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*美樹さやか&バーサーカー(3) ◆ 不可思議な空間があった。 それはいかなる科学的、及び物理的手段によっては観測されない『異常』であった。 数十年に一人という魔術の素養に長けた者ならば気づけたかもしれない。 ある小さな市街を覆うようにして生まれた空間の歪。 歪みは砂時計のように∞の形を描きながら、くるくると回り続けている。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 くるくる、と。 延々と。 永遠と。 刹那的な感情によって小さな宇宙が回転し続けている。 誰もそれに気づかない。 ある偶然によって観測された瞬間から、僅か数瞬だけ巻き戻され、観測の間違いを探す。 気の遠くなるような時間の中で、世界は穏やかに進み続けていた。 誰もが気づかぬまま、悪魔の偽千年王国は今日もまた動き続ける。 ◆ 美樹さやかは、そんな『誰もが』のうちに含まれ一人の人間だった。 この世界での生に心の奥底で違和感を覚えつつも、その違和感を気の遠くなるような一瞬の中で薄められていく。 今日もまた、その違和感を消化できないまま学園へと向かっていた。 何をすることも出来ない。 この宇宙は、この宇宙を作った悪魔そのものなのだ。 「うーっす、さやか」 友人、佐倉杏子が語りかけてくる。 眠そうにまぶたを擦り、呑気な犬のような表情を浮かべている。 違和感。 「おはよう、美樹さん」 先輩、巴マミが語りかけてくる。 後ろにくっついてくる少女を穏やかに撫でながら、幸福に満ちた顔で校内へと向かっている。 違和感。 「おっはよー!」 さやかはすっかり慣れてしまった違和感を噛み殺し、必要以上に明るい声を発する。 笑いながら、校内へと向かう。 この世界は偽りだと感じているさやかでも、この喜び自体に偽りはない。 いつかはこれが淀みのない喜びへと変わる。 そこに言いようのない恐怖を感じつつも、その恐怖の理由がわからない。 さやかはそんな気持ちから逃げるように視線を虚空へ移した。 「あっ……」 すると、ベンチに一人の影を見つけた。 桃色の髪をした小柄な少女。 隣にはやつれたように細い体をした黒髪の少女がいる。 言いようのない怒りと哀しみと―――――嫉妬がこみ上げる。 「どうしたの、美樹さん」 「えっと、あの子なんですけど……」 「おー、転校生じゃん」 さやかの様子を奇妙に思ったマミが話しかけ、それに応えたさやかの声に対して杏子が反応を示す。 二人ともあの少女のことを詳しくは知らないようだ。 さやかも知らない。 ただ、同学年の帰国子女であることしか、知らない。 ふと、胸が傷んだ。 正確に言えば、常に持ち歩いているアクセサリーが傷んだ。 「どこかであった、ような……」 「はー? なんだそれ?  さやか、不思議ちゃんか?」 「あぁん?」 小馬鹿にするような杏子の声に対して、さやかは眉をぴくぴくと動かせて敵意のようなものを示す。 取っ組み合いを始める。 いつものことだと、マミはただ愉快に笑っているだけだ。 ふと、さやかは視線をもう一度桃色の少女へと移した。 黒髪の少女が、妖艶に笑っていた。 ――――怒りを超えた、殺意が胸に芽生えた。 「……さやか?」 その表情の変化に気づいた杏子が、どこか怯えたような声で語りかける。 ハッ、と我に返り、いつものにこやかな顔を浮かべる。 どこか、不自然な笑みであったことはさやかも気づいていた。 理解しようのない怒りを覚えながら、さやかはもう一度だけ、桃色の少女と黒髪の少女へと視線を移した。 歪な、二人だった。 ◆ 「……」 さやかは、不自然な気持ちを整理するために一人で屋上に佇んでいた。 杏子はマミとともに食事を取っているのだろう。 ソウルジェムを眺める。 魔法少女である証。 濁りが見えた。 さやかは、中庭へと視線を移す。 上条恭介と志筑仁美が居る。 仲の良さそうに、二人は話し込んでいた。 吹っ切れたとは言え、どこか陰鬱な気分のまま、次は天空を眺めた。 そこには雲ひとつない空の中に、砂時計が回るように◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆には◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆まるで時を戻すように◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆円環の理の穂先に狙われた◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆いつか来る終わり◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆鹿目まどか◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆私の友達◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そこには雲ひとつない空が広がっていた。 不可思議な気持ちのまま、さやかは呟いた。 「なーんか、アンニュイさやかちゃんって感じー?」 うーん、と大きく伸びをする。 理解が出来ない違和感と焦燥感。 しかし、理解が出来ない以上、解決が出来ない。 もやもやとした胸のうちのまま、さやかは教室へと引き返す。 すると、脚元に奇妙な生き物が居た。 「やあ、さやか」 「ん?」 うさぎのようにも見えるが、間違いなくうさぎではない。 少なくとも、うさぎは言葉を喋らない。 薄汚れたうさぎのような存在はインキュベーター。 外宇宙からやってきた地球外生◆◆◆◆◆◆あり◆◆◆◆魔法少女の生みの親◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆憎むべき◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆奴隷と化した◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆「キュップイ」 奇妙な魔力が走ったその瞬間、インキュベーターが奇妙な行動を取った。 それは外面から察することではなく、宇宙そのものにクラッキングするような不正行為だった。 短い間、世界から切り離される。 世界の奴隷と化したインキュベーターが残した、最後の切り札。 世界そのものを改竄する力。 それは世界の何処かで観測されている以上、宇宙を飛び回っているインキュベーターもまた解析している。 負荷が大きく利に合わないために普段は使わないだけだ。 「やあ、さやか。なんだか、久し振りだね」 「…………………あ」 インキュベーターの声にさやかは、急激な衝撃に襲われる。 ガツンとハンマーが頭に直撃したような衝撃。 そこから芋づる式に記憶が掘り起こされていく。 鹿目まどか。 私の友達。 私を救ってくれた友達。 絶望の行き着く先。 魔女。 救い。 円環の理。 暁美ほむら。 世界の敵。 悪魔。 鹿目まどかの、友達。 全てを思いだした。 「あああああああああ!!!!!!」 「思い出したようで何よりだよ」 さやかは絶叫を上げ、地面に膝をつき片手で顔を覆う。 荒い息を吐きながら、状況を想い出す。 世界そのものである暁美ほむらによって、さやかの記憶は改竄された。 それを世界にクラッキングを仕掛けたインキュベーター、キュウべえが直した。 しかし、それもすぐに世界の修正が入る。 ならば、こんなことをしている暇はない。 「あの、転校生……! くそっ!」 さやかは一瞬で魔法少女へと変わり、駆け出す。 しかし、ここはインキュベーターが世界から切り離した空間。 当然出口など見つからない。 「待ちなよ、相手は因果を塗り替えた相手だよ。  『斬れば斬れる』、なんて当たり前のことを覆すのが因果律の操作さ。  君じゃ勝てない」 「キュウべえ!早くここから出しなさい!  というか、アンタもよく私の前に顔を―――――!」 「ちょっと待ってよ、さやか。今日はその暁美ほむらについての相談なんだ」 一拍遅れて、キュウべえもまたさやかの敵であることを想い出す。 希望を与えて絶望を取り出す、感情を持たない外宇宙の生命体。 彼らは統一の存在であり、全てがキュウべえである。 宇宙を救うために、小さなさやかの周囲を傷つける、彼らもまた定義通りの悪魔。 「暁美ほむらを殺して欲しい、それが僕らの相談事だよ」 悪魔と悪魔の対立――――いや、それは暁美ほむらの勝利に終わっている。 インキュベーターはもはや世界の、暁美ほむらの奴隷だ。 抗うことは出来ない。 インキュベーターは徐々にインキュベーターでなくなっていく。 正しく世界の奴隷へと成り果てるのだ。 だからこそ、暁美ほむらを殺そうというキュウべえの発言は理解できた。 しかし、感情が許しはしない。 「私は忘れてない。アンタが、まどかの願いを踏みにじろうとしていたことを」 「円環の理についてはいいだろう、失敗したんだから。  それに、今は時間がない。手短に話すよ」 キュウべえはどこからか一つの木杭を取り出した。 それは奇妙な木杭だった。 一見すると、ただの木片にしか見えない。 しかし、魔法少女となり、一時は円環の理の一部であったさやかにはわかった。 何か奇妙な力がある。 概念そのものであるようにも思えた。 「遠い遠い宇宙で手に入れたものさ。  この木片自体が概念的にも僕達には理解できない宇宙そのものと言っても良い」 「……手短に済ますんでしょう?」 「これは全ての願いを叶える、万能願望機『月の聖杯』へと至る道具なのさ。  その名を『ゴフェルの木』、正しくは『ゴフェルの木片』。  ノアの方舟は知っているかい?」 「知らない」 「なら、いいよ。ただの奇跡の一つさ」 キュウべえは尻尾でくるくると木片弄りながら、さやかへと語りかける。 言葉とは裏腹にぞんざいな扱いであった。 さやかは話の内容に対する不信感が高まる。 「これを使うと聖杯をめぐる争い、『聖杯戦争』の舞台へと飛ばされる。  願いを持った人間ならば、それこそ距離や概念なんて関係なくね。  そこでは多時限にわたる全ての世界の出来事を観測した『ムーンセル』が蓄えたデータを元にパートナーのサーヴァントが召喚される。  マスターとサーヴァントの二人一組で聖杯の所有権を争うのさ」 「アンタの話はわかりづらいのよ」 「英霊、つまりは過去に偉業を成した英雄たちをパートナーにして殺し合うのさ。  舞台はNPC、作り物の人間たちも暮らす電子空間。  最後の一人だけが願いを叶えられる。  詳しくは管理者にでも聞くといいよ」 キュウべえは話を要約する。 理解は出来た。 つまり、願いを叶えるために他の人間を殺さなければいけないということだ。 願いを叶えるために、他人を踏みにじらなければいけないのだ。 「……願いが叶う?  また、そんな話で釣ろうっていうの?」 「嘘はつかないよ、僕は。  実際、願いは叶えてみせたじゃないか。  それに騙すのなら何も知らない子を騙せばいいじゃないか。  暁美ほむらに対する敵意を抱いているのが、全てを知っている君しかいないから君に頼んでいるんだ」 円環の理。 その存在を知っているのは、かつて円環の理の一部であった美樹さやかと百江なぎさぐらいなもの。 そして、円環の理の『基』である鹿目まどかと親交があったのはさやかだけ。 暁美ほむらと同じく、鹿目まどかに執着しているのは、さやかだけ。 それでも、さやかの心から疑心の念を消えなかった。 「アンタが行けばいいじゃない」 「僕たちはこれを、それこそ君たちが理解できないほどの時間、所有していた。  でも、未だに方舟へは導かれない。  恐らく、『願い』というものへの執着っていうのが足りないんだろうね」 キュウべえは抑揚のない声で応える。 暁美ほむらを排除しようとしていることはわかるが、人間ほどの強い願いを持てないのだろう。 さやかは吟味する。 何度も、苦手とも言える頭脳労働を繰り返す。 しかし、出てくる答えは一つだけだった。 「……わかったわ」 溺れる者は藁をも掴む。 奇跡による解決以外の道は、残念ながら若すぎるさやかは知らなかった。 「助かるよ、さやか」 「インキュベーター、アンタもいつかは倒す。  円環の理を、私の友達を踏みにじる奴は、私の敵だ」 さやかはキュウべえに、インキュベーターに対する敵意を剥き出しにする。 キュウべえは困ったような動作で肩をすくめてみせた。 その動作が苛立つが、想いを抑える。 さやかがキュウべえの持つゴフェルの木片へと手を伸ばした、その時だった。 『それを手に取る前に、もう一度よく考えたほうが良い』 どこからか、質量というものに干渉しないアストラルな声がさやかに届く。 すでに肉体というものが偽りに過ぎない魔法少女の魂に語りかける声。 その声は剥き出しの刃のような危険に溢れた声だった。 『それを手にとったが最後、お前は二度とそこに戻れなくなる』 忠告のような。 激励のような。 悪魔の誘いのような。 不可思議な、思惑を掴み取れない声だった。 『死して消えるか、生きて溶けるか。  魔法少女となった時点でお前は元より救われぬ身、唯一の救いが円環の理へと導かれること。  今いる場所へは、一生戻ることが出来なくなる』 今いる場所。 佐倉杏子が居て。 巴マミが居て。 志筑仁美が居て。 上条恭介が居て。 ――――鹿目まどかが居る世界。 『お前が願いを抱きそれを手にした時、お前はお前でなくなるのだ』 巴マミに憧れた想いを。 佐倉杏子が差し伸べた手も振り払った想いを。 鹿目まどかが願わないものを。 人を犠牲にして、自分のために聖杯を手に入れる。 それは、美樹さやかではないのかもしれない。 「まどかが泣いているんだ」 「さやか?」 その声に対して、さやかは応えてみせた。 声が聞こえていなかったインキュベーターは突然のさやかの語りに疑問の声を挙げる。 しかし、さやかはそれを意に介さない。 「まどかは無意識の内に、何度も考えてたんだと思う。  魔女へと変わる自分達、冷たい仮面の奥で苦しんでいる知らないはずの友達。  どうすれば救われるのか、ずっとずっと考えてたんだと思う。  その結果が、円環の理なんだ」 「…………?  君は何を言っているんだい?」 手にすれば己でなくなる。 手にすれば人が犠牲になる。 人が苦しんでる中で自身が奇跡を手にする。 それはすなわち、ソウルジェムの濁りを加速させる。 手にすれば、魔女へと急降下。 それでも、美樹さやかは前へと進んでみせる。 「アイツの考えもわかる、アイツの気持ちもわかる。  アレでまどかが救われただなんて思わない……いや、結局のところ、円環の理なんて全てまどかの単なる欲望なんだ。  苦しんでいる人を見たくない、希望から魔法少女になった奴に絶望に沈んで絶望をまき散らして欲しくないなんて。  全部まどかの優しい欲望だ。  いつか、それも失われたかもしれない。  それを奪おうとしたインキュベーターを許せなかったのも、わかる。  でも、私はまどかに救われたんだ。  そして、まどかの願いが消えてしまったんだ。  まどかが、また苦しんでるんだ。  何も解決しない、アイツに比べたらなんの展望もない願いだ  でも――――」 インキュベーターが手渡すゴフェルの木片を眺める。 奇跡への片道切符。 美樹さやかをもはや違う場所へと誘う船。 「今度は、私が助ける番だ」 ゴフェルの木片はインキュベーターから美樹さやかの手に渡り。 ――――当然のように、奇跡の願い手を方舟へと導いた。 ◆ 不可思議な船があった。 人が地球上から観測し続けた、しかし、たどり着けることの出来ない宙舟。 陽炎のように、そこから消える方舟。 人を もう一つの月、真なる月へと至るための船。 船への乗車券は、その船自体。 三百、五十、三十。 特別な意味を持つこの比率と関連深い、いや、そのものである木片を手にすること。 手にすれば、奇跡へと至る船へと乗り込むことが出来る。 美樹さやかも、その乗車券を手に入れた人物の一人であった。 謝りたかった。 最後まで一緒にいてくれたのはまどかだったのに、さやかはひどいことを言ってしまった。 助けたかった。 本当に狙われているのはまどかだったのに、さやかは傷つけてしまうだけだった。 抱きしめたかった。 さやかの怒りを撒き散らかされるだけのまどかは、それでもずっとさやかと一緒に居てくれた。 ――――まどかは私を救ってくれたのに、私はまどかを救えなかった。 さやかは自身のソウルジェムを眺めた。 さやかは魂そのものであるソウルジェムを見ることで、さやかはその意味を簡単に思い出した。 かつて『円環の理』という宇宙そのものの一部だったさやか。 濁りが見える、魔女への道が近づいている。 身体が震える。 魔女とは、すなわち絶望だ。 暗く、冷たく、残酷で、辛い。 そこには光などない。 あんなもの、二度となりたくない。 だからこそ、覚えている。 絶望に包まれようとしたその瞬間、優しさに包まれた記憶を。 正しく、最後の最後で救われた記憶を。 その救いが、ここにはあるのだろうか。 もしも、自身が魔女になろうとすればどうなるのだろうか。 円環の理は、大事なものを奪われて本当に概念へと成り果てたまどかは、聖杯戦争に加入できるだろうか。 ここはあの悪魔が創りあげた、円環の理に対してだけ警戒をした宇宙ではない。 あの宇宙ではない世界ならば、円環の理は介入し得るのだろうか。 万能の願望機であるムーンセルと究極の救いである円環の理。 この二つのどちらが勝るかなんて、正しくさやかの枠中を超えた神秘の対決であるため想像もできない。 「……」 さやかは意を決した。 美樹さやかのまま、聖杯を手にしてみせる。 自分に残されていた、大事な友達を。 その友達を守ろうとした、一人の敵を。 悪魔の根幹は愛という名の欲望である。 痛みを感じた。 暁美ほむらへの念は――――正直なところ、さやか自身すら理解できない。 もっと言ってしまえば、ほむらが何故あそこまでまどかに入れ込むのかも、実のところさやかには曖昧にしか理解できない。 初めての友達、自身を、まどかという存在の在り方。 言葉になら幾らでも出来る。 ただ、そのどれもが正しくてどれもが間違っていることは理解できた。 言葉になど出来ないし、言葉になどしてはならないのだろう。 きっと、暁美ほむらという人生で初めて出会った光が、鹿目まどかというものなのだろう。 だからこそ、まどかが救われずにいる世界を我慢できなかった。 それこそがまどかの願いであることがわかっていたとしても。 それが恐怖すらも覚悟した、まどかの一世の願いを踏みにじるものだと知っていても。 ほむらには、我慢出来なかったのだろう。 「……」 さやかは静かに眼を瞑った。 さやかは今から畜生道に入る。 願いのために、全てを殺すと決めた。 願いのために、他の願いを踏みにじると決めた。 鹿目まどかなら、きっとしない。 それが尊いのではない、結局自分を犠牲にしているだけだから。 ただの考え方の違いだ。 だから、美樹さやかにとって暁美ほむらは理解し難い敵あり、同時に隣人でもあったのだ。 さやかは、仇敵であり、隣人のことを想った。 ただ、それで終わり。 眼を開く。 すると、そこには魔法のように一人の巨人が存在していた。 霊的資質の薄い人物には見ることすら出来ない巨人。 しかし、さやかとすれ違う全ての人物、NPCはその空間へとチラリと視線を移す。 少しだけ不審な表情をした後、後ろ髪を引かれる思いで立ち去っていく。 そんな、巨大な威圧感を持つ巨人であった。 筋肉は大猩猩(ゴリラ)。 牙は狼。 燃える瞳は原始の炎。 二メートル五十センチの全身には、闘争エネルギーが充満していた。 狂戦士の名に相応しい巨体と獣の如き瞳を持ったバーサーカーのサーヴァント。 それがさやかの召喚に応じ、ムーンセルが選び出した多次元世界の英霊であった。 バーサーカーの獣の瞳は、美樹さやかだけを捉えていた。 獣の瞳の奥には、確かに値踏みをする色が秘められていた。 さやかはその名も知らない英霊に気圧されるように後ずさった。 しかし、ふぅ、と軽く息を吐き、天空を仰ぐ。 そして、意を決したように獣の瞳へと向き合った。 「アンタが、私のサーヴァント?」 「――――」 さやかの問いに、バーサーカーは応えなかった。 数瞬遅れて、ただ、肯定するように首を頷いてみせるだけだ。 バーサーカーからはすでに言語能力は失われていた。 このバーサーカーは存在そのものが狂気であり、一度は敵の誘導に遭い、理性のないまま罪のない人々へと襲いかかった。 狂化ランクはB。 ただでさえ無双を誇るその腕力がさらに強化されている。 何本もの綱を編み上げたような腕につながる手には、一本の刃物が握られていた。 折りたたみ式の大型ナイフ、いわゆるジャックナイフである。 しかし、それはジャックナイフと呼ぶにはあまりにも巨大すぎた。 刃渡り四十センチ、幅八センチ、峰の厚さ一センチ。 もはやジャックナイフというよりも鉈や手斧と呼ぶべきものだった。 この異形のジャックナイフこそが、この英霊の全てであった。 この英霊に、もはや名前はない。 ただ、知るものは皆、この英霊をこう呼ぶ。 ――――暴力の化身、バイオレンス・ジャック(凶暴なジャックナイフ)と。 語るべき過去もなく、言葉も失われた。 しかし、獣の瞳はさやかを見つめ続ける。 クラススキルによって思考を失ったはずの眼だというのに。 全てを見透かすような瞳をしていた。 「……」 「……」 さやかとバーサーカーは、睨み合うように視線を交わす。 ふと、不思議な感覚に襲われた。 この威圧感を、さやかは知っていた。 奇妙な違和感であり、それは暁美ほむらという悪魔が創りあげた宇宙を連想させて不快の念を覚えた。 さやかは気づいていない。 バーサーカーが放つ威圧感はすなわち、さやかが『ゴフェルの木片』を手にした時に語りかけた声であることに。 「やるわよ、バーサーカー。  優勝……いえ、違うわね。やっちゃいけないことを、やるのよ。  全員殺して、まどかを円環の理に還す」 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」 さやかの言葉に応えるように、バーサーカーは天を仰いで人のものではない咆哮が響き渡らせる。 言葉などと到底呼ぶことの出来ない、耳をつんざく爆音の集合。 強大な肉食獣があげる、相手を威嚇するものとも違う。 自身の存在を知らしめる、威嚇を超えた挑発。 その挑発に呼応するように、大地が揺れた。 比喩ではない。 バーサーカーの雄叫びとともに、巨大な地震が起こったのだ。 街で暮らすNPC達は、正体不明の恐怖におののく。 地震ではなく、バーサーカーの起こした空気の振動が覚えるはずのない恐怖を覚えさせた。 バーサーカーが持ち、発することの出来る世界が破滅する記憶。 バーサーカーの超能力によって地震という概念を引き起こしてみせたのだ。 想像(イマジネーション)で世界を創造する力。 魔神の眷属とも直系とも呼べるバーサーカーは、その力によって自身の記憶の底にある破滅の記憶を引き起こす。 バーサーカーは全ての破滅を起こす。 バーサーカーは全ての救いを守る。 ――――友人が求めた世界を守るために、その力を振るい続けていたのだから。 【CLASS】 バーサーカー 【真名】 バイオレンス・ジャック 【パラメーター】 筋力A+ 耐久A+ 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具A (狂化によって強化されたパラメーター) 【属性】 混沌・狂  【クラススキル】 狂化:B 全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。 【保有スキル】 怪力:A 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は"怪力"のランクによる。 神性:B ある世界で、魔神である『サタン』によって『不動明』が産み落とされた。 それはサタンの分身とサタンの分身によって産み落とされた子であり、神そのものとも言える。 その『不動明』は突き詰めるとジャックではないが、限りなくジャックそのものでもあるため、ジャックは神性を有している。 創世:D+ 『無』から『有』を生み出す力であり、規模が大きければ大きいほど多大な魔力を必要とされる。 ジャックが扱う念動力、瞬間移動、念話なども全てはこのスキルによるものである。 このスキルはランクが一つ違うだけで文字通り天と地ほどの差があり、ランクAともなると宇宙創造の逸話を持つ者しか所有できない。 自己再生:A 上記のスキル『創造』によって生まれる力。 瀕死に近い傷であろうとも、通常必要とされる魔力・時間とは比べ物にならないほどの魔力・時間で再生してしまう。 このスキルは魔力供給主である美樹さやかとの相性が抜群に良いため、上位のランクを所有している。 【宝具】 『叛逆の刃(バイオレンス・ジャック)』 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人 バイオレンス・ジャックの象徴であり、鉈のように巨大なジャックナイフ。 ジャックが超能力で創りだしたナイフであり、ジャックの魔力が存在する限り無限に生み出すことが出来る。 『狂宴は終焉のために幕を開ける(デビルマン・グリモワール)』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人 かつてデーモン族の勇者であった『アモン』。 そのアモンの力を乗っ取った強い精神力で巨大な力を操る『デビルマン』。 どちらをも大きく上回る力を持つ、宇宙を開闢した『神』と同種の力を持った真の『悪魔人間』へと変身する。 全てのパラメータが1ランク上昇し、同時に『創世』と『神性』のスキルが強化される。 【weapon】 ・ジャックナイフ ジャックが創造の力によって生み出したジャックナイフを扱う。 刃渡り四十センチ、幅八センチ、峰の厚さ一センチ。 もはや鉈や斧と呼ぶにふさわしい規格外のジャックナイフである。 ジャックの魔力が存在する限り、無数に生み出すことが出来る。 ・超能力 念動力や念話、瞬間移動などを扱うことが出来る。 念動力はジャック自身の腕力には劣るものの射程距離が長く、ジャックはこれを扱って遠方の敵を倒す。 念話は言語能力を失い、思考能力も奪われているために念話としての体を成していない。 瞬間移動はすなわちムーンセルの演算を塗り替える必要があるため、移動距離が増えれば増えるほど魔力消費が大きくなる。 【人物背景】 関東地獄地震によって物理的に孤立した関東の荒野に現れた謎の巨人。 身の丈は二メートル五十、ゴリラのように隆起した筋肉と狼のような牙を持っている。 「バイオレンス・ジャックと出会った人間は破滅する」という逸話を持った死神であり、彼の側には常に戦乱が存在する。 その正体は創世神の力を持った悪魔サタン『飛鳥了』が愛した悪魔人間デビルマン『不動明』である。 悪魔と悪魔人間の最終戦争によって明は死に、その後現れた『神の軍団』によって地球は『無』へと変えられた。 サタンはその『無』となった地球を、『無』から『有』を生み出す『創世』の力によってかつての姿へと再生させた。 その際に復活した不動明は、サタンの『愛した人間を殺した』という無意識のうちの哀しみからサタンからサタンと同じく『創世』の力を与えられた。 明はサタンの、いや、親友であった『飛鳥了』が生み出した世界を守るように、バイオレンス・ジャックとなって世界を放浪していたのだ。 【サーヴァントとしての願い】 世界の安定。 【基本戦術、方針、運用法】 暴れさせる。 【マスター】 美樹さやか@劇場版魔法少女まどか☆マギカ [新篇]叛逆の物語 【参加方法】 インキュベーターから渡されたゴフェルの木片によって聖杯戦争へと参戦。 【マスターとしての願い】 悪魔を殺し、神を還す。 【weapon】 ・剣 さやかが魔力によって生み出す剣。 特別な力は持たないが、さやかの魔力が存在する限り無数に生成が可能。 【能力・技能】 ・自己再生 魔法少女となる際の願いである『上条恭介の怪我の完治』から生み出されたさやかの魔法。 強力な治癒能力であり、ほとんど防御を無視して戦っても問題がないほど。 ・オクタヴィア召喚 円環の理から切り離された現在では使用が不可能な技 自身の魔女形態を召喚する技。 ムーンセルの生み出した電子空間に別の宇宙そのものである円環の理を招かねばならないため莫大と呼ぶのも馬鹿らしい魔力を必要とする。 そのため、たとえ円環の理とのリンクが存在しても実質使用不可能。 ・魔女化 技能とも呼べない、魔法少女の末路。 円環の理から切り離されてただの魔法少女へと戻ったさやかは、同時に魔女という絶望の結末を用意されている。 魂であるソウルジェムが濁りきった時、さやかはさやかではなく『オクタヴィア』という人魚へと永遠に姿を変える。 【人物背景】 見滝原中学校に通う中学二年生。 ある日魔法少女である巴マミと知り合い、その生き方に尊敬の念を抱く。 マミ死亡後、マミの遺志と己の欲望である上条恭介の怪我の完治のために魔法少女となる。 潔癖な癖があり、マミとは違った理念で動いていた暁美ほむらと佐倉杏子に嫌悪感を抱いていた。 紆余曲折の末、絶望し、魔女となり、死亡する――――が、親友である鹿目まどかが『魔法少女を救う』概念と化したために救われる。 その後、円環の理の一部となり、インキュベーダーに囚われ、円環の理に導かれなかったほむらへの救出へと向かった。 ほむらはインキュベーターから救いだすものの、ほむらの欲望によって切り取られた円環の理の一部であったため、さやかもまた円環の理から切り離された。 一人の魔法少女へと戻り、また、かつての記憶を失いつつある。 【方針】 皆殺し

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