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*アレクサンド・アンデルセン&ランサー ◆holyBRftF6
二人の男がいた。
彼らは、化物となった。
故に、化物としての戦いが定めだった。
■ ■
天を突くかのようの立ち並ぶ摩天楼。その様子はまさしく、月夜を削る威容。
だが、それが真に天を突き夜空を削ることはない。
そのスカイスクレイパーは、月によって再現されたものであるのだから。
摩天楼の頂上の一つに、二人の男がいる。一人の主と一人の槍兵がいる。一人の神父と一人の王がいる。
彼らは互いに向かい合いながら、睨み合いながら、しかし互いを見てはいなかった。
見ているのは、彼ら自身であった。
ただ高所の風に身を晒しながら、衣服がはためく音のみを発しているのであった。
彼は共にカトリックである。
片割れはのっぴきならぬ事情で正教徒からカトリックへ改宗した身ではあるが、その信仰に揺らぎはない。
本来ならば手を取り合える主従であろう。
しかし、彼らが彼らであるからこそ確かめねばならぬ。
「令呪の効果は切れたようだな」
ようやく、言葉を思い出したように神父が口を開く。
その名をアレクサンド・アンデルセン。教会において裏に隠されていた存在であるが、しかし確かに存在していた。
彼はイスカリオテ機関の聖堂騎士であり、銃剣であり、首斬判事である。
「そのようだ」
王が応じる。
その真名をヴラド三世。王と呼ぶべき支配と苛烈さで生きた極刑王。
彼はワラキア公国の串刺し公であり、かつて故国を守りぬいた英雄であり、忌み恐れられるドラクルである。
「俺はお前の全てを聞いた。令呪までも使ってな。だからこそ認めざるを得ん。
アーカード
お前は怪物ではなく、共に神を信ずる輩(ともがら)であることを」
故に、神父は見定めねばならぬのだ。
彼は吸血鬼たるヴラド・ツェペシュと戦った。自らを化物に貶めてまで好敵手と戦い、散った。
そのまま地獄へ行く定めであった神父は、しかし何の因果か方舟に拾われた。拾われてしまった。
神父は自らに救いが来るなどと信じぬ。イスカリオテのユダと重ねあわせ、神を裏切りながら狂信する身である。
これは神の救いか、或いは神を騙る何者かによる誘いか。
神父には自らのサーヴァントを、方舟を、聖杯を、見極める必要があるのだ。
「だが、それでも聞かせてくれ。
貴様は本当にドラキュラではなくヴラドなのか」
「語った通りだ」
「貴様の汚名は確固たる経歴ではなく無辜のものなのか」
「くどい」
「その信仰に偽りはないと」
「殺されたいか神父」
途端、殺意が空気を支配する。あらゆる音が消え、ヴラド・ツェペシュという存在だけが残る。
それはからかいで放つ殺意ではない。串刺し公という英霊が、恐れられるドラクルが本気で怒る証である。
まるで杭がごとし。串刺しされた死体の山のごとし――死の河のごとし。
「その殺気が欲しかったのだ。
神への信仰を持つが故の怒りを」
だが、神父は身じろぎもしない。かつて死の河に挑んだ彼が、今更それに怯えることがあろうか。
むしろ殺気こそが求める結果であったと喜び、そして神父は跪いた。
「無礼を詫びよう、王よ――異端ならざると勘付いていながら審問を行った、信仰を疑った。
神父として許されぬことだ。首を落として頂いても構わん」
「ここで死してもよいというのか」
王は迷わずに槍を向けた。
その殺意は依然として揺るがぬ。少しでも気に食わぬことがあれば首を落とす腹づもりである。
だがやはり、神父は身じろぎもしない。恐れもしない。
「我が望みは方舟を、聖杯を見極めること。そして聖杯が正しき存在ならば、聖杯を持つに相応しい者に渡すこと。
ランサーよ、王よ、お前には聖杯を持つ資格がある」
「お前はいらぬと」
「そうだ」
「何故だ」
「地獄へ堕ちるべき身であるが故に」
顔も上げず神父は続ける。
王もまた身じろぎもせず見下ろし続けていたが、やがて口を開いた。
「今度は余が問おう、神父よ。
お前は化物となって死んだ。人ではなく化物として死んだのだな」
「話した通りだ」
「悔いはないというのか?」
「ああ」
「いかなる誹りを受けようと、裏切りを成されようと、汚名を被せられようともか」
「自らの手で選んだ神への誓いであり裏切りの道だからだ」
首に当てられていた槍が戻された。
王に神父の表情は見えぬ。神父に王の表情は見えぬ。
だがどのような表情をしているか互いに理解した。
「立つがいい、神父よ。
お前は『俺と過去を全て洗いざらい語り合え』と令呪で命じた。『語れ』ではなく『語り合え』と。
余もまたお前の過去を全て聞いた。故に、余であり余でない吸血鬼の存在を認めざるを得ん。
そして、その吸血鬼に抗ったお前という神父を、怪物を――――人間を」
「俺もだ、王よ。
お前はドラキュラの汚名を嫌っている。だが、それは自らが成した事ではないからだ。
自らが成した事ならば、串刺しならば。
いかなる誹りを受けようと、裏切りを成されようと、汚名を被せられようと認めているのだ。
俺と同じように」
二人は直立して向かい合った。それは、鏡の前に立つことと似ていた。
アーカードとアンデルセンが、怪物として似ているのであれば。
ヴラド・ツェペシュとアンデルセンは、人間として共通していた。
「カトリックとして活動したのは僅かな期間だったが……
余の理解者が死後出会ったカトリックの神父とは皮肉なものだ」
「吸血鬼ドラキュラに敗れた異端狩りが、方舟に選ばれて人間ヴラドと組むよりは有り得るだろうさ」
「もっともだ」
王は身を翻した。
その顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。
「神父よ。部屋に戻ろうか。
ここは戦いならまだしも語らいには向かぬ」
その言葉はつまり、王は神父との更なる語らいを求めているという事であった。
■ ■
二人はホテルの一室で、テーブルを挟んで腰掛けた。
目の前には何本かのワインの瓶と、グラスがある。
今のところ瓶の中身は注がれず、ただ机の飾りとして直立しているのみである。
「神父よ。無辜の怪物というスキルを知っているかね」
「いや」
「一言で言えば風評被害だ。
後世に付けられたイメージによって、姿形がねじ曲げられて再現されるというスキル。
忌まわしきことにムーンセルが再現する余にはこれが付いている……
『吸血鬼ドラキュラ』という汚名から余は逃れられぬのだ。しかし」
「お前は人間だ」
「そう。此度の余は人間として再現された。何故だと思う」
王は手を広げながら問うた。本来なら忌み嫌う話題を、しかし笑みすら浮かべて。
答えは返ってくると分かっているかのようであった。
「俺がアーカードを。
『無辜ではない』怪物をこれ以上なく知っているからか」
「然り。
お前にとって吸血鬼ドラキュラは無辜ではない。
誰かが流した偽りの情報でも、それを再現したものでもない。
だからこそムーンセルはエラーを起こした。本来剥がれぬ呪いが剥がれたのだ」
王の声を受け、神父の指が自らの眼鏡に触れる。
指はそのまま持ち上がり額を小突いた。脳裏に浮かぶ怪物に触れるかのように。
「この聖杯戦争。余は必ず勝たねばならん。
これほどの機会はまたとあるまい」
「逃してしまえば呪いが戻るため……だけではないな」
「そうだ。
お前と出会いもう一つ願いが生まれた」
笑みが歪む。穏やかだった顔へ苛烈さが混入する。
それはまさしく獲物を見つけた竜(ドラクル)。
「吸血鬼アーカード。怪物であるヴラド・ツェペシュ。
余は余である限り奴を否定しなくてはならん。
あれはまさに吸血鬼ドラキュラそのものなのだからな」
神父は無言である。
ただその眼鏡に逆光を光らせるのみ。
「故に……吸血鬼ドラキュラという汚名を完全に消滅させる前に、まずアーカードをこの手で誅滅する。
ムーンセルの力で奴を余の前へ呼び出し、そして勝利する。
人間である余が吸血鬼である奴を打ち倒すことで、やっと吸血鬼ドラキュラという存在を完全に消し去る権利を得るのだ。
神父よ。
例え聖杯が誤った存在であろうとこの願いは譲れん」
演説するように王は手を広げる。
無言だった神父は、ようやく口を開いた。
その唇は笑みを示すかのごとく僅かに歪んでいた。
「分かっている。
お前がアーカードを戦う様は俺としても見たいものだ。
聖杯を判別するのはアーカードを呼び出し討ち倒してからで構わん。
仮に誤った聖杯であったとしても。却って『怪物』を呼ぶには相応しいかもしれん」
「お前の願いは受け取った。
聖杯が誤った存在であるというのならば。その後『吸血鬼ドラキュラ』の異名を消すのは諦めよう。
どのような方法で叶えられるか分かったものではないのでな」
冗談めかすように王は言い、顔に浮かぶ笑みもそれに合わせて落ち着いた。
しかし……その後、笑みそのものが消えた。
「だがアーカードは余一人で討たねばならん。討てねばならん。
例えお前が余と共に残っていようとも。聖杯を渡すに相応しい存在を見いだせなくとも」
「気遣いは不要だ。
奴とは既に地獄で会う待ち合わせを済ませている。ここでは手を出さん」
「そうか。
ならば余とお前の二人だけが生き残った場合はどうする。
何を願う」
神父の眼鏡へ視線が杭のごとく突き刺さる。
そこに負の感情はない。純粋な疑問が故の問いであり、それが故に心までも抉る鋭さ。
答えなくとも見透かしてやる。串刺公の目はそう語っている。
それでも神父は揺るがぬ。
今更隠すものなど無いと体が答えている。
さながら銃剣のごとき視線を返し口を開く。
「子供達の幸せを。
それだけを願おう」
その時、アンデルセンの顔に浮かんだのは――――穏やかな、神父の笑みだった。
王は無言でワインを互いのグラスに注ぐ。神父の分まで手ずからに。
そして自らのグラスに触れながら厳かに目を閉じた。
「ならば聖杯への願いとは別に……余はここで今祈るとしよう。
同じ神を信ずる子らの幸福を」
「感謝する」
神父もまたグラスを手に取る。
共に祈りを捧げながら。
「「――――Amen」」
■ ■
二人の男がいる。
彼らは、人間へと戻った。
故に、化物との戦いが望みである。
【CLASS】ランサー
【真名】ヴラド三世
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
護国の鬼将:EX
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を自らの領土とする。
この領土内の戦闘において、王であるヴラド三世はバーサーカーのAランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得できる。
『極刑王』はこのスキルで形成した領土内においてのみ、行使可能な宝具である。
【宝具】
『極刑王(カズィクル・ベイ)』
ランク:B 種別:対軍 レンジ:1~99 最大補足:666人
空間から大量の杭を出現させ、敵を串刺しにする。攻撃範囲は半径1km、杭の数は最大二万本に及ぶ。
また、手にした槍が敵に一撃を与えるたびに"串刺しにした"概念が生まれ、心臓を起点として外側へ向けて、杭が出現する。
加えて、無数の杭を目視した敵には精神的な圧迫感も与える。
ただし『護国の鬼将』で形成した領土の外で使用する際は、自身から杭を生やすことしかできない。
【weapon】
無銘の槍
【人物背景】
ワラキア公国の串刺し公。
祖国の愛と為政者としての責任感を強く抱いており、邪魔する者は身内でも容赦しない。
また手加減を知らず、その尺度は人倫を逸脱しているが故に誤解されやすいが本来の彼は気配りの細かい人格者。
「異教徒でないのなら」敵対しても降伏すれば許すという寛大な面を持つ。
自身がモデルのドラキュラ伝説を書籍や映像で見かけた場合、大人な態度でスルーしようとする。
しかし"うっかり"破壊してしまう。
【サーヴァントとしての願い】
後世において創作された「吸血鬼ドラキュラ」という汚名の抹消。
及び、吸血鬼そのものとなった自分自身と呼べる「怪物」アーカードの召喚・誅滅。
【基本戦術、方針、運用法】
スキルや宝具の関係上、基本的には領土を形成して守りに徹することになる。
マスターが極めて高い戦闘能力を誇るため、『極刑王』の杭・ランサー自身・マスターによる波状攻撃で敵サーヴァントを追い詰める、或いは敵マスターを狩るのが必勝パターン。
聖杯を求める意志は強いが集団戦についてよく理解しているため、一時的に他者と同盟を組むこともあるだろう。
もっとも異教徒との「同盟」は、同じ神を信じる者との同盟と全く異なる意味合いを持つだろうが。
【備考】
宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』はスキル:無辜の怪物と共に消滅している。
【マスター】アレクサンド・アンデルセン
【参加方法】アーカードとの戦いで敗死した後、方舟に魂を拾われた。
【マスターとしての願い】
方舟と聖杯について見極め、誤った存在であれば否定し正しい存在であれば持つに相応しい信徒に委ねる。
アンデルセン自身は「自らは聖杯に相応しくない」と思っており、方舟に選ばれた事にすら疑問を抱いている。
【weapon】
方舟へ招かれた際に再生されたのは肉体と衣服のみ。
そのため使用できる武器は衣服に数えきれぬほど収納された銃剣に限られる。
【能力・技能】
生物工学と回復法術による再生能力。吸血鬼を撃ち抜く弾丸で頭を撃ち抜かれようとも問題はない。
また身体能力においても吸血鬼に匹敵・凌駕する。
法術を使用できることから、魔術師として(=マスターとして)の適性も高いと思われる。
【人物背景】
バチカンの秘密機関「第13課イスカリオテ」に所属する「鬼札」。
アーカードが好敵手として認めた「人間」であり、それ故にアンデルセンが怪物と化した際アーカードは落胆した。
異端・異教徒に関する苛烈さばかりが話題にされがちだが、同じ神を正しく信じる者には優しい。
ランサーに対する忠誠もその信仰は本物だと認めたが故。
【方針】
ランサーと共に敵を殲滅しつつ、聖杯を託すに足る者を探す。
できればランサーとアーカードが戦う様子も見たいとは思っているが、そのためだけに無理をして残るつもりはない。
況してや自らがここでランサーを差し置いてアーカードと再戦するつもりなどありはしない。
もし見当たらなかった場合は「子供達の幸福」という願いだけを叶える。
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|BACK||NEXT|
|008:[[衛宮切嗣&アーチャー]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|010:[[岸波白野・ランサー]]|
|008:[[衛宮切嗣&アーチャー]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|010:[[岸波白野・ランサー]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
|&color(yellow){参戦}|[[アレクサンド・アンデルセン]]&ランサー([[ヴラド三世]])|00:[[]]|
*アレクサンド・アンデルセン&ランサー ◆holyBRftF6
二人の男がいた。
彼らは、化物となった。
故に、化物としての戦いが定めだった。
■ ■
天を突くかのようの立ち並ぶ摩天楼。その様子はまさしく、月夜を削る威容。
だが、それが真に天を突き夜空を削ることはない。
そのスカイスクレイパーは、月によって再現されたものであるのだから。
摩天楼の頂上の一つに、二人の男がいる。一人の主と一人の槍兵がいる。一人の神父と一人の王がいる。
彼らは互いに向かい合いながら、睨み合いながら、しかし互いを見てはいなかった。
見ているのは、彼ら自身であった。
ただ高所の風に身を晒しながら、衣服がはためく音のみを発しているのであった。
彼は共にカトリックである。
片割れはのっぴきならぬ事情で正教徒からカトリックへ改宗した身ではあるが、その信仰に揺らぎはない。
本来ならば手を取り合える主従であろう。
しかし、彼らが彼らであるからこそ確かめねばならぬ。
「令呪の効果は切れたようだな」
ようやく、言葉を思い出したように神父が口を開く。
その名をアレクサンド・アンデルセン。教会において裏に隠されていた存在であるが、しかし確かに存在していた。
彼はイスカリオテ機関の聖堂騎士であり、銃剣であり、首斬判事である。
「そのようだ」
王が応じる。
その真名をヴラド三世。王と呼ぶべき支配と苛烈さで生きた極刑王。
彼はワラキア公国の串刺し公であり、かつて故国を守りぬいた英雄であり、忌み恐れられるドラクルである。
「俺はお前の全てを聞いた。令呪までも使ってな。だからこそ認めざるを得ん。
アーカード
お前は怪物ではなく、共に神を信ずる輩(ともがら)であることを」
故に、神父は見定めねばならぬのだ。
彼は吸血鬼たるヴラド・ツェペシュと戦った。自らを化物に貶めてまで好敵手と戦い、散った。
そのまま地獄へ行く定めであった神父は、しかし何の因果か方舟に拾われた。拾われてしまった。
神父は自らに救いが来るなどと信じぬ。イスカリオテのユダと重ねあわせ、神を裏切りながら狂信する身である。
これは神の救いか、或いは神を騙る何者かによる誘いか。
神父には自らのサーヴァントを、方舟を、聖杯を、見極める必要があるのだ。
「だが、それでも聞かせてくれ。
貴様は本当にドラキュラではなくヴラドなのか」
「語った通りだ」
「貴様の汚名は確固たる経歴ではなく無辜のものなのか」
「くどい」
「その信仰に偽りはないと」
「殺されたいか神父」
途端、殺意が空気を支配する。あらゆる音が消え、ヴラド・ツェペシュという存在だけが残る。
それはからかいで放つ殺意ではない。串刺し公という英霊が、恐れられるドラクルが本気で怒る証である。
まるで杭がごとし。串刺しされた死体の山のごとし――死の河のごとし。
「その殺気が欲しかったのだ。
神への信仰を持つが故の怒りを」
だが、神父は身じろぎもしない。かつて死の河に挑んだ彼が、今更それに怯えることがあろうか。
むしろ殺気こそが求める結果であったと喜び、そして神父は跪いた。
「無礼を詫びよう、王よ――異端ならざると勘付いていながら審問を行った、信仰を疑った。
神父として許されぬことだ。首を落として頂いても構わん」
「ここで死してもよいというのか」
王は迷わずに槍を向けた。
その殺意は依然として揺るがぬ。少しでも気に食わぬことがあれば首を落とす腹づもりである。
だがやはり、神父は身じろぎもしない。恐れもしない。
「我が望みは方舟を、聖杯を見極めること。そして聖杯が正しき存在ならば、聖杯を持つに相応しい者に渡すこと。
ランサーよ、王よ、お前には聖杯を持つ資格がある」
「お前はいらぬと」
「そうだ」
「何故だ」
「地獄へ堕ちるべき身であるが故に」
顔も上げず神父は続ける。
王もまた身じろぎもせず見下ろし続けていたが、やがて口を開いた。
「今度は余が問おう、神父よ。
お前は化物となって死んだ。人ではなく化物として死んだのだな」
「話した通りだ」
「悔いはないというのか?」
「ああ」
「いかなる誹りを受けようと、裏切りを成されようと、汚名を被せられようともか」
「自らの手で選んだ神への誓いであり裏切りの道だからだ」
首に当てられていた槍が戻された。
王に神父の表情は見えぬ。神父に王の表情は見えぬ。
だがどのような表情をしているか互いに理解した。
「立つがいい、神父よ。
お前は『俺と過去を全て洗いざらい語り合え』と令呪で命じた。『語れ』ではなく『語り合え』と。
余もまたお前の過去を全て聞いた。故に、余であり余でない吸血鬼の存在を認めざるを得ん。
そして、その吸血鬼に抗ったお前という神父を、怪物を――――人間を」
「俺もだ、王よ。
お前はドラキュラの汚名を嫌っている。だが、それは自らが成した事ではないからだ。
自らが成した事ならば、串刺しならば。
いかなる誹りを受けようと、裏切りを成されようと、汚名を被せられようと認めているのだ。
俺と同じように」
二人は直立して向かい合った。それは、鏡の前に立つことと似ていた。
アーカードとアンデルセンが、怪物として似ているのであれば。
ヴラド・ツェペシュとアンデルセンは、人間として共通していた。
「カトリックとして活動したのは僅かな期間だったが……
余の理解者が死後出会ったカトリックの神父とは皮肉なものだ」
「吸血鬼ドラキュラに敗れた異端狩りが、方舟に選ばれて人間ヴラドと組むよりは有り得るだろうさ」
「もっともだ」
王は身を翻した。
その顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。
「神父よ。部屋に戻ろうか。
ここは戦いならまだしも語らいには向かぬ」
その言葉はつまり、王は神父との更なる語らいを求めているという事であった。
■ ■
二人はホテルの一室で、テーブルを挟んで腰掛けた。
目の前には何本かのワインの瓶と、グラスがある。
今のところ瓶の中身は注がれず、ただ机の飾りとして直立しているのみである。
「神父よ。無辜の怪物というスキルを知っているかね」
「いや」
「一言で言えば風評被害だ。
後世に付けられたイメージによって、姿形がねじ曲げられて再現されるというスキル。
忌まわしきことにムーンセルが再現する余にはこれが付いている……
『吸血鬼ドラキュラ』という汚名から余は逃れられぬのだ。しかし」
「お前は人間だ」
「そう。此度の余は人間として再現された。何故だと思う」
王は手を広げながら問うた。本来なら忌み嫌う話題を、しかし笑みすら浮かべて。
答えは返ってくると分かっているかのようであった。
「俺がアーカードを。
『無辜ではない』怪物をこれ以上なく知っているからか」
「然り。
お前にとって吸血鬼ドラキュラは無辜ではない。
誰かが流した偽りの情報でも、それを再現したものでもない。
だからこそムーンセルはエラーを起こした。本来剥がれぬ呪いが剥がれたのだ」
王の声を受け、神父の指が自らの眼鏡に触れる。
指はそのまま持ち上がり額を小突いた。脳裏に浮かぶ怪物に触れるかのように。
「この聖杯戦争。余は必ず勝たねばならん。
これほどの機会はまたとあるまい」
「逃してしまえば呪いが戻るため……だけではないな」
「そうだ。
お前と出会いもう一つ願いが生まれた」
笑みが歪む。穏やかだった顔へ苛烈さが混入する。
それはまさしく獲物を見つけた竜(ドラクル)。
「吸血鬼アーカード。怪物であるヴラド・ツェペシュ。
余は余である限り奴を否定しなくてはならん。
あれはまさに吸血鬼ドラキュラそのものなのだからな」
神父は無言である。
ただその眼鏡に逆光を光らせるのみ。
「故に……吸血鬼ドラキュラという汚名を完全に消滅させる前に、まずアーカードをこの手で誅滅する。
ムーンセルの力で奴を余の前へ呼び出し、そして勝利する。
人間である余が吸血鬼である奴を打ち倒すことで、やっと吸血鬼ドラキュラという存在を完全に消し去る権利を得るのだ。
神父よ。
例え聖杯が誤った存在であろうとこの願いは譲れん」
演説するように王は手を広げる。
無言だった神父は、ようやく口を開いた。
その唇は笑みを示すかのごとく僅かに歪んでいた。
「分かっている。
お前がアーカードを戦う様は俺としても見たいものだ。
聖杯を判別するのはアーカードを呼び出し討ち倒してからで構わん。
仮に誤った聖杯であったとしても。却って『怪物』を呼ぶには相応しいかもしれん」
「お前の願いは受け取った。
聖杯が誤った存在であるというのならば。その後『吸血鬼ドラキュラ』の異名を消すのは諦めよう。
どのような方法で叶えられるか分かったものではないのでな」
冗談めかすように王は言い、顔に浮かぶ笑みもそれに合わせて落ち着いた。
しかし……その後、笑みそのものが消えた。
「だがアーカードは余一人で討たねばならん。討てねばならん。
例えお前が余と共に残っていようとも。聖杯を渡すに相応しい存在を見いだせなくとも」
「気遣いは不要だ。
奴とは既に地獄で会う待ち合わせを済ませている。ここでは手を出さん」
「そうか。
ならば余とお前の二人だけが生き残った場合はどうする。
何を願う」
神父の眼鏡へ視線が杭のごとく突き刺さる。
そこに負の感情はない。純粋な疑問が故の問いであり、それが故に心までも抉る鋭さ。
答えなくとも見透かしてやる。串刺公の目はそう語っている。
それでも神父は揺るがぬ。
今更隠すものなど無いと体が答えている。
さながら銃剣のごとき視線を返し口を開く。
「子供達の幸せを。
それだけを願おう」
その時、アンデルセンの顔に浮かんだのは――――穏やかな、神父の笑みだった。
王は無言でワインを互いのグラスに注ぐ。神父の分まで手ずからに。
そして自らのグラスに触れながら厳かに目を閉じた。
「ならば聖杯への願いとは別に……余はここで今祈るとしよう。
同じ神を信ずる子らの幸福を」
「感謝する」
神父もまたグラスを手に取る。
共に祈りを捧げながら。
「「――――Amen」」
■ ■
二人の男がいる。
彼らは、人間へと戻った。
故に、化物との戦いが望みである。
【CLASS】ランサー
【真名】ヴラド三世
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
護国の鬼将:EX
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を自らの領土とする。
この領土内の戦闘において、王であるヴラド三世はバーサーカーのAランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得できる。
『極刑王』はこのスキルで形成した領土内においてのみ、行使可能な宝具である。
【宝具】
『極刑王(カズィクル・ベイ)』
ランク:B 種別:対軍 レンジ:1~99 最大補足:666人
空間から大量の杭を出現させ、敵を串刺しにする。攻撃範囲は半径1km、杭の数は最大二万本に及ぶ。
また、手にした槍が敵に一撃を与えるたびに"串刺しにした"概念が生まれ、心臓を起点として外側へ向けて、杭が出現する。
加えて、無数の杭を目視した敵には精神的な圧迫感も与える。
ただし『護国の鬼将』で形成した領土の外で使用する際は、自身から杭を生やすことしかできない。
【weapon】
無銘の槍
【人物背景】
ワラキア公国の串刺し公。
祖国の愛と為政者としての責任感を強く抱いており、邪魔する者は身内でも容赦しない。
また手加減を知らず、その尺度は人倫を逸脱しているが故に誤解されやすいが本来の彼は気配りの細かい人格者。
「異教徒でないのなら」敵対しても降伏すれば許すという寛大な面を持つ。
自身がモデルのドラキュラ伝説を書籍や映像で見かけた場合、大人な態度でスルーしようとする。
しかし"うっかり"破壊してしまう。
【サーヴァントとしての願い】
後世において創作された「吸血鬼ドラキュラ」という汚名の抹消。
及び、吸血鬼そのものとなった自分自身と呼べる「怪物」アーカードの召喚・誅滅。
【基本戦術、方針、運用法】
スキルや宝具の関係上、基本的には領土を形成して守りに徹することになる。
マスターが極めて高い戦闘能力を誇るため、『極刑王』の杭・ランサー自身・マスターによる波状攻撃で敵サーヴァントを追い詰める、或いは敵マスターを狩るのが必勝パターン。
聖杯を求める意志は強いが集団戦についてよく理解しているため、一時的に他者と同盟を組むこともあるだろう。
もっとも異教徒との「同盟」は、同じ神を信じる者との同盟と全く異なる意味合いを持つだろうが。
【備考】
宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』はスキル:無辜の怪物と共に消滅している。
【マスター】アレクサンド・アンデルセン
【参加方法】アーカードとの戦いで敗死した後、方舟に魂を拾われた。
【マスターとしての願い】
方舟と聖杯について見極め、誤った存在であれば否定し正しい存在であれば持つに相応しい信徒に委ねる。
アンデルセン自身は「自らは聖杯に相応しくない」と思っており、方舟に選ばれた事にすら疑問を抱いている。
【weapon】
方舟へ招かれた際に再生されたのは肉体と衣服のみ。
そのため使用できる武器は衣服に数えきれぬほど収納された銃剣に限られる。
【能力・技能】
生物工学と回復法術による再生能力。吸血鬼を撃ち抜く弾丸で頭を撃ち抜かれようとも問題はない。
また身体能力においても吸血鬼に匹敵・凌駕する。
法術を使用できることから、魔術師として(=マスターとして)の適性も高いと思われる。
【人物背景】
バチカンの秘密機関「第13課イスカリオテ」に所属する「鬼札」。
アーカードが好敵手として認めた「人間」であり、それ故にアンデルセンが怪物と化した際アーカードは落胆した。
異端・異教徒に関する苛烈さばかりが話題にされがちだが、同じ神を正しく信じる者には優しい。
ランサーに対する忠誠もその信仰は本物だと認めたが故。
【方針】
ランサーと共に敵を殲滅しつつ、聖杯を託すに足る者を探す。
できればランサーとアーカードが戦う様子も見たいとは思っているが、そのためだけに無理をして残るつもりはない。
況してや自らがここでランサーを差し置いてアーカードと再戦するつもりなどありはしない。
もし見当たらなかった場合は「子供達の幸福」という願いだけを叶える。
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