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Moondive Meltout」(2014/09/03 (水) 20:12:38) の最新版変更点

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*Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6      04/ 二心融解  ―――それから数分後。  現在、遠坂邸の居間にいるのは、岸波白野一人だけだった。  ランサーが準備があると言って、凛とエリザを連れて部屋を出て行ったからだ。  ……どうにも、落ち着かない。  これからする事を思えば当然の事ではあるが、今の内に逃げ出そうか、なんて考えが浮かぶ。  それによって生じる危険性は、今の自分には頭になかった。  どうにかしてこの状況を脱せないか。そんな考えばかりが浮かんでくる。  ……うん。やっぱりこんな事はいけない。今からでも他の方法を探すべきだ。  そう決断し、ガバッと椅子から立ち上がって、 「おい坊主。こっちの準備はできたぜ」  同時に放たれたランサーの声に、あっさりと出鼻を挫かれた。  結局流されるまま、ランサーの後に続いてある部屋の前へと辿り着いてしまった。  その部屋はおそらく、凛の自室なのだろう。それを前にして、つい尻込みしてしまう。 「坊主。女が覚悟を決めたんだ。あんまり恥を掻かせるんじゃねぇぜ」  するとランサーがそう言いながらあっさりとドアを開け、岸波白野の背中を叩いて部屋の中へと押し込んできだ。 「そんじゃ、あとはおまえらでよろしくやりな。オレはその間に、家の守りを固めておくからよ」  たたらを踏んで立ち止まり、慌てて出入り口へと振り返るが、無情にもドアをバタンと閉められてしまった。  ドアノブには何かの魔術の痕跡がある。この分では、儀式が終わるまでは出してはくれないだろう。 「はく……の?」  戸惑うようなその声に、ゆっくりと後ろへと振り返る。  そこには周りに無数のルーンの刻まれたベッドと、その上に座り込む凛、そしてすぐ傍に控えるようにエリザの姿があった。  凜は恥ずかしそうに顔を赤らめ、シーツでその体を隠している。  エリザの方も顔を赤く染めているが、先程よりは落ち着いた様子を見せている。  同時に彼女たちの方から、何とも言えない芳香が漂ってきて、岸波白野の鼻腔を刺激してきた。  ……頭が、ぼんやりとしてくる。  その香りに釣られるように、彼女たちのいるベッドへとふらりと近づく。 「……!」  その途端に、凜がビクリと肩を震わせた。  それを見て、自分の心も少しだけ落ち着いてくれた。  なので今の内に、言うべき事を言っておこう、とどうにか気合を入れる。  ―――凜、やっぱり、他の方法を考えよう。 「っ! いやよ、そんな余裕はないわ」  しかし凛は、キッと目を吊り上げてそう睨み付けてくる。  だめだ。意固地になっている。岸波白野の言葉では、彼女は考えを改めないだろう。  ならば、同じ女性であるエリザの言葉であれば、少しは聞き入れてくれるかもしれない。  ―――エリザ。君からも、凜に止めるように言ってほしい。 「え? そ、そうよね。やっぱりこういうのって、恋人か夫婦でするのがふつうよね。  私としてはやっぱり、最後まで純潔を守っていたいところだけど」 「恋人か、夫婦?」  ああ、そうだ。こういう大事な事は、義務だからとか必要だからとか、そんな理由ですることじゃないと思う。  だから――― 「そう。だったら―――」  ――――!?  不意に感じる、仄かな温もり。  目の前には、真っ赤に染まった凛の顔。  唇には、いつか感じたものと同じ、柔らかい感触。 「だったら白野。キ、キスした責任を取って、わたしと付き合いなさい。  ここ、恋人同士なら、こういうことをしてもおかしくはないんでしょう?」  え―――あ、う――――。  思考が、一瞬で打ち砕かれた。  頭が真っ白になって、完全に停止している。  今彼女に何をされたのか、理解が全く及ばない。  自分は何の責任を取って、何になれと言われたのか―――。 「えっと……エリザ。今の内に初めてちょうだい」 「え、でも本当にいいの?」 「お願い。私が怖気づく前に、早く」 「わ、わかったわ。でも、ちゃんと私も混ぜなさいよ!」  真っ白に漂白された頭に、エリザの魔声が響き渡る。  理性と知性が、その美しい歌声に魅せられて溶かされていく。  そこに、止めを刺すように、  シーツを剥がし、その透き通るような、未熟な肢体を晒した遠坂凛の姿が、視界に映った。 「来て、白野」  グズグズに溶かされた理性では、恥じらうようなその声に逆らうことなど出来るはずもなく。  岸波白野はその意識を蕩かされながら、禁断の青い果実へと手を触れた――――。       †  ――――静かな、碧い海を漂っている。  ここに、時間の概念はない。  あるのは情報の蓄積のみで、それだけが、時の流れを把握する唯一の術だ。  逆に言えば、蓄積が確認できない限りは、どれだけの時を経ようとも、ここで起きた事は、外では一瞬の出来事に過ぎない。  ―――それは、どちらの心象風景なのか。  海の中には数匹の稚魚が泳ぎ回り、無数の法則性をカタチ取っている。  それらは、遠坂凛のイメージする魔術刻印の現れだ。  ならばこの海は魔術回路そのものか。  未だ未成熟な、生命が誕生したばかりの浅い海。  遠坂凛にとってこの小さな世界こそが、魔術師としての力の全てだった。  ―――それは、月の海にも似た、静かなカタチをした世界だった。  ただひたすらに、情報だけが積み重なっていく、未来を夢見る未完の海。  岸波白野が生まれ、そして終わりを迎えた場所。  だからだろう。  その心の原風景に、彼等はともに、確かな安らぎを懐いた。  ―――それはいわば、原初の海。全ての命が、等しく始まりを迎える場所。  母なる海。母の胎内。卵の殻。  目覚めの時を静かに待つ、ゆりかごの中。  その中において彼等は、お互いが等しく、己であった。  そして己の事であるが故に、お互いの事を誰よりも理解する。  ―――そうして、目覚めの時は訪れる。  混ざり合っていた二つの心が、二つに別たれ離れていく。  彼は彼へと。彼女は彼女へと。  岸波白野と遠坂凛。それぞれのカタチを取り戻す。  そうして、彼らが在るべき場所へと還っていく。  ―――泡沫のように。                               光の中へ。      05/ 決意の在処     ……目が覚めた。   欠けた夢を、見ていたようだ。  どうやらいつの間にか眠っていたらしい。  ぼんやりする頭に何とかスイッチを入れる。  体には妙な気怠さが残っているが、動かす分に支障はない。  なら大丈夫だ。と起き上るために四肢に力を籠める。  が、重い。  自身の異常ではなく、単純な重量によるものだ。  重さを感じる両隣を見てみれば、そこには凛とエリザの姿があった。  彼女たちは静かに寝息を立てている。  それを確認して、彼女たちを起こさないよう慎重に腕を引き抜く。  そして静かに起き上り、散らかっていた自分の制服を着直すと、ベッドの淵へと座り込み、部屋の天井を見上げ、思った。  ――――ああ……終わってしまった、と。  一体何が終わったのか、出来れば考えたくはなかった。  だがどうやったところで言い逃れはできないだろう。  魔声の影響で理性が溶かされていた、だなんて言い訳にもならない。  事実として、自分は遠坂凛を抱いた。岸波白野は、社会的に終わってしまったのだ……。  エリザの方とは、最後までは至らなかった。  その役割がサポートだったこともあるが、彼女の性知識の疎さや、未だ根付いている観念的に彼女が拒否したのが理由だ。  だが遠坂凛とは、最後まで至ってしまった。  パスを通すために必要だったというのは理解している。だがそれでも、罪悪感のようなものが湧き上がってくる。  せめてもの救いは、ランサーの敷いた陣のおかげか、凜にそれほど負担がかかってなかったことくらいだろうか。  ……岸波白野の精神的負担はこの上ないが………。  そんな風に黄昏れていると、静かなノックの後にランサーが部屋へと入ってきた。 「お、目を覚ましたみたいだな。気分はどうだ?  可能な限り負担が減るように陣を敷いたつもりだが」  最悪だ。と端的に返す。  一体なんでこのようなことになったのか。もうお天道様に面と向かって歩ける気がしない。 「まあそう言ってやるな。あいつもあいつなりに覚悟を決めてんだからよ」  それは理解している。おそらくは、この場にいる誰よりも。  パスを通した際、岸波白野と遠坂凛の情報は、一度完全に混ざり合った。  ちゃんとした魔術師なら防げた事態なのだろうが、生憎自分達には、それを防ぐ術はなかった。  そしてその際に、不意に彼女の記憶を、自分は見てしまったのだ。  妹が離れ、父が死に、母が狂った。  遠坂凛の家族の結末。聖杯戦争によって壊された絆。  その果てに彼女は、聖杯を勝ち取ることを誓い、そしてこの戦いに招かれた。  岸波白野は“家族”というものを知らない。  だがしかし、その時に彼女が何を思い、何を感じたのかも、同時に知ってしまっていた。  だからこそ彼女の覚悟は誰よりも理解しているし、  だからこそ自分は今最悪の気分になっているのだ。  ……そして思った。  この聖杯戦争は、何かを致命的に間違えているのではないかと。  少なくとも、凛のような小さな子供が殺し合わないといけない戦いが正しいだなんて、自分には到底思えない。  だがその思いは、凛の誓いとは反するものだ。  岸波白野には、聖杯に託す願いはない。  けど遠坂凛には、聖杯を望む理由がある。  幼いながらも決意を秘めた彼女はきっと、簡単には聖杯を諦めないだろう。  少なくとも、言葉だけでは止められない。  ……ならば、今自分に出来ることは一つだけだ。  ―――ランサー。今のあなたの状態と、あなたが知る限りのキャスターの情報を教えてほしい。 「……ほう。いい目をしやがる。覚悟を決めた男の目だ」  岸波白野の様子を見てか、ランサーが獰猛な笑みを浮かべてくる。  自分を試すような、そんな威圧感が圧しかかってくる。  だがそれに気圧されることなく、まっすぐに見つめ返した。  この程度の重圧なら、月の聖杯戦争で何度も味わってきた。いまさら怖気づく理由はない。 「へ。こりゃあ、本当に強敵になりそうだ」  ランサーはそう笑って、威圧する気配を消し去る。  本当に試しただけだったのだろう。 「いいぜ、まずはオレの状態だな。  マスターとおまえのパスが通ったからな。オレに供給される魔力量も増えて、多少は回復してる。  つっても、さすがに完全な回復には時間が掛かりそうだけどな。通常戦闘は問題ないが、宝具はそう何度も使えねえって程度だ」  その言葉に肯く。  岸波白野の内にある魔力。  先ほどから自分は、エリザへと供給している分とは別に、“外”へと流れているのを感じていた。  その流れの先は、言うまでもなく遠坂凛だ。  彼女の魔術回路は本当に優秀だ。岸波白野のそれとは比較にもならない。  何の問題もなければ、魔力容量の半分程度なら一日もあれば回復するだろう。  だが先ほどまでは、ランサーの魔力が枯渇していたため、回復する端から持っていかれていたのだ。  しかし現在は、自分とパスを通し魔力供給を受けることで、若干の余裕が生まれていた。  ランサーを維持するための負担が減ったのだ。  そうなれば後は時間の問題だ。彼女の回路は淀みなく魔力を精製し、その内自分の方が供給される側になるだろう。 「まあそういう訳だ。正直、真正面からキャスターとやり合うには不安が残る。  で、その肝心のキャスターの情報だが………。  わりい。顔と拠点の場所以外は知らねぇんだ。あの野郎、それを教えたらさっさと行っちまいやがってな」  そうなのか。  けど、拠点が判っているだけでもありがたい。  キャスターを探す手間が省けるというのは、時間が限られている現状では大分助かるからだ。  しかしそうなると、執るべき作戦は強襲からの電撃戦か。  相手の能力が不明である以上、それを発揮される前に倒してしまうのがベストだ。  自分たちがキャスターを引き受けて、ランサーが背後から不意を突く、という戦術が基本になるだろう。 「ま、そんなところが妥当だろうな」  ランサーは特に不満も言わず、そんな風に頷く。  ……いいのか?  自分が思うに、ランサーはこういう作戦は好きではないと思うのだが。 「ま、本音を言えばな。  だが、オレ達がこんな状況に陥ったのはオレの責任だ。文句は言えねえさ。  それに、マスターが覚悟を決めてんだ。ならオレも、相応の覚悟をするのが当然だろ」  自嘲するような笑い。  だがそこには、彼のマスターと同じような、強い決意が籠っていた。  ……そうか。なら、岸波白野から彼に言えることは何も無い。  仮令何を言ったところで、彼は己が信念のもと凜に従うだろう。 「それはそうと、キャスターを倒した後の事だけどよ。  オレ達はお前に協力して、一体何をすりぁいいんだ?」  一つ頷いて、答える。  岸波白野の望み。取り戻したい記憶の事を。  そのために、あるサーヴァンに会いたい。会って、確かめたいことがあるのだ。 「なるほどな。そいつの特徴はわかっているのか?」  風貌はわからないが、クラスはおそらくアーチャー。剣を矢として使用するサーヴァントだ。 「剣を矢とする、アーチャー……だと? ………まさか、アイツか?」  知っているのか? 「ああ。つっても、さすがに真名は知らねぇがな。  弓兵のくせして双剣や盾を持つ、赤い外套を纏った皮肉屋だよ」  ―――ドクン、と。  一際強く、心臓が脈打つ。  見覚えのない赤い背中が、脳裏に再生される。  ―――間違いない。「彼」だ。  それがどちらを指しての事かはわからないが、自分が捜しているのはその人物だと、理由も分からぬまま確信する。 「そうか、なら安心して任せな。そいつとは何度かやり合っている。早々後れを取ることはねえぜ。  それにオレ自身も、アイツには借りがあるからな。それを返せるかもしれねぇってんなら、否はねえ」  ―――わかった。任せた。  と、ランサーの自信に満ちた言葉に、そう信頼を籠めて返答する。  とは言っても、まずはキャスターを倒してからの話なのだが。 「は、違えねぇ」  行動開始は、凜が目覚めてからだ。  キャスターが相手である以上、動くのは早い方がいい。  それに昼間であれば、NPCもほとんどは街に出ていて拠点攻めがしやすい。  それまでに、ある程度作戦を煮詰めておこう。  そう方針を定めた、その時だった。  ベッドの上にあった岸波白野の手に、不意に触れたものがあった。  見れば凛が、その小さな手で縋るように握り締めていた。 「………おとう……さま……」  その微かな声に、胸が締め付けられる。  ―――岸波白野の言葉では、遠坂凛を止められない。  出来ることはただ一つ。彼女を導き、守り、支えること。そして―――  ―――そして。     最後の敵として、彼女の前に立ち塞がることだけだ。  かつて“彼女”がそうしてくれたように。  今度は自分が、彼女を導く星灯り(しるべ)となるのだ。  そのためにも、この聖杯戦争を見極めよう。  勝者に与えられる聖杯が、彼女に相応しいものかどうかを確かめるのだ。 「子ブタったら、ホントいい毛並みになっちゃって」  じゅるり、なんて音を立てながら、そんな声が聞こえてきた。  ―――エリザ。目を覚ましたのか。 「その男が入ってきた時点でとっくにね。  いくら同盟を結んでいるとは言っても、サーヴァントの近くで寝入るほど気は抜けてないわよ」  エリザはそう言って身を起こす。  その動きは緩慢ながらも洗礼されており、彼女が貴族令嬢であることを思い出させる。 「それで、ハクノ。あなたはどうして、この子を助けようとするの?」  エリザは眠る凛の頭を優しく撫でながら、岸波白野へとそう問いかけてきた。  ―――なぜ自分は、遠坂凛を助けようとするのか。  彼女を助けたところで、岸波白野が得るものは何も無い。  それどころか、最後に立ち塞がるのであれば、むしろマイナスと言っていい。  いずれ強敵となる存在を助ける行為など、自殺行為になりかねないからだ。  それを踏まえた上で、自分は彼女を助けようとしている。  それは何故か。  “遠坂凛”に恩があったから……ではない。  たとえ同じ存在であろうと、根本的にこの子と“彼女”は違う人間だ。  今ここにいる遠坂凛を助けたところで、自分を助けてくれた“遠坂凛”に恩を返すことにはならない。  ―――だから、その理由は簡単だ。  自分が、彼女を助けたいから。  遠坂凛を見捨てることを、岸波白野がしたくないから、自分は彼女を助けるのだ。  言ってしまえば、ただの自己満足。  そんな浅ましい思いが、岸波白野が遠坂凛を助ける理由なのだ。 「フフ……。いいんじゃないの? 自己満足で。  『そうしなければならないから』なんて理由よりは、ずっといいと私は思うわよ」  その言葉は、果たして誰に向けたものなのか。  眠る少女を撫でる彼女の瞳には、深い悔恨と――僅かな哀れみが宿っていた。 「いいわ。子ブタのついで位でいいのなら、私もリンを守ってあげる。  あっちのリンには一応恩があるし、何よりハクノが、この子を助けたがっているしね」  ―――エリザ……ありがとう。 「感謝するぜ、二人とも」 「べ、別にいいわよ、そんなの。私はただ、子ブタの手伝いをしたいだけし」  岸波白野とランサーの言葉に、エリザは照れ隠しをするようにそっぽを向いた。  彼女のその行動に小さく笑いながら、一時の微睡みに安らぐ少女を見つめる。  凛。君の懐く覚悟は、痛いほど理解できている。  けれど、だからと言って、一人ですべてを抱え込む必要はない。  君の周りには、君を守ろうとしてくれる人たちが、こんなにもいるのだから………。  そんな思いとともに岸波白野は、遠坂凛の手を優しく握り返した。 「さてと。それじゃあリンが起きた時のために、何かランチを作っておきましょうか」  ―――え? 「何を作ろうかしら。サンドイッチをそのまま真似るのもつまらないし、そうねぇ……ホットドックなんてどうかしら」 「なに……!?」  マズい。それは色々とマズい……!  自分だけならばともかく、他の人に食べさせるには、エリザの料理はまだ不安要素しかない。  ここは凛とランサーへの被害を食い止めるためにも、心を鬼にして諦めさせよう……って!? 「期待していてね、子ブタ(ダーリン)。腕によりをかけて作るから。  大丈夫よ。今度はちゃんと、食べられる程度には作れる気がするから」  いつの間にかエリザは部屋を退室し、音程のずれた鼻歌を歌いながら台所へと向かっていた。  咄嗟にランサーと目を合わせる。  自分も彼も、浮かべるのはともに戦慄の表情。二人同時に頷くと、エリザを追って台所へとひた走る。  このまま彼女を野放しにしては、日が変わるのを待たずして自分たちは全滅する。  そうなってしまう前に、彼女の料理テロだけは何としてでも止めなければ……!       †       /ふと、夢を見た。  バラバラに散らばったパズルのような、あちこちが欠けた虫食いの夢。  その話を聞いていたからだろう。  それが何なのかを、わたしはすぐに理解した。  これは、“彼”の記憶。“彼”が経験した、月の聖杯戦争の記録なのだ。       /死に怯える声が聞こえる。  夢の中の“彼”は、いつも窮地に陥っていた。  それも当然。その時の“彼”には、自分の記憶がなかった。  予選を終えて返却されるべき過去が、まるごと全部欠け落ちていたのだ。  そんな状態でまともに戦えるはずがないことは、わたしにも理解できた。  何しろ今のわたしでも勝てそうなほどに、“彼”はあまりにも無力で弱々しかったのだから。  そんな彼を支えていたのは、“赤い人影”だった。   “彼”にとって、その人物のイメージが赤色なのだろう。  これが夢だからなのか、記憶が欠けている影響なのか。  年齢も、性別も、“彼”との関係も判らないくせに、その色だけははっきりと見えた。  そうして“彼”は、その“赤い人物”に助けられながら、                               ただ死にたくないと願い、  理由も分からぬまま懸命に、聖杯戦争を戦っていたのだ――――。 【B-4/遠坂邸/1日目 午前】 【岸波白野@Fate/EXTRA CCC】 [状態] 健康、疲労(中)、精神疲労(小)、魔力消費(小) [令呪] 残り三画 [装備] なし [道具] なし [所持金] 普通の学生程度 [思考・状況] 基本行動方針:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。 0. エリザの料理テロを阻止しなければ……! 1. 遠坂凛とランサーを助けるために、足立透とそのキャスターを倒す。 2. 狙撃とライダー(鏡子)を警戒。 3. 聖杯戦争を見極める。 4. 今日はもう、学校はサボりだな。 5. 自分は、あのアーチャーを知っている───? 6. 終わった………。 [備考] ※遠坂凛と同盟を結びました。 ※エリザベートとある程度まで、遠坂凛と最後までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。 ※遠坂凛とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、遠坂凛の記憶の一部と同調しました。 ※クー・フーリンのパラメーターを確認済み。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。  しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】 [状態] 健康 [装備] 監獄城チェイテ [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。 0. ランチを作るわ! ホットドックなんてどうかしら。 1. 岸波白野のついでに、遠坂凛も守る。 2. 撤退に屈辱感。 [備考] ※岸波白野、遠坂凛と、ある程度までいたしました。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある・・・かもしれません。 【遠坂凛@Fate/Zero】 [状態] 睡眠中、疲労(中)、魔力消費(大)、強い決意 [令呪] 残り二画 [装備] アゾット剣 [道具] なし [所持金] 不明 [思考・状況] 基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。 0. ………………“彼”の、夢? 1. 勝利するために何でもする。 2. 岸波白野から、聖杯戦争の経験を学ぶ。 [備考] ※岸波白野と同盟を結びました。 ※エリザベートとある程度まで、岸波白野と最後までいたしました。 ※岸波白野とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、岸波白野の記憶が流入しています。  どこまで流入しているかは、後の書き手にお任せします。 ※鏡子、ニンジャスレイヤー、エリザベートのパラメーターを確認済み。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 【クー・フーリン@Fate/stay night】 [状態] 健康、魔力消費(大) [令呪] 『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害。出来なければ自害せよ』 [装備] ゲイ・ボルク [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。 0. ホットドックはやめてください! 1. 凜に勝利を捧げる。 2. 出来る限り回復に努めたい。 3. 足立、もしくはキャスター(大魔王バーン)を殺害する。 4. あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。 5. アサシン(ニンジャスレイヤー)にリベンジする。 [備考] ※鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 ※自害命令は令呪一画を消費することで解除できます。その手段を取るかは次の書き手に任せます。 [全体の備考] ※遠坂邸の霊地としての質は大きく損なわれています。  そのため、遠坂凛にかかる負担を軽減する程度の機能しか発揮されていません。 ※遠坂邸に、ランサー(クー・フーリン)によるルーンの守りが張られました。 ---- |BACK||NEXT| |前半:[[diverging point]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|056:[[電脳淫法帖]]| |前半:[[diverging point]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|056:[[電脳淫法帖]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |前半:[[diverging point]]|[[遠坂凜]]&ランサー([[クー・フーリン]])|078a:[[aeriality]]| |前半:[[diverging point]]|[[岸波白野]]&ランサー([[エリザベート・バートリー]])|078a:[[aeriality]]|
*Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6      04/ 二心融解  ―――それから数分後。  現在、遠坂邸の居間にいるのは、岸波白野一人だけだった。  ランサーが準備があると言って、凛とエリザを連れて部屋を出て行ったからだ。  ……どうにも、落ち着かない。  これからする事を思えば当然の事ではあるが、今の内に逃げ出そうか、なんて考えが浮かぶ。  それによって生じる危険性は、今の自分には頭になかった。  どうにかしてこの状況を脱せないか。そんな考えばかりが浮かんでくる。  ……うん。やっぱりこんな事はいけない。今からでも他の方法を探すべきだ。  そう決断し、ガバッと椅子から立ち上がって、 「おい坊主。こっちの準備はできたぜ」  同時に放たれたランサーの声に、あっさりと出鼻を挫かれた。  結局流されるまま、ランサーの後に続いてある部屋の前へと辿り着いてしまった。  その部屋はおそらく、凛の自室なのだろう。それを前にして、つい尻込みしてしまう。 「坊主。女が覚悟を決めたんだ。あんまり恥を掻かせるんじゃねぇぜ」  するとランサーがそう言いながらあっさりとドアを開け、岸波白野の背中を叩いて部屋の中へと押し込んできだ。 「そんじゃ、あとはおまえらでよろしくやりな。オレはその間に、家の守りを固めておくからよ」  たたらを踏んで立ち止まり、慌てて出入り口へと振り返るが、無情にもドアをバタンと閉められてしまった。  ドアノブには何かの魔術の痕跡がある。この分では、儀式が終わるまでは出してはくれないだろう。 「はく……の?」  戸惑うようなその声に、ゆっくりと後ろへと振り返る。  そこには周りに無数のルーンの刻まれたベッドと、その上に座り込む凛、そしてすぐ傍に控えるようにエリザの姿があった。  凜は恥ずかしそうに顔を赤らめ、シーツでその体を隠している。  エリザの方も顔を赤く染めているが、先程よりは落ち着いた様子を見せている。  同時に彼女たちの方から、何とも言えない芳香が漂ってきて、岸波白野の鼻腔を刺激してきた。  ……頭が、ぼんやりとしてくる。  その香りに釣られるように、彼女たちのいるベッドへとふらりと近づく。 「……!」  その途端に、凜がビクリと肩を震わせた。  それを見て、自分の心も少しだけ落ち着いてくれた。  なので今の内に、言うべき事を言っておこう、とどうにか気合を入れる。  ―――凜、やっぱり、他の方法を考えよう。 「っ! いやよ、そんな余裕はないわ」  しかし凛は、キッと目を吊り上げてそう睨み付けてくる。  だめだ。意固地になっている。岸波白野の言葉では、彼女は考えを改めないだろう。  ならば、同じ女性であるエリザの言葉であれば、少しは聞き入れてくれるかもしれない。  ―――エリザ。君からも、凜に止めるように言ってほしい。 「え? そ、そうよね。やっぱりこういうのって、恋人か夫婦でするのがふつうよね。  私としてはやっぱり、最後まで純潔を守っていたいところだけど」 「恋人か、夫婦?」  ああ、そうだ。こういう大事な事は、義務だからとか必要だからとか、そんな理由ですることじゃないと思う。  だから――― 「そう。だったら―――」  ――――!?  不意に感じる、仄かな温もり。  目の前には、真っ赤に染まった凛の顔。  唇には、いつか感じたものと同じ、柔らかい感触。 「だったら白野。キ、キスした責任を取って、わたしと付き合いなさい。  ここ、恋人同士なら、こういうことをしてもおかしくはないんでしょう?」  え―――あ、う――――。  思考が、一瞬で打ち砕かれた。  頭が真っ白になって、完全に停止している。  今彼女に何をされたのか、理解が全く及ばない。  自分は何の責任を取って、何になれと言われたのか―――。 「えっと……エリザ。今の内に初めてちょうだい」 「え、でも本当にいいの?」 「お願い。私が怖気づく前に、早く」 「わ、わかったわ。でも、ちゃんと私も混ぜなさいよ!」  真っ白に漂白された頭に、エリザの魔声が響き渡る。  理性と知性が、その美しい歌声に魅せられて溶かされていく。  そこに、止めを刺すように、  シーツを剥がし、その透き通るような、未熟な肢体を晒した遠坂凛の姿が、視界に映った。 「来て、白野」  グズグズに溶かされた理性では、恥じらうようなその声に逆らうことなど出来るはずもなく。  岸波白野はその意識を蕩かされながら、禁断の青い果実へと手を触れた――――。       †  ――――静かな、碧い海を漂っている。  ここに、時間の概念はない。  あるのは情報の蓄積のみで、それだけが、時の流れを把握する唯一の術だ。  逆に言えば、蓄積が確認できない限りは、どれだけの時を経ようとも、ここで起きた事は、外では一瞬の出来事に過ぎない。  ―――それは、どちらの心象風景なのか。  海の中には数匹の稚魚が泳ぎ回り、無数の法則性をカタチ取っている。  それらは、遠坂凛のイメージする魔術刻印の現れだ。  ならばこの海は魔術回路そのものか。  未だ未成熟な、生命が誕生したばかりの浅い海。  遠坂凛にとってこの小さな世界こそが、魔術師としての力の全てだった。  ―――それは、月の海にも似た、静かなカタチをした世界だった。  ただひたすらに、情報だけが積み重なっていく、未来を夢見る未完の海。  岸波白野が生まれ、そして終わりを迎えた場所。  だからだろう。  その心の原風景に、彼等はともに、確かな安らぎを懐いた。  ―――それはいわば、原初の海。全ての命が、等しく始まりを迎える場所。  母なる海。母の胎内。卵の殻。  目覚めの時を静かに待つ、ゆりかごの中。  その中において彼等は、お互いが等しく、己であった。  そして己の事であるが故に、お互いの事を誰よりも理解する。  ―――そうして、目覚めの時は訪れる。  混ざり合っていた二つの心が、二つに別たれ離れていく。  彼は彼へと。彼女は彼女へと。  岸波白野と遠坂凛。それぞれのカタチを取り戻す。  そうして、彼らが在るべき場所へと還っていく。  ―――泡沫のように。                               光の中へ。      05/ 決意の在処     ……目が覚めた。   欠けた夢を、見ていたようだ。  どうやらいつの間にか眠っていたらしい。  ぼんやりする頭に何とかスイッチを入れる。  体には妙な気怠さが残っているが、動かす分に支障はない。  なら大丈夫だ。と起き上るために四肢に力を籠める。  が、重い。  自身の異常ではなく、単純な重量によるものだ。  重さを感じる両隣を見てみれば、そこには凛とエリザの姿があった。  彼女たちは静かに寝息を立てている。  それを確認して、彼女たちを起こさないよう慎重に腕を引き抜く。  そして静かに起き上り、散らかっていた自分の制服を着直すと、ベッドの淵へと座り込み、部屋の天井を見上げ、思った。  ――――ああ……終わってしまった、と。  一体何が終わったのか、出来れば考えたくはなかった。  だがどうやったところで言い逃れはできないだろう。  魔声の影響で理性が溶かされていた、だなんて言い訳にもならない。  事実として、自分は遠坂凛を抱いた。岸波白野は、社会的に終わってしまったのだ……。  エリザの方とは、最後までは至らなかった。  その役割がサポートだったこともあるが、彼女の性知識の疎さや、未だ根付いている観念的に彼女が拒否したのが理由だ。  だが遠坂凛とは、最後まで至ってしまった。  パスを通すために必要だったというのは理解している。だがそれでも、罪悪感のようなものが湧き上がってくる。  せめてもの救いは、ランサーの敷いた陣のおかげか、凜にそれほど負担がかかってなかったことくらいだろうか。  ……岸波白野の精神的負担はこの上ないが………。  そんな風に黄昏れていると、静かなノックの後にランサーが部屋へと入ってきた。 「お、目を覚ましたみたいだな。気分はどうだ?  可能な限り負担が減るように陣を敷いたつもりだが」  最悪だ。と端的に返す。  一体なんでこのようなことになったのか。もうお天道様に面と向かって歩ける気がしない。 「まあそう言ってやるな。あいつもあいつなりに覚悟を決めてんだからよ」  それは理解している。おそらくは、この場にいる誰よりも。  パスを通した際、岸波白野と遠坂凛の情報は、一度完全に混ざり合った。  ちゃんとした魔術師なら防げた事態なのだろうが、生憎自分達には、それを防ぐ術はなかった。  そしてその際に、不意に彼女の記憶を、自分は見てしまったのだ。  妹が離れ、父が死に、母が狂った。  遠坂凛の家族の結末。聖杯戦争によって壊された絆。  その果てに彼女は、聖杯を勝ち取ることを誓い、そしてこの戦いに招かれた。  岸波白野は“家族”というものを知らない。  だがしかし、その時に彼女が何を思い、何を感じたのかも、同時に知ってしまっていた。  だからこそ彼女の覚悟は誰よりも理解しているし、  だからこそ自分は今最悪の気分になっているのだ。  ……そして思った。  この聖杯戦争は、何かを致命的に間違えているのではないかと。  少なくとも、凛のような小さな子供が殺し合わないといけない戦いが正しいだなんて、自分には到底思えない。  だがその思いは、凛の誓いとは反するものだ。  岸波白野には、聖杯に託す願いはない。  けど遠坂凛には、聖杯を望む理由がある。  幼いながらも決意を秘めた彼女はきっと、簡単には聖杯を諦めないだろう。  少なくとも、言葉だけでは止められない。  ……ならば、今自分に出来ることは一つだけだ。  ―――ランサー。今のあなたの状態と、あなたが知る限りのキャスターの情報を教えてほしい。 「……ほう。いい目をしやがる。覚悟を決めた男の目だ」  岸波白野の様子を見てか、ランサーが獰猛な笑みを浮かべてくる。  自分を試すような、そんな威圧感が圧しかかってくる。  だがそれに気圧されることなく、まっすぐに見つめ返した。  この程度の重圧なら、月の聖杯戦争で何度も味わってきた。いまさら怖気づく理由はない。 「へ。こりゃあ、本当に強敵になりそうだ」  ランサーはそう笑って、威圧する気配を消し去る。  本当に試しただけだったのだろう。 「いいぜ、まずはオレの状態だな。  マスターとおまえのパスが通ったからな。オレに供給される魔力量も増えて、多少は回復してる。  つっても、さすがに完全な回復には時間が掛かりそうだけどな。通常戦闘は問題ないが、宝具はそう何度も使えねえって程度だ」  その言葉に肯く。  岸波白野の内にある魔力。  先ほどから自分は、エリザへと供給している分とは別に、“外”へと流れているのを感じていた。  その流れの先は、言うまでもなく遠坂凛だ。  彼女の魔術回路は本当に優秀だ。岸波白野のそれとは比較にもならない。  何の問題もなければ、魔力容量の半分程度なら一日もあれば回復するだろう。  だが先ほどまでは、ランサーの魔力が枯渇していたため、回復する端から持っていかれていたのだ。  しかし現在は、自分とパスを通し魔力供給を受けることで、若干の余裕が生まれていた。  ランサーを維持するための負担が減ったのだ。  そうなれば後は時間の問題だ。彼女の回路は淀みなく魔力を精製し、その内自分の方が供給される側になるだろう。 「まあそういう訳だ。正直、真正面からキャスターとやり合うには不安が残る。  で、その肝心のキャスターの情報だが………。  わりい。顔と拠点の場所以外は知らねぇんだ。あの野郎、それを教えたらさっさと行っちまいやがってな」  そうなのか。  けど、拠点が判っているだけでもありがたい。  キャスターを探す手間が省けるというのは、時間が限られている現状では大分助かるからだ。  しかしそうなると、執るべき作戦は強襲からの電撃戦か。  相手の能力が不明である以上、それを発揮される前に倒してしまうのがベストだ。  自分たちがキャスターを引き受けて、ランサーが背後から不意を突く、という戦術が基本になるだろう。 「ま、そんなところが妥当だろうな」  ランサーは特に不満も言わず、そんな風に頷く。  ……いいのか?  自分が思うに、ランサーはこういう作戦は好きではないと思うのだが。 「ま、本音を言えばな。  だが、オレ達がこんな状況に陥ったのはオレの責任だ。文句は言えねえさ。  それに、マスターが覚悟を決めてんだ。ならオレも、相応の覚悟をするのが当然だろ」  自嘲するような笑い。  だがそこには、彼のマスターと同じような、強い決意が籠っていた。  ……そうか。なら、岸波白野から彼に言えることは何も無い。  仮令何を言ったところで、彼は己が信念のもと凜に従うだろう。 「それはそうと、キャスターを倒した後の事だけどよ。  オレ達はお前に協力して、一体何をすりぁいいんだ?」  一つ頷いて、答える。  岸波白野の望み。取り戻したい記憶の事を。  そのために、あるサーヴァンに会いたい。会って、確かめたいことがあるのだ。 「なるほどな。そいつの特徴はわかっているのか?」  風貌はわからないが、クラスはおそらくアーチャー。剣を矢として使用するサーヴァントだ。 「剣を矢とする、アーチャー……だと? ………まさか、アイツか?」  知っているのか? 「ああ。つっても、さすがに真名は知らねぇがな。  弓兵のくせして双剣や盾を持つ、赤い外套を纏った皮肉屋だよ」  ―――ドクン、と。  一際強く、心臓が脈打つ。  見覚えのない赤い背中が、脳裏に再生される。  ―――間違いない。「彼」だ。  それがどちらを指しての事かはわからないが、自分が捜しているのはその人物だと、理由も分からぬまま確信する。 「そうか、なら安心して任せな。そいつとは何度かやり合っている。早々後れを取ることはねえぜ。  それにオレ自身も、アイツには借りがあるからな。それを返せるかもしれねぇってんなら、否はねえ」  ―――わかった。任せた。  と、ランサーの自信に満ちた言葉に、そう信頼を籠めて返答する。  とは言っても、まずはキャスターを倒してからの話なのだが。 「は、違えねぇ」  行動開始は、凜が目覚めてからだ。  キャスターが相手である以上、動くのは早い方がいい。  それに昼間であれば、NPCもほとんどは街に出ていて拠点攻めがしやすい。  それまでに、ある程度作戦を煮詰めておこう。  そう方針を定めた、その時だった。  ベッドの上にあった岸波白野の手に、不意に触れたものがあった。  見れば凛が、その小さな手で縋るように握り締めていた。 「………おとう……さま……」  その微かな声に、胸が締め付けられる。  ―――岸波白野の言葉では、遠坂凛を止められない。  出来ることはただ一つ。彼女を導き、守り、支えること。そして―――  ―――そして。     最後の敵として、彼女の前に立ち塞がることだけだ。  かつて“彼女”がそうしてくれたように。  今度は自分が、彼女を導く星灯り(しるべ)となるのだ。  そのためにも、この聖杯戦争を見極めよう。  勝者に与えられる聖杯が、彼女に相応しいものかどうかを確かめるのだ。 「子ブタったら、ホントいい毛並みになっちゃって」  じゅるり、なんて音を立てながら、そんな声が聞こえてきた。  ―――エリザ。目を覚ましたのか。 「その男が入ってきた時点でとっくにね。  いくら同盟を結んでいるとは言っても、サーヴァントの近くで寝入るほど気は抜けてないわよ」  エリザはそう言って身を起こす。  その動きは緩慢ながらも洗礼されており、彼女が貴族令嬢であることを思い出させる。 「それで、ハクノ。あなたはどうして、この子を助けようとするの?」  エリザは眠る凛の頭を優しく撫でながら、岸波白野へとそう問いかけてきた。  ―――なぜ自分は、遠坂凛を助けようとするのか。  彼女を助けたところで、岸波白野が得るものは何も無い。  それどころか、最後に立ち塞がるのであれば、むしろマイナスと言っていい。  いずれ強敵となる存在を助ける行為など、自殺行為になりかねないからだ。  それを踏まえた上で、自分は彼女を助けようとしている。  それは何故か。  “遠坂凛”に恩があったから……ではない。  たとえ同じ存在であろうと、根本的にこの子と“彼女”は違う人間だ。  今ここにいる遠坂凛を助けたところで、自分を助けてくれた“遠坂凛”に恩を返すことにはならない。  ―――だから、その理由は簡単だ。  自分が、彼女を助けたいから。  遠坂凛を見捨てることを、岸波白野がしたくないから、自分は彼女を助けるのだ。  言ってしまえば、ただの自己満足。  そんな浅ましい思いが、岸波白野が遠坂凛を助ける理由なのだ。 「フフ……。いいんじゃないの? 自己満足で。  『そうしなければならないから』なんて理由よりは、ずっといいと私は思うわよ」  その言葉は、果たして誰に向けたものなのか。  眠る少女を撫でる彼女の瞳には、深い悔恨と――僅かな哀れみが宿っていた。 「いいわ。子ブタのついで位でいいのなら、私もリンを守ってあげる。  あっちのリンには一応恩があるし、何よりハクノが、この子を助けたがっているしね」  ―――エリザ……ありがとう。 「感謝するぜ、二人とも」 「べ、別にいいわよ、そんなの。私はただ、子ブタの手伝いをしたいだけし」  岸波白野とランサーの言葉に、エリザは照れ隠しをするようにそっぽを向いた。  彼女のその行動に小さく笑いながら、一時の微睡みに安らぐ少女を見つめる。  凛。君の懐く覚悟は、痛いほど理解できている。  けれど、だからと言って、一人ですべてを抱え込む必要はない。  君の周りには、君を守ろうとしてくれる人たちが、こんなにもいるのだから………。  そんな思いとともに岸波白野は、遠坂凛の手を優しく握り返した。 「さてと。それじゃあリンが起きた時のために、何かランチを作っておきましょうか」  ―――え? 「何を作ろうかしら。サンドイッチをそのまま真似るのもつまらないし、そうねぇ……ホットドックなんてどうかしら」 「なに……!?」  マズい。それは色々とマズい……!  自分だけならばともかく、他の人に食べさせるには、エリザの料理はまだ不安要素しかない。  ここは凛とランサーへの被害を食い止めるためにも、心を鬼にして諦めさせよう……って!? 「期待していてね、子ブタ(ダーリン)。腕によりをかけて作るから。  大丈夫よ。今度はちゃんと、食べられる程度には作れる気がするから」  いつの間にかエリザは部屋を退室し、音程のずれた鼻歌を歌いながら台所へと向かっていた。  咄嗟にランサーと目を合わせる。  自分も彼も、浮かべるのはともに戦慄の表情。二人同時に頷くと、エリザを追って台所へとひた走る。  このまま彼女を野放しにしては、日が変わるのを待たずして自分たちは全滅する。  そうなってしまう前に、彼女の料理テロだけは何としてでも止めなければ……!       †       /ふと、夢を見た。  バラバラに散らばったパズルのような、あちこちが欠けた虫食いの夢。  その話を聞いていたからだろう。  それが何なのかを、わたしはすぐに理解した。  これは、“彼”の記憶。“彼”が経験した、月の聖杯戦争の記録なのだ。       /死に怯える声が聞こえる。  夢の中の“彼”は、いつも窮地に陥っていた。  それも当然。その時の“彼”には、自分の記憶がなかった。  予選を終えて返却されるべき過去が、まるごと全部欠け落ちていたのだ。  そんな状態でまともに戦えるはずがないことは、わたしにも理解できた。  何しろ今のわたしでも勝てそうなほどに、“彼”はあまりにも無力で弱々しかったのだから。  そんな彼を支えていたのは、“赤い人影”だった。   “彼”にとって、その人物のイメージが赤色なのだろう。  これが夢だからなのか、記憶が欠けている影響なのか。  年齢も、性別も、“彼”との関係も判らないくせに、その色だけははっきりと見えた。  そうして“彼”は、その“赤い人物”に助けられながら、                               ただ死にたくないと願い、  理由も分からぬまま懸命に、聖杯戦争を戦っていたのだ――――。 【B-4/遠坂邸/1日目 午前】 【岸波白野@Fate/EXTRA CCC】 [状態] 健康、疲労(中)、精神疲労(小)、魔力消費(小) [令呪] 残り三画 [装備] なし [道具] なし [所持金] 普通の学生程度 [思考・状況] 基本行動方針:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。 0. エリザの料理テロを阻止しなければ……! 1. 遠坂凛とランサーを助けるために、足立透とそのキャスターを倒す。 2. 狙撃とライダー(鏡子)を警戒。 3. 聖杯戦争を見極める。 4. 今日はもう、学校はサボりだな。 5. 自分は、あのアーチャーを知っている───? 6. 終わった………。 [備考] ※遠坂凛と同盟を結びました。 ※エリザベートとある程度まで、遠坂凛と最後までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。 ※遠坂凛とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、遠坂凛の記憶の一部と同調しました。 ※クー・フーリンのパラメーターを確認済み。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。  しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】 [状態] 健康 [装備] 監獄城チェイテ [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。 0. ランチを作るわ! ホットドックなんてどうかしら。 1. 岸波白野のついでに、遠坂凛も守る。 2. 撤退に屈辱感。 [備考] ※岸波白野、遠坂凛と、ある程度までいたしました。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある・・・かもしれません。 【遠坂凛@Fate/Zero】 [状態] 睡眠中、疲労(中)、魔力消費(大)、強い決意 [令呪] 残り二画 [装備] アゾット剣 [道具] なし [所持金] 不明 [思考・状況] 基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。 0. ………………“彼”の、夢? 1. 勝利するために何でもする。 2. 岸波白野から、聖杯戦争の経験を学ぶ。 [備考] ※岸波白野と同盟を結びました。 ※エリザベートとある程度まで、岸波白野と最後までいたしました。 ※岸波白野とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、岸波白野の記憶が流入しています。  どこまで流入しているかは、後の書き手にお任せします。 ※鏡子、ニンジャスレイヤー、エリザベートのパラメーターを確認済み。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 【クー・フーリン@Fate/stay night】 [状態] 健康、魔力消費(大) [令呪] 『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害。出来なければ自害せよ』 [装備] ゲイ・ボルク [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。 0. ホットドックはやめてください! 1. 凜に勝利を捧げる。 2. 出来る限り回復に努めたい。 3. 足立、もしくはキャスター(大魔王バーン)を殺害する。 4. あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。 5. アサシン(ニンジャスレイヤー)にリベンジする。 [備考] ※鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 ※自害命令は令呪一画を消費することで解除できます。その手段を取るかは次の書き手に任せます。 [全体の備考] ※遠坂邸の霊地としての質は大きく損なわれています。  そのため、遠坂凛にかかる負担を軽減する程度の機能しか発揮されていません。 ※遠坂邸に、ランサー(クー・フーリン)によるルーンの守りが張られました。 ---- |BACK||NEXT| |055-a:[[diverging point]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|056:[[電脳淫法帖]]| |055-a:[[diverging point]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|056:[[電脳淫法帖]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |055-a:[[diverging point]]|[[遠坂凜]]&ランサー([[クー・フーリン]])|078-a:[[aeriality]]| |055-a:[[diverging point]]|[[岸波白野]]&ランサー([[エリザベート・バートリー]])|078-a:[[aeriality]]|

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