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*せんそうびより ◆IbPU6nWySo れんげとアサシンが駆けている夜の街は田舎にはない異常な静けさを醸し出していた。 しかし、れんげは気に止めない。 彼女は周囲の建物ばかりに気を取られていた。 彼女の住む、のんびりのどなか村には決してないものに。 「夜なのにとっても明るいん……高いビルがみんな仲良く並んでるん」 チャンカチャンカと愉快そうなアサシンはそんなビルが並ぶ道をただ走るだけ。 ライオンの上にいるネズミのように、れんげはあるものに注目した。 それは崩壊したであろうビルだった。 今さっき崩壊したとは分からないだろうが、れんげは素通りしながら呟く。 「あのビルだけ可哀想なん。どうして倒れているのん?」 「れんちょんwwwwwここも誰もいないっすよーwwwww」 「都会は眠らない町じゃないんですか!?」 「眠らないwwwwwwwwそうっすねwwwwwww  明るいだけで取り得ないけどwwwwwwwwwwwwwwwwww」 そうしてしばらくまだ移動すると、れんげの視線の先に明るい建物があった。 れんげがハッと息を飲む。 「かっちゃん!あれ!!」 「アレってなんすかーwwwwwwwwwww」 「あれはまさか!ファミリーチェーンってやつですか!?」 「うはwwwwwwれんちょんwwwお子様ランチ初体験ワロスwwwwwwwww」 「お子様ランチにピーマン入っていますか!!!」 「はいwwww入ってません!!www大体wwwwwwwww」 「…あったら、かっちゃん。食べてくれるん?」 「モチのロンですよーwwwwwいつもそうして来たじゃなーいですかーwwwww」 発見したのは24時間営業のチェーン店である。 愉快な会話を終えて二人が足を運ぼうした時、足を止めたのはれんげを肩車していたアサシンだった。 二人の前に男が一人。 不敵に笑いながら姿を現した。 黒い髪、赤い瞳、人並より褐色のない白い肌、派手な赤いコート。 なにもかもが特徴的で視線を奪う。 カッツェ並に大男の姿をした化物――アーチャーことアーカードが言う。 「生憎、我が主は食事中だ。私が相手をしよう」 アーチャーは意気揚々と戦闘体勢であった。 一方のれんげというのは、まったくの警戒なしである。 そもそも、聖杯戦争というものを理解していない。 だからこそ彼女はアサシンに呼びかける。 「かっちゃん!降りるん!!」 「ん~?いいっすけど、どうするんすかー?」 「話聞くん!!」 「そうでしたねーwwwwwww  第一村人発見wwwww突撃インタビューwwwwワクテカですね!wwwwwww」 れんげがトコトコとやって来るがアーチャーは動かなかった。 というのもこれが彼のやり方だったし、クセのようなものだ。 化物であるアーチャーはたやすく化物を殺し、人間を殺すが、案外積極的ではない。 殺されたら殺すし、宣戦布告されれば戦争をする、命令されれば殺す。 それだけなのだ。 れんげは右手をゆっくりとかがげてから 「にゃんぱすー」 続けてアサシンも 「あwwwwどもwwwwにゃんぱすーwwwwwwwwwww」 「にゃん…ぱす…?」 どうにも魔術のような呪文でもないし、一見すればそれが挨拶だと分からないだろう。 アーチャーもキョトンとしていた。 れんげがアーチャーを見上げた瞬間、ただならぬ電流が走った。 「ハッ!この人!!」 「れんちょん?」 よく見たら! ……………すんごい、カッコイイ人だのん………… 「れんちょん?」 「……」 「れんちょーん」 「……あ!う、うち!宮内れんげ、です!!好きな食べ物はカレーと梅昆布茶で、嫌いな食べ物は…  嫌いな食べ物ないん、です!!ないんです!!!何でも良く噛んで食べます!!!!」 顔を真っ赤にしながら熱烈な自己紹介をしたれんげにアーチャーは沈黙していたが 水を差すようにアサシンが 「嘘でーすwwwwwwれんちょん、ピーマン嫌いでーすwwwwwwww」 「う、嘘じゃないのん!」 「嘘乙wwwwwwれんちょんのピーマン、ミィが食べてあげてまーすwwwwwww」 「嘘じゃないのん!う、嘘じゃないのん!!うう、かっちゃんのイジワルん!!!」 「嘘乙www嘘乙wwwwwwワロスワロスwwwwwwwwwww」 やかましい言い争いにアーチャーは続けていた沈黙を断ち切るかのように息を吐く。 凍てつく息の後から言葉を発した。 「闘争の空気ではないな」 「?」 「そこのお前は私と同じサーヴァントのはずだが」 ニィと口をつり上げてアサシンは聞かれてもいないのにこう答えた。 「イエース!アサシンのカッツェさん!ベルク・カッツェさん!!」 本来、真名を明かす事はサーヴァントにとっては致命的なことになりかねない。 だがあっさりと、アサシンはアーチャーの前で名乗った。 それは慢心か油断か故意か。バレても問題はなく、真名は大した意味を成さないのか。 アサシンの意図などアーチャーにとってはどうでもいい事である。 そして、アーチャーにとっても真名などどうでもよかった。 「ベルク・カッツェ。なるほど、私も例に倣おう。アーチャーのアーカードだ」 間接丁寧にアーチャーが返答すると、れんげがポカンとして。 「あ……あっちゃんって呼んでいいですか?」 「ところでれんげと言ったか」 「!!!!!!!!!」 再びれんげに衝撃走る! アーチャーの発した「れんげ」というキーワードが謎のエコーを続け、れんげの中に響き渡ったのであった。 それはある意味でれんげに精神的ダメージ(?)を与えている。 高鳴る胸を抑えつつ、れんげは慌てて返事をした。 「れれれれれ、れんちょんってよ、呼んで欲しいのん!!」 「れんげ、聖杯戦争をしにきたのだろう?私と戦争をしにきた」 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 梅干しのように赤面しながられんげは胸を押さえていた。 (人生の中で一番の強敵だのん!勝てないん!!胸が爆発しそうなん!!!) 逆にお前の人生はたかが数年程度だろう、という突っ込みをしてくれる者は残念ながらこの場に居合わせておらず。 れんげの状況は全く改善されていない。 無論、アーチャーの後半の言葉は馬の耳に念仏であった。 さすがのアーチャーも理解したのか、改めて問う。 「聖杯戦争をしにきたのだろう」 「!………せーはいせんそー……?」 「れんちょんれんちょんwwwwwそれ、ふぇすてぃばるんの正式名称ねwwwwwwwwwww」 「あっちゃんもふぇすてぃばるん参加してるん?」 アーチャーは何も語らない。 語らずともアサシンとはまた違う不敵な笑みを浮かべ、れんげは気づいていないが すでにジリジリと『影』を揺れ動かしている。 するとアサシンが言う。 「はいwwwwここでれんちょんに問題です!!デデンwwwwwwwwwwwwww  このふぇすてぃばるんは、どういうふぇすてぃばるんでしょーかー?wwwwwwwww  チッチッチッチッチッチッwwwwwwwwwww」 「………ハイ!ハイ!!」 「れんちょん、答えをどうぞ!」 「かっちゃんも得意な変装を競うのん!変装ふぇすてぃばるん!!!」 これにはアーチャーだけではなくアサシンも言葉を失った。 間を開けてからのちに 「オウフwwwwwwwwwwwwwれんちょんwwwwwwwwwwwww  ちょおまwwwwww予想外っすよーwwwwwwwwwwwwwww」 「え、違うん?」 「んーwwwwwwwwwwwwwwwwww  ま、いっか。面白そうなのでカッツェさん変装ふぇすてぃばるんしまーすwwwwwwwwwww」 宣言した瞬間、アサシンはアーチャーの目前で『宮内れんげ』に変身したのである。 まさに瓜二つ。 双子どころではなく、髪のクセから骨格の位置、細胞の一つ一つ、指紋や声帯まで『宮内れんげ』そのものだ。 アーチャーはアサシンの能力に関心をした。 吸血鬼の目を以てしても本当に区別がつかない。 思わず溜息を漏らした。 「ほう、素晴らしいな」 近くにいた本物の『宮内れんげ』と合流するとごちゃごちゃに入れ違う。 一見した人間であればまったく区別がつかないだろう。 この状態で 「はい!本物のれんちょんはどっちで「左」……早いんーーーーーーーーーーー!!!!」 「どうして分かったん!?なっつんもほたるんも皆かっちゃんの変装見破れなかったのん!!」 「目で追っていたからな」 バレてしまったのでアサシンは元に戻ったが子供らしい意地を持ったれんげが言う。 「次は見えないところでかっちゃん変装するん!そうすれば絶対分からないん!!」 「れんちょん、同じパターンじゃつまんなーいのでちょっと変えません?wwwwwww」 「どうするん?」 「そうっすねーwwww……たとえば」 刹那、アサシンの雰囲気が一変したのをアーチャーは見逃さなかった。 同時にアーチャーはアサシンと似たものを感じた事があると確証を得る。 しかし、それが『何か』はまるで見当がつかない。 あまりに遠く、薄れた感傷だからこそすぐに理解する事ができなかった。 ただ攻撃がくると理解する。 アーチャーが攻撃を受けようといつものように構えていた。 アサシンに体を掴まれる、否――不思議なくらいに甘い抱擁。 それからキスされるなどアーチャーには予想外だった。 ありのまま起こった事を話す…… 『腹が減ったんで食事をしていたらアーカードが二人に増えていた』 何を言っているかわからねーと思うが、俺にも分からねぇ。 頭がどうにかなりそうだ。 催眠術だとか八極拳だとか、そんなんじゃなく聖杯戦争のせいだろうが。 なんというか、気味が悪い。 「だからどういうことだ…」 ジョンス・リーはこの奇怪な光景に戦慄を通り越して呆れていた。 前述の通りアーチャーが二人いる。 服装から顔立ちまで瓜二つの双子のような存在がジョンスの前にいたのだ。 夜遅い時間に何故かいる子供――れんげがジョンスに気づくと声をかける。 「そこの人!どっちが本物だと思いますかっ」 「……」 そうだろうと思ったが本当にそういう奴…なのか……面倒だ… 面倒だしアーチャーの事なんてそんなに分からねぇし…はァ…… ジョンスにとって深く考える事は難儀である。 手っ取り早く分かる方法があれば、と自然にある事を思い出す。 ――そういえば我が主、基本的にサーヴァントに物理攻撃は通用しない。私は特別だ 「なるほどな。要するにぶっ飛ばせって事か」 「え!?な、なにするん!?」 「子供のお前にも分かりやすく教えてやるよ。八極拳を」 「は……八極拳…?」 ジョンスは臨戦態勢をとった。 腰を低く落とし、右手は軽く前に出して左手は引く。 独特なフォームと威圧感に子供のれんげにも何か起こることは一目瞭然であった。 さて、次はどっちを狙うかだが…… 右のアーチャーは不敵に笑う。 まるで攻撃されるのを望むかのような瞳でこちらを見つめている。 左のアーチャーも不敵に笑う。 それから―― 「キラリンッ☆」 攻撃するまでもなかった。 「右だろ」 「すごいん!どうして分かったん!?今度は入れ替わるところ見せてないん!!」 「いや、明らかにおかしいだろが。左」 「れんちょん分かりませんでした…」 一方で偽物のアーチャーがジョンスの前で変身を解いていた。 その姿はアーチャー並の長身、モジャモジャのクセが強そうな長い赤髪、耳まで裂けそうなニタリと笑う口。 まるで不思議な国にいる猫を思わせる派手な容姿に、ジョンスは少しだけ顔をしかめる。 本物のアーチャーは悠々とジョンスのところへ戻り。 「我が主、サーヴァントだがどうする?」 「…まさか」 あの子供… ジョンスは溜息をついた。 聖杯戦争なんて名ばかりでまさか子供がいるだなんて。 いや、子供にしても戦える子供ではなく、いかにも貧弱そうな少女なのだから希望も持てない。 しかもサーヴァントの方はヘンテコリンなものだ。 「戦うつもりあるのか…?」 「あるん!かっちゃんの変装すごいん!!かっちゃんよりすごい変装できないん!」 しかも話が斜め上に飛んでいる。 ジョンスに対してアーチャーはいたって真面目に「フム」と呟いてから 「変装というのは――これでもいいのかね」 一瞬にしてアーチャーが変貌したのは以前ジョンスにも見せた無精ひげの生やした歴戦の王の姿だ。 突然の変化にれんげは理解に時間がかかった。 我に返ってから驚く。 「お、おじいちゃんになったん!?」 「まじっすかー?wwwwwwwwwwww  あれれーwwwwwアーチャーですよねー?wwwwwwwww  クラス詐欺してません?wwwwwwwwwwwwwww」 「でも、かっちゃん女の子にもなれるん!!!」 「女の子というのはこうかね?お嬢ちゃん」 次にはジョンスも目を疑った。 アーチャーの姿は白い衣服を纏い、白いロシアン帽をかぶる、ロングヘアーの少女に変貌したのだから。 先ほどの男よりも全くアーチャーを思わせない姿に脱帽するしかない。 れんげも呆気に取られている。 「女の子になったんー!!!!!!」 「ははは!要するに引き分けってところさ、お嬢ちゃん。気がすんだかい?」 「ぐぬぬ」 「……おい、アーカード。お前」 「おっと我が主。この姿がお気に召したなら、この姿でいてやっても私は一方的に構わ――」 「気が狂うから早く戻れ」 「なんだつれないな」 むしろその気があったのか、とジョンスはしぶしぶ青年の姿に戻るアーチャーを見届けた。 それからアーチャーに聞く。 「ガキの遊びに付き合ってるのはなんだ」 「あちらが戦う気配を見せない」 ジョンスも思ったし、仕方ないとしてもまさか本当に戦意がないと言えるのだろうか? たとえばサーヴァント・アサシンの方は。 アサシンは聖杯戦争を理解しているはずだ。 生と死のやり取りと、血で争う聖戦であることは知っているはずだ。 もしかしたらジョンスたちの隙を伺っているのかもしれない。 だとしたらアーチャーが何もされていないのは…少々妙な気もする。 あの時のように、あえて攻撃を受けるアーチャーのままであれば可笑しさが加速する。 シラを切らしたジョンスはキャイキャイと騒いでいるれんげたちに声をかけた。 「おい、お前ら…本気で戦うつもりはねぇのか」 れんげは首を傾げたが、アサシン・カッツェの方はピタリと動きを止め、振り向いた。 目を覆う前髪の隙間から、不気味な瞳がジョンスを捉えている。 攻撃するのかとジョンスは体勢を取れる状態を保つ。 ニィっとアーチャーとは種類の違う笑みを浮かべてからアサシンはれんげに告げた。 「れんちょん、カッツェさん真面目なお話するけどいいっすかー?wwwwwwwwww」 「真面目なお話なん?」 「はーいwwwwwwwwww」 「…分かったん!」 れんげが落ち着きを見せたのを確認してから、アサシンは至って真面目に話しだす。 「ご無礼をお詫びします。改めて自己紹介いたしましょう。アーチャーのマスター。  アサシンのベルク・カッツェでございます」 「…戦うつもりなのか答えろ」 「いいえございません。ミィとしては我がマスターを保護したい所存です。  ミィにとっては我がマスターは大切な友人ですから」 「友人ねェ…」 「ですから、ミィはあなた方に協力いたします。その代わりミィのマスターを守って欲しいのです」 「……なんだと」 要するに同盟を組め、という事だ。 一応ヘラヘラとした先ほどの態度とは一変してなるべく生真面目に語っている事から この同盟要求は本気なのだろうとジョンスにも分かる。 分かる、のだが。 なんっつーんだ、この……胸糞悪い感じは… ジョンスが誰かと協力する事が主義ではない、のではない。 このただならぬ感覚が『何』なのか、ジョンスには分からなかった。 しかし、マスターと呼べるのは子供だ。 アサシンの言葉を疑う理由はない。 それでも…… ジョンスが思い悩んでいるとアーチャーがくくっと笑いを零した。 「お世辞はいらん。つまるところどうするつもりだ?」 静寂が訪れた。 ジョンスが反応した時には遅い。 いつの間にかアサシンはアーチャーの眼前まで来ていたのだ。 しかし攻撃することはなく、れんげには聞こえない程度の音量で面白おかしくアーチャーに囁きかけてきた。 「ミィはあなた方の望みを叶えてあげたいだけですよぉ  闘いたぁい、殺したぁい、弄って、刺されて、轢かれて、縛られて、傷つけあって。  血がみぁたい。真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!!…そぉでしょぉ?」 くっくっとアーチャーはまだ笑う。 それから童謡を語るかのように話を始めた。 「ようやく思い出した。私はお前のような男を知っている。  昔々あるところに狂った親衛隊(SS)の少佐がいた  『不死者たちの軍隊を作ろう 不死身の軍隊を作ろう』  膨大な血と狂気の果てにその無謀を成就しつつあった  だが 私とある『死神』がその計画を台無しにしてやった。  それでもなお 連中は心底あきらめなかった  誰も彼もが彼らを忘れ去り忘れ去ろうとした  だが連中は暗闇の底で執念深く  確実に存在してきた  ゆっくりとゆっくりとその枝葉を伸ばしながら」 吸血鬼の戦闘集団 不死身の人でなしの軍隊 シークフリートの再来 神話の軍勢 第三帝国 最後の敗残兵 『最後の大隊』 「あの少佐によく似ている」 「ミィをどこかの誰かと一緒にされるとちょっぴり心外ですねー  だが断るってことっすかぁー?」 「いいや、むしろ受けて立とう。戦争は好きだ、何度だってお前のようなものは滅ぼしてやろう。  私も楽しみだ。実に楽しみだ。…我が主はそうは思わないかもしれんが」 アーチャーはジョンスをチラリと見た。 ジョンスの表情は見えない。 が、ゆっくりと呼吸をしてから静かに口を開いた。 「なぁ…お前。お前みたいな奴が世間体でなんて言われるか……知ってるか?  反吐の出るクズ野郎だ」 「………あ?」 アサシンはらしくない威圧の籠った声を漏らすがジョンスは止まらない。 「お前みたいなのはよォ…大概、高見の見物して人を馬鹿にして、自分は悪くねェだの余裕ぶっこいてやがる。  つまりただの野次馬だ。本ッ当、胸糞悪い。お前みたいな典型的な奴がいるとは夢みたいだな。  お前はあの主催者の野郎と大差ねェ」 「あのぉー!話聞いてますぅー?ミィはお前らと手を組みたいって言ってるんすけどぉー!!  争いに来た訳じゃないんすけどぉー!!人の話聞いてますかぁー!?」 「お前こそ、俺の話聞いてたかクズ野郎」 ビキッと何かが切れる音がした。 両者の間に独特の雰囲気が流れる。 ジョンスはハッと音を発しながら身構えを取る。 「ようやく本性が出たか。いいぜ、来いよ」 「やめるん!!!」 ここで割り込んで来たのがれんげだった。 れんげはいつになく厳しい顔つきでジョンスの前に立ちはだかる。 「かっちゃん、いじめるの駄目なん!かっちゃんの悪口はうち許さないん!!」 「…」 「かっちゃんに謝るん!!」 ゴッ 幼い少女の頭に銃口がつきつけられた。 白い銃の持ち主は言うまでもなくアーチャー・アーカード。 ジョンスもアーチャーの行動に姿勢を緩める。 アーチャーは表情一つ変えずに淡々と語りかけた。 「我が主、殺すか?」 「………」 「私は微塵の躊躇もなく 一片の後悔もなく鏖殺できる  この私が化物だからだ  ではお前は ジョンス・リー」 「か…かっちゃんに謝るん」 大の男が二人ともれんげの言葉にピクリともしなかった。 れんげはまるで異国に放り込まれ様な孤独感と絶望感を味わう。 アーカードの言葉はまだ続く。 「銃は私が構えよう 照準も私が定めよう  弾を弾装に入れ 遊底を引き 安全装置も私が外そう  だが 殺すのはお前の殺意だ  さあ どうする 命令を!!  八極拳士、ジョンス・リー!!!」 「か…かっちゃんに……」 自分の思い通りにならなくて、れんげの瞳に涙が現れた。 だからといってアーチャーが銃を下げる事はない。 本当ならば怖くて逃げ出したい。 泣き喚きたい。 友人たちともう一度会いたい。 のんびりのどかだったあの村に帰りたい。 それでもれんげはカッツェの『友達』として必死に立ちふさがった。 「か、かっちゃんに謝るん!かっちゃんはうちの友達だのん!!」 「止めろ」 「……」 アーチャーは信じられずに呆けていた。 ジョンスはもう一度言う。 「さっさとその物騒なものをしまえ」 「…本気でか」 「俺はいつでも本気だ」 信じられずにアーチャーはしばらくその状態であったが、しぶしぶ銃を降ろした。 れんげは涙を浮かべたままハッとする。 「かっちゃんに謝るん!」 「あぁ、悪かった」 「あっちゃんも謝るん!」 「…そうだな」 うん!と頷いてから、れんげはアサシンに振り向いた。 「かっちゃんも謝るん!」 「えー」 「謝るん!!」 釈然としない風にアサシンはわざとらしく頭を下げた。 「あーはいはいどうもすいやせんでしたーサーセンでしたー」 「これで皆仲良しなん!!」 「…さっすがマイマスター!れんちょんカッコヨスでしたよぉwwwwwwwwwwww  ますます好きになっちゃいましたよぉーwwwwwwwwwwwwww  ミィたち大親友ですねぇーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 「照れるんっ」 キャイキャイと騒ぎ合う二人を眺めながらジョンスは溜息をつく。 友達?親友?何がだ ジョンスはあれほど命の危機にあったれんげを助けようともしないアサシンを見過ごしてはいなかった。 ジョンスは待っていた。 試していた。 アサシンがれんげを庇うか助けるか、何かするかどうかを。 しかし希望は砕かれた。 必死であったれんげを見下していたアサシンの姿をはっきりと捉えていた。 あのクズ野郎 「我が主、聖杯はどうする?アレを殺さないのか?」 「あの子供を殺したところで…あの野郎に勝った気にはならねェ」 「ならばサーヴァントを殺すか?」 ジョンスはもう一度溜息のような大きな息を吐くと。 「最初はそのつもりだったんだが…あの野郎……あいつは俺がブッ飛ばす……  お前は手を出すな。俺がこの『手』で奴を倒す」 「我が主…サーヴァントは――」 「分かってる。だが、方法がねェことはねェだろ」 アーチャーは大きく目を見開いた。 ジョンスに迷いはない。 「戦争だろうがなんだろうが、奴は俺が倒す。いいな」 その姿にアーチャーは感動を覚え、やはりこの男がマスターとして選ばれた理由に確信を得た。 「そうか。やはり人間は素晴らしいな」 化物を殺すのはいつだって人間なのだ。 【C-10/ファミリーチェーンレストラン前/一日目 未明】 【ジョンス・リー@エアマスター】 [状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち [令呪]残り1画 [装備]なし [道具]なし [所持金]そこそこある [思考・状況] 基本行動方針:闘える奴とは戦う 1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す 2.れんげを殺しても意味はないので、一応保護する 【アーチャー(アーカード)@HELLSING】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う 1.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある  しかし、ジョンス・リーの命令を優先する 「…おい、ちょっと待て」 「どうしたん?八極拳」 いきなり、れんげのネーミングセンスにジョンスはつまずいたが、あえてスルーした。 「お前、家は」 「うちの家は村にあります!」 「ここには」 「ここはうちの村じゃないん……あっ!ここってどこですか!?東京ですか!?」 「…俺も知らないが……」 ジョンスに戦慄走る。 まさかこいつ家がないんじゃ!? もしかして一文なしでは!? ジョンスは家こそないが、金はチンピラたちから散々貰い受けたものがあるのでいい。 しかし、まさかまさか、れんげに家がないというのは―― 「何か持ってねェのか!」 「あ!あります!!」 「何が――」 「十円!!!!!!!!」 「ちょwwwwwwえwwwwwww何?wwwwwwwwwwwwwwwww  もしかしてミィたち家無し子ですかwwwwwwwwwwww  まじっすかぁ?wwwwwwwwwww  なんでミィたちだけサヴァイバル生活しているんですか?wwwwwwwwww  ねぇ、馬鹿なの?ねぇ馬鹿なのぉー?wwwwwwwwwwwwwwwwwww」 【C-10/ファミリーチェーンレストラン前/一日目 未明】 【ジョンス・リー@エアマスター】 [状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち [令呪]残り1画 [装備]なし [道具]なし [所持金]そこそこある [思考・状況] 基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う 1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す 2.れんげを殺しても意味はないので、一応保護する 【アーチャー(アーカード)@HELLSING】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う 1.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある  しかし、ジョンス・リーの命令を優先する 【宮内れんげ@のんのんびより】 [状態]健康 [令呪]残り3画 [装備]ないん! [道具]ないん! [所持金]十円!! [思考・状況] 基本行動方針:ふぇすてぃばるん! 1.あっちゃん(アーカード)と八極拳(ジョンス・リー)と友達なん! 2.変装ふぇすてぃばるん! [備考] ※聖杯戦争のシステムを理解していません。 【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。 1.ジョンス・リーたちを利用してメシウマする [備考] ※他者への成りすましにアーカード(青年ver)が追加しました。 ---- |BACK||NEXT| |030:[[ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|032:[[凛然たる戦い]]| |029:[[初陣]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|032:[[凛然たる戦い]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |007[[ジョンス・リー@エアマスター、アーチャー]]|[[ジョンス・リー]]&アーチャー([[アーカード]])|047:[[形なき悪意]]| |022[[宮内れんげ+アサシン]]|[[宮内れんげ]]&アサシン([[ベルク・カッツェ]])|~]|
*せんそうびより ◆IbPU6nWySo れんげとアサシンが駆けている夜の街は田舎にはない異常な静けさを醸し出していた。 しかし、れんげは気に止めない。 彼女は周囲の建物ばかりに気を取られていた。 彼女の住む、のんびりのどなか村には決してないものに。 「夜なのにとっても明るいん……高いビルがみんな仲良く並んでるん」 チャンカチャンカと愉快そうなアサシンはそんなビルが並ぶ道をただ走るだけ。 ライオンの上にいるネズミのように、れんげはあるものに注目した。 それは崩壊したであろうビルだった。 今さっき崩壊したとは分からないだろうが、れんげは素通りしながら呟く。 「あのビルだけ可哀想なん。どうして倒れているのん?」 「れんちょんwwwwwここも誰もいないっすよーwwwww」 「都会は眠らない町じゃないんですか!?」 「眠らないwwwwwwwwそうっすねwwwwwww  明るいだけで取り得ないけどwwwwwwwwwwwwwwwwww」 そうしてしばらくまだ移動すると、れんげの視線の先に明るい建物があった。 れんげがハッと息を飲む。 「かっちゃん!あれ!!」 「アレってなんすかーwwwwwwwwwww」 「あれはまさか!ファミリーチェーンってやつですか!?」 「うはwwwwwwれんちょんwwwお子様ランチ初体験ワロスwwwwwwwww」 「お子様ランチにピーマン入っていますか!!!」 「はいwwww入ってません!!www大体wwwwwwwww」 「…あったら、かっちゃん。食べてくれるん?」 「モチのロンですよーwwwwwいつもそうして来たじゃなーいですかーwwwww」 発見したのは24時間営業のチェーン店である。 愉快な会話を終えて二人が足を運ぼうした時、足を止めたのはれんげを肩車していたアサシンだった。 二人の前に男が一人。 不敵に笑いながら姿を現した。 黒い髪、赤い瞳、人並より褐色のない白い肌、派手な赤いコート。 なにもかもが特徴的で視線を奪う。 カッツェ並に大男の姿をした化物――アーチャーことアーカードが言う。 「生憎、我が主は食事中だ。私が相手をしよう」 アーチャーは意気揚々と戦闘体勢であった。 一方のれんげというのは、まったくの警戒なしである。 そもそも、聖杯戦争というものを理解していない。 だからこそ彼女はアサシンに呼びかける。 「かっちゃん!降りるん!!」 「ん~?いいっすけど、どうするんすかー?」 「話聞くん!!」 「そうでしたねーwwwwwww  第一村人発見wwwww突撃インタビューwwwwワクテカですね!wwwwwww」 れんげがトコトコとやって来るがアーチャーは動かなかった。 というのもこれが彼のやり方だったし、クセのようなものだ。 化物であるアーチャーはたやすく化物を殺し、人間を殺すが、案外積極的ではない。 殺されたら殺すし、宣戦布告されれば戦争をする、命令されれば殺す。 それだけなのだ。 れんげは右手をゆっくりとかがげてから 「にゃんぱすー」 続けてアサシンも 「あwwwwどもwwwwにゃんぱすーwwwwwwwwwww」 「にゃん…ぱす…?」 どうにも魔術のような呪文でもないし、一見すればそれが挨拶だと分からないだろう。 アーチャーもキョトンとしていた。 れんげがアーチャーを見上げた瞬間、ただならぬ電流が走った。 「ハッ!この人!!」 「れんちょん?」 よく見たら! ……………すんごい、カッコイイ人だのん………… 「れんちょん?」 「……」 「れんちょーん」 「……あ!う、うち!宮内れんげ、です!!好きな食べ物はカレーと梅昆布茶で、嫌いな食べ物は…  嫌いな食べ物ないん、です!!ないんです!!!何でも良く噛んで食べます!!!!」 顔を真っ赤にしながら熱烈な自己紹介をしたれんげにアーチャーは沈黙していたが 水を差すようにアサシンが 「嘘でーすwwwwwwれんちょん、ピーマン嫌いでーすwwwwwwww」 「う、嘘じゃないのん!」 「嘘乙wwwwwwれんちょんのピーマン、ミィが食べてあげてまーすwwwwwww」 「嘘じゃないのん!う、嘘じゃないのん!!うう、かっちゃんのイジワルん!!!」 「嘘乙www嘘乙wwwwwwワロスワロスwwwwwwwwwww」 やかましい言い争いにアーチャーは続けていた沈黙を断ち切るかのように息を吐く。 凍てつく息の後から言葉を発した。 「闘争の空気ではないな」 「?」 「そこのお前は私と同じサーヴァントのはずだが」 ニィと口をつり上げてアサシンは聞かれてもいないのにこう答えた。 「イエース!アサシンのカッツェさん!ベルク・カッツェさん!!」 本来、真名を明かす事はサーヴァントにとっては致命的なことになりかねない。 だがあっさりと、アサシンはアーチャーの前で名乗った。 それは慢心か油断か故意か。バレても問題はなく、真名は大した意味を成さないのか。 アサシンの意図などアーチャーにとってはどうでもいい事である。 そして、アーチャーにとっても真名などどうでもよかった。 「ベルク・カッツェ。なるほど、私も例に倣おう。アーチャーのアーカードだ」 間接丁寧にアーチャーが返答すると、れんげがポカンとして。 「あ……あっちゃんって呼んでいいですか?」 「ところでれんげと言ったか」 「!!!!!!!!!」 再びれんげに衝撃走る! アーチャーの発した「れんげ」というキーワードが謎のエコーを続け、れんげの中に響き渡ったのであった。 それはある意味でれんげに精神的ダメージ(?)を与えている。 高鳴る胸を抑えつつ、れんげは慌てて返事をした。 「れれれれれ、れんちょんってよ、呼んで欲しいのん!!」 「れんげ、聖杯戦争をしにきたのだろう?私と戦争をしにきた」 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 梅干しのように赤面しながられんげは胸を押さえていた。 (人生の中で一番の強敵だのん!勝てないん!!胸が爆発しそうなん!!!) 逆にお前の人生はたかが数年程度だろう、という突っ込みをしてくれる者は残念ながらこの場に居合わせておらず。 れんげの状況は全く改善されていない。 無論、アーチャーの後半の言葉は馬の耳に念仏であった。 さすがのアーチャーも理解したのか、改めて問う。 「聖杯戦争をしにきたのだろう」 「!………せーはいせんそー……?」 「れんちょんれんちょんwwwwwそれ、ふぇすてぃばるんの正式名称ねwwwwwwwwwww」 「あっちゃんもふぇすてぃばるん参加してるん?」 アーチャーは何も語らない。 語らずともアサシンとはまた違う不敵な笑みを浮かべ、れんげは気づいていないが すでにジリジリと『影』を揺れ動かしている。 するとアサシンが言う。 「はいwwwwここでれんちょんに問題です!!デデンwwwwwwwwwwwwww  このふぇすてぃばるんは、どういうふぇすてぃばるんでしょーかー?wwwwwwwww  チッチッチッチッチッチッwwwwwwwwwww」 「………ハイ!ハイ!!」 「れんちょん、答えをどうぞ!」 「かっちゃんも得意な変装を競うのん!変装ふぇすてぃばるん!!!」 これにはアーチャーだけではなくアサシンも言葉を失った。 間を開けてからのちに 「オウフwwwwwwwwwwwwwれんちょんwwwwwwwwwwwww  ちょおまwwwwww予想外っすよーwwwwwwwwwwwwwww」 「え、違うん?」 「んーwwwwwwwwwwwwwwwwww  ま、いっか。面白そうなのでカッツェさん変装ふぇすてぃばるんしまーすwwwwwwwwwww」 宣言した瞬間、アサシンはアーチャーの目前で『宮内れんげ』に変身したのである。 まさに瓜二つ。 双子どころではなく、髪のクセから骨格の位置、細胞の一つ一つ、指紋や声帯まで『宮内れんげ』そのものだ。 アーチャーはアサシンの能力に関心をした。 吸血鬼の目を以てしても本当に区別がつかない。 思わず溜息を漏らした。 「ほう、素晴らしいな」 近くにいた本物の『宮内れんげ』と合流するとごちゃごちゃに入れ違う。 一見した人間であればまったく区別がつかないだろう。 この状態で 「はい!本物のれんちょんはどっちで「左」……早いんーーーーーーーーーーー!!!!」 「どうして分かったん!?なっつんもほたるんも皆かっちゃんの変装見破れなかったのん!!」 「目で追っていたからな」 バレてしまったのでアサシンは元に戻ったが子供らしい意地を持ったれんげが言う。 「次は見えないところでかっちゃん変装するん!そうすれば絶対分からないん!!」 「れんちょん、同じパターンじゃつまんなーいのでちょっと変えません?wwwwwww」 「どうするん?」 「そうっすねーwwww……たとえば」 刹那、アサシンの雰囲気が一変したのをアーチャーは見逃さなかった。 同時にアーチャーはアサシンと似たものを感じた事があると確証を得る。 しかし、それが『何か』はまるで見当がつかない。 あまりに遠く、薄れた感傷だからこそすぐに理解する事ができなかった。 ただ攻撃がくると理解する。 アーチャーが攻撃を受けようといつものように構えていた。 アサシンに体を掴まれる、否――不思議なくらいに甘い抱擁。 それからキスされるなどアーチャーには予想外だった。 ありのまま起こった事を話す…… 『腹が減ったんで食事をしていたらアーカードが二人に増えていた』 何を言っているかわからねーと思うが、俺にも分からねぇ。 頭がどうにかなりそうだ。 催眠術だとか八極拳だとか、そんなんじゃなく聖杯戦争のせいだろうが。 なんというか、気味が悪い。 「だからどういうことだ…」 ジョンス・リーはこの奇怪な光景に戦慄を通り越して呆れていた。 前述の通りアーチャーが二人いる。 服装から顔立ちまで瓜二つの双子のような存在がジョンスの前にいたのだ。 夜遅い時間に何故かいる子供――れんげがジョンスに気づくと声をかける。 「そこの人!どっちが本物だと思いますかっ」 「……」 そうだろうと思ったが本当にそういう奴…なのか……面倒だ… 面倒だしアーチャーの事なんてそんなに分からねぇし…はァ…… ジョンスにとって深く考える事は難儀である。 手っ取り早く分かる方法があれば、と自然にある事を思い出す。 ――そういえば我が主、基本的にサーヴァントに物理攻撃は通用しない。私は特別だ 「なるほどな。要するにぶっ飛ばせって事か」 「え!?な、なにするん!?」 「子供のお前にも分かりやすく教えてやるよ。八極拳を」 「は……八極拳…?」 ジョンスは臨戦態勢をとった。 腰を低く落とし、右手は軽く前に出して左手は引く。 独特なフォームと威圧感に子供のれんげにも何か起こることは一目瞭然であった。 さて、次はどっちを狙うかだが…… 右のアーチャーは不敵に笑う。 まるで攻撃されるのを望むかのような瞳でこちらを見つめている。 左のアーチャーも不敵に笑う。 それから―― 「キラリンッ☆」 攻撃するまでもなかった。 「右だろ」 「すごいん!どうして分かったん!?今度は入れ替わるところ見せてないん!!」 「いや、明らかにおかしいだろが。左」 「れんちょん分かりませんでした…」 一方で偽物のアーチャーがジョンスの前で変身を解いていた。 その姿はアーチャー並の長身、モジャモジャのクセが強そうな長い赤髪、耳まで裂けそうなニタリと笑う口。 まるで不思議な国にいる猫を思わせる派手な容姿に、ジョンスは少しだけ顔をしかめる。 本物のアーチャーは悠々とジョンスのところへ戻り。 「我が主、サーヴァントだがどうする?」 「…まさか」 あの子供… ジョンスは溜息をついた。 聖杯戦争なんて名ばかりでまさか子供がいるだなんて。 いや、子供にしても戦える子供ではなく、いかにも貧弱そうな少女なのだから希望も持てない。 しかもサーヴァントの方はヘンテコリンなものだ。 「戦うつもりあるのか…?」 「あるん!かっちゃんの変装すごいん!!かっちゃんよりすごい変装できないん!」 しかも話が斜め上に飛んでいる。 ジョンスに対してアーチャーはいたって真面目に「フム」と呟いてから 「変装というのは――これでもいいのかね」 一瞬にしてアーチャーが変貌したのは以前ジョンスにも見せた無精ひげの生やした歴戦の王の姿だ。 突然の変化にれんげは理解に時間がかかった。 我に返ってから驚く。 「お、おじいちゃんになったん!?」 「まじっすかー?wwwwwwwwwwww  あれれーwwwwwアーチャーですよねー?wwwwwwwww  クラス詐欺してません?wwwwwwwwwwwwwww」 「でも、かっちゃん女の子にもなれるん!!!」 「女の子というのはこうかね?お嬢ちゃん」 次にはジョンスも目を疑った。 アーチャーの姿は白い衣服を纏い、白いロシアン帽をかぶる、ロングヘアーの少女に変貌したのだから。 先ほどの男よりも全くアーチャーを思わせない姿に脱帽するしかない。 れんげも呆気に取られている。 「女の子になったんー!!!!!!」 「ははは!要するに引き分けってところさ、お嬢ちゃん。気がすんだかい?」 「ぐぬぬ」 「……おい、アーカード。お前」 「おっと我が主。この姿がお気に召したなら、この姿でいてやっても私は一方的に構わ――」 「気が狂うから早く戻れ」 「なんだつれないな」 むしろその気があったのか、とジョンスはしぶしぶ青年の姿に戻るアーチャーを見届けた。 それからアーチャーに聞く。 「ガキの遊びに付き合ってるのはなんだ」 「あちらが戦う気配を見せない」 ジョンスも思ったし、仕方ないとしてもまさか本当に戦意がないと言えるのだろうか? たとえばサーヴァント・アサシンの方は。 アサシンは聖杯戦争を理解しているはずだ。 生と死のやり取りと、血で争う聖戦であることは知っているはずだ。 もしかしたらジョンスたちの隙を伺っているのかもしれない。 だとしたらアーチャーが何もされていないのは…少々妙な気もする。 あの時のように、あえて攻撃を受けるアーチャーのままであれば可笑しさが加速する。 シラを切らしたジョンスはキャイキャイと騒いでいるれんげたちに声をかけた。 「おい、お前ら…本気で戦うつもりはねぇのか」 れんげは首を傾げたが、アサシン・カッツェの方はピタリと動きを止め、振り向いた。 目を覆う前髪の隙間から、不気味な瞳がジョンスを捉えている。 攻撃するのかとジョンスは体勢を取れる状態を保つ。 ニィっとアーチャーとは種類の違う笑みを浮かべてからアサシンはれんげに告げた。 「れんちょん、カッツェさん真面目なお話するけどいいっすかー?wwwwwwwwww」 「真面目なお話なん?」 「はーいwwwwwwwwww」 「…分かったん!」 れんげが落ち着きを見せたのを確認してから、アサシンは至って真面目に話しだす。 「ご無礼をお詫びします。改めて自己紹介いたしましょう。アーチャーのマスター。  アサシンのベルク・カッツェでございます」 「…戦うつもりなのか答えろ」 「いいえございません。ミィとしては我がマスターを保護したい所存です。  ミィにとっては我がマスターは大切な友人ですから」 「友人ねェ…」 「ですから、ミィはあなた方に協力いたします。その代わりミィのマスターを守って欲しいのです」 「……なんだと」 要するに同盟を組め、という事だ。 一応ヘラヘラとした先ほどの態度とは一変してなるべく生真面目に語っている事から この同盟要求は本気なのだろうとジョンスにも分かる。 分かる、のだが。 なんっつーんだ、この……胸糞悪い感じは… ジョンスが誰かと協力する事が主義ではない、のではない。 このただならぬ感覚が『何』なのか、ジョンスには分からなかった。 しかし、マスターと呼べるのは子供だ。 アサシンの言葉を疑う理由はない。 それでも…… ジョンスが思い悩んでいるとアーチャーがくくっと笑いを零した。 「お世辞はいらん。つまるところどうするつもりだ?」 静寂が訪れた。 ジョンスが反応した時には遅い。 いつの間にかアサシンはアーチャーの眼前まで来ていたのだ。 しかし攻撃することはなく、れんげには聞こえない程度の音量で面白おかしくアーチャーに囁きかけてきた。 「ミィはあなた方の望みを叶えてあげたいだけですよぉ  闘いたぁい、殺したぁい、弄って、刺されて、轢かれて、縛られて、傷つけあって。  血がみぁたい。真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!!…そぉでしょぉ?」 くっくっとアーチャーはまだ笑う。 それから童謡を語るかのように話を始めた。 「ようやく思い出した。私はお前のような男を知っている。  昔々あるところに狂った親衛隊(SS)の少佐がいた  『不死者たちの軍隊を作ろう 不死身の軍隊を作ろう』  膨大な血と狂気の果てにその無謀を成就しつつあった  だが 私とある『死神』がその計画を台無しにしてやった。  それでもなお 連中は心底あきらめなかった  誰も彼もが彼らを忘れ去り忘れ去ろうとした  だが連中は暗闇の底で執念深く  確実に存在してきた  ゆっくりとゆっくりとその枝葉を伸ばしながら」 吸血鬼の戦闘集団 不死身の人でなしの軍隊 シークフリートの再来 神話の軍勢 第三帝国 最後の敗残兵 『最後の大隊』 「あの少佐によく似ている」 「ミィをどこかの誰かと一緒にされるとちょっぴり心外ですねー  だが断るってことっすかぁー?」 「いいや、むしろ受けて立とう。戦争は好きだ、何度だってお前のようなものは滅ぼしてやろう。  私も楽しみだ。実に楽しみだ。…我が主はそうは思わないかもしれんが」 アーチャーはジョンスをチラリと見た。 ジョンスの表情は見えない。 が、ゆっくりと呼吸をしてから静かに口を開いた。 「なぁ…お前。お前みたいな奴が世間体でなんて言われるか……知ってるか?  反吐の出るクズ野郎だ」 「………あ?」 アサシンはらしくない威圧の籠った声を漏らすがジョンスは止まらない。 「お前みたいなのはよォ…大概、高見の見物して人を馬鹿にして、自分は悪くねェだの余裕ぶっこいてやがる。  つまりただの野次馬だ。本ッ当、胸糞悪い。お前みたいな典型的な奴がいるとは夢みたいだな。  お前はあの主催者の野郎と大差ねェ」 「あのぉー!話聞いてますぅー?ミィはお前らと手を組みたいって言ってるんすけどぉー!!  争いに来た訳じゃないんすけどぉー!!人の話聞いてますかぁー!?」 「お前こそ、俺の話聞いてたかクズ野郎」 ビキッと何かが切れる音がした。 両者の間に独特の雰囲気が流れる。 ジョンスはハッと音を発しながら身構えを取る。 「ようやく本性が出たか。いいぜ、来いよ」 「やめるん!!!」 ここで割り込んで来たのがれんげだった。 れんげはいつになく厳しい顔つきでジョンスの前に立ちはだかる。 「かっちゃん、いじめるの駄目なん!かっちゃんの悪口はうち許さないん!!」 「…」 「かっちゃんに謝るん!!」 ゴッ 幼い少女の頭に銃口がつきつけられた。 白い銃の持ち主は言うまでもなくアーチャー・アーカード。 ジョンスもアーチャーの行動に姿勢を緩める。 アーチャーは表情一つ変えずに淡々と語りかけた。 「我が主、殺すか?」 「………」 「私は微塵の躊躇もなく 一片の後悔もなく鏖殺できる  この私が化物だからだ  ではお前は ジョンス・リー」 「か…かっちゃんに謝るん」 大の男が二人ともれんげの言葉にピクリともしなかった。 れんげはまるで異国に放り込まれ様な孤独感と絶望感を味わう。 アーカードの言葉はまだ続く。 「銃は私が構えよう 照準も私が定めよう  弾を弾装に入れ 遊底を引き 安全装置も私が外そう  だが 殺すのはお前の殺意だ  さあ どうする 命令を!!  八極拳士、ジョンス・リー!!!」 「か…かっちゃんに……」 自分の思い通りにならなくて、れんげの瞳に涙が現れた。 だからといってアーチャーが銃を下げる事はない。 本当ならば怖くて逃げ出したい。 泣き喚きたい。 友人たちともう一度会いたい。 のんびりのどかだったあの村に帰りたい。 それでもれんげはカッツェの『友達』として必死に立ちふさがった。 「か、かっちゃんに謝るん!かっちゃんはうちの友達だのん!!」 「止めろ」 「……」 アーチャーは信じられずに呆けていた。 ジョンスはもう一度言う。 「さっさとその物騒なものをしまえ」 「…本気でか」 「俺はいつでも本気だ」 信じられずにアーチャーはしばらくその状態であったが、しぶしぶ銃を降ろした。 れんげは涙を浮かべたままハッとする。 「かっちゃんに謝るん!」 「あぁ、悪かった」 「あっちゃんも謝るん!」 「…そうだな」 うん!と頷いてから、れんげはアサシンに振り向いた。 「かっちゃんも謝るん!」 「えー」 「謝るん!!」 釈然としない風にアサシンはわざとらしく頭を下げた。 「あーはいはいどうもすいやせんでしたーサーセンでしたー」 「これで皆仲良しなん!!」 「…さっすがマイマスター!れんちょんカッコヨスでしたよぉwwwwwwwwwwww  ますます好きになっちゃいましたよぉーwwwwwwwwwwwwww  ミィたち大親友ですねぇーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 「照れるんっ」 キャイキャイと騒ぎ合う二人を眺めながらジョンスは溜息をつく。 友達?親友?何がだ ジョンスはあれほど命の危機にあったれんげを助けようともしないアサシンを見過ごしてはいなかった。 ジョンスは待っていた。 試していた。 アサシンがれんげを庇うか助けるか、何かするかどうかを。 しかし希望は砕かれた。 必死であったれんげを見下していたアサシンの姿をはっきりと捉えていた。 あのクズ野郎 「我が主、聖杯はどうする?アレを殺さないのか?」 「あの子供を殺したところで…あの野郎に勝った気にはならねェ」 「ならばサーヴァントを殺すか?」 ジョンスはもう一度溜息のような大きな息を吐くと。 「最初はそのつもりだったんだが…あの野郎……あいつは俺がブッ飛ばす……  お前は手を出すな。俺がこの『手』で奴を倒す」 「我が主…サーヴァントは――」 「分かってる。だが、方法がねェことはねェだろ」 アーチャーは大きく目を見開いた。 ジョンスに迷いはない。 「戦争だろうがなんだろうが、奴は俺が倒す。いいな」 その姿にアーチャーは感動を覚え、やはりこの男がマスターとして選ばれた理由に確信を得た。 「そうか。やはり人間は素晴らしいな」 化物を殺すのはいつだって人間なのだ。 【C-10/ファミリーチェーンレストラン前/一日目 未明】 【ジョンス・リー@エアマスター】 [状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち [令呪]残り1画 [装備]なし [道具]なし [所持金]そこそこある [思考・状況] 基本行動方針:闘える奴とは戦う 1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す 2.れんげを殺しても意味はないので、一応保護する 【アーチャー(アーカード)@HELLSING】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う 1.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある  しかし、ジョンス・リーの命令を優先する 「…おい、ちょっと待て」 「どうしたん?八極拳」 いきなり、れんげのネーミングセンスにジョンスはつまずいたが、あえてスルーした。 「お前、家は」 「うちの家は村にあります!」 「ここには」 「ここはうちの村じゃないん……あっ!ここってどこですか!?東京ですか!?」 「…俺も知らないが……」 ジョンスに戦慄走る。 まさかこいつ家がないんじゃ!? もしかして一文なしでは!? ジョンスは家こそないが、金はチンピラたちから散々貰い受けたものがあるのでいい。 しかし、まさかまさか、れんげに家がないというのは―― 「何か持ってねェのか!」 「あ!あります!!」 「何が――」 「十円!!!!!!!!」 「ちょwwwwwwえwwwwwww何?wwwwwwwwwwwwwwwww  もしかしてミィたち家無し子ですかwwwwwwwwwwww  まじっすかぁ?wwwwwwwwwww  なんでミィたちだけサヴァイバル生活しているんですか?wwwwwwwwww  ねぇ、馬鹿なの?ねぇ馬鹿なのぉー?wwwwwwwwwwwwwwwwwww」 【C-10/ファミリーチェーンレストラン前/一日目 未明】 【ジョンス・リー@エアマスター】 [状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち [令呪]残り1画 [装備]なし [道具]なし [所持金]そこそこある [思考・状況] 基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う 1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す 2.れんげを殺しても意味はないので、一応保護する 【アーチャー(アーカード)@HELLSING】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う 1.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある  しかし、ジョンス・リーの命令を優先する 【宮内れんげ@のんのんびより】 [状態]健康 [令呪]残り3画 [装備]ないん! [道具]ないん! [所持金]十円!! [思考・状況] 基本行動方針:ふぇすてぃばるん! 1.あっちゃん(アーカード)と八極拳(ジョンス・リー)と友達なん! 2.変装ふぇすてぃばるん! [備考] ※聖杯戦争のシステムを理解していません。 【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。 1.ジョンス・リーたちを利用してメシウマする [備考] ※他者への成りすましにアーカード(青年ver)が追加しました。 ---- |BACK||NEXT| |030:[[ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|032:[[凛然たる戦い]]| |029:[[初陣]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|032:[[凛然たる戦い]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |007[[ジョンス・リー@エアマスター、アーチャー]]|[[ジョンス・リー]]&アーチャー([[アーカード]])|047:[[形なき悪意]]| |022[[宮内れんげ+アサシン]]|[[宮内れんげ]]&アサシン([[ベルク・カッツェ]])|~|

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