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「初陣」(2014/08/15 (金) 19:09:54) の最新版変更点
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*初陣 ◆MQZCGutBfo
―――いいかい、こういうのは作戦が大事なんだ。最初はあたしに任せときな。
…………ああ。
まず春紀が先行して突入。
敵にアンタの存在を誇示、そしてゆっくりと反時計まわりに動いてくれ。
…………ああ。
焦らずに動いて敵の目を引き付けるんだよ。
要は囮ってやつだ。
敵がアンタに釘付けになったタイミングを見計らってあたしも出る。
…………ああ。
なんだオイ、緊張してんのかい?
ま、初陣なら仕方ねーか。
大丈夫、いざとなったらあたしが抱えて逃げ切ってやるさ。
…………ああ。
ほらほら、女は度胸だよ。
いっちょ派手にいこうじゃない。
…………いや派手にいったら駄目だろうが。
◇
―――月が照らす深夜の街を、二人の少女が歩いている。
「いや~大漁大漁。春紀、初陣の成果としては上出来だよ」
どこに納めていたのか、赤い髪の少女、佐倉杏子がお菓子やおにぎりなどを次々取り出し、
一見すると彼女の姉のような姿の女性、寒河江春紀が溜息をついた。
「あーあ。盗みだけはやらずにこれまで生きてきたんだけどなあ………ほい、これも」
ペットボトルを投げて渡す。
これが唯一正式にお金を払って購入したもの―――それを春紀が購入している間に、杏子がスタコラと逃走したのだ。
「さんきゅ。ま、勉強代さ。
客が来ない場所だからって、夜勤なんかを一人でやらせるからこうなるんだよ」
ピッとフィルムを破り、おにぎりにパクつく。
その様子を見て苦笑する春紀。
「ったく、ウチのアパートに着くまで待てないんかね」
「ひはたないはろ……んぐ。
いつ戦闘になるかもわからないし、そもそも春紀がびんぼーじゃなければ、わざわざこんな遠出せず買いまくれたのに」
「びんぼーで悪うございましたね……」
喋りながらでも、ぱくぱくとおにぎりをすぐに平らげ。
ぱんぱん、と手を払った。
「ま、ないもんは仕方ないさ。いくらでもやりようはあるし……ほい、食うかい」
戦利品のうんまい棒を春紀へ差し出す。
「あんがと、杏子」
「ランサーだっての。外じゃ気を付けろよ」
「おっと、ごめんごめん」
―――なんでもサーヴァントというのは。
生前の名前を他者に知られると弱点が露呈する危険性があるため、常に名前を隠して行動するんだそうな。
例えば杏子の場合、ソウルジェム―――家で見せてもらった赤い宝石―――を破壊されると、死んでしまうらしい。
こうして万引き――というかこの量だと強奪じゃないか――して食糧を手に入れたのも、
杏子は食べることで魔力回復できるからと、足がつきにくいようにわざわざ遠出して実行したんだ。
「……まあ。名前呼ばれんのは別に嫌じゃねーけどさ」
ぽりぽりと頬をかきながら杏子は言う。
「なんだよー意外と可愛いとこあるじゃんか」
「ばっ、やめろっつーの」
春紀は杏子の後ろにまわって首に手をまわし、うりうりとほっぺを突っつく。
姉妹のようにじゃれあいながら、家路へとのんびりと歩く。
◆
街を歩く銀色の髪の少女と、青い髪の屈強なる男。
「さて。調査と言っても何から手をつけましょうか」
「……」
頬に手を当て、しばし思考する少女、ホシノ・ルリ。
キリコ・キュービィーは腕を組み、ルリを無言で見守っていた。
「まずは土地自体を把握しないと。地図……とか売っているんでしょうか。
そもそも、これで買えるんでしょうか?」
手には最初から持っていたペイカード。
しばらく歩いていると、深夜でも明るい光を放っている店が見えてきた。
「あのお店に入って確認してみましょうか」
キリコは霊体化し、ルリはコンビニエンスストアに入り、地図を取ってレジへと向かった。
カードを出して店員に尋ねてみる。
「……これで購入できるでしょうか?」
「ああはい、カードですね。少々お待ちください」
じっと若い男性風の店員をみつめる。
(……参加者以外はNPCという話でしたが、よく出来ていますね)
「あっ、えと、大丈夫みたいですよ」
「ありがとうございます。ちなみに、この地図で言うと現在地はどこになるでしょうか」
「えっと……この辺りですね」
店員が開いた地図を指し示す。
「ありがとうございます」
「いえいえ。ありがとうございました」
ルリは店員にぺこりとお辞儀して、店を後にする。
「買い物はこのカードを使えば大丈夫なようですね」
「そのようだな」
店から出た後、霊体化を解くキリコ。
「後は……やはり詳しい方に聞くのが一番ですね」
購入した地図を開き、教会のある地点を指差す。
流れてきた知識では、そこに聖杯戦争を運営している人達がいるらしい。
「ここに直接行くのが手っ取り早いですが……。
もし『狩り』を行うタイプのマスターがいるのなら、
教会の周辺で待ち伏せを行っている可能性がありますよね」
「そうだな」
んー。と指で軽く頬をつく。
「行けないのなら、呼んじゃうまでですね」
「……ほう」
ルリは辺りを見回し。
「ライダーさん、この辺りの民間人の存在とか、分かっちゃったりします?」
「俺はエスパーじゃない」
「んー……。ライダーさんが宝具に乗れば、熱源感知とかできますか?」
「可能だ」
腕組みを解き、ルリを見下ろすキリコ。
「だが俺の宝具を出撃させるためには魔力を使う。こんな時期に使って大丈夫なのか」
「あ。そちらは御心配なく」
心配ご無用と手の平を出す。
―――ホシノ・ルリは方舟へ、星一つを電子的に制圧できる『ナデシコC』と『オモイカネ』を使いハッキングしてきたのである。
元々『電子の妖精』と呼ばれる程の電子戦での驚異的な能力に加え、極大とも言える電子戦武装。
この方舟の地におけるホシノ・ルリは、魔力の塊と言える程に、力が溢れだしていた。
そうか、とキリコは頷くと、自身の宝具を現出させる。
全高3.8メートル。
全身を緑色で塗装した人型の兵器。左肩だけが赤く塗られている。
形式番号:ATM-09-ST 『スコープドッグ』
他者を守るのではなく、他者を殺すためだけに特化した戦争の消耗品。
そこにアーマード・トルーパーが存在するだけで、平和な街は最低な戦場へと姿を変える。
スコープドッグの脚を変形させ、胴体を地に降ろし。
頭部を前から開き、狭いコックピットへと搭乗するキリコ。
『搭乗完了だ』
『では辺りに、熱源のない大きな建物とかはありませんか?』
念話で通信を行い始める二人。
キリコはレーダーを見て、港付近の倉庫群らしき場所に熱源反応がないことを確認し、報告する。
『ではそちらへ移動お願いできますか』
『了解した。……乗れ』
ルリにスコープドッグの手を差し出し、乗らせるように促した。
手の平の上に乗り、指にしっかり掴まっていることを確認し。
『行くぞ』
スコープドッグの足の裏にあるギアが、キュイイインと音を立て回転しはじめ、
ローラーダッシュによって、倉庫群への移動を開始した。
◆
「……っ! なんだ……?」
帰宅の途中、春紀の左手に宿った令呪が反応する。
そして同時に、ドォン!ドォン!と爆発する音が響く。
海の方角から聴こえるようだ。
「なんだあ?いきなりおっぱじめてる奴らがいるのか?」
「どうする、きょ…ランサー」
「アンタが決めることさ、マスター。
素通りしてあたしの魔力を温存するもよし。
戦ってる奴らがいないか偵察するもよし。挨拶代わりに戦いに介入するもよしだよ」
「む。よし………じゃあ、偵察。
聖杯戦争の実戦を見ておきたいし、もし隙がありそうなら―――殺ろう」
春紀の目つきが鋭くなり、雰囲気が暗殺者のそれに変わる。
「ハッ、いいね!そうこなくっちゃ!」
杏子は魔法少女装束に身を包む。
春紀もバッグからガントレットを取り出し装着する。
「って、マスターもついて来る気か?」
「……は?」
「んー。
春紀も人間としてはなかなか動ける方だとは思うけど。
サーヴァントの戦いってのは次元の違う人外の戦いだ。
マスターは身を隠して、戦いはサーヴァントに任せる、ってのがセオリーさ」
杏子は腰に手を当てて説明する。
「あのな、あたしはあたしの願いのために戦うんだ。
杏子に全部任せて寝て待ってるってのは違うだろ」
春紀は少し怒ったように、同じく腰に手を当てて言う。
「んー……」
(今回の戦いは七騎による戦いじゃない。
一人で置いておいても、他の奴らに襲われる可能性も高いか……)
杏子は少し腕組みした後。
「分かった。でも相手のサーヴァントと戦闘になったら、まず隠れてろよ。
アンタはおかしな連中との戦いは素人なんだろ」
「ああ、分かった。ここまで来たら焦ったりしないさ。……最後のチャンスなんだからな」
春紀は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「さ、行こうか、ランサー!」
「ったく。オーケー、マスター」
◆
>ルリちゃん、こーゆーときはね、どーんとやっちゃえばいいんだよ!
>そうそう。男には派手に目を惹かせておびき寄せちゃえばいいの。
待ち人は女性でしょうけどね、とひとりごち。
―――あの人達なら、この状況でどう対応したでしょう、
と前任のナデシコクルーのことを考えていたホシノ・ルリ。
『バカばっか』と言っていた自分。言わなくなったのは、いつからか。
『マスター。接近する熱源2。片方は恐らくサーヴァントだ』
『……残念。ですが、別口の情報を得るチャンスでもありますね』
お目当ての対象であれば恐らく一人。
今向かってきているのは、騒ぎを聞きつけた参加者だろう。
スコープドッグでの破壊を止め、キリコがルリの待機している場所へと戻ってきた。
ルリの手の甲の違和感が強くなる。
「なるほど。この令呪が他のマスターの存在を感知させてくれるのですね」
IFS―イメージ・フィードバック・システム―の処理によって施された手の甲の紋様の上に、
更に印された三画の紋様。その手を眺め、頷く。
『マスター。ここは戦場になる。隠れていろ』
『いえ、少しでも情報を引き出したいので。守ってくださいますか?』
『了解』
倉庫が四方にある十字路。
スコープドッグに乗ったキリコを他者が来る方角に配置させ、ルリがその後方に下がった。
―――そしてやってくる、槍を持った赤い装束の少女と、学生服を着た背の高い少女。
「なんだァ? 戦闘やってんじゃないのかい」
赤装束の方が口を開く。
「ええ、事情がありまして。
こちらに戦闘の意思はありません」
「……あのなあ。
聖杯戦争に呼ばれて、戦闘の意思ありません。はいそうですか、なんて言うワケないだろ。
だいたい、そんなデカブツに銃を構えさせておいてよく言うな」
スコープドッグは、油断なく【GAT-22 ヘビィマシンガン】を赤装束に向けている。
ルリが赤装束の少女を見つめると、相手の情報が流れてくる。
少女がランサーのクラスのサーヴァントであること、敏捷の高い速戦型のパラメータであることが把握できる。
(こちらが分かる、ということは。相手のマスターにも、こちらのサーヴァントの情報が伝わる、ということですね)
相手ランサーの情報を念話でキリコへと伝える。
『了解した』
キリコの返事に頷くと、赤いランサーとの会話を続ける。
「全く貴女の言う通りですが、私達が情報交換を求めているのも事実です」
「……だとさ。どうする」
赤いランサーは油断なくスコープドッグと向き合ったまま、後ろの少女に振り返らずに問いかけた。
―――あちらも念話をしていたのであろう、しばらく経った後。
「悪いね。情報の交換なら、コイツで交換し合おうってことになった」
槍を手で回転させた後、両手で構える赤いランサー。
「そうですか。残念です」
ルリは相手のマスターと目を合わせる。
制服を着た少女も、殺気を漲らせている。
「私はホシノ・ルリです。貴女は?」
「……答える必要はないね」
「そうですか」
ルリは残念そうな表情もせず、後方へと歩いて行き。
『ライダーさん。兵器使用自由、出来るだけ派手にやっちゃってください』
『了解』
キリコに指示を告げ、後方の物影へと退避する。
◇
『……お、おい。あれロボットだろ!? 流石に色々おかしいだろ、本当に大丈夫なのか?』
『ハン。別にデカブツの機械型魔女とも…………銃を使った相手とも、戦ったことあるさ。
一々相手のタイプに驚いてたら戦いなんてできねーよ。
それより隠れてな、ここでいきなり死んだりするんじゃねえぞ春紀』
ランサーは念話でそう言い放つと、ライダーの乗ったロボットと対峙する。
『分かった、杏子も気を付けてな』
敵ライダーの情報を分かる限りランサーに伝え、春紀も物影に隠れ戦況を見守る。
◇
「ようライダー。いきなり宝具の御開帳とは景気がいいじゃないか」
槍を構え話しかけるランサー。
キリコは答えず。
無言のまま、ランサーに照準を合わせて【ヘビィマシンガン】を連射する。
「ハッ、問答無用ってワケかい!」
ランサーが居た場所のアスファルトを銃弾が削り。
地面を跳躍したランサーは両側の倉庫の壁を使って三角飛びで俊敏に避けていく。
かわされたマシンガンの銃撃が倉庫を蜂の巣へと変えていく。
「今度はこっちからいくよ!」
倉庫の屋根を伝い、スコープドッグの背後へと回るランサー。
壁を蹴って、槍を片手に死角からの攻撃を仕掛ける。
―――が、キュイイイイイ!!とけたたましく音を鳴らしたスコープドッグは、
ローラーダッシュで前へ加速し、倉庫の道路を抜け大きく旋回する。
「チッ、でかい図体のくせになかなか速いじゃないか」
ランサーは再び屋根へと登り、倉庫と倉庫の屋根の間を跳躍して、
スコープドックよりも高い位置をキープし、距離を詰めてくる。
『―――ならば足場を無くすだけだ』
胴体の脇から【SMM2連装ミサイル】を発射し、キリコから向かって左右の倉庫へと放った。
2発のミサイルが一直線に倉庫へと向かっていき。
ドォォン!ドォォン!と大きな音を立て。
―――穿たれた倉庫は崩れ、そして赤く燃えていく。
「げっ! どんだけ火力たけーんだよ!」
ミサイルの発射を見た瞬間、ランサーは屋根から跳躍しており、そのまま倉庫間の道路へと着地した。
『丸見えだな』
「ハッ!」
ヘビィマシンガンをランサーの周辺にばら撒くスコープドッグ。
ランサーは再び跳躍した後、空中で槍を多節棍状にし、
一つ先の倉庫の煙突へ投げて絡ませて自身を引き上げる。
『……』
キリコは表情を動かさず、
スコープドッグのターボをふかし、ギアの回転を上げ、音を立てて再びランサーを追う。
◇
「けほっけほっ……無茶苦茶だろアイツら」
隠れていた倉庫から出てくる春紀。
―――むせかえるような硝煙と炎の匂い。
抉れているアスファルト。
破壊されていく倉庫。
「これが……聖杯戦争、か。……ガチで戦争じゃないか」
ふるふると春紀は首を振り、パシンと頬を打って気合を入れ直した。
物影に隠れながら、相手のマスター―ホシノ・ルリと言ったか――が、
当初居た辺りへと移動するが、既に人影はなく。
―――そこへ。
キュイイイイン!!とローラーを回転する音が聴こえてくる。
振り返ると、迫りくる鋼鉄の巨人。
杏子が、跳んでそれを追っていた。
『目標確認。殲滅する』
「くそっ!マスター!!」
鋼のロボットは春紀の姿を確認すると、躊躇なくマシンガンを構え、撃ち放つ。
「くっ…………!!」
「チィ!!」
無駄と分かりつつ、春紀は横っ跳びに飛ぶ。
―――その前方。
赤い鎖のようなものが三重に展開され。
鋼鉄の銃弾を弾いていく。
ランサーが己のマスターを守るため、縛鎖結界を現出させたのだった。
『……なるほど、魔術というものか』
「―――取った!!」
ランサーの槍が、春紀に向いていたスコープドッグの頭と胴体の間を後ろから貫いた。
想像した以上に、装甲は薄く。
槍を引き抜き、赤い肩を踏み台にして跳躍し、マスターの元へと戻る。
「ありがとう。助かったよ。
……だけどあのロボをやったのか、ランサー。凄いな」
「ハッ、まーな」
鋼の巨人は音を立てて爆発をし始め。
自身が発生させた紅蓮の炎に焼かれていった。
辺りの倉庫群がその炎で赤色に照らされていく。
―――そして。炎の中から、無傷の男が姿を現した。
『マスター』
『許可します』
そして間髪いれず、ライダーは二体目のスコープドッグを現出させる。
「「な……」」
杏子と春紀は茫然と、悠々とロボットに乗り込む男を見る。
『やべえ、退くぞ春紀。相手も不死身系だ。
このまま消耗戦に突入すんのはまずい。
最後まで生き抜く気なら、ここで魔力を大量に使っちまったら持たないぞ』
『くっ、分かった』
二人は撤退を即断し。
ランサーは逃走経路上に縛鎖結界を展開して、春紀を抱えて跳躍を開始する。
ライダーは二台目のスコープドッグが肩に担いだ【ソリッドシューター】を連続で撃ち込み、強引に縛鎖結界を破壊する。
―――爆発による煙が流れる頃には、ランサー主従の姿は消えていた。
◆
『……撤退したか』
『追撃は無用です。ライダーさん、おつかれさまでした』
『了解』
辺りに包まれる炎の中。
スコープドッグを降着姿勢に変形させ、コックピットから降りるキリコ。
―――それと同時に、スコープドッグは霧のように姿を消した。
隠れていたルリも姿を現す。
「あの機動兵器を丸ごと呼び出すとか。ライダーさんの宝具凄いですね」
「二体出撃させて眉ひとつ動かさないマスターの方が異常だがな……む」
キリコは空を見上げ、もう一体接近している存在を感知する。
「どうしました?」
「どうやら俺はエスパーだったらしい。……待ち人が来たようだ」
キリコが見上げる先―――貨物運搬用大型クレーンの上。
大きな旗を持った金色の髪の女性が、凛として佇んでいる。
その女性は跳躍し、ルリとキリコの前へと優雅に降り立つ。
気品のある顔立ち、意志の強そうな瞳。
でも何故だろう―――アオイ中佐や、ハーリー君と同じ雰囲気を纏っている感じがする。
「NPCの被害は……出ていないようですね」
辺りを見て、ルーラーはため息を吐いた。
「……サーヴァント同士の戦闘は、どうしても被害が大きくなります。
一般NPCを殺せばペナルティとなりますので、『注意』してください。
もし再度自発的に建物を壊し、NPCに被害が出た場合は、『警告』させて頂きますので」
「はい。以降気をつけます」
ぺこりとルリはルーラーに頭を下げる。
「……貴女のように聞きわけのよいマスターばかりだと良いのですが。
―――それでは、失礼します」
「あ。ちょっと待ってください」
踵を返そうとしたルーラーを引きとめるルリ。
「なんでしょう?」
「少しだけ、お話聞かせてもらってもいいでしょうか?
あ、少し早いですが、朝食を御馳走しますよ」
「……はい?」
【A-8/港の倉庫群/一日目 未明】
【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ~The prince of darkness】
[状態]:健康、魔力消費:微
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:ペイカード、地図
[所持金]:富豪レベル(カード払いのみ)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟』の調査。
1.ルーラーから情報を引き出す。
[備考]
・ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。
【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】
[状態]:健康
[装備]:アーマーマグナム
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。
1.ホシノ・ルリの護衛。
[備考]
無し。
【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:旗
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1.???
[備考]
?
◆
―――春紀を抱え、夜空を駆けるランサー。
「…………何も」
「あん?」
「……何も、できなかった」
抱えられながら、春紀はぽつり、と言う。
「ハ。ただの人間が、聖杯戦争やろうってのがそもそも間違ってるのさ。
どうする?
願いを捨てて戦いをやめて、生きてみる気になったかい」
「……ッ! 辞めねーよ!!」
「ったく、頑固だねえ」
杏子は苦笑しながら、民家の屋根と屋根の間を大きく跳躍する。
春紀を抱えながら、器用にサンドイッチのビニールを破き。
ひょいと口へ放り込んで、魔力の回復を行う。
「おい、跳びながら食うな!あたしにパンクズがかかるだろ」
「はは、ごめんごめん」
「それはあたしの口癖だ!」
「ま、そんだけ元気なら、まだまだ大丈夫さ」
空中で笑いながら、二人で家路へと向かう。
【B-9/市街地/一日目 未明】
【寒河江春紀@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:ガントレット&ナックルガード、仕込みワイヤー付きシュシュ
[道具]:携帯電話(木片ストラップ付き)、マニキュア、Rocky、うんまい棒
[所持金]:貧困レベル
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。一人ずつ着実に落としていく。
1.住居であるアパートに戻り、杏子に魔力貯蓄のため飯を食わせる。
[備考]
・ライダー(キリコ・キュービィー)のパラメーター及び宝具『棺たる鉄騎兵(スコープドッグ)』を確認済。
【ランサー(佐倉杏子)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、魔力消費:微
[装備]:多節槍
[道具]:Rocky、おにぎり、パン、ポテチ、チョコビ、ペットボトル
[思考・状況]
基本行動方針:寒河江春紀を守りつつ、色々たべものを食う。
1.春紀の護衛。
[備考]
無し。
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|028:[[テンカワ・アキト&バーサーカー]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|030:[[ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー]]|
|028:[[テンカワ・アキト&バーサーカー]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|031:[[せんそうびより]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
|013[[寒河江春紀&ランサー]]|[[寒河江春紀]]&ランサー([[佐倉杏子]])|:[[]]|
|014[[ホシノ・ルリ&ライダー]]|[[ホシノ・ルリ]]&ライダー([[キリコ・キュービィー]])|046:[[何万光年先のDream land]]|
|OP2[[月を望む聖杯戦争]]|ルーラー([[ジャンヌ・ダルク]])|~|
*初陣 ◆MQZCGutBfo
―――いいかい、こういうのは作戦が大事なんだ。最初はあたしに任せときな。
…………ああ。
まず春紀が先行して突入。
敵にアンタの存在を誇示、そしてゆっくりと反時計まわりに動いてくれ。
…………ああ。
焦らずに動いて敵の目を引き付けるんだよ。
要は囮ってやつだ。
敵がアンタに釘付けになったタイミングを見計らってあたしも出る。
…………ああ。
なんだオイ、緊張してんのかい?
ま、初陣なら仕方ねーか。
大丈夫、いざとなったらあたしが抱えて逃げ切ってやるさ。
…………ああ。
ほらほら、女は度胸だよ。
いっちょ派手にいこうじゃない。
…………いや派手にいったら駄目だろうが。
◇
―――月が照らす深夜の街を、二人の少女が歩いている。
「いや~大漁大漁。春紀、初陣の成果としては上出来だよ」
どこに納めていたのか、赤い髪の少女、佐倉杏子がお菓子やおにぎりなどを次々取り出し、
一見すると彼女の姉のような姿の女性、寒河江春紀が溜息をついた。
「あーあ。盗みだけはやらずにこれまで生きてきたんだけどなあ………ほい、これも」
ペットボトルを投げて渡す。
これが唯一正式にお金を払って購入したもの―――それを春紀が購入している間に、杏子がスタコラと逃走したのだ。
「さんきゅ。ま、勉強代さ。
客が来ない場所だからって、夜勤なんかを一人でやらせるからこうなるんだよ」
ピッとフィルムを破り、おにぎりにパクつく。
その様子を見て苦笑する春紀。
「ったく、ウチのアパートに着くまで待てないんかね」
「ひはたないはろ……んぐ。
いつ戦闘になるかもわからないし、そもそも春紀がびんぼーじゃなければ、わざわざこんな遠出せず買いまくれたのに」
「びんぼーで悪うございましたね……」
喋りながらでも、ぱくぱくとおにぎりをすぐに平らげ。
ぱんぱん、と手を払った。
「ま、ないもんは仕方ないさ。いくらでもやりようはあるし……ほい、食うかい」
戦利品のうんまい棒を春紀へ差し出す。
「あんがと、杏子」
「ランサーだっての。外じゃ気を付けろよ」
「おっと、ごめんごめん」
―――なんでもサーヴァントというのは。
生前の名前を他者に知られると弱点が露呈する危険性があるため、常に名前を隠して行動するんだそうな。
例えば杏子の場合、ソウルジェム―――家で見せてもらった赤い宝石―――を破壊されると、死んでしまうらしい。
こうして万引き――というかこの量だと強奪じゃないか――して食糧を手に入れたのも、
杏子は食べることで魔力回復できるからと、足がつきにくいようにわざわざ遠出して実行したんだ。
「……まあ。名前呼ばれんのは別に嫌じゃねーけどさ」
ぽりぽりと頬をかきながら杏子は言う。
「なんだよー意外と可愛いとこあるじゃんか」
「ばっ、やめろっつーの」
春紀は杏子の後ろにまわって首に手をまわし、うりうりとほっぺを突っつく。
姉妹のようにじゃれあいながら、家路へとのんびりと歩く。
◆
街を歩く銀色の髪の少女と、青い髪の屈強なる男。
「さて。調査と言っても何から手をつけましょうか」
「……」
頬に手を当て、しばし思考する少女、ホシノ・ルリ。
キリコ・キュービィーは腕を組み、ルリを無言で見守っていた。
「まずは土地自体を把握しないと。地図……とか売っているんでしょうか。
そもそも、これで買えるんでしょうか?」
手には最初から持っていたペイカード。
しばらく歩いていると、深夜でも明るい光を放っている店が見えてきた。
「あのお店に入って確認してみましょうか」
キリコは霊体化し、ルリはコンビニエンスストアに入り、地図を取ってレジへと向かった。
カードを出して店員に尋ねてみる。
「……これで購入できるでしょうか?」
「ああはい、カードですね。少々お待ちください」
じっと若い男性風の店員をみつめる。
(……参加者以外はNPCという話でしたが、よく出来ていますね)
「あっ、えと、大丈夫みたいですよ」
「ありがとうございます。ちなみに、この地図で言うと現在地はどこになるでしょうか」
「えっと……この辺りですね」
店員が開いた地図を指し示す。
「ありがとうございます」
「いえいえ。ありがとうございました」
ルリは店員にぺこりとお辞儀して、店を後にする。
「買い物はこのカードを使えば大丈夫なようですね」
「そのようだな」
店から出た後、霊体化を解くキリコ。
「後は……やはり詳しい方に聞くのが一番ですね」
購入した地図を開き、教会のある地点を指差す。
流れてきた知識では、そこに聖杯戦争を運営している人達がいるらしい。
「ここに直接行くのが手っ取り早いですが……。
もし『狩り』を行うタイプのマスターがいるのなら、
教会の周辺で待ち伏せを行っている可能性がありますよね」
「そうだな」
んー。と指で軽く頬をつく。
「行けないのなら、呼んじゃうまでですね」
「……ほう」
ルリは辺りを見回し。
「ライダーさん、この辺りの民間人の存在とか、分かっちゃったりします?」
「俺はエスパーじゃない」
「んー……。ライダーさんが宝具に乗れば、熱源感知とかできますか?」
「可能だ」
腕組みを解き、ルリを見下ろすキリコ。
「だが俺の宝具を出撃させるためには魔力を使う。こんな時期に使って大丈夫なのか」
「あ。そちらは御心配なく」
心配ご無用と手の平を出す。
―――ホシノ・ルリは方舟へ、星一つを電子的に制圧できる『ナデシコC』と『オモイカネ』を使いハッキングしてきたのである。
元々『電子の妖精』と呼ばれる程の電子戦での驚異的な能力に加え、極大とも言える電子戦武装。
この方舟の地におけるホシノ・ルリは、魔力の塊と言える程に、力が溢れだしていた。
そうか、とキリコは頷くと、自身の宝具を現出させる。
全高3.8メートル。
全身を緑色で塗装した人型の兵器。左肩だけが赤く塗られている。
形式番号:ATM-09-ST 『スコープドッグ』
他者を守るのではなく、他者を殺すためだけに特化した戦争の消耗品。
そこにアーマード・トルーパーが存在するだけで、平和な街は最低な戦場へと姿を変える。
スコープドッグの脚を変形させ、胴体を地に降ろし。
頭部を前から開き、狭いコックピットへと搭乗するキリコ。
『搭乗完了だ』
『では辺りに、熱源のない大きな建物とかはありませんか?』
念話で通信を行い始める二人。
キリコはレーダーを見て、港付近の倉庫群らしき場所に熱源反応がないことを確認し、報告する。
『ではそちらへ移動お願いできますか』
『了解した。……乗れ』
ルリにスコープドッグの手を差し出し、乗らせるように促した。
手の平の上に乗り、指にしっかり掴まっていることを確認し。
『行くぞ』
スコープドッグの足の裏にあるギアが、キュイイインと音を立て回転しはじめ、
ローラーダッシュによって、倉庫群への移動を開始した。
◆
「……っ! なんだ……?」
帰宅の途中、春紀の左手に宿った令呪が反応する。
そして同時に、ドォン!ドォン!と爆発する音が響く。
海の方角から聴こえるようだ。
「なんだあ?いきなりおっぱじめてる奴らがいるのか?」
「どうする、きょ…ランサー」
「アンタが決めることさ、マスター。
素通りしてあたしの魔力を温存するもよし。
戦ってる奴らがいないか偵察するもよし。挨拶代わりに戦いに介入するもよしだよ」
「む。よし………じゃあ、偵察。
聖杯戦争の実戦を見ておきたいし、もし隙がありそうなら―――殺ろう」
春紀の目つきが鋭くなり、雰囲気が暗殺者のそれに変わる。
「ハッ、いいね!そうこなくっちゃ!」
杏子は魔法少女装束に身を包む。
春紀もバッグからガントレットを取り出し装着する。
「って、マスターもついて来る気か?」
「……は?」
「んー。
春紀も人間としてはなかなか動ける方だとは思うけど。
サーヴァントの戦いってのは次元の違う人外の戦いだ。
マスターは身を隠して、戦いはサーヴァントに任せる、ってのがセオリーさ」
杏子は腰に手を当てて説明する。
「あのな、あたしはあたしの願いのために戦うんだ。
杏子に全部任せて寝て待ってるってのは違うだろ」
春紀は少し怒ったように、同じく腰に手を当てて言う。
「んー……」
(今回の戦いは七騎による戦いじゃない。
一人で置いておいても、他の奴らに襲われる可能性も高いか……)
杏子は少し腕組みした後。
「分かった。でも相手のサーヴァントと戦闘になったら、まず隠れてろよ。
アンタはおかしな連中との戦いは素人なんだろ」
「ああ、分かった。ここまで来たら焦ったりしないさ。……最後のチャンスなんだからな」
春紀は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「さ、行こうか、ランサー!」
「ったく。オーケー、マスター」
◆
>ルリちゃん、こーゆーときはね、どーんとやっちゃえばいいんだよ!
>そうそう。男には派手に目を惹かせておびき寄せちゃえばいいの。
待ち人は女性でしょうけどね、とひとりごち。
―――あの人達なら、この状況でどう対応したでしょう、
と前任のナデシコクルーのことを考えていたホシノ・ルリ。
『バカばっか』と言っていた自分。言わなくなったのは、いつからか。
『マスター。接近する熱源2。片方は恐らくサーヴァントだ』
『……残念。ですが、別口の情報を得るチャンスでもありますね』
お目当ての対象であれば恐らく一人。
今向かってきているのは、騒ぎを聞きつけた参加者だろう。
スコープドッグでの破壊を止め、キリコがルリの待機している場所へと戻ってきた。
ルリの手の甲の違和感が強くなる。
「なるほど。この令呪が他のマスターの存在を感知させてくれるのですね」
IFS―イメージ・フィードバック・システム―の処理によって施された手の甲の紋様の上に、
更に印された三画の紋様。その手を眺め、頷く。
『マスター。ここは戦場になる。隠れていろ』
『いえ、少しでも情報を引き出したいので。守ってくださいますか?』
『了解』
倉庫が四方にある十字路。
スコープドッグに乗ったキリコを他者が来る方角に配置させ、ルリがその後方に下がった。
―――そしてやってくる、槍を持った赤い装束の少女と、学生服を着た背の高い少女。
「なんだァ? 戦闘やってんじゃないのかい」
赤装束の方が口を開く。
「ええ、事情がありまして。
こちらに戦闘の意思はありません」
「……あのなあ。
聖杯戦争に呼ばれて、戦闘の意思ありません。はいそうですか、なんて言うワケないだろ。
だいたい、そんなデカブツに銃を構えさせておいてよく言うな」
スコープドッグは、油断なく【GAT-22 ヘビィマシンガン】を赤装束に向けている。
ルリが赤装束の少女を見つめると、相手の情報が流れてくる。
少女がランサーのクラスのサーヴァントであること、敏捷の高い速戦型のパラメータであることが把握できる。
(こちらが分かる、ということは。相手のマスターにも、こちらのサーヴァントの情報が伝わる、ということですね)
相手ランサーの情報を念話でキリコへと伝える。
『了解した』
キリコの返事に頷くと、赤いランサーとの会話を続ける。
「全く貴女の言う通りですが、私達が情報交換を求めているのも事実です」
「……だとさ。どうする」
赤いランサーは油断なくスコープドッグと向き合ったまま、後ろの少女に振り返らずに問いかけた。
―――あちらも念話をしていたのであろう、しばらく経った後。
「悪いね。情報の交換なら、コイツで交換し合おうってことになった」
槍を手で回転させた後、両手で構える赤いランサー。
「そうですか。残念です」
ルリは相手のマスターと目を合わせる。
制服を着た少女も、殺気を漲らせている。
「私はホシノ・ルリです。貴女は?」
「……答える必要はないね」
「そうですか」
ルリは残念そうな表情もせず、後方へと歩いて行き。
『ライダーさん。兵器使用自由、出来るだけ派手にやっちゃってください』
『了解』
キリコに指示を告げ、後方の物影へと退避する。
◇
『……お、おい。あれロボットだろ!? 流石に色々おかしいだろ、本当に大丈夫なのか?』
『ハン。別にデカブツの機械型魔女とも…………銃を使った相手とも、戦ったことあるさ。
一々相手のタイプに驚いてたら戦いなんてできねーよ。
それより隠れてな、ここでいきなり死んだりするんじゃねえぞ春紀』
ランサーは念話でそう言い放つと、ライダーの乗ったロボットと対峙する。
『分かった、杏子も気を付けてな』
敵ライダーの情報を分かる限りランサーに伝え、春紀も物影に隠れ戦況を見守る。
◇
「ようライダー。いきなり宝具の御開帳とは景気がいいじゃないか」
槍を構え話しかけるランサー。
キリコは答えず。
無言のまま、ランサーに照準を合わせて【ヘビィマシンガン】を連射する。
「ハッ、問答無用ってワケかい!」
ランサーが居た場所のアスファルトを銃弾が削り。
地面を跳躍したランサーは両側の倉庫の壁を使って三角飛びで俊敏に避けていく。
かわされたマシンガンの銃撃が倉庫を蜂の巣へと変えていく。
「今度はこっちからいくよ!」
倉庫の屋根を伝い、スコープドッグの背後へと回るランサー。
壁を蹴って、槍を片手に死角からの攻撃を仕掛ける。
―――が、キュイイイイイ!!とけたたましく音を鳴らしたスコープドッグは、
ローラーダッシュで前へ加速し、倉庫の道路を抜け大きく旋回する。
「チッ、でかい図体のくせになかなか速いじゃないか」
ランサーは再び屋根へと登り、倉庫と倉庫の屋根の間を跳躍して、
スコープドックよりも高い位置をキープし、距離を詰めてくる。
『―――ならば足場を無くすだけだ』
胴体の脇から【SMM2連装ミサイル】を発射し、キリコから向かって左右の倉庫へと放った。
2発のミサイルが一直線に倉庫へと向かっていき。
ドォォン!ドォォン!と大きな音を立て。
―――穿たれた倉庫は崩れ、そして赤く燃えていく。
「げっ! どんだけ火力たけーんだよ!」
ミサイルの発射を見た瞬間、ランサーは屋根から跳躍しており、そのまま倉庫間の道路へと着地した。
『丸見えだな』
「ハッ!」
ヘビィマシンガンをランサーの周辺にばら撒くスコープドッグ。
ランサーは再び跳躍した後、空中で槍を多節棍状にし、
一つ先の倉庫の煙突へ投げて絡ませて自身を引き上げる。
『……』
キリコは表情を動かさず、
スコープドッグのターボをふかし、ギアの回転を上げ、音を立てて再びランサーを追う。
◇
「けほっけほっ……無茶苦茶だろアイツら」
隠れていた倉庫から出てくる春紀。
―――むせかえるような硝煙と炎の匂い。
抉れているアスファルト。
破壊されていく倉庫。
「これが……聖杯戦争、か。……ガチで戦争じゃないか」
ふるふると春紀は首を振り、パシンと頬を打って気合を入れ直した。
物影に隠れながら、相手のマスター―ホシノ・ルリと言ったか――が、
当初居た辺りへと移動するが、既に人影はなく。
―――そこへ。
キュイイイイン!!とローラーを回転する音が聴こえてくる。
振り返ると、迫りくる鋼鉄の巨人。
杏子が、跳んでそれを追っていた。
『目標確認。殲滅する』
「くそっ!マスター!!」
鋼のロボットは春紀の姿を確認すると、躊躇なくマシンガンを構え、撃ち放つ。
「くっ…………!!」
「チィ!!」
無駄と分かりつつ、春紀は横っ跳びに飛ぶ。
―――その前方。
赤い鎖のようなものが三重に展開され。
鋼鉄の銃弾を弾いていく。
ランサーが己のマスターを守るため、縛鎖結界を現出させたのだった。
『……なるほど、魔術というものか』
「―――取った!!」
ランサーの槍が、春紀に向いていたスコープドッグの頭と胴体の間を後ろから貫いた。
想像した以上に、装甲は薄く。
槍を引き抜き、赤い肩を踏み台にして跳躍し、マスターの元へと戻る。
「ありがとう。助かったよ。
……だけどあのロボをやったのか、ランサー。凄いな」
「ハッ、まーな」
鋼の巨人は音を立てて爆発をし始め。
自身が発生させた紅蓮の炎に焼かれていった。
辺りの倉庫群がその炎で赤色に照らされていく。
―――そして。炎の中から、無傷の男が姿を現した。
『マスター』
『許可します』
そして間髪いれず、ライダーは二体目のスコープドッグを現出させる。
「「な……」」
杏子と春紀は茫然と、悠々とロボットに乗り込む男を見る。
『やべえ、退くぞ春紀。相手も不死身系だ。
このまま消耗戦に突入すんのはまずい。
最後まで生き抜く気なら、ここで魔力を大量に使っちまったら持たないぞ』
『くっ、分かった』
二人は撤退を即断し。
ランサーは逃走経路上に縛鎖結界を展開して、春紀を抱えて跳躍を開始する。
ライダーは二台目のスコープドッグが肩に担いだ【ソリッドシューター】を連続で撃ち込み、強引に縛鎖結界を破壊する。
―――爆発による煙が流れる頃には、ランサー主従の姿は消えていた。
◆
『……撤退したか』
『追撃は無用です。ライダーさん、おつかれさまでした』
『了解』
辺りに包まれる炎の中。
スコープドッグを降着姿勢に変形させ、コックピットから降りるキリコ。
―――それと同時に、スコープドッグは霧のように姿を消した。
隠れていたルリも姿を現す。
「あの機動兵器を丸ごと呼び出すとか。ライダーさんの宝具凄いですね」
「二体出撃させて眉ひとつ動かさないマスターの方が異常だがな……む」
キリコは空を見上げ、もう一体接近している存在を感知する。
「どうしました?」
「どうやら俺はエスパーだったらしい。……待ち人が来たようだ」
キリコが見上げる先―――貨物運搬用大型クレーンの上。
大きな旗を持った金色の髪の女性が、凛として佇んでいる。
その女性は跳躍し、ルリとキリコの前へと優雅に降り立つ。
気品のある顔立ち、意志の強そうな瞳。
でも何故だろう―――アオイ中佐や、ハーリー君と同じ雰囲気を纏っている感じがする。
「NPCの被害は……出ていないようですね」
辺りを見て、ルーラーはため息を吐いた。
「……サーヴァント同士の戦闘は、どうしても被害が大きくなります。
一般NPCを殺せばペナルティとなりますので、『注意』してください。
もし再度自発的に建物を壊し、NPCに被害が出た場合は、『警告』させて頂きますので」
「はい。以降気をつけます」
ぺこりとルリはルーラーに頭を下げる。
「……貴女のように聞きわけのよいマスターばかりだと良いのですが。
―――それでは、失礼します」
「あ。ちょっと待ってください」
踵を返そうとしたルーラーを引きとめるルリ。
「なんでしょう?」
「少しだけ、お話聞かせてもらってもいいでしょうか?
あ、少し早いですが、朝食を御馳走しますよ」
「……はい?」
【A-8/港の倉庫群/一日目 未明】
【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ~The prince of darkness】
[状態]:健康、魔力消費:微
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:ペイカード、地図
[所持金]:富豪レベル(カード払いのみ)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟』の調査。
1.ルーラーから情報を引き出す。
[備考]
・ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。
【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】
[状態]:健康
[装備]:アーマーマグナム
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。
1.ホシノ・ルリの護衛。
[備考]
無し。
【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:旗
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1.???
[備考]
?
◆
―――春紀を抱え、夜空を駆けるランサー。
「…………何も」
「あん?」
「……何も、できなかった」
抱えられながら、春紀はぽつり、と言う。
「ハ。ただの人間が、聖杯戦争やろうってのがそもそも間違ってるのさ。
どうする?
願いを捨てて戦いをやめて、生きてみる気になったかい」
「……ッ! 辞めねーよ!!」
「ったく、頑固だねえ」
杏子は苦笑しながら、民家の屋根と屋根の間を大きく跳躍する。
春紀を抱えながら、器用にサンドイッチのビニールを破き。
ひょいと口へ放り込んで、魔力の回復を行う。
「おい、跳びながら食うな!あたしにパンクズがかかるだろ」
「はは、ごめんごめん」
「それはあたしの口癖だ!」
「ま、そんだけ元気なら、まだまだ大丈夫さ」
空中で笑いながら、二人で家路へと向かう。
【B-9/市街地/一日目 未明】
【寒河江春紀@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:ガントレット&ナックルガード、仕込みワイヤー付きシュシュ
[道具]:携帯電話(木片ストラップ付き)、マニキュア、Rocky、うんまい棒
[所持金]:貧困レベル
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。一人ずつ着実に落としていく。
1.住居であるアパートに戻り、杏子に魔力貯蓄のため飯を食わせる。
[備考]
・ライダー(キリコ・キュービィー)のパラメーター及び宝具『棺たる鉄騎兵(スコープドッグ)』を確認済。
【ランサー(佐倉杏子)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、魔力消費:微
[装備]:多節槍
[道具]:Rocky、おにぎり、パン、ポテチ、チョコビ、ペットボトル
[思考・状況]
基本行動方針:寒河江春紀を守りつつ、色々たべものを食う。
1.春紀の護衛。
[備考]
無し。
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