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電人HAL&アサシン」(2014/08/17 (日) 21:39:35) の最新版変更点

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*電人HAL&アサシン ◆WRYYYsmO4Y  1に1を足すと2になる。  2に1を足すと3になる。  3に1を足すと4になる。  1を無限に足し続ければ、どんな数だって生み落せる。  途方もない数字であろうが、時間さえかければ不可能ではない。  しかし、1では決して生み出せない数が一つだけ存在する。  それは"0"だ。1の左隣に位置する、無を現す数字。  何度1を足したとしても、これだけは生む事が出来ない。  そして、逆もまた然りである。  0を何度足しても、絶対に1には届きはしない。  無から有を造り上げる事など、それこそ神の所業だ。  "1"と"0"。  二つの数字の間には、途方もない程の開きが横たわっている。  こんなにも近いというのに、その間を超える事はあまりにも難しい。  しかし、そんな不可能に挑んだ男がいた。  完全な"0"から、己が求めて止まない"1"を造ろうとした男が。  大学教授・春川英輔と、彼の脳をコピーした電子人格「電人HAL」。  十年に一人の天才と謳われた男と、彼の生き写しであるプログラム。  彼らは0と1の狭間の世界――即ち電脳世界にて、己が野望を実現させようとしていた。  新たな『刹那』を構築せよと。  かつて救おうと手を尽くし、しかし救えなかった女を造り上げろと。  電人HALの手によって、幾度もの演算が行われていく。  しかし、彼らは内心悟っていた。  思い出だけを頼りに女の生き写しを造るなど、何千年かけても無駄な事に。  例えるなら、猫にキーボードの上を歩かせ、偶然ショパンの詩が完成するのを待つようなものだ。  何十台ものスーパーコンピューターを用いたとしても、きっと途方もない時間がかかる。  そんな中、電人HALはあるデータを受け取った。  「ゴフェルの木片.exe」とだけ書かれた、差出人不明のプログラム。  ネットに潜ってみれば、様々な情報がHALの記憶に刻まれる。  方舟の存在と、その中で行われる聖杯戦争なる戦い。  嘘か真かも分からない情報は、何故だか彼の興味を引いた。  興味を引いたが故に、彼は己の力を行使した。  電脳世界に身を置く電人ならば、ハッキングなど容易である。  そうして、HALは知る。  月に存在する量子コンピュータと、もう一つの電脳世界。  そしてその世界には、たしかに聖杯戦争が行われていた。  聖杯戦争が真実ならば、賞品となる月の聖杯もまた事実。  不可能を可能にする力に、HALは瞬く間に魅了された。  聖杯の力を以てすれば、"0"を"1"に変えられる。  猫にキーボードの上を歩かせて、ショパンの詩を作る事が出来る。  決断してから、HALの行動は早かった。  春川には黙秘を貫いたまま、独自に電子ドラッグを改造する。  聖杯戦争という電脳世界の闘争に必要な、新たなHALの武器。  それを完成させるのに、そう時間はかからなかった。  そうして、新たに造られた武器を片手に。  電人HALは、ゴフェルの木片を"実行"した。 □ ■ □  錯刃大学は、それといった外見的な特徴も無い平凡な建造物だ。  だが小さいかと言われるとそうではなく、最上階と地上とではそれなりの距離はある。  そんな大学の屋上にて、電人HALは独り立ち尽くしていた。  屋上を淡く照らす月をしばらく見つめた後、HALは「そろそろか」と呟く。  その直後、彼の目の前に現れるのは、古めかしい格好をした青年。  一切の気配も無くその場に姿を見せた彼の姿を見ても、HALは全く動じない。  それもその筈――自身のサーヴァントに対し、一体何を警戒する必要があろうか。 「この一帯に"さぁばんと"の気配は感じられん。しばらくは安全だろう」 「そうか。ならいい」  古めかしい外見によく似合う、古めかしい話し方。  この時代錯誤なサーヴァントの真名は、甲賀弦之介という。  「甲賀」の名字が示す通り、江戸時代に存在していたとされる本物の忍者だ。  なるほど、諜報と暗殺を生業とするアサシンのクラスに相応しいと言える。 「ところで、お主の手下はまだ来てないのか」 「いいや、彼等ならもうすぐそこまで来ている筈だ」  その瞬間。屋上と最上階を繋ぐドアが、勢いよく開かれる。  そこから出てくるのは、人、人、人の波。  ものの数秒の内に、錯刃大学の屋上に一つの軍勢が誕生した。  虚ろな眼をした傭兵達と、一組の主従を王とする軍勢が。 「……まこと恐ろしき術よ。他者を意のままに繰るなど、人の業とは思えんな」 「君の忍法に比べたら、大したものではないさ」  電子ドラッグ。  目視した者の脳神経を刺激し、理性から犯罪願望を解放させるプログラム。  HALは聖杯戦争に馳せ参じる以前、予めこの電子ドラッグを改造している。  電脳世界の住人を支配する為に構成されたそれは、言うなればHAL専用のコードキャストだ。  "0"と"1"の狭間にあるデジタルの空間において、電人は万能の存在だ。  彼のテリトリーである空間で作用するプログラムなど、容易に構築できる。  今HALに従っているのは、錯刃大学の学生達だ。  メモリーデータを封じられ、春川英輔として教鞭を振るっていた頃の知り合いである。  "春川英輔"を信用していた彼らも、電子ドラッグの手にかかれば"電人HAL"の尖兵に早変わりだ。 「だが用心なされよ"ますたぁ"。度が過ぎると"彼奴ら(きゃつら)"が来る」 「管理者(ルーラー)か。彼らがいなければ街の人間全員を洗脳してたのだがな」  HALがNPCに行っているのは、実質には電子データの書き換えだ。  電子ドラッグによる過度の洗脳は、何らかのペナルティを受ける可能性も考えられる。  その気になれば、公共の電波を利用して冬木市をドラッグ漬けにもできるだろうが、  そんな真似をしたら最後、どんな処罰が待ち受けているのか分かったものではない。 「まあいい、上手くやっていけばいいだけの話だ」  HALがそう言った直後、彼の背後に一つの画像データが展開される。  学生達全員が目視できる様に見せられたこれこそが、彼が造り上げた電子ドラッグだ。  表示されたそれを目にした家来達は、目的を果たさんと一斉に踵を返し去って行く。  「聖杯戦争の参加者を見つけ出し、発見次第報告せよ」、と。  電子ドラッグに刻まれたその命令を、彼等は何の戸惑いも無く受け止めた。  一組の主従だけ後に残り、しばしの間、錯刃大学が静寂に包まれる。  聞こえてくる音といえば、通り抜ける風の小声くらいのものだ。  そんな沈黙を破ったのは、HALが発したシンプルな問いだった。 「……アサシン。私は、愚かだろうか?」  無理だと悟った夢を諦めきれず、奇跡に手を伸ばしたHALという名のプログラム。  そんな諦めの悪いデータの塊は、果たして正常に機能していると言えるのか。  問いを投げられたアサシンは、何ら動じる気配を見せない。  訝しげな目線を向けたまま、たった一言こう返した。 「我ら"さぁばんと"が如何なる存在か、もうお忘れか」  それを聞いた後、HALは自分の馬鹿馬鹿しさに気付く。  マスターがそうである様に、サーヴァントにも叶えたい願いがあるのだ。  時間と次元を超え、他者を切り裂いてでも成就させたかった祈りが。  奇跡に縋った者を、正常に機能していないと嗤うのなら。  それは即ち、サーヴァントそのものに対する嘲笑に他ならない。 「……そうだな。馬鹿な事を聞いた」  自嘲を含んだ返答の後、HALはまた空に目を向けた。  黒いペンキをぶちまけた様な景色では、月だけが煌いている。  そんな中、その暗黒を優雅に飛び回る影が一つ。 「鷹、か」  HALが目にしたのは、一匹の鷹であった。  こんな街中に鷹が飛ぶなど、本来在り得ない事だ。  大方、ムーンセルのちょっとしたバグが原因なのだろう。  バグとして生まれた鳥は、ただ一匹しか存在しない。  その一匹も、そう遠くない内にムーンセルに削除されるだろう。  生まれた場所を誤った"1"は、いずれは"0"に還るだけ。  あの鷹だけではない。この聖杯戦争で、きっと無数の"1"(生)が"0"(死)になる。  その0の羅列を積み重ねた末に、聖杯への道は開かれるのだ。  "0"から"1"を造りだすとは、つまりそういう事なのである。  それだけの代価を払わなければ、奇跡には手が届かない。  電人HALは、電脳世界のプログラムだ。  人間でもない0と1の塊などに、元より人の情などあるものか。  彼は一切の情けをかけず、聖杯に向けて突き進む。  例え"0"に還した願いが、「愛する者の蘇生」であったとしても。  そんなHALの意思を垣間見たかの様に。  電子の鷹は、鋭く鳴いてみせた。 □ ■ □  鷹が一匹、飛んでいた。  人工物が立ち並ぶ街中には、酷く似合わない様である。  鷹が滑空する様を見て、アサシンが回想するのは最期の瞬間。  人別帖を鷹に預け、冷たくなった思い人を抱きながら、小刀で胸を貫いた。  それがアサシンの最良の選択であり、運命に弄ばれた結果である。  不戦の協約を結び、二度と争うものかと誓い合った筈の伊賀と甲賀。  しかし、幕府の暗躍によりその誓いは破られ、始まるのは血を血で洗う殺し合い。  殺戮の末に、アサシンを含めた二十人の忍達は、一人も残らず死に絶えた。  彼が愛した女性もまた、死んだ。  上空の鷹に注がれていた視線を、前方へと移す。  大学より向こう側では、光がひしめき合っていた。  その光の中では、CPU達が寄り添い合って暮らしている。  この街に、甲賀と伊賀の様な血生臭い対立は無い。  誰もが血縁に縛られず、自由に愛し合っている。  言うなればそれは、アサシンの求めた理想郷。  もしも、生まれた時が違えたのだとすれば。  アサシンは戦いを強いられず、煌びやかな街で平穏に暮らしていたのだろう。  愛する者と穏やかに過ごし、平和を噛みしめたに違いない。 「……朧」  かつて愛した者の名が、アサシンの口から零れ落ちた。  永遠の愛を誓い合い、しかし運命に殺された女の名。  彼女と抱擁を交わす為に、アサシンは聖杯を求める。  アサシンの相棒である、電人HALなる男。  この男も彼と同様、願い故に聖杯戦争に参戦した。  彼が願ったのは、「本城刹那」なる女性の復活。  同じだ、と。  願いを耳にしたその瞬間、アサシンの胸に生まれたのは深い共感であった。  彼もまた、愛した者との再会の為に戦っているのだ。  そんな男の願いを、同じ願いを抱えるアサシンがどうして馬鹿にできようか。  この男と共に全ての参加者の命を刈り取り、聖杯を掴んでみせよう。  そして、その暁には。  愛した者を負ぶりながら、その重さを背中で感じながら。  あの樹木が生い茂る土佐の峠を、一緒に歩いていきたい。  甲賀卍谷衆の忍ではなく、かつて殺し合った者同士でもなく。  ただ一人の男として、彼女に――朧に会いに行く。  鷹がもう一度、鋭く鳴いた。 ---- 【出典】バジリスク~甲賀忍法帖~ 【CLASS】アサシン 【マスター】電人HAL 【真名】甲賀弦之介 【性別】男性 【属性】中立・中庸 【ステータス】筋力:D+ 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:B 【クラス別スキル】 気配遮断:A 自身の気配を消す能力。 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。 ただし、「忍術」のスキルを併用すればランクの低下を抑える事が可能。 【固有スキル】 心眼(真):B 修行・鍛錬により得た戦闘論理。窮地において活路を導きだす。 忍術:A 甲賀卍谷衆の忍として研鑽し続けてきた類希なる武芸。 攻撃態勢に移った際、「気配遮断」のスキルのランク低下を抑える事が可能となる。 また、「気配遮断」のスキルを使用中に限り、筋力と俊敏のステータスにプラスの補正がかかる。 カリスマ:C 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。 【宝具】 『瞳術』 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大補足:50個 甲賀弦之介の忍術が宝具に昇華したもの。魔眼。 範囲内にいた「弦之介への殺意を帯びた相手」に対し暗示をかけ、強制的に自害させる。 暗示の強さはその時点における殺意の大きさで決まり、大きければ大きい程強烈な暗示がかける事が可能。 精神干渉を無効化するスキル、あるいは強固な精神力を持っていれば暗示を解く事は可能かもしれないが、 弦之介に対し激しい憎悪と殺意を抱いていた場合は、例えスキルの恩恵を受けようとも、暗示からは逃れられないだろう。 【weapon】 忍者刀を得物とする。 【基本戦術、方針、運用法】 アサシンのサーヴァントらしく、密偵と暗殺が主要となる。 気配遮断と忍術のスキルを併用する事で得られるアドバンテージを、如何に有効活用できるかが鍵になるだろう。 唯一の宝具は扱いやすいとは言い難いが、上手く使えれば必殺の一撃と成り得る。 【人物背景】 甲賀卍谷衆の頭領の孫であり、彼自身も甲賀の忍。 同じ忍者の里である伊賀鍔隠れ衆と敵対関係にあるのを良しとせず、両者が手を取り合う未来を夢見ている。 その証拠に、伊賀忍の頭領の孫娘である「朧」とは恋人同士であり、近い内に祝言で挙げる予定だった。 しかし、幕府は跡取りを決定する為に、伊賀と甲賀の間で結ばれた不戦の約定を破棄。各里の精鋭同士で殺し合うよう命令する。 激しく憎み合っていた両者は瞬く間に激突。次々と忍達は斃れていき、最終的には弦之介と朧で殺し合う事となってしまう。 幕府の要人達が見守る中、朧は弦之介に「大好きです」と伝え自刃。 そして弦之介もまた、全てが終わった後に川中で自害。抱えていた朧の亡骸と共に、水底に消えたのであった。 【サーヴァントとしての願い】 かつて愛し、しかし殺し合った女性との再会。 【マスター】電人HAL 【出典】魔人探偵脳噛ネウロ 【性別】男性 【参加方法】 春川英輔を殺害する前、ゴフェルの木片の電子データを用い聖杯戦争に参戦する。 事前にムーンセルにハッキングした事で聖杯戦争を把握している。なお、ゴフェルの木片の存在は春川には秘匿している模様。 【マスターとしての願い】 電脳世界で完全な「本城刹那」を構築する。 【能力・技能】 電脳世界においてはほぼ無敵であり、その実力は強大な力を持つ魔人の侵入を二度も退けるほど。 今回は制限によって著しく弱体化しているものの、それでもその性能は驚異的と言える。 原作では護衛として怪物を召喚する等していたが、此度の聖杯戦争でもそれが可能かは不明。 【weapon】 「コードキャスト:電子ドラッグ」 HALが聖杯戦争用に組み直したプログラム。 本来の電子ドラッグは、見た者の脳を刺激する事により、理性から犯罪願望を解放させると同時に、電人HALへの服従の意を刷り込ませる洗脳プログラムである。 今回構成された電子ドラッグには、見た者のデータを書き換え、電子ドラッグを多量に使用した状態にさせる効果がある。 当然ながら、電子ドラッグを過度に使用した者は例外なくHALの尖兵となってしまう。 NPCには効果覿面だが、サーヴァントやマスターにまで通用するかは現時点では不明。 電子ドラッグはインターネット等の回線を利用する事で拡散させる事が可能だが、過度の洗脳はペナルティを受ける可能性がある。 【人物背景】 錯刃大学教授・春川英輔の脳を複製したプログラム人格。 日本中に電子ドラッグをばら撒き、原子力空母「オズワルド」を占拠した事で世界中を混乱に陥れた。 その目的は、かつて春川が救えなかった人間「本城刹那」をプログラムとして電子世界に蘇らせる事。 オズワルドを占領したのも、そこを拠点としてスーパーコンピューターをかき集め、「本城刹那」の構築に専念する為だった。 しかし、彼自身も「1ビットたりとも違わない人間」を作り出すことは不可能であると悟っており、防衛プログラムを突破さえた際には素直に負けを認めていた。 その後、デリートボタンを押させる事で自ら消滅する道を選ぶが、完全に消滅する"刹那"、自らが最も求めていた者にようやく出会い、満足しながら消滅した。 【方針】 アサシンの特性を最大限活用し、優勝を目指す。 ----
*電人HAL&アサシン ◆WRYYYsmO4Y  1に1を足すと2になる。  2に1を足すと3になる。  3に1を足すと4になる。  1を無限に足し続ければ、どんな数だって生み落せる。  途方もない数字であろうが、時間さえかければ不可能ではない。  しかし、1では決して生み出せない数が一つだけ存在する。  それは"0"だ。1の左隣に位置する、無を現す数字。  何度1を足したとしても、これだけは生む事が出来ない。  そして、逆もまた然りである。  0を何度足しても、絶対に1には届きはしない。  無から有を造り上げる事など、それこそ神の所業だ。  "1"と"0"。  二つの数字の間には、途方もない程の開きが横たわっている。  こんなにも近いというのに、その間を超える事はあまりにも難しい。  しかし、そんな不可能に挑んだ男がいた。  完全な"0"から、己が求めて止まない"1"を造ろうとした男が。  大学教授・春川英輔と、彼の脳をコピーした電子人格「電人HAL」。  十年に一人の天才と謳われた男と、彼の生き写しであるプログラム。  彼らは0と1の狭間の世界――即ち電脳世界にて、己が野望を実現させようとしていた。  新たな『刹那』を構築せよと。  かつて救おうと手を尽くし、しかし救えなかった女を造り上げろと。  電人HALの手によって、幾度もの演算が行われていく。  しかし、彼らは内心悟っていた。  思い出だけを頼りに女の生き写しを造るなど、何千年かけても無駄な事に。  例えるなら、猫にキーボードの上を歩かせ、偶然ショパンの詩が完成するのを待つようなものだ。  何十台ものスーパーコンピューターを用いたとしても、きっと途方もない時間がかかる。  そんな中、電人HALはあるデータを受け取った。  「ゴフェルの木片.exe」とだけ書かれた、差出人不明のプログラム。  ネットに潜ってみれば、様々な情報がHALの記憶に刻まれる。  方舟の存在と、その中で行われる聖杯戦争なる戦い。  嘘か真かも分からない情報は、何故だか彼の興味を引いた。  興味を引いたが故に、彼は己の力を行使した。  電脳世界に身を置く電人ならば、ハッキングなど容易である。  そうして、HALは知る。  月に存在する量子コンピュータと、もう一つの電脳世界。  そしてその世界には、たしかに聖杯戦争が行われていた。  聖杯戦争が真実ならば、賞品となる月の聖杯もまた事実。  不可能を可能にする力に、HALは瞬く間に魅了された。  聖杯の力を以てすれば、"0"を"1"に変えられる。  猫にキーボードの上を歩かせて、ショパンの詩を作る事が出来る。  決断してから、HALの行動は早かった。  春川には黙秘を貫いたまま、独自に電子ドラッグを改造する。  聖杯戦争という電脳世界の闘争に必要な、新たなHALの武器。  それを完成させるのに、そう時間はかからなかった。  そうして、新たに造られた武器を片手に。  電人HALは、ゴフェルの木片を"実行"した。 □ ■ □  錯刃大学は、それといった外見的な特徴も無い平凡な建造物だ。  だが小さいかと言われるとそうではなく、最上階と地上とではそれなりの距離はある。  そんな大学の屋上にて、電人HALは独り立ち尽くしていた。  屋上を淡く照らす月をしばらく見つめた後、HALは「そろそろか」と呟く。  その直後、彼の目の前に現れるのは、古めかしい格好をした青年。  一切の気配も無くその場に姿を見せた彼の姿を見ても、HALは全く動じない。  それもその筈――自身のサーヴァントに対し、一体何を警戒する必要があろうか。 「この一帯に"さぁばんと"の気配は感じられん。しばらくは安全だろう」 「そうか。ならいい」  古めかしい外見によく似合う、古めかしい話し方。  この時代錯誤なサーヴァントの真名は、甲賀弦之介という。  「甲賀」の名字が示す通り、江戸時代に存在していたとされる本物の忍者だ。  なるほど、諜報と暗殺を生業とするアサシンのクラスに相応しいと言える。 「ところで、お主の手下はまだ来てないのか」 「いいや、彼等ならもうすぐそこまで来ている筈だ」  その瞬間。屋上と最上階を繋ぐドアが、勢いよく開かれる。  そこから出てくるのは、人、人、人の波。  ものの数秒の内に、錯刃大学の屋上に一つの軍勢が誕生した。  虚ろな眼をした傭兵達と、一組の主従を王とする軍勢が。 「……まこと恐ろしき術よ。他者を意のままに繰るなど、人の業とは思えんな」 「君の忍法に比べたら、大したものではないさ」  電子ドラッグ。  目視した者の脳神経を刺激し、理性から犯罪願望を解放させるプログラム。  HALは聖杯戦争に馳せ参じる以前、予めこの電子ドラッグを改造している。  電脳世界の住人を支配する為に構成されたそれは、言うなればHAL専用のコードキャストだ。  "0"と"1"の狭間にあるデジタルの空間において、電人は万能の存在だ。  彼のテリトリーである空間で作用するプログラムなど、容易に構築できる。  今HALに従っているのは、錯刃大学の学生達だ。  メモリーデータを封じられ、春川英輔として教鞭を振るっていた頃の知り合いである。  "春川英輔"を信用していた彼らも、電子ドラッグの手にかかれば"電人HAL"の尖兵に早変わりだ。 「だが用心なされよ"ますたぁ"。度が過ぎると"彼奴ら(きゃつら)"が来る」 「管理者(ルーラー)か。彼らがいなければ街の人間全員を洗脳してたのだがな」  HALがNPCに行っているのは、実質には電子データの書き換えだ。  電子ドラッグによる過度の洗脳は、何らかのペナルティを受ける可能性も考えられる。  その気になれば、公共の電波を利用して冬木市をドラッグ漬けにもできるだろうが、  そんな真似をしたら最後、どんな処罰が待ち受けているのか分かったものではない。 「まあいい、上手くやっていけばいいだけの話だ」  HALがそう言った直後、彼の背後に一つの画像データが展開される。  学生達全員が目視できる様に見せられたこれこそが、彼が造り上げた電子ドラッグだ。  表示されたそれを目にした家来達は、目的を果たさんと一斉に踵を返し去って行く。  「聖杯戦争の参加者を見つけ出し、発見次第報告せよ」、と。  電子ドラッグに刻まれたその命令を、彼等は何の戸惑いも無く受け止めた。  一組の主従だけ後に残り、しばしの間、錯刃大学が静寂に包まれる。  聞こえてくる音といえば、通り抜ける風の小声くらいのものだ。  そんな沈黙を破ったのは、HALが発したシンプルな問いだった。 「……アサシン。私は、愚かだろうか?」  無理だと悟った夢を諦めきれず、奇跡に手を伸ばしたHALという名のプログラム。  そんな諦めの悪いデータの塊は、果たして正常に機能していると言えるのか。  問いを投げられたアサシンは、何ら動じる気配を見せない。  訝しげな目線を向けたまま、たった一言こう返した。 「我ら"さぁばんと"が如何なる存在か、もうお忘れか」  それを聞いた後、HALは自分の馬鹿馬鹿しさに気付く。  マスターがそうである様に、サーヴァントにも叶えたい願いがあるのだ。  時間と次元を超え、他者を切り裂いてでも成就させたかった祈りが。  奇跡に縋った者を、正常に機能していないと嗤うのなら。  それは即ち、サーヴァントそのものに対する嘲笑に他ならない。 「……そうだな。馬鹿な事を聞いた」  自嘲を含んだ返答の後、HALはまた空に目を向けた。  黒いペンキをぶちまけた様な景色では、月だけが煌いている。  そんな中、その暗黒を優雅に飛び回る影が一つ。 「鷹、か」  HALが目にしたのは、一匹の鷹であった。  こんな街中に鷹が飛ぶなど、本来在り得ない事だ。  大方、ムーンセルのちょっとしたバグが原因なのだろう。  バグとして生まれた鳥は、ただ一匹しか存在しない。  その一匹も、そう遠くない内にムーンセルに削除されるだろう。  生まれた場所を誤った"1"は、いずれは"0"に還るだけ。  あの鷹だけではない。この聖杯戦争で、きっと無数の"1"(生)が"0"(死)になる。  その0の羅列を積み重ねた末に、聖杯への道は開かれるのだ。  "0"から"1"を造りだすとは、つまりそういう事なのである。  それだけの代価を払わなければ、奇跡には手が届かない。  電人HALは、電脳世界のプログラムだ。  人間でもない0と1の塊などに、元より人の情などあるものか。  彼は一切の情けをかけず、聖杯に向けて突き進む。  例え"0"に還した願いが、「愛する者の蘇生」であったとしても。  そんなHALの意思を垣間見たかの様に。  電子の鷹は、鋭く鳴いてみせた。 □ ■ □  鷹が一匹、飛んでいた。  人工物が立ち並ぶ街中には、酷く似合わない様である。  鷹が滑空する様を見て、アサシンが回想するのは最期の瞬間。  人別帖を鷹に預け、冷たくなった思い人を抱きながら、小刀で胸を貫いた。  それがアサシンの最良の選択であり、運命に弄ばれた結果である。  不戦の協約を結び、二度と争うものかと誓い合った筈の伊賀と甲賀。  しかし、幕府の暗躍によりその誓いは破られ、始まるのは血を血で洗う殺し合い。  殺戮の末に、アサシンを含めた二十人の忍達は、一人も残らず死に絶えた。  彼が愛した女性もまた、死んだ。  上空の鷹に注がれていた視線を、前方へと移す。  大学より向こう側では、光がひしめき合っていた。  その光の中では、CPU達が寄り添い合って暮らしている。  この街に、甲賀と伊賀の様な血生臭い対立は無い。  誰もが血縁に縛られず、自由に愛し合っている。  言うなればそれは、アサシンの求めた理想郷。  もしも、生まれた時が違えたのだとすれば。  アサシンは戦いを強いられず、煌びやかな街で平穏に暮らしていたのだろう。  愛する者と穏やかに過ごし、平和を噛みしめたに違いない。 「……朧」  かつて愛した者の名が、アサシンの口から零れ落ちた。  永遠の愛を誓い合い、しかし運命に殺された女の名。  彼女と抱擁を交わす為に、アサシンは聖杯を求める。  アサシンの相棒である、電人HALなる男。  この男も彼と同様、願い故に聖杯戦争に参戦した。  彼が願ったのは、「本城刹那」なる女性の復活。  同じだ、と。  願いを耳にしたその瞬間、アサシンの胸に生まれたのは深い共感であった。  彼もまた、愛した者との再会の為に戦っているのだ。  そんな男の願いを、同じ願いを抱えるアサシンがどうして馬鹿にできようか。  この男と共に全ての参加者の命を刈り取り、聖杯を掴んでみせよう。  そして、その暁には。  愛した者を負ぶりながら、その重さを背中で感じながら。  あの樹木が生い茂る土佐の峠を、一緒に歩いていきたい。  甲賀卍谷衆の忍ではなく、かつて殺し合った者同士でもなく。  ただ一人の男として、彼女に――朧に会いに行く。  鷹がもう一度、鋭く鳴いた。 ---- 【出典】バジリスク~甲賀忍法帖~ 【CLASS】アサシン 【マスター】電人HAL 【真名】甲賀弦之介 【性別】男性 【属性】中立・中庸 【ステータス】筋力:D+ 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:B 【クラス別スキル】 気配遮断:A 自身の気配を消す能力。 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。 ただし、「忍術」のスキルを併用すればランクの低下を抑える事が可能。 【固有スキル】 心眼(真):B 修行・鍛錬により得た戦闘論理。窮地において活路を導きだす。 忍術:A 甲賀卍谷衆の忍として研鑽し続けてきた類希なる武芸。 攻撃態勢に移った際、「気配遮断」のスキルのランク低下を抑える事が可能となる。 また、「気配遮断」のスキルを使用中に限り、筋力と俊敏のステータスにプラスの補正がかかる。 カリスマ:C 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。 【宝具】 『瞳術』 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大補足:50個 甲賀弦之介の忍術が宝具に昇華したもの。魔眼。 範囲内にいた「弦之介への殺意を帯びた相手」に対し暗示をかけ、強制的に自害させる。 暗示の強さはその時点における殺意の大きさで決まり、大きければ大きい程強烈な暗示がかける事が可能。 精神干渉を無効化するスキル、あるいは強固な精神力を持っていれば暗示を解く事は可能かもしれないが、 弦之介に対し激しい憎悪と殺意を抱いていた場合は、例えスキルの恩恵を受けようとも、暗示からは逃れられないだろう。 【weapon】 忍者刀を得物とする。 【基本戦術、方針、運用法】 アサシンのサーヴァントらしく、密偵と暗殺が主要となる。 気配遮断と忍術のスキルを併用する事で得られるアドバンテージを、如何に有効活用できるかが鍵になるだろう。 唯一の宝具は扱いやすいとは言い難いが、上手く使えれば必殺の一撃と成り得る。 【人物背景】 甲賀卍谷衆の頭領の孫であり、彼自身も甲賀の忍。 同じ忍者の里である伊賀鍔隠れ衆と敵対関係にあるのを良しとせず、両者が手を取り合う未来を夢見ている。 その証拠に、伊賀忍の頭領の孫娘である「朧」とは恋人同士であり、近い内に祝言で挙げる予定だった。 しかし、幕府は跡取りを決定する為に、伊賀と甲賀の間で結ばれた不戦の約定を破棄。各里の精鋭同士で殺し合うよう命令する。 激しく憎み合っていた両者は瞬く間に激突。次々と忍達は斃れていき、最終的には弦之介と朧で殺し合う事となってしまう。 幕府の要人達が見守る中、朧は弦之介に「大好きです」と伝え自刃。 そして弦之介もまた、全てが終わった後に川中で自害。抱えていた朧の亡骸と共に、水底に消えたのであった。 【サーヴァントとしての願い】 かつて愛し、しかし殺し合った女性との再会。 【マスター】電人HAL 【出典】魔人探偵脳噛ネウロ 【性別】男性 【参加方法】 春川英輔を殺害する前、ゴフェルの木片の電子データを用い聖杯戦争に参戦する。 事前にムーンセルにハッキングした事で聖杯戦争を把握している。なお、ゴフェルの木片の存在は春川には秘匿している模様。 【マスターとしての願い】 電脳世界で完全な「本城刹那」を構築する。 【能力・技能】 電脳世界においてはほぼ無敵であり、その実力は強大な力を持つ魔人の侵入を二度も退けるほど。 今回は制限によって著しく弱体化しているものの、それでもその性能は驚異的と言える。 原作では護衛として怪物を召喚する等していたが、此度の聖杯戦争でもそれが可能かは不明。 【weapon】 「コードキャスト:電子ドラッグ」 HALが聖杯戦争用に組み直したプログラム。 本来の電子ドラッグは、見た者の脳を刺激する事により、理性から犯罪願望を解放させると同時に、電人HALへの服従の意を刷り込ませる洗脳プログラムである。 今回構成された電子ドラッグには、見た者のデータを書き換え、電子ドラッグを多量に使用した状態にさせる効果がある。 当然ながら、電子ドラッグを過度に使用した者は例外なくHALの尖兵となってしまう。 NPCには効果覿面だが、サーヴァントやマスターにまで通用するかは現時点では不明。 電子ドラッグはインターネット等の回線を利用する事で拡散させる事が可能だが、過度の洗脳はペナルティを受ける可能性がある。 【人物背景】 錯刃大学教授・春川英輔の脳を複製したプログラム人格。 日本中に電子ドラッグをばら撒き、原子力空母「オズワルド」を占拠した事で世界中を混乱に陥れた。 その目的は、かつて春川が救えなかった人間「本城刹那」をプログラムとして電子世界に蘇らせる事。 オズワルドを占領したのも、そこを拠点としてスーパーコンピューターをかき集め、「本城刹那」の構築に専念する為だった。 しかし、彼自身も「1ビットたりとも違わない人間」を作り出すことは不可能であると悟っており、防衛プログラムを突破さえた際には素直に負けを認めていた。 その後、デリートボタンを押させる事で自ら消滅する道を選ぶが、完全に消滅する"刹那"、自らが最も求めていた者にようやく出会い、満足しながら消滅した。 【方針】 アサシンの特性を最大限活用し、優勝を目指す。 ---- |BACK||NEXT| |023:[[ジナコ=カリギリ・アサシン]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|025:[[武智乙哉&アサシン]]| |023:[[ジナコ=カリギリ・アサシン]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|025:[[武智乙哉&アサシン]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| 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