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「凛然たる戦い」(2014/08/20 (水) 22:26:30) の最新版変更点
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*凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA
月と街灯の弱い光が照らす夜道を、言峰綺礼は歩いていた。
ただ夜風に当たりたかっただけではない。
聖杯戦争が開始された。最後の一組になるまで行われるバトルロワイヤルだ。隠れ続けるのも一つの作戦だろう。
しかし、今は身体、魔力、令呪、サーヴァント、全て万全の状態だ。今の内に情報収集を行い、敵となるマスターやサーヴァントの情報を得られれば、後々役に立つだろう。
その為、野外に出て散策を行っているのだ。
「キレイ、一ついいだろうか」
霊体化して同行しているセイバー、オルステッドから声を掛けられる。
いちいち確認を取る辺り、オルステッドの律儀さや几帳面さ、あるいは融通の効かなさが垣間見れる。
「何だ?」
「ここから南西に300mの位置、公園の入り口に強い『憎悪』を感じる」
「宝具の力か」
『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』
オルステッドを、魔王オディオと化すセイバーの最終宝具。その完全解放は綺礼とオルステッドの全魔力、令呪三画を持ち得ても使用不可能だと言うことも聞かされている。
そして、その宝具の一部の力を使い、負の感情や記憶に反応する能力は使用していることも。
だが。
「それで、それがどうしたと言うのだ? それがマスターやサーヴァントとは限るまい」
「確かに、誰もが『憎しみ』と呼ばれる感情を持つ。だが、この聖杯戦争においてNPCは平凡な日常生活を行わさせられている。ここまで強い『憎悪』はマスターかサーヴァントでしかたり得ないと判断した」
「なるほど……」
この街は聖杯戦争の為に『方舟』が用意したものだ。唐突にNPC同士が殺し合いを始め、その流れ弾でマスターが死んでしまう……等という展開は余り好ましくないはず。
ならば、NPCが戦いの火ダネとなる強い『憎しみ』を抱いているはずはない、と言うのがオルステッドの推論である。
「一理あるな。では、そちらに向かってみよう」
仮に推論が外れたとしても、大きなリスクはない。オルステッドの助言を聞き入れ、足を公園へと向ける。
「ところで、セイバー。その宝具でどこまで探知できる?」
「魔力のある限り、としか言えない。だが、私の魔力はそう強くない。時を超えることは無理だ。この街全てを把握しようとすれば、令呪一画分の補助は必要だと思われる」
「ふむ」
オルステッドは生前、太古の昔からはるかなる未来まで、時代や場所の垣根を越えて『憎悪』を探り当て、力を与えたと言われる。底知れぬが、逆に大食らいな宝具とも言える。
そして、負担にならない程度の魔力消費量で常時稼働させたときの探知範囲が300m程なのだろう。相手がアーチャーの場合、その範囲外から攻撃を仕掛けてくることも可能であるし、相手が強い『憎悪』を持ち得ているとは限らない。
センサーとしては頼り過ぎるには、やや不安が残る。しかし、この感知能力はアドバンテージに成りうる。
「悪くはないな」
綺礼は今後の戦略を練りながら、歩を進めた。
◆
『方舟』が用意した公園。それはジャングルジムや滑り台などの遊具、木製のベンチに街灯……日本の公園らしすぎる、特に意匠も無い公園だった。
それでも日中は子供達が遊びに来るであろうそこに居たのは、黒いバイザーとマントを身につけた男だった。オルステッドが指摘するまでもなくわかる。この男が強い『憎悪』の持ち主だと。
男は綺礼が視界に入るや否や、拳銃を突きつけた。互いの距離は公園の端と端で50mほど。一足飛びに駆けるには、やや遠い。
「マスターか?」
「……そうだ」
男の問いに正直に答えるかどうか一瞬迷ったが、正直に答えた。その問いをすると言うことは、男は紛うことなくNPCに非ず。故に、否定したとしてもすぐにばれる薄っぺらい嘘にしかならない。
「そうか」
独り言のように呟くと、男は躊躇いもなく拳銃の引き金を引いた。月と街灯の弱い光の下ではマズルフラッシュがよく見えた。
オルステッドは即座に実体化すると、綺礼の前に立ち、剣を用いて銃弾を弾く。
「それがお前の英霊か」
男は先に英霊を出させた優越感か、唇を釣り上げる。そして左手を掲げ、声高らかに宣言する。
「こい、バーサーカー!!」
「■■■――――!!」
男の前に、咆吼をあげながらバーサーカー、ガッツが実体化する。
鉄塊と表現する方が正しい大剣を携え、禍々しい黒の鎧を身に纏った巨大な体躯の英霊。獣のような兜が、綺礼とオルステッドを睨み付ける。
「(まずい……セイバーにバーサーカーは相性が悪い)」
懐から黒鍵を三本取り出し、刀身を具現化させながら心の中で舌打ちをする。
即時撤退を視野に入れるが、それを指示するよりも早く、ガッツが動く。
「■■■――――!!」
「キレイ!」
大剣を振り上げながら、猪突猛進に綺礼達に襲いかかる。綺礼達との間に障害物は無く、例えあったとしても何の障害にもならず突き進んでくるだろう。
オルステッドが応戦するために前に出て駆ける。相性が悪いとは言え、撤退のタイミングを逃した以上、サーヴァントにはサーヴァントが応戦するしかない。
二騎のサーヴァントは剣を交えながら、少しずつ戦場をずらしていく。
「そこだ」
そして二人のマスターの射線が通ると、再び男は綺礼に向けて拳銃の引き金を引いた――
◆
オルステッドとガッツの相性は極めて悪い。致命的だと言っても良い。
ひとつ、『対英雄』
オルステッドの持つ保有スキルで、英雄的な英霊と戦う際、相手の英霊のパラメーターを1ランク下げる。これがオルステッドの持つ最大のアドバンテージの一つである。しかし、反英雄的な英霊や、狂人、悪人には効果がない。そして、ガッツは狂人だ。
ふたつ、宝具の差。
オルステッドは宝具として魔剣を持っている。だが、ランクがCであり、その能力も解錠、結界破壊に傾倒し、攻撃的な宝具ではない。対するガッツの『狂戦士の甲冑』 はランクBであり、攻撃を通すのも容易くない。さらに、オルステッドには防具となる宝具は無い。
最後に、パラメーターの差。
バーサーカーとして現界し、さらに狂化のスキルで強化されたガッツのスペックに、オルステッドは圧倒的に負けている。
故に。
「■■■――――!!」
オルステッドが地を這うのは、戦う前から明白であった。
「ぐっ」
身体を起こそうとして、脱臼した左肩の痛みに顔をしかめる。鉄塊の暴風と表現すべき攻撃は全てブライオンで受けて直撃は無いものの、遊具や地面に身体を何度も叩きつけられた。身体はきしみ、金色の髪の一房が赤く染まっていく。
対するガッツは無傷。何度か直撃を入れたが、甲冑にヒビ一つ付かない。それどころか、攻撃を通らないことを察したのか防御を捨て、全力で攻撃に費やしてきた。
令呪でオルステッドをブーストしたところで、勝機があるかどうかも分からない。
「人の心は弱く脆い……」
それはオルステッドが身をもって知ったこと。
だから、折れた心の刃は脆い。
故に。
「だが、私は信じると決めたのだ! マスターを!!」
だからこそ、折れぬ心の刃は強いのだと。
勝機無き相手に対しても、戦え抜けると。
オルステッドは地を踏みしめ、剣を構えた。
「■■■――――!!」
狂戦士は立ち上がり、戦意を見せる勇者に何も思うことなく、鉄塊を掲げるように振り上げ――
「バーサーカー!!」
――背を向け、駆けだした。
◆
黒衣の男、テンカワ・アキトは23歳だ。
彼は妻との新婚旅行出発の際に妻と共に「火星の後継者」に拉致された。そして救出された後、彼は妻を取り返すために体術等の訓練を積んだ。厳しい訓練を血が滲むような努力を復讐心で成し遂げ、一級として使えるまでに成長した。
しかし、それでもわずか数年。
十年以上、聖堂教会の代行者として数々の死徒や悪魔憑き、魔術師を葬り去ってきた綺礼にとっては、付け焼き刃でしかない。
アキトは綺礼との射線が通ると、拳銃の引き金を引いた。
綺礼は弾丸を避けた。
「なに……?」
その余りにも容易く行われる行為に、アキトは動揺を覚える。
綺礼は黒鍵を手に構え、駆け出す。
再び鳴る銃声。二発、三発。
それをかわし、または黒鍵で受け流す。銃弾に恐れることなく、真っ直ぐアキトに向けて走る。
綺礼の右手から黒鍵が投擲される。
動揺が身体を支配し、避けられないと悟ったアキトはとっさに左腕で顔を庇う。
熱さと痛みがアキトの左腕と左腿を襲う。それから即座に、綺礼の右足刀蹴りがアキトの胸に突き刺さる。突き刺さった三本の黒鍵を抜く暇も無かった。突風に煽られた枯れ葉のように吹き飛ばされていく。
「バーサーカー!!」
「■■■――――!!」
一人では勝ち目はないと、アキトはサーヴァントを呼ぶ。
マスターの声を受けたガッツは、オルステッドに背を向け綺礼を目指し駆けた。
「キレイ!!」
オルステッドの声が公園の闇を切り裂く。
意図は伝わっている。
綺礼は後ろに下がりながら、懐から取り出した黒鍵を投擲する――足を負傷し動けぬアキトに向けて。
「■■■――――!!」
マスターを失うとサーヴァントは現界出来ない。
狂化を受けても主従の関係を理解しているのだろう、ガッツは自身の腕で黒鍵を防いだ。
宝具である甲冑には黒鍵は刺さりもせず、金属音を鳴らして弾かれた。
「■■■――――!!」
そしてガッツが来た方向から飛んできた真空波も、大剣で防いだ。
オルステッドが放った真空の刃も、アキトを狙っている。ガッツはその方向に投げナイフを放つが、当たった気配はない。
綺礼とオルステッドは射線がちょうどVの字になるように遠距離攻撃をしつつ、距離を取って闇へと消えていく。ガッツはアキトの目の前で防衛に徹するしか無かった。
公園には、狂戦士と黒衣の男だけが取り残された。
◆
綺礼は路地裏に逃げ込むと、背を壁に委ねた。まだ緊張は解かない。
およそ数分後。霊体化したオルステッドが綺礼の元まで辿り着くと、実体化する。
「キレイ、先ほどと同じ憎悪の反応は無い。少なくとも、300m以上は離れたはずだ。もう少し魔力をつぎ込めばさらに捜索範囲を拡大できるが」
「いや、周囲に居ないと言うだけで十分だ」
黒鍵を服に収納し、一息付く。綺礼にとって、このぐらいの戦闘は準備運動でしかない。故に、呼吸が乱れた訳ではない。
実体化したオルステッドを目視する。
額には裂傷、血が流れて金色の髪が一部赤く染まっている。先ほどから左の二の腕を右手で押さえている。痛むほどの傷を負ったのだろう。左肩も脱臼している。
「危ないところだった。一番会ってはいけない相手に一番最初に遭遇するとはな」
「すまない、キレイ」
「謝る必要はない。令呪の損失も無く切り抜けたのは申し分無い成果だ。それに、セイバーの感知能力を使えば、同じ相手に正面から当たることも無くなるだろう。悪くはない」
申し訳なさそうに項垂れるオルステッドにそう言って宥める。事実、オルステッドにとっての天敵をマーク出来たのは、十分な成果である。
もし、オルステッドが負傷した時に出会っていたら、もっと酷い損害になっていただろう。万全の時に会えたのは、不幸中の幸いだ。
「セイバーがバーサーカーをマスターから遠ざけて、時間稼ぎをしてくれたからこそだ。感謝する」
感謝の言葉を述べると、オルステッドは澄んだ瞳で綺礼を見つめ返す。
「私はキレイ、あなたを信じると決めた。だから、その為に全力を尽くす。それだけだ」
オルステッドのその瞳を見て、その言葉を聞いた綺礼は――
――私が裏切ることによってその瞳が濁ったら、どれだけ美しいことだろうか――
「……セイバー。霊体化し、身体を癒すことに専念してくれ。この状態で敵と遭遇した場合、令呪による治癒も考える」
沸き立った感情を良識で握りつぶし、苦虫を噛みしめたような声で呟いた。
オルステッドが霊体化したのを確認すると、歯を食いしばり、壁を殴りつけた。
【B-8/公園北の住宅街/1日目 未明】
【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康、魔力消費(微)
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵
[道具]特に無し。
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.オルステッドが治癒するまで身を潜める。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
[備考]
・バーサーカー(ガッツ)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。
【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】
[状態]額裂傷、左腕二の腕の骨にヒビ、左肩脱臼、全身打撲、魔力消費(微)
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.霊体化し、治癒に専念する。
[備考]
・半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
・アキトの『憎悪』を特定済み。
◆
公園から少し離れた草むらの中で、アキトは身を潜めていた。
左腕と左腿に刺さった黒鍵を抜くと、予めコンビニから手に入れたガーゼを当て、包帯を巻く。
ガッツは手伝ってくれない。一人で行った。
「……」
無言で地面を殴りつける。
アキトは怒りを覚えていた。
綺礼とオルステッドにではない。
自分にだ。
先の戦闘は勝てた戦いだった。
『慢心』と『出し惜しみ』。その二つで痛み分けという結果になった。
一つ、己より強いマスターが居ないと過信してたこと。拳銃と体術、そのアドバンテージがあるからと慢心していた。
二つ、道具の出し惜しみしていたこと。
拳銃はNPC時代に手に入れたCZ75B。アキトからすれば骨董品だが、使用には問題がない。しかし、替えのマガジンが無く、現在装弾されている10発しか無い。コンビニでは売ってないので、どこかで手に入れなくてはやや不安が残る。
そしてもう一つ、温存していた物がある。ズボンのポケットに手を入れて、中に入れてあったものを取り出す。
――チューリップクリスタル。
テンカワ・アキトはA級ジャンパーである。
A級ジャンパーとは、生身でボソンジャンプが行える人間のことである。
ボソンジャンプとは一種の瞬間移動、正確には時空間移動のことで、その為には演算ユニットとチューリップクリスタルが必要である。
演算ユニットは手元になくても、『方舟』の外であっても、『どこか』に存在すればいい。そして、演算ユニットが『どこか』にあることは確認済みである。
チューリップクリスタルはボソンジャンプをするための消耗品である。
平たく言うと、テンカワ・アキトは瞬間移動をすることが出来、その為に必要なチューリップクリスタルを手にしている。
2つ。
そう、『2つ』だけなのだ。
こちらは銃弾のようにコンビニどころか、『方舟』の中をひっくり返しても存在するかどうか分からない。
令呪と同等の、それ以上の切り札となりうる存在。
だが、先の戦闘で、この切り札を切れば――ボソンジャンプしてアキトが安全な所に移動し、ガッツに戦闘を任せれば、痛み分けなどという結果ではなく、勝利をもぎ取れたはずだ。
それを『まだ序盤だから』『2つしか無いから』等と言う躊躇いと、『銃弾を避ける常人ならざるマスター』に動揺したせいで、このような結果を招いてしまったのだ。
それがもの凄く、憎い。
己が憎い。
ユリカをむざむざと拉致させた自分の非力さは、今もなんら変わってはいない。
己の中の『憎しみ』が、どす黒く、強くなっていくのを感じる。
「――」
いつの間に実体化したのか、無傷のガッツがアキトを見下ろしていた。
「大丈夫だ。今度はしくじらないさ……」
アキトは自戒を独り言のように呟きながら、拳を強く握りしめた。
【B-8/公園/1日目 未明】
【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、疲労(小)、魔力消費(小)、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.次こそは勝利のために躊躇わない。
[備考]
・セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
・演算ユニットの存在を確認済み。
【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
・特になし。
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|BACK||NEXT|
|031:[[せんそうびより]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|033:[[新しい朝が来た、戦争の朝だ]]|
|031:[[せんそうびより]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|035:[[働け]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
|001:[[言峰綺礼・セイバー]]|[[言峰綺礼]]&セイバー([[オルステッド]])|:[[]]|
|028:[[テンカワ・アキト&バーサーカー]]|[[テンカワ・アキト]]&バーサーカー([[ガッツ]])|050:[[主よ、我らを憐れみ給うな]]|
*凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA
月と街灯の弱い光が照らす夜道を、言峰綺礼は歩いていた。
ただ夜風に当たりたかっただけではない。
聖杯戦争が開始された。最後の一組になるまで行われるバトルロワイヤルだ。隠れ続けるのも一つの作戦だろう。
しかし、今は身体、魔力、令呪、サーヴァント、全て万全の状態だ。今の内に情報収集を行い、敵となるマスターやサーヴァントの情報を得られれば、後々役に立つだろう。
その為、野外に出て散策を行っているのだ。
「キレイ、一ついいだろうか」
霊体化して同行しているセイバー、オルステッドから声を掛けられる。
いちいち確認を取る辺り、オルステッドの律儀さや几帳面さ、あるいは融通の効かなさが垣間見れる。
「何だ?」
「ここから南西に300mの位置、公園の入り口に強い『憎悪』を感じる」
「宝具の力か」
『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』
オルステッドを、魔王オディオと化すセイバーの最終宝具。その完全解放は綺礼とオルステッドの全魔力、令呪三画を持ち得ても使用不可能だと言うことも聞かされている。
そして、その宝具の一部の力を使い、負の感情や記憶に反応する能力は使用していることも。
だが。
「それで、それがどうしたと言うのだ? それがマスターやサーヴァントとは限るまい」
「確かに、誰もが『憎しみ』と呼ばれる感情を持つ。だが、この聖杯戦争においてNPCは平凡な日常生活を行わさせられている。ここまで強い『憎悪』はマスターかサーヴァントでしかたり得ないと判断した」
「なるほど……」
この街は聖杯戦争の為に『方舟』が用意したものだ。唐突にNPC同士が殺し合いを始め、その流れ弾でマスターが死んでしまう……等という展開は余り好ましくないはず。
ならば、NPCが戦いの火ダネとなる強い『憎しみ』を抱いているはずはない、と言うのがオルステッドの推論である。
「一理あるな。では、そちらに向かってみよう」
仮に推論が外れたとしても、大きなリスクはない。オルステッドの助言を聞き入れ、足を公園へと向ける。
「ところで、セイバー。その宝具でどこまで探知できる?」
「魔力のある限り、としか言えない。だが、私の魔力はそう強くない。時を超えることは無理だ。この街全てを把握しようとすれば、令呪一画分の補助は必要だと思われる」
「ふむ」
オルステッドは生前、太古の昔からはるかなる未来まで、時代や場所の垣根を越えて『憎悪』を探り当て、力を与えたと言われる。底知れぬが、逆に大食らいな宝具とも言える。
そして、負担にならない程度の魔力消費量で常時稼働させたときの探知範囲が300m程なのだろう。相手がアーチャーの場合、その範囲外から攻撃を仕掛けてくることも可能であるし、相手が強い『憎悪』を持ち得ているとは限らない。
センサーとしては頼り過ぎるには、やや不安が残る。しかし、この感知能力はアドバンテージに成りうる。
「悪くはないな」
綺礼は今後の戦略を練りながら、歩を進めた。
◆
『方舟』が用意した公園。それはジャングルジムや滑り台などの遊具、木製のベンチに街灯……日本の公園らしすぎる、特に意匠も無い公園だった。
それでも日中は子供達が遊びに来るであろうそこに居たのは、黒いバイザーとマントを身につけた男だった。オルステッドが指摘するまでもなくわかる。この男が強い『憎悪』の持ち主だと。
男は綺礼が視界に入るや否や、拳銃を突きつけた。互いの距離は公園の端と端で50mほど。一足飛びに駆けるには、やや遠い。
「マスターか?」
「……そうだ」
男の問いに正直に答えるかどうか一瞬迷ったが、正直に答えた。その問いをすると言うことは、男は紛うことなくNPCに非ず。故に、否定したとしてもすぐにばれる薄っぺらい嘘にしかならない。
「そうか」
独り言のように呟くと、男は躊躇いもなく拳銃の引き金を引いた。月と街灯の弱い光の下ではマズルフラッシュがよく見えた。
オルステッドは即座に実体化すると、綺礼の前に立ち、剣を用いて銃弾を弾く。
「それがお前の英霊か」
男は先に英霊を出させた優越感か、唇を釣り上げる。そして左手を掲げ、声高らかに宣言する。
「こい、バーサーカー!!」
「■■■――――!!」
男の前に、咆吼をあげながらバーサーカー、ガッツが実体化する。
鉄塊と表現する方が正しい大剣を携え、禍々しい黒の鎧を身に纏った巨大な体躯の英霊。獣のような兜が、綺礼とオルステッドを睨み付ける。
「(まずい……セイバーにバーサーカーは相性が悪い)」
懐から黒鍵を三本取り出し、刀身を具現化させながら心の中で舌打ちをする。
即時撤退を視野に入れるが、それを指示するよりも早く、ガッツが動く。
「■■■――――!!」
「キレイ!」
大剣を振り上げながら、猪突猛進に綺礼達に襲いかかる。綺礼達との間に障害物は無く、例えあったとしても何の障害にもならず突き進んでくるだろう。
オルステッドが応戦するために前に出て駆ける。相性が悪いとは言え、撤退のタイミングを逃した以上、サーヴァントにはサーヴァントが応戦するしかない。
二騎のサーヴァントは剣を交えながら、少しずつ戦場をずらしていく。
「そこだ」
そして二人のマスターの射線が通ると、再び男は綺礼に向けて拳銃の引き金を引いた――
◆
オルステッドとガッツの相性は極めて悪い。致命的だと言っても良い。
ひとつ、『対英雄』
オルステッドの持つ保有スキルで、英雄的な英霊と戦う際、相手の英霊のパラメーターを1ランク下げる。これがオルステッドの持つ最大のアドバンテージの一つである。しかし、反英雄的な英霊や、狂人、悪人には効果がない。そして、ガッツは狂人だ。
ふたつ、宝具の差。
オルステッドは宝具として魔剣を持っている。だが、ランクがCであり、その能力も解錠、結界破壊に傾倒し、攻撃的な宝具ではない。対するガッツの『狂戦士の甲冑』 はランクBであり、攻撃を通すのも容易くない。さらに、オルステッドには防具となる宝具は無い。
最後に、パラメーターの差。
バーサーカーとして現界し、さらに狂化のスキルで強化されたガッツのスペックに、オルステッドは圧倒的に負けている。
故に。
「■■■――――!!」
オルステッドが地を這うのは、戦う前から明白であった。
「ぐっ」
身体を起こそうとして、脱臼した左肩の痛みに顔をしかめる。鉄塊の暴風と表現すべき攻撃は全てブライオンで受けて直撃は無いものの、遊具や地面に身体を何度も叩きつけられた。身体はきしみ、金色の髪の一房が赤く染まっていく。
対するガッツは無傷。何度か直撃を入れたが、甲冑にヒビ一つ付かない。それどころか、攻撃を通らないことを察したのか防御を捨て、全力で攻撃に費やしてきた。
令呪でオルステッドをブーストしたところで、勝機があるかどうかも分からない。
「人の心は弱く脆い……」
それはオルステッドが身をもって知ったこと。
だから、折れた心の刃は脆い。
故に。
「だが、私は信じると決めたのだ! マスターを!!」
だからこそ、折れぬ心の刃は強いのだと。
勝機無き相手に対しても、戦え抜けると。
オルステッドは地を踏みしめ、剣を構えた。
「■■■――――!!」
狂戦士は立ち上がり、戦意を見せる勇者に何も思うことなく、鉄塊を掲げるように振り上げ――
「バーサーカー!!」
――背を向け、駆けだした。
◆
黒衣の男、テンカワ・アキトは23歳だ。
彼は妻との新婚旅行出発の際に妻と共に「火星の後継者」に拉致された。そして救出された後、彼は妻を取り返すために体術等の訓練を積んだ。厳しい訓練を血が滲むような努力を復讐心で成し遂げ、一級として使えるまでに成長した。
しかし、それでもわずか数年。
十年以上、聖堂教会の代行者として数々の死徒や悪魔憑き、魔術師を葬り去ってきた綺礼にとっては、付け焼き刃でしかない。
アキトは綺礼との射線が通ると、拳銃の引き金を引いた。
綺礼は弾丸を避けた。
「なに……?」
その余りにも容易く行われる行為に、アキトは動揺を覚える。
綺礼は黒鍵を手に構え、駆け出す。
再び鳴る銃声。二発、三発。
それをかわし、または黒鍵で受け流す。銃弾に恐れることなく、真っ直ぐアキトに向けて走る。
綺礼の右手から黒鍵が投擲される。
動揺が身体を支配し、避けられないと悟ったアキトはとっさに左腕で顔を庇う。
熱さと痛みがアキトの左腕と左腿を襲う。それから即座に、綺礼の右足刀蹴りがアキトの胸に突き刺さる。突き刺さった三本の黒鍵を抜く暇も無かった。突風に煽られた枯れ葉のように吹き飛ばされていく。
「バーサーカー!!」
「■■■――――!!」
一人では勝ち目はないと、アキトはサーヴァントを呼ぶ。
マスターの声を受けたガッツは、オルステッドに背を向け綺礼を目指し駆けた。
「キレイ!!」
オルステッドの声が公園の闇を切り裂く。
意図は伝わっている。
綺礼は後ろに下がりながら、懐から取り出した黒鍵を投擲する――足を負傷し動けぬアキトに向けて。
「■■■――――!!」
マスターを失うとサーヴァントは現界出来ない。
狂化を受けても主従の関係を理解しているのだろう、ガッツは自身の腕で黒鍵を防いだ。
宝具である甲冑には黒鍵は刺さりもせず、金属音を鳴らして弾かれた。
「■■■――――!!」
そしてガッツが来た方向から飛んできた真空波も、大剣で防いだ。
オルステッドが放った真空の刃も、アキトを狙っている。ガッツはその方向に投げナイフを放つが、当たった気配はない。
綺礼とオルステッドは射線がちょうどVの字になるように遠距離攻撃をしつつ、距離を取って闇へと消えていく。ガッツはアキトの目の前で防衛に徹するしか無かった。
公園には、狂戦士と黒衣の男だけが取り残された。
◆
綺礼は路地裏に逃げ込むと、背を壁に委ねた。まだ緊張は解かない。
およそ数分後。霊体化したオルステッドが綺礼の元まで辿り着くと、実体化する。
「キレイ、先ほどと同じ憎悪の反応は無い。少なくとも、300m以上は離れたはずだ。もう少し魔力をつぎ込めばさらに捜索範囲を拡大できるが」
「いや、周囲に居ないと言うだけで十分だ」
黒鍵を服に収納し、一息付く。綺礼にとって、このぐらいの戦闘は準備運動でしかない。故に、呼吸が乱れた訳ではない。
実体化したオルステッドを目視する。
額には裂傷、血が流れて金色の髪が一部赤く染まっている。先ほどから左の二の腕を右手で押さえている。痛むほどの傷を負ったのだろう。左肩も脱臼している。
「危ないところだった。一番会ってはいけない相手に一番最初に遭遇するとはな」
「すまない、キレイ」
「謝る必要はない。令呪の損失も無く切り抜けたのは申し分無い成果だ。それに、セイバーの感知能力を使えば、同じ相手に正面から当たることも無くなるだろう。悪くはない」
申し訳なさそうに項垂れるオルステッドにそう言って宥める。事実、オルステッドにとっての天敵をマーク出来たのは、十分な成果である。
もし、オルステッドが負傷した時に出会っていたら、もっと酷い損害になっていただろう。万全の時に会えたのは、不幸中の幸いだ。
「セイバーがバーサーカーをマスターから遠ざけて、時間稼ぎをしてくれたからこそだ。感謝する」
感謝の言葉を述べると、オルステッドは澄んだ瞳で綺礼を見つめ返す。
「私はキレイ、あなたを信じると決めた。だから、その為に全力を尽くす。それだけだ」
オルステッドのその瞳を見て、その言葉を聞いた綺礼は――
――私が裏切ることによってその瞳が濁ったら、どれだけ美しいことだろうか――
「……セイバー。霊体化し、身体を癒すことに専念してくれ。この状態で敵と遭遇した場合、令呪による治癒も考える」
沸き立った感情を良識で握りつぶし、苦虫を噛みしめたような声で呟いた。
オルステッドが霊体化したのを確認すると、歯を食いしばり、壁を殴りつけた。
【B-8/公園北の住宅街/1日目 未明】
【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康、魔力消費(微)
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵
[道具]特に無し。
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.オルステッドが治癒するまで身を潜める。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
[備考]
・バーサーカー(ガッツ)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。
【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】
[状態]額裂傷、左腕二の腕の骨にヒビ、左肩脱臼、全身打撲、魔力消費(微)
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.霊体化し、治癒に専念する。
[備考]
・半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
・アキトの『憎悪』を特定済み。
◆
公園から少し離れた草むらの中で、アキトは身を潜めていた。
左腕と左腿に刺さった黒鍵を抜くと、予めコンビニから手に入れたガーゼを当て、包帯を巻く。
ガッツは手伝ってくれない。一人で行った。
「……」
無言で地面を殴りつける。
アキトは怒りを覚えていた。
綺礼とオルステッドにではない。
自分にだ。
先の戦闘は勝てた戦いだった。
『慢心』と『出し惜しみ』。その二つで痛み分けという結果になった。
一つ、己より強いマスターが居ないと過信してたこと。拳銃と体術、そのアドバンテージがあるからと慢心していた。
二つ、道具の出し惜しみしていたこと。
拳銃はNPC時代に手に入れたCZ75B。アキトからすれば骨董品だが、使用には問題がない。しかし、替えのマガジンが無く、現在装弾されている10発しか無い。コンビニでは売ってないので、どこかで手に入れなくてはやや不安が残る。
そしてもう一つ、温存していた物がある。ズボンのポケットに手を入れて、中に入れてあったものを取り出す。
――チューリップクリスタル。
テンカワ・アキトはA級ジャンパーである。
A級ジャンパーとは、生身でボソンジャンプが行える人間のことである。
ボソンジャンプとは一種の瞬間移動、正確には時空間移動のことで、その為には演算ユニットとチューリップクリスタルが必要である。
演算ユニットは手元になくても、『方舟』の外であっても、『どこか』に存在すればいい。そして、演算ユニットが『どこか』にあることは確認済みである。
チューリップクリスタルはボソンジャンプをするための消耗品である。
平たく言うと、テンカワ・アキトは瞬間移動をすることが出来、その為に必要なチューリップクリスタルを手にしている。
2つ。
そう、『2つ』だけなのだ。
こちらは銃弾のようにコンビニどころか、『方舟』の中をひっくり返しても存在するかどうか分からない。
令呪と同等の、それ以上の切り札となりうる存在。
だが、先の戦闘で、この切り札を切れば――ボソンジャンプしてアキトが安全な所に移動し、ガッツに戦闘を任せれば、痛み分けなどという結果ではなく、勝利をもぎ取れたはずだ。
それを『まだ序盤だから』『2つしか無いから』等と言う躊躇いと、『銃弾を避ける常人ならざるマスター』に動揺したせいで、このような結果を招いてしまったのだ。
それがもの凄く、憎い。
己が憎い。
ユリカをむざむざと拉致させた自分の非力さは、今もなんら変わってはいない。
己の中の『憎しみ』が、どす黒く、強くなっていくのを感じる。
「――」
いつの間に実体化したのか、無傷のガッツがアキトを見下ろしていた。
「大丈夫だ。今度はしくじらないさ……」
アキトは自戒を独り言のように呟きながら、拳を強く握りしめた。
【B-8/公園/1日目 未明】
【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、疲労(小)、魔力消費(小)、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.次こそは勝利のために躊躇わない。
[備考]
・セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
・演算ユニットの存在を確認済み。
【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
・特になし。
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