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*何万光年先のDream land ◆Ee.E0P6Y2U 朝が来たというのにはちょっと早くて、 でも月は既にどこかに隠れてしまっている。役目を果たしたと言わんばかり。 夜を名乗るにはすこし心もとないような、そんな、空の下。 少女たちは肩を並べて海を眺めている。 砂浜沿いの通り、潮の匂いが流れ込んでくる。腰かけたベンチは少し砂がついていた。 眼前に広がる海はまだ夜の色をしていて、でも、朝の青さが混じるのは止められないだろう。 「貴女と会うのは二度目ですね」 青混じる髪の少女、ルリは穏やかな口調で言った。 親愛の意志を滲ませつつも、一定の調子は崩さないよう呼びかける。 相手は聖女、ルーラー。同じのベンチの端と端に彼女らは座っている。 朝食でも、と言ったは良いが、まだ朝食を食べるには早そうだ。 店もまだ開いていないだろう。牛丼屋くらいなら開いているかもしれないが、目の前の少女を連れていく気にはならない。 なのでひとまずここでお話を。 「そう、ですね。私も貴女のことは覚えています。マスター・ホシノルリ」 ルリの隣に座る彼女、ルーラーもまたゆっくりとそう口にした。相手に語りかける、人に聞かせることを意識した声色。 まだ少女の身でありながら、その面持ちは凛とした強さを感じさせる。 この場においての『裁定者』。サーヴァント・ルーラー。 調査として『方舟』にハッキングをしかけた折、ルリは彼女の姿を垣間見ている。 一瞬のことだったとはいえ、忘れることはない。 その時は彼女の正体なんて知りもしなかった。知り得る筈もなかった。 でも今は違う。 ルリは彼女を名前を知っているし、課せられた役割も知っている。 聖杯戦争。方舟内で行われていた『戦争』だ。 ムーンセル・オートマトンに寄り添いし『方舟』。そこで繰り広げられる苛烈な生存競争。 全くの正体不明だった筈の『方舟』。 でも、ルリにとってはそうではない。知ってしまったから。 そして、それは――この『戦争』が彼女自身のものになったことを意味する。 「…………」 ちら、と後ろに視線を向けた。 そこには何もない。いや、何も見えない。 しかしルリは感じていた。ライダーが、あの硝煙の臭い漂う彼が居ることを。 自身の存在をかき消すその手段は霊体化、というらしい。これも何時の間にか知っていたことだった。 サーヴァントという存在のことをルリは既に知っている。 ムーンセル。全長三千キロメートルに及ぶフォトニック純結晶、月にに浮かぶ神の自動書記。 それが観測しデータを再現してみせた人類の叡智そのもの。 そしてこの身も、この海も、この空も、目に映るもの全てもまた霊子虚構世界――再現された時間の流れ。 その知識を知った上で、ルリはこの世界を『理解』する。 電子の妖精、の異名を持つ彼女は虚構世界に精通している。 規模こそ違えど、この世界はナデシコの中枢コンピュータ・オモイカネの心と同じなのだ。 虚構であるが、流れる情報の欠片は紛れもない真実。 仮想であるが、そこは決して偽物でない確かな現実。 それがこの世界の正体であると、ルリは知っていた。 タイミングは――『方舟』にアクセスした、あの瞬間。 「ちょっと質問させてももらってもいいですか」 ルリは軽く手を上げて問い掛ける。 知識はある。理解もある。しかしそれでは調査にはならない。 この世界が何であるかをまず知ること。それが彼女がまず目的にしたことだった。 そんな折に現れた『裁定者』という存在を逃す訳にはいかない。聞かなければならないことが幾つかある。 何でも説明してくれるあの人も流石にここには居ないだろうし。 「はい、私に答えられる範囲ならば答えますが」 「じゃ、さっそく」 落ち着いた口調でルリは最初の質問を口にした。 「ここはあの『方舟』の中なんですよね?」 最初に尋ねたのは、この場所のこと。 知識としては与えられているが、一応確認しておくべきだろう。 「そう、ですね。少なくとも貴方から見れば、紛れもなくここは『方舟』でした」 問い掛けにルーラーは頷いた。 ここは、この世界は確かに『方舟』である。 虚構世界であろうともここはここが『方舟』の中であることには変わりがない、というらしい。 宇宙のどこか飛ばされたのではなく、自分はある意味順当に『方舟』に入っていったことになる。 方舟はまさに『方舟』だった。 正体の見当も付かなかったが、本当にとてつもないものだったのだ。 超古代の聖遺物に人類の手を越えた演算機器、そして中で行われる『戦争』。 これはあの演算ユニットか、下手をすればそれ以上の存在かもしれない。 ルリは事態の大きさを再認識する。 原因は他にもあったにせよ、あの演算ユニットが地球と木連の戦争の契機になった確かだ。 それ自体に罪はないとはいえ、演算ユニットが巨大な力を持つ故に多くの混乱が起こった。 三年前の戦争も、そのあとに続いた悲劇も…… 確かにこれは、この『方舟』はとてつもないものだ。 演算ユニットをめぐる騒動がひと段落した、その矢先にこんなものが投下されては混乱は間違いない。 戦争が終結したとはいえ火種がない訳ではない。『方舟』到来が世界に与える影響を考え、ルリは身を引き締めた。 「次の質問、いいですか?」 思案ののち、ルリは次なる問い掛けをすることにした。 『方舟』の影響力は留意しなくてはならないが、それだけに調査を怠る訳にはいかない。 「先程貴方から見れば、といってましたけれど、別の観方があるんですか?  知識として、あらゆる並行世界とこの方舟が繋がっている、とは聞いていますけど」 「はい。この世界はムーンセルが観測し得たすべての世界と繋がっています。  だからこそ様々な見方があります。多くの場合船、として観測されていますが、その木片のみが人の手に届いた世界もあります」 そもそもノアの方舟という伝承自体が存在しない世界もあるのだという。 内部は一つの存在として確定していても、その外観、定義、解釈は各世界各人によって異なる。 そういう意味でマスターにはそれぞれ認識のずれが多少あるのかもしれない。 「別の世界、ですか」 並行世界。その言葉はルリも知っている。 が、こうして直面することは初めてだった。  またも途方もない話だが、これもまた真実だ。 「…………」 見えなくとも背後に存在はしっかりと感じることができる。 ルリはあの硝煙の臭いを覚えていた。 サーヴァント・ライダー。キリコ・キュービィー。彼から垣間見た記憶は、ルリの知る世界から大きく乖離していたけれど、紛れもなく真実の響きを持っていた。 ここに呼ばれているのは全く違う世界の人間。 中には自分から見ると冗談のようなものもあるかもしれない。あのゲキ・ガンガー3のキャラクターのような。 「何か、ちょっとドキドキしますね。別の世界の人たちと会えるなんて」 「…………」 ルリの言葉にルーラーは口を閉ざした。そして、僅かに視線が逸れたのが分かった。 何か思うところがあったのだろうか。不思議に思いつつも、ルリは口を開いた。 「もう一つ、これ、結構私にとって大事なことなんですか?」 「はい。何ですか?」 「出る方法、あります? この方舟から、優勝以外の方法で」 この『戦争』から下りる方法があるのか。 場合によっては、ルーラーと敵対しかねない問い掛けだった。 が、絶対にこれは聞いておかなくてはならないことだった。今後の方針に大きく関わってくる。 問われたルーラーは別段ルリに警告する様子もなく、ただ一拍遅れて答えた。 「……ありません」 と。 「この月を望む聖杯戦争から生きて帰るには、優勝以外の方法はありません。  数多くの世界、数多くのマスター、数多くの願い、その中から勝ち残った一組のつがいだけが、方舟の聖杯を取ることができるのです」 「それ以外にはないんですか? 私のように、勝手に連れてこられてきちゃったマスターでも」 「はい」 ルーラーは頷いた。毅然としているが、その唇が僅かに震えていた。 ルールを司る立場にある彼女は表だって表す訳にはいかないが、その事実に抵抗があるのかもしれない。 彼女がどのような英霊であるかは分からないが、こうして少し話をするだけでその誠実な人柄は伝わってくる。 その態度を見てルリは交渉の余地を考えた。 調査を終え、その情報を持って帰るまでが任務。 この『方舟』の影響力を考えると絶対にここから脱出し、軍に内情を伝えなくてはならない。 調査は続行するつもりだが、最悪今知っている情報だけでも伝える必要がある。 できることならば穏便に脱出したい。聖杯にかける望みを持たず巻き込まれたルリにしてみれば、何も優勝にこだわる必要はない。 方法があれば、とも思ったがルーラーの言葉によれば全くない、とのことだった。 とはいえ彼女自身どこか納得していない部分も感じた。無論そう簡単に立場を翻すことはあり得ないだろうが、それでも全く取り付く島もないという訳ではない。 優勝以外の方法があるのならば、それも模索していきたいところだった。 とはいえ――これはもう彼女の『戦争』だ。 確かに最初は巻き込まれただけだったかもしれない。戦う意志なんてなかったかもしれない。 しかし、だからといって無関係であることなどできない。 戦うことになった以上、それは誰かの『戦争』でなく、私たちの『戦争』となる。 『戦争』とはそういうものだということを、ルリは知っていた。 『方舟』の存在の重さをルリは知っている。 これが場合によっては新たな『戦争』を呼ぶかもしれない。それだけの価値があるものであることは確かだった。 この現実から目を逸らすことはできない。 「そう、ですね。ありがとうございました、忙しい身でしょうに色々教えて頂いて」 ルリはぺこり、と頭を下げた。結われた銀の髪がふわりと揺れる。 状況を確認できた。それだけで彼女と話した甲斐がある。 頭を下げるルリに対し、ルーラーは「いえいえ」と微笑みを浮かべ答えた。 その時さっ、と光が差し込んできた。 空を見上げれば眩く金に輝く太陽がある。きらきらと照り返す水面はまるで宝石のようだった。 「夜明け、ですね」 ルリが短く呟いた。時刻を確認すると既に夜は終わっていた。 額に当たる陽の光が温かい。今度こそ、朝が来た。 「どうしましょう。そろそろ早い店なら開いてきそうな時間ですけど、朝ごはん食べますか?」 すっ、と立ち上がってルリは尋ねた。微笑みを浮かべ、朝食をどうかと誘いの言葉を。 ルーラーから話を聞くという当初の目的は既に果たした。 だからもう別れてしまっても問題ないのだが、それでもルリは彼女を誘った。 約束したから、というのもあるが、それ以上にルリはルーラーと話をしてみたかった。 単なる情報収集としてではなく、一人の人間として。 金と銀の少女たちの視線が絡まる。間を朝の涼やかな風が吹き抜けていった。 「私もこれで忙しい身でもあるんですが」 ルーラーもまた立ち上がって上がって言った。 「だからこそその申し出はありがたいです、ルリさん。  私も是非同席したいところです。あくまで私は中立ですが、この程度の接触ならば問題ないでしょう」 そうしてルリとルーラーは朝食を摂るべく歩き出した。 気持ちの良い風が吹く。『戦争』の場であっても、別にずっとしかめ面してる訳じゃない。 前だって、あのナデシコでの生活も、そうだった。 あとでキリコさんの好みも聞いておかないと、案外コーヒーとか好きかもしれない。 そんなことを思いながら、ルリは海辺を後にした。 ◇ 「ありがとうございます。美味しかったです」 海沿いのカフェテリアで軽く朝食を摂ったのち、ルーラーはそう別れを告げた。 朗らかな笑みを浮かべる彼女に、ルリもまた笑い返す。 サンドイッチとコーヒーだけの簡易なものだったが、それでも朝の始まりとしては十分だ。 こういった規則的な食事は宇宙生活が長いほど、逆にきっちりしてしまう。そうでもしないと時間の感覚が掴めないからだ。 そういう意味でルリにとってこの朝食は意味があるものだった。 「こちらこそ、時間を取らせてしまってすいません」 「いえ……ずっと走り回っていたもので、こうした安息はありがたかったです」 サーヴァントである彼女に食事は必要ない筈であるが、思いのほか楽しそうに彼女は食事を摂っていた。 英霊であり、ルーラーという特別な立場に立つ彼女であるが、それでも機械ではないということだろう。 「何か分からないことがあったらまた連絡を。  教会に連絡を取れば、運営として要望にお応えします。  私が居なくても、誰かしらに取り次いでもらえると思います」 「分かりました。どうも、丁寧にありがとうございます」 綺麗におじぎをするルリを見て、ルーラーはしばしの間無言だった。 「あのルリさん。これはあくまで先程の質問の補足なのですが」 「はい?」 彼女の顔に、そこで、一瞬だけ躊躇の色が浮かんだのち、 「ここには本当に色々な人が居ます。  様々な世界から、過去未来問わず月が観測した全てが再現されています。  本当ならありえなかった筈の出来事や……出会いがあると思います」 その言葉には不思議な重さがあった。諭すのでもなく咎めるのでもなく、先行く道を見定めるかのような、不思議な重さが。 ルリははっとしてルーラーを見上げた。そしてその凛とした表情に何かを感じ取った。 「分かっていますよ」 だからこそ、ルリは笑って見せた。 この宇宙には星の数のほど出会いと別れがある。 ならきっと世界を駆ける『方舟』にだってあるのだろう。 「ここって私の記憶からも作られているんですよね?  なら、懐かしいものとか、ちょっとした同窓会みたいなのも期待してみます」   ルーラーは頷いた。 それで何かひと段落したのを感じた。 「じゃあ私は任務に戻ります。ルーラーさん、ご協力ありがとうございます」 「いえ。では、私もここで。  できれば――また会いましょう」 そう言ってルーラーは背を向けて、去って行った。 揺れる金の髪が朝陽を受け美しくきらめいた。それをルリは手を振って送り返す。 そうして彼女らの朝食の時間は終わった。 これから各々のなすべきことへともどっていくのだ。 『……それで、どうする』 「あ、ライダーさん」 不意にライダーの声が響いた。敵に発見されることを考えてか霊体化したままだ。 ルリは彼に対し、決めていた方針を口にした。 「そうですね。仕事に戻ります」 『聖杯戦争の調査のことか?』 「いえそうではなくて、私にもここでの生活が割り振られていたんですよね。  本日付で配属らしいんで、ちょっと顔出しておこうかなと」 言ってルリは懐から自らの身分を証明するものを取り出した。 それはチョコレート色をした革の手帳だった。二つ折になっており、開くとそこにはルリの写真があった。 写真の下には光沢のあるエンブレムがある。星のようなマークの上に「POLICE」と書かれている。 「どうやら私、刑事みたいです。何でも本庁から配属された捜査官らしくて」 天才美少女捜査官、ホシノルリ。 彼女は齢若くしながらも、その類まれな頭脳から数々の難事件を解決に導いたのだという。 人呼んで警視の妖精。 そんな設定らしかった。 【B-8/町/一日目 早朝】 【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ~The prince of darkness】 [状態]:健康、魔力消費:微 [令呪]:残り三画 [装備]:無し [道具]:ペイカード、地図 [所持金]:富豪レベル(カード払いのみ) [思考・状況] 基本行動方針:『方舟』の調査。 1.職場(警察)に顔を出してみる。 [備考] ・ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。 ・NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。 【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】 [状態]:健康 [装備]:アーマーマグナム [道具]:無し [思考・状況] 基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。 1.ホシノ・ルリの護衛。 [備考] 無し。 【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】 [状態]:健康 [装備]:旗 [道具]:? [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。 1.??? [備考] ? ---- |BACK||NEXT| |045:[[戦中の登校者]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|046:[[形なき悪意]]| |045:[[戦中の登校者]]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|046:[[形なき悪意]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |029:[[初陣]]|[[ホシノ・ルリ]]&ライダー([[キリコ・キュービィー]])|062:[[再現された仮想現実世界]]| |~|ルーラー([[ジャンヌ・ダルク]])|:[[]]|
*何万光年先のDream land ◆Ee.E0P6Y2U 朝が来たというのにはちょっと早くて、 でも月は既にどこかに隠れてしまっている。役目を果たしたと言わんばかり。 夜を名乗るにはすこし心もとないような、そんな、空の下。 少女たちは肩を並べて海を眺めている。 砂浜沿いの通り、潮の匂いが流れ込んでくる。腰かけたベンチは少し砂がついていた。 眼前に広がる海はまだ夜の色をしていて、でも、朝の青さが混じるのは止められないだろう。 「貴女と会うのは二度目ですね」 青混じる髪の少女、ルリは穏やかな口調で言った。 親愛の意志を滲ませつつも、一定の調子は崩さないよう呼びかける。 相手は聖女、ルーラー。同じのベンチの端と端に彼女らは座っている。 朝食でも、と言ったは良いが、まだ朝食を食べるには早そうだ。 店もまだ開いていないだろう。牛丼屋くらいなら開いているかもしれないが、目の前の少女を連れていく気にはならない。 なのでひとまずここでお話を。 「そう、ですね。私も貴女のことは覚えています。マスター・ホシノルリ」 ルリの隣に座る彼女、ルーラーもまたゆっくりとそう口にした。相手に語りかける、人に聞かせることを意識した声色。 まだ少女の身でありながら、その面持ちは凛とした強さを感じさせる。 この場においての『裁定者』。サーヴァント・ルーラー。 調査として『方舟』にハッキングをしかけた折、ルリは彼女の姿を垣間見ている。 一瞬のことだったとはいえ、忘れることはない。 その時は彼女の正体なんて知りもしなかった。知り得る筈もなかった。 でも今は違う。 ルリは彼女を名前を知っているし、課せられた役割も知っている。 聖杯戦争。方舟内で行われていた『戦争』だ。 ムーンセル・オートマトンに寄り添いし『方舟』。そこで繰り広げられる苛烈な生存競争。 全くの正体不明だった筈の『方舟』。 でも、ルリにとってはそうではない。知ってしまったから。 そして、それは――この『戦争』が彼女自身のものになったことを意味する。 「…………」 ちら、と後ろに視線を向けた。 そこには何もない。いや、何も見えない。 しかしルリは感じていた。ライダーが、あの硝煙の臭い漂う彼が居ることを。 自身の存在をかき消すその手段は霊体化、というらしい。これも何時の間にか知っていたことだった。 サーヴァントという存在のことをルリは既に知っている。 ムーンセル。全長三千キロメートルに及ぶフォトニック純結晶、月にに浮かぶ神の自動書記。 それが観測しデータを再現してみせた人類の叡智そのもの。 そしてこの身も、この海も、この空も、目に映るもの全てもまた霊子虚構世界――再現された時間の流れ。 その知識を知った上で、ルリはこの世界を『理解』する。 電子の妖精、の異名を持つ彼女は虚構世界に精通している。 規模こそ違えど、この世界はナデシコの中枢コンピュータ・オモイカネの心と同じなのだ。 虚構であるが、流れる情報の欠片は紛れもない真実。 仮想であるが、そこは決して偽物でない確かな現実。 それがこの世界の正体であると、ルリは知っていた。 タイミングは――『方舟』にアクセスした、あの瞬間。 「ちょっと質問させてももらってもいいですか」 ルリは軽く手を上げて問い掛ける。 知識はある。理解もある。しかしそれでは調査にはならない。 この世界が何であるかをまず知ること。それが彼女がまず目的にしたことだった。 そんな折に現れた『裁定者』という存在を逃す訳にはいかない。聞かなければならないことが幾つかある。 何でも説明してくれるあの人も流石にここには居ないだろうし。 「はい、私に答えられる範囲ならば答えますが」 「じゃ、さっそく」 落ち着いた口調でルリは最初の質問を口にした。 「ここはあの『方舟』の中なんですよね?」 最初に尋ねたのは、この場所のこと。 知識としては与えられているが、一応確認しておくべきだろう。 「そう、ですね。少なくとも貴方から見れば、紛れもなくここは『方舟』でした」 問い掛けにルーラーは頷いた。 ここは、この世界は確かに『方舟』である。 虚構世界であろうともここはここが『方舟』の中であることには変わりがない、というらしい。 宇宙のどこか飛ばされたのではなく、自分はある意味順当に『方舟』に入っていったことになる。 方舟はまさに『方舟』だった。 正体の見当も付かなかったが、本当にとてつもないものだったのだ。 超古代の聖遺物に人類の手を越えた演算機器、そして中で行われる『戦争』。 これはあの演算ユニットか、下手をすればそれ以上の存在かもしれない。 ルリは事態の大きさを再認識する。 原因は他にもあったにせよ、あの演算ユニットが地球と木連の戦争の契機になった確かだ。 それ自体に罪はないとはいえ、演算ユニットが巨大な力を持つ故に多くの混乱が起こった。 三年前の戦争も、そのあとに続いた悲劇も…… 確かにこれは、この『方舟』はとてつもないものだ。 演算ユニットをめぐる騒動がひと段落した、その矢先にこんなものが投下されては混乱は間違いない。 戦争が終結したとはいえ火種がない訳ではない。『方舟』到来が世界に与える影響を考え、ルリは身を引き締めた。 「次の質問、いいですか?」 思案ののち、ルリは次なる問い掛けをすることにした。 『方舟』の影響力は留意しなくてはならないが、それだけに調査を怠る訳にはいかない。 「先程貴方から見れば、といってましたけれど、別の観方があるんですか?  知識として、あらゆる並行世界とこの方舟が繋がっている、とは聞いていますけど」 「はい。この世界はムーンセルが観測し得たすべての世界と繋がっています。  だからこそ様々な見方があります。多くの場合船、として観測されていますが、その木片のみが人の手に届いた世界もあります」 そもそもノアの方舟という伝承自体が存在しない世界もあるのだという。 内部は一つの存在として確定していても、その外観、定義、解釈は各世界各人によって異なる。 そういう意味でマスターにはそれぞれ認識のずれが多少あるのかもしれない。 「別の世界、ですか」 並行世界。その言葉はルリも知っている。 が、こうして直面することは初めてだった。  またも途方もない話だが、これもまた真実だ。 「…………」 見えなくとも背後に存在はしっかりと感じることができる。 ルリはあの硝煙の臭いを覚えていた。 サーヴァント・ライダー。キリコ・キュービィー。彼から垣間見た記憶は、ルリの知る世界から大きく乖離していたけれど、紛れもなく真実の響きを持っていた。 ここに呼ばれているのは全く違う世界の人間。 中には自分から見ると冗談のようなものもあるかもしれない。あのゲキ・ガンガー3のキャラクターのような。 「何か、ちょっとドキドキしますね。別の世界の人たちと会えるなんて」 「…………」 ルリの言葉にルーラーは口を閉ざした。そして、僅かに視線が逸れたのが分かった。 何か思うところがあったのだろうか。不思議に思いつつも、ルリは口を開いた。 「もう一つ、これ、結構私にとって大事なことなんですか?」 「はい。何ですか?」 「出る方法、あります? この方舟から、優勝以外の方法で」 この『戦争』から下りる方法があるのか。 場合によっては、ルーラーと敵対しかねない問い掛けだった。 が、絶対にこれは聞いておかなくてはならないことだった。今後の方針に大きく関わってくる。 問われたルーラーは別段ルリに警告する様子もなく、ただ一拍遅れて答えた。 「……ありません」 と。 「この月を望む聖杯戦争から生きて帰るには、優勝以外の方法はありません。  数多くの世界、数多くのマスター、数多くの願い、その中から勝ち残った一組のつがいだけが、方舟の聖杯を取ることができるのです」 「それ以外にはないんですか? 私のように、勝手に連れてこられてきちゃったマスターでも」 「はい」 ルーラーは頷いた。毅然としているが、その唇が僅かに震えていた。 ルールを司る立場にある彼女は表だって表す訳にはいかないが、その事実に抵抗があるのかもしれない。 彼女がどのような英霊であるかは分からないが、こうして少し話をするだけでその誠実な人柄は伝わってくる。 その態度を見てルリは交渉の余地を考えた。 調査を終え、その情報を持って帰るまでが任務。 この『方舟』の影響力を考えると絶対にここから脱出し、軍に内情を伝えなくてはならない。 調査は続行するつもりだが、最悪今知っている情報だけでも伝える必要がある。 できることならば穏便に脱出したい。聖杯にかける望みを持たず巻き込まれたルリにしてみれば、何も優勝にこだわる必要はない。 方法があれば、とも思ったがルーラーの言葉によれば全くない、とのことだった。 とはいえ彼女自身どこか納得していない部分も感じた。無論そう簡単に立場を翻すことはあり得ないだろうが、それでも全く取り付く島もないという訳ではない。 優勝以外の方法があるのならば、それも模索していきたいところだった。 とはいえ――これはもう彼女の『戦争』だ。 確かに最初は巻き込まれただけだったかもしれない。戦う意志なんてなかったかもしれない。 しかし、だからといって無関係であることなどできない。 戦うことになった以上、それは誰かの『戦争』でなく、私たちの『戦争』となる。 『戦争』とはそういうものだということを、ルリは知っていた。 『方舟』の存在の重さをルリは知っている。 これが場合によっては新たな『戦争』を呼ぶかもしれない。それだけの価値があるものであることは確かだった。 この現実から目を逸らすことはできない。 「そう、ですね。ありがとうございました、忙しい身でしょうに色々教えて頂いて」 ルリはぺこり、と頭を下げた。結われた銀の髪がふわりと揺れる。 状況を確認できた。それだけで彼女と話した甲斐がある。 頭を下げるルリに対し、ルーラーは「いえいえ」と微笑みを浮かべ答えた。 その時さっ、と光が差し込んできた。 空を見上げれば眩く金に輝く太陽がある。きらきらと照り返す水面はまるで宝石のようだった。 「夜明け、ですね」 ルリが短く呟いた。時刻を確認すると既に夜は終わっていた。 額に当たる陽の光が温かい。今度こそ、朝が来た。 「どうしましょう。そろそろ早い店なら開いてきそうな時間ですけど、朝ごはん食べますか?」 すっ、と立ち上がってルリは尋ねた。微笑みを浮かべ、朝食をどうかと誘いの言葉を。 ルーラーから話を聞くという当初の目的は既に果たした。 だからもう別れてしまっても問題ないのだが、それでもルリは彼女を誘った。 約束したから、というのもあるが、それ以上にルリはルーラーと話をしてみたかった。 単なる情報収集としてではなく、一人の人間として。 金と銀の少女たちの視線が絡まる。間を朝の涼やかな風が吹き抜けていった。 「私もこれで忙しい身でもあるんですが」 ルーラーもまた立ち上がって上がって言った。 「だからこそその申し出はありがたいです、ルリさん。  私も是非同席したいところです。あくまで私は中立ですが、この程度の接触ならば問題ないでしょう」 そうしてルリとルーラーは朝食を摂るべく歩き出した。 気持ちの良い風が吹く。『戦争』の場であっても、別にずっとしかめ面してる訳じゃない。 前だって、あのナデシコでの生活も、そうだった。 あとでキリコさんの好みも聞いておかないと、案外コーヒーとか好きかもしれない。 そんなことを思いながら、ルリは海辺を後にした。 ◇ 「ありがとうございます。美味しかったです」 海沿いのカフェテリアで軽く朝食を摂ったのち、ルーラーはそう別れを告げた。 朗らかな笑みを浮かべる彼女に、ルリもまた笑い返す。 サンドイッチとコーヒーだけの簡易なものだったが、それでも朝の始まりとしては十分だ。 こういった規則的な食事は宇宙生活が長いほど、逆にきっちりしてしまう。そうでもしないと時間の感覚が掴めないからだ。 そういう意味でルリにとってこの朝食は意味があるものだった。 「こちらこそ、時間を取らせてしまってすいません」 「いえ……ずっと走り回っていたもので、こうした安息はありがたかったです」 サーヴァントである彼女に食事は必要ない筈であるが、思いのほか楽しそうに彼女は食事を摂っていた。 英霊であり、ルーラーという特別な立場に立つ彼女であるが、それでも機械ではないということだろう。 「何か分からないことがあったらまた連絡を。  教会に連絡を取れば、運営として要望にお応えします。  私が居なくても、誰かしらに取り次いでもらえると思います」 「分かりました。どうも、丁寧にありがとうございます」 綺麗におじぎをするルリを見て、ルーラーはしばしの間無言だった。 「あのルリさん。これはあくまで先程の質問の補足なのですが」 「はい?」 彼女の顔に、そこで、一瞬だけ躊躇の色が浮かんだのち、 「ここには本当に色々な人が居ます。  様々な世界から、過去未来問わず月が観測した全てが再現されています。  本当ならありえなかった筈の出来事や……出会いがあると思います」 その言葉には不思議な重さがあった。諭すのでもなく咎めるのでもなく、先行く道を見定めるかのような、不思議な重さが。 ルリははっとしてルーラーを見上げた。そしてその凛とした表情に何かを感じ取った。 「分かっていますよ」 だからこそ、ルリは笑って見せた。 この宇宙には星の数のほど出会いと別れがある。 ならきっと世界を駆ける『方舟』にだってあるのだろう。 「ここって私の記憶からも作られているんですよね?  なら、懐かしいものとか、ちょっとした同窓会みたいなのも期待してみます」   ルーラーは頷いた。 それで何かひと段落したのを感じた。 「じゃあ私は任務に戻ります。ルーラーさん、ご協力ありがとうございます」 「いえ。では、私もここで。  できれば――また会いましょう」 そう言ってルーラーは背を向けて、去って行った。 揺れる金の髪が朝陽を受け美しくきらめいた。それをルリは手を振って送り返す。 そうして彼女らの朝食の時間は終わった。 これから各々のなすべきことへともどっていくのだ。 『……それで、どうする』 「あ、ライダーさん」 不意にライダーの声が響いた。敵に発見されることを考えてか霊体化したままだ。 ルリは彼に対し、決めていた方針を口にした。 「そうですね。仕事に戻ります」 『聖杯戦争の調査のことか?』 「いえそうではなくて、私にもここでの生活が割り振られていたんですよね。  本日付で配属らしいんで、ちょっと顔出しておこうかなと」 言ってルリは懐から自らの身分を証明するものを取り出した。 それはチョコレート色をした革の手帳だった。二つ折になっており、開くとそこにはルリの写真があった。 写真の下には光沢のあるエンブレムがある。星のようなマークの上に「POLICE」と書かれている。 「どうやら私、刑事みたいです。何でも本庁から配属された捜査官らしくて」 天才美少女捜査官、ホシノルリ。 彼女は齢若くしながらも、その類まれな頭脳から数々の難事件を解決に導いたのだという。 人呼んで警視の妖精。 そんな設定らしかった。 【B-8/町/一日目 早朝】 【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ~The prince of darkness】 [状態]:健康、魔力消費:微 [令呪]:残り三画 [装備]:無し [道具]:ペイカード、地図 [所持金]:富豪レベル(カード払いのみ) [思考・状況] 基本行動方針:『方舟』の調査。 1.職場(警察)に顔を出してみる。 [備考] ・ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。 ・NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。 【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】 [状態]:健康 [装備]:アーマーマグナム [道具]:無し [思考・状況] 基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。 1.ホシノ・ルリの護衛。 [備考] 無し。 【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】 [状態]:健康 [装備]:旗 [道具]:? 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