでも止まらない。 攻撃を浴び、奇怪な叫び声をあげてなお、その体を前進させる。 「さすがバーサーカーね、でもこっちもまだまだよッ!」 ドンッ!と、背部の砲門から吐き出される数々の銃弾。 雷とて、戦いたい訳ではない。 しかし、マスターを守るため、そしてマスターの命令ならば―――躊躇はしない。 放たれた銃弾は真っ直ぐに突き進む。 綺麗な線を描きその銃弾は―――バーサーカーの、脳天を貫いた。 &color(black,yellow){「おうっ」} 間抜けな叫び声をあげながら、バーサーカーはその場に倒れ伏す。 しかし、それは一瞬。 ガバリ、と即座に身を起こし、その手に持った刀を構える。 &color(black,yellow){「危ないねぇ、今の俺ちゃんじゃなかったら死んでたよ?」} 軽い言葉と共に起き上がったバーサーカーの額には―――弾痕など、既に存在していなかった。 腹部の弾痕すらも、既に存在していない。 再生か、と雷は歯噛みする。 バーサーカーとこのような至近距離で争っていること自体が、アーチャーのクラスとしては既に不利なのだ。 その上、相手が再生能力持ちとなると―――長期戦は避けられない。 ばららららら、と12.7cm連装砲が空間に弾をばら撒く。 しかし、その全てはバーサーカーに避けられ、虚しく中を切るのみ。 宝具を解放しての火力で制圧することも考えたが、昼間の上にマスターは一般NPCより更に上級の立場である。 火力のある武装は、それに比例して音や衝撃も大きくなるものだ。 その音でNPCを呼び寄せてしまった場合、不利になるのはこちらだ。 『選挙に立候補する人間が争いの中心部にいた』―――そんな噂が拡がってしまえば、シャア・アズナブルがマスターであるということが他マスターに感づかれてしまうかもしれない。 よって、大火力で大きな音と衝撃を発生させてしまう宝具は、戦略上使えないのだ。 そして聖杯戦争も序盤の序盤。 ここで真名露見の恐れは避けておきたい。 よって。 アーチャーはこの基本武装、12.7cm連装砲で戦うことを強いられていた。 しかし、バーサーカーはそんなことはお構いなしなのだ。 近くにアーチャーがいるなら好都合。 離れられると面倒だし、コイツおっぱい無いしちゃちゃっと解体して何か楽しいこと探そう、程度のことしか考えていない。 そして極めつけはバーサーカーとアーチャーの戦法の違い。 バーサーカーは近・中こなせるオールラウンダーなのに対し、アーチャーは接近戦より遠距離戦、砲撃主体の戦い方を主体としている。 つまり―――そう。 この状況、アーチャーの圧倒的不利なのだ。 &color(black,yellow){「絶好調!絶好調!絶好調ォーーーッ!!俺ちゃん今朝おっぱい堪能したからもー超ノッてるのさ!正にデップーリシャス!」} 「何を、意味のわからないことをッ!」 Bang! BangBangBangBangBang!! バーサーカーの銃から放たれた鉛玉はアーチャーの顔面すぐ隣、足元、頭上と、直撃スレスレの場所を貫いていく。 ―――バーサーカー、デッドプールは狂人だ。 それは間違いない、歴とした事実である。 第三者から見れば常に妄言を垂れ流している異常者にしか見えない。 だが、しかし。 戦闘においては、一流なのだ。 傭兵としての技術、頭脳、直感、身のこなし。 その全てが、通常の傭兵の平均値を文字通り桁違い上回っているのだ。 そして狂っているからこそ、彼の思考を常人は理解できない。 つまり―――思考が読めないということは、次に何をしでかすかわからないということだ。 狂っているからこその、予測不能の攻撃。 狂っているからこその、大胆不敵の行動。 アーチャーは、それを捌き切ることができない。 &color(black,yellow){「次は豪快でクールな刀ちゃんの出番だーよッと!」} 手に持った銃を懐に仕舞い、背部の刀を抜く。 右と左の二刀流、鋭い日本刀。 幾つもの腕を斬り落とし。 何本もの脚を削ぎ。 何人もの首を取り。 膨大な数の命を刈ってきた―――その凶刃。 それを操るバーサーカーの身のこなしも『殺す』ことを第一とした、その技術の結晶。 弓兵の苦手な接近戦、それにおいてその小さな首を刈り取ろうと、その凶刃は無慈悲に迫る。 ―――しかし。 この程度でやられるならば、アーチャーは英霊になぞになってはいないのだ。 「なんの、ッ!」 ガギン!と、鋼鉄と刃が衝突する音がする。 アーチャーの持つ宝具―――『砲雷撃戦』。 生前、武装として積まれたその兵器を召喚する宝具。 その宝具から―――彼女が駆逐艦として使用していた錨を二つ、引き抜いたのだ。 生前から受け継いだ物は、武装だけではない。 香港攻略戦。メナド攻略戦。 スラバヤ沖海戦。護送任務。 その他にも数々の任務を、戦闘を行った記憶、その経験は―――艦娘となった彼女の体に深く刻まれている。 勝った戦闘の経験も。負けた戦闘の経験も。 助けた命の記憶も。守れなかった命の記憶も。 忘れるはずがない。忘れてたまるものか。 時代は変わり、駆逐艦はその姿を変えて尚―――命を賭して戦った戦友を、覚えている。 ならば、負けるはずがないのだ。 多くの願いと、乗組員だった彼らの思いが、そう簡単に負けるはずがない―――! 「くうっ!」 しかし、鍔迫り合ったのはほんの一瞬。 バーサーカーの強大な筋力よって、雷の体はいとも容易く後方に飛ばされる。 &color(black,yellow){「あーダメダメ、子供ならそんな小さな玩具を振り回しちゃダメだゾ☆} &color(black,yellow){子供ならもっと―――」} ゴソゴソ、とバーサーカーがその腰についたベルトを弄る。 その隙にアーチャーは体制を立て直し、次の攻撃に備えるが―――その瞬間、マスターであるシャア・アズナブルに嫌な感覚が過る。 ニュータイプとしての感覚ではない。 言わば軍人としての、培ってきた危機回避能力。 アーチャーのその判断は間違っていると、その研ぎ澄まされた軍人としての勘が叫ぶ。 「―――アーチャー!止まるな、そのまま下がるんだッ!!」 「え―――?」 シャア・アズナブルの声にアーチャーは反応する。 その命令の意図を読み取る。 しかし、遅かった。 英霊同士の戦いでは、その一手の遅れが致命的となる。 &color(black,yellow){「子供なら―――もっと大きな玩具で遊ばないと!」} まるで、友にボールを投げ渡すように。 バーサーカーが優しく下から、ふわりと『何か』を投げつける。 その『何か』が眼前に迫った瞬間、 アーチャーはそれが何なのかを理解する。 (回避を―――!) 「サンタさんから『爆弾』のお届けものでェーすッ☆」 ―――瞬間。 アーチャーの視界を、爆炎と爆風が支配した。 ◆ ◆ ◆ 一瞬。 意識が飛びかけた。 「また、だ。あのバーサーカーのヤツ・・・!」 ウェイバー・ベルベットは英会話教室から飛び出し―――少し離れた場所で、膝を突いていた。 バーサーカーへの魔力供給で、多くの魔力を吸われたため、目眩により一時的な歩行困難に陥ったのだ。 それもそうだろう。 ウェイバーこそ知らないはずだが―――バーサーカーはここから少し離れた場所で、霊核の修復及び臓器・肉体の修復を行ったのだ。 その魔力消費量は、少なくない。 魔術師にとって、魔力とは生命力。 消費すれば気怠くなり―――魔力が切れれば死ぬのだ。 (こんなとこで、使いたくはなかったけど) 背に腹は変えられない、と。 ウェイバーの右の手の甲が熱を持つ。 令呪の一画が、光を放つ。 「我がサーヴァントよ、ウェイバー・ベルベットが命ずる―――」 マスターが持つ、サーヴァントの絶対命令権の三画。 その一つが、溶けるように空へと消える――― ◆ ◆ ◆ 「けほっ、けほっ」 「アーチャー、大丈夫か」 黒い爆煙の中から現れたのは、アーチャーだった。 纏った秘書服はところどころ破け、その柔肌を晒している。 艦隊風に例えるならば―――小破、と言ったところだろうか。 「バーサーカーは・・・いないようだな」 「ええ、あの後いきなり気配が消えたわ。何処かに転移したみたい」 「そうか」 辺りを見回すが―――サーヴァントの気配は、ない。 戦闘を行った後、この疲労した瞬間が一番襲撃されやすいのだ。 軍人としてそれを知っているからこそ、シャア・アズナブルは戦闘後とはいえ気を抜くことはしない。 「・・・ごめんなさい、マスター」 「気にしなくていい。服は今から新調しよう―――君が無事でよかった」 「・・・ええ、ありがとう、マスター」 今は霊体化しておくといい、とシャアは優しく告げる。 その声を聞き、命令に従ったのか―――アーチャーの姿は、光の粒子としてこの場から消える。 (これが、サーヴァント同士の戦闘か) シャアは、改めてこの聖杯戦争の恐ろしさを痛感していた。 人型の、そして人間と変わらないサイズの存在が行う、強大な力同士の戦闘。 モビルスーツと同等―――いや、それ以上かもしれないその戦闘力。 (考えを改めねばならんかも知れんな) 自身の無警戒な接触が、この結果を招いた。 バーサーカーがこの場から引いたから良かったものの、次はどうなるかはわからない。 生半可な覚悟では人類を見極めるどころか、自分の命も―――そして雷の命も、失ってしまう。 予選として記憶を奪われたその数日間―――その平和な暮らしが、自分を鈍らせていたのかもしれない。 次からは、最大限の警戒を行わなければいけない。 接触するにしても、無力化した後、という手もある。 この聖杯戦争に彼の辿り着く、真なる答えがあるかはわからない。 ―――それでも、今更引き返すことは出来ないのだ。 止めておいた車に乗り込む。 真っ赤な色は同じとはいえ、この車はモビルスーツではない。 己ができることは、限られているのだ。 ―――赤い車は走り出す。 彼の道は、何処へ続く―――? 【B-3(中心)/道路/一日目 午前】 ・B-3にバーサーカー(デッドプール)の爆弾による爆発音が鳴り響きました。 どこまで聞こえたかは後続の書き手さんに任せます。 【シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:無し [道具]:シャア専用オーリスカスタム(防弾加工) [所持金]:父の莫大な遺産あり。 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争によって人類の行方を見極める。 1.赤のバーサーカー(デッドプール)を危険視。 2.雷の秘書服を新調し、午後に後援会の人間との会合に行き、NPCから何か感じられないか調べる。 3.サーヴァント同士の戦闘での、力不足を痛感。 4.ミカサが気になる。 [備考] ・ミカサをマスターであると認識しました。 ・バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。 【アーチャー(雷)@艦隊これくしょん】 [状態]:健康、魔力充実(中)、小破 [装備]:12.7cm連装砲 [道具]:無し [思考・状況] 基本行動方針:マスターに全てを捧げる。 1.シャア・アズナブルを守る。 2.バーサーカー(デッドプール)を危険視。 [備考] ・小破(少しダメージを負った状態)です。 ・バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。 ◆ ◆ ◆ 「ばぁぁぁぁさぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁ・・・」 &color(black,yellow){「ウェイバーちゃん、折角いいところだったのにさァー、もうちょっとやる気だせよ!} &color(black,yellow){え、何、魔力不足?栄養ドリンク取ってくるか?市長か、市長なのか!?} &color(black,yellow){二次二次の市長ポジション行っとく?」} またまた英会話教室から少し離れた地点―――そこで、ウェイバーとバーサーカーは口論真っ最中だった。 これ以上戦闘させるのは自分においても、バーサーカーにおいても危険と判断したウェイバーは、令呪の一画を持ってバーサーカーを呼び戻したのだ。 『バーサーカー、今すぐ我が身の元へ戻れ』と。 「お前何処で誰と戦ってたんだよ!」 &color(black,yellow){「誰?誰ってサーヴァントに決まってんじゃん?あーあ、折角俺ちゃんのアニメパワー炸裂☆アーチャーボッコボコ、読者も未読者も大歓喜のデップーコールが鳴り響くところだったのになー!」} そして予想通り、バーサーカーは敵サーヴァントと交戦していたらしい。 意味のわからない言葉の中から把握するに、クラスはアーチャー・・・らしい。 「交戦したからにはちょっとぐらい情報持ってきたんだろうな・・・?」 &color(black,yellow){「ん?情報?ああ、あるよある、超あるよ。何だったっけなー、マスターの名前。ロリコンだったっけ?いや、クワトロだったか?」} 「お前なぁぁぁぁぁ!」 &color(black,yellow){「あ、思い出した、シャアよシャア!アズナブルちゃん」} 「シャア・・・?」 シャア・アズナブル。 この選挙区にて、立候補しようとしている男―――だった気がする。 政治自体に余り興味がなかったため、ウェイバーの記憶も曖昧なものだった。 「本当だろうな?」 &color(black,yellow){「本当本当、マジよマジ!この俺ちゃんの覆面に誓うって」} 「・・・」 バーサーカーの嘘も本当とも取れないその中途半端な態度に、ウェイバーは溜息をつく。 本当に、このサーヴァントとで聖杯戦争を勝ち抜けるのだろうか。 前途多難。 一寸先は闇。 そんな言葉ばかりがウェイバーの頭の中を駆け巡る。 とりあえずは、午後の英会話教室の授業に出よう。 さすがにこれ以上不審な行動をしては、マスターがいた場合、怪しまれてしまう。 「どうすればいいんだよ、こいつ・・・」 &color(black,yellow){「うっわ臭ェ、辛気臭いよウェイバーちゃん!誰か消臭剤持ってこいよ、ほらお前だよお前。そこでケツ据えて画面眺めてるお前だよ、ほら消臭剤!え、ない?なら買ってこいよ!」} もう、やだ・・・。 【C-3(北)/英会話教室から少し離れた地点/一日目 午前】 【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero】 [状態]魔力消費(大)、心労(中) [令呪]残り2画 [装備]なし [道具]仕事道具 [所持金]通勤に困らない程度 [思考・状況] 基本行動方針:現状把握を優先したい 1.バーサーカーの対応を最優先でどうにかするが、これ以上、令呪を使用するのは・・・。 2.シャア・アズナブルがマスター・・・? 3.とりあえず午後の英会話教室の授業は出る。 4.もうやだ・・・。 [備考] ・勤務先の英会話教室は月海原学園の近くにあります。 ・令呪を一画使用しました。 ・シャア・アズナブルの名前はTVか新聞のどちらかで知っていたようです。 ・バーサーカー(デッドプール)の情報により、シャアがマスターだと聞かされましたが半信半疑です。 ・午前の授業を欠勤しました。他のNPCが代わりに授業を行いました。 【バーサーカー(デッドプール)@X-MEN】 [状態]魔力消費(中) 、頭と腹部に銃創(既に完治済み) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:&color(black,yellow){一応優勝狙いなんだけどウェイバーたんがなぁー} 1.&color(black,yellow){ウェイバーちゃんを二次二次の市長ポジションにしようぜ!} 2.&color(black,yellow){ねーちんにはお礼返すよ?大丈夫!} [備考] ・セイバー(神裂火織)とそのマスター、真玉橋孝一を把握しました。 ・アーチャー(雷)とそのマスター、シャア・アズナブルを把握しました。 ・『機動戦士ガンダム』のファンらしいですが、真相は不明です。嘘の可能性も。 ---- |BACK||NEXT| |056:[[電脳淫法帖]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|058:[[信仰は儚き人間の為に]]| |056:[[電脳淫法帖]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|059:[[何処までも暗い闇の中]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |038:[[母なる海]]|[[シャア・アズナブル]]&アーチャー([[雷]])|070:[[ソラの政治家達]]| |040:[[故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの]]|[[ウェイバー・ベルベット]]&バーサーカー([[デッドプール]])|088:[[ヒーローズ・オン・ザ・マッポー・ワールド]]|
*機動戦士ガンダムデップー ”逆襲のウェイバー” ◆DpgFZhamPE 「ウェイバー君、この後授業だけど大丈夫?」 「ああ、はい・・・大丈夫です」 月海原学園から少し歩いた場所にある英会話教室―――そこに魔術師ウェイバー・ベルベットはアルバイトをしている。 拠点からバスを乗り継ぎ、ここまでくるのは少し疲れるが、時給は他のアルバイトに比べてそこそこ良いのだ。 バスの交通費も英会話教室が負担してくれているという。 中々良いバイト先で、資金を稼げるという事実にウェイバーは少しだけ気分が良くなった。 しかし今の彼は、はっきり言って倒れそうなほどに疲れていた。 通勤による肉体的に、ではない。 精神的に、である。 顔も幾分か老けたのではないだろうか。 (・・・ったく、朝から最悪だよ) ウェイバーの悩みは―――言うまでもなく、バーサーカーである。 手綱を握るどころか、会話すら成り立たない。 意味不明な単語の羅列と誰と話しているのかすら理解できそうにないその反応。 こちらの言葉を理解しているのかすら危うい。 彼のことが全く理解できないのだ。 そして自分の気づかない内に予想外の行動ばかり行う。 今朝のこともそうだ。 まったく持って―――ハズレサーヴァントだ。 (他にセイバーとかランサーとか、ライダーとか色々いるじゃないか。何でよりによってバーサーカーなんだよ・・・) 悩んでも聖杯戦争は終わらない。 これからどう動こうかも考えなければならない。 あのバーサーカーをどう制御するか、令呪の使用も視野に入れてはいるが―――数少ない令呪、こんな序盤で使っていいのかという考えもあるのだ。 いざという時に使えませんでしたでは、洒落にならない。 だからこそ、使用には最大の注意を払わなければいけない。 (あー、クソ。全然答えが見つからない) まだ午前なのに、精神的疲労が強いのか、眠くなってきている。 先ほどからウトウトしかけているのだ。 それこそ、同じアルバイト先の同僚に心配されるぐらいには。 (でも良かった、いくらバーサーカーでも場は弁えてるらしい) あれほどバイト先には出現するなと言っておいたのだ。 さすがのバーサーカーも理解してくれたのだろうか。 霊体化させて、待機ぐらいの指令ぐらいは聞いてくれたらしい。 (だってさっきから一言も喋って―――) ―――あれ? おかしい。 バーサーカーが。 ―――いない。 (何を考えてやがりますかあのバカぁぁぁぁぁぁぁあああッッ!!) ウェイバーは頭をガシガシと掻き回し、心の中で叫んだ。 気を抜いていた。 眠気と聖杯戦争の先の悩みで、心ここに在らずだった。 バーサーカーへの注目を疎かにしていた。 ―――だからこそ、気づかなかったのだ。 霊体化したままバーサーカーは、そのまま何処かに消えたのだ。 何処に行ったのかはわからない。 辛うじて分かるのは近くにバーサーカーが存在しないのと、魔力消費からバーサーカーが戦闘を行っていないだろうということ。 今はまだ大丈夫だが、好き勝手やらせた結果何処かで戦闘して真名がバレたなどがあったら最悪だ。 意味不明な存在だがあれでもサーヴァント、そう簡単に負けないとは思っているが―――それでも不安なのだ。 「ごめんなさい、この後の授業お願いしますッ!」 「え、まあいいけど―――」 同じ同僚に後を託し、答えすら聞かないまま英会話教室を駆け出す。 あのバカ、どこに行った―――! ◆ ◆ ◆ 真っ赤な車が街を走り抜ける。 過ぎ去る風はとても穏やかで、聖杯戦争なんて存在しないのではないかと思わせるほどだった。 『ふふ・・・』 霊体化しているが―――確かに感じる己のサーヴァントの微笑が、シャアの耳に届く。 「どうした?」 『いえ、こういうドライブもたまにはいいものねと思ったの』 「ああ、では実体化して見るといい。助手席も空いているのだからな」 ポンポン、と片手で助手席を軽く叩く。 そうすると、光の粒子が集まるように―――アーチャー、雷が実体化した。 その姿は黒の秘書服。 その姿はこの上ないくらい―――とても、似合っていた。 窓の外には家や自然の数々が流れている。 珍しくも何ともないであろうその風景。 その一つ一つを注意深く観察しながら、車を走らせる。 「どう?マスターは見つかりそう?」 「いや・・・やはりそう簡単には見つからないらしい」 周りを見ても異常はない。 そろそろ登校中の学生もいなくなった頃故か、人通りも少ない。 NPCに話を聞こうにも、姿が見えないのでは話にならない。 「少し新都の方に行ってみようか」 「ええ、あなたとなら何処までも着いて行くわ」 まるで向日葵のような―――明るい笑顔を向けて笑う。 その姿を見ると、こちらも微笑ましい気持ちになる。 「いつ誰に狙われても私が守るわ。だから、気にしないで行きましょう」 その言葉は、シャアの決断を後押ししてくれている。 ハンドルを握る腕は軽く、アクセルを踏む足も、躊躇うことはない。 しかし。 その時だけは、シャアはブレーキを踏んだ。 「アレは―――サーヴァントか・・・?」 シャアの目線の先には雷が霊体化した時と同じ感覚―――サーヴァントがそこに『いる』という感覚を、シャアは感じた。 シャアとそのサーヴァントの距離は約10メートル。 その周りにマスターは視認できない。 隠れているのか、それともサーヴァントが一人で散歩でもしているのか―――察しはつかないが、接触してみる価値はあるかもしれない。 「マスター、どうするの?」 「・・・少し接触してみよう」 「わかったわ」 車を側に止め、ガチャリとドアを開け車外へと出陣する。 雷もそれに続くように車外から飛び出し、シャアの盾になるように前に立っていた。 「マスター、他のサーヴァントといる時は私のことはアーチャーって呼んでね」 「わかっている」 真名が露見するのはサーヴァントにとって致命的。 そのリスクを減らすためなのだ、真名で呼ぶのは二人きりの時だけでいい。 カツカツと、革靴の音がする。 霊体化しているサーヴァントとの距離が、少しずつ近くなる。 そして―――約五メートルほどの距離になった瞬間。 シャアは、その口を開く。 「私はシャア・アズ&color(black,yellow){「アレェー?もしかして見えてるー?」}―――」 出鼻を、挫かれた。 声と同時に実体化したのは、赤と黒の装束を纏った怪人だった。 &color(black,yellow){「さっきから何を見てんだよ、オイ。あれ?もしかして俺ちゃんの美貌に見惚れちゃった?ダメダメ、俺ちゃんには愛すると決めた存在が!」} 「―――いや、すまない。このようなところにサーヴァントが一人でいるとは思わなくてな。君のマスターと話が」 &color(black,yellow){「あー、ちょっと待って。そこでガンプラ買ってくるからさ、サインいい?俺ちゃん実は『機動戦士ガンダム』のファンなんだよ!・・・富野さんからオファーこねぇかなぁ。『機動戦士ガンダムデップー』とかどうよ」} 「いや、サインなら後でしよう。君のマスターと話が」 &color(black,yellow){「やっぱりさー、赤と言ったらこの俺ちゃんの次くらいにはシャアってなるよな。あ?スパイディ?その話はスパイディがアサシン辺りで参戦した時にしてやるよ。あ、ヤッベ、今俺ちゃん金ないわ。ウェイバーちゃんからちょっとばかし拝借してくりゃよかったかなー、これじゃガンプラも買えねぇわ」} ―――会話が、成り立たない。 サーヴァントなのは分かるのだが、まず意思疎通ができていない。 こちらが話かけても一方的に言葉をぶつけ、時折何もない方向を見て観客に話かけるように言葉を放つ。 はっきり言って、理解不能だった。 いつ攻撃されても反応できるように、構えていた雷がシャアに囁く。 「・・・マスター、こいつバーサーカーのサーヴァントよ。どうやら言葉は出せるみたいだけど・・・やっぱり狂っているみたい」 &color(black,yellow){「あら、おたくサーヴァント?え、シャアちゃんまさかロリコンー?知ってたけどな!そんなロリコンマスター・アズナブルな貴方にはァ、この俺ちゃんが土手っ腹に風穴開けちゃいまーす」} 「なっ―――!!」 BANG!BANG!!BANG!!! 銃器から放たれた銃弾を、アーチャーはシャアを抱えて飛び上がることで避ける。 ギリギリで銃弾がシャアの顔面の横を掠める。 「な、なんなのよあのバーサーカー、いきなり発砲だなんて・・・!」 &color(black,yellow){「あれ?マスターとサーヴァントどっち殺せばいいんだっけ?あー・・・どっちでもいいか!」} 距離を取ったアーチャーを、その手に持った銃をクルクルと回しながらバーサーカーは距離を詰める。 ―――近づかれてはならない。 アーチャーとは、弓兵のクラス。 中距離、遠距離で真価を発揮するクラスである。 「あのサーヴァント、昼間だというのに・・・!?」 お構いなしか、とシャアは呟く。 巫山戯たサーヴァントだが―――あのサーヴァント、強敵だ。 「・・・アーチャー、迎撃を頼む」 「・・・マスター、」 「仕方ないさ。私達はここでやられる訳にはいかない」 「―――ええ、わかったわ」 アーチャーの顔が少し曇る。 バーサーカーに振り回されているだけで、マスターは善人の可能性を考えていたのだろう。 カシャリ、と地面に足を開いて構えると同時に、シャアを地面に下ろす。 背部に光が収束し、武装が出現する。 ―――12.7cm連装砲。 アーチャーの、基本武器である。 「ってー!!」 アーチャーの掛け声と共に―――銃弾が背部から発射される。 だが。 向かってくるバーサーカーは避けようともしない。 ドスッと、鈍い音を立てながら、銃弾はバーサーカーの肉を削り骨を折り、腹部を貫き体外に飛び出す。 &color(black,yellow){「ぐあーっ!腎臓がぁー!!」} ―――しかし、バーサーカーはそれでも止まらない。 攻撃を浴び、奇怪な叫び声をあげてなお、その体を前進させる。 「さすがバーサーカーね、でもこっちもまだまだよッ!」 ドンッ!と、背部の砲門から吐き出される数々の銃弾。 雷とて、戦いたい訳ではない。 しかし、マスターを守るため、そしてマスターの命令ならば―――躊躇はしない。 放たれた銃弾は真っ直ぐに突き進む。 綺麗な線を描きその銃弾は―――バーサーカーの、脳天を貫いた。 &color(black,yellow){「おうっ」} 間抜けな叫び声をあげながら、バーサーカーはその場に倒れ伏す。 しかし、それは一瞬。 ガバリ、と即座に身を起こし、その手に持った刀を構える。 &color(black,yellow){「危ないねぇ、今の俺ちゃんじゃなかったら死んでたよ?」} 軽い言葉と共に起き上がったバーサーカーの額には―――弾痕など、既に存在していなかった。 腹部の弾痕すらも、既に存在していない。 再生か、と雷は歯噛みする。 バーサーカーとこのような至近距離で争っていること自体が、アーチャーのクラスとしては既に不利なのだ。 その上、相手が再生能力持ちとなると―――長期戦は避けられない。 ばららららら、と12.7cm連装砲が空間に弾をばら撒く。 しかし、その全てはバーサーカーに避けられ、虚しく中を切るのみ。 宝具を解放しての火力で制圧することも考えたが、昼間の上にマスターは一般NPCより更に上級の立場である。 火力のある武装は、それに比例して音や衝撃も大きくなるものだ。 その音でNPCを呼び寄せてしまった場合、不利になるのはこちらだ。 『選挙に立候補する人間が争いの中心部にいた』―――そんな噂が拡がってしまえば、シャア・アズナブルがマスターであるということが他マスターに感づかれてしまうかもしれない。 よって、大火力で大きな音と衝撃を発生させてしまう宝具は、戦略上使えないのだ。 そして聖杯戦争も序盤の序盤。 ここで真名露見の恐れは避けておきたい。 よって。 アーチャーはこの基本武装、12.7cm連装砲で戦うことを強いられていた。 しかし、バーサーカーはそんなことはお構いなしなのだ。 近くにアーチャーがいるなら好都合。 離れられると面倒だし、コイツおっぱい無いしちゃちゃっと解体して何か楽しいこと探そう、程度のことしか考えていない。 そして極めつけはバーサーカーとアーチャーの戦法の違い。 バーサーカーは近・中こなせるオールラウンダーなのに対し、アーチャーは接近戦より遠距離戦、砲撃主体の戦い方を主体としている。 つまり―――そう。 この状況、アーチャーの圧倒的不利なのだ。 &color(black,yellow){「絶好調!絶好調!絶好調ォーーーッ!!俺ちゃん今朝おっぱい堪能したからもー超ノッてるのさ!正にデップーリシャス!」} 「何を、意味のわからないことをッ!」 Bang! BangBangBangBangBang!! バーサーカーの銃から放たれた鉛玉はアーチャーの顔面すぐ隣、足元、頭上と、直撃スレスレの場所を貫いていく。 ―――バーサーカー、デッドプールは狂人だ。 それは間違いない、歴とした事実である。 第三者から見れば常に妄言を垂れ流している異常者にしか見えない。 だが、しかし。 戦闘においては、一流なのだ。 傭兵としての技術、頭脳、直感、身のこなし。 その全てが、通常の傭兵の平均値を文字通り桁違い上回っているのだ。 そして狂っているからこそ、彼の思考を常人は理解できない。 つまり―――思考が読めないということは、次に何をしでかすかわからないということだ。 狂っているからこその、予測不能の攻撃。 狂っているからこその、大胆不敵の行動。 アーチャーは、それを捌き切ることができない。 &color(black,yellow){「次は豪快でクールな刀ちゃんの出番だーよッと!」} 手に持った銃を懐に仕舞い、背部の刀を抜く。 右と左の二刀流、鋭い日本刀。 幾つもの腕を斬り落とし。 何本もの脚を削ぎ。 何人もの首を取り。 膨大な数の命を刈ってきた―――その凶刃。 それを操るバーサーカーの身のこなしも『殺す』ことを第一とした、その技術の結晶。 弓兵の苦手な接近戦、それにおいてその小さな首を刈り取ろうと、その凶刃は無慈悲に迫る。 ―――しかし。 この程度でやられるならば、アーチャーは英霊になぞになってはいないのだ。 「なんの、ッ!」 ガギン!と、鋼鉄と刃が衝突する音がする。 アーチャーの持つ宝具―――『砲雷撃戦』。 生前、武装として積まれたその兵器を召喚する宝具。 その宝具から―――彼女が駆逐艦として使用していた錨を二つ、引き抜いたのだ。 生前から受け継いだ物は、武装だけではない。 香港攻略戦。メナド攻略戦。 スラバヤ沖海戦。護送任務。 その他にも数々の任務を、戦闘を行った記憶、その経験は―――艦娘となった彼女の体に深く刻まれている。 勝った戦闘の経験も。負けた戦闘の経験も。 助けた命の記憶も。守れなかった命の記憶も。 忘れるはずがない。忘れてたまるものか。 時代は変わり、駆逐艦はその姿を変えて尚―――命を賭して戦った戦友を、覚えている。 ならば、負けるはずがないのだ。 多くの願いと、乗組員だった彼らの思いが、そう簡単に負けるはずがない―――! 「くうっ!」 しかし、鍔迫り合ったのはほんの一瞬。 バーサーカーの強大な筋力よって、雷の体はいとも容易く後方に飛ばされる。 &color(black,yellow){「あーダメダメ、子供ならそんな小さな玩具を振り回しちゃダメだゾ☆} &color(black,yellow){子供ならもっと―――」} ゴソゴソ、とバーサーカーがその腰についたベルトを弄る。 その隙にアーチャーは体制を立て直し、次の攻撃に備えるが―――その瞬間、マスターであるシャア・アズナブルに嫌な感覚が過る。 ニュータイプとしての感覚ではない。 言わば軍人としての、培ってきた危機回避能力。 アーチャーのその判断は間違っていると、その研ぎ澄まされた軍人としての勘が叫ぶ。 「―――アーチャー!止まるな、そのまま下がるんだッ!!」 「え―――?」 シャア・アズナブルの声にアーチャーは反応する。 その命令の意図を読み取る。 しかし、遅かった。 英霊同士の戦いでは、その一手の遅れが致命的となる。 &color(black,yellow){「子供なら―――もっと大きな玩具で遊ばないと!」} まるで、友にボールを投げ渡すように。 バーサーカーが優しく下から、ふわりと『何か』を投げつける。 その『何か』が眼前に迫った瞬間、 アーチャーはそれが何なのかを理解する。 (回避を―――!) &color(black,yellow){「サンタさんから『爆弾』のお届けものでェーすッ☆」} ―――瞬間。 アーチャーの視界を、爆炎と爆風が支配した。 ◆ ◆ ◆ 一瞬。 意識が飛びかけた。 「また、だ。あのバーサーカーのヤツ・・・!」 ウェイバー・ベルベットは英会話教室から飛び出し―――少し離れた場所で、膝を突いていた。 バーサーカーへの魔力供給で、多くの魔力を吸われたため、目眩により一時的な歩行困難に陥ったのだ。 それもそうだろう。 ウェイバーこそ知らないはずだが―――バーサーカーはここから少し離れた場所で、霊核の修復及び臓器・肉体の修復を行ったのだ。 その魔力消費量は、少なくない。 魔術師にとって、魔力とは生命力。 消費すれば気怠くなり―――魔力が切れれば死ぬのだ。 (こんなとこで、使いたくはなかったけど) 背に腹は変えられない、と。 ウェイバーの右の手の甲が熱を持つ。 令呪の一画が、光を放つ。 「我がサーヴァントよ、ウェイバー・ベルベットが命ずる―――」 マスターが持つ、サーヴァントの絶対命令権の三画。 その一つが、溶けるように空へと消える――― ◆ ◆ ◆ 「けほっ、けほっ」 「アーチャー、大丈夫か」 黒い爆煙の中から現れたのは、アーチャーだった。 纏った秘書服はところどころ破け、その柔肌を晒している。 艦隊風に例えるならば―――小破、と言ったところだろうか。 「バーサーカーは・・・いないようだな」 「ええ、あの後いきなり気配が消えたわ。何処かに転移したみたい」 「そうか」 辺りを見回すが―――サーヴァントの気配は、ない。 戦闘を行った後、この疲労した瞬間が一番襲撃されやすいのだ。 軍人としてそれを知っているからこそ、シャア・アズナブルは戦闘後とはいえ気を抜くことはしない。 「・・・ごめんなさい、マスター」 「気にしなくていい。服は今から新調しよう―――君が無事でよかった」 「・・・ええ、ありがとう、マスター」 今は霊体化しておくといい、とシャアは優しく告げる。 その声を聞き、命令に従ったのか―――アーチャーの姿は、光の粒子としてこの場から消える。 (これが、サーヴァント同士の戦闘か) シャアは、改めてこの聖杯戦争の恐ろしさを痛感していた。 人型の、そして人間と変わらないサイズの存在が行う、強大な力同士の戦闘。 モビルスーツと同等―――いや、それ以上かもしれないその戦闘力。 (考えを改めねばならんかも知れんな) 自身の無警戒な接触が、この結果を招いた。 バーサーカーがこの場から引いたから良かったものの、次はどうなるかはわからない。 生半可な覚悟では人類を見極めるどころか、自分の命も―――そして雷の命も、失ってしまう。 予選として記憶を奪われたその数日間―――その平和な暮らしが、自分を鈍らせていたのかもしれない。 次からは、最大限の警戒を行わなければいけない。 接触するにしても、無力化した後、という手もある。 この聖杯戦争に彼の辿り着く、真なる答えがあるかはわからない。 ―――それでも、今更引き返すことは出来ないのだ。 止めておいた車に乗り込む。 真っ赤な色は同じとはいえ、この車はモビルスーツではない。 己ができることは、限られているのだ。 ―――赤い車は走り出す。 彼の道は、何処へ続く―――? 【B-3(中心)/道路/一日目 午前】 ・B-3にバーサーカー(デッドプール)の爆弾による爆発音が鳴り響きました。 どこまで聞こえたかは後続の書き手さんに任せます。 【シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:無し [道具]:シャア専用オーリスカスタム(防弾加工) [所持金]:父の莫大な遺産あり。 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争によって人類の行方を見極める。 1.赤のバーサーカー(デッドプール)を危険視。 2.雷の秘書服を新調し、午後に後援会の人間との会合に行き、NPCから何か感じられないか調べる。 3.サーヴァント同士の戦闘での、力不足を痛感。 4.ミカサが気になる。 [備考] ・ミカサをマスターであると認識しました。 ・バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。 【アーチャー(雷)@艦隊これくしょん】 [状態]:健康、魔力充実(中)、小破 [装備]:12.7cm連装砲 [道具]:無し [思考・状況] 基本行動方針:マスターに全てを捧げる。 1.シャア・アズナブルを守る。 2.バーサーカー(デッドプール)を危険視。 [備考] ・小破(少しダメージを負った状態)です。 ・バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。 ◆ ◆ ◆ 「ばぁぁぁぁさぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁ・・・」 &color(black,yellow){「ウェイバーちゃん、折角いいところだったのにさァー、もうちょっとやる気だせよ!} &color(black,yellow){え、何、魔力不足?栄養ドリンク取ってくるか?市長か、市長なのか!?} &color(black,yellow){二次二次の市長ポジション行っとく?」} またまた英会話教室から少し離れた地点―――そこで、ウェイバーとバーサーカーは口論真っ最中だった。 これ以上戦闘させるのは自分においても、バーサーカーにおいても危険と判断したウェイバーは、令呪の一画を持ってバーサーカーを呼び戻したのだ。 『バーサーカー、今すぐ我が身の元へ戻れ』と。 「お前何処で誰と戦ってたんだよ!」 &color(black,yellow){「誰?誰ってサーヴァントに決まってんじゃん?あーあ、折角俺ちゃんのアニメパワー炸裂☆アーチャーボッコボコ、読者も未読者も大歓喜のデップーコールが鳴り響くところだったのになー!」} そして予想通り、バーサーカーは敵サーヴァントと交戦していたらしい。 意味のわからない言葉の中から把握するに、クラスはアーチャー・・・らしい。 「交戦したからにはちょっとぐらい情報持ってきたんだろうな・・・?」 &color(black,yellow){「ん?情報?ああ、あるよある、超あるよ。何だったっけなー、マスターの名前。ロリコンだったっけ?いや、クワトロだったか?」} 「お前なぁぁぁぁぁ!」 &color(black,yellow){「あ、思い出した、シャアよシャア!アズナブルちゃん」} 「シャア・・・?」 シャア・アズナブル。 この選挙区にて、立候補しようとしている男―――だった気がする。 政治自体に余り興味がなかったため、ウェイバーの記憶も曖昧なものだった。 「本当だろうな?」 &color(black,yellow){「本当本当、マジよマジ!この俺ちゃんの覆面に誓うって」} 「・・・」 バーサーカーの嘘も本当とも取れないその中途半端な態度に、ウェイバーは溜息をつく。 本当に、このサーヴァントとで聖杯戦争を勝ち抜けるのだろうか。 前途多難。 一寸先は闇。 そんな言葉ばかりがウェイバーの頭の中を駆け巡る。 とりあえずは、午後の英会話教室の授業に出よう。 さすがにこれ以上不審な行動をしては、マスターがいた場合、怪しまれてしまう。 「どうすればいいんだよ、こいつ・・・」 &color(black,yellow){「うっわ臭ェ、辛気臭いよウェイバーちゃん!誰か消臭剤持ってこいよ、ほらお前だよお前。そこでケツ据えて画面眺めてるお前だよ、ほら消臭剤!え、ない?なら買ってこいよ!」} もう、やだ・・・。 【C-3(北)/英会話教室から少し離れた地点/一日目 午前】 【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero】 [状態]魔力消費(大)、心労(中) [令呪]残り2画 [装備]なし [道具]仕事道具 [所持金]通勤に困らない程度 [思考・状況] 基本行動方針:現状把握を優先したい 1.バーサーカーの対応を最優先でどうにかするが、これ以上、令呪を使用するのは・・・。 2.シャア・アズナブルがマスター・・・? 3.とりあえず午後の英会話教室の授業は出る。 4.もうやだ・・・。 [備考] ・勤務先の英会話教室は月海原学園の近くにあります。 ・令呪を一画使用しました。 ・シャア・アズナブルの名前はTVか新聞のどちらかで知っていたようです。 ・バーサーカー(デッドプール)の情報により、シャアがマスターだと聞かされましたが半信半疑です。 ・午前の授業を欠勤しました。他のNPCが代わりに授業を行いました。 【バーサーカー(デッドプール)@X-MEN】 [状態]魔力消費(中) 、頭と腹部に銃創(既に完治済み) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:&color(black,yellow){一応優勝狙いなんだけどウェイバーたんがなぁー} 1.&color(black,yellow){ウェイバーちゃんを二次二次の市長ポジションにしようぜ!} 2.&color(black,yellow){ねーちんにはお礼返すよ?大丈夫!} [備考] ・セイバー(神裂火織)とそのマスター、真玉橋孝一を把握しました。 ・アーチャー(雷)とそのマスター、シャア・アズナブルを把握しました。 ・『機動戦士ガンダム』のファンらしいですが、真相は不明です。嘘の可能性も。 ---- |BACK||NEXT| |056:[[電脳淫法帖]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|058:[[信仰は儚き人間の為に]]| |056:[[電脳淫法帖]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|059:[[何処までも暗い闇の中]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |038:[[母なる海]]|[[シャア・アズナブル]]&アーチャー([[雷]])|070:[[ソラの政治家達]]| |040:[[故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの]]|[[ウェイバー・ベルベット]]&バーサーカー([[デッドプール]])|088:[[ヒーローズ・オン・ザ・マッポー・ワールド]]|

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