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  宝船―――― ながき世の とをのねぶりの みなめざめ 波のり船のおとのよきかな ――――画圖百器徒然袋/卷之上・卷之下 鳥山石燕/天明四年                         * 輝ける文字の曼荼羅が床となり、螺旋を描く奇怪な地。 その中心に一人佇つ男の姿がある。 真っ白い和服に小豆色の羽織り。 胸には籠目紋。確乎りした顎。 真っ直ぐな眉。鷹のような眼。 そして――手の甲に刻まれた紋様。 男の表情は明瞭且つ落ち着いたものである。 明らかに異常な状況下にあって些かの動揺もないその様は、それ自体が男の異常性を示してもいた。 ぐらりと――揺れる。 空間そのものが振動し、男の眼前に光が噴出す。 「――サーヴァント・ランサー。招きに応じ、参上したぞ」 光から現れた人物をその眼で見て、猶も男は余裕を崩す事なく、微笑さえ浮かべてみせた。 「これはこれは――真逆此処でお姿を拝見するとは思いませんでしたよ、総統閣下」 「フ――ハハハハハハ」 呵々大笑する、総統《フューラー》と呼ばれたサーヴァントの姿――現代に生きる者ならば、それを知らぬ者は稀であろう。 嘗て第二次世界大戦を引き起こしたドイツ第三帝国の総統、アドルフ・ヒトラー。 彼は呪師であるエルンスト・プレッシュに師事し、超人的精神を思いの儘に操る術を学んだ。 更には『聖杯』を筆頭に、世界各地の秘宝や理想郷を探索させ、遂には持ち主に世界を征服する力を与える聖槍――ロンギヌスの槍を発見したのだという。 無論それは大衆によって無責任に語られる、確認など出来る筈もない伝説――噂に過ぎない。 歴史的事実としてヒトラーは敗北し、自らの手でその命を断った。 だが、多くの人間の心に雛形を残した彼は、その後も『生存説』という新たな幻想を産み出し続ける。 そして――今ここに存在する彼が携える聖槍は紛れも無く、二千年もの間語り継がれた、最高級の神秘を帯びる宝具であった。 「このクリークのシステムは中々に面白い。が、名が知れている事は少々不利でもあるな。サングラスでも掛けた方がいいかね?」 「どうぞご自由に。しかし、姿形などはあなたにとっては無意味――なのではありませんかねえ」 飄飄とした態度で男は答える。 「ふん――ではマスターよ、お前の素性も聞いておこうか。私だけでは不公平というものだろう?」 「私は――そう、単なる郷土史家ですよ」 「嘘は良くないな、マスター。嘘つきはユンゲから尊敬されんぞ、クックック……」 ほう――男は肩を竦めた。 「御見通しという訳ですか。いや、驚かされますなあ。これはあなた方――サーヴァントならば皆当たり前に出来る事なのでしょうかねえ」 くつくつと笑う。 「いいや、これは私の特性だよ。お前とて――既に私が何者であるか、ステータスとして確認している筈だろう?  この私をも掌の上に乗せようというのなら、それは無意味だと先に言っておこう。まあ――よりによってこの私を喚ぶマスターともなれば、捻くれていて当然というところか。  魔術師ですらない、単なる人間だというのに目覚めも随分と早い。如何なる手段を使ったのかね?」 「何、ご存知でしょうが――私は元元記憶や人格に関する研究を行っていましてね、操る術も識っている。しかしまあ、そんな事は如何でも良い、些細な事です。  存在は存在するのみで良い。存在している事を自覚する必要も理解する必要もない。  経験的知識に依存しなければ保証出来ない存在など、幽霊みたいなものじゃあないですか。  何故に私が今この場にいるのか、という問いも無意味だ。私とあなたが今こうして対面している――それだけで充分でしょう」 宜しいですか――男は告げる。 「この世には、不思議でない事など何も無いのですよ」 「世界は不思議に満ち満ちている。ここに私がいることも、そこにあなたがいることも、不思議と云えば皆不思議だ。  月であろうが方舟であろうが地球であろうが、同じ事。  この世界は凡て真実ですよ。それを在るが儘に受け止めればそれで済むのです」 ぱん、ぱん、と、ランサーが軽く手を叩く。 「中々に面白い言説だったよ、マスター。この話はそれで良しとしよう。だが――」 瞬間。 何の予備動作もなく、ランサーは男の胸先へと聖槍を突きつけていた。 「――最後に一つ聞くぞ、マスター。お前の願いを言うがいい。  答え次第では、アウフ・ヴィーダーゼーエン――このまま無意識の深淵へと帰ってもらう事になる。  理想を燃やす者が持つ想念の力、ヴリル・パワー。それを持たぬ者にこの戦いで勝利が齎される事はないのだからな。  この方舟を我が手中に収め、真の総統都市《フューラー・シュテッテ》とする願い、足を引っ張られる訳にはいかぬのだよ」 「――ふふふ」 男は――揺るがない。 「あなたはとっくに理解っているのでしょうに。随分と芝居がかった事をするものですなあ」 「そう言うな。サーヴァントとして召喚された以上、らしい振る舞いというものをせねばな」 「それでは――」 マスターは問う。 「――知りたいですか」 サーヴァントは応える。 「知りたいとも――」 男は目尻に皺を寄せ、口許だけで笑った。 「願いなど無い――ただ」 愉しいからですよと男は言った。 「娯しい筈ですよ。自分の望みを叶えるという、ただそれだけの為に殺し合う――そんな愚か者共を間近で観る事が」 愉しくない訳がない。 「私が審判役だった前回のゲームも中中に面白かったのですがねえ。  今回は私も参加者の一人として、より近くから観察したい――強いて云うならば、それが願いという事になるのでしょうなあ。  形は変われど趣旨は同じ。俯瞰する事が出来ぬのは惜しいが、公平性に気を配らずとも良いのは気が楽だ――」 ――昭和十七年。 その年、一人の男によって企画されたゲームが始まった。 ある家族に偽りの記憶と名、そして様々な形の武器を与え――家族同士が知らぬ内に異形の技を駆使して相争うゲーム。 真実の記憶を取り戻す事が出来るのは、七人の内ただ一人の勝者のみ。 加えて男は、それぞれの参加者に参謀を与える為に、自らの部下へと告げた。 ――このゲームに賭けてみろ。 ――札を一枚選んで、それが中ったらそれはお前のものだ。 ――凡ては与えられ、その望みは叶う。 その言葉に唆されたある者は不老不死を、ある者は戦争継続を望み、ゲームの参加者に加わった。 更に男は様々な人物を巻き込み、障害を配置し、全ての参加者の妨害を目的とするジョーカーをもゲームに加え、事態は混迷を極めた。 昭和二十八年六月一九日――かつては男の部下であった拝み屋が男の企みを暴き出し、強制的にゲームを終了させたその日まで、男は審判役としてゲームを観察し、嗤い続けた。 その男――聖杯へ懸ける望みを持たぬマスター。 元帝国陸軍大佐、堂島静軒。 彼の言葉を聞いたランサーは――笑っていた。 「クックック――フハハハハハハ!」 高笑いと共に、ランサーが光に包まれる。 「いいだろう、我がマスターよ! 契約は成った。この這い寄る混沌、久方振りに使役されてやろうではないか――!」 一瞬の後――男のサーヴァントは、悍ましき触手を無数に持つ軟体動物の姿へと変貌していた。 ニャルラトホテプ――それがサーヴァントの真名である。 あらゆる人間に存在するネガティブマインドの集合体。 人が人である限り決して滅びず、全てを嘲笑する影。 「お前が主催した宴――普遍的無意識の隙間から覗かせて貰ったが、実に見応えがあったぞ」 「何の――あなたも面白い事を考えるものだ」 底無しの悪意と共に注がれる、人類が自ら滅びを願い、終焉を迎えた世界の記憶。 それを心の底から、男は愉しんでいた。 ――奇妙な空間は消え去り、周囲の風景は正常化している。 ごく自然に男は山道を歩き出し、虚空へと声を発した。 「却説――本格的に始まるにはまだ時間があるようだ。今暫くは、この地を見て回るとしますよ」 「そして、今の内から哀れなマリオネットを見繕っておくかね? 既に覚醒しているのはお前だけではない。精々気をつける事だ」 声に応じ、男のサーヴァントが現れる。 その姿は、聖槍を持つナチスの総統の物へと戻っていた。 「繰り返しになるが――私もこのサーヴァントシステムには縛られている存在だ。あくまでも私はランサーという事だな。とはいえ――真の聖槍の力、伊達ではないぞ」 「ふ――渾沌に顔が付いてしまったという訳ですか。何とも不吉ですなあ」 「止むを得まい。ゲームにはルールが必要だろう?」 「全くです。ゲームとは公平で、難しいほど面白いのですからねえ――」 功を焦って急いてはならぬ。 居丈高に構えるのも無駄だ。 要らぬ力を込めてはならぬ。 舞え歌え、愚かなる異形の世の民よ。 浄土の到来を祝う宴は、 ――さぞや愉しい事だろう。 【マスター】 堂島静軒@塗仏の宴 【参加方法】 不明。 何らかの形で入手した『ゴフェルの木片』によって召喚された可能性が高いと思われる。 【マスターとしての願い】 無し。 最後まで生き残った場合は帰る。 【weapon】 無し。 【能力・技能】 催眠術による暗示・記憶・人格操作。ただし本人は「催眠術など使うのは二流」としている。 言葉による思考誘導。 民俗学、宗教、練丹、気功、風水、老荘思想、民間道教、占術等の知識。 【人物背景】 元帝国陸軍大佐。昭和二十八年の時点で五十歳前後と見られる男性。 旧軍時代は宗教的洗脳実験や青酸毒の開発に携わる。 また記憶の問題を研究しており、矛盾を矛盾のまま無矛盾的に統合してしまうという特性を、特性ではなく欠陥として認識。 矛盾を抱えた主体は不完全であり、主体は非経験的純粋概念に忠実であるべきだと考えた。 昭和十七年、とある家族と旧部下を利用して『ゲーム』を企画する。 ゲームでは殺人を行う事を禁じていたが、それはゲームをスムーズに進行させる為の単なる配慮であり、殺人に忌避感は持たない。 本人曰く「確実に先を見通している」人間であり、「遠からず子は親を殺し親は子を食う世の中になる」と嘯く。 人が滅ぶならそのまま滅びれば良いという考えを持つが、積極的に現状を変えようとする意思は無い。 【方針】 他の参加者の観察を愉しむ。 基本的に戦闘は回避するが、ゲームの滞りとなる要因は排除する。 【クラス】 ランサー 【真名】 アドルフ・ヒトラー(ニャルラトホテプ)@ペルソナ2 罪/罰 【パラメータ】 筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:E 宝具:A 【属性】 混沌・悪 【クラススキル】 対魔力:B 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。 【保有スキル】 カリスマ:A+ 大軍団を指揮・統率する才能。 カール・グスタフ・ユングは「ヒトラーの力は政治的なものではなく、魔術である」と語っている。 無貌の仮面:B 這い寄る混沌の化身である事を示すスキル。 真名・ニャルラトホテプを秘匿し、化身としての偽の真名を表示させると同時に、同ランクの『変化』を得る。 本来ならば無制限かつ複数同時に自らの分身を実体化させる事も可能だが、ランサーとして召喚された今回の聖杯戦争では、実体化が可能なのはヒトラーの配下であるラスト・バタリオンに限定されている。 また、相応の魔力消費も必要となる。 人間観察:EX 人々を観察し、理解する技術。 人類の影であるニャルラトホテプは、本人が否定したい、隠したい部分も含めた全てを把握している。 しかしその性質故に、希望や創造性を決して認める事はない。 【宝具】 『聖槍(ロンギヌス・オリジナル)』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大補足:1人 かつて、これによって貫かれた聖人の遺体から止めどなく血が流れ続けたとされる槍。 この宝具によって傷を負った相手は永続的にダメージを受け続ける。 更に致命傷を負った場合、蘇生を含むあらゆる回復手段を無効化する。 『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大補足:1000人 ニャルラトホテプの棲む普遍的無意識の世界は、あらゆる時空の性質を受けず、絶えず人の心に存在し続けている。 この世界では強い意志がそのまま現実を変える力となり、新たな世界の創造すら可能とする。 即ち、ニャルラトホテプが相手の存在を抹消しようと思えば、指一つ動かさず相手は消え失せる事になる。 ニャルラトホテプは人々の『噂』を現実化させ、妄想を現実と信じて現実化させていく人々自らの手で世界を滅ぼさせようとする。 それは、人が無意識に破滅を望むが故である。 聖杯戦争に於いては完全にサーヴァントとしての枠組みを超越した能力であるため、無条件で使用不能。 【weapon】 ペルソナ…普遍的無意識に存在する、神や悪魔の姿をした人格。自らの化身の一つである『月に吠えるもの』を行使する。 Aランクの魔術に相当する威力の範囲攻撃が可能な他、数ターンの間のみ一切の攻撃を受け付けなくなる効果を持つ『聖杯』を使用可能。 【人物背景】 全ての人類が意識の最底辺に抱え持つ普遍的無意識の元型。 ニャルラトホテプは人間のダークサイドが凝り固まった存在であり、ポジティブマインドの集合体であるフィレモンと名乗る存在とは表裏一体の関係にある。 フィレモンは強き心を持つ者を導き、ニャルラトホテプは弱き者を奈落へ引きずり込む。 この二者の対立は、人の内包する矛盾の象徴に他ならない。 ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである為、人が人である限り絶対に滅ぼせない。 ニャルラトホテプに対抗する手段はただ一つ。 「全てを受け入れた上で、決して諦めないこと」である。 【サーヴァントとしての願い】 人類自身の手によって人類を破滅へと導くのがニャルラトホテプという存在なので、願いはない。 基本的にはマスターに従うが、マスター・サーヴァント問わず面白そうな相手を見つけたら独断で試練を与えるかもしれない。 何の脈絡も無く突然マスターを裏切ったりするかもしれない。 【基本戦術、方針、運用法】 物凄い存在ではあるのだが、ランサーはあくまでもサーヴァントとして存在しているため、普通にダメージも食らうし消滅もする。 マスターの魔力が皆無なので、NPCの魂喰いに頼らない限りは部下の召喚もやりづらい。 宝具の神秘性こそ最高クラスではあるが戦闘では決め手に欠けるため、マスターの方針に従って戦闘は回避するのが上策であろう。 人外の存在を除く全てのマスター・サーヴァントの能力や性格を把握しているため、その気になれば大物喰いも一応は可能か。 だが、その本領を最も発揮するのは変化スキルと言葉責めによる精神攻撃をかける時である。
  宝船―――― ながき世の とをのねぶりの みなめざめ 波のり船のおとのよきかな ――――画圖百器徒然袋/卷之上・卷之下 鳥山石燕/天明四年                         * 輝ける文字の曼荼羅が床となり、螺旋を描く奇怪な地。 その中心に一人佇つ男の姿がある。 真っ白い和服に小豆色の羽織り。 胸には籠目紋。確乎りした顎。 真っ直ぐな眉。鷹のような眼。 そして――手の甲に刻まれた紋様。 男の表情は明瞭且つ落ち着いたものである。 明らかに異常な状況下にあって些かの動揺もないその様は、それ自体が男の異常性を示してもいた。 ぐらりと――揺れる。 空間そのものが振動し、男の眼前に光が噴出す。 「――サーヴァント・ランサー。招きに応じ、参上したぞ」 光から現れた人物をその眼で見て、猶も男は余裕を崩す事なく、微笑さえ浮かべてみせた。 「これはこれは――真逆此処でお姿を拝見するとは思いませんでしたよ、総統閣下」 「フ――ハハハハハハ」 呵々大笑する、総統《フューラー》と呼ばれたサーヴァントの姿――現代に生きる者ならば、それを知らぬ者は稀であろう。 嘗て第二次世界大戦を引き起こしたドイツ第三帝国の総統、アドルフ・ヒトラー。 彼は呪師であるエルンスト・プレッシュに師事し、超人的精神を思いの儘に操る術を学んだ。 更には『聖杯』を筆頭に、世界各地の秘宝や理想郷を探索させ、遂には持ち主に世界を征服する力を与える聖槍――ロンギヌスの槍を発見したのだという。 無論それは大衆によって無責任に語られる、確認など出来る筈もない伝説――噂に過ぎない。 歴史的事実としてヒトラーは敗北し、自らの手でその命を断った。 だが、多くの人間の心に雛形を残した彼は、その後も『生存説』という新たな幻想を産み出し続ける。 そして――今ここに存在する彼が携える聖槍は紛れも無く、二千年もの間語り継がれた、最高級の神秘を帯びる宝具であった。 「このクリークのシステムは中々に面白い。が、名が知れている事は少々不利でもあるな。サングラスでも掛けた方がいいかね?」 「どうぞご自由に。しかし、姿形などはあなたにとっては無意味――なのではありませんかねえ」 飄飄とした態度で男は答える。 「ふん――ではマスターよ、お前の素性も聞いておこうか。私だけでは不公平というものだろう?」 「私は――そう、単なる郷土史家ですよ」 「嘘は良くないな、マスター。嘘つきはユンゲから尊敬されんぞ、クックック……」 ほう――男は肩を竦めた。 「御見通しという訳ですか。いや、驚かされますなあ。これはあなた方――サーヴァントならば皆当たり前に出来る事なのでしょうかねえ」 くつくつと笑う。 「いいや、これは私の特性だよ。お前とて――既に私が何者であるか、ステータスとして確認している筈だろう?  この私をも掌の上に乗せようというのなら、それは無意味だと先に言っておこう。まあ――よりによってこの私を喚ぶマスターともなれば、捻くれていて当然というところか。  魔術師ですらない、単なる人間だというのに目覚めも随分と早い。如何なる手段を使ったのかね?」 「何、ご存知でしょうが――私は元元記憶や人格に関する研究を行っていましてね、操る術も識っている。しかしまあ、そんな事は如何でも良い、些細な事です。  存在は存在するのみで良い。存在している事を自覚する必要も理解する必要もない。  経験的知識に依存しなければ保証出来ない存在など、幽霊みたいなものじゃあないですか。  何故に私が今この場にいるのか、という問いも無意味だ。私とあなたが今こうして対面している――それだけで充分でしょう」 宜しいですか――男は告げる。 「この世には、不思議でない事など何も無いのですよ」 「世界は不思議に満ち満ちている。ここに私がいることも、そこにあなたがいることも、不思議と云えば皆不思議だ。  月であろうが方舟であろうが地球であろうが、同じ事。  この世界は凡て真実ですよ。それを在るが儘に受け止めればそれで済むのです」 ぱん、ぱん、と、ランサーが軽く手を叩く。 「中々に面白い言説だったよ、マスター。この話はそれで良しとしよう。だが――」 瞬間。 何の予備動作もなく、ランサーは男の胸先へと聖槍を突きつけていた。 「――最後に一つ聞くぞ、マスター。お前の願いを言うがいい。  答え次第では、アウフ・ヴィーダーゼーエン――このまま無意識の深淵へと帰ってもらう事になる。  理想を燃やす者が持つ想念の力、ヴリル・パワー。それを持たぬ者にこの戦いで勝利が齎される事はないのだからな。  この方舟を我が手中に収め、真の総統都市《フューラー・シュテッテ》とする願い、足を引っ張られる訳にはいかぬのだよ」 「――ふふふ」 男は――揺るがない。 「あなたはとっくに理解っているのでしょうに。随分と芝居がかった事をするものですなあ」 「そう言うな。サーヴァントとして召喚された以上、らしい振る舞いというものをせねばな」 「それでは――」 マスターは問う。 「――知りたいですか」 サーヴァントは応える。 「知りたいとも――」 男は目尻に皺を寄せ、口許だけで笑った。 「願いなど無い――ただ」 愉しいからですよと男は言った。 「娯しい筈ですよ。自分の望みを叶えるという、ただそれだけの為に殺し合う――そんな愚か者共を間近で観る事が」 愉しくない訳がない。 「私が審判役だった前回のゲームも中中に面白かったのですがねえ。  今回は私も参加者の一人として、より近くから観察したい――強いて云うならば、それが願いという事になるのでしょうなあ。  形は変われど趣旨は同じ。俯瞰する事が出来ぬのは惜しいが、公平性に気を配らずとも良いのは気が楽だ――」 ――昭和十七年。 その年、一人の男によって企画されたゲームが始まった。 ある家族に偽りの記憶と名、そして様々な形の武器を与え――家族同士が知らぬ内に異形の技を駆使して相争うゲーム。 真実の記憶を取り戻す事が出来るのは、七人の内ただ一人の勝者のみ。 加えて男は、それぞれの参加者に参謀を与える為に、自らの部下へと告げた。 ――このゲームに賭けてみろ。 ――札を一枚選んで、それが中ったらそれはお前のものだ。 ――凡ては与えられ、その望みは叶う。 その言葉に唆されたある者は不老不死を、ある者は戦争継続を望み、ゲームの参加者に加わった。 更に男は様々な人物を巻き込み、障害を配置し、全ての参加者の妨害を目的とするジョーカーをもゲームに加え、事態は混迷を極めた。 昭和二十八年六月一九日――かつては男の部下であった拝み屋が男の企みを暴き出し、強制的にゲームを終了させたその日まで、男は審判役としてゲームを観察し、嗤い続けた。 その男――聖杯へ懸ける望みを持たぬマスター。 元帝国陸軍大佐、堂島静軒。 彼の言葉を聞いたランサーは――笑っていた。 「クックック――フハハハハハハ!」 高笑いと共に、ランサーが光に包まれる。 「いいだろう、我がマスターよ! 契約は成った。この這い寄る混沌、久方振りに使役されてやろうではないか――!」 一瞬の後――男のサーヴァントは、悍ましき触手を無数に持つ軟体動物の姿へと変貌していた。 ニャルラトホテプ――それがサーヴァントの真名である。 あらゆる人間に存在するネガティブマインドの集合体。 人が人である限り決して滅びず、全てを嘲笑する影。 「お前が主催した宴――普遍的無意識の隙間から覗かせて貰ったが、実に見応えがあったぞ」 「何の――あなたも面白い事を考えるものだ」 底無しの悪意と共に注がれる、人類が自ら滅びを願い、終焉を迎えた世界の記憶。 それを心の底から、男は愉しんでいた。 ――奇妙な空間は消え去り、周囲の風景は正常化している。 ごく自然に男は山道を歩き出し、虚空へと声を発した。 「却説――本格的に始まるにはまだ時間があるようだ。今暫くは、この地を見て回るとしますよ」 「そして、今の内から哀れなマリオネットを見繕っておくかね? 既に覚醒しているのはお前だけではない。精々気をつける事だ」 声に応じ、男のサーヴァントが現れる。 その姿は、聖槍を持つナチスの総統の物へと戻っていた。 「繰り返しになるが――私もこのサーヴァントシステムには縛られている存在だ。あくまでも私はランサーという事だな。とはいえ――真の聖槍の力、伊達ではないぞ」 「ふ――渾沌に顔が付いてしまったという訳ですか。何とも不吉ですなあ」 「止むを得まい。ゲームにはルールが必要だろう?」 「全くです。ゲームとは公平で、難しいほど面白いのですからねえ――」 功を焦って急いてはならぬ。 居丈高に構えるのも無駄だ。 要らぬ力を込めてはならぬ。 舞え歌え、愚かなる異形の世の民よ。 浄土の到来を祝う宴は、 ――さぞや愉しい事だろう。 【マスター】 堂島静軒@塗仏の宴 【参加方法】 不明。 何らかの形で入手した『ゴフェルの木片』によって召喚された可能性が高いと思われる。 【マスターとしての願い】 無し。 最後まで生き残った場合は帰る。 【weapon】 無し。 【能力・技能】 催眠術による暗示・記憶・人格操作。ただし本人は「催眠術など使うのは二流」としている。 言葉による思考誘導。 民俗学、宗教、練丹、気功、風水、老荘思想、民間道教、占術等の知識。 【人物背景】 元帝国陸軍大佐。昭和二十八年の時点で五十歳前後と見られる男性。 旧軍時代は宗教的洗脳実験や青酸毒の開発に携わる。 また記憶の問題を研究しており、矛盾を矛盾のまま無矛盾的に統合してしまうという特性を、特性ではなく欠陥として認識。 矛盾を抱えた主体は不完全であり、主体は非経験的純粋概念に忠実であるべきだと考えた。 昭和十七年、とある家族と旧部下を利用して『ゲーム』を企画する。 ゲームでは殺人を行う事を禁じていたが、それはゲームをスムーズに進行させる為の単なる配慮であり、殺人に忌避感は持たない。 本人曰く「確実に先を見通している」人間であり、「遠からず子は親を殺し親は子を食う世の中になる」と嘯く。 人が滅ぶならそのまま滅びれば良いという考えを持つが、積極的に現状を変えようとする意思は無い。 【方針】 他の参加者の観察を愉しむ。 基本的に戦闘は回避するが、ゲームの滞りとなる要因は排除する。 【クラス】 ランサー 【真名】 アドルフ・ヒトラー(ニャルラトホテプ)@ペルソナ2 罪/罰 【パラメータ】 筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:E 宝具:A 【属性】 混沌・悪 【クラススキル】 対魔力:B 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。 【保有スキル】 カリスマ:A+ 大軍団を指揮・統率する才能。 カール・グスタフ・ユングは「ヒトラーの力は政治的なものではなく、魔術である」と語っている。 無貌の仮面:B 這い寄る混沌の化身である事を示すスキル。 真名・ニャルラトホテプを秘匿し、化身としての偽の真名を表示させると同時に、同ランクの『変化』を得る。 本来ならば無制限かつ複数同時に自らの分身を実体化させる事も可能だが、ランサーとして召喚された今回の聖杯戦争では、実体化が可能なのはヒトラーの配下であるラスト・バタリオンに限定されている。 また、相応の魔力消費も必要となる。 人間観察:EX 人々を観察し、理解する技術。 人類の影であるニャルラトホテプは、本人が否定したい、隠したい部分も含めた全てを把握している。 しかしその性質故に、希望や創造性を決して認める事はない。 【宝具】 『聖槍(ロンギヌス・オリジナル)』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大補足:1人 かつて、これによって貫かれた聖人の遺体から止めどなく血が流れ続けたとされる槍。 この宝具によって傷を負った相手は永続的にダメージを受け続ける。 更に致命傷を負った場合、蘇生を含むあらゆる回復手段を無効化する。 『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大補足:1000人 ニャルラトホテプの棲む普遍的無意識の世界は、あらゆる時空の性質を受けず、絶えず人の心に存在し続けている。 この世界では強い意志がそのまま現実を変える力となり、新たな世界の創造すら可能とする。 即ち、ニャルラトホテプが相手の存在を抹消しようと思えば、指一つ動かさず相手は消え失せる事になる。 ニャルラトホテプは人々の『噂』を現実化させ、妄想を現実と信じて現実化させていく人々自らの手で世界を滅ぼさせようとする。 それは、人が無意識に破滅を望むが故である。 聖杯戦争に於いては完全にサーヴァントとしての枠組みを超越した能力であるため、無条件で使用不能。 【weapon】 ペルソナ…普遍的無意識に存在する、神や悪魔の姿をした人格。自らの化身の一つである『月に吠えるもの』を行使する。 Aランクの魔術に相当する威力の範囲攻撃が可能な他、数ターンの間のみ一切の攻撃を受け付けなくなる効果を持つ『聖杯』を使用可能。 【人物背景】 全ての人類が意識の最底辺に抱え持つ普遍的無意識の元型。 ニャルラトホテプは人間のダークサイドが凝り固まった存在であり、ポジティブマインドの集合体であるフィレモンと名乗る存在とは表裏一体の関係にある。 フィレモンは強き心を持つ者を導き、ニャルラトホテプは弱き者を奈落へ引きずり込む。 この二者の対立は、人の内包する矛盾の象徴に他ならない。 ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである為、人が人である限り絶対に滅ぼせない。 ニャルラトホテプに対抗する手段はただ一つ。 「全てを受け入れた上で、決して諦めないこと」である。 【サーヴァントとしての願い】 人類自身の手によって人類を破滅へと導くのがニャルラトホテプという存在なので、願いはない。 基本的にはマスターに従うが、マスター・サーヴァント問わず面白そうな相手を見つけたら独断で試練を与えるかもしれない。 何の脈絡も無く突然マスターを裏切ったりするかもしれない。 【基本戦術、方針、運用法】 物凄い存在ではあるのだが、ランサーはあくまでもサーヴァントとして存在しているため、普通にダメージも食らうし消滅もする。 マスターの魔力が皆無なので、NPCの魂喰いに頼らない限りは部下の召喚もやりづらい。 宝具の神秘性こそ最高クラスではあるが戦闘では決め手に欠けるため、マスターの方針に従って戦闘は回避するのが上策であろう。 人外の存在を除く全てのマスター・サーヴァントの能力や性格を把握しているため、その気になれば大物喰いも一応は可能か。 だが、その本領を最も発揮するのは変化スキルと言葉責めによる精神攻撃をかける時である。

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