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**新しい朝が来た、戦争の朝だ ◆QyqHxdxfPY ---- ピピピピピピピピ。 「…んん…ん~~~~……………」 カーテンの隙間から射す日差しが顔に掛かる。 煩わしさと共に耳に入ったのは目覚ましのアラーム音。 マスターであることを感付かれない為にも学園には通わなくてはならない。 故に彼女は目覚ましと共に朝を迎える。 「…もうちょっと………もちょっとだけ……」 ピピピピピピピピ。 鳴り響くアラーム音を無視して枕に顔を埋める。 人間の三大欲求の一つを担うのは睡眠欲と言われる。 己の欲望に忠実な彼女は目覚ましを無視する。 まだ眠い。二度寝がしたい。 「んーーーーー……………」 ピピピピピピピピ。 だが、目覚ましはそんな彼女の意思など知らない。 少女を起こさんとする無慈悲なアラームが鳴り響く。 五月蝿い。 鬱陶しい。 喧しい。 寝れる筈が無い。 ピピピピピピピピ。 「……うるさー、いっ!!」 流石にイラッときた。 だらしなく振り下ろした拳が目覚ましのスイッチを叩く。 腹を括った少女は一日の始まりを受け入れたのだ。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ―――――『7時になりました。朝のニュースです』 「…あれ?」 武智乙哉がマスターになってから初めて迎える朝。 彼女は眠気と戦いながら月海原の制服に着替え、髪を纏め、リビングへと顔を出した。 その時に彼女は気付く。リビングのテレビの電源が既に付いているのだ。 交通事故だの、殺人事件だの、ありきたりなニュースが流れている。 方舟の中でも日々の事件は現実と代わり映えがしない。 というより、誰がテレビを付けたのだろうか。 彼女はアルバイトと親からの仕送りによってこの小さなマンションで暮らしている身だ。 他に誰かが住んでいる筈は――― いや、もう一人いた。 久しいまともな朝食の香りが乙哉の嗅覚を刺激する。 「おはよー、アサシンー」 「ああ、おはようマスター」 武智乙哉のサーヴァント、アサシンこと吉良吉影。 彼は実体化し、リビングに隣接したキッチンに向かっていた。 スーツの上からエプロンを身に着け、小慣れた手つきで朝食を作っていたのである。 「あれ、アサシンが朝ご飯作ってくれたの?」 「暇だったからな。それに、サーヴァントとて食事を楽しむことは出来る。  不要と言えば不要だけどね。…あぁ、目玉焼きは完熟のが良かったかい?」 「いやいや、あたし半熟で大丈夫だよー♪」 さっとテーブルの上に朝食が並べられる。 よく焼き上げられたパンに野菜やハム、チーズ等を挟んだサンドイッチ。 付け合わせに半熟の目玉焼きとウインナー。 所謂パン食である。 おぉ、と感心したような表情と共に乙哉が食卓の椅子に腰掛ける。 それに続いて吉良もまた乙哉と向かい合う形で椅子に座ったが。 「…………」 「どうかしたか?」 ふと、乙哉にじっと顔を見つめられていることに気付く。 吉良は少し疑問に抱いた様子で自らのマスターに問いかける。 少しの沈黙の後、ニコッと乙哉の顔に笑みが浮かぶ。 「アサシン、なんだかお父さんみたいだねー」 「…止してくれ」 乙哉からの一言を耳にし、吉良はやや不愉快そうに言う。 なりたくもない父親になった時のことを一瞬だけ思い出した。 尤も、確かにやっていることは主夫同然ではあるが。 両手を合わせ、食事の前の挨拶を済ませた乙哉が真っ先にサンドイッチを齧る。 一口の味を楽しみ、その表情をうっとりと綻ばせる。 咀嚼と共に口の中に広がったのは紛れもない美味。 普段の適当な軽食とは違う確かな味わいが彼女の味覚を満たしていた。 「………」 サンドイッチに手をつける乙哉を眺めつつ、吉良もまた朝食を取っていた。 いつも通りの食事。出勤前、毎日自分で作っていた手料理。 思えば、こういった食の楽しみは久しぶりだ。 食事を楽しめる。自分の趣味に興じれる。社会人として普通に生きられる。 そんな『当たり前の日常』こそが人間にとって最大の幸福だ。少なくとも吉良はそう考えている。 この戦争は、それを取り戻す為の闘い――――少しだけ眼を閉じた後、吉良は乙哉に声をかけた。 「さて、マスター」 「出かける前に一つ言っておきたい。  日中から仕掛けられる可能性は低いとは思うが…もしも出先で敵マスターと遭遇した際には、」 「んっ…『敵対は避けろ』でしょ?…ごくっ。  そりゃあこっちが一人の時にサーヴァントでも呼ばれたらたまったものじゃないしね。  マスターが魔術師か何かだったらもっとヤバいし。それにさ、アサシンのクラスって正面対決や護衛は苦手なんだよね?」 もぐもぐと食事を咀嚼し飲み込みながら乙哉が喋り出す。 先程までの暢気な歓談とは違う、聖杯戦争に参加するマスターとサーヴァントとしての会話だ。 「その通りだ…私の能力はマスターの守護には向いていないし、英雄と正面から渡り合える程の武勇もない。  特にセイバー、ランサー、アーチャーの三騎士と真っ正面から戦うのは可能な限り避けたいものだ。  …最悪のパターンは、マスター殺しに最適なアサシンに目を付けられる場合だがね」 吉良が警戒するのは外出中にマスターが狙われる場合。 NPCの被害が考慮され、敵マスターに情報が割り当てられる可能性が高い日中に仕掛けられるチームは早々いない筈だ。 しかし万が一の場合もある。何らかの策を講じている連中か、あるいは戦略も秘匿もへったくれもない連中か。 あるいはマスター自ら襲撃しに来る可能性。『日中は戦闘が起こらない』というセオリーを破る参加者がいるかもしれない。 可能性は低いと考えつつも、神経質とも言える吉良の心理はそれらを少なからず危惧していた。 尤も、乙哉には吉良の「保身」スキルの効果が働くため自衛や逃走に有利な補正が与えられることも事実ではあるが。 「ま、どっちにせよあたしはサーヴァントは専門外。マスター相手も魔術師だったら厳しそうだねー。  もし襲われた時は令呪でも使ってアサシン呼ぶかも」 「…有事の際には可能な限り念話で連絡を頼みたいが、判断は君に任せる」 「りょーかいりょーかい、任せといて。あたしも令呪無駄遣いしないように頑張るからさ」 日中、乙哉がマスターであると悟られるのは避けたい。 それ故に今のところは登校時に同行しないことにした。 スキルや霊体化で誤魔化すことは出来るとは言え、それらを過信は出来ない。 だが、最悪の場合には自ら赴かざるを得ないだろう―――吉良はそう考える。 尤も乙哉も無能ではないことは理解している。 念話によるサポートも行うつもりではあるが、単身の彼女が上手く立ち回ってくれることも信じていた。 そうして他愛の無い日常会話の様に、二人は最低限の方針について語り合う。 暫しの時間の後に朝食を平らげ、一通りの身支度も終えた乙哉は玄関の前へと立つ。 そのまま懐から取り出した手の甲の令呪を隠す為の指ぬきグローブを着用。 何故指ぬきなのかと言うと「手袋よりハサミや携帯が扱いやすいから」とのことだ。 グローブを嵌めた後に足下の通学鞄を拾って肩にかけ、革靴を履き始める。 「詳しい会議は君が帰宅してからだ。登下校の際や学園でも警戒は怠らない様にしてくれ」 「言われなくても解って…あ、もうすぐバスの時間」 乙哉は自らの携帯を開き、現在の時刻を確認。 もうすぐ通学の為のバスが停車する時間であることに気付いたのだ。 そのせいか、少しばかり急ぐ様子を見せた。 そんな乙哉の姿を吉良は眺めていたが、不意に彼女がくるりと振り返る。 その直後、何の変哲もない『普通の学生』のようににこりと笑顔を浮かべた。 「じゃ、いってきまーすっ!」 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「………」 外出したマスターを見送った吉良は、一息吐いて宙を眺める。 (さて…) 彼が追憶するのはほんの数時間前の出来事。 昨夜、彼はマスターと共に数名のNPCを『魂喰い』した。 己のマスターは魔術師としての能力を持たない。故に宝具の安定した運用の為には魂喰いが不可欠。 無作為に狙ったため『手』は収穫出来ていないが、後々好みの手を探し出せばいいと考えている。 (如何にルーラーの眼を盗み、魂喰いを行い続けるか…。  私の保有スキルがあれば誤摩化すことは出来ると思うが、やはり限界もあるだろう) 魂喰いに関しての大きな問題、それはルーラーの監視だ。 少なくとも数名程の魂喰いは行えたが度を超えた殺戮はペナルティとなる。 最悪、大きな処罰も有り得るかもしれない。 如何に裁定者の監視を交い潜り、魂喰いを続けるか。 あるいは別の手段を探すか。 (それに、一体どれほどのチームが参加しているのか…どのようなサーヴァントが召還されているのか…そこも気になる所だな。  私達は連中が潰し合っている隙に漁父の利や闇討ちを狙えばいいが、問題はその戦術がどこまで通用するかだ。  こちらも背後から突かれる可能性はあるし、敵には歴戦の勇士や百戦錬磨の猛者も存在しているだろう。警戒しなければ…) 爪を噛みながら吉良は思考を続ける。 生前ならば『戦った所で負ける気はしない』という自負があった。 しかし此処での自分の実力は下位に位置するだろう。 これは歴戦の猛者が集う聖杯戦争。吉良は生前より異能力を持つとは言え、あくまで常人に過ぎないのだ。 故に敵への警戒は緩められない。敵の情報は自らの脚で動かぬ限り手に入らないだろう。 最低でも、現状で何人参加者がいるのか―――それは確実に知りたい。 故にルーラーによる12時の通達には必ず耳を傾けるつもりだ。 今後の行動や詳しい方針に関してもマスターが戻って以降話し合うつもりである。 積極的に動くか、消極的に潜むか、様子見か。ある程度互いに方針は固めておきたい。 それまではこの家で待機。少なくとも、偵察に赴くのは通達以降だ。 「………」 さて、暫くは少々暇になる。 これからどうしたものか――――思考を中断した吉良の視界に入ったのはテーブルの上の食器。 朝食を終え、汚れた食器が放置されている。 少しの凝視の後、吉良は己がやるべきことを決めた。 (…食器でも洗うか) 暫く適当に暇を潰していよう。 そういえば洗濯物もあっただろうか。 【B-6(南西)/市街地/1日目 早朝】 【武智乙哉@悪魔のリドル】 [状態]健康 [令呪]残り3画 [装備]月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ [道具]勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話 [所持金]普通の学生程度(少なくとも通学には困らない) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。 1.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。 2.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。 3.可憐な女性を切り刻みたい。 [備考] B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。 バイトと仕送りによって生計を立てています。 月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。 【B-6(南西)/マンション(1F 武智乙哉の住居)/1日目 早朝】 【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。 1.暫くは家の中で適当に暇を潰す。 2.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。 3.女性の美しい手を切り取りたい。 [備考] 魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。 保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。 ---- |BACK||NEXT| |032:[[凛然たる戦い]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|034:[[既視の剣]]| |030:[[ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|034:[[既視の剣]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |025:[[武智乙哉&アサシン]]|[[武智乙哉]]|:[[]]| |025:[[武智乙哉&アサシン]]|[[アサシン(吉良吉影)>吉良吉影]]|:[[]]|
*新しい朝が来た、戦争の朝だ ◆QyqHxdxfPY ピピピピピピピピ。 「…んん…ん~~~~……………」 カーテンの隙間から射す日差しが顔に掛かる。 煩わしさと共に耳に入ったのは目覚ましのアラーム音。 マスターであることを感付かれない為にも学園には通わなくてはならない。 故に彼女は目覚ましと共に朝を迎える。 「…もうちょっと………もちょっとだけ……」 ピピピピピピピピ。 鳴り響くアラーム音を無視して枕に顔を埋める。 人間の三大欲求の一つを担うのは睡眠欲と言われる。 己の欲望に忠実な彼女は目覚ましを無視する。 まだ眠い。二度寝がしたい。 「んーーーーー……………」 ピピピピピピピピ。 だが、目覚ましはそんな彼女の意思など知らない。 少女を起こさんとする無慈悲なアラームが鳴り響く。 五月蝿い。 鬱陶しい。 喧しい。 寝れる筈が無い。 ピピピピピピピピ。 「……うるさー、いっ!!」 流石にイラッときた。 だらしなく振り下ろした拳が目覚ましのスイッチを叩く。 腹を括った少女は一日の始まりを受け入れたのだ。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ―――――『7時になりました。朝のニュースです』 「…あれ?」 武智乙哉がマスターになってから初めて迎える朝。 彼女は眠気と戦いながら月海原の制服に着替え、髪を纏め、リビングへと顔を出した。 その時に彼女は気付く。リビングのテレビの電源が既に付いているのだ。 交通事故だの、殺人事件だの、ありきたりなニュースが流れている。 方舟の中でも日々の事件は現実と代わり映えがしない。 というより、誰がテレビを付けたのだろうか。 彼女はアルバイトと親からの仕送りによってこの小さなマンションで暮らしている身だ。 他に誰かが住んでいる筈は――― いや、もう一人いた。 久しいまともな朝食の香りが乙哉の嗅覚を刺激する。 「おはよー、アサシンー」 「ああ、おはようマスター」 武智乙哉のサーヴァント、アサシンこと吉良吉影。 彼は実体化し、リビングに隣接したキッチンに向かっていた。 スーツの上からエプロンを身に着け、小慣れた手つきで朝食を作っていたのである。 「あれ、アサシンが朝ご飯作ってくれたの?」 「暇だったからな。それに、サーヴァントとて食事を楽しむことは出来る。  不要と言えば不要だけどね。…あぁ、目玉焼きは完熟のが良かったかい?」 「いやいや、あたし半熟で大丈夫だよー♪」 さっとテーブルの上に朝食が並べられる。 よく焼き上げられたパンに野菜やハム、チーズ等を挟んだサンドイッチ。 付け合わせに半熟の目玉焼きとウインナー。 所謂パン食である。 おぉ、と感心したような表情と共に乙哉が食卓の椅子に腰掛ける。 それに続いて吉良もまた乙哉と向かい合う形で椅子に座ったが。 「…………」 「どうかしたか?」 ふと、乙哉にじっと顔を見つめられていることに気付く。 吉良は少し疑問に抱いた様子で自らのマスターに問いかける。 少しの沈黙の後、ニコッと乙哉の顔に笑みが浮かぶ。 「アサシン、なんだかお父さんみたいだねー」 「…止してくれ」 乙哉からの一言を耳にし、吉良はやや不愉快そうに言う。 なりたくもない父親になった時のことを一瞬だけ思い出した。 尤も、確かにやっていることは主夫同然ではあるが。 両手を合わせ、食事の前の挨拶を済ませた乙哉が真っ先にサンドイッチを齧る。 一口の味を楽しみ、その表情をうっとりと綻ばせる。 咀嚼と共に口の中に広がったのは紛れもない美味。 普段の適当な軽食とは違う確かな味わいが彼女の味覚を満たしていた。 「………」 サンドイッチに手をつける乙哉を眺めつつ、吉良もまた朝食を取っていた。 いつも通りの食事。出勤前、毎日自分で作っていた手料理。 思えば、こういった食の楽しみは久しぶりだ。 食事を楽しめる。自分の趣味に興じれる。社会人として普通に生きられる。 そんな『当たり前の日常』こそが人間にとって最大の幸福だ。少なくとも吉良はそう考えている。 この戦争は、それを取り戻す為の闘い――――少しだけ眼を閉じた後、吉良は乙哉に声をかけた。 「さて、マスター」 「出かける前に一つ言っておきたい。  日中から仕掛けられる可能性は低いとは思うが…もしも出先で敵マスターと遭遇した際には、」 「んっ…『敵対は避けろ』でしょ?…ごくっ。  そりゃあこっちが一人の時にサーヴァントでも呼ばれたらたまったものじゃないしね。  マスターが魔術師か何かだったらもっとヤバいし。それにさ、アサシンのクラスって正面対決や護衛は苦手なんだよね?」 もぐもぐと食事を咀嚼し飲み込みながら乙哉が喋り出す。 先程までの暢気な歓談とは違う、聖杯戦争に参加するマスターとサーヴァントとしての会話だ。 「その通りだ…私の能力はマスターの守護には向いていないし、英雄と正面から渡り合える程の武勇もない。  特にセイバー、ランサー、アーチャーの三騎士と真っ正面から戦うのは可能な限り避けたいものだ。  …最悪のパターンは、マスター殺しに最適なアサシンに目を付けられる場合だがね」 吉良が警戒するのは外出中にマスターが狙われる場合。 NPCの被害が考慮され、敵マスターに情報が割り当てられる可能性が高い日中に仕掛けられるチームは早々いない筈だ。 しかし万が一の場合もある。何らかの策を講じている連中か、あるいは戦略も秘匿もへったくれもない連中か。 あるいはマスター自ら襲撃しに来る可能性。『日中は戦闘が起こらない』というセオリーを破る参加者がいるかもしれない。 可能性は低いと考えつつも、神経質とも言える吉良の心理はそれらを少なからず危惧していた。 尤も、乙哉には吉良の「保身」スキルの効果が働くため自衛や逃走に有利な補正が与えられることも事実ではあるが。 「ま、どっちにせよあたしはサーヴァントは専門外。マスター相手も魔術師だったら厳しそうだねー。  もし襲われた時は令呪でも使ってアサシン呼ぶかも」 「…有事の際には可能な限り念話で連絡を頼みたいが、判断は君に任せる」 「りょーかいりょーかい、任せといて。あたしも令呪無駄遣いしないように頑張るからさ」 日中、乙哉がマスターであると悟られるのは避けたい。 それ故に今のところは登校時に同行しないことにした。 スキルや霊体化で誤魔化すことは出来るとは言え、それらを過信は出来ない。 だが、最悪の場合には自ら赴かざるを得ないだろう―――吉良はそう考える。 尤も乙哉も無能ではないことは理解している。 念話によるサポートも行うつもりではあるが、単身の彼女が上手く立ち回ってくれることも信じていた。 そうして他愛の無い日常会話の様に、二人は最低限の方針について語り合う。 暫しの時間の後に朝食を平らげ、一通りの身支度も終えた乙哉は玄関の前へと立つ。 そのまま懐から取り出した手の甲の令呪を隠す為の指ぬきグローブを着用。 何故指ぬきなのかと言うと「手袋よりハサミや携帯が扱いやすいから」とのことだ。 グローブを嵌めた後に足下の通学鞄を拾って肩にかけ、革靴を履き始める。 「詳しい会議は君が帰宅してからだ。登下校の際や学園でも警戒は怠らない様にしてくれ」 「言われなくても解って…あ、もうすぐバスの時間」 乙哉は自らの携帯を開き、現在の時刻を確認。 もうすぐ通学の為のバスが停車する時間であることに気付いたのだ。 そのせいか、少しばかり急ぐ様子を見せた。 そんな乙哉の姿を吉良は眺めていたが、不意に彼女がくるりと振り返る。 その直後、何の変哲もない『普通の学生』のようににこりと笑顔を浮かべた。 「じゃ、いってきまーすっ!」 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「………」 外出したマスターを見送った吉良は、一息吐いて宙を眺める。 (さて…) 彼が追憶するのはほんの数時間前の出来事。 昨夜、彼はマスターと共に数名のNPCを『魂喰い』した。 己のマスターは魔術師としての能力を持たない。故に宝具の安定した運用の為には魂喰いが不可欠。 無作為に狙ったため『手』は収穫出来ていないが、後々好みの手を探し出せばいいと考えている。 (如何にルーラーの眼を盗み、魂喰いを行い続けるか…。  私の保有スキルがあれば誤摩化すことは出来ると思うが、やはり限界もあるだろう) 魂喰いに関しての大きな問題、それはルーラーの監視だ。 少なくとも数名程の魂喰いは行えたが度を超えた殺戮はペナルティとなる。 最悪、大きな処罰も有り得るかもしれない。 如何に裁定者の監視を交い潜り、魂喰いを続けるか。 あるいは別の手段を探すか。 (それに、一体どれほどのチームが参加しているのか…どのようなサーヴァントが召還されているのか…そこも気になる所だな。  私達は連中が潰し合っている隙に漁父の利や闇討ちを狙えばいいが、問題はその戦術がどこまで通用するかだ。  こちらも背後から突かれる可能性はあるし、敵には歴戦の勇士や百戦錬磨の猛者も存在しているだろう。警戒しなければ…) 爪を噛みながら吉良は思考を続ける。 生前ならば『戦った所で負ける気はしない』という自負があった。 しかし此処での自分の実力は下位に位置するだろう。 これは歴戦の猛者が集う聖杯戦争。吉良は生前より異能力を持つとは言え、あくまで常人に過ぎないのだ。 故に敵への警戒は緩められない。敵の情報は自らの脚で動かぬ限り手に入らないだろう。 最低でも、現状で何人参加者がいるのか―――それは確実に知りたい。 故にルーラーによる12時の通達には必ず耳を傾けるつもりだ。 今後の行動や詳しい方針に関してもマスターが戻って以降話し合うつもりである。 積極的に動くか、消極的に潜むか、様子見か。ある程度互いに方針は固めておきたい。 それまではこの家で待機。少なくとも、偵察に赴くのは通達以降だ。 「………」 さて、暫くは少々暇になる。 これからどうしたものか――――思考を中断した吉良の視界に入ったのはテーブルの上の食器。 朝食を終え、汚れた食器が放置されている。 少しの凝視の後、吉良は己がやるべきことを決めた。 (…食器でも洗うか) 暫く適当に暇を潰していよう。 そういえば洗濯物もあっただろうか。 【B-6(南西)/市街地/1日目 早朝】 【武智乙哉@悪魔のリドル】 [状態]健康 [令呪]残り3画 [装備]月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ [道具]勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話 [所持金]普通の学生程度(少なくとも通学には困らない) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。 1.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。 2.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。 3.可憐な女性を切り刻みたい。 [備考] B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。 バイトと仕送りによって生計を立てています。 月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。 【B-6(南西)/マンション(1F 武智乙哉の住居)/1日目 早朝】 【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。 1.暫くは家の中で適当に暇を潰す。 2.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。 3.女性の美しい手を切り取りたい。 [備考] 魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。 保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。 ---- |BACK||NEXT| |032:[[凛然たる戦い]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|034:[[既視の剣]]| 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