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*霧切響子&キャスター 完全に虚を突かれた。 油断していた結果がこれだ。気を張り詰めているつもりでもやはりどこかで全ては終わったと思っていたのだ。 だから、終わらなかった。 “絶望”は終わらない――。   Ж Ж Ж ある教室。明かりはなく、月光だけに浸された青色の学級の中で、彼女は皮手袋に包まれた拳を机に叩きつけた。 自分の浅はかさ、愚かさに、間抜けも極まるというこの現状に打ち震えていた。 それは、しかし、ある種の逃避行動、逃走思考だったのかもしれない。 これから予見される“絶望”――そこから目を背ける為の。 「“いる”のでしょう?」 彼女――霧切響子は顔を上げて教室内を見渡す。 そこには誰の姿もない。深夜の学校なのだから当然だろう。しかし、与えられた知識が真実であるならいるはずなのだ。彼女の“サーヴァント”が。 「まさか……よ。でも、私はこんなことでは膝を屈しない。ここでも生き残ってみせるわ。  姿を現しなさい。“あなた”が何者であろうとも、私はその力を利用してこの『聖杯戦争』も生き抜いてみせる」 返事は聞こえない。教室の中はただしんと静まり返っているだけだ。 なにかがまだ足りないのだろうか? 霧切響子はスカートを少しめくると太股に浮かんでいるはずの痣を確認する。 それは確かにあった。令呪。サーヴァントを使役するマスターの証明であり、同時にサーヴァントに命令を強制させる三回の権利。 意識すればそこにちりちりとした感覚を覚える。 霧切響子の太股に浮かんだ令呪は円に二本の線が十字に交わった、ターゲットサイトのような形をしたものだった。 「…………うぷ、うぷぷ」 “聞き覚え”のある声に霧切響子は顔を上げる。月光に照らされる青い顔は、それだけでは説明がつかないほどに色を失っていた。 「そんな、どうして……?」 答えて欲しくない。そんな時こそ“アイツ”は答えてくれる。 「じゃじゃーん☆」 底抜けに明るい声を発して現れた、いつかのように教壇の後ろから飛び出してきた“アイツ”は、――モノクマだった。 くらりと、霧切響子の世界が揺れる。彼女は理解していたのだ。自分のサーヴァントが、命を預ける相方がそのモノクマだということを。 「やぁ、お久しぶり。どうもモノクマです。学園長(ボク)は霧切さんの元気な姿を見れてとってもホっとしてます。ホッ」 ふらつく身体を机に手をついて支えると、霧切響子は壇上のモノクマを睨みつけこの状況を整理しようとその頭脳を回転させはじめた。 霧切響子は生まれついての探偵だった。探偵の家系に生まれ探偵に育てられた純度100%の探偵。 物心つく頃から推理をし、ランドセルを背負う頃にはもう探偵として活動していた。 そして高校生になった時、霧切響子は探偵と家を捨てた父親を追って『希望ヶ峰学園』に“超高校級の探偵”として“潜入”した。 問題はなかった。そこまでは。宿命を背負った家。親子の確執。色いろあったが、色いろあった程度だ。書き記しても安い物語にしかならない。 問題はその後、おかしかったのはそれから。 超高校級の絶望による『人類史上最低最悪の絶望的事件』――荒唐無稽すぎて書き記しても俄かには信じてもらえない物語。 その中で霧切響子は絶望に立ち向かうひとりという役者だった。黒幕の掌で踊るマリオネットのひとつにすぎなかった。 筋書き通りであればきっとただ哀れに野垂れ死んでいただろう。けれど、奇跡が起き、彼女は生還した。 そのはずだ。実際に抜け出したのだ。黒幕(モノクマ)の手の内から――なのに。 「どういうことか、説明してもらえるんでしょうね……?」 その質問にモノクマはそのぬいぐるみの身体を揺らして笑った。中心で“シロ”と“クロ”に分けられたその姿を揺らして嗤う。 「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……ボクは知らないよ。いや、知ってるはずだよ。キミは。なんせ、ここに来たのはキミ自身の“願い”のせいなんだから!」 あぁ、と霧切響子の口から溜息が漏れた。そう、彼女は理解している。ここまでの道程を覚えている。だからこそ自分の間抜けさに怒りを覚えたのだ。 なんともシンプルな話だ。あの生還からしばらく、ようやく平穏らしきものを手に入れた時、霧切響子は望んでしまったのだ。 ――この平穏が永遠に続けばいいと。 たったそれだけでここに召喚された。あの学園から脱出する際に拾ったひとつのイースターエッグ。あれが月旅行への切符だなんて知らなかった。 どうして拾ったのか。どうして捨てなかったのか。どうしてあのタイミングで手にしていて、同時に願いを思ってしまったのか。 わからない。ひどく悪魔じみた計画の内のような気もするし、ただ絶望的に不運だっただけなのかもしれない。 「……まぁ、まぁまぁ。そんなに落ち込まないでよ。こっちもテンション下がっちゃうじゃん?  本当はもっと喜んでいいと思うよ。だって、一等の宝くじに当たるよりもレアじゃん。しかも願いは叶い放題! うひょう、テンション上がるぅー!」 「私にあの“コロシアイ”をしろというの、もう一度……?」 霧切響子は拳を握って震えを隠す。“彼”がここにいないのはひどく不安なことだった。 「いやぁ、安心してよ。今回はボクが“味方”なんだからさ。ボクはキミのことだいっ嫌いだけど、ルールには厳しいからね。絶対キミの味方だよ。  ボクとキミ。最強のコンビだと思わない? ドリームタッグだよ。夢の競演。W主人公。あのラスボスが今回は味方だなんて燃える展開じゃーん!」 ギリと音を鳴らして霧切響子は歯軋りした。最悪最低の絶望的な味方だ。それはただの敵であるよりも何倍も性質が悪い。 「ボクがさ。こうこのツメでシャキーン!と殺しちゃうからさ。キミは命令すればいいんだよ。ただ殺せってね。難易度ベリーイージーだろう?」 「そんなことより……」 喚き散らしたいのを我慢して、霧切響子は質問を喉から搾り出す。モノクマのペースに乗せられてはいけない。 「“アナタ”は誰?」 「はぁ?」 モノクマが首をかしげる。一々癪に障るぬいぐるみだった。 「“アナタ”を操作しているのは誰だという話よ。まさかモノクマそのものだなんて言わないでしょうね。なんならこの令呪を試しても――」 「おっとストップ。令呪の無駄遣いはいけないよ。エコロジーに反してるよ」 その時、教室の中にぱっと光が差した。どこからかと目で追えば、それは天井から吊り下げられたモニタだった。 画面にノイズが走り、そして“ソイツ”が姿を現す。 「江ノ島! 盾子ちゃ~~~~~~~~~ん☆」   Ж Ж Ж 「江ノ島……盾子……っ」 霧切響子の頬を冷たい汗が流れる。画面に映ったのはあの江ノ島盾子だった。絶望騒動の全ての黒幕、『超高校級の絶望』こと江ノ島盾子。 「はぁ~い、おひさ♪ と言っても、こっちじゃあんまり時間間隔ってないんだけどね。でも、まぁ……だいたいあってるでしょ? おひさ~で」 表向きの姿として『超高校級のギャル』の姿を持つ彼女の態度は相変わらず軽佻浮薄だ。だが、油断はならない。彼女はそれでいて絶望的なのだ。 「あ、『どうしてお前が生きて……!?』みたいなのはナシよ。死んだのはガチだし、死んだからこそこうやって再生(リピート)もされたわけだし。  霧切ちゃん、勘がドッ鈍いせいでまだわかってないから教えとくついでに“ネタバレ”もかますけど、アタシ、江ノ島盾子本人でもないわよ」 霧切響子の眉根が寄る。本人ではないとはどういうことだろう? 本人ではないのは前提のはずだが、あえてそうことわる理由とは……。 「だからさ。本物の江ノ島盾子が死んだ後に発生した江ノ島盾子なのがアタシなのよ。  あ~、もうヤベェ。すっごいネタバレ。この場合、パラドックスとかどうなんのかな? どっちにしろ生き残れば世界線は越えちゃうだろうけど……」 「ちょっと、どういうことなの? はっきり説明しなさい!」 話の途中でブツブツと呟き始めた江ノ島盾子に霧切響子は問いかける。今のままでは(彼女には)意味不明だ。 「アルターエゴってあったでしょ? あ、もうこれだけでわかったかな」 「江ノ島盾子の電脳人格(アルターエゴ)……?」 ピンポーン☆とモニターから正解の効果音が鳴った。 「そう、第一のコロシアイから生還したアンタらは場所を変えて“2”で実は電脳人格として生き残っていたアタシと再戦するって筋書きだったのよ。  アハハハハハハハハ、超ウける! なにそれ! 陳腐すぎる。ド定番な上に安っぽい。我ながらドン引きだわ☆ もう少しひねれってーの!」 幾分かの冷静さを取り戻し霧切響子は小さく頷いた。なるほど、合点がいったと……しかし。 「あ、今勘違いしたでしょ。“アルターエゴ”があるから江ノ島盾子は死を選ぶことができたって。そーの思い込みはひどい侮辱なんで訂正させてもらうよ。  アタシがいなくてもアタシはあそこで死を選んでいた。それだけは“真実”。アタシという後に残った存在は所詮絶望の実から落ちた種でしかない」 一切のおふざけがない江ノ島盾子の声に、霧切響子はただそうと応えるしかなかった。 「ま、ということでアタシは所詮劣化物(コピー)よ。2でもあっさり負けちゃったしね。  真のラスボスは別にいたし……ということで別にそんなにビビらなくていいのよぉ~ん♪ 合縁奇縁仲良く手駒として使ってみなさいよ――」 ――“希望”のために。 「アハッ☆ アハッ☆ アハッ☆ ウケる! ちょ~ウケるんですけど! 絶望の為のバックアップだったアタシが“希望”を叶えるための道具に成り下がるなんて。 なんという絶望。興奮しすぎちゃってクロック数アがっちゃうわぁ~♪」 モニターの中で一人受けしている江ノ島盾子を前に、今度こそ霧切響子は冷静さを取り戻した。 目の前に“クロ”がいれば探偵は冷徹冷静になるものなのだ。 そう、江ノ島盾子のアルターエゴは明らかに“何かを企んでいる”。それも、極めて悪質な絶望的な何かを。 笑い続け、モニターから哄笑を撒き散らす江ノ島盾子。 それをただじっと見つめながら、霧切響子はこの“事件”こそは自らの手で決着をつけると、そう“独り”静かに誓った。   Ж Ж Ж 絶望を絶望を絶望を絶望を……底なしの甘い絶望を全ての人に。全ての世界に送ろう。どこまでもどこまでも絶望を広げて、皆を絶望の虜にしよう。 江ノ島盾子プログラムはムーンセルに記録された。今それが1アプリとして起動している。箱舟というフィールドの上を走っている。 ――『超高校級の絶望.exe』作戦開始☆ ---- 【クラス】 キャスター 【真名】 アルターエゴ・江ノ島盾子 【属性】 混沌・悪 【ステータス】  筋力:C 耐久:D 敏捷:B 魔力:A 幸運:A 宝具:B ※ステータスはモノクマのもの 【クラススキル】  陣地作成:A フィールドのデータを直接改竄することで通路や窓を自由に遮断したり、建物そのものを別のものに置き換えることが可能。  道具作成:A モノクマやモノケモノを生産する能力。陣地作成と合わせてプラントを建てれば生産能力は飛躍的に向上する。 【保有スキル】  超高校級の絶望:EX   自身、または他人が絶望することに悦びを見出すという趣向。   友人を亡くす、恋人を亡くす、夢を捨てる、死ぬ……等々、絶望することをただひたすら望み、それを周囲にも拡散していこうとする。   また、絶望を望むが故に、自分が負ける(絶望する)フラグ立ても怠らない。  超高校級の分析能力:A   現状のデータから未来を計算する能力。   データが正確であれば近時のことはほぼ100%で予見でき、数年越しの計画も脳内で正確にシミュレートすることができる。  超高校級のギャル:A   カリスマを発揮する能力。   数千数万、数十万以上の人間を従え、自爆を厭わない闘いに駆り出させるレベルの強力なカリスマ。 【宝具】  『那由他のモノクマ』  ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:那由他  モノクマを無制限に召喚する。  戦闘力を持つモノクマを大量に召喚し、相手を圧殺する。ただし召喚できる数は道具作成により作成した数まで。  『モノケモノ』  ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:30 最大捕捉:16  馬、蛇、虎、鳥、人をモチーフとした巨大ロボット(全長10m前後)を召喚し戦わせる。  それぞれ身体は鋼鉄でできており、虎は背に対物ライフルを背負い、鳥は羽と両足に計4問のガトリングガンを装備している。  『巨大江ノ島盾子』  ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:15 最大捕捉:1  巨大(30m超)な江ノ島盾子として仮想空間内に顕現する。  『学級裁判――超○○級のオシオキ』  ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:30 最大捕捉:1  “クロ”として断罪された相手を問答無用でオシオキ空間に引きずり込み、その相手に適したオシオキ方法で処刑する。  またはその告発に失敗した連中をまとめて処刑する。 【weapon】  『モノクマ』  実体を持たない江ノ島盾子の手足となるぬいぐるみロボット。  両手に鋭い爪を持ち、一流の格闘家と渡り合えるほどの運動性能をも持ち、更には自爆機能つき。  あくまで端末にしかすぎないので、破壊されたところで江ノ島盾子本体にフィードバックがくることはない。道具作成スキルで生産できる。 【人物背景】  出展は「スーパーダンガンロンパ2」  『史上最低最悪の絶望的事件』とそれにつながる全て、そこから発展した全ての事件の黒幕である江ノ島盾子――の人格を模したデータ。  パーソナリティはコピー元である江ノ島盾子とほぼ同じであるが、自身がコピーであるという自覚はある。  絶望的に絶望を愛して望み、それを世界に際限なく広げてゆくことを命題としている。  スーパダンガンロンパ2では自身のコピーを更に世界に拡散していくことを目論んでいた。  絶望趣向である他、高い分析能力のせいで先が見通せるために超絶飽きっぽいというところもあり、自分のキャラをころころ変えたり、  せっかく時間をかけて練った計画をその場の思いつきで変更してしまうなどというところがある。  今回はスーパーダンガンロンパ2でデータが抹消された後の時点から再生させれ召喚された。  データという性質から英霊としての実体を持たない。仮想世界とはモノクマか適当なモニターを通じてコンタクトすることになる。 【サーヴァントとしての願い】  聖杯戦争と並行しながらムーンセルのデータベースにアクセスを試み、絶望ウィルスを感染、拡大、全ての人類の記憶を絶望化する。  または、聖杯戦争で勝利できれば聖杯に自身を流し込んで聖杯を絶望の聖杯へと変え、以後聖杯への願いを悪解釈して叶えるようにする。 【基本戦術、方針、運用法】  必要や緊急性があればモノクマを使用して戦闘をするが、モノクマは対英霊への武装としては貧弱なので  直接的な戦闘よりも相手の弱点をつく搦め手や、精神攻撃によって相手に別対象を殺させるなどの手段を取るよう動く。  基本的に、相手を絶望させることを最優先し長期的に物事を考える。……途中で飽きてしまうかもしれないが。  また定まった拠点を作り、そこでモノクマのスペアの生産や、モノケモノの生産をする。 ---- 【マスター】 霧切響子 【参加方法】  希望ヶ峰学園脱出時に拾ったイースターエッグが『ゴフェルの木片』でできていたため召喚された。 【マスターとしての願い】  絶望が根絶され希望ある未来が来ること。 【weapon】  なし。 【能力・技能】  『超高校級の探偵』  事件や謎に対して鋭い洞察力や推理力を発揮する能力。  なんらかの謎を含む事態に遭遇した時、冷静さを取り戻し思考が普段以上に働くようになる。 【人物背景】  出展は「ダンガンロンパ」  探偵の一族で生まれ育った生粋の探偵。  家と探偵業を捨てた父を追い、希望を蒐集する『希望ヶ峰学園』へと『超高校級の探偵』として入学。  その後、探偵の仕事と並行しながら学園に通っていたところを、江ノ島盾子の起こしたコロシアイ学園生活に巻き込まれることとなる。   冷静沈着であることを意識し、情や仲間というものを否定する部分もあるが、それは彼女が過去にそれで手痛い目にあったことから来ていて、  本当はそれほど冷酷な人間だというわけではない。実際にコロシアイ学園生活では苗木誠と絆を結び、事態を打開することに成功した。  その後、監禁されていた希望ヶ峰学園から脱出し未来機関に保護されたが、今回はその時点から召喚されている。 【方針】  仮想世界の構造を調査し、可能ならば脱出する。  それが不可能、または他の参加者らの様子如何によっては優勝を目指して競い合うことも考える。  ただし、絶対にモノクマ(江ノ島盾子)は信用しない。  利用できる分には利用するが、脱出か優勝が確信できればその時点で、そうでなくとも危険だと判断すればいつでも令呪を使って自棄させる。 ----
*霧切響子&キャスター 完全に虚を突かれた。 油断していた結果がこれだ。気を張り詰めているつもりでもやはりどこかで全ては終わったと思っていたのだ。 だから、終わらなかった。 “絶望”は終わらない――。   Ж Ж Ж ある教室。明かりはなく、月光だけに浸された青色の学級の中で、彼女は皮手袋に包まれた拳を机に叩きつけた。 自分の浅はかさ、愚かさに、間抜けも極まるというこの現状に打ち震えていた。 それは、しかし、ある種の逃避行動、逃走思考だったのかもしれない。 これから予見される“絶望”――そこから目を背ける為の。 「“いる”のでしょう?」 彼女――霧切響子は顔を上げて教室内を見渡す。 そこには誰の姿もない。深夜の学校なのだから当然だろう。しかし、与えられた知識が真実であるならいるはずなのだ。彼女の“サーヴァント”が。 「まさか……よ。でも、私はこんなことでは膝を屈しない。ここでも生き残ってみせるわ。  姿を現しなさい。“あなた”が何者であろうとも、私はその力を利用してこの『聖杯戦争』も生き抜いてみせる」 返事は聞こえない。教室の中はただしんと静まり返っているだけだ。 なにかがまだ足りないのだろうか? 霧切響子はスカートを少しめくると太股に浮かんでいるはずの痣を確認する。 それは確かにあった。令呪。サーヴァントを使役するマスターの証明であり、同時にサーヴァントに命令を強制させる三回の権利。 意識すればそこにちりちりとした感覚を覚える。 霧切響子の太股に浮かんだ令呪は円に二本の線が十字に交わった、ターゲットサイトのような形をしたものだった。 「…………うぷ、うぷぷ」 “聞き覚え”のある声に霧切響子は顔を上げる。月光に照らされる青い顔は、それだけでは説明がつかないほどに色を失っていた。 「そんな、どうして……?」 答えて欲しくない。そんな時こそ“アイツ”は答えてくれる。 「じゃじゃーん☆」 底抜けに明るい声を発して現れた、いつかのように教壇の後ろから飛び出してきた“アイツ”は、――モノクマだった。 くらりと、霧切響子の世界が揺れる。彼女は理解していたのだ。自分のサーヴァントが、命を預ける相方がそのモノクマだということを。 「やぁ、お久しぶり。どうもモノクマです。学園長(ボク)は霧切さんの元気な姿を見れてとってもホっとしてます。ホッ」 ふらつく身体を机に手をついて支えると、霧切響子は壇上のモノクマを睨みつけこの状況を整理しようとその頭脳を回転させはじめた。 霧切響子は生まれついての探偵だった。探偵の家系に生まれ探偵に育てられた純度100%の探偵。 物心つく頃から推理をし、ランドセルを背負う頃にはもう探偵として活動していた。 そして高校生になった時、霧切響子は探偵と家を捨てた父親を追って『希望ヶ峰学園』に“超高校級の探偵”として“潜入”した。 問題はなかった。そこまでは。宿命を背負った家。親子の確執。色いろあったが、色いろあった程度だ。書き記しても安い物語にしかならない。 問題はその後、おかしかったのはそれから。 超高校級の絶望による『人類史上最低最悪の絶望的事件』――荒唐無稽すぎて書き記しても俄かには信じてもらえない物語。 その中で霧切響子は絶望に立ち向かうひとりという役者だった。黒幕の掌で踊るマリオネットのひとつにすぎなかった。 筋書き通りであればきっとただ哀れに野垂れ死んでいただろう。けれど、奇跡が起き、彼女は生還した。 そのはずだ。実際に抜け出したのだ。黒幕(モノクマ)の手の内から――なのに。 「どういうことか、説明してもらえるんでしょうね……?」 その質問にモノクマはそのぬいぐるみの身体を揺らして笑った。中心で“シロ”と“クロ”に分けられたその姿を揺らして嗤う。 「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……ボクは知らないよ。いや、知ってるはずだよ。キミは。なんせ、ここに来たのはキミ自身の“願い”のせいなんだから!」 あぁ、と霧切響子の口から溜息が漏れた。そう、彼女は理解している。ここまでの道程を覚えている。だからこそ自分の間抜けさに怒りを覚えたのだ。 なんともシンプルな話だ。あの生還からしばらく、ようやく平穏らしきものを手に入れた時、霧切響子は望んでしまったのだ。 ――この平穏が永遠に続けばいいと。 たったそれだけでここに召喚された。あの学園から脱出する際に拾ったひとつのイースターエッグ。あれが月旅行への切符だなんて知らなかった。 どうして拾ったのか。どうして捨てなかったのか。どうしてあのタイミングで手にしていて、同時に願いを思ってしまったのか。 わからない。ひどく悪魔じみた計画の内のような気もするし、ただ絶望的に不運だっただけなのかもしれない。 「……まぁ、まぁまぁ。そんなに落ち込まないでよ。こっちもテンション下がっちゃうじゃん?  本当はもっと喜んでいいと思うよ。だって、一等の宝くじに当たるよりもレアじゃん。しかも願いは叶い放題! うひょう、テンション上がるぅー!」 「私にあの“コロシアイ”をしろというの、もう一度……?」 霧切響子は拳を握って震えを隠す。“彼”がここにいないのはひどく不安なことだった。 「いやぁ、安心してよ。今回はボクが“味方”なんだからさ。ボクはキミのことだいっ嫌いだけど、ルールには厳しいからね。絶対キミの味方だよ。  ボクとキミ。最強のコンビだと思わない? ドリームタッグだよ。夢の競演。W主人公。あのラスボスが今回は味方だなんて燃える展開じゃーん!」 ギリと音を鳴らして霧切響子は歯軋りした。最悪最低の絶望的な味方だ。それはただの敵であるよりも何倍も性質が悪い。 「ボクがさ。こうこのツメでシャキーン!と殺しちゃうからさ。キミは命令すればいいんだよ。ただ殺せってね。難易度ベリーイージーだろう?」 「そんなことより……」 喚き散らしたいのを我慢して、霧切響子は質問を喉から搾り出す。モノクマのペースに乗せられてはいけない。 「“アナタ”は誰?」 「はぁ?」 モノクマが首をかしげる。一々癪に障るぬいぐるみだった。 「“アナタ”を操作しているのは誰だという話よ。まさかモノクマそのものだなんて言わないでしょうね。なんならこの令呪を試しても――」 「おっとストップ。令呪の無駄遣いはいけないよ。エコロジーに反してるよ」 その時、教室の中にぱっと光が差した。どこからかと目で追えば、それは天井から吊り下げられたモニタだった。 画面にノイズが走り、そして“ソイツ”が姿を現す。 「江ノ島! 盾子ちゃ~~~~~~~~~ん☆」   Ж Ж Ж 「江ノ島……盾子……っ」 霧切響子の頬を冷たい汗が流れる。画面に映ったのはあの江ノ島盾子だった。絶望騒動の全ての黒幕、『超高校級の絶望』こと江ノ島盾子。 「はぁ~い、おひさ♪ と言っても、こっちじゃあんまり時間間隔ってないんだけどね。でも、まぁ……だいたいあってるでしょ? おひさ~で」 表向きの姿として『超高校級のギャル』の姿を持つ彼女の態度は相変わらず軽佻浮薄だ。だが、油断はならない。彼女はそれでいて絶望的なのだ。 「あ、『どうしてお前が生きて……!?』みたいなのはナシよ。死んだのはガチだし、死んだからこそこうやって再生(リピート)もされたわけだし。  霧切ちゃん、勘がドッ鈍いせいでまだわかってないから教えとくついでに“ネタバレ”もかますけど、アタシ、江ノ島盾子本人でもないわよ」 霧切響子の眉根が寄る。本人ではないとはどういうことだろう? 本人ではないのは前提のはずだが、あえてそうことわる理由とは……。 「だからさ。本物の江ノ島盾子が死んだ後に発生した江ノ島盾子なのがアタシなのよ。  あ~、もうヤベェ。すっごいネタバレ。この場合、パラドックスとかどうなんのかな? どっちにしろ生き残れば世界線は越えちゃうだろうけど……」 「ちょっと、どういうことなの? はっきり説明しなさい!」 話の途中でブツブツと呟き始めた江ノ島盾子に霧切響子は問いかける。今のままでは(彼女には)意味不明だ。 「アルターエゴってあったでしょ? あ、もうこれだけでわかったかな」 「江ノ島盾子の電脳人格(アルターエゴ)……?」 ピンポーン☆とモニターから正解の効果音が鳴った。 「そう、第一のコロシアイから生還したアンタらは場所を変えて“2”で実は電脳人格として生き残っていたアタシと再戦するって筋書きだったのよ。  アハハハハハハハハ、超ウける! なにそれ! 陳腐すぎる。ド定番な上に安っぽい。我ながらドン引きだわ☆ もう少しひねれってーの!」 幾分かの冷静さを取り戻し霧切響子は小さく頷いた。なるほど、合点がいったと……しかし。 「あ、今勘違いしたでしょ。“アルターエゴ”があるから江ノ島盾子は死を選ぶことができたって。そーの思い込みはひどい侮辱なんで訂正させてもらうよ。  アタシがいなくてもアタシはあそこで死を選んでいた。それだけは“真実”。アタシという後に残った存在は所詮絶望の実から落ちた種でしかない」 一切のおふざけがない江ノ島盾子の声に、霧切響子はただそうと応えるしかなかった。 「ま、ということでアタシは所詮劣化物(コピー)よ。2でもあっさり負けちゃったしね。  真のラスボスは別にいたし……ということで別にそんなにビビらなくていいのよぉ~ん♪ 合縁奇縁仲良く手駒として使ってみなさいよ――」 ――“希望”のために。 「アハッ☆ アハッ☆ アハッ☆ ウケる! ちょ~ウケるんですけど! 絶望の為のバックアップだったアタシが“希望”を叶えるための道具に成り下がるなんて。  なんという絶望。興奮しすぎちゃってクロック数アがっちゃうわぁ~♪」 モニターの中で一人受けしている江ノ島盾子を前に、今度こそ霧切響子は冷静さを取り戻した。 目の前に“クロ”がいれば探偵は冷徹冷静になるものなのだ。 そう、江ノ島盾子のアルターエゴは明らかに“何かを企んでいる”。それも、極めて悪質な絶望的な何かを。 笑い続け、モニターから哄笑を撒き散らす江ノ島盾子。 それをただじっと見つめながら、霧切響子はこの“事件”こそは自らの手で決着をつけると、そう“独り”静かに誓った。   Ж Ж Ж 絶望を絶望を絶望を絶望を……底なしの甘い絶望を全ての人に。全ての世界に送ろう。どこまでもどこまでも絶望を広げて、皆を絶望の虜にしよう。 江ノ島盾子プログラムはムーンセルに記録された。今それが1アプリとして起動している。箱舟というフィールドの上を走っている。 ――『超高校級の絶望.exe』作戦開始☆ ---- 【クラス】 キャスター 【真名】 アルターエゴ・江ノ島盾子 【属性】 混沌・悪 【ステータス】  筋力:C 耐久:D 敏捷:B 魔力:A 幸運:A 宝具:B ※ステータスはモノクマのもの 【クラススキル】  陣地作成:A フィールドのデータを直接改竄することで通路や窓を自由に遮断したり、建物そのものを別のものに置き換えることが可能。  道具作成:A モノクマやモノケモノを生産する能力。陣地作成と合わせてプラントを建てれば生産能力は飛躍的に向上する。 【保有スキル】  超高校級の絶望:EX   自身、または他人が絶望することに悦びを見出すという趣向。   友人を亡くす、恋人を亡くす、夢を捨てる、死ぬ……等々、絶望することをただひたすら望み、それを周囲にも拡散していこうとする。   また、絶望を望むが故に、自分が負ける(絶望する)フラグ立ても怠らない。  超高校級の分析能力:A   現状のデータから未来を計算する能力。   データが正確であれば近時のことはほぼ100%で予見でき、数年越しの計画も脳内で正確にシミュレートすることができる。  超高校級のギャル:A   カリスマを発揮する能力。   数千数万、数十万以上の人間を従え、自爆を厭わない闘いに駆り出させるレベルの強力なカリスマ。 【宝具】  『那由他のモノクマ』  ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:那由他  モノクマを無制限に召喚する。  戦闘力を持つモノクマを大量に召喚し、相手を圧殺する。ただし召喚できる数は道具作成により作成した数まで。  『モノケモノ』  ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:30 最大捕捉:16  馬、蛇、虎、鳥、人をモチーフとした巨大ロボット(全長10m前後)を召喚し戦わせる。  それぞれ身体は鋼鉄でできており、虎は背に対物ライフルを背負い、鳥は羽と両足に計4問のガトリングガンを装備している。  『巨大江ノ島盾子』  ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:15 最大捕捉:1  巨大(30m超)な江ノ島盾子として仮想空間内に顕現する。  『学級裁判――超○○級のオシオキ』  ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:30 最大捕捉:1  “クロ”として断罪された相手を問答無用でオシオキ空間に引きずり込み、その相手に適したオシオキ方法で処刑する。  またはその告発に失敗した連中をまとめて処刑する。 【weapon】  『モノクマ』  実体を持たない江ノ島盾子の手足となるぬいぐるみロボット。  両手に鋭い爪を持ち、一流の格闘家と渡り合えるほどの運動性能をも持ち、更には自爆機能つき。  あくまで端末にしかすぎないので、破壊されたところで江ノ島盾子本体にフィードバックがくることはない。道具作成スキルで生産できる。 【人物背景】  出展は「スーパーダンガンロンパ2」  『史上最低最悪の絶望的事件』とそれにつながる全て、そこから発展した全ての事件の黒幕である江ノ島盾子――の人格を模したデータ。  パーソナリティはコピー元である江ノ島盾子とほぼ同じであるが、自身がコピーであるという自覚はある。  絶望的に絶望を愛して望み、それを世界に際限なく広げてゆくことを命題としている。  スーパダンガンロンパ2では自身のコピーを更に世界に拡散していくことを目論んでいた。  絶望趣向である他、高い分析能力のせいで先が見通せるために超絶飽きっぽいというところもあり、自分のキャラをころころ変えたり、  せっかく時間をかけて練った計画をその場の思いつきで変更してしまうなどというところがある。  今回はスーパーダンガンロンパ2でデータが抹消された後の時点から再生させれ召喚された。  データという性質から英霊としての実体を持たない。仮想世界とはモノクマか適当なモニターを通じてコンタクトすることになる。 【サーヴァントとしての願い】  聖杯戦争と並行しながらムーンセルのデータベースにアクセスを試み、絶望ウィルスを感染、拡大、全ての人類の記憶を絶望化する。  または、聖杯戦争で勝利できれば聖杯に自身を流し込んで聖杯を絶望の聖杯へと変え、以後聖杯への願いを悪解釈して叶えるようにする。 【基本戦術、方針、運用法】  必要や緊急性があればモノクマを使用して戦闘をするが、モノクマは対英霊への武装としては貧弱なので  直接的な戦闘よりも相手の弱点をつく搦め手や、精神攻撃によって相手に別対象を殺させるなどの手段を取るよう動く。  基本的に、相手を絶望させることを最優先し長期的に物事を考える。……途中で飽きてしまうかもしれないが。  また定まった拠点を作り、そこでモノクマのスペアの生産や、モノケモノの生産をする。 ---- 【マスター】 霧切響子 【参加方法】  希望ヶ峰学園脱出時に拾ったイースターエッグが『ゴフェルの木片』でできていたため召喚された。 【マスターとしての願い】  絶望が根絶され希望ある未来が来ること。 【weapon】  なし。 【能力・技能】  『超高校級の探偵』  事件や謎に対して鋭い洞察力や推理力を発揮する能力。  なんらかの謎を含む事態に遭遇した時、冷静さを取り戻し思考が普段以上に働くようになる。 【人物背景】  出展は「ダンガンロンパ」  探偵の一族で生まれ育った生粋の探偵。  家と探偵業を捨てた父を追い、希望を蒐集する『希望ヶ峰学園』へと『超高校級の探偵』として入学。  その後、探偵の仕事と並行しながら学園に通っていたところを、江ノ島盾子の起こしたコロシアイ学園生活に巻き込まれることとなる。   冷静沈着であることを意識し、情や仲間というものを否定する部分もあるが、それは彼女が過去にそれで手痛い目にあったことから来ていて、  本当はそれほど冷酷な人間だというわけではない。実際にコロシアイ学園生活では苗木誠と絆を結び、事態を打開することに成功した。  その後、監禁されていた希望ヶ峰学園から脱出し未来機関に保護されたが、今回はその時点から召喚されている。 【方針】  仮想世界の構造を調査し、可能ならば脱出する。  それが不可能、または他の参加者らの様子如何によっては優勝を目指して競い合うことも考える。  ただし、絶対にモノクマ(江ノ島盾子)は信用しない。  利用できる分には利用するが、脱出か優勝が確信できればその時点で、そうでなくとも危険だと判断すればいつでも令呪を使って自棄させる。 ----

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